現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管

隅田川に架かる橋 ライトアップ夜景 -吾妻橋・隅田川橋梁・駒形橋・厩橋・蔵前橋-

 隅田川は岩淵水門で荒川から分岐して東京湾にそそぐ川ですが、たくさんの橋が架かっています。東京オリンピックの開催に向けてライトアップの整備も行われたため、それぞれ、個性的な景観を見ることができます。ライトアップは日没の15分後から夜11時ごろまで行われており、今の時期は午後6時を少し回った頃からライトアップが始まります。長時間ライトアップされているので、ゆっくりと撮影することができます。
 また、川の両岸は整備された広い遊歩道が続いており、フットライトも設置されているので足元も安心です。散歩をする人、ジョギングをする人、撮影をする人等々、多くの人がいらっしゃいますが、私のようにフィルムカメラを持ち込んでも安心して撮影できる場所です。

 今回、特に橋が密集している浅草界隈でライトアップされた橋の撮影をしてきました。
 なお、今回の撮影はISO100のリバーサルフィルムを使用しました。

赤色のライトアップ 吾妻橋

 吾妻橋は、浅草駅の入り口あたりから対岸のアサヒビール本社ビルの手前あたりに架かっている橋で、隅田川に架かる橋の中では最初の鉄橋らしいです。現在の橋は1931年の開通とのことですので、90年以上が経っていることになります。
 3つの径間をもった綺麗なアーチ橋です。橋の上部に構造物がないため、明るいときに見るととてもさっぱりとしたというか、簡素な感じがしますが、品格のある美しさを感じる橋です。

 ライトアップされた吾妻橋を浅草側から撮影したのが下の写真です。

▲吾妻橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 16s PROVIA100F

 アーチ部分の鉄骨も赤色で塗装されていますし、昔は灰色だったらしいのですが、欄干部分も赤系になっていることもあり、ライトアップされると橋全体がとても華やかな印象になります。欄干の部分の照明色は季節によって変わるようで、今は桜色というかピンク色に照明されていました。
 アサヒビール本社ビルの屋上に設置されている金色のオブジェもライトアップされていて、不思議な景観を作り出しています。もう少し引いて撮ると、左の方に東京スカイツリーがあります。

 少し風のある日でしたが水面が大きく波立つほどではなく、長時間露光にもかかわらず水面に映る照明の色合いがしっかりと残ってくれました。
 いちばん手前のアーチの下が暗くなっているのがわかると思いますが、何故かここだけ照明がされていないようでした。ここも赤い鉄骨が浮かび上がると、もっと華やかな感じになったと思うのですが。

白色のライトアップ 隅田川橋梁

 吾妻橋の少し上流側にある東武伊勢崎線の隅田川橋梁と、そこに併設されているすみだリバーウォーク(遊歩道)です。
 すみだリバーウォークは朝7時から夜10時までが通行可能で、浅草の浅草寺と東京スカイツリーの間を行き来するのにとても便利です。遊歩道の床板にはガラスがはめ込まれていて、隅田川を真上から見ることができます。

▲隅田川橋梁:PENTAX67 smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 60s PROVIA100F

 隅田川橋梁は電車が通る橋なので重量級の建造物という感じがしますが、架線柱がお洒落なデザインになっていて、隅田川の風景にマッチしているように思います。
 また、この橋を渡るとすぐに浅草駅がある関係で、電車はこの橋を通るときとてもゆっくりとしたスピードになり、時には橋の上でしばらく停車していることもあります。この橋を電車が通過する景色はとても絵になります。

 橋の上部や架線柱は季節によって照明色が変わるようですし、また、イベントがあったりすると特別照明がされるようです。一方、下部の方は白い照明ですが、太い鉄骨を一層無機質な感じに照らし出します。何だか、未来都市の一部を見ているような気になります。
 架線柱の真下に見える薄緑色の光は通過する電車の窓の明かりです。右方向からゆっくりした速度で来て、左の方にある浅草駅に入っていきました。高速で通過してしまうとこんなに明るく写らないのですが、これもこの橋梁ならではの景色かも知れません。

 白い鉄骨の部分の質感が損なわれないようにするため、露出のかけ過ぎに気をつけたのですが、水面が思ったほど明るくなってくれませんでした。もう半段くらい、露出を多めにしても良かったと思います。

青色のライトアップ 駒形橋

 上野から東に延びている浅草通りに架かっている橋です。浅草側の橋のたもとに「駒形堂」というこじんまりとした観音堂がありますが、これが名前の由来のようです。橋が架かる前は渡し舟で川を渡っていたらしいです。
 橋脚の上にはバルコニーのようなものが設けられていて、中世のお城のようなデザインです。このバルコニーからは東京スカイツリーや隅田川に沿って走る首都高が良く見え、絶好の撮影スポットです。

 ちょっとレトロ感の漂う橋ですが、夜になってライトアップされると雰囲気が一変します。

▲駒形橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 16s PROVIA100F

 橋の両端のアーチは下側にありますが、中央のアーチは橋の上部に設置されていて、三つのアーチがとても綺麗な弧を描いています。橋の下側には照明がありませんが、欄干やアーチを照らす明かりがかなり明るいので、水面への映り込みもとても見事です。青系で統一された色合いはちょっと冷たい感じがするかも知れませんが、暗い背景とのコントラストは抜群に綺麗だと思います。

 隅田川は屋形船や観光船などがたくさん往来しているので、船が来るのを待ってその光跡を入れたものも撮ってみました。右から左にオレンジ色の線がスーッと入って温かみを感じるような画にはなりますが、この橋には余計な光がない方がお似合いだと思います。

薄緑色のライトアップ 厩橋

 厩橋は、駒形橋から少し下流に行ったところにある3連のアーチ橋です。「厩」という名前が示すように、この橋にはいたるところに馬のレリーフやステンドグラスなどが埋め込まれています。
 流れるような優美な曲線で構成されたアーチが特徴的で、太い鉄骨で組み上げられているにもかかわらず、柔らかな感じのする橋です。アーチ部分に大量に打ち込まれているリベットさえも景色になっているように思えます。
 橋の上を車で走ってしまうと、その橋の形などはなかなかわからないものですが、この厩橋は特徴的な3連アーチが車の中からも良くわかります。

 そんな3連アーチ橋ですが、ライトアップで優美さは更に増します。

▲厩橋:PENTAX67 smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 12s PROVIA100F

 薄緑を基調に、全体的に淡い色合いの照明がなされています。橋の形が柔らかな感じなので、あまり強い色調の照明よりもこのくらいの方が似合っていると思います。
 この写真を撮ったとき、欄干部分はパステル調の青と紫色で照明されていましたが、季節によって変えているようです。

 橋の上部に大きなアーチが三つあることで、ライトアップされると遠くからでもいちばん目を引く橋です。この写真は橋の北側(上流側)から撮っていますが、橋の下をくぐって反対側に行くと東京スカイツリーとアーチがちょうど重なる位置関係になります。
 駒形橋と同じでこの橋も橋脚部分を除いて、橋の下部の照明はありません。肉眼だともっと明るい感じなので、もう少し露光時間を長くしても良かったかもしれません。

黄色のライトアップ 蔵前橋

 厩橋から数百メートル下流に架かっている橋で、形状は吾妻橋によく似ています。稲のもみ殻をイメージさせるということで、淡黄色というか黄檗色というか、そんな感じの色で塗装されています。
 大相撲の国技館、今は両国にありますが、その前は蔵前にあったことから、橋の高欄には力士のレリーフが施されています。橋の上は障害物もなくとてもすっきりとしていて、高速道路を走っているような錯覚を感じてしまう橋です。

▲蔵前橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 24s PROVIA100F

 黄色系の照明はとても明るく感じるせいか、ライトアップされると圧倒的な存在感があります。
 アーチの下側に整然と並んで組まれている鉄骨が浮かび上がり、とても綺麗です。無機質な鉄骨の建造物でありながら、周囲の景観と見事に調和している感じです。石造りの橋脚も趣があって、控えめな照明が作り出す陰影が美しいです。

 黄色は見た目以上に明るいので、露出計任せにすると暗く写ってしまい、濁った色合いになってしまいます。特にこのような夜景では思い切って多めに露出をかけた方が綺麗に仕上がります。
 上の写真でも、弧を描いているアーチの部分はほとんど白飛びしてしまっています。中央のアーチの上部には橋の名前が書かれているのですが、これが読めるように適正な明るさにすると鉄骨の部分はかなり暗くなってしまい、橋の優美さが損なわれてしまいます。

 今回使用したISO100のフィルムは常用感度(と言っても、リバーサルフィルムで現在手に入るのはISO100とISO50の2種類しかないのですが)といえるフィルムですが、決して感度が高いというわけではありません。夜景のような撮影の際、露光時間を長くしても弱い光をとらえきることは難しく、硬い感じの写真に仕上がってしまいます。
 それはそれで気持ちの良い描写ですが、明るく表現するか、暗く表現するかは撮り手の作画意図や伝えたいものによって異なります。ですが、出来るだけたくさんの光をとらえつつも、過度な露出オーバーにならないように露出を決めたいという思いもあり、そのような写真を撮るには神経を使います。

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 今回撮影した橋のうち、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋は関東大震災の復興橋梁として架けられた9橋に含まれ、いずれも建設から90年以上が経っていますが、古臭さはまったく感じられません。むしろ、近年の建造物よりもずっとセンスがあると思います。
 さらに下流に行くといくつもの個性的な橋が架かっているので、そちらの撮影にも出かけてみたいと思っています。

 例年だと今の時期は夜になると肌寒いのですが、今年は暖かくなるのが早く、重い機材を担いで川べりを歩いていると汗ばむくらいでした。季節によって違った景観を見せてくれますが、撮影するにはいまがいちばん体への負担が少ない季節です。

(2023.3.31)

#PENTAX67 #吾妻橋 #駒形橋 #厩橋 #蔵前橋 #リバーサルフィルム #ペンタックス67

67判のポジフィルムをカバーするライトボックス用ルーペの作成

 私が主に使っているフィルムはリバーサルフィルムの中判と大判です。現像が上がったリバーサルフィルムはライトボックスで確認をするわけですが、その際、ピントやブレなどの具合を調べるためにルーペを使います。
 そのためのルーペは数個持っていますが、いずれもルーペのレンズの直径があまり大きくないので一度に見ることのできる範囲は狭く、中判や大判のフィルムを確認するためにはルーペをあちこち移動させなければなりません。これが結構なストレスになります。もちろん、大口径のルーペも販売されてはいますが驚くほど高額です。
 そこで、大判フィルムはともかく、せめて67判フィルムをカバーできるルーペをということで、家にころがっているガラクタを集めて作ってみました。

今回、作成するルーペの仕様

 私が使っている中判のサイズは圧倒的に67判が多いので 、作成するルーペの大きさとしては、このフィルムをカバーするサイズとします。「カバーする」というのは、フィルムの上にルーペを置いた状態で、ほぼフィルム全体が視野に入るということを意味します。67判の対角線長は約88mmありますから、理想は直径88mm以上のレンズということになりますが、それだとかなり大きくなってしまい、手の小さな私には持ちにくくなってしまいます。フィルムの四隅が少しカットされるのは我慢するとして、今回は直径80mm前後ということにします。

 次にルーペの高さですが、ライトボックス上にフィルムを置いたとき、どれくらいの位置から見るのが最も見易いのかをいろいろ試してみました。低すぎると上体を前に倒さなければならないので、あまり有り難くありません。かといって高すぎると、これまたルーペが巨大になってしまい、使い回しに手を焼いてしまいそうです。
 結局、ライトボックスの上面から10~15cmくらいが最も使い勝手がよろしいというのがわかったので、ルーペの高さとしてはおよそ10cmとすることにしました。

 さて、ルーペの倍率をどれくらいにするかですが、私が普段使っているルーペの倍率は約6倍と約8倍で、細部をしっかり確認するにはちょうど良いのですが、ポジ全体を見渡すには倍率が高すぎます。もう少し倍率を落とした、3~4倍あたりが使い易そうですので、今回は4倍を目安にすることにしました。

 これらの条件を満たすレンズを決めなければならないのですが、ルーペの高さから逆算すると、ライトボックス上面からレンズまでの距離が70~80mmが適当な感じです。中間値をとって75mmとして計算してみます。

 レンズの焦点距離(f)、レンズから物体(フィルム)までの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係は下の図のようになります。

 ここで、a=75mm、倍率mは4倍と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、

  b = m・a

 で求められます。
 よって、

  b = 4 x 75 = 300mm

 となります。

 次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、

  1 / a - 1 / b = 1 / f

 の関係式に各値を代入すると、

  1 / f = 1 / 75 - 1 / 300

 よって、f = 100mm となります。

 すなわち、焦点距離100mmのレンズが必要ということです。

ルーペの作成に必要なパーツ類

 焦点距離100mmのレンズというと、クローズアップレンズのNo.10がこれに相当しますが、残念ながらそんなものは持ち合わせておりません。ガラクタをあさってみたところ、直径82mmのクローズアップレンズ(No.2)が1枚と、直径77mmのクローズアップレンズ(No.2、No.3、No.3、No.4)が4枚、計5枚がでてきました。
 なぜこんなにクローズアップレンズがあるかというと、昔、35mm判カメラで接写にはまったことがあり、その時に買い集めたものが今も使われずに残っていたというものです。
 82mm径であれば大きさも問題ないのですが、No.2が1枚ではどうしようもないので、少し小さくなってしまいますが77mm径のクローズアップレンズを組み合わせて使うことにします。

 クローズアップレンズの焦点距離は以下のようになっています。

  No.2 : 500mm
  No.3 : 330mm
  No.4 : 250mm

 2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。

  1 / f = 1 / f₁ + 1 / f₂ - d / (f₁・f₂)

 この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。

 この式から、これらのクローズアップレンズを組み合わせて焦点距離100mmを作り出すには、No.3(330mm)を2枚とNo.4(250mm)を1枚、計3枚で100mmが作り出せることがわかります。厳密にはクローズアップレンズ同士の間隔ができるので少し変わってきますが、そんなに精度を求めているわけではないので良しとします。

▲今回使用したクローズアップレンズ (左からNo.4、No.3、No.3)

 また、クローズアップレンズを同じ向きで重ね合わせると像の歪みが大きくなるので、1枚をひっくり返して反対向きにする必要があります。反対向きにするとオネジ同士、またはメネジ同士が向かい合ってしまい、ネジ込みすることができなくなってしまいます。そこで、これらをつなぐアダプタを作らなければなりませんが、これは使わなくなった77mm径のフィルターの枠を2個、流用することにします。

▲アダプタ用に使用したフィルター(2枚)

 そして、ライトボックス上面からレンズまでの高さを稼ぐため、これも昔使っていた金属製のレンズフードを使うことにしました。おあつらえ向きに77mm用のフードがあったので、まさに復活という感じです。フード先端の内径が約80mmあるので67判の対角には少し足りませんが、まぁ、我慢することにしましょう。
 また、ライトブックスは下から光が照射されるのでルーペ内には外光が入らない方が望ましく、金属製のフードは打ってつけです。

▲77mmのレンズフード(金属製)

 後は、レンズまでの距離(高さ)が不足する場合、それを埋めるためのスペーサーとして、やはり使わなくなったフィルター枠を使います。

ルーペの組み立て

 組み立てと言ってもクローズアップレンズやフィルター枠をはめ込んでいくだけですが、作らなければならないのがクローズアップレンズ同士をつなぐアダプタと、レンズフード取り付けのためのアダプタです。
 まず、クローズアップレンズを向かい合わせにつなぐために、上にも書いたように77mm径のフィルターからガラスを取り外した枠を反対向きに接着剤でくっつけます。接着面は非常に狭くて接着剤だけでは強度的に心もとないので、内側にグルーガンで補強しておきます。
 接着剤がはみ出したりしてあまり綺麗でないので、表面に自動車用の絶縁テープを巻いておきます。

▲フィルター枠(2個)を貼り合わせたアダプタ

 それともう一つ、レンズフードを取付けるためにオネジをメネジに変換しなければならないので、不要になったフィルターの枠をひっくり返してレンズフードに接着しなければなりません。これも同じように接着剤でくっつけ、内側をグルーガンで補強しておきます。

 あとは下から順に、レンズフード、クローズアップレンズ(No.4)、アダプタ、クローズアップレンズ(No.3)、クローズアップレンズ(No.3)と重ねていけば完成です。
 今回使用したクローズアップレンズのNo.3のうちの1枚は枠が厚いタイプだったので問題ありませんでしたが、枠が薄いタイプだとレンズの中央部が枠よりも飛び出しているため、重ねると干渉してしまいます。その場合は、フィルター枠を1枚かませるなどして、干渉しないようにする必要があります。

 下の写真が組み上がったルーペです。

 大きさがわかるように隣にブローニーフィルムを置いてみました。
 いちばん上に乗っているのは保護用(プロテクター)フィルターですが、これもガラクタの中から出てきたので、上側のクローズアップレンズを保護するためにつけてみました。使用上はなくても何ら問題はありませんが、クローズアップレンズが傷ついたり汚れたりするのを防いでくれるという点では役に立っていると思います。
 また、ルーペの下に置いてあるのが67判のポジ原版です。四隅が少しはみ出しているのがわかると思います。

 No.10のクローズアップレンズがあれば1枚で済んだのですが、有り合わせのもので作ったのでちょっと不細工になってしまいました。フィルター名やレンズ名の刻印がたくさんあってにぎやかですが、気になるようであれば適当なクロスか何かを巻いておけば問題ないと思います。

ガラクタから作ったルーペの使い勝手

 こうして完成したルーペですが、大きさや重さは以下の通りです。

  高さ : 105.5mm
  外径 : 80mm(上側) 85mm(下側)
  重さ : 224g

 クローズアップレンズ3枚と保護フィルター1枚、金属製のフードやフィルター枠を使っているので、やはりちょっと重いという感じはします。
 また、もう少し外径が細い方が私には持ちやすいとは思いますが、十分に許容範囲内です。

 実際にライトボックス上でポジ原版を見てみると、若干、糸巻型の歪みが感じられますが気になるほどではありません。
 67判の四隅はフードによってカットされてしまいますが、それでもほぼ全体が視野に入ってくるのでルーペを移動させる必要もなく、とても便利です。
 倍率は正確にわからないのですが、たぶん4倍程度といった感じです。ピントの甘いところやブレているところなどもしっかりとわかりますから、十分な倍率だと思います。

 そして、いちばん驚いたのがポジ原版の画像がものすごく立体的に、浮き上がって見えることです。広い範囲が見えるのでそう感じるのかもしれませんが、肉眼で見たのとは別の写真を見ているような印象です。

 ピントの位置も特に問題なく、ルーペをライトボックス上に置いた状態でフィルムにピントが来ています。
 もし、ピント位置が合わないようであればフィルター枠をかませようかと思っていましたが、その必要もなさそうです。

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 ガラクタを集めて作ったので見てくれは良くありませんが、クローズアップレンズを交換したり減らしたりすれば倍率も変えることができますし、ピント位置の調整もフィルター枠などを使うことで容易に行なうことができます。実際にクローズアップレンズを1枚外し、2枚構成にしてポジ原版を見てみましたが、倍率は少し下がるものの、十分に使用できるレベルでした。
 細部をシビアに点検するときは6倍以上のルーペが必要ですが、67判をほぼ視野に入れることができるメリットは大きく、今後、活躍してくれそうです。

(2023.1.12)

#ルーペ #クローズアップレンズ #リバーサルフィルム #ライトボックス

リバーサルフィルムのラチチュードは本当に狭いのか?

 一般にリバーサルフィルム(ポジフィルム)はラチチュード(適正露光域とか露出寛容度)が狭いので露出設定がシビアだと言われています。この「狭い」というのが何と比べて狭いのかというと、カラーネガフィルムと比べて狭いと思われているふしがあるようなのですが、ちょっと違うような気がしています。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使う頻度が高く、確かに露出設定には神経を使いますが、特段、カラーネガに比べてラチチュードが狭いとは感じたことはありません。
 リバーサルフィルムを使った撮影はハードルが高いと言われることもありますが、決してそんなことはないと思っています。

カラーリバーサルとカラーネガのフィルム特性

 何故、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言われているかというと、写真としてのそもそもの使い方の違いから来ているのではないかと思います。リバーサルは現像した時点で完成形ですが、カラーネガの場合は現像しただけでは完成しておらず、プリントが前提となっています。このため、プリントの段階で調整がきくので、カラーネガはラチチュードが広いと思われているのではないかということです。
 確かにプリントの段階で調整できるのはその通りですが、これはフィルム上に大きく圧縮された画像を、コントラストの高いペーパー上に伸長させて再現することで実現しているわけです。

 残念ながらずいぶん前に終了してしまいましたが、ダイレクトプリントというサービスがあり、リバーサルフィルムから直接プリントできました。ネガフィルムからのカラープリントに比べると、プリント時の調整幅は狭く、シャドー部がつぶれがちであったりしましたが、インターネガを介してプリントするとカラーネガフィルムからのプリントに引けを取らない調子が再現できていました。
 それを考えると、カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムのラチチュードが狭いとは言い切れないのではないかと思います。

 富士フイルムから出ているデータシートからフィルムの特性グラフを参照してみました。フジカラーPRO 160 NHというネガフィルムと、フジクロームVelvia 100Fというリバーサルフィルムの比較です。

 ネガフィルムの場合、実際の被写体の明暗が反転した状態でフィルムに記録されるので、光が当たった部分が暗くなります。すなわち、グラフ上の濃度の数値が大きいということになります。逆に光が当たってない部分は明るくなるので、濃度の数値が小さくなります。
 一方、リバーサルフィルムはネガと反対ですから、光の当たった部分は濃度が低く、光の当たってない部分は濃度が高くなります。このため、グラフの傾きは、ネガとリバーサルで反対になります。

 上のグラフの横軸の相対露光量の範囲を見ると、ネガ(PRO 160 NH)はおよそ-3.6~+0.5、リバーサル(Velvia100F)はおよそ-3.4~+1.0となっていて、若干の違いはあるものの、露光量に対して画像として記録できる範囲に大きな差はありません。
 ただし、曲線の傾きがネガの方が緩やかで、リバーサルはネガに比べて傾きが大きいことがわかります。これは、ネガの方が広い露光範囲で露光量に応じた濃度が得られることを意味しています。

 また、曲線が示す最大濃度はネガが約2.7(青)に対して、リバーサルは約3.8(緑)ですから、リバーサルの方が高い濃度まで再現できることになります。しかし、リバーサルは相対露光量が-0.2くらいで曲線がフラットになってしまいますが、ネガは+0.5でもまだフラットになっていません。
 これが、ネガは露出をオーバー気味にした方が良く、リバーサルは露出をアンダー気味にした方が良いと言われている原因ではないかと思います。
 とはいえ、あくまでもフィルムの特性が示す傾向であって、意図を持った作品作りを除けば、再現性という点ではネガでもリバーサルでも適正露出で撮るのが望ましいはずです。

ポジ原版をライトボックスで見てみると..

 リバーサルフィルムの特性曲線のグラフで、相対露光量の多いところと少ないところでは曲線の傾きがなだらかになっています。これは、黒くつぶれてしまっていたり、白く飛んでしまっているように見える画像の中にもコントラストとして記録されてるということです。

 実際にリバーサルフィルムで撮影した中から、黒くつぶれているところが多いポジ原版を探してきました。ライトボックス上で撮影したのが下の写真です。

 肉眼で見たのと同じようにはいきませんが、画の右半分が真っ黒につぶれているのがわかると思います。
 まだ陽が十分に差し込む前の渓谷で撮影したものですが、黒くつぶれた右半分のさらに上半分はこの渓谷の左岸にある岩肌で、下半分は水面なのですが上の岩肌を映しこんでいて、結果、右半分が真っ黒といった状態です。肉眼で見た時には岩肌ももっと明るく見えたのですが、撮影するとこんな状態です。人間の眼のすばらしさをあらためて感じます。

 それはさておき、この写真ではほとんどわかりませんが、この黒くつぶれた中にも所どころ明るい箇所があり、何やら写っているというのが見てとれます。墨で塗りつぶしたように真っ黒というわけではなさそうです。特に右下の辺りは川底の石がぼんやりと見えるので、それなりの画像は記録されていると思われます。

黒つぶれしているポジ原版をスキャンしてみる

 では、このポジ原版をスキャンしてみます。
 特に画質調整などの加工はせず、スキャンした素のままの画像が下の写真です。

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影したものに比べると、多少は細部も認識できるとは思いますが、アンダー部が黒くつぶれているのは変わりありません。画の左半分がほぼ適正露出なのに比べると明らかにアンダーです。
 それでも、ポジを肉眼で見たのに比べると画像が記録されている印象を受けるので、どの程度のまで認識できるかをレタッチソフトで明るくしてみます。画質をあまり犠牲にしないようにして、極端に劣化されない範囲で明るくしてみたのが下の写真です。右側上部の岩の部分です。

 一見、黒くつぶれているように見えますが、実はかなりのディテールまで画像として認識できるレベルに記録されています。もちろん、この著しくアンダーな部分を救済すれば、ほぼ適正露出である左半分は大きく露出オーバーになってしまいます。ですが、黒くつぶれているとはいえ全く画像が認識できないわけではなく、それどころかかなり鮮明に記録されているといえます。
 これが黒い中にも微妙なコントラストがある、リバーサルフィルムの表現力ではないかと思います。

 特性曲線のグラフでもわかるように、相対露光量に濃度が比例する範囲は狭いかも知れませんが、その前後が画像として記録されていないわけでなく、しっかりと記録されています。
 そういう視点からすると、一概にリバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言い切ってしまうことはできないと思います。むしろ、露光量が少ない範囲においてもしっかりと記録できるパフォーマンスを持っていると言っても良いのではないかと思います。

 因みに、この写真の左半分にある木々の緑に対して、右側の黒くつぶれているように見える箇所の測光値は-3EV以上になります。

 なお、この写真の右半分があまり明るくなってしまうと重厚感がなくなり、この場の雰囲気が大きくそがれてしまいます。もう少し明るくても良かったとは思いますが、意図して撮影した範囲ではあります。

白飛びでも画像として認識できるか?

 黒つぶれとは反対に、露出オーバーで白く飛んでしまった状態でも画像として記録されているのか気になるところです。
 ポジ原版のストックを探したのですが適当なものが見つかりません。唯一、露出設定を著しく間違えて撮影したポジがありましたので、これで検証してみます。

 このポジは滝を撮影したものです。NDフィルターを装着して撮影するつもりでしたが、ピント合わせなどをした後にNDフィルターをつけるのを忘れてたか、NDフィルターはつけたが絞り込むのを忘れてシャッターを切ってしまったかのどちらかですが、いずれにしろ実にお粗末な結果と言わざるを得ません。たぶん、これだけスケスケ状態になっているので、絞り込むのを忘れていたのだろうと想像しますが、そうすると5EVほどの露出オーバーということになります。
 ポジ原版を見ても何が写っているのかよくわかりません。撮影した本人でさえわからないのですから、他人からすれば全く認識不能といったところでしょう。

 この写真の中央付近を切り出して、無理矢理に画質調整をしてみたのが下の写真です。

 岩の質感などはわかる程度にはなりましたが色調はどうしようもなく崩れており、もはや写真として成り立たないレベルです。しかしながら、真っ白に近い中にこれだけの情報が残っているというのは驚きです。
 この例は極端すぎますが、3EVくらいのオーバーであればもう少しまともな画像が得られるのではないかと思います。

リバーサルフィルムのラチチュードは決して狭くない

 リバーサルの場合は現像が上がった時点で完成ですから、今回のようにレタッチソフトで画質調整をすることに意味があるとは思いませんが、真っ黒につぶれているように見えたり真っ白に飛んでしまっているような中にも、かなりしっかりと記録されているというのは事実であり、フィルムの力だと思います。
 また、露出オーバーよりも露出アンダーの方がよりしっかりと記録されており、特性曲線と一致しています。もっともこれは、露光量が増えれば増えるほど情報が消えていってしまうので、当たり前のことと言えますが。

 リバーサルフィルムは、特性曲線が傾いている範囲がカラーネガに比べて少ないのでラチチュードが狭いと言われているのかもしれませんが、決して狭いわけではないと思います。
 黒くつぶれたり白く飛んだりしている中にも情報が記録されていることでべったとした感じにならず、良くわからないけれど何やら写っている、というような印象を受けることで写真全体の雰囲気が変わってきます。ここにフィルム独特の味わいが醸し出されているのではないかと勝手に思い込んでいます。

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 モノクロプリントやカラープリントはもちろんですが、リバーサルフィルムからのダイレクトプリントでも覆い焼きや焼き込みといった作業で色を調整したりディテールを引き出したりしていたことを考えると、リバーサルフィルムの潜在能力の凄さをあらためて感じます。
 そして、特性の違いはありますがカラーネガフィルムに比べてハードルが高いということはなく、特に構えて使うフィルムでもないと思っています。むしろ、特性を知っておくことでいろいろな使い方ができる、そういったことに応えてくれるフィルムだと思います。
 ただし、お値段はお高めですが...

(2022.6.19)

#リバーサルフィルム #露出

コンパクトフィルムカメラ コンタックス CONTAX T2

 他のページにも書きましたが、私は何年か前に35mm判カメラのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っている35mm判カメラは、CONTAX T2とフォクトレンダーBESSAMATICの2台のみです。BESSAMATICはすっかりディスプレイと化していて実際に使うことはほとんどありませんが、CONTAX T2はお散歩カメラとして、発売から四半世紀を過ぎた今でもバリバリの現役です。
 CONTAX T2にもいろいろなバリエーションがありますが、私の持っているカメラは最終型のリミテッドブラックというモデルです。

CONTAX T2の主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(CONTAX T2取扱説明書より引用)。

   レンズ      : Sonnar T*38mm F2.8 4群5枚
   シャッター    : レンズシャッター 1秒~1/500秒
   絞り目盛り   : F2.8~F16
   最短撮影距離  : 0.7m
   露出計      : SPD受光素子
   ファインダー   : 逆ガリレオ型採光式ブライトフレーム
   AF方式     : 赤外線式アクティブオートフォーカス
   フィルム感度  : ISO25~5000
   フィルム装填  : オートローディング方式
   電池      : CR123Aリチウム電池 1本
   大きさ     : 119mm x 66mm x 33mm
   重量      : 295g(電池別)

 初代のCONTAX T2が発売されたのは1990年ですが、リミテッドブラックが発売されたのは通常モデルの生産終了後の1998年で、2,000台の限定品でした。価格(メーカー希望小売価格)は他のCONTAX T2と同じく12万円という高額のカメラでした。
 直方体の中にほとんど凹凸のない状態でレンズ(収納時)やダイヤル、ボタンなどが綺麗に納まっており、それまでのコンパクトカメラとは一線を画しているという印象がありました。

 初代のCONTAX T2を目にしたとき、欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、あまりの高額に手が出せずにいました。「いつかはT2」と思いながらも時は過ぎ、やがて生産終了を迎えてしまいましたが、その後まもなくして限定品が出るというアナウンスを耳にし、これを逃したらいつかは来ないと思い、予約して購入したのがついこの間のことのようです。

 チタン製のボディに加えてファインダー窓にサファイアガラスが採用されていたり、多結晶サファイアのシャッターボタンやセラミック製のフィルム圧板、そして立派な化粧箱など、随所に高級感がちりばめられているというカメラでした。
 その当時、他メーカーのコンパクトカメラも持っていたのですが、CONTAX T2を手にしたとたん、それまでのコンパクトカメラがとてもチープに見えてしまったことを覚えています。CONTAX T2を持ち出すと何だか写欲が湧いてくるように感じたのは、その高額な価格のせいだけではないと思います。

自動とマニュアルを兼ね備えた、優れた操作性

 オートフォーカス(AF)、および自動露出(AE)に設定しておけば、あとはシャッターを押すだけで撮影ができるわけですが、マニュアル撮影もできるようになっており、この辺りもカメラ好きの心をくすぐるカメラと言えます。
 カメラ上面のダイヤルをAFポジションから解除する方向に回すと、その瞬間からマニュアルフォーカスになります。レンズの絞りもAEポジションから回すとマニュアル露出になり、少ない操作で自動/マニュアルが切り替えられるようになっていて、操作性に優れていると思います。
 また、ストロボ撮影もレンズの絞りリングで切り替えるようになっていて、いくつものスイッチやダイヤルをいじらなくても済むように考えられています。

 もちろん、一眼レフカメラのように細かな設定はできませんが、通常の撮影には全く不便を感じません。コンパクトカメラというカテゴリーに入るようですが、使っているとそれを忘れてしまいます。「高級コンパクトカメラ」という分野を築いたと言われるのも頷けます。

オートフォーカス機能が弱い?

 このカメラの唯一の弱点と言えるのかも知れませんが、オートフォーカスが弱いというか、クセがあるというか、そんな印象があります。
 狙ったところにピントが合わない、ということが時々起きます。特に、近景にピントを合わせようとしたときに起きる傾向が強いように感じます。ただし、これは個体差があるのかもしれません。

 また、マニュアルフォーカスでピント合わせをしようとしても、フォーカシングダイヤルの目盛りは非常にラフな状態だし、ファインダー内にフォーカシングインジケータがありますが、どの程度の精度があるのか良くわからないし、ということでマニュアルフォーカスはほとんど使ったことがありません。

 36枚撮りのフィルム1本の中で1~2コマのピンボケが生まれることがありますが、フレーミングの際に少し気をつけて慎重に行なえば回避できるレベルです。

カールツァイス ゾナー Sonnarレンズの描写力

 CONTAX T2に採用されているレンズはカールツァイスのSonnar T* 38mm F2.8ですが、焦点距離38mmに対して開放F値が2.8というのは特に明るいわけでもなく、レンズ構成の4群5枚を見ても特に目を引く仕様というわけではありません。
 これは個人的な感想ですが、カールツァイスのSonnarというと色ノリが良いという印象があります。当時、一眼レフ用のレンズでも何本かのSonnarを持っていましたが、Planarなどと比べるとこってりとした色合いになるように感じていました。
 実際にCONTAX T2で撮影してみた時に、やはり色のりはSonnarだと感じたのを覚えています。

 下の写真は、CONTAX T2で撮ったスリーブをライトボックスに乗せた状態で撮影したものです。

 良く晴れた日だったので、近所を散歩しながら青の景色を撮り歩いた写真ですが、色のりの良さがわかると思います。使用しているフィルムはVelvia100というリバーサルフィルムなので、もともとが鮮やかな色合いになる傾向ではありますが、Sonnarっぽさが感じられます。

 もちろん解像度も素晴らしく、一眼レフカメラで撮影したものと比べても遜色ないといった感じです。
 スリーブの中の1コマをスキャンしたのが下の写真です。

 中央の高圧線の鉄塔やケーブルはもちろんですが、手前の木々の葉っぱも非常に良く解像していると思います。順光に近い状況ということもあり、空の青や下の方の葉っぱの緑がとても鮮やかな色になっています。

 もう一枚、福島県の大内宿で撮ったものです。

 大きな民家の軒下にたくさんのお土産品が並べられており、直射日光は当たっていないので光が柔らかく回り込んでいる状況ではありますが、やはり解像度は立派だと思います。

赤が鮮やかに発色するという噂

 CONTAX T2に搭載されたSonnarは、特に赤の発色が極めて鮮やかだという話しは有名です。
 私自身はそのように感じたことはほとんどなく、どちらかというと青とか緑の発色が鮮やかだと思っていたのですが、あらためてCONTAX T2で撮影したポジを見てみると確かに赤の発色の鮮やかさは感じられます。ただし、極めて鮮やかかというと、それほどでもないというのが正直なところです。ですが、これは撮影した被写体によるところも大きいのではないかと思います。

 CONTAX T2で撮影したコマの中から、赤が鮮やかに発色しているものを物色してみました。

 日光東照宮で撮影したものですが、建物の周囲に設置されている柵がとても鮮やかに出ています。雨上がりの早朝ということで全体が落ち着いた色合いになっているのですが、確かに赤い柵だけが妙に鮮やかに感じられます。
 全体のトーンが低いので赤が目立っているのかもしれませんが、光の具合や他の被写体との組み合わせで見え方も変わってくるわけで、この噂に関する真偽のほどはわかりません。

 むしろ、私は赤よりもピンクというか肌色というか、赤よりも少し淡い色の方が綺麗に発色すると感じていました。
 ポートレートだとわかり易いと思うのですが、CONTAX T2で撮影したポートレートがないので、比較的色合いが近いと思われるものを見つけてきました。

 どこの神社でもよく見ることができる狛犬です。
 色のトーンがニュートラルグレーに近い感じだと思うのですが、とても自然な感じに描写されていると思います。赤の鮮やかな発色とは対極にあるような印象さえ受けます。
 このように、CONTAX T2の赤の発色に対して私が持っているイメージはそれほど派手なものではありません。

いま、CONTAX T2の中古価格が異常に高騰している

 ところで、昨今、中古カメラ価格が全般的に上昇しているように感じているのですが、中でもCONTAX T2の中古価格の高騰ぶりには驚かされます。
 もともとの価格(12万円)を超える中古品はざらで、中には20万円以上するものまで出回っています。もちろん、そういった価格がついているものは程度も非常に良い個体だし、金ぴかのゴールドモデルだったりするわけですが、それにしても異常とも思える状況です。
 いったい、20万円も30万円も出して誰が買うのだろうと考えてしまいます。個人で購入する方もいらっしゃるだろうし、中古カメラ販売をビジネスにしている方もいらっしゃるとは思うのですが、そのカメラの行き先が妙に気になってしまいます。

 ネットオークションなどを見ると、CONTAX T2やT3はとても綺麗で程度の良いものがたくさん出品されています。四半世紀も前のカメラが綺麗な状態でこれほどたくさん出品されているということは、大事に保管されていてあまり使われてこなかったということなのかとも思ってしまいます。
 CONTAX T2にしてもT3にしても、これまで実際に持ち歩いている人を見かけたことは非常に少ないです。もしかしたら、箱入り娘のようなカメラなのかも知れません。

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 私はこのカメラを散歩や旅行などの時に良く持ち出して他愛もないものを撮っています。購入してから24年が経ちますが、四半世紀も前のカメラということを全く感じさせません。もちろん、人によって好みがあると思いますが、私はすっきりとしたデザインがとても気に入っています。

(2022.6.12)

#CONTAX #コンタックス #リバーサルフィルム #レンズ描写

リバーサルフィルム写真はいつまで続けることができるのか?

 2022年4月1日から富士フィルムの製品が大幅に値上げされました。例えば、ベルビア50の120サイズ5本入りの価格が、つい先日までは5,800円くらいだったのが、一気に9,500円ほどになりました(いずれも新宿の大手カメラ店での店頭価格です)。60%以上の値上げ幅です。モノクロフィルムのACROSⅡも120サイズ1本が1,260円になりました。
 フィルムの需要が激減する中、製造販売を続けていくことは並大抵のことではないということは想像がつきます。富士フィルムという大企業だからこそ継続していただけているのであり、これが小さな会社であれば到底維持できなかったであろうと思います。

 とはいえ、一気に60%以上もの値上げというのは、フィルムユーザーに暗い影を落とされたように感じるのも事実です。
 記憶が定かではありませんが、今から7~8年ほど前はベルビア50の120サイズ5本入りが一箱2,500円くらいだったと思います。つまり、1本あたり、500円前後といったところです。それが今回の値上げで、1本あたりに換算すると2,000円に届かんとしています。
 また、同じ時期のリバーサルの現像料金は120サイズが1本600円くらいだったと記憶していますが、現在は1,300~1,400円くらいになっています。
 120サイズのブローニーフィルム1本の価格と現像料金を合わせると、およそ1,100円だったのが3,300円ほどに上がったということです。実に3倍です。

 コダックがE100というリバーサルフィルムを新たに製造販売を開始し、120サイズのブローニーフィルム5本入りが一箱14,700円という価格を見た時、このフィルムを買う人がいるのだろうかと思ったものでした。しかし一方で、富士フィルムの製品もこのような価格になる日が来るのではないかと思ったりもしました。
 今回、さすがに10,000円は超えませんでしたが、E100に近い価格になったのを見ると、「やっぱり」という感じが否めません。
 今回の富士フィルムの値上げは非常にインパクトが大きく、この先、フィルムや現像料金がどこまで高騰するのだろうか、そして、こんなに高くなったリバーサルフィルムを使い続けることができるのだろうかと考えると、なんだかとても暗い気持ちになります。

 コストが3倍になったら使用するフィルム量を1/3に減らせば、計算上、トータルのコストは変わらないわけです。昔のように比較的リーズナブルな価格でフィルムを購入できた時はバシバシとシャッターを切り、駄作も量産していたわけですから、つまらない写真を撮らないようにすればフィルム消費量は確かに減ると思います。
 しかし、一つの被写体をいくつかのアングルや異なる構図で撮りたい時に、それを我慢しなけれなばならないとすると、それはとてもストレスに感じます。
 無駄なものは撮らない、でも、撮りたいものは我慢しない、というメリハリが必要になってくるんだろうなぁと思います。

 とはいえ、この先もさらなる値上げが行なわれることは想像に難くなく、無駄打ちをしないように頑張ったところで限界があるような気もします。残念ながら、リバーサルフィルムはモノクロフィルムで代用というわけにはいかないので、リバーサルフィルムをあきらめざるを得ない日が来るようで、考えれば考えるほど憂鬱になってきます。
 私が買い置きしてあるフィルムはおよそ1年分くらいです。いま、冷蔵庫に入っているフィルムは、これまでと同じペースで使うと、来年の今頃には底をついてしまうことになります。一箱10,000円近くもするフィルムを買い続けることができるのか、気持ちも萎えてきてしまいます。

 新宿の大手カメラ店の店員さんが話してくれたのですが、3月の後半に富士フィルムから価格改定のアナウンスがあった直後、店頭からフィルムが消えたそうです。値上がりする前に買い置きしておこうという人が殺到したということでしょう。
 また、8×10のシートフィルムは10,000円ほど値上がりしましたが、4×5判はまだ値上がりしていないようです。値上がりする前に少し買い置きしておこうかとも思いますが、8×10の値上がり幅からすると、ブローニーほどの値上がりにはならないのでないかと楽観視しており、今のところ買い置きは踏みとどまっています。

 先のことはわかりませんし、また、いろいろ心配したところでどうなるものでもないので、可能な限りはフィルム写真を続けていこうと思います。フィルムが高騰することで一枚々々を大事に撮るようになることは肯定的にとらえるべきことかもしれません。
 しかしながら、一般庶民にとってリバーサルが手の届かない高嶺の花になりきってしまわないように願うばかりです。

 それにしても、今は亡きアスティアとかセンシア、フジクローム400、フォルティア、トレビなど、フジクロームだけでも今の何倍もの製品がラインナップされていた頃がとても懐かしいです。

(2022年4月9日)

#リバーサルフィルム #富士フイルム

縦長パノラマ写真の魅力 -6×12フィルムホルダーで撮る掛け軸写真-

 パノラマ写真を撮る頻度は決して高くありませんが、大判カメラを持ち出すときは必ずと言っても良いくらい、6×12のロールフィルムホルダーも持っていきます。
 パノラマ写真というのは、自分が撮るのも含めて圧倒的に横長が多いのですが、縦長のパノラマ写真というのは不思議な魅力があります。縦長のパノラマ写真はなかなか思うように撮れないのですが、今回は数少ない縦長パノラマ写真を何枚かご紹介したいと思います。

人間の視野角にあてはまらないフォーマット

 横に対して縦が極端(概ね2倍以上)に長い画像を見ると、最初はちょっとした違和感を感じます。理由はよくわかりませんが、縦長の画像を見た時に、視点が画像の下から上に動くのが自分でもわかります(私の場合、上から下ではなく、常に下から上に動くというのが何とも不思議です)。この、パッと見た後に、なめるように視点が上に移動することが違和感となっているのかもしれません。

 人間の眼の視野角というのは個人差がありますが、水平(左右)方向に180~200度、垂直(上下)方向に120~130度のようです。水平方向の方が垂直方向の約1.5倍も広く見ていることになり、これは比率にすると約3:2となります。つまり、人間は自然にものを見た時に、3:2のアスペクト比で画像をとらえているということのようです。35mmフィルムの一コマが36mmx24mmで、アスペクト比が3:2になっているのは偶然ではないのかも知れません。
 それはさておき、人間の眼は横長にとらえるのが自然であるならば、縦長の画像を見た時に違和感のようなものがあるのは当然のようにも思えます。

 しかし、縦長のパノラマ写真にはちょっとした新鮮さのようなものが感じられて、つい撮りたくなってしまいます。縦に細長く切り取られた画像の両サイド(左右)の外側が妙に気になったりもしますが、一方で、狭く窮屈なフォーマットの中にバランスよく収まった画像には無駄のない美しさのようなものも感じます。まさに「掛け軸写真」といった感じです。
 が、これは単純に普段見慣れている横長の画像とは異なっているからかも知れません。

縦長パノラマの構図はなかなか決めにくい

 そんな不思議な魅力を持った掛け軸写真ですが、実際に撮るとなると構図決めに結構苦労します。
 テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができれば良いのですが、自然が相手の場合はそういうわけにもいかず、横1に対して縦2のアスペクト比に収める構図を探すのが思いのほか大変、というのが私の実感です。適当に撮ると、写真の上下に無駄なものがたくさん入っていたり、左右が狭められてとても窮屈な写真に見えてしまったりします。

 例えば、広い風景などでは近景、中景、遠景がうまい具合に配置されると、全体としてまとまりもあり、奥行き感もある写真になるのですが、これがなかなか難しいです。
 また、空間の取り方も難しく、変なところに配置すると無駄な部分がとても目立ってしまいます。
 私が多用しているフィルムは4×5判や67判なので、アスペクト比はおよそ1.2:1(横:縦)ですから、縦長パノラマにこのような戸惑いを感じるのは仕方がないかも知れません。

 4×5判や67判は長年使っているので写し込める範囲が感覚的につかめるのですが、縦長のパノラマは慣れていないせいか、その感覚がイマイチしっくりときません。そのため、6×12サイズのプアマンズフレームを自作して、これを持ち歩きながら、ここはといった場所でフレームをのぞき込んで構図を確認しています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)の作例

 思うように撮れない掛け軸写真ですが、これまで撮った中から何枚かをご紹介します。いずれも大判カメラに6×12のロールフィルムホルダーを装着しての撮影です。

 まず、1枚目の写真は長野県にある八岳の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm F32 4s PROVAI100F

 多くの滝は横幅よりも高さの方が大きいので、掛け軸写真にし易い被写体と言えると思います。この滝も高さに比べて横の広がりはあまりないので、この縦長フォーマットにうまい具合に納まってくれました。
 4×5判や67判で撮るともっと横の広がりがあり、滝の周囲の環境が良くわかるのですが、このような縦長フォーマットで撮ると滝が強調され、画全体がシンプルな構成になります。
 また、滝を正面からではなく、向かって左手方向から撮っているので、画の左上から右下にかけての滝のラインが出せており、安定感も出せたのではないかと思っています。

 2枚目も同じく長野県北部にある小菅神社の参道です。

▲WISTA 45SP Schneider APO-SYMMAR 150mm F32 2s PROVAI100F

 参道の両側に大きな杉の木が立っている場所なので、これも掛け軸写真には向いている風景だと思います。杉並木が奥へと続く参道をより狭く感じさせているのと、縦長フォーマットにすることで杉の木の高さも感じられると思います。
 この写真では、できるだけ杉の木の上の方まで入れるため、カメラを上方に振っていますが、そのままだと杉の木の上部が中央に寄ってしまいます。それを防ぐため、フロントライズのアオリをかけています。

 次の写真は、埼玉県で通りがかりに偶然見つけた巨木です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W180mm F22 1/4 PROVAI100F

 木の種類(名前)はわかりませんが、まだ芽吹きの前で、朝焼けのグラデーションの中に綺麗なシルエットとなって立っていました。
 個人的には木の占める割合をもう少し少なくしたかったのが本音です。その方が掛け軸っぽくなるだろうと思います。ちょっと掛け軸写真というイメージからは外れてしまった感じです。

 さて、次の写真は栃木県の宮川渓谷で撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm F32 4s PROVAI100F

 大きな渓谷ではありませんが、奥からS字を描いている流れがとても綺麗です。左端中央あたりの流れが少しちょん切れてしまい、窮屈感が否めませんが、奥行き感はまずますといったところでしょう。もう少しだけ、短焦点のレンズを使った方が良かったかもしれません。
 滝のように高さはないのですが、奥行き感を出せれば掛け軸写真になるという感じです。
 また、手前から奥までパンフォーカスにするため、フロントティルトのアオリをかけています。

 次は、山梨県の河口湖畔から富士山と桜を撮った写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SW90mm F45 1/8 PROVAI100F

 縦長に収めるため、桜の木の真下に入って短焦点(広角)レンズで見上げるようなアングルで撮りました。富士山の占める比率を2割くらいにし、残りの8割は桜で埋めています。もう少し桜のボリュームが欲しかったところですが、そうすると花に陽が当たらず暗くなってしまうので、まばらに咲いている枝を選びました。
 富士山の下の方には河口湖の水面が見えるのですが、建物などの人工物も写ってしまうため、フレーミングから外しました。

 最後の写真は、近所の公園で撮影した桜(フゲンゾウ)のアップです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm F5.6 1/30 PROVAI100F

 この桜は八重咲で、しかも花が大きいのでとても豪華な感じがします。花は淡いピンクで、上品な色合いです。
 このように、数輪の花を縦長のフォーマットに入れると空間がたくさんできてしまいますが、そこに何かを入れるとゴチャゴチャしてしまいますし、なにも入れないと間の抜けた感じになってします。バックには別の枝があるのですが、これを目いっぱいぼかし、形はわからず、色合いだけがわずかに残るようにしました。

 このような構図の時に花の位置をどこにするか、何しろ空間が多いので非常に悩みます。結局、中央より少し下目に置いたのですが、もう少し下の方が掛け軸写真には向いていると感じています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)はディスプレイにも苦労する

 掛け軸写真でもう一つ苦労するのがディスプレイです。
 ポジ原版をライトボックスで見るだけであったり、パソコンのモニタに映すだけであれば特段問題はないのですが、プリントして額装しようとすると結構大変です。

 まずプリントですが、このようなアスペクト比の用紙などそもそもありませんから、大きな用紙の一部を使うことになります。当然、左右の余白はカットしてしまいますので非常にもったいないです。一枚の用紙に2枚の写真を並べてという方法も考えられますが、それには最低でも半切以上の大きさが欲しいですし、そうなるとプリンタの制限も生じてきます。

 そして、プリントよりも難題なのが額です。
 規格品にはあろうはずもなく、額装するのであれば特注するしかありません。特注すればどのような額でも大概は作ってもらえますが、コストは覚悟しなければなりません。
 市販品の額のマット紙だけを自作、または加工してもらう方法もありますが、マット幅が上下と左右で異なるのは格好良くありません。

 床の間にかける掛け軸のように表装するのもありかと思いましたが、写真に表装は似合わないと思います。

 ちなみに額装するとこんな感じになるのですが、こんな額に入れられるような写真を撮りたいものです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 縦長パノラマ写真、掛け軸写真はうまくいくとインパクトのある写真になりますが、時間とお金をかけて額装するほどの写真にするのが難しいというのが正直なところです。
 しかしながら、掛け軸写真はやめられそうもありませんので、これからも細々と続けていこうと思っています。

(2022年3月12日)

#ホースマン #Horseman #パノラマ写真 #リバーサルフィルム #構図

1950年代のカメラBeauty MODEL1 ビューティーモデル1で撮影してみました

 友人から送り付けられた1950年代のフォールディングカメラ「Beauty MODEL1」、修理をして一通りの動作確認はしましたが、ちゃんと撮れるのかどうか確認するため、フィルムを入れて実際に撮影してみました。最初はモノクロフィルムでと思ったのですが、色のノリ、絞りやシャッター速度等の露出精度も確認するため、ちょっともったいないと思いましたがリバーサルフィルム使うことにしました。
 結果は予想外でした。

 なお、このカメラの分解・修理についてご興味のある方はこちらの記事をご覧ください。

 「1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

撮影の前に結像することを確認

 いきなり撮影してもなにがしかの映像は写ると思いますが、フィルムを無駄にしたくないので、きちんと結像することを確認します。
 カメラの裏蓋を開け、フィルムがあたるところに乳白色のシートを貼って、レンズのシャッターを開いたときに像ができれば一応合格ということになります。
 実際に確認したのが下の写真です。

▲結像を確認するため、乳白色のシートに投影

 正確なピントまではわかりませんが、概ね、ピントは合っているようです。念のため近景でも確認しましたが、レンズの距離指標と合っているように見えますので、それほどピンボケになることはないと思われます。

 また、このカメラのピント合わせは目測で、しかもレンズの距離指標は「フィート」です。被写体までの距離を目測(もちろんメートル)で決め、およそ3倍するとフィートになりますが、目測で距離を測るということに慣れていないのでピント合わせに手間がかかりそうです。

▲ピント合わせは目測 距離目盛りは「フィート」

 フィルムの巻き上げとシャッターのチャージは独立しているので、今のカメラのようにフィルムを巻き上げないとシャッターが切れないというロック機構がありません。フィルムを巻かなくても何回でもシャッターが切れてしまうので、多重露光にならないように注意が必要です。

 フィルムの巻き上げは、裏蓋の小さな窓からフィルムの裏紙に記載されている番号(1~12)を確認して行ないます。
 因みに、このカメラは645判での撮影もできるので、その際は上側の窓を使い、1~16の番号を確認しながら巻き上げを行ないます。

▲カメラの裏蓋 66判の時は下側の窓からコマ数を確認する

予想に反してしっかりとした写りをするカメラ

 下の写真が実際に撮影したポジ原版(全12枚中の9枚)です。

▲ポジ原版 ライトボックス上で撮影

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影しているので画質は良くありませんが、意外としっかり写っているのがわかると思います。何枚か抜粋した写真はこのあと紹介しますが、まずまずのコントラストや解像度が保たれているようです。ただし、レンズのイメージサークルが小さいのでしょうか、周辺光量の落ち込みが目立ちます。

 使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100ですので、本来であればもっとくっきりとした鮮やかな発色になるのですが、60年以上前のカメラということを考慮すると健気に頑張っているという感じです。
 正直なところ、写りに関してはまったく期待をしておらず、酷い写真しか撮れないのではないかと思っていたのですが、予想に反した仕上がりに驚きです。

 ただし、ファインダーの精度は決して良くはありません。ファインダー自体は非常に単純な構造なので、覗き込む目の位置によって見える範囲がずれますし、ファインダーで見える範囲よりもだいぶ広く写るようです。写したと思ったのに周囲が欠けてしまったというよりは、多少広く写しておいた方が救済できるという判断からかも知れません。

最近のレンズと比較するのは酷だが、及第点の写り

 では、撮影したうちの何枚かをスキャンしてみましたのでご紹介します。いずれもスキャンしたままの状態で、画像の加工はしていません。

 まずは、晴天時に斜め後ろからの順光に近い状態で撮影したのが下の写真です。

▲F8 1/200

 このような条件下だと少々難ありのレンズでも比較的良好に写りますが、遊具に塗られた赤青黄の色や地面の土、生け垣の緑なども自然な感じの発色です。黄色が褪せて見えるかもしれませんが、実際にこんな感じでした。また、桜の小枝の先端も識別できるくらいですから、解像度も及第点でしょう。

 次に、近景から遠景までということで、手前に木を入れて新宿の高層ビルを撮ってみました。

▲F22 1/50

 このような構図だと周辺光量の低下が目立ちます。しかも画の中央部が最も明るいという状況なので、手前の木が黒くつぶれないようにすると新宿の高層ビルが露出オーバーになってしまいます。
 最小絞りであるF22まで絞っていますが、パンフォーカスにするには若干無理がある感じです。手前の木のディテールは損なわれますが、ピントの位置をもう少し先にもっていくと遠景がくっきりとした写真になると思います。

 もう一枚、周辺光量の落ち込みによる影響を受けている写真です。高圧線の鉄塔を見上げるアングルで撮ったものです。

▲F11 1/200

 中央の鉄塔が白く飛び気味です。もう一段絞ると鉄塔は落ち着いた色になると思いますが、手前の山茶花などはアンダーになってしまいます。やはり、このようなシチュエーションは難しいというのが正直なところですが、半世紀以上も前のカメラならではの写りと思えば、それはそれで味わい深いものです。

 下の写真は明暗差の大きな被写体ということで撮ってみました。

▲F11 1/200

 神社に奉納されたお酒の樽に陽が当たっており、そのお堂の軒下が暗く落ち込んでいる状態です。軒下はつぶれてしまうかと思いましたが、かろうじて梁のようなものが認識できます。
 やはり最も明るい酒樽のところの解像度は低下しているように見えます。

 さて、次は道路沿いにある公園にたむろしていた鳩たちです。寒いので縮こまっています。

▲F11 1/100

 中央にいる鳩までの距離は1.5mほどです。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、近距離ということもあり、まずまずの解像度が感じられます。
 また、上の1/3は暗く落ち込んでいるためにわかりませんが、下の両端を見ると光量が低下していることがわかります。

 下の写真は東京都庁の都民広場にある彫像「アダムとエヴァ」です。都民広場には全部で8体の彫像がありますが、そのうちの一つです。

▲F11 1/200

 順光ですので、彫像のディテールも結構よく出ていると思います。アダムの顔の辺りとその後方のリンゴの部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 やはりエッジのシャープさはイマイチですが、ここまで写れば文句なしというところでしょう。

 同じく都民広場の彫像の「早蕨」を背後から撮影したのが次の写真です。

▲F5.6 1/50

 彫像に直接の日差しはあたっていませんが、都庁の窓ガラスに反射した光で彫像の輪郭が青く輝いています。彫像の表情がわかるくらいまで露出をかけているので背景が非常に明るくなり、このカメラのレンズにとっては苦手な状況です。都庁にピントは合っていませんが、全体的に霞がかかったようなモヤっとした感じの描写です。

 最近のレンズと比較すると解像度は低く、エッジがシャープになっていないので画全体がふわっとした感じに写りますが、十分に撮影に使えると思います。逆光気味の条件下では厳しい感じですが、その辺りを理解して光の入り方に注意すればひどい状態になるのは避けられます。
 また、レンズのコーティングも今のレンズと全く違うのは明らかで、前玉をのぞき込んだ時、深みのある吸い込まれそうな色合いがありませんので、その影響も大きいと思います。

 なお、距離合わせが目測のため、ピントが甘くなっている可能性もありますのでご承知おきください。

60年以上経っているが十分に使えるカメラ

 今回の試し撮りでは単体露出計を使って露出を設定しました。特に露出オーバーとか露出アンダーということもなく、ほぼ設定どおりの露出で撮影できているので、シャッター速度も絞りも問題なく、正常に機能していると思います。
 また、蛇腹を修復していますが、蛇腹からの光線漏れや裏蓋周辺からの光線漏れも生じていないようです。このカメラ、裏蓋の周辺にはモルトはまったく使われていません。モルトをべたべたと貼り付けて光線漏れを防いでいるよりも個人的には好ましく思います。

 発売から60年以上が経っていますが、手入れをしていけばまだまだ十分に使えそうです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 疑心暗鬼で行なった試し撮りですが予想もしていない結果となり、ささやかな満足感とともにほっとした気持ちです。スローな写真ライフを楽しむにはうってつけのカメラかも知れません。
 きちんと写ることも確認もできたので、カメラは本来の持ち主のところに戻っていきました。

(2022年1月19日)

#スプリングカメラ #中古カメラ #リバーサルフィルム

現像済みのフィルムの経年劣化と保管

 フィルムを使っていると、撮影前のフィルムの保管、撮影後から現像するまでの保管、そして現像後のフィルムの保管と、常に「保管」をどうするかということがついて回ります。
 フィルムをデータ化されている方も多いと思いますが、やはり、せっかく撮った写真をフィルムの状態で残しておきたいというのが正直な気持ちです。
 そこで今回は、現像後のフィルムの経年劣化や保管方法について触れてみたいと思います。

ビネガーシンドローム

 ネガにしてもリバーサルにしても現像後のフィルムというのは、スリーブに入ったまま箱などに放り込まれ、長年にわたってそのままの状態で保管されっぱなしということが多いのではないかと思います。いったんプリントしたり電子化したりした写真のネガやポジはそれほど頻繁に使うものではないので、以降は日の目を見る機会が非常に少なくなります。
 ある日、ふと思いついたように現像済みのフィルムを保管しておいた箱を開けてみたら、ツーンとする酢のような臭いがしたという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。

 これは一般に「ビネガーシンドローム」と呼ばれており、フィルムが高温多湿の密閉された状態に長期間置かれていたことによる劣化で、フィルムのベース素材が空気中の水分と結びついて変質(加水分解)していく現象と言われています。
 初期の段階は酢のような臭い(酢酸臭)だけですが、進行するとフィルム表面がべとつきはじめ、さらに進行するとフィルムがワカメのように波打ったりカールしたりしてしまいます。
 ビネガーシンドロームが一度起きてしまうと、修復することはもちろん、完全に進行を止めることもできません。
 保管してある箱を開けただけでは臭いがわからなくても、スリーブからフィルムを抜き出して鼻を近づけたときに、ふんわりと酢の臭いがしたら、既にビネガーシンドロームが始まっている証拠です。

 このビネガーシンドロームは、セルローストリアセテートという素材で作られたフィルムに起きる現象のようで、ポリエステル製のフィルムでは発生しないようです。
 富士フィルムのデータシートを調べてみたところ、カラーネガ、モノクロ、リバーサルのいずれも35mmフィルム、およびブローニー(120、220)フィルムはセルローストリアセテートが使用されており、シートフィルム(4×5、8×10)に関してはポリエステル素材を使用しているとのことでした。
 すなわち、シートフィルム以外はビネガーシンドロームの呪縛からは逃れられないということになります。

退色と黄変

 ビネガーシンドロームと同じくらい避けがたい経年劣化が「退色」と「黄変」です。
 退色は色が抜けていってしまう現象で、退色前と比べるとずいぶんあっさりした色合いになってしまいます。ネガは見ただけではわかりにくいですが、プリントすると良くわかります。

 下の写真はおよそ35年前にカラーネガフィルム(フジカラー)で撮ったものですが、退色してしまった例です。

▲退色の例 カラーネガフィルムにて撮影

 モノクロ写真ではないかと思えるほど、あっさりした色になってしまっています。退色前のものと比較するまでもなく、誰が見ても退色しているのは明らかです。

 そして、退色よりも発生頻度が高いのではないかと思われるのが黄変です。黄変も退色の一つかもしれませんが、画全体、もしくは一部分が黄色く変色してしまう現象です。青が抜けて(退色)しまうことで黄色くなってしまうようですが、ネガを見ただけではわからず、プリントしたりスキャンして初めて黄変に気がつくことが多いです。

 同じく、およそ35年前にカラーネガフィルムで撮った写真ですが、見事なまでに黄変しています。

▲黄変の例(1)  カラーネガフィルムにて撮影

 青い色が抜けてしまい、補色となるなる黄色が目立ってくるのだと思います。
 また、同じころに撮影したものでも、あまり黄変が生じていないスリーブもあります。スリーブによって出たりでなかったりしているので、フィルムの違いとか現像処理の影響とかがあるのかもしれません。

 黄変がそれほど感じられない写真でも、拡大してみると黄変が発生しているものもたくさんあります。
 下の写真はパッと見では比較的黄変は少なく感じます。

▲黄変の例(2)  カラーネガフィルムにて撮影

 しかし、上の空の部分を拡大してみると、こんな感じです。

▲黄変の例(2) の部分拡大

 斑点のように黄色が広がっているのがわかると思います。たぶん、あと何年かすると真っ黄色になってしまうと思われます。

リバーサルフィルムは退色に強い

 カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムは退色や黄変に対して非常に強い印象です。
 下の写真は36年前にリバーサルフィルム(フジクローム)で撮影したものです。

▲リバーサルフィルムにて撮影

 若干の退色は認められますが、変色はほとんど感じられません。
 保管条件はほとんど同じですので、リバーサルフィルムの方がはるかに劣化に対する耐性が強いのがわかります。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使うことが多いのですが、カラーネガのように退色や変色で手に負えなくなったということがありません。

私流、フィルム劣化の防止と保管方法

 残念ながらフィルムの経年劣化を完全に防止することは不可能と思われます。一説には冷凍保存すれば良いという話しもあります。確かに、何十万年も前に死んだマンモスが永久凍土から発見された例があるくらいなので、フィルムも冷凍保存すれば劣化は防げるかもしれませんが、再利用することはあきらめねばなりません。

 しかし、ビネガーシンドロームにしろ退色にしろ、進行を遅らせることはある程度可能だと思います。高温と高湿と光をどれだけ防ぐことができるかによって、劣化の速度はずいぶん変わるといわれていますので、冷凍保存とは言わないまでも、冷蔵庫で保存することができればかなり効果的だとは思います。しかし、保管するフィルム量が多くなると個人でそれを行なうのは結構ハードルが高いと思います。

 また、日の当たらない、比較的涼しい場所で保管することは大切ですが、スリーブに入れっぱなしというのはあまり好ましくないと思っています。特に、ビネガーシンドロームを発症している状態だと、フィルムとスリーブがくっついてしまい、使い物にならなくなってしまう可能性があります。

 私は、重要なフィルムについてはスリーブを使わず、中性紙に挟んで保管しています。「ピュアガード」という製品名で販売されている中性紙があるのですが、これをフィルムの幅に切り、蛇腹状に折って、ここにフィルムを挟んでいます。
 下の写真はブローニーフィルムの例です。

▲中性紙を用いたフィルムの保管(ブローニーフィルム)
▲ピュアガード

 これを同じく中性紙で作られた箱に入れて保管しています。
 ビネガーシンドロームの予防には通気性も重要だと言われていますので、スリーブのようにフィルムと密着することもなく、通気性も多少は改善されると思います。
 そして、普通に市販されているキャビネット(金属製)に入れておくだけですが、キャビネットの天井にパソコンに使われているような冷却ファンを2個、取り付けてあります。これでキャビネット内の空気を常に入れ替えるようにしています。キャビネット内には光が入らないので、フィルムを入れた箱には蓋をしてありません。

 この方法でどれくらいの効果があるのか、定量的なデータは持ち合わせておりませんが、いま手元にある最も昔に撮影したフィルムを見る限り、退色はあるものの、ワカメ状態になっているものやカールしているものは確認されていません。ただし、鼻を近づけるとわずかに酢の臭いがするものがあります。やはり、ビネガーシンドロームは進行していると思われます。
 因みにいちばん古いのはカラーネガフィルムで、1983年4月の撮影ですから、今から38年前ということになります。

 それでは、何年くらいすると酢の臭いがしてくるのか、保管してあるカラーネガフィルムを一年ごとに遡って臭いをかいでみました。
 その結果、2002年6月に撮影したフィルムからかすかに酢の臭いが感じられました。今から19年前になります。これがさらに5年ほど遡る(24年前)と、酢の臭いはだいぶはっきりとしてきます。

 一方、リバーサルフィルムからは酢の臭いがしません。手元にあるリバーサルフィルムで最も古いのが37年前に撮影したものです。
 富士フィルムの資料を見る限り、フィルムベースの素材はネガフィルムと同じセルローストリアセテートですので、同様にビネガーシンドロームが起きると思われるのですが、不思議です。
 なお、私の嗅覚は「並」だと思います。念のため。

ビネガーシンドロームと退色の修復

 ビネガーシンドロームでカールしたりワカメ状になったフィルムは、80度くらいの温度をかけながら加圧することでフィルムから水分を除去し、平面性を保つことができるという事例があるようです。まるでアイロンをかけるようですが、私は実際に試したことはありません。興味のある方は検索してみてください。
 カールしている程度なら直るかも知れませんが、ワカメ状になっていたり、フィルムベースが傷んでしまっているような場合、修復は無理ではないかと思います。

 また、退色や変色については、フィルム上で色を取り戻すことは不可能ですが、スキャンしてデータ化した後にレタッチソフト等である程度復元することはできます。しかし、これは私も何度かやったことはありますが、やり方が下手なのか、やはり色が不自然になってしまい好ましい結果は得られません。特に黄変してしまったネガは手に負えないといった感じです。

 フィルムが劣化する前にデータ化しておくのが最も効果的な方法かもしれませんが、これまでに撮りためた膨大な量のフィルムをすべてデータ化するとなると、まさにライフワークになってしまいそうです。
 さらに、データが壊れたり消えたりしたときの対策まで考えると、これまた大変な作業になりそうです。

 修復については機会があれば別途掲載したいと思います。

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 今回ご紹介した保管方法は一般的に認証されているわけでもなく、あくまでも個人的に試みている方法であり、その効果性については不明です。効果を定量的に測定するためには比較が必要ですが、近いうちに保管条件を変えた実験をしてみたいと思います。ただし、結果が出るまでに何年もかかると思われますので、ご紹介できるかどうか..

(2021年8月16日)

#カラーネガフィルム #リバーサルフィルム #保管

カラーリバーサル 1コマあたりのコストはこんなに高い!

 私が写す被写体は風景が多く、使うフィルムの中で圧倒的に使用頻度が高いのがカラーリバーサルフィルムです。以前はリバーサルフィルムの種類も豊富でしたが、今では5本の指で余るくらいに銘柄が減ってしまいました。
 追い打ちをかけるように近年、フィルム自体の価格が高騰し、現像料金も驚くほど高くなりました。モノクロは自家現像するのですが、カラーリバーサルは何度やってもラボに依頼したようなきれいな色が出ないので、料金が高くても依頼することになってしまいます。

 実際に、カラーリバーサルで撮影した場合、いかほどの費用が掛かっているのか、今更ながらですが、リバーサルフィルムの中でも特に良く使用する富士フイルムの「PROVIA 100F」について調べてみました。なお、記載の金額は2021年7月時点のものです。カメラ店によって多少の違いはあるかも知れませんが、私が良く利用している大手カメラ店での金額を採用しています。

▲ 左上:67判  右上:4×5判  下:135

 現在、PROVIA 100Fには135(35mm)、120(ブローニー)、4×5、8×10の4種類がラインナップされています。
 まず、フィルム自体の価格は以下の通りです。いずれも最小販売単位の実売価格です。

  ・135-36(36枚撮り)  1,760円/本
  ・120(5本パック)   5,550円/箱
  ・4×5(20枚入り)   13,900円/箱
  ・8×10(20枚入り)   53,350円/箱

 これを1コマあたりにすると以下のようになります。120フィルムについては67判で1本あたり10コマということで計算しています。

  ・135-36(36枚撮り)   48.9円/枚
  ・120(5本パック)    111.0円/枚
  ・4×5(20枚入り)    695.0円/枚
  ・8×10(20枚入り)   2,667.5円/枚

 そして、ここに以下のような現像料金がかかってきます。135と120は1本、4×5と8×10は1枚が最小現像単位になります。

  ・135-36    1,493円/本
  ・120      1,313円/本
  ・4×5      377円/枚
  ・8×10    1,609円/枚

 現像料金もフィルムの価格と同様に1コマあたりにすると、

  ・135-36    41.5円/枚
  ・120    131.3円/枚
  ・4×5    377.0円/枚
  ・8×10   1,609.0円/枚

 となります。

 よって、フィルムの価格と現像料金を合わせた1コマあたりのコストは以下のようになります。

  ・135-36   90.4円/枚
  ・120    242.3円/枚
  ・4×5   1,072.0円/枚
  ・8×10  4,276.5円/枚

 
 なんと、35mmフィルムでさえ、1コマあたり90円以上という高額です(135の36枚撮りフィルムは37枚撮れるので、もう少し安くなるというご意見もあるかも知れませんが)。
 正確なことはわかりませんが、まだフィルムの需要がそこそこ高く、銀塩全体が元気だった頃(たぶん、7~8年前)に比べると、2倍以上のコストになっていると思われます。

 フィルムサイズが大きくなるとそれに伴って高額になるのは理にかなっていますが、1コマあたりの価格比と有効面積比をみてみると以下のようになります。いずれも135フィルムを1としたときの比率です。

       <価格比> <面積比>
  ・135-36    1      1
  ・120      2.68    4.47
  ・4×5     11.86    13.06
  ・8×10    47.31    54.28

 こうしてみると、面積あたりのコストパフォーマンスが最も高いのが120フィルムということになります。

 と、ここまでは簡単な計算で求められるのですが、ここからが本題になります。
 これは私の経験によるものなので、一般的に通用するかどうかはわかりませんが、という前提で進めさせていただきます。あらかじめご承知おきください。

 フィルムを使った撮影の場合、たとえ失敗であってもフィルムにしっかりと記録され、確実に1コマを消費してしまいます。デジカメのように失敗したものをなかったことにしてしまうわけにはいきません。例えば135の36枚撮りフィルムを使った場合、失敗作でも1コマで90円以上の費用がぶっ飛んでしまいます。8×10に至っては4枚の千円札に侍従までついて、いずれも羽が生えて飛んでいくという悲惨な結果です。

 そう考えると、上で1コマあたりのコストを単純計算しましたが、失敗作や保存しておく価値のない駄作などを差し引いて、最終的に残ったコマ数で算出するのが正しいコストの出し方ではないかと思うわけであります。仮に、36枚撮ったうち10枚が失敗作で、残す価値のあるものが26枚だったとすると、1コマあたりのコストは36で割るのではなく26で割るべきです。そうすると、1コマあたり90円ではなく、125円ほどに跳ね上がることになります。
 もちろん、失敗作だろうが駄作だろうが、大切に残しておきたいということであれば話しは別です。ですが、私の場合、失敗作や駄作は廃棄してしまうのでコストに跳ね返ってきます。

 では、実際に失敗作や駄作がどれくらい発生するかということですが、保管してある撮影済みのポジを少し調べてみました。どれくらいの廃棄が出ているか、ある程度は感覚的にわかってはいましたが、あらためて調べてみたところ、135フィルムで約59%、120フィルムで約11%、4×5フィルムで約3%が廃棄されていました。8×10は撮影枚数が少なすぎてデータが取れませんでした。因みに私の場合、失敗作より駄作の方が圧倒的に多いです。

 廃棄されずに手元に残った枚数で1コマあたりのコストを割り出してみると、

  ・135-36   約221円/枚
  ・120     約272円/枚
  ・4×5   約1,105円/枚
  ・8×10    —

 となります。

 こうしてデータを見てみると、135フィルムではいかに無駄なシャッターを切っていたかということがわかります。結果的に2.4倍ものコストがかかっており、120フィルムのコストに迫る勢いです。
 露出を大幅に間違えたり意図しないブレが生じたりという失敗作はともかく、一応、写真として成立しているものを駄作とするかどうかは本人の主観の問題ですが、あまり考えずにシャッターを切っていたということが歴然としています。
 一方、120や4×5フィルムになると、廃棄に回る数はずいぶん減少します。失敗作が出ないわけではありませんが、35mmフィルムに比べると、コストの上昇率はかなり低く抑えられています。

 こうした結果になる理由はいくつかありますが、まず、中判や大判はそもそものコストが高いので、ここと決めたもの以外はほとんど撮らないということが挙げられます。撮るべき対象物をしっかり見定めて、頭の中で画を組み立てるということをするので、あまり考えずに撮るということがありません。
 また、中判カメラや大判カメラは撮影までの手間がかかるので、画作りにも神経が行き届くという感じがします。特に大判カメラの場合は一発勝負というところがあるので、構図決めにしてもピント合わせにしても露出設定にしても、とにかく慎重に行ないます。
 結果、失敗作や駄作の減少につながるのだと思います。

 しかしながら、35mmフィルムのようにたくさん撮った中から最高のものを選ぶ、ということがなかなかできません。そんなことを中判や大判でやった日にはコストがどれくらいかかるか分かったものではありませんし、何よりもそんなに大量に撮れるほどの機動性がありません。

 まぁ、所詮は自己満足の世界かも知れませんが、中判や大判には写真を撮ったという実感があることも事実です。

 撮影スタイルは人それぞれですから、一枚を大切に撮る人もいれば、瞬間を逃さないためにたくさん撮る人もいると思いますが、私の場合、使用するカメラ、というよりは使用するフィルムのサイズによって無意識のうちに撮影のスタイルが変わっているということです。
 シャッターを切るごとに頭の中で「チャリーン」と音がして、コストが積み上げられていくわけではありませんし、これはと思った被写体に対してはコストのことなど全く無視して撮り続けます。常にコストを気にしながら撮るなどということはしたくありません。

 ですが、こうして1コマあたりのコストをはじき出してみると、つくづく「高いなぁ」と思います。写真に限ったことではありませんが、コストがかかりすぎると控えようと思うのは人間の常です。無い袖は振れないと言いますから仕方のないことですが、これ以上、フィルムの価格も現像料金も上がらないことを願うばかりです。

 それならデジタルにすればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、フィルムに拘っている時代錯誤野郎の独り言と聞き流してください。

(2021年8月7日)

#リバーサルフィルム