山笑う 初夏の輝く新緑を撮る

 俳句の春の季語に「山笑う」というのがあります。山の草木が一斉に若芽を吹いて、山全体が明るい景色になる様子を表現した言葉と言われています。それまでは幹や枝ばかりで寂しげだった山が一変する様子を見事に表現していると思います。
 確かに初夏の山の色合いは鮮やかでやわらかで、何ともいえない美しさがあります。日を追うごとにその色合いは濃さを増していき、若葉の色を愛でることのできる期間は長くはありません。秋の紅葉のような華やかさはありませんが、新緑を見ていると生命のエネルギーを感じます。
 そんな初夏の新緑を撮ってみました。

 ちなみに、夏の山を形容する季語は「山滴る」と言うそうです。あらためて、日本語の豊かな表現に感じ入ってしまいます。

芽吹きを撮る

 木の種類によって若干の違いはあるものの、まるで申し合わせたように一斉に芽吹いて、森全体が淡い黄緑色に染まっていきます。硬かった芽が膨らんで芽吹きが始まると、わずか数日ですべての葉っぱが開ききってしまいます。
 下の写真はカエデが芽吹いて間もないころに撮影したものですが、まだ開ききっておらず、畳んだ傘のような恰好をしています。少し前までは茶色っぽい硬い芽だったにもかかわらず、そこからこんなに大きな葉っぱが出てくるのですから、まったくもって自然の力は偉大で不思議です。見ようによってはさなぎから羽化したばかりの蝶のようにも見えます。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/60 Velvia100F

 背後にはブナやクヌギなどの木があり、いずれも芽吹きが進んでいて、褐色の木の幹や枝ととても美しいコントラストをつくり出しています。どれも同じような淡い黄緑色ではありますが、種類によって微妙に色合いが異なっていて、そのグラデーションもとても綺麗です。

 このような写真を撮る場合、被写界深度を深めにして出来るだけ多くの若葉にピントを合わせるか、逆に被写界深度を浅くして、ごく一部の若葉だけにピントを合わせるか、悩むところです。前者の場合は状況がわかる写真になりますが、若葉が背景に埋もれ易くなってしまいます。また、後者の場合、若葉は浮かび上がってきますがその場の状況はわかりにくくなってしまいます。
 新緑の風景として撮るのであれば、ある程度の広範囲を写す必要がありますので、森全体が芽吹きの時期を迎えているということがわかりつつも、出来るだけ多くのカエデの若葉にピントを合わせたいということで撮りましたが、もう少し背景をぼかしたかったというところです。

 もっと広い範囲で森の芽吹きの様子を撮ろうと思い、撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAC67 55mm 1:4 F16 1/15 Velvia100F

 この写真は露出をかなりオーバー気味(+2段ほど)にしています。実際の森の中はこの写真ほど明るくはないのですが、若葉を明るく写したかったので思い切って露出をかけてみました。木々の幹の色も白っぽくなり重厚さが失われておりますが、この時期の爽やかな感じを狙ってみました。しかし、やはり全体に飛び気味です。

新緑の大樹を撮る

 大樹というのはそれだけで存在感に溢れていて、四季を通じて魅力のある被写体の一つです。
 このような大きな木の全体を撮ろうとすると、被写体からかなり離れなければなりません。しかしそうすると、ぽつんと生えている一本桜のようなものでもない限り、周囲の木々も写り込んでしまい、焦点の定まらない写真になってしまいます。
 ですが、周囲を大きな木に囲まれていてもまさに紅一点の例えのように、その一本だけが異彩を放っていると遠くからでもとてもよく目立ちます。

 これはケヤキの大木ではないかと思うのですが、周囲を杉などの針葉樹に囲まれている中でとても目立った存在でした。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/30 PROVAI100F

 逆光に近い状態であり、ほぼ真上方向から太陽の光が差し込んでいて、開いたばかりの若葉が黄色く輝いています。周囲が黒っぽく落ち込んだ色調なので一層目立っています。
 隣にある若干赤っぽく見える木は山桜ではないかと思うのですが、定かではありません。

 この木がある場所は山の北側の急斜面です。それを数百メートル離れた場所から望遠レンズで撮りました。若干短めのレンズを使って、もう少し広い範囲を写した方が窮屈さがなくてよかったかもしれませんが、大樹の存在感を出すにはこれくらいの大きさの方が望ましいようにも思います。
 周囲の杉は植樹されたものだと思いますが、このケヤキや桜だけは伐採されずに昔からここにあったのでしょう。神が宿っているのではないかと思える大樹です。

川面への映り込みを撮る

 渓流や滝などに限らず、水の流れを見るとなぜか無性に撮りたくなります。何故そう思うのか、うまく説明できないのですが、水は命をはぐくむためになくてはならないものだということがそう思わせるのかも知れません。
 もちろん、植物にとっても水は欠かせない存在であり、水と植物の組合せというのは不思議な魅力があります。雨上がりの生き生きとした植物の姿はその代表格かも知れません。
 また、湖面などに写り込んだ景色も素敵で、単に樹だけを見ているよりも趣を感じるから不思議なものです。

 下の写真は清流の上に張り出している木の枝ですが、そこにに光が差し込み、川面に写り込んでいる状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:6.3 F22 1/60 Velvia100F

 この川は水がとても綺麗で、川底の石の一つひとつがわかるくらいです。水深も浅いうえに流れが穏やかなので、まるで湖面のように新緑を映し込んでいます。若葉を透過してきた黄緑色の光が川面に降り注いでいるため、水が黄緑色に染まっているように見えます。それどころか、この渓流全体の空気までも黄緑色に染まっているような錯覚を覚えます。
 黄緑色の光の感じを損なわないように露出はオーバー目にしていますので、若葉はかなり飛び気味です。少々、葉っぱの質感が失われてしまっていますが、葉っぱを適正露出にすると全体が暗くなってしまい、全く雰囲気の異なる写真になると思います。

 夏になり、葉っぱも濃い緑になるとこのような輝きは見られなくなてしまいます。それはそれで違った美しさがありますが、葉っぱ自体が発光しているような輝きを見ることができるのも新緑ならではです。

多重露光で撮る

 一口に多重露光と言ってもその表現方法は様々で、全く違う画像を重ね合わせるアート的なものもありますが、私が時々撮るのは、同じ場所で複数回の露光をするという最も簡単な方法です。もちろん、同じ場所で複数回の露光をするだけでは露光時間を長くしたのと変わらないので、1回目と2回目の露光でピント位置を変えて行ないます。ピントを外して露光するとぼやけるので、これを重ね合わせるとソフトフォースレンズで撮ったような雰囲気の写真になります。

 新緑の中にツツジ(たぶんミツバツツジではないかと思います)が一株だけ咲いていたので、これを多重露光で撮ってみました。

▲KLinhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm 1:5.6 F32 1/60、F8 1/250

 1回目は被写界深度をかせぐために出来るだけ絞り込んで撮影し、2回目は少しピントを外し、絞りも開いて撮影しています。
 2回とも適正露出で撮影すると結果的には2倍の露出をかけたことになり、若干露出オーバーになりますが、この新緑の鮮やかさを出すためにその方が望ましいだろうということで補正はしていません。
 また、2回目は前ピン(近接側)に外しているので、周辺部の方が画のずれが大きくなり、大きくボケているような印象になりますし、暗いところよりも明るいところのボケの方が大きく感じられます。

 このような多重露光の方法の場合、ぼかし具合と露出のかけ方によってずいぶんと印象が変わってきますが、全体的に柔らかな感じになるのと、メルヘンチックな描写になる傾向があります。被写体によっても印象が変わりますので、いろいろ試行錯誤してみるのも面白いかも知れません。

マクロで撮る

 マクロ写真はまったく違った世界を見せてくれるので、その魅力に取りつかれてしまうことも多いのではないかと思います。だいぶ前になりますが私もマクロ撮影にはまってしまい、一時期はマクロ撮影ばかりやっていたことがあります。私の場合、その被写体のほとんどは花でしたが、単に小さな世界を写し取るというだけでなく、たくさんの表現手法を使うことができるのも魅力の一つかも知れません。

▲PENTAC67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真は初夏に小さな白い花をつけるドウダンツツジです。公園の生け垣などにもよく使われているので身近な被写体といえると思います。
 朝方まで降っていた雨のため、葉っぱや花のあちこちに水滴が残っており、とてもいいアクセントになっています。また、水滴のおかげで玉ボケもできて、画に変化を与えてくれています。

 マクロ撮影の場合、被写界深度が非常に浅く、ピントの合う位置は一点のみといっても良いくらいですが、写り込む要素が多すぎると画全体がうるさくなってしまうので、主要被写体以外は出来るだけ大きくぼかしておいた方がすっきりとした写真になります。
 ドウダンツツジはたくさんの花をつけるので、画がゴチャゴチャしないように一輪だけひょんと飛び出した花を狙って撮りました。もちろん、前後に葉っぱもたくさんあるのですが、これらは大きくぼかして初夏の印象的な色合いになるようにしました。真っ白で清楚な感じのする花も綺麗ですが、新緑の鮮やかな色あいが爽やかさを感じさせてくれます。

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 新緑だからといって特別な撮影方法があるわけではなく、自分なりの表現手法で撮ればよいわけですが、いざ撮ろうとすると意外と難しいと感じるのも事実です。その美しさに自分の気持ちばかりが先走っているのかも知れません。
 自分の腕はともかく、新緑の美しさが格別なのは言うまでもありません。一年のうちのわずかの期間だけしか見ることのできない新緑の芽吹きは代えがたいものがあります。秋の紅葉も綺麗ですが、刹那の美しさという点では新緑は群を抜いているように思います。

 標高の低いところでは新緑の季節はすっかり終わってしまいましたが、高山に行けばまだ見ることができます。行くまでが大変ですが、高山の新緑はまた格別です。

(2023.5.15)

#PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #新緑 #ペンタックス67 #リンホフマスターテヒニカ

シュナイダー Schneiderの大判レンズ クセナー Xenar 210mm 1:6.1 テッサー型レンズの写り

 テッサー Tessar は言わずと知れた、今から100年以上も前にカール・ツァイスから世に出たレンズです。世の中にはたくさんの銘玉と言われるレンズがありますが、知名度の高さではテッサーがいちばんではないかと思います。オリジナルのテッサーに若干の変更を加えたテッサータイプといわれるレンズをほとんどのメーカーが発表しており、誰もが使える優れたレンズだということが伺い知れます。
 シュナイダーからは「クセナー Xenar」という名称でテッサータイプのレンズがラインナップされており、大判用の他にローライのカメラに採用されているのは有名です。

クセナー Xenar 210mm 1:6.1の主な仕様

 大判用のクセナーは、焦点距離75mmから480mmまでが揃っていたようで、210mmのレンズはF4.5とF6.1の2種類があります。私が持っているレンズはF6.1の方で、シリアル番号からすると1978年頃に製造されたレンズのようです。製造から45年ほどが経過したといったところです。
 追記:このページをご覧いただいた方から、もっと古い時代の大判用クセナーの210mmには、F3.5、F5.5(後にF5.6)も存在していたと教えていただきましたので、追記させていただきます。

 ちなみに、「Xenar」という名前は、原子番号54の元素である「キセノン」が由来のようですが、どういった意図でこの名前にしたのかはよく知りません。海外のレンズにはそれぞれ名前がつけられているものが多く、なんとなく親しみを感じます。

 主な仕様は以下の通りです。

  イメージサークル : Φ246mm(f22)
  レンズ構成枚数 : 3群4枚
  最小絞り : 32
  シャッター  : COPAL No.1
  シャッター速度 : T.B.1~1/400
  フィルター取付ネジ : Φ46mm
  前枠外径寸法 : Φ47.9mm
  後枠外径寸法 : Φ41.8mm
  全長  : 49.9mm
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当しますので、ちょっと長めの標準レンズといった感じです。
 シャッターは1番を使っていますが、テッサー型らしい小ぶりで薄型のレンズです。同じシュナイダーのジンマーやフジノンのW210mmなどと比べると二回りくらいは小さいと思われます。

 イメージサークルは246mm(F22)あるので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。
 開放絞りはF6.1で、F5.6から1/4段ほど暗いですが、無理して明るくしていない潔さのようなものを感じます。大判レンズの場合、開放F値が5.6というレンズが比較的多いですが、それに比べて1/4段ほど暗くても、実際に使用するうえで支障になることはあまりありません。
  (念のためにつけ加えますが、1/4段程度の露出は無視しても良いという意味ではありません。リバーサルフィルムで1/4段違えば、その差ははっきりとわかります。F6.1であっても使用上、特に困ることはないという意味ですので、誤解のないようにお願いします。)
 また、最小絞りの目盛りはF32となっていますが、絞りレバーは更に先まで動かすことができ、F64くらいまで絞り込めると思います。
 絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはありません。

 この時代のコパルのシャッターは金属の質感がプンプンに漂っていて、シャッター速度切り替えダイヤルのちょっと重い感触が気に入っています。一方、絞りを動かすレバーは小さくて、あまり使い易いとはいえませんが、適度な重さがあり、1/2段とか1/3段というようなわずかな動きにも絞り羽根は正確に反応してくれます。

4枚のレンズで実現されたシャープな描写

 テッサーと言えば、ピント面のシャープさや美しいボケ、歪曲の少なさなどの特徴が挙げられています。今の時代においては当たり前の写りかも知れませんが、当時は驚異的な描写をするレンズとして評価されていたのでしょう。設計や製造技術の進歩に伴い、テッサーはどちらかというと安価なグレードに使われてきたという印象もありますが、その写りが色褪せていないというのはたくさんのテッサータイプのレンズが作り続けられてきたことからも明らかなことだと思います。

 私が持っているシュナイダーのクセナーはこの1本だけしかなく、いわゆるクセナーの特性のようなものは把握していませんが、シャープで素直な写りのレンズという印象です。言い換えれば際立った特徴がないとも言えますが、私が主な被写体としている風景を撮るには、あまり癖がない方が望ましいと思っています。そして、210mmとは思えない小ぶりなレンズであり、携行性は抜群です。

 では、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 下の写真は福島県の小峰城です。ちょうど桜が満開の時に撮りました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 1/8 PROVIA100F

 撮影したのは午前8時ごろで、背後から光が差し込んでおり、ほぼ順光の状態です。手前の桜とお城の両方にピントを合わせたかったので、バックスイングのアオリをかけています。
 そつのないシャープな写りという感じです。エッジが立ちすぎることもなく、立体感も損なわれることなく、まさに素直な写りという表現がピッタリです。桜の色が濁らないようにギリギリまで露出をかけていますが、枝の先端や花芯までしっかりと解像しています。発色の仕方も嫌味がなく、ナチュラルカラーといった感じです。
 また、周辺部でも画質の低下はあまり感じられず、全体に渡って均一な描写をしている印象ですし、コントラストも良好で締まりの良い画質になっていると思います。解像度は若干低めかという感じもしますが、まずまずといったところでしょう。

 焦点距離の短いレンズ(例えば90mmとか75mmなど)でこのような構図で撮ると、被写体との距離によっては周辺部が若干流されるような描写になることがありますが、210mmという焦点距離はそういったことがないので、違和感のない自然な感じの画作りができます。

 クセナーのボケ具合がわかるようにということで撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F6.1 1/30 PROVIA100F

 渓流をバックにしてカエデの若葉を撮影したものです。
 主被写体であるカエデの葉っぱと背景との距離があまり大きくないのと、絞りは開放にしているとはいえ、F6.1ですから大きなボケは期待できません。ボケ方としては悪くはないと思いますが、ちょっと硬い感じがします。もう少し被写体に近づいた状態で撮影すればボケ方も随分変わってくると思うのですが、これ以上近づくことができませんでした。ただし、背景の様子がわかるにはこれくらいの距離関係の方が良いのかもしれません。背景が暗く落ち込んでいることもあって、カエデの葉っぱが浮かび上がっているような感じを受けます。

 カエデの葉っぱの描写はとてもシャープですが被写界深度は浅く、奥の方の葉っぱにはピントが合っていませんが、奥行き感は出ていると思います。ピント面はキリッとしていますが硬すぎず、カエデの若葉の質感が良く出ています。じっと見ていると、枝先がかすかに揺れているような錯覚に陥ります。
 ピントが合っているところから合っていないところに向ってなだらかにボケており、綺麗なボケと言えるのではないかと思います。
 色乗りも自然な感じで、この季節ならではの新緑の柔らかさが感じられます。

 次は、昨年の秋に撮影した紅葉の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 2s PROVIA100F

 埼玉県の中津峡にあるカエデの大木で、「女郎もみじ」という名前がついています。渓流の上に覆いかぶさるように枝を伸ばしており、妖艶さが漂う紅葉です。
 ここは周囲を山に囲まれているため陽が差し込む時間は短く、晴天の日でも日陰になっている時間帯が多い場所です。そのため、輝くような紅葉よりも、しっとりとした色合いの紅葉を撮影することができる場所です。赤く染まった紅葉もさることながら、苔むした幹が存在感を放っていて、紅葉と幹のコントラストが何とも言えない美しさをつくり出しています。

 弱い風があったため、木の枝などは被写体ブレを起こしているところもありますが、全面に渡ってシャープな画質になっていると思います。シャープでありながら硬調になり過ぎない描写はとても好感が持てます。
 晴天にもかかわらず陽が回り込んでいないため若干の青被りをしていますが、不自然さが感じられない鮮やかな発色をしています。

 この写真ではアオリは使っていませんが、手前から奥の方までこれくらいの距離であれば、絞り込むことでほぼ全面を被写界深度内に入れることができます。
 撮影した場所は道路脇なのでこれ以上、引くことはできないのですが、画角的には焦点距離180mmくらいのレンズの方が良かったかもしれません。

 このレンズはコントラストが良いので、シャープで締まりのある描写が得られますが、解像度は特に高い感じはしません。むしろ、若干低めかも知れません。最近のデジカメのように、フィルムをはるかにしのぐ解像度を持ったカメラで撮り比べると顕著にわまるかも知れませんが、フィルムを使っている限りにおいては問題になるほどではないと思います。

アポ・ジンマーと比べると若干あっさりとした色合いのレンズ

 クセナーはこの1本しかもっていないのは上にも書きましたが、クセナーに対して私が持っている印象は、シュナイダーの他のレンズに比べて色の出方が控えめということです。他のレンズと言ってもシュナイダーのすべてのブランドを持っているわけではないのですが、私が主に使っているアポジンマーと比べると、若干あっさり系の発色という感じです。
 私の持っているアポジンマーは1990年台の半ばごろに製造されたものなので、今回のクセナー210mmよりも15~6年後になります。そのため、コーティングの違いもあると思われ、実際に前玉を見た時の色の感じが違います。アポジンマーの方が濃い紫色をしているように見えます。

 ということで、アポジンマー APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 と比較をしてみました。
 あまり細かな比較をするつもりはなく、主に見た目の印象が違うかどうかという視点で見ていただければと思います。

 下に掲載した2枚の写真は、近くの公園で撮影したものですが、1枚目(上)がクセナー210mm、2枚目(下)がアポジンマー210mmです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F22 1/30 PROVIA100F
▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 F22 1/30 PROVIA100F

 まず、全体を見た時の印象ですが、アポジンマーの方がわずかに色乗りが濃い感じがします。逆の言い方をするとクセナーの方があっさりとした色合いということです。2枚の写真撮影時の光線状態にほとんど違いはないと思いますが、地面の草の色や奥の木の幹の色を比較すると違いがわかり易いと思います。
 しかし、これらは比べてわかることであり、1枚だけ見せられてもどちらのレンズで撮影したものか判断できるほどの違いではありません。アポジンマーのコクのある色も良いが、クセナーのすっきりとした色も良いといった感じで、あとは好みでしょうか?

 また、解像度については、この程度のラフな写真ではほとんど見分けることは困難ですが、拡大した画像で比較してみるとアポジンマーの方が解像度は高いのがはっきりとわかります。しっかり調べようとするのであれば解像度テストチャートなどを使う必要があると思われますが、もう少し突っ込んだ比較は別の機会にやってみたいと思います。

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 半世紀近くも前に作られたレンズで、私が持っている大判レンズの中では、100年以上も前のバレルレンズを除けば古い方のレンズになります。比較的近年に作られた大判レンズと比べると外観のデザイン的な違いはありますが、それも味わいの一つであり、今でも十分に使えるレンズであることは間違いありません。
 いわゆるオールドレンズの部類に入りますが、特有の癖のある写りを求めるのには向いていません。ですが、素直にしっかりと写したいというのであれば、期待を裏切ることはないと思います。
 今回、逆光状態で撮影した写真がないのですが、もしかしたら、そのような条件が良くない状態ではもっと違いが出るのかもしれません。

 他の焦点距離のクセナーも使ってみたいと思っているのですが、個体数が少ないのか、中古市場でもあまり見かけません。いつか、運よく巡り合ったらゲットしたいなぁと...

(2023.4.21)

#Schneider #Linhof_masterTechnika #シュナイダー #リンホフマスターテヒニカ #Xenar #クセナー #レンズ描写

大判カメラのアオリ(7) 複合アオリ フロントライズ+フロントスイング

 以前、大判カメラのアオリのシリーズで個々のアオリについて触れてきましたが、今回は複数のアオリを組み合わせて使う複合アオリについて触れてみたいと思います。
 風景写真の場合、物撮りに比べるとアオリを使う頻度は格段に少ないのですが、それでも時には複数のアオリを使うこともあります。複合アオリの第一回目はフロントライズとフロントスイングの複合アオリです、
 なお、それぞれのアオリのふるまいについては下記のページをご覧ください。

  大判カメラのアオリ(1) フロントライズ
  大判カメラのアオリ(4) フロントスイング  

高さと奥行きのある被写体を撮影する

 高さも奥行きもある被写体というと、ビルなどが最もイメージし易いのではないかと思います。
 下の図のように、ビルを斜めに見る位置から撮影することを想定した場合、ビルのほぼ全体をフレーム内に入れるためにはカメラを上向きにする必要があります。

 ビルとカメラがこのような位置関係になると、ビルの水平ライン(上図の赤い点線)に対してレンズの光軸(上図の黒い点線)が斜め上方を向くため、平行になりません。また、ビルの垂直ライン(上図の青い点線)に対して、レンズの光軸が直角になりません。
 この状態でビルを撮影すると、ビルの上方が中央に寄っていく、いわゆる先細りになって写ってしまいます。

 下の写真は東京都の神代植物公園にある「ばら園テラス」を撮影したものです。ビルではありませんが、高さのある柱が何本も並んでいる被写体であり、上の図と同じような状況で撮影したものです。
 神代植物公園には大きな温室があり、本来はそちらの方がうってつけなのですが、温室の周囲に植えてある木々が邪魔になって良いアングルが見つけられなかったため、ばら園テラスにしました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 一番手前の柱は左に傾いているように、一方、奥の柱は右側に傾いているようになってしまいます。つまり、建物全体が上に行くにしたがって先細り状態になってしまいます。これは見上げるようなアングルで撮影するとごく普通に起こる症状で、このような写真は見慣れているせいか特に違和感があるわけでもありません。ですが、やはり肉眼で見たのとはちょっと違うぞという感じです。建物全体が向こう側に倒れているように感じられます。
 また、ピントを手前の柱付近においているので、奥の方(写真左側)の柱にはピントが合わず、ボケています。これは絞りを絞り込むことである程度は解消することができますが、同じ画角でも35mm判カメラなどと比べて焦点距離の長いレンズを使う大判カメラの場合、どうしても被写界深度が浅くなってしまうので自ずと限度があります。

 この写真のピント面は、右上の屋根の角の辺りから手前の柱上部を斜め下に輪切りにして、柱の向こう側に降りている感じなります。

フロントライズで先細りを防ぐ

 まず、上に行くにしたがって先細りになっている状態を解消するために、カメラのフロント部を上げるライズアオリをかけます。
 これは、上向きになっていたカメラの光軸が水平になるように、カメラを構え直します。こうすることで傾いているように見えた柱がまっすぐになってくれますが、建物の上部が画面からはみ出してしまい、反対に画面の半分近くまで地面が写り込んだ状態になります。
 その状態でカメラのフロント部を少しずつ上げていく、すなわち、ライズアオリをかけていくと、建物の上部が徐々に入り込んできます。

 1枚目の写真とほぼ同じ範囲が写り込むまでフロントライズさせて撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 手前の柱も奥の柱もほぼ真っすぐに立ち、建物全体が向こう側に倒れているような感じもなくなりましたし、高さも強調され、奥行き感というか立体感も増しています。
 また、1枚目の写真ではカメラが上方を向いているため、地面に対してピント面が垂直になっておらず、手前に傾いた状態になっていますが、2枚目の写真ではピント面が地面に対して垂直になっている、つまり、柱と平行になっているので、建物の向こう側にある木々のボケ方も小さくなっているのがわかると思います。

 フロントライズによるピント面の移動は下の図のようになります。

 ライズ量はレンズのイメージサークルやカメラの可動範囲の許す限りは可能ですが、焦点距離が短いレンズの場合、イメージサークルにあまり余裕がないのと、フィールドカメラはビューカメラほど可動量が大きくないので 、あまり高い建物では上の方までフレーム内に入れることができないというようなことが十分あり得ます。

フロントスイングで手前から奥までピントを合わせる

 フロントライズをかけることで建物が真っすぐに立っているように修正できました(2枚目の写真)が、奥の方(画面左側)の柱は被写界深度の外にあるため、ピントが合っていません。これを奥の柱までピントが合うように、フロント部にスイングアオリをかけます。
 ライズアオリがかかった状態のままで、レンズを少し右向きに回転させます。つまり、右から2本目の柱のあたりを向いていたレンズ面を右に回して、右から1本目と2本目の柱の中間あたりを向くようにします。こうするとピント面が右に回転するので、手前から奥の方までピントが合うようになります。

 こうして撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 建物の真っすぐな状態が保たれたまま、手前の柱から奥の柱までピントの合った状態になっています。
 フロントスイングによるピント面の移動を示したのが下の図です。

 わかり易くするために絞り開放で撮影していますが、この状態で絞り込めば奥の木立も被写界深度の範囲内になり、さらにピントの合った写真にすることができます。
 このような場合、フロントスイングによってすべての柱にピントを合わせることが多いと思いますが、スイングの度合いを変えることでピントの合う範囲を調整することができます。あえて遠くの方は若干ぼかしておきたいというようなときはスイングの量を少なめにするなど、作画意図に合わせてアオリの量を決めます。

 また、今回は作例用に撮影はしませんでしたが、レンズを左向きに回すスイングアオリをかけると、例えば、2本目の柱だけにピントが合って他はボケているという、ちょっと不思議な感じの写真にすることも出来ます。

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 フロントライズもフロントスイングも単独では比較的よく使うアオリですが、風景撮影において これらを複合して使うことはそれほど多くはありません。ですが、被写体が歪まないようにしながらピント面を自由にコントロールすることで思い通りの写真に仕上げることができるのは魅力かもしれません。
 建物単体だけでなく街並みの撮影とか、比較的近い距離での滝の撮影とか、意外と応用範囲は広いようにも思います。

(2023.1.23)

#Linhof_MasterTechnika #アオリ #リンホフマスターテヒニカ

秋の福島・山形 ~大信不動滝・裏磐梯・湯川・朝日渓谷・慈光滝・地蔵沼~

 10月末から福島、山形に紅葉の撮影行に行ってきました。今年は秋の訪れが早いのではと思っていたのですが、紅葉の盛りまではもう4~5日後の方が良さそうな感じでした。また、今年は夏が暑かったからなのかわかりませんが、色づきもイマイチという印象を受けました。
 最低気温が8度を下回ると紅葉が始まるらしいのですが、私が訪れた時は結構暖かくて、紅葉も足踏みをしていたのではないかという感じです。それでも東北の紅葉はやっぱり綺麗です。

 今回は、福島県の南側県境にある白河を起点に下郷、会津若松、裏磐梯、山形県の米沢、上山、山形、新庄、酒井、鶴岡を回ってきました。
 持参したのは大判カメラ(リンホフマスターテヒニカ45)です。

大信不動滝(福島県)

 白河の市街地から国道294号線を北上し、県道58号矢吹天栄線をひたすら西に向かうと聖ヶ岩ふるさとの森キャンプ場があります。シーズンにはキャンプする人で賑わうのか、広い駐車場が完備されています。ここに車を停めて、隈戸川に沿った遊歩道を歩くこと7~8分で大信不動滝の前に出ます。
 落差は5mほどでそれほど高くありませんが、横幅が30m以上はあると思われ、黒い岩肌を滑るように流れ落ちる滝です。

▲大信不動滝 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F32 4s PROVIA100F

 6月に訪れた時は水量がとても多く、滝の前に立っていると飛沫でびしょ濡れになってしまうくらいでしたが、今回は水量が少なく、6月の迫力とは別物のような滝でした。水量が多いと岩肌はほとんど見えないくらいで、日差しが強いときは真っ白に飛んでしまいますが、水量が少なくて 迫力に欠ける分、しっとりとした感じがします。
 まだ色づき始めたところで緑がたくさん残っていますが、岩に貼りついたたくさんの落ち葉が深まる秋を感じさせてくれる景色です。

 周囲は木立に囲まれており、まだ太陽高度が低い時間帯だったので薄暗いような場所です。露出をかけすぎると重厚感がなくなってしまうので少し切り詰めています。
 また、左上を見ていただくとわかるように、ところどころ日が差し込んでいます。これが滝に差し込むとしっとり感がなくなってしまうので、雲がかかったタイミングを見計らってシャッターを切っています。

 農繁期も過ぎ、上流にあるダムで絞っているのかもしれませんが、それにしても水量が少なすぎます。
 なお、この辺りはマムシが出るらしく、「マムシ注意!」の看板がいくつもあります。クマのような恐ろしさはありませんが、気持ちの良いものではありません。

湯川渓谷(福島県)

 会津若松の市街地から県道325号線に入り有名な東山温泉街を抜け、さらに山道を十数キロ進むと湯川が作る渓谷を見ることができます。湯川に沿って県道が走っているため、道路脇の斜面をちょっと下ると渓谷に降りることができます。特に遊歩道のようなものが整備されているわけではありませんが、渓谷美が広がっていて撮影ポイントだらけといった感じです。

 川が蛇行していて見通しがきかないところも多いのですが、緩やかにS字を描きながら流れている場所で撮影したのが下の写真です。

▲湯川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F22 4s PROVIA100F

 この辺りの木々はほとんどが黄葉で、紅く色づく木はとても少ない印象です。しかし、黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗で、地味ではありますがたくさんの紅葉がある景色とは違った趣があります。渓谷の岩の上に積もった落ち葉が黒い岩肌を隠していて、全体的に柔らかな感じの風景になっています。
 水量が少なめなので、流れよりも黄葉の方に重きをおいて撮りました。白い波の部分が少ないので、静けさが漂うような描写になったのではないかと思っています。

 この近くに大滝という滝があるのですが、ロープを伝いながら崖のようなところを降りていかなければならず、重い機材を背負っていくにはもっとしっかりとした装備がいると思い、大判カメラでの撮影は断念しました。

裏磐梯 曲沢沼(福島県)

 9月にも裏磐梯に行きましたが、あれから2か月足らず、すっかり秋が深まっていました。ほとんど落葉してしまっている木もあり、あっという間に秋が進んでいくのを感じます。
 裏磐梯の桧原湖、小野川湖、曽原湖に囲まれた一帯は小さな沼が無数に点在していますが、曽原湖の東側に位置する大沢沼や曲沢沼の紅葉は裏磐梯の中でも鮮やかな感じがします。

 下の写真は曲沢沼で撮影したものです。

▲曲沢沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/2 PROVIA100F

 小さな沼ですが周囲がこんもりとした森に囲まれていて、紅葉の密度が高い場所です。
 朝の7時過ぎ、一部の木々だけに陽が差し込み、紅葉が輝いていますが、背後は日陰になっているので黒く落ち込んでいます。ほとんど無風状態だったので水鏡のようになっています。
 ほぼ逆光の位置で撮っているためコントラストがとても高く、陽のあたっている葉っぱは若干飛び気味ですが、光の強さを出すために葉っぱの輝きが損なわれないよう、オーバー目の露出にしています。

 もう一枚、曲沢沼の近くで見つけたカエデです。

▲カエデ紅葉 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F5.6 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、羽を広げたような枝っぷりと、何と言っても鮮やかなオレンジ色の紅葉が目を引きました。背後にも赤く染まったカエデがありますが、それとは違った輝くような色が印象的でした。
 背景があまりくっきりしないように絞りは開放に近い状態にしているので、主被写体となるカエデの葉っぱのピントが甘いところがあります。もう少し焦点距離の長いレンズで、離れたところから撮影したほうが良かったように思います。

裏磐梯 レンゲ沼(福島県)

 レンゲ沼はジュンサイが採れることでも有名ですが、冬には3,000本ものキャンドルが灯される雪まつりでも有名です。沼の周囲には探勝路があり、およそ15分もあれば一周できるくらいの小さな沼です。
 特に紅葉が多いというわけではありませんが、色づいた木々と沼とのコラボレーションが綺麗な場所です。曲沢沼のような派手さはありませんが、落ち着いた秋の景色を見ることができます。

 下の写真は水面に映る景色を主に撮った一枚です。

▲レンゲ沼 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F22 1/4 PROVIA100F

 手前と奥の方に浮いている楕円形の葉っぱがジュンサイではないかと思います。夏はもっと緑色をしているのですが、だいぶ黄色くなっています。
 この日は良く晴れて青空が広がっており、紅葉とのコラボが綺麗でしたが、空を直接写し込まずに水面の中に入れました。青の濃度が増してコクのある色合いになっています。
 この沼ではカモと思われる水鳥をよく見かけるのですが、この日は一羽も来ませんでした。水鳥がいるとそれはそれで絵になるのですが 、そうすると水面が波立ってしまい、綺麗な水鏡を撮ることができなくなってしまいます。

朝日川渓谷(山形県)

 山形県の中央部に近いあたりに、最上川の支流の一つの朝日川があります。この朝日川に沿って県道289号線が走っているのですが、この一帯が朝日川渓谷で磐梯朝日国立公園に指定されているようです。
 水がとても綺麗であちこちに渓谷美が見られるのですが、車道の道幅が狭くてすれ違いができないような箇所もあり、車の運転は緊張します。国道287号線から分岐しておよそ10kmほど走ったあたりが最も渓谷美を感じる場所だと思います。

 渓谷の両岸は険しく切り立っていて、車道から降りていくことのできる場所は少ないのですが、偶然、河原まで降りることのできる場所を見つけて撮影したのが下の写真です。

▲朝日川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F

 ここも水量はかなり少なめでした。川の中に入って向こう岸まで歩いて行けるのではないかと思えるほどです。
 木々もいい感じに色づいており、右上にある紅葉がとても綺麗でした。薄曇りのためコントラストが高くなりすぎることもなく、落ち着いた感じになりました。
 水面の反射や岩の反射を取り除き、紅葉を濃くするためにPLフィルターを使うことも考えましたが、ベッタリとした感じに仕上がるのが嫌で結局使いませんでした。

 撮影したくなる場所があちこちにあるのですが、車を停める場所がほとんどありません。すれ違いのための待避所は結構あるのですが、そこに停めてしまうとすれ違いの車の迷惑になってしまいます。広いスペースのところに駐車して、歩いて撮影するのお勧めの場所です。

慈光滝(山形県)

 真室川町から酒田市に通じる国道344号線沿いにある滝です。道路のすぐ脇にある滝で、すぐ近くの駐車スペースに車を停めてサンダル履きでもOKという、ロケーション的にはとっても恵まれています。
 この滝のある川の名前はわからないのですが、流れ落ちた水は車道の下をくぐり、大俣川に流れ込んでいます。

 落差は6mくらいで小ぶりな滝ですが、岩肌を糸状に落ちる優美な感じのする滝です。

▲慈光滝 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 ここも紅葉真っ盛りというタイミングで、滝の美しさが一層引き立っている感じです。夏に訪れた時は木々が生い茂っていて、その中に滝が埋もれているようでしたが、この時期になると滝の全貌も見えて、夏とは全く違う景色になります。
 滝の真上にある紅葉、たぶんハウチワカエデではないかと思うのですが、このオレンジ色が個人的にはとても気に入っています。この滝には赤よりもこの色の方がお似合いな感じです。

 この写真を撮影しているとき、ちょうど通りかかった地元の方が「イワナがいる」と教えてくれました。滝つぼをのぞき込んでみると確かにいました。20cm以上はあるのではないかと思われる大きなイワナでした。

地蔵沼(山形県)

 月山の南山麓、標高およそ750mにあるこじんまりとした沼です。周囲はブナ林に囲まれていて、とても神秘的な雰囲気が漂っています。
 沼の中ほどにある島に歩いて渡るための橋がかけられていたり、沼の周囲には運動広場や野営場などがあるのですが、沼からは見えないこともあり、そういったものを感じさせない静かなたたずまいです。

 下の写真は早朝、沼に陽が差し込み始めたころに撮ったものです。

▲地蔵沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 標高が高いこともあり、紅葉のピークは少し過ぎてしまっている感じです。対岸にある木々は落葉してしまっていますが、幹や枝が朝日に白く輝いて晩秋の雰囲気があります。
 沼の中ほどにある島をもう少し広く入れたかったのですが、カメラを右に振ると島に渡る橋が写り込んでしまうのでこれがギリギリでした。
 沼の西側から東を向いて撮影しているので半逆光状態ですが、夕方になって西日が差し込むと、対岸のブナ林が真っ赤に染まるのではないかと思います。青森県にある蔦沼の紅葉を思い浮かべてしまいました。

 今回、私は初めて訪れたのですが、ここは紅葉の人気撮影スポットらしく、ピーク時には三脚がずらっと並ぶそうです。私が撮影していた1時間ほどの間、他に訪れる人は一人もいませんでした。

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 紅葉のピークにはちょっと早い感じもしましたが、少し高いところに行くと落葉が始まっており、紅葉の時期は本当に短いと感じます。時間が許せば、緯度の高いところから紅葉前線とともに南下しながら撮影していくのが理想かも知れませんが、自然相手なので、その年その時の状況が同じでないところが良いのだと思います。
 いつも感じることですが、撮影していると予想以上に時間が早く過ぎてしまい、予定していた場所を回り切れないことばかりです。特に秋は日が短いので。

(2022.12.5)

#大信不動滝 #曲沢沼 #レンゲ沼 #朝日川渓谷 #慈光滝 #地蔵沼 #リンホフマスターテヒニカ

いつもと違うカメラを使えば、いつもとは違った写真が撮れる? 9割の錯覚と1割の真実

 最初にお断りをしておきます。この内容はまったくもって私の個人的な主観であって、これっぽちの客観性もないことをあらかじめご承知おきください。
 また、本文の中で、「写りの違い」とか、「写真の違い」というような表現がたくさん出てきますが、「写りの違い」というのはレンズやフィルムによって解像度やコントラスト、色の階調等の違いのことで、使用する機材によって物理的に異なることを指しています。
 一方、「写真の違い」というのは、機材に関係なく、どのような意図で撮ったとか、その写真を通じて何を伝えたかったのかということであり、抽象的なことですが、このタイトルの「いつもとは違った写真」というのは、これを指しています。

 私が撮影対象としている被写体は自然風景が圧倒的に多く、使用するカメラは大判、もしくは中判のフィルムカメラです。大判カメラも中判カメラもそれぞれ複数台を持っていますが、いちばん出番の多いカメラ、すなわち、メインで使っているカメラはほぼ決まっていて、大判だとリンホフマスターテヒニカ45、中判だとPENTAX67Ⅱといった具合です。
 フィルムカメラというのは、特に大判の場合、カメラが変わったところで写りが変わるものではありません。中判カメラや35mm一眼レフカメラで、シャッター速度設定をカメラ側で行なう場合はそれによる影響がありますが、同じレンズを使い、シャッター速度を同じにすれば違いは出ないと思われます。

 また、大判カメラであちこちにガタが来ていてピントが合わないというような場合は論外として、普通に問題なく使用できる状態であれば、リンホフで撮ろうがウイスタで撮ろうが、レンズが同じであれば同じように写り、撮影後の写真を見て使用したカメラを判断することは困難です。大判カメラの特徴であるアオリの度合いによって多少の違いは生まれますが、写真を見てカメラを特定できるほどではないと思います。

 一方、大判カメラも中判カメラも複数のフィルムフォーマット用が存在しており、フィルムフォーマットが異なれば同じポジションから同じようなフレーミングや構図で撮っても、出来上がった写真のイメージはずいぶん異なります。撮影意図によってフォーマットを使い分けることがあるので、フォーマットの異なるカメラを複数台持つことはそれなりに意味があることだと思います。

 しかし、同じフィルムフォーマットのカメラを複数台持っていたところで、カメラによって写りが変わるわけではないのは上に書いた通りです。にもかかわらず、なぜ複数台のカメラを持つのでしょうか?
 私の場合、中判(67判)のPENTAX67シリーズを3台、4×5判の大判カメラを4台持っています。
 PENTAX6x7も67も67Ⅱもレンズは共通で使えるし、細かな操作性の違いはあるものの、ほぼ同じ感覚で使うことができます。大判カメラについても然りです。

 現在、私の手元にあって現役として活躍している大判カメラは、リンホフが2台、ウイスタとタチハラがそれぞれ1台です。過去にはナガオカやホースマン、スピードグラフィクスなども使っていたことがありますが、手放してしまいました。
 現役の4台のカメラはいずれもフィールドタイプなので、操作性に多少の違いはあるものの、蛇腹の先端にレンズをつけて、後端にあるフォーカシングスクリーンでピントを合わせるというのは共通しています。当然、どのカメラを使っても写りに違いはありません。

 ということを十分に承知をしていながら、私の場合、メインで使っているカメラはリンホフマスターテヒニカ45(リンホフMT-45)で、撮影に行くときに携行する頻度がいちばん高いカメラです。
 なぜ、このカメラをメインで使っているかというと、いちばん長く使っていることもあって使い慣れているということが大きいと思います。加えて、カメラ全体がとてもスマートでありながら作りがしっかりとしていて、まるで、シュッと引き締まった鍛え抜かれたアスリートのような感じがして、そのフォルムの美しさに魅了されているというのも理由の一つかも知れません。
 どのカメラでも同じとはいいながらリンホフMT-45を多用するのは、一言でいえば、どこに持ち出しても安心して使うことのできる、信頼性の高いオールマイティー的な存在だからと言えます。

 リンホフのもう1台のカメラ、リンホフマスターテヒニカ2000(リンホフMT-2000)は、リンホフMT-45に非常によく似ていて、細かな改良は施されていますが使い勝手などもほぼ同じカメラです。唯一、大きな違いは、カメラ本体内にレンズを駆動する機構が組み込まれていて、短焦点レンズが使い易くなったという点です。
 MT-45とほぼ同じ感覚で使うことができるのですが、デザイン的にも洗練されているところがあり、私からするとちょっとお高く留まった優等生といった感じがします。「つまらない駄作を撮るために私を持ち出すんじゃないわよ!」と言われているようで、リンホフが2台並んでいても、普段使いの時は自然とMT-45に手が伸びてしまいます。
 ただし、絶対に失敗したくない撮影とか、ここ一番というような、妙に気合を入れて撮りに行くときなどはMT-2000を手にしてしまいます。MT-45なら失敗が許されるのかというと、そういうわけではないのですが、MT-2000を持ち出すと、撮影に対する意気込みのようなものが違う気がします。まるで勝負パンツのようなカメラです。

 さて、3台目は国産の金属製フィールドカメラ、ウイスタ45 SPですが、リンホフマスターテヒニカにどこか似ている気がしていて、リンホフと同じような感覚で操作することができます。しかし、細かいところの使い勝手などに工夫がされていて、日本製らしさが漂っているカメラです。慣れの問題もありますが、使い易さはウイスタ45 SPの方が勝っているかも知れません。
 リンホフマスターテヒニカに似てはいますが、リンホフのような洗練されたスマートさには及ばないところがあり、リンホフがシュッと引き締まった現役のアスリートだとすると、ウイスタ45 SPは現役を引退して、体のあちこちにお肉がついてきてしまった元アスリートといった感じです(実際のところ、リンホフよりも少し重いです)。しかし、そのぽっちゃり感というか無骨な感じに親近感が湧き、どことなく愛嬌のあるカメラです。
 あまり気張ることなく、気軽に大判カメラに向えると言ったらよいかも知れません。ミリミリと追い込んでいくというよりも、歩きながら気になった景色があったら撮ってみる、というような時などに持ち出すことの多いカメラです。

 そして、私が持っている現役の大判カメラの4台目、タチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は木製のフィールドタイプのカメラです。1980年代半ば頃に製造されたのではないかと思われ、40年近く経過しているので、それなりに古いカメラです。レンズを左右に移動するシフト機能がないくらいで、リンホフやウイスタと比べても機能的にはまったく遜色のないカメラです。北海道にしか自生していないといわれる朱里桜という木を用いて作られているらしく、材料の調達からカメラの完成まで4年以上かかるそうです。
 タチハラに限らず木製カメラに共通して言えるのは、木のぬくもりが感じられることです。職人さんの魂が宿っているようにさえ感じてしまいます。
 だからというわけでもないのでしょうが、このカメラを持ち出すときは、どことなく懐かしい感じのする風景を撮りたいときです。きれいな風景というのは結構たくさんありますが、懐かしさを感じる風景というのは比較的少ないのではないかと思い、そんな風景に似合うカメラはこれじゃないか、という感じです。

 このように、4台の大判カメラを持っているのですが、カメラに対する想いとか、カメラに対して抱いている自分なりのイメージというものがあり、それなりに使い分けているところがあります。ただし、それらは私個人が勝手に思い描いているものであり、最初からそのような使命をもってカメラが作られたわけではないというのは言うまでもありません。
 そして、もちろん懐かしさの感じる風景をリンホフで撮れないわけでもなく、ここ一番という写真をウイスタやタチハラで撮れないわけではありません。どのカメラを使おうが、同じレンズであれば同じように写るので、自分がカメラに対して抱いている想いと出来上がった写真とが一致しているか、そういったことが写真から感じられるかというと、実際のところほとんどそんなことはありません。
 すなわち、カメラを変えても写りに違いはないのと同じで、カメラを変えれば写真表現にも変化があるのではないかと思うのは、9割以上は自分の思い過ごし、自己満足、錯覚であろうということです。

 自分で撮影した写真のポジを見れば、どのカメラで撮ったのか大体はわかります。わかるというのは写真からそれが伝わってくるということではなく、使ったカメラを覚えているからというのが理由です。ですが、中にはどのカメラで撮影したかを忘れてしまっているものもあり、それらについては撮影記録を見ないとわかりません。
 つまり、そのポジを見ただけで使用したカメラがわかるわけではないということからも、多くは思い過ごしや錯覚であることが裏付けられています。

 しかしながら、残りの1割、もしくはそれ以下かも知れませんが、カメラを変えることで撮影時の気持ちや意気込み、あるいは画の作り方に違いがあることも事実です。カメラを変えたところで、そうそう写真が変わるわけでもないと言いながら、カメラによって気持ちが変わるという、なんとも矛盾した精神状態です。
 高いフィルムを使っているのだから、常にここ一番という気持ちで、勝負パンツのようなリンホフMT-2000を常用すれば、どんなシチュエーションにも対応できるじゃないかというのも一理ありますが、多分、常にMT-2000だけを使っていると、ここ一番という気持ちが薄れていってしまうのではないかという気がします。勝負パンツは毎日履かないからこそ意味があるのと一緒かも知れません。
 ミリミリと追い込んだ写真というのは気持ちの良いものですが、若干のスキのある写真というのも見ていてホッとするところがあり、一概に良し悪しをつけられるような性質のものではありません。

 いつもと違うカメラで撮ってみたところで、それが写真にどの程度の影響が出るのかわかりませんが、撮影するときの気持ちのありようというのは大事なことだと思います。もちろん、カメラを変えなくても気持ちのありようを変えることはできるかも知れませんし、何台ものカメラを持つことの大義名分を無理矢理こじつけているだけかも知れません。ですが、機材によって被写体に向かう気持ちに変化があるのであれば、何台ものカメラを持つことも、あながち無意味と言い切ることもできないのではないかと思うのであります。

 自動車の場合、自分の運転技術は変わらないのに、パワーのある車や走行性能に優れている車に乗ると、あたかも自分の運転がうまくなったように錯覚することがあります。自動車は性能そのものが走行に直結しますが、フィルムカメラ、特に大判カメラは機能や性能が優れていても写真そのものには直接的に影響しないので、自動車の場合とは少し事情が違います。
 しかし、同じ風景であってもカメラを変えれば撮り方が変わる、その感覚の9割以上が錯覚であっても、そんな中から何か自分なりの新しい発見があれば、それはとても新鮮な出来事に感じられると思います。

 つらつらと他愛のないことを書いていると、今まで使ったことのないカメラが欲しくなってきました...

(2022.9.4)

#リンホフマスターテヒニカ #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45 #タチハラフィルスタンド

緑鮮やかな山形・秋田の滝巡り くぐり滝/慈光滝/玉簾の滝/奈曽の白滝/元滝伏流水/止滝/銚子の滝

 日本は山が多いので各地でたくさんの滝を見ることができますが、やはり、東北地方と中部地方は滝が多いイメージがあります。滝の明確な定義はあいまいなようで、どれくらいの高さ(大きさ)から滝というのかはわかりませんが、山形県のホームページを見ると、「日本一の滝王国 山形」と書かれていますし、地図を見ても滝の記号が多いと感じるのは東北地方です。
 比較的水量も多く、緑が鮮やかな梅雨の時期に、山形県から秋田県にかけて滝巡りをしてみました。たどり着くのまでに時間のかかる滝もあるので、一日に訪れることのできる滝の数は限られてしまいますが、実際に行った滝の中からいくつかをご紹介します。

くぐり滝(山形県)

 南陽市を走る国道348号線から分岐する細い道があり、2~3kmほど進むと駐車場に着きます。訪れる人は多くありませんが、車のすれ違いができない狭い道なので注意が必要です。
 駐車場からは歩きになりますが、2~3分歩くと滝が見え、さらに2~3分で滝に到着します。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F45 8s PROVIA 100F

 落差は14mほど、雪解けの頃は水量も多いようですが、訪れた時は少なめでした。
 この滝の特徴は何と言っても、岩にぽっかりと開いた大きな穴から流れ落ちていることです。なぜこのような穴があいたのかわかりませんが、穴の直径は5mほどもあるそうなので、かなり大きな穴です。
 また、この滝は三方がこのような絶壁に囲まれていて、滝つぼに立つととても圧迫感があります。

 この滝を近い距離(滝つぼの辺り)から撮ろうとすると、カメラを上に振ってかなり見上げるようなアングルでの撮影になります。大きな岩の穴を入れようとすると短焦点(広角)のレンズでの撮影になり、上方が小さくなってしまいます。それを防ぐため、目いっぱいのアオリ(フロントライズ)をかけています。
 滝の下流方向は開けていますので、滝から離れたところまで移動すれば長焦点レンズでも全貌を撮ることができます。

 また、この日は曇り空だったこともあり、空は入れたくなかったので、上辺はギリギリのところでカットしています。そのため、岩穴の上部が少し切れています。岩穴の上部もすべて入れたい場合は、やはり少し離れたところから長めのレンズで撮る必要があります。

 撮影していた時間はおよそ一時間ですが、その間、訪れる人は誰もいませんでした。

慈光滝(山形県)

 この滝は真室川町から酒田市に向かう国道344号線沿いにあります。道路のすぐ脇にあるので、車で走っていても目に入ってきます。すぐ近くに車2台分ほどの駐車スペースがあり、アクセスは非常に良いのですが、あまりにも道路に近いため、三脚を立てるには道路反対側の草むらということになってしまいます(滝の前で三脚を立てようとすると車にはねられる危険ありです)。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 4s PROVIA 100F

 黒い岩肌を滑り落ちるような、とても優美な感じのする滝です。だいぶ散ってしまっていますが、わずかに赤いヤマツツジの花が見えます。
 落差は6mほどあるようなのですが、この写真に写っているのは4mほどです。全景を入れようとすると道路の脇に立って覗き込むような位置で撮らねばならず、手持ち撮影しかできません。ということで、この写真は道路反対側からガードレール等が入らないギリギリの範囲で構成しています。
 雨が上がった直後で全体に柔らかな光が回り込んでいますが、画左側の木がちょっと明るすぎる感じです。

 また、この滝の反対側の路肩から河原に降りて滝の前まで行くことができるのですが、流木や木の枝、枯れ草などが雑然としていたので撮影はあきらめました。

 数年前、紅葉の時期に訪れたことがあり、華やかに色づいた中に黒と白のコントラストの滝がとても綺麗でした。その時は縦構図で紅葉を上に多く入れたのですが、今回は上方が明るすぎたので横構図にしてみました。
 露光時間は4秒ですが、時々、車が目の前を通るので、運が悪いと車の屋根が写り込んでしまい、高いフィルムが一枚、無駄になってしまいます。

玉簾の滝(山形県)

 弘法大師が神のお告げによって発見したと伝えられている落差63m、山形県随一の高さを誇る見事な滝です。広い駐車場が完備されており、駐車場から滝まで徒歩10分ほどです。滝の前には御嶽神社のお社があり、かつては山岳宗教の修験場だったようです。
 太陽の光によって滝の飛沫が玉簾のように見えることからついた名前らしいです。

 水量も多く、豪快に流れ落ちるので、滝からかなり離れていても飛沫が飛んできます。滝つぼの前まで行くことができますが、びしょ濡れになる覚悟が必要です。
 この写真を撮影した神社の裏手に当たる場所は昼間でも薄暗く、滝の飛沫の影響もあるのか、とてもひんやりとしています。長時間、一人きりでいると何だか心細くなってきます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm 1:5.6 F45 4s PROVIA 100F

 本当は曇っていてほしかったのですが、ご覧のように見事に晴れ渡ってしまいました。周囲には大きな木があるので、晴れてしまうとコントラストがつきすぎてしまいます。全体に光りの回り込んだ状態を撮りたかったのですが、自然はこちらの思うようにはなってくれません。
 周りの木や斜面をシルエットになるようにして、滝を取り囲むような構図にしてみました。偶然のタイミングですが、滝の背後の右側の崖に木の影が落ち込んでいるのがいいアクセントになってくれました。

 滝を撮るときは人工物は入れないようにすることがほとんどですが、敢えて今回は滝つぼの前に設置されている柵と立て看板のようなものを小さく入れてみました。

 なお、この滝はゴールデンウィーク期間と夏休み期間、夜になるとライトアップされるようです。

奈曽の白滝(秋田県)

 日本海沿いに北上する国道7号線から鳥海山方面に分岐する道路に入り、10分ほど走ると到着します。広い駐車場があり、一帯は奈曽の白滝公園になっています。
 滝に行くにはこの公園内を抜けるか、金峯神社の境内を通るかのどちらかですが、滝が見える観瀑台のようなところまでは徒歩で15分ほどです。金峯神社は鳥海山の修験の拠点だったらしく、境内はかなり急な石段が続いています。
 観瀑台は金峯神社の本殿の近くにあるのですが、障害物がなく滝の全貌が見えるのはここと、長い石段を下りた先の滝つぼの前だけです。

 下の写真は観瀑台からではなく、奈曽川にかかっている吊り橋の上から撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F45 8s PROVIA 100F

 奥に見えるのが奈曽の白滝の滝つぼで、そこからの流れを撮ってみました。滝は落差26m、幅11mの豪快な滝ですが、滝そのものよりもその先の流れがとても綺麗でした。
 雨が降ったり止んだりという天気でしたが、滝を撮るには最高です。水が少し濁っていましたが、長時間露光で撮影すれば波が白くなるので、濁りをごまかすことができます。

 濡れた岩のテカリを抑えるためにPLフィルターを使おうかと思いましたが、岩がそれほど多くないのと、緑が不自然にな色になってしまうのを避けるため、PLフィルターは使用していません。
 下側(手前側)をもう少し広く入れたかったのですが、すぐ下に吊り橋を支えているワイヤーがあり、それが写り込んでしまうので手前で止めています。

 吊り橋の上に三脚を立てているので、人が吊り橋に入ると大きく揺れます。しかも全長75mの橋を渡りきるまで揺れ続けるので、この場所で撮影するのは人の少ない早朝がお勧めです。

元滝伏流水(秋田県)

 奈曽の白滝から車で数分も走ると元滝伏流水の駐車場に着きます。駐車場からは整備された遊歩道があり、15分ほどで伏流水が見えてきます。
 元滝はさらに上流になるらしいのですが、がけ崩れで立ち入り禁止になっていました。

 元滝伏流水は鳥海山の溶岩の末端から流れ出ている湧き水で、水温は年間を通じてほぼ変わらず、10度くらいとのことです。とてもきれいな水で、イワナやヤマメがいるらしく、撮影に行った時も釣りをしている人を見かけましたが、釣れたところは見られませんでした。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F32 8s PROVIA 100F

 岩の間から流れ落ちる水と苔むした岩、うっそうとした森がつくる景観は、形容しがたい、ぞくっとするような空間です。
 川の中ほどに草が根を下ろした小さな岩があったので、これを手前に入れて撮影しました。ほとんど無風状態だったので、草もブレずに写ってくれました。
 画左側は上部に大きな岩があり、その陰になっているので、右の方に比べるとかなり暗い状況です。右半分に弱いハーフNDフィルターをかけても良いのですが、これくらいの明暗差があった方が奥行きが感じられると思います。
 全体にあまり明るくしてしまうと、ぞくっとするような感じが薄れてしまうので、露出は切り詰め気味にしています。

 もう少し下流(写真の左方向)に行くと川の中に苔むした大きな岩がゴロゴロしており、また違った美しさを見ることができます。

止滝(秋田県)

 十和田湖に向かう国道103号線、青森県との県境に近いところにある滝です。103号線に沿って流れる大湯川にある滝で、道路のすぐ脇にあります。大湯川の水量はあまり多くないのですが、この止滝のところは川幅が狭くなっているので、大きな滝ではありませんが迫力があります。
 滝つぼのすぐ上(道路脇)には小さな神社のお社があり、滝が祀られているのかも知れません。
 滝の下流すぐのところに駐車場があるので、滝へのアクセスはとても便利です。

 下の写真は、滝つぼの少し下流にある橋の上から撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C 300mm 1:8.5 F45 2s PROVIA 100F

 川の流れを多く入れたかったのですが、水量が少なく、あまり風情がなかったので、上の緑を多く入れました。また、滝の手前に伸びている枝が滝にかかり過ぎないポジションから撮影しています。
 折り重なる木々が平面的にならないように近くにある枝を大きく入れてみましたが、風でブレてしまい、ちょっと中途半端な感じです。これが止まってくれていると、全体がもっとすっきりとした印象になると思うのですが。

 この写真ではよくわかりませんが、カエデの木が何本もありましたので、秋の紅葉の季節はとても美しい景色になるのではないかと思います。

銚子の滝(秋田県)

 止滝から少し上流に行き、国道103号と104号が分岐している少し先にある滝です。滝のすぐ前まで車で行くことができます。
 江戸時代の紀行家、菅江真澄が訪れたらしく、「菅江真澄の道」と書かれた案内柱が立っています。

 銚子の滝とか銚子滝という名前の滝はあちこちにあり、滝の形が銚子に似ていることからつけられたものが多いですが、この滝も昔は銚子の形をしていたようです。
 落差は20mほど、季節によってはかなりの水量があるようです。

 滝は北西を向いて流れ落ちているので、晴れた日の日中は逆光になってしまうのと、晴れているとコントラストが強すぎて滝が目立たなくなってしまいます。やはり曇りとか雨の日がお勧めです。
 滝つぼは左右にかなり広がっているので、立つ位置によって滝の形や見え方がずいぶん変わってきます。

 下の写真はほぼ正面から撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA 100F

 滝の上部にヤマツツジが咲いていたので、これをできるだけ入るように、かつ、空は入れないようにというフレーミングです。
 画左側の柱状節理がとても綺麗だったので、ここの質感が出るように露出を決めています。
 水量はさほど多くないので、迫力というよりは繊細な美しさを感じますが、滝の下半分と左側の柱状節理の部分を切り取ると、美しさに加えて滝の迫力が感じられる写真になると思います。

 この滝の少し手間に「錦見の滝」があり、林の中にたたずむ美しい滝です。この辺りは滝が密集しています。

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 山形県と秋田県の滝、およそ20ヵ所を巡ってきましたが、訪れたにもかかわらず光の具合が良くなくて撮影しなかった滝もあります。そういう滝は、「また、出直してきなさい」と言われているのだと思い、再度、訪れてみたいと思っています。
 今回、紹介できなかった他の滝については、別の機会にご紹介できればと思っています。

 それにしても、滝というのは魅力があります。

(2022.7.9)

#滝 #渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_mastertechnika

大判カメラでの撮影時に気をつけたいこと あれこれ

 大判カメラの構造は非常にシンプルですが、それゆえに撮影するためにはいろいろとやるべきことが多く、結構な手間がかかります。一眼レフカメラのように、ファインダーを覗いて構図を決めてシャッターを切るだけというようなわけにはいきません。
 大判カメラといってもいろいろな種類やタイプが存在しますが、今回は金属製のフィールド(テクニカル)タイプカメラであるリンホフマスターテヒニカやウイスタ45を対象に、撮影に関する操作において気をつけたいことをまとめてみました。
 金属製フィールドタイプでも他の機種であったり、ビューカメラや木製(ウッド)カメラには当てはまらない内容もありますので、予めご承知おきください。

レンズスタンダードを引出す際は可動トラックを奥まで押し込む

 ベッドが折りたためるようになっているフィールドタイプカメラの多くは、可動トラックと本体内レールの間に20~30mmほどの隙間があります。

▲本体内レールと可動トラックのレールとの隙間

 ベッドを畳むときにぶつからないようにこの隙間が必要なわけですが、この隙間がある状態でレンズスタンダード(Uアーム)を引き出すと、可動トラックのレールの端にレンズスタンダードのベースがぶつかり、繰り返すうちにレールが徐々に削れてしまうということになります。
 また、この状態でレンズスタンダードを引き出すとまっすぐ移動せず左右にぶれてしまい、レールとの嵌合精度が狂ってしまうことにもなりかねません。

 これを防ぐため、カメラ本体からレンズスタンダードを引き出す場合、可動トラックを奥まで押し込んで本体内のレールとぴったりと着く状態にしておくのが望ましいです。
 可動トラックを奥まで押し込んだ状態が下の写真です。

▲本体内レールと可動トラックのレールをぴったりとつける

 可動トラックを奥まで押し込まずにレンズスタンダードを引き出すのを見かけることもあります。面倒くさいかも知れませんが、カメラをいつまでも最良の状態で使うためにも、ひと手間かけるのが良いと思います。

レンズ取付け時はレンズボード押さえと本体を手で挟まない

 レンズをレンズスタンダードに取り付ける際、レンズボード押さえを上に持ち上げる必要があります。この時、レンズボード押さえとカメラ本体の後部を手で挟んでレンズボード押さえを持ち上げようとすると、可動トラックに対して垂直に設置されているレンズスタンダードの関係が狂ってしまいます。
 レンズボード押さえのバネの力は結構強くて、実際にこの操作をやってみるとレンズスタンダードがカメラ後方に傾くのがわかると思います。

▲レンズスタンダードと本体を手で挟むと歪みのもとになる

 一度くらいでは問題ないでしょうが、このような方法でレンズを取付ける癖がつくと長年の間には何百回、何千回と行なわれることになるので、カメラにとっては好ましい状態ではありません。

 そうならないために、下の写真のようにレンズボード押さえを指でつまんで上に持ち上げるようにします。

▲レンズボード取付け時はレンズボード押さえだけを持ち上げる

 木製のカメラによくみられるようなスライド式のレンズボード押さえを採用しているカメラではこういった心配はありませんが、バネの力で押さえる方式は操作は簡単ですが注意が必要です。
 中古カメラの購入を検討する際、可動トラック上に引き出したレンズスタンダードにガタがあるようだと、ひょっとしたら長年にわたってレンズスタンダードとカメラ本体を手で挟まれてきたのかも知れません。

ケーブルレリーズを取付けたままブラブラさせない

 一般的にレンズをレンズボードに取付ける場合、レリーズ取付け部が上を向くような位置にすることが多いと思います。
 この位置はケーブルレリーズを取付けるには操作し易いのですが、取り付けた状態でケーブルレリーズをブラブラさせたままにしておくと、重みでレリーズ取付け部に負担がかかります。
 また、ケーブルレリーズもつけ根のところから180度曲がってしまい、ケーブルレリーズにとってもあまりよい状態とは言えません。

▲ケーブルレリーズをブラブラさせておくと、取付け部に負荷がかかる

 レリーズの種類にもよりますが、レリーズ取付け部とかみ合うネジ山がごくわずかという場合があり、強い力がかかると外れてしまったり、最悪の場合、破損してしまう可能性もあります。特に長いケーブルレリーズをつけた場合はかなりの重さになり、強い風で揺れたりすると何倍もの力がかかります。

 ケーブルレリーズはカメラ本体や三脚などに固定しておくことで、こういった問題を防ぐことができます。

フィルムホルダーを差し込む前に各部をロックする

 大判カメラは構図決めの際に動かす箇所がいくつもあります。アオリを使うとその数はさらに増えます。
 あちこち動かしながら構図を決めピントを合わせ、さて撮影という段になり、フィルムホルダーをカメラに差し込もうとフォーカシングスクリーンを持ち上げたとたん、カメラが動いてしまったなんていう可能性もあり得ます。そうなると、せっかく合わせた構図やピントもやり直しです。
 そんなことにならないように各部をしっかりロックしておく必要があります。
 また、大判カメラは重量もありますので、三脚(雲台)の各部もしっかり締めておく必要があります。

▲撮影前に各部をロックする

 ロックを忘れていちばん影響を受けるのはバック部をあおったときです。ロックせずにフォーカシングスクリーンをグイッと持ち上げようとすると、フォーカシングスクリーンが持ち上がらずにバック部が目いっぱい引き出されてしまいます。

 構図決め、ピント合わせが終わったら各部のロックネジを全て締めるように習慣づけておくのが望ましいです。

フィルムホルダーをトントンしてフィルムの移動を防ぐ

 大判カメラで使うシートフィルムホルダーのフィルムが入るスペースは、フィルムのサイズより若干大きめに作られています。このため、フィルムはフィルムホルダー内で前後左右にわずか(1~2mm)に動きます。
  フィルムがホルダー内で上側によっていると 、フィルムホルダーをカメラにセットした時、フィルムの重みで下側に移動してしまうことがあります。運悪く、シャッターが開いているときにこれが起こるとブレブレの写真になってしまいます。長時間露光の時は特に要注意です。

 フィルムホルダーをカメラにセットした時、下側になる位置にフィルムを寄せておくことでこれを防ぐことができます。
 下側になる方を手のひらにトントンとたたくことで、ホルダー内のフィルムが下側に移動します。

▲フィルムがホルダーの下側にくるようにトントンする

 フィルムが動いてしまうということはそう頻繁に起きるものではありませんが、動いたかどうかはわからないので、渾身の一枚が無駄にならないように念には念をといったところでしょうか。

シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しない

 大判カメラ用のレンズにはシャッターが組み込まれていますが、シャッターをチャージするとシャッター速度を司るガバナーもセットされます。その状態でシャッター速度を切り替えるとガバナーも動くため、あまり好ましくないと言われています。
 実際に試してみるとわかりますが、シャッターをチャージする前はシャッター速度ダイヤルは軽く回りますが、シャッターをチャージた後にシャッター速度ダイヤルを回すと少し重くなり、「ジッ」というような音が聞こえます。
 実際にどの程度の悪影響があるのかはわかりませんが、チャージ後のシャッター速度の変更は避けたほうが良いようです。

▲シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しないのが望ましい

 シャッターをチャージした後にシャッター速度を変えなければならない場合は、いったんシャッターを切り、シャッター速度を変更した後、再度チャージし直すのが良いということでしょう。

カメラをたたむときは各部をニュートラルに戻す

 撮影を終えてカメラをたたむときに気をつけたいのが、各部をニュートラル位置に戻すということです。
 ベッドをたたむためにはレンズスタンダードを本体内に収納しなければならないので、これを忘れることはまずありませんが、忘れがちなのがあおった状態を元に戻すことです。
 例えば、フロントライズやフロントシフトしたままレンズスタンダードを収納しようとすると、蛇腹がカメラの外枠に当たってしまったり、当たらないまでも蛇腹がずれた状態でたたまれてしまいます。
 また、可動トラックを奥に入れた状態でベッドをたたもうとしてもたためませんが、無理に力を加えると破損してまう可能性があります。

 各部がニュートラル位置にない状態でたたもうとすると動きが重くなったりするので、少しでも変な感触があるような場合は無理をしないで確認をしてみる必要があります。

 中古カメラ店で大判カメラを見せてもらうと、明らかに無理をして壊してしまったと思われるものが結構あります。金属製のカメラは剛性が高いので、普通に使っている分には簡単にガタが出ることもないのですが、長年にわたって無理を続けるとあちこちに支障が出てしまいます。

カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 撮影場所を移動する際、三脚に大判カメラをつけたまま担いでいる人を見かけることがあります。一眼レフカメラならいざ知らず、大判カメラを、しかもベッドを開いた状態で担いで歩くというのは無頓着すぎる気がします。
 金属製の大判カメラは剛性が高いとはいえ、ベッドを開くと左右2本のタスキで支えられている構造のものが多く、WISTA45はタスキもなく、大型のネジで締め付ける構造になっています。ここに想定外の大きな力がかかると簡単に破損してしまいます。

 ベッドをたためば動く箇所がなくなるので、三脚につけたまま担いでも大きな損傷を受けることもないと思いますが、何しろカメラ自体が大きいので、木の枝にぶつけたりという心配もあります。できれば三脚から外してバッグに入れて移動するのが望ましいですが、最低でもベッドはたたむようにすべきと思います。

▲カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 また、足場が悪いところを歩く場合、短い距離とはいえ三脚に重いカメラをつけたままだと体のバランスもとりにくく、転倒する危険もありますので注意が必要です。

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 大判カメラは撮影自体も何かと手間がかかりますが、その前後にも気をつけなければならないことが多く、面倒くさいと言えば確かにその通りです。しかし、そういう面倒くさいことも含めての大判カメラならではの撮影だと思います。
 また、カメラ自体も決して安くはありませんが、ちょっとしたことに気をつけて大事に使えば一生ものです。とはいえ、形あるもの、いつかは壊れますが、直してまた使えるというのも大判カメラの魅力かも知れません。

(2021.12.21)

#リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラのフォーカシングスクリーン すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ

 レンジファインダーカメラや最近のミラーレス一眼カメラを除けば、一眼レフカメラや二眼レフカメラ、大判カメラなどにはフォーカシングスクリーン(ピントグラス)が備わっています。レンズから入った光を結像させるとともに、ピント合わせをおこなうという非常に重要なパーツです。
 フォーカシングスクリーンは「すりガラスタイプ」と「フレネルレンズタイプ」の2種類に大別できます。それぞれ特徴がありますが、今回は大判カメラのフォーカシングスクリーンに焦点をあててみたいと思います。

すりガラスタイプ 最もベーシックなフォーカシングスクリーン

 大判カメラのフォーカシングスクリーンはこんな感じです。フィールドタイプのカメラの裏蓋を開けると、そこにフォーカシングスクリーンが見えます。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン(Linhof MasterTechnika 2000)

 すりガラスタイプは昔から使われているもので、ガラスの片面がすりガラス状になっているだけというシンプルなものです。ここにレンズからの光が当たると結像します。
 すりガラスのきめが細かいので非常に鮮明に結像されるのが特徴です。
 一方、フォーカシングスクリーンの周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるので、フォーカシングスクリーンの後ろ側から見るとかなり暗く落ち込んでしまいます。

 下の写真はすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したものです。わかり易くするため、カメラには#1のレンズボードだけを装着し、レンズは着けていません。
 1枚目は蛇腹を80mm引出した状態、2枚目は250mm引出した状態です。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 80mm引き出した状態では周辺部は真っ黒、250mm引出しても十分な明るさにならないことがわかると思います。
 このように、短焦点レンズ(蛇腹の引出し量が少ない)の場合、フォーカシングスクリーンの周辺部はかなり暗くなってしまいます。焦点距離が長く(蛇腹の引出し量が多く)なるにつれて周辺部の暗さは少しずつ解消されますが、中心部に比べるとやはり暗いです。

 わかり易くするため、図にしてみました。

 上の図でもわかるよに、中心部、およびその周辺はフォーカシングスクリーンに対して垂直、またはそれに近い角度で光が入ってきますが、周辺部に行くほど入射角が斜めになっていきます。これはレンズの焦点距離が短くなるほど顕著になります。
 このため、ルーペでピント合わせをしようとしても、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直にあてると光が入ってこないので、視界が真っ暗という状況になってしまいます。

 これを解消するには光の入射方向に対してルーペのレンズ面が垂直になるように傾ければ良いのですが、そうするとルーペのピントが合わなくなってしまいます。伸縮型のルーペを使うとか、斜めから入射してくる光が見えるようなレンズ径の大きなルーペを用いるなどの工夫が必要になります。

 このように、すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは使いにくいと思われるかもしれませんが、鮮明な像が得られるのと、ピントの山がとてもつかみ易いという利点があります。
 ピント合わせ用のルーペは6~7倍の倍率のものを使うことが多いのですが、シビアなピント合わせをするときは20倍くらいのものを使うこともあります。それくらいの倍率で見てもすりガラスのざらつきがさほど気になりません。

 因みにすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは自分で作ることもできます。既定のサイズにカットした透明のガラスの片面を、#2500くらいの耐水ペーパーで根気よく磨くだけです。#2500の耐水ペーパーの粒度は6㎛程度らしいので、非常にきめ細かなすりガラスになります。

フレネルレンズタイプ 明るくて見やすいフォーカシングスクリーン

 すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンに比べて、圧倒的に明るい像が得られるのがフレネルタイプのフォーカシングスクリーンです。
 肉眼では全くわかりませんが、レンズを薄くスライスし、周辺部だけを残して中をくり抜いたものを同心円状に並べたような構造をしています。

 上の図のように、薄くスライスしたレンズの周辺部だけを残すことで、三角プリズムのような形になります。ここに斜めから入射してきた光があたると屈折して、フォーカシングスクリーンに対して垂直に近い角度の光になります。これによって、フォーカシングスクリーンの周辺部で暗く落ち込んでしまうのを防ぐことができます。

 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したのが下の2枚の写真です。
 1枚目が蛇腹を80mm引出した状態、2枚目が250mm引出した状態で、すりガラスタイプと条件は同じです。

▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 蛇腹を80mm引出した状態では周辺部の落ち込みは見られますが、250mm引出した状態ではフォーカシングスクリーン全面がほぼ同じ明るさになっており、周辺部の落ち込みは感じられません。このため、短焦点レンズを使った場合でも周辺部の落ち込みが少ないので、ピント合わせはすりガラスタイプに比べると格段にし易くなります。

 しかし、ルーペを使うと同心円状のフレネルレンズが目立ってしまい、特に高倍率のルーペではフレネルレンズの縞模様に被写体が埋もれてしまうような感じになります。6~7倍くらいの倍率であればそれほど気になりませんが、20倍というような高倍率ルーペではピントが合わせ難くなります。
 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンの同心円は、およそ1mmに12~15本ありますので、ピッチは0.067mm~0.083mmといったところです。これはすりガラスのざらつきに比べると桁違いに大きい値です。

 フレネルレンズ自体はアクリルやポリカーボネイトなどのごく薄い素材でできているらしく、フォーカシングスクリーンとして用いる場合は、結像のためのすりガラスと保護用の透明のガラスでサンドイッチされた構造になっています。

鮮明な像を優先するか、明るさを優先するか

 すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ、それぞれの特徴はおわかりいただけたと思いますが、どちらのタイプを選ぶかは人それぞれだと思います。
 私は主にすりガラスタイプを使っていますが、いちばんの理由は鮮明な結像とピントの合わせやすさです。レンズを前後させたとき、ピントが立ってくるところと、それを超えてピントが崩れていくところがとてもわかり易く、ピントの山でピタッと止めることができます。

 また、大判カメラはアオリを使うことも多く、レンズの前後とアオリの量を微妙に調整しながらピント合わせを行ないます。フォーカシングノブをほんの1ミリほど動かしただけでピントが移動するのがわかるのは、やはりすりガラスタイプならではと思っています。

 周辺部の暗さについては口径の大きなルーペを使うことで凌いでいます。私は直径49mmのレンズを用いた自作のルーペを使っていますが、斜め45度くらいから覗いても視界が確保されるので、暗くてピント合わせができないというようなことはありません。
 難点は少々大きくて重いということです。

 WISTA 45 SPには標準のフレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンがついているのですが、時たまWISTAを持ち出すと、明るいフォーカシングスクリーンはありがたいと感じます。短焦点レンズを使う頻度が高ければ、フレネルレンズタイプは便利だと思います。

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 異なるタイプのフォーカシングスクリーンを取付けたバック部を二つ用意しておいて、被写体や使用するレンズによって使い分けるという方法もあるかも知れませんが、慣れの問題も大きいので、いろいろ試してみて自分に合ったものを選ぶということになると思います。
 なお、大判カメラのバック部に取付けられているフォーカシングスクリーンの交換は簡単にできますが、結像面がフィルム面とピッタリ同じ位置にないと、ピント合わせをしてもピントがずれた写真になってしまいますので、交換する場合は結像面位置の計測が必要になります。

(2021.11.23)

#WISTA45 #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #リンホフマスターテヒニカ

紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮る

 奥入瀬渓流は十和田湖の子ノ口から焼山まで、およそ14kmに渡って美しい流れが続いています。両岸には豊かな樹木やたくさんの滝があり、変化に富んだ景観は見飽きることがありません。流れとほぼ同じ高さに遊歩道が整備されているので、高いところから見下ろす渓谷とは違う景色を見ることができます。
 例年の紅葉は10月中旬から11月上旬と言われていますが、今年(2021年)は10月24日の週がいちばんの見ごろだった感じです。紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮ってきました。

三乱(さみだれ)の流れ

 個人的には奥入瀬渓流の中でいちばん好きな場所です。
 流れは比較的穏やかで、その中に点在している大小の岩と、その上の着生植物が作り出す景観は得も言われぬ美しさがあります。すぐ脇を車道が走っているので、車の中からもその美しい景観を見ることができます。

 下の写真は早朝に撮った一枚です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 流れのすぐ手前まで降りて行って撮影しています。渓流に太陽の光が差し込む前で、しかも前の夜に雨が降ったようで、しっとりとした色合いになってくれました。ほとんど無風状態でしたので、少々長めの露光をしても被写体ブレは気にならないだろうと思い、8秒の露光をしています。
 手前にある岩から奥のl紅葉までピントを合わせたかったので、フロントティルトのアオリをかけています。
 また、流れの奥行き感と広さを出すために、カメラの位置を水面から60cmほどの高さでの撮影です。

 木々はとても綺麗に色づいていますが、紅葉をあまりたくさん入れると画の締まりがなくなってしまうので、切り詰めています。その分、流れを広く入れて、点在する岩をアクセントにしました。
 早朝のしっとり感が損なわれないように露出は気持ちアンダー気味にしています。

 もう一枚、少し上流側で見つけた、岩の上に根を下ろしている黄葉です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 1s PROVIA100F

 背景を広く入れ過ぎると岩の上の黄葉が目立たなくなってしまうので、流れとの対比で黄葉が引き立つようにしました。もう少し下流側から流れを多く入れようとも思いましたが、そうすると背景も広く入ってしまいゴチャゴチャしてしまうので、流れに対して真横から撮っています。
 また、岩の上から伸びている2本の幹がとてもいいアクセントになっていたので、これがはっきり見えるアングルを選んでいます。
 こちらもほぼ無風状態だったのですが、ところどころ、わずかに葉っぱがブレています。

 まだ完全に黄葉しきっておらず緑が残っていますが、そのグラデーションがとても綺麗です。露出アンダーになるとこのグラデーションが濁ってしまうので、葉っぱの部分を何ヵ所か測光して露出を決めています。

石ヶ戸(いしけど)の瀬

 石ヶ戸休憩所がある辺りを石ヶ戸の瀬と呼ぶようです。石ヶ戸休憩所は広い駐車スペースもあり、観光バスも多く来るのでたくさんの観光客でにぎわっています。
 すぐ近くに、カツラの大木で支えられた巨大な一枚岩があり、それを石ヶ戸と呼ぶようですが、その岩の下はまるで小屋のような空間になっています。
 石ヶ戸の瀬の辺りは流れが大きなカーブを描いており、そのためか変化に富んだ景観を見ることができます。

 下の写真は石ヶ戸の瀬の中でも流れが激しい場所です。橋のようになった倒木が何とも言えぬ景色を作り出しています。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 4s PROVIA100F

 奥入瀬はどちらかというと紅葉よりも黄葉のイメージが強いのですが、この辺りは紅葉が点在しており、そのコントラストが綺麗です。
 奥行き感を出すために、手前の岩を多めに入れています。手前から奥までピントが合うようにフロントティルトのアオリをかけています。ほぼ無風状態だったので、岩の上の草もほとんどブレずにすみました。
 一方、上部中央にある黄緑色の葉っぱがアウトフォーカスになってしまい、ちょっと気になります。撮影位置をもう少し前にできればよかったのですが足場が悪く、このあたりが自然相手の難しいところです。

 上の写真より少し下流の、流れが極めて穏やかになっている場所で撮影したのが下の写真です。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 傾斜がほとんどなく、波も全くというほど立っていません。ここも、苔むした倒木がとても良いアクセントになっていると思います。
 前の写真のときと比べて陽が高くなっているので林全体が明るくなっていますが、若干暗めの方がこの場の雰囲気には合うと思い、露出は少し切り詰めています。

 波を立てて激しく流れる景色も素晴らしいですが、このように音もなく静かに流れる、まるで時が止まったような景色を見られるのも奥入瀬渓流の魅力だと思います。

 もう一枚、近くでとても綺麗に色づいた木を見つけたので撮ってみました。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000  FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 上の方の葉っぱが赤くなってきており、そのグラデーションがとても綺麗です。
 ここの流れもとても穏やかで、波音もほとんど聞こえません。長時間露光しても波の軌跡はほとんど写らないので、川面を流れる落ち葉が線を描く程度のシャッター速度で撮影しています。欲を言うと、もう少し流れる落ち葉がたくさん欲しかったところです。

 カメラをもう少し上に振ると、切り立った崖の上の方に赤く色づいた木々が点々とあったのですが、このオレンジ色の葉っぱを引き立たせるため、敢えて上の方の紅葉は入れませんでした。もう少し引いた場所から短めのレンズで広い範囲を撮ると、これとは違った美しい渓谷美の写真になるのではないかと思います。

阿修羅(あしゅら)の流れ

 奥入瀬渓流の中でいちばん人気の場所ではないかと思います。ガイドブックや雑誌などでも紹介される回数が最も多いのが、ここ、阿修羅の流れだそうです。
 近くにわずかながら駐車スペースもあり、ここを目当てに来る方も多いようです。写真撮影する人、絵を描く人など、人が耐えることがありません。
 それでも早朝は人の数がとても少なく、ゆっくりと撮影することができます。

 下の写真は流れのすぐ近くの遊歩道から、できるだけ低いポジションで撮ったものです。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F45 8s PROVIA100F

 岩の間を縫うように流れる姿はとても豪快です。焦点距離90mmの短焦点レンズを使っていますが、流れを強調するために林の上部はあまり入れないようにしています。
 早朝で岩に光が回り込む前の時間帯なので、岩の重みのようなものが感じられます。8秒の露光をしていますが、風がなく葉っぱもピタッと止まってくれたのは運が良かったです。
 蛇行した激しい流れと川中の岩、着生植物のバランスは本当に美しく、奥入瀬渓流の中でいちばん人気というのも頷けます。

 右上の林に光が差し込んでいるのがわかると思いますが、林を切り詰めた分、流れが奥の方に続いている感じを出そうと思い、この辺りが少し明るくなるのを待っての撮影です。

 上の写真の少し上流から縦位置で撮ったのが下の写真です。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 4s ND8 PROVIA100F

 一枚目の写真の場所と比べると流れは穏やかで激しさはありません。しかし、左奥から大きくカーブしながら流れ落ち、テーブル状になったところに波が描く模様は、激しさと穏やかさが同居している感じが表わされているように思います。

 林全体に光が回り込んで黄葉が鮮やかになってきたので、黄葉を多めに入れてみました。紅葉や黄葉は光が入り込むと鮮やかに発色しますが、光が強すぎると白っぽくなってしまいます。太陽に雲がかかって光が柔らかくなったところを狙って撮影しました。

 この写真のすぐ右側と正面の奥には道路が走っています。何気なくシャッターを切ったら車が写り込んでいた、なんてこともあるので撮影の際は注意が必要です。

白銀(しろがね)の流れ

 奥入瀬渓流の数ある滝の中でも人気の高い雲井の滝、その少し上流にあるのが白銀の流れです。轟々と音を立ててダイナミックに流れるところは高い位置から見下ろすしかありませんが、その下流はとても穏やかな流れになっています。ここは、阿修羅の流れと銚子大滝の中間あたりで、それが理由かどうかわかりませんが、訪れる人も比較的少ない感じがします。

 下の写真は白銀の流れのいちばん下流にあたるところです。

▲白銀の流れ Linhof MasterTechnika 2000  SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F22 4s ND8 PROVIA100F

 左端にちょっと見えている階段を上ると白銀の流れを見下ろせる場所に出ます。
 この写真の場所は川幅が急に広くなるので、水深も浅く、穏やかな流れです。この時期は落葉が進んで葉っぱの数も少ないので、開けた感じのする場所です。

 流れの中に横一列に整然と並んだ岩が何とも言えません。穏やかな流れでありながら適度な波があるので、長時間露光するとまるで雲が流れているような描写になります。
 対岸にある巨木がとても印象的で、このおかげで画全体が締まっている感じです。

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 美しさもその規模も他に類を見ない奥入瀬渓流です。今回は石ヶ戸から子ノ口の間を撮影しましたが、石ヶ戸から焼山までの間の紅葉も素晴らしいです。範囲が広いので短い期間ですべてを撮るには無理があります。限られた時間の中である程度狙いを絞り込んでおかないと、被写体に振り回されてしまいそうです。
 新緑の美しさも格別で、来年、新緑の頃に訪れることができたらいいなと思ってます。

(2021年11月16日)

#奥入瀬渓流 #紅葉 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

リンホフマスターテヒニカ2000 Linhof MasterTechnika 2000

 1995年にマスターテヒニカ45(MT45)の後継機種として発売されたモデルです。見た目はマスターテヒニカ45によく似ていますが、デザイン的にも機能的にいくつかの変更や改良が加えられています。今回はマスターテヒニカ45との違いを中心に、マスターテヒニカ2000をご紹介したいと思います。

マスターテヒニカ2000の外観

 マスターテヒニカ2000の外観はこんな感じです。

 マスターテヒニカ45と非常によく似ていて、パッと見では区別がつかないくらいです。バック部のロックネジが白くなって本体側面に配置されたとか、可動トラックのノブも白くなりテーパ型になったとか、ボディ上部の一部が上にめくれ上がるためのノブの形状が変わったとか、そういった細かいところで区別できるくらいでしょうか。

 マスターテヒニカ2000の主な仕様は以下の通りです(リンホフマスターテヒニカ2000 取扱説明書より引用)。
  画面サイズ    : 4×5インチ判
  レンズマウント  : リンホフ規格仕様
  フロントライズ  : 55mm
  フロントフォール : ベッドダウンとティルトアップによる
  フロントティルト : 前後各30度  
  フロントスイング : 左右各15度 
  フロントシフト  : 左右各40mm 
  バックティルト  : 前後各20度  
  バックスイング  : 左右各20度
  最大フランジバック: 430mm
  収納時外形寸法  : 180mm(W)×180mm(H)×110mm(D) ノブ等を除く
  重量       : 2,600g

 主な仕様はマスターテヒニカ45とほとんど同じです。

 また、マスターテヒニカ45は光学距離計が装備されているモデルとそうでないモデルがありましたが、マスターテヒニカ2000は装備されていないモデルのみです。このため、本体右側面から見ると、光学距離計を取り付ける部分のカバーのようなものが廃止されているのですっきりした感じに見えます。
 なお、電子測距システム(EMS) ユニットなるものを装着すると、90~300mmのレンズでフォーカスエイドや最大で60mの測距が可能となるようですが、実際に見たことも使ったこともありません。

ボディー内にフォーカシングトラックを装備

 マスターテヒニカ2000になっていちばん大きく変わったのは、何と言ってもボディ内にフォーカシングトラックを備えたことだと思います。
 マスターテヒニカ45の場合、焦点距離が75mmより短いレンズで遠景を撮影しようとすると、レンズ繰出し量が少ないので、レンズを取り付けるUアームが可動トラックに乗りません。このため、可動トラックによるピント合わせができませんでした。

 これに対してマスターテヒニカ2000は、それまで固定式だったボディー内トラックを可動式にすることで、ボディ内トラックだけでピント合わせができるようになりました(下の写真)。

 Uアームを引っ張り出すつまみの下に小さなツマミ(フォーカシングノブ)があり、これを左右に動かすことでボディ内トラックが10数ミリ前後に動きます。短焦点レンズの場合、ピント合わせの際のレンズ移動量は少ないので、この程度の移動でも十分にピント合わせができます。
 フォーカシングノブは狭いところにあるので決して操作性が良いとは言えませんが、ベッドダウンすると操作しやすくなります。マスターテヒニカ3000になるとフォーカシングノブが本体側面に配置されているので、とても使い易いと思います。

レンズマウント部がプチ整形

 たぶん、マスターテヒニカ2000からだと思うのですが、レンズマウント部に小さな改良(?)が加えられました。レンズマウント部の上部の左右両側に、レンズボードの受けがついています(下の写真の矢印の部分)。

 この受けはレンズマウント面よりほんの僅か高くなっており、ここでレンズボードを受けるようになっています。これにより、レンズボードを下部にある2点の受けと、左右のこの2点の合計4点で受けるようになったので、レンズボードの座りが向上しています。

 一方で、新設された上部の受けは、内側にほんの少し膨らんでいます。このため、このレンズボードの受けの内側の寸法は96.35mmしかなく、従来のリンホフボードは幅が97mmあるので嵌まりません。
 このレンズボード受けの位置に切り欠きのついたレンズボードが発売されているようで、それだと問題なく装着できるのですが、私も実際に使ったことはありません。
 そこで、従来のレンズボードを装着する場合、この受けが当たる部分を少しだけ削って対応しています。レンズボードの左右のコバの一部を少々削ったところで全く問題はありませんが、あまり気分の良いものではありません。

オリジナルの蛇腹の品質がイマイチ

 これはマスターテヒニカ2000になる前から気になっていたことですが、リンホフオリジナルの蛇腹の質があまり良くないという印象を持っています。
 詳しいことはわかりませんが、交換した蛇腹を開いてみると紙の上に薄いビニールのような材質のものを貼り合わせたような構造になっています。見た目は綺麗なのですが、ピンホールができやすい気がします。
 また、表面に張ってあるビニールのような素材が収縮(経年劣化)するのか、ひび割れを起こしてきます。こうなると見た目もよろしくないので、ピンホールがなくても新しい蛇腹に交換したほうが良いと思います。

 私が使っているカメラは何度も蛇腹を交換しており、日本の職人の手による革製の蛇腹を使っています。それでも、5~6年もすると折り目のあたりにピンホールができたりしますが、オリジナルの蛇腹に比べると倍以上長持ちします。

 カメラは素晴らしいのになぜ蛇腹だけショボいのか、消耗品だからということで敢えてショボくしているのか、良くわかりませんが理解に苦しむところです。

バック部をロックする締め付けが弱い

 マスターテヒニカのバック部は、4か所のロックネジを緩めることで後方に約40mm引き出すことができます。この状態でバック部のティルトやスイングを行なうわけですが、いっぱいに引き出した状態だとロックネジを締めてもバック部が重みで少し下に下がってしまいます。

 上の写真はバック部をいっぱいに引き出し、ロックネジを締めた状態ですが、バック部が重みでわずかに下がっているのがわかると思います。

 マスターテヒニカ45ではこのようなことがなかったため、私の持っているカメラだけの現象なのかと思い、大判カメラの修理等を専門に行なわれていらっしゃる方におききしたところ、マスターテヒニカ2000になってからはどれも同じようになると言われました。
 バック部を目いっぱい引き出して使うことはまずないので撮影上の支障はありませんが、他の箇所はロックすればビクともしないのに比べると、ちょっと頼りない感じがします。

間違いなく完成度の高いカメラ

 マスターテヒニカ45と2000を比べるといくつかの違いはあるものの、いずれも完成度の高いカメラであることは間違いありません。ボディ内可動トラックを除けば操作性もほとんど同じであり、どちらのカメラを持ち出しても同じ感覚、同じ安心感で使うことができます。
 ただし、65mm以下の短焦点レンズでの撮影が多い場合は、マスターテヒニカ2000の方が便利だと思います。

 私も2台のカメラを特に使い分けているわけではありません。その日の気分で、というのが正直なところです。

(2021年7月25日)

#Linhof_MasterTechnika #リンホフマスターテヒニカ