富士フイルムのリバーサルフィルム フジクロームの系譜に思うこと ~回顧~

#PROVIA #Velvia #プロビア #ベルビア #リバーサルフィルム #富士フイルム

ずっと欲しかったコンパクトフィルムカメラ コニカ KONICA C35 Flash matic をゲット

 半年ほど前(2023年4月)、「いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~」というタイトルのページを書きましたが、その中の一つ、コニカ KONICA C35 Flash matic というコンパクトフィルムカメラを手に入れました。小さくて、とても愛嬌のあるフォルムが気に入っていて、ずっと以前から欲しい欲しいと思っていたカメラでした。
 今回、フィルム2本(カラーネガとリバーサル各1本)で試し撮りをしてみましたので、その使い勝手とともにご紹介したいと思います。

大手ネットオークションサイトで購入

 このカメラをネットオークションサイトで検索すると、かなりの件数(台数)がヒットします。そのほとんどは5,000円~15,000円くらいの範囲におさまっています。まれに3,000円という安いものや、20,000円を超えるようなお高いものも出品されていますが、やはり安いものはそれなりに理由があるもので、正常に動作するかどうかわからなかったり、かなり傷みがあるものだったりしています。

 1ヶ月ほど前、ビールを飲みながらオークションサイトを物色していた際、このカメラが目に留まり、欲しいという欲望が再び頭を持ち上げてきました。レンズを探す目的でオークションサイトを見ていたのですが、それはどこへやら行ってしまい、ひたすら KONICA C35 を探す羽目に。
 結局、数ある中から私が選んだのは8,000円という値がついていたものです。当然、通常使用による細かな傷などはあるものの、全体的にはかなり綺麗な状態を保っている感じで、一通りの動作もすると書かれていました。掲載された写真だけではわからないこともたくさんありますが、ある程度の割り切りも必要と思い、アルコールが入っていた勢いもあり、ぽちっとしてしまいました。
 他に入札する人もいなかったようで、2時間ほど後に「落札」のメールが届きました。

 その翌々日、早くも宅配便で KONICA C35 が届きました。
 掲載されていた写真の通り、かなり綺麗な状態の個体です。汚れもほとんど見当たりませんが、念のため、アルコールで清掃をします。
 その後、一通りの動作確認を行ないましたが特に問題になるようなところは見当たらず、たぶん問題なく使えるだろうとの感触を得ました。

こんな仕様で、こんな使い勝手のカメラ

 ネットで検索したところ、当時の取扱説明書が見つかりましたので、そこから主な部分を抜粋したのが下の仕様です。

  ・レンズ : HEXANON 38mm 1:2.8 3郡4枚
  ・撮影距離 :約1m~∞
  ・露出調整 : CdSによる自動露出
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.46倍
  ・距離計 : 二重像合致式
  ・シャッター : B ・ 1/30~1/650
  ・セルフタイマー : 約10秒
  ・フィルム感度設定 : ASA25~ASA400 
  ・フラッシュ対応 : GN 7~56
  ・電池 : 1.3v 水銀電池
  ・サイズ : 112mm x 70mm x 52mm
  ・重さ : 380g

 電池とフィルムを入れ、フィルム感度を設定した後は、実際に操作するのは距離合わせのピントリングのみという、実にシンプルなカメラです。
 フィルム感度も「ISO」ではなく、今となっては懐かしい「ASA」となっているところが何ともレトロさを感じます。

 フィルムの巻き上げ角は約132度で、右手の親指がちょうどカメラの右側面に行ったところで止まるので、指に負担なく巻き上げができる感じです。しかも、巻き上げ後のレバーは約30度引き出された位置で停止するので、次の巻き上げがとても楽です。
 ピント合わせのヘリコイドの回転角は約48度。少ない回転角でピント合わせができるので、最短距離から無限遠までリングを持ち変える必要がありません。
 ファインダー内の二重像合致式は視認性も良く、ピント合わせはし易い方だと思いますが、縦のラインがないと使いにくいです。

 ファインダー内には露出を示す目盛りと指針があり、露出オーバーなのか露出アンダーなのかがわかるようになっています。これを見て不思議に思ったのですが、シャッター速度と絞りの値が互いに固定されており、明るさに応じて露出計の針は動くものの、これではシャッター速度と絞り値の組合せが変化しないということです。
 どうやらこのカメラは、シャッター速度と絞りの組合せがあらかじめ決まっていて、その範囲だけで露光しているようです。
 シャッター速度が変化しているのかどうか気になったので、シャッター速度を計測してみました。
 その結果、露出計の受光部分を指で覆った場合、約1/30秒で切れていました。また、受光部分にLEDライトをあてて計測したところ、最速で約1/500秒という値が得られました。1/650秒という高速シャッターは確認できませんでしたが、たぶん、もっと強い光を当てればその速度で切れるのでしょう。ということで、精度はわかりませんが、明るさに応じてシャッター速度が変化しているのは確実なようです。

 また、ファインダー内の指標によると、このカメラの露出範囲はF2.8 1/30秒から、概ねF14 1/650秒までと読み取れます。これをEV値にするとEV8(ISO100)~約EV17(ISO100)に相当します。つまり、約9段分の露出範囲を持っていることになります。シャッター速度の変化で約4.5段分を対応し、絞りの変化で残りの約4.5段に対応していることになります。今のカメラのように複雑な露出の組合せをすることなく、極めてシンプルな方法で露出調整を行っているカメラという印象です。

 試しに電池を抜いて確認してみました。電池がなくてもシャッターは切れますが、シャッター速度は1/30秒固定のままです。また、絞り羽も開放のまま変化しません。

カラーネガフィルムでの撮影例

 実際にカラーネガフィルムを装填して撮影した写真を何枚かご紹介します。
 使用したフィルムは富士フイルムのフジカラー SUPERIA PREMIUM 400です。
 なお、カラーネガフィルムで撮影したものをスキャナで読み取っているので、フィルム上に記録された状態が比較的忠実に再現されていると思います。同時プリントしてもらうとプリントの段階でかなり補正がかかるので、ここで掲載した写真よりもかなり綺麗に仕上がると思います。 

 まず1枚目は地下鉄丸ノ内線の車両基地の写真です。

 この車両基地は道路から見下ろせる場所にあり、道路脇にはフェンスが張られていますが、その網の間にレンズを置いて撮ったものです。
 薄曇りの日なので全体に光が回っていて、コントラストはあまり高くない状態です。露出は1段くらいオーバー気味の感じです。
 ピントは画の中央部付近にある赤い車両の丸窓の辺りに合わせています。画の下側に写っている有刺鉄線や金網もはっきりとわかる状態ですし、線路に敷かれた砕石の質感も良くわかるので、解像度はまずまずといったところでしょうか。
 全体にマゼンタ系に寄っている印象があり、これはカメラというよりはフィルムによるものと思われますが、私はカラーネガフィルムを使うことがほとんどないのでその特性については疎いのではっきりとはわかりません。ですが、カラーネガの場合、この程度のカラーバランスはプリント時にいくらでも調整が効くので、特に問題になるほどではないと思います。

 2枚目は近所の公園で撮影した紅葉の写真です。

 紅葉したカエデの木の下から、頭上に伸びる枝を逆光になる位置から撮影しています。
 光が葉っぱを透過することで紅葉はとても綺麗ですが、これもやはり露出オーバーといった感じです。飽和してしまっているようにも見受けられ、葉っぱの質感も損なわれてしまっています。やはり、このようなシチュエーションでは少し厳しいのかも知れません。
 とはいえ、すべてカメラ任せでシャッターを押すだけでここまで撮れるのですから、良しとせねばなりません。

 次は、散歩の途中で見つけた河童のオブジェです。

 今にも雨が降り出しそうなどんよりとした日だったので、実際にはこの写真よりももっと暗い感じです。そのため、絞りは開放かそれに近い状態だったのではないかと思われ、歩道脇の石垣や奥の方はピントから外れています。
 画全体が低コントラストの中で河童の下の石だけがかなり明るい状態で白飛びしてしまっていますが、河童とのコントラストという点では効果的に働いているようにも思えます。
 この写真もわずかにマゼンタに寄っている感じを受けます。

 さて、4枚目の写真は近所の公園で日向ぼっこしている野良猫です。

 太陽に背中を向けて、気持ちよさそうにしています。
 周囲は枯葉があったり木の影が落ちていたりして、野良猫の白い毛の部分とのコントラストが大きすぎ、さすがにこのような状態をカメラ任せというのは厳しい感じです。それでも、カラーネガフィルムならではの柔らかさで救われているところもありますが、やはり硬調気味に仕上がっています。
 白い毛の部分は飛んでいますが、背中の茶色い毛の部分は毛並もはっきりとわかるくらいに解像しています。さすが、ヘキサノンという感じです。

 カラーネガフィルムで撮影した5枚目は居酒屋で撮影した写真です。

 店内の鴨居につるされた提灯や、天井から下がっている電球がとても印象的でした。壁に貼ってあるポスターも、レプリカかも知れませんが時代を感じさせるようなものばかりで、思わずシャッター切った一枚です。提灯がたくさんあるといえ、昼間の屋外のように明るい状態ではないので、果たしてうまく写るかどうか気にはなりましたし、全体が暗いので提灯や電球が真っ白に飛んでしまうかとも思いましたが、予想以上に良く写ってくれました。レンズの上側についている小さな露出計ですが、良い働きをしてくれています。
 左下のメニューの文字も何となく読めるのは、ISO400のフィルムのお陰でしょう。

カラーリバーサルフィルムでの撮影例

 せっかくの試し撮りなのでリバーサルフィルムでもということで、冷蔵庫に残っていた富士フイルムのPROVIA 100F で撮影してみました。ちなみに、このフィルムは使用期限を1年ほど過ぎていました。

 まず1枚目は、日本民家園で撮影したものです。

 さすがリバーサル、といった色合いです。
 緑やグレー、茶といった色合いが多いので露出合わせはし易い状況だと思いますが、露出は1段以上オーバーという感じです。マニュアル露出で撮影するときのことを考えると、合掌造りの屋根の質感をもっと出すために1.3段、もしくは1.5段くらいは露出を切り詰めると思います。そうすると、手前のススキももっと落ち着いた色合いになるはずですが、自動露出なのであまり文句は言えません。
 解像度も概ね良好で、掲載した画像ではわかりにくいですが、ススキの穂先や合掌造り背後の木の葉先もはっきりとわかるくらいです。

 もう一枚は、散歩の途中で通りかかった神社で撮影した写真です。

 最短撮影距離に近い位置から撮影しています。ピント位置が適切ではありませんが、この被写体の場合、これくらい露出がオーバーになってもさほど気にならない感じです。実際にはもっと薄暗い感じでしたが、明るめに写ることで良い感じに仕上がったかも知れません。左側からの光に金色に輝く柄杓がやはり飛び気味ですが、かろうじて木の質感も残っています。
 かなり近寄って撮影しているので被写界深度も浅くなっており、ボケ具合も大きくはありませんが、クセのない素直なボケ方だと思います。もう少しボケて欲しいと思いますが、38mmという焦点距離を考えるとこんなところでしょうか。
 ポイントとなる柄杓の色をもっと落ち着かせたいというのが本音ですが、マニュアル設定できないカメラの限界かも知れません。

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 ずっと以前から欲しいと思っていたカメラで、その理由は性能とか写りとかではなく、その可愛らしいフォルムが魅力だったのですが、実際に使ってみて想像以上に素晴らしいカメラだというのが正直な感想です。もちろん、最近の高性能のカメラやレンズと比べるのは酷ですが、50年以上経った今でも十分に使えるカメラです。

 今回、カラーネガフィルムとリバーサルフィルムをそれぞれ1本ずつ使ってみましたが、露出は1段、もしくは1.3段くらいオーバーになる傾向のようです。しかしながら、露出条件のかなり厳しい状況でなければ問題なく使えると思いますし、カラーネガフィルムを使うのであればプリントの段階で補正が効くので全く問題のないレベルだと思います。露出計の精度や露出コントロールも優れているという印象です。微妙な露出調整はできませんが、面倒なことは考えず、お手軽に撮影できるカメラとしても十分に使えると思います。

 それにしても、見れば見るほど可愛らしいカメラです。撮ることが楽しくなるカメラ、眺めているだけで何だか笑みがこぼれてくるカメラというのはこういうカメラのことかも知れません。

 (2023.11.27)

#KONICA_C35 #コニカ #カラーネガフィルム #リバーサルフィルム

撮影済みフィルムのデータ化と保存について思うこと  ~フィルムの保存は永遠の課題~

 「フィルムは生もの」という表現を聞くことがありますが、これはどちらかというと使用前のフィルムのことを指していることが多いと思われます。フィルムには使用期限が決められており、それを過ぎるとどんどん劣化していってしまうという意味で「生もの」という表現をしているのだろうと思います。確かに、使用期限を大幅に過ぎてしまうと感度の低下や発色不良などが生じてしまうことがあります。
 同様に、撮影済み、現像済みのフィルム(ポジやネガ)も経年劣化は避けられません。特に東京のように高温多湿の時期が長い地域では劣化が進む度合いが速いと思います。

 冷暗所など、保管場所に気をつけることで劣化の速度を遅らせることはできても、劣化をとめることはできません。冷凍保存でもすれば良いのかもしれませんが、何百年も未来の人類に残すための写真であるならともかく、自分が撮影したフィルムを冷凍保存しようものなら、自分が生きている間に二度とその写真を見ることはかなわず、非現実的であるのは言うまでもありません。永久凍土に閉じ込められたマンモスのようにしても意味があるとも思えません。

 これといった画期的な手立てがなかなか思いつかないフィルムの保存ですが、有効な保存方法の選択肢の一つとして写真のデータ化があります。完ぺきな方法とはいえませんし、物理的なポジやネガのフィルムと同じような状態で保存できるわけではありませんが、私も大事な写真はデータ化をして保存しています。

 フィルムのデータ化そのものは比較的単純な作業であり、自分で行なう場合はパソコンとスキャナがあればとりあえず可能になります。しかし、民生用の機器では時間もかかるし、フィルムの枚数が多いと大変な作業量になります。
 私がこれまでに撮影したフィルム写真のうち、現在も保管されているのは20数万コマあります。フィルムの種類は35mm判、ブローニー判、大判などいろいろですが、これらをすべてデータ化しようとしたら、私の余生のすべてを注ぎ込んでも時間が足りないと思われます。
 今はフィルムからデータ化してくれるサービスもたくさんありますから、そういったところにお願いする手もありますが、全部やろうとしたら半端ない費用がかかります。

 近年、フィルム価格が高騰しているとはいえ、今もフィルムを使っているので撮影済みのフィルムは増え続てけいるわけです。過去のものも含めてすべてをデータ化しようなどとはまったく思っていません。自分にとって大切で、残しておきたいと思うコマに限って少しずつスキャンしているという状況です。

 私がデータ化に使っているスキャナはエプソンのGT-X970というフラットベッド型のスキャナです。購入してから15~6年は経過しており、製品自体はかなり古いのですが、35mm判から大判(8×10)シートフィルムまで対応できるスキャナとなると選択肢が他にありません。現行機種は後継機のGT-X980ですが、私のGT-X970はまだ問題なく動いているので使い続けています。

 私はこのスキャナを使って、読取り解像度6,400dpiでスキャンしています(6,400dpiはこのスキャナの主走査方向の最高解像度です)。
 6,400dpiなどという高解像度でスキャンしてもそのままの解像度で使うことはないのですが、6,400dpiというとピッチが約3.97μmで、これはリバーサルフィルムの乳剤粒子の大きさにほぼ近い値です。値が近いからと言ってフィルムと同じようになるわけではありませんが、保存用なので出来るだけフィルムの状態に近づけておきたいという思いです。実際にプリントしたりするときには、品質を損なわないところまで解像度を落として使用するのは言うまでもありません。

 6,400dpiでフィルムをスキャンした場合の画像の画素数は以下のようになります。計算上の値であり、実際には若干前後します。

  ・35mm判 : 6,047 x 9,070 (約5,480万画素)
  ・67判   : 14,110 x 17,386 (約2億4,530万画素)
  ・4×5判  : 25,700 x 32,000 (約8億2,240万画素)

 ちなみに、GT-X970の副走査方向は9,600dpiと12,800dpiも対応していますが、実際にその解像度でスキャンしても画質が良くなるわけではなく、むしろ悪くなる感じなので、私は使用していません。
 また、スキャナ用のソフトウェアにはエプソン自慢のDigital ICEやホコリ除去、退色復元などの機能がついていますが、フィルムに忠実なデータを残すということから、私はこれらの機能も一切使用していません。

 このようにスキャンして得られたデータを保存するわけですが、私は2種類のデータを用意しています。
 まず一つ目のデータはスキャンしたままのデータ、つまり、一切加工を加えていない状態のデータです。厳密にいえばスキャナのドライバやソフトウェアによって何某かの加工が加えられているわけですが、さすがにどのようなアルゴリズムで機能しているかまでは知ることはできないので、出来るだけ加工の少ない状態で読み取ったデータを素の状態とせざるを得ません。
 また、細かなゴミやホコリが着いていたりしますが、それも含めて読み取ったままの状態としておきます。これをオリジナルデータとしています。

 二つ目のデータですが、こちらはゴミの除去と色調の調整を行ないます。
 レタッチソフトを使ってオリジナルデータからゴミなどを除去していきます。ゴミ以外のところは極力いじらないようにするため、とにかく手間のかかる作業です。ゴミの付着度合いにもよりますが、67判のフィルムの場合、1コマあたり20~30分はかかります。青空のようなフラット状態のところに着いたゴミは比較的簡単に除去できますが、花とか木の枝葉など、ゴチャゴチャしているところに着いたゴミを取り除くのは手間がかかります。

 ごみを取り除いた後にポジ原版に限って行なうのが色調の調整で、ライトボックスで見たポジ原版とスキャンしたデータの色調を出来るだけ合わせるというのが目的です。
 スキャンデータはスキャナのハードウェアやソフトウェアによって色が作り出されているわけで、ライトボックス上のポジ原版と同じ色調になるはずもないのですが、出来るだけフィルムに近づけておきたいという理由です。そのため、パソコンのモニタもキャリブレーションしたものを使い、モニタによる色の影響を出来るだけ受けないようにします。
 エプソンGT-X970の場合、それほどポジ原版から偏った色調になることはないというのが私の印象ですが、若干、マゼンタが強く出る傾向があると感じています。ただし、これは私が使っている機器だけ、つまり個体差によるものかも知れません。

 なぜ、何の加工も施さないオリジナルデータと、そこに若干の加工を加えたデュプリケートデータの2種類を用意するかというと、ポジ原版が経年劣化で退色していった場合、元の色がわからなくなってしまうのを防ぐためです。全く同じ色をデータで残すことは無理ですが、少しでも撮影直後の色を残しておきたいということです。

 スキャンしたデータは48bitのTIFF形式で保存します。データサイズは大きくなりますが、圧縮などによる劣化が起きないようにするためにTIFF形式を用いています。

 さて、こうしてできた保存用のデータですが、最も頭の痛いのがその保存方法です。
 画素数も大きく、データ形式もTIFFのため、データサーズがバカになりません。1コマあたりのおおよそのデータサイズを計算すると以下のようになります。

  ・35mm判 : 約320MB
  ・67判   : 約1.4GB
  ・4×5判  : 約4.6GB

 データ保管してくれるサービスもありますが、このようにバカでかいデータをポンポンとアップロードしようものならあっという間に容量の上限を超えてしまい、課金対象の超優良顧客になってしまいます。
 ということで、私はハードディスクを用意して、そこに保存しています。

 一過性のデータを保存するのであればあまり神経質になることもありませんが、あくまでも保存用ということですので、ある程度の信頼性も必要という判断から、RAID-5構成のハードディスクを使用しています。4台のディスクドライブで構成されており、4台あっても1台分はパリティ用として使われてしまうので実効容量は3/4に減ってしまいますが、障害に対する信頼性が高いのと、ドライブ故障時のリカバリ(交換)が簡単にできるというメリットがあります。
 現在、私が使用しているハードディスクの実効容量は9TB(RAID-5)です。このハードディスクに、上で書いたような方法で作成した画像データを保存する場合、67判だと約3,290コマ分、4×5判だと約1,001コマ分の保存ができます。かなりの枚数が保存できるように感じますが、今あるフィルム全体の数パーセントにも満たない量です。

 すべてのコマをデータ化して保存するつもりはないとはいえ、保存するデータは徐々に増えていくので、ハードディスクに入りきらなくなったら新たにハードディスクを追加するしかありません。しかし、いくら小型化しているとはいえ、そこそこの場所をとります。今は1台だけなので何とかなっていますが、これが2台、3台と増えていったら大変なことになります。それこそデータセンターとかホスティングを検討しなければならない状態になってしまいますが、そこまでして保存しようという気にはなりません。用意できる設備に保存可能な範囲の中で運用していくというのが現実的だと思っています。

 そして、最大の悩みが保存媒体(ハードディスク)の劣化対応です。
 データ自体は経年劣化しませんが、それを入れておく記憶媒体は機械ものなので、やはり経年劣化していきます。一般的にハードディスクの場合、3~5年が寿命と言われています。もちろん使用頻度によって寿命も大きく変わるので、業務用で使っているのでなければもう少し長くもつとは思いますが、いずれにしても交換しなければならない時期が定期的にやってくるということです。
 また、仮にクラッシュしてもバックアップがあれば何とかリカバリが可能ですが、もし、それもなければ救済不可能ということにもなりかねません。
 私もこれまでに、使用していたハードディスクがクラッシュしたという経験は何度もありますが、壊れてしまうとリカバリがとにかく大変です。壊れる前に新しい機器に交換しておくのが望ましいのでしょうが、交換するとなると出費もかさむことだし、まだ変な音がしていないからしばらくは大丈夫だろうなどと、何の根拠もない理由をこじつけて先延ばししてきたことも数えきれません。

 RAID-5構成の場合、このような最悪の事態のいくつかは軽減してくれますが、その製品自体が販売終了などということになると、いずれは総入れ替えが必要になってきます。そうなると、新しい代替の機器を購入してきても膨大な量のデータ移行という作業が待っていて、これも結構時間がかかります。
 データによる保存というのは便利で効果的にも思えますが、確実に保存していくための運用を考えるととても大変で、キリがないということです。
 例えば、フィルムは火事などで燃えてしまえば何も残りませんが、データは複数個所に分散保存しておけば完全消失は防げます。しかし、保存場所が1ヵ所しかなければデータと言えどもすべて消失してしまうことに変わりはありません。

 こうして、あらためて撮影済みのフィルムの保存について考えてみると、データ化というのは効果的な面もありますが、より確実性の高いものを求めると、時間とお金がいくらあっても足りないという気がしてきます。むしろ、フィルム自体の経年劣化を出来るだけ遅らせるところに時間とお金をかけた方が良いのではないかと思えてきたりもします。
 フィルムの経年劣化は防げないとはいえ、私のささやかな経験からすると、ポジ原版(リバーサルフィルム)は経年劣化に対する耐性が優れていると思っています。常温保管の場合、カラーネガだと6~7年で黄変やビネガーシンドロームが出始めますが、ポジ原版は30年近く経っても健在です。もちろん、劣化は進んでいるのでしょうが、目視で明確にわかるほどひどくはなりません。そして、モノクロネガははるかに耐性があります。
 であるならば、撮影済みのフィルム保管用に冷蔵庫を調達したほうが良いのでないかと思ってしまいます。

 私は、撮影済みのフィルムについては光が入らないキャビネットの中で保管していますが、特に温度管理をしているわけではなく常温保管です。それでも20年、30年経過してもまずまずの状態を維持しているわけですから、冷蔵保管すればもっと良い状態を保つことができるのではないかと思います。冷凍保存と違い、冷蔵保存であれば出し入れもし易いので、いつでも使うことができますし、冷蔵庫はハードディスクに比べて何倍も寿命が長いのもメリットに思えます。また、冷蔵庫が壊れても中のフィルムがなくなるわけではないというのが素晴らしいです(当たり前ですが)。
 ただし、全てのフィルムを冷蔵保管するとなると容量600L並みの大型冷蔵庫が必要となり、置き場所など考えるとそれはそれで頭の痛い問題です。

 自分にとって大切な写真、残しておきたい写真のデータ化は今後も地道にやろうと思いますが、完璧を求めすぎず、ほどほどにしておくのが良いと感じています。
 私の場合、何といっても撮っている写真がアナログなわけですから、保存もアナログが適しているのかも知れません。

(2023年7月9日)

#リバーサルフィルム #スキャナ #エプソン #EPSON #保管

カラーリバーサルフィルムを使った撮影時のカラーバランスの崩れ

 フィルムカメラで特にカラーリバーサルフィルムを使って撮影をしていると、光の状態や撮影の条件などでカラーバランスが崩れてしまうことがあります。デジタルカメラのようにホワイトバランスの調整機能があれば便利なのですが、そういうわけにもいかないので、カラーバランスを崩したくないときは補正をかけるなどの対策が必要になります。もちろん、敢えてカラーバランスが崩れたままにしておくこともありますが、補正をするにしてもしないにしても、現像が完了するまでは崩れ具合を確認することはできません。
 カラーバランスの崩れ方はフィルムによって違いがありますが、代表的なカラーバランスの崩れについて触れてみたいと思います。

長時間露光によるカラーバランスの崩れ

 フィルムというのは光が当たることで、表面に塗られている乳剤(感光材料)の中のハロゲン化銀が化学反応を起こすことで像(潜像)がつくられるわけですが、このとき、フィルムにあたる光の量とハロゲン化銀が起こす化学反応の度合いの間には「相反則」という関係があります。簡単に言うと、フィルムにあたる光の量が2倍になれば化学反応の度合いも2倍になるということです。
 カメラの場合、フィルムにあたる光の量というのは絞りとシャッター速度、つまり光が当たる時間によって決まりますが、この時間が極端に短いとか、逆に極端に長い場合はこの相反則が成り立たなくなってしまいます。この現象を「相反則不軌」と言い、これが発生するとカラーバランスが崩れてしまいます。

 相反則不軌が生じる短い時間、および長い時間というのがどれくらいの時間なのか、富士フイルムから公開されているデータシートを見ると以下のように記載されています。

  PROVIA 100F : 1/4000~128秒  補正不要
  Velvia 100F  : 1/4000~1分  補正不要
  Velvia 50  : 1/4000~1秒  補正不要

 また、上記の時間を超える長時間露光の場合は色温度補正フィルター等による補正の方法も記載されていますが、上記の時間よりも短い場合の補正方法に関しては記載されていません。一般的なフィルム一眼レフカメラの最高速シャッター程度では補正するほど顕著には生じないということかもしれません。

 これを見ると、PROVIA 100FやVelvia 100Fでは一般的な撮影条件の範囲において、相反則不軌が起きることはほとんどないと思われますが、Velvia 50の場合は数秒の露光時間でも発生してしまうことになります。
 私が主に使っているフィルムはPROVIA 100FとVelvia 100Fですが、確かに長時間露光をしても相反則不軌が生じたことはほとんどありません。星の撮影などをする場合は補正が必要になると思いますが、私のように一般的な風景撮影の場合は補正不要の範囲内におさまってしまいます。
 一方、ごくまれにVelvia 50を使うことがありますが、こちらは数秒の露光でもカラーバランスが崩れてしまい、数十秒の長時間露光をすると顕著に表れてきます。

 実際にVelvia 50で長時間露光撮影した例がこちらです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 64s Velvia50

 埼玉県にある三十槌の氷柱で撮影したものですが、早朝のため太陽光が山で遮られており、辺りは日陰になった状態です。露光時間は64秒です。
 カラーバランスが大きく崩れて、全体的にかなり青みがかっているのがわかると思います。氷柱や石の上に積もった雪の影の部分なども青くなっていますし、河原の石も黒というよりは群青色といった感じで、相反則不軌がしっかり生じています。
 このような色合いの方が冷たさや寒さが感じられるという見方もあろうかと思いますが、実際に肉眼で見た印象とはかなり異なっています。
 相反則不軌によって色合いが青になるのは、長時間露光すると赤感光層の感度が大きく低下することが理由のようです。

 富士フイルムのデータシートによると、このカラーバランスの崩れを補正するために下記のようなフィルターの使用を推奨しています。

  PROVIA 100F : 2.5G
  Velvia 100F  : 2.5B
  Velvia 50  : 5M~12.5M

 なお、長時間露光による相反則不軌は全体的に露出が不足しているわけではないので、露光時間を長くしても改善はしません。むしろ増長してしまいます。光の強い箇所(ハイライト部分)は相反則不軌はほとんど起きませんが、光の弱い箇所(シャドー部分)は相反則不軌の度合いが高いため、露光時間を長くするほどコントラストが高まっていきます。

タングステン電球や水銀ランプ等の照明によるカラーバランスの崩れ

 現在、一般に市販されているカラーリバーサルフィルムはすべてデーライト(昼光)用フィルムです。これは昼間の太陽光のもとで撮影するとバランスのとれた綺麗な発色がされるというもので、色温度がおよそ5,500Kで正しい発色をするように作られているようです。
 かつては3,200Kあたりで正しい発色をするタングステンタイプと呼ばれるフィルムも販売されていましたが、ずいぶん昔に廃盤になってしまいました。

 光の色温度が異なれば、その違いは人間の眼でもある程度はわかりますが、フィルムはこれをとても敏感に感じ取ってしまいます。タングステン電球や水銀ランプ、あるいは蛍光灯などの人工照明のもとでデーライトフィルムを使って撮影すると、それらの光の特性の影響をもろに受けます。
 例えば、タングステン電球のもとではオレンジっぽい色に、水銀ランプのもとでは緑っぽい色の写真になります。縁日などの夜景を撮ると全体に赤っぽく写ってしまうのは典型的な例です。

 下の写真は京王線の若葉台車両基地の夜景を撮影したものです(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F4.5 4s PROVIA100F

 鉄道の施設で使用する照明については細かな決まりがあるらしく、詳しくは知りませんが車両基地やヤードなどでは主に水銀灯が用いられています。車両の入れ替えを安全に行なうため、作業される方が構内の施設物や車両などを確実に認識できるようにということで採用されているようです。
 この水銀灯の光は人間の眼には若干青みがかった白に見えますが、色温度が太陽光よりも低く(だいたい4,500K~5,000Kらしい)、赤色の成分が低いため、デーライトフィルムで撮ると青緑というような色に写ります。肉眼で見たのとは全く違います。
 しかし、これはこれで夜の雰囲気が出ているし、幻想的というのとはちょっと違いますがSFの世界を見ているような、秘密基地を見ているような感じがします。

 人工照明下で撮影した場合、単なる色温度の違いだけでなく色の成分の度合いも違うため、使用されている照明によって全く異なる発色をします。現像するまで発色の状態がわからないという不便さはありますが、予想外の色合いのポジが仕上がってきたときは新たな発見です。

晴天時の日陰におけるカラーバランスの崩れ

 晴天の日中、太陽光が潤沢に降り注いでいるときがデーライトフィルムにとって最も綺麗に発色するというのは上にも書いた通りですが、晴天の日中でも日陰に入ると状況はまったく異なります。
 晴天時の日陰は太陽からの直接の光が遮られるため、上空で乱反射した波長の短い光、すなわち青い成分の光の度合いが高く、それによって青っぽく写るらしいですが、難しい理由はともかく、晴天時の日陰は見た目以上に青く写ります。
 晴天時の日陰の色温度はおよそ7,000~7,500Kらしいので、直接の太陽光と比べるとかなり高い値です。

 晴天時に日陰で撮影するということは少なからずありますが、部分的に日陰になっている程度であればほとんど影響はありません。ただし、撮影している周辺一帯が日陰になっているような場合は影響が大きく、写真は青被りを起こしてしまいます。

 青被りがはっきりと出ている例が下の写真です(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 東京都の御岳渓谷で撮影したものですが、太陽の光が正面の山に遮られており、この一帯は日陰になっている状態です。そして、上空は雲一つない青空です。
 このようなシチュエーションのときが最もカラーバランスが崩れやすく、まるでレンズに青いフィルターでも着けたかのようです。

 同じ青被りでも、長時間露光による相反則不軌が発生した時とは根本的に異なっています。相反則不軌の場合は赤の感光度合いが著しく低下することで青が強く出てしまうような状態になるわけですが、こちらは露光不足ではなく、全体に青い方にシフトしているという感じです。ですので、相反則不軌のようにコントラストが高まるということはありません。

 このようなカラーバランスの崩れは、色温度補正(変換)フィルターを使うことで補正することができます。一般的にはW2とかW4というフィルターをつけることで色温度を下げ、正常なカラーバランスにすることができます。
 色温度補正フィルターは、変換することのできる色温度によって名称がつけられていて、例えば、W2フィルターの場合は20ミレッド、W4フィルターの場合は40ミレッドの変換ができることを示しています。
 色温度変換の詳細についてはここでは触れませんが、ごく簡単にいうと、オリジナルの光源の色温度(K₁)と、フィルターを通った光の色温度(K₂)の関係を表したもので、次のような式になります。

  変換ミレッド = 1/K₂ * 10⁶ - 1/K₁ * 10⁶

 上の式にあてはめると、例えば色温度5,000Kのオリジナル光源が、W2フィルターを通ることで約4,545Kに色温度が下がることになります。

朝夕の撮影時におけるカラーバランスの崩れ

 日の出や日の入りの時間帯の光というのは見た目にも赤っぽいとわかるので、このような光の状態で撮影をすれば赤っぽく写るのはごく当たり前というか、とてもわかり易いと思います。
 しかし、この朝方や夕方の赤っぽく写る現象は人間の眼が感じているよりも長い時間続いていて、日中の光とほとんど変わらないと思っても、実際に撮影してみると赤っぽく色被りをしていたなんていうことはよくあります。
 赤っぽいからこそ朝方や夕方の感じが出るのであって、私の場合、敢えてこれを補正することはあまりありません。むしろ、風景写真などの場合、赤みを強くしたいということの方が多いのですが、時には、被写体や撮影意図によっては赤みを取り除きたいという場合もあります。

 下の写真は小海線の小淵沢大カーブと呼ばれるところで撮影したものです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX 200mm 1:4 F16 1/125 PROVIA100F

 全体に赤っぽく色被りをしたようになっています。
 撮影したのは朝です。太陽はだいぶ高い位置まで登っており、肉眼では日中の光とほとんど同じに感じたのですが、実際に撮影してみるとかなり赤みがかってしまいました。

 この程度の赤みを補正するのであれば色温度補正フィルターのC2くらいをつければ、日中の光で撮影したと同じようなカラーバランスになります。補正せずそのままにしておくか、補正して正常なカラーバランスにするかは好みや撮影意図に合わせて選択ということになります。

 ちなみにC2とかC4フィルターはW2やW4フィルターとは逆に、色温度を高い方に変換します。変換の度合いはC2で20ミレッド、C4で40ミレッドです。

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 富士フイルムが異常とも思える値上げを発表したり、MARIXマリックスから新たにリバーサルフィルム(中身はエクタクロームとのことですが)が発売されたりと、日ごろ、リバーサルフィルムを使っている私にとっては心穏やかならぬ6月でした。
 リバーサルをやめなければならない日もそう遠くないのでは、という思いもありながら、買い置きしてあるフィルムであと1年半くらいは持ちこたえられそうなので、あまり外乱に惑わされないようにしようと思ってはいます。しかし、イマイチ、気持ちが晴ればれとしないのも事実です。
 それでも、虎の子のようなフィルムを持っていそいそと撮影に出かけると、この先もフィルムの価格がどんどん上昇して、いずれ購入することができなくなるかも知れないという沈鬱な気持ちもどこへやら吹っ飛んでしまいます。

 光の状態や撮影条件によってカラーバランスが大きく変わるリバーサルフィルムですが、非現実的な発色に出会えたりするのもリバーサルフィルムならではかも知れません。

(2023年6月30日)

#リバーサルフィルム #色温度補正フィルター #カラーバランス #相反則不軌 #Velvia #PROVIA

なぜフィルム写真に心がときめくのか? 不思議な魅力を持ったフィルムという存在

 写真フィルムの出荷量がピークだったと言われている西暦2000年から23年が経過し、その量は1/100にまで減少したというデータもあるようですが正確なところは良くわかりません。しかし、減少していることは間違いのないことだと思われ、フィルム価格の相次ぐ値上げや製品の生産終了などを受け、フィルム写真を断念してしまう人も多いという話しも聞きます。
 ネット上のいろいろなサイトを拝見すると、いまどきフィルム写真をやるなんて何の意味があるのかとか、愚の骨頂とか書かれている記事もたくさんありますが、私はいまだにフィルム写真をやめられずにいます。今の時代からすると化石のような存在かも知れません。

 デジタルカメラやデジタル写真の進歩にはすさまじいものがあります。しかし、フィルム写真と比較するようなものでもないし、また、比較しても特段意味があるとも思えませんが、解像度や見た目の綺麗さなどではデジタルの方がはるかに勝っていると思えることもたくさんあります。また、フィルムカメラではとても難しいとか、たぶん無理と思えるようなもの(被写体)であっても、今のデジタルカメラであれば容易に写すことができるということがたくさんあります。

 私が住んでいる近くに大きな公園があり、そこにオオタカが営巣している木があります。時どき、散歩がてらその木の近くを通ることがありますが、たくさんの人がまるでバズーカ砲のようなレンズを装着したカメラを三脚に据えて、全員が同じ方向を向けて撮影をしている光景を見ることができます。
 私は野鳥を撮るようなことはありませんし、そのような機材も持ち合わせていないので、皆さんの邪魔にならないように後ろの方に立ってレンズが向いている方向の木の上に目を凝らし、肉眼でオオタカの姿を探しています。
 オオタカに限らず野鳥というのは常に我々の目の前に姿を現してくれるわけではないし、運よく飛んできても長居はしてくれないので撮影チャンスはごく短い時間に限られてしまいます。私などは鳥の姿が見えなければ10分もしないうちに飽きてしまいますが、野鳥を撮られる方は何時間でもじっとチャンスを待っています。そう考えると、野鳥撮影をする皆さんの忍耐力には頭が下がります。
 そして、待ちに待ったオオタカが姿を現すと一斉にシャッターが切られ、その音があたりに響き渡ります。しかも、1秒間に10コマ以上は切られているのではないかと思えるほどの高速連射です。
 このような写真は私が持っている半世紀も前のフィルムカメラでは絶対に撮れません。まさにデジタルカメラならではです。

 野鳥の撮影は一つの例ですが、そんなデジタルカメラの凄さや便利さを承知しながらも、私はフィルム写真から離れられずにいます。
 では、なぜフィルム写真に拘っているのかと問われても、正直なところ、うまく答えを返すことができません。それは、理由が一つではないこともありますし、言葉でうまく表現できないということもあります。

 私が使用しているフィルムの7~8割はカラーリバーサルフィルムです。リバーサルフィルムはネガフィルムと違い、現像が上がった時点で完成となります。ですので、現像後のポジをライトボックスで観賞できるわけですが、これが最高に美しいと思っています。
 昔はポジ原版から直接プリントするダイレクトプリントと呼ばれるサービスもありましたし、今はスキャナで読み込んでプリントすることも出来ます。しかし、どんなに熟練したプロの職人さんがプリントしたものであっても、ライトボックス上の透過光で見た時の美しさにはかないません。また、プリントした写真よりもポジ原版を直接見た方がはるかに立体感のある写真、そして透明感のある写真に見えます。
 私が初めてリバーサルフィルムで撮影したのは今から何十年も前のことですが、初めてポジ原版を見た時の感動は忘れることがなく、今もポジ原版を見ると胸が高鳴ります。
 実際には常にポジ原版を鑑賞しているなんていうことはなく、プリントしたものを額装しているわけですが、見ようと思えばいつでもライトボックス上でポジを鑑賞できるということは何ものにも代えがたい魅力であることは間違いありません。

 では、モノクロネガフィルムの場合はどうかというと、もちろん、リバーサル現像でもしない限りは白黒が反転したネガ原版ですから、ライトボックス上で見てもリバーサルフィルムのように完成形を見ることはできません。しかし、立体感のようなものはネガ原版であっても十分に感じられますし、白黒反転していても脳がさらにそれを反転してくれるというか、普通に肉眼で見た時と同じように感じられるから不思議です。

 そして、カラーリバーサルにしてもモノクロネガにしても、フィルムという物理的な媒体を直接見るとまるでその場にいるかのような錯覚を憶えます。臨場感というのともちょっと違うのですが、撮影した空間をそっくりそのまま持ってきたという感じです。これもプリントしたものやパソコンのモニタに映した画像では味わえない感覚です。

 フィルム写真は、デジタルカメラのように撮影したその場で出来具合を確認するということはできません。これは、デジタルカメラに慣れてしまうと何とも不便なことに思えるかもしれませんが、シャッターを切った瞬間に自分の思い描いた映像がフィルムに記録されているかと思うと、ワクワクともドキドキともつかない不思議な感覚に包まれます。常に思い通りに撮れるわけではなく、予想に反した写真になってしまうこともあるわけですが、それも含めたワクワクやドキドキだと思います。
 失敗したら高いフィルムが1枚無駄になってしまうということもありますが、何よりも、今と同じ写真は二度と撮ることができないという緊張感のようなものが高揚感となって頭を持ち上げてくるように思います。特に自然相手の風景写真の場合、明日、また同じ場所に来ても同じ写真は絶対に撮れないわけで、余計にそれが強いのかもしれません。
 デジタルカメラのように、撮ったその場で確認できればどんなに便利かと思うこともありますが、現像が上がるまでの間、出来具合をあれこれ思いめぐらす時間、焦らされるような時間があるというのもフィルムならではです。
 二度と同じ写真が撮れないのであれば、失敗してもすぐに撮り直しのきくデジタルカメラの方に100%の分があるというのは承知しているのですが、フィルムに記録されるという物理的な現象には媚薬のような効き目があり、これに抗うことはできません。
 以前、この話を友人にしたところ、「お前、変わってるな」と言われたことがありました。自分ではそんなに変わっているとは思っていないのですが...

 フィルムの価格が今のように高額でないときはカラーリバーサルフィルムの現像も自分で行なうこともありました。しかし、なかなか発色が思うようにいかず、いまはプロラボに依頼をしています。一方、モノクロフィルムは自分で現像していますが、リバーサルにしてもネガにしても、現像工程を終えて現像タンクからフィルムを取り出したときに像が形成されているのを見るとやはり感激します。無から有が生成されるマジックを見ているような感じで、しっかりと説明のつく化学変化だとわかってはいても感動の瞬間です。
 撮影の時にイメージしたものがしばらくの時間をおいた後、像となって表われ、それを手に取ることができる不思議な感覚、私にとって心をときめかせるには十分すぎる事象だと思っています。

 さて、上でも書いたように、最近のデジタルカメラは驚くほど高精細で綺麗な写真が撮れます。写真は解像度がすべてではないと思いますが、それでも高解像度で綺麗であることを否定する理由は何もありません。そのようなデジタルカメラで撮った高解像度の写真に比べると、フィルム写真はちょっとざらついた感じがします。整然と並んだ撮像素子と、ランダムに配置された乳剤粒子(ハロゲン化銀粒子)の違いによるものが主な理由だと思いますが、私はフィルムのちょっとざらついた感じが好きです。

 ざらついていると言ってもかなり拡大しないとわからないので、デジタルカメラとフィルムカメラそれぞれで、同じ被写体を同じレンズを使って、同じ位置関係で撮影してたものを比較してみます。
 私が1台だけ持っているデジタルカメラはだいぶ前のもので、撮像素子はAPS-Cサイズ、約1,600万画素という、今ではかなり見劣りのするカメラです。そして、比較用に使ったのは中判のPENTAX67です。これらのカメラにPENTAX67用の135mmレンズを装着し、同じ位置から同じ被写体(桜)を撮影しました。
 そして、67判のポジ原版をデジタルカメラの1画素とほぼ同じ大きさになるような解像度(約5,420dpi)でスキャンします。写る範囲が67判の方が圧倒的に広いので、その画像データからデジタルカメラで撮影できるのとほぼ同じ範囲を切り出してみました。

 1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出したものです。

▲デジタルカメラで撮影
▲フィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出し

 画像処理のアルゴリズムなどの影響を受けていると思いますので2枚の写真に色調の違いはありますが、それを無視してもこうして比較すると、デジタルカメラで撮影した写真の方が滑らかな感じがすると思います。

 では、拡大してみるとどうかということで、画中央のまだ開ききっていない花の辺りを拡大したものが下の写真です。同じく1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影したものです。

▲部分拡大 デジタルカメラ
▲部分拡大 フィルムカメラ

 明らかに違いが判ると思います。デジタルカメラ(1枚目)の方が全体に滑らかで、細部までくっきりと描写されているのがわかります。
 一方、フィルム(2枚目)の方は全体的にざらついた感じがしますが、これはフィルムに塗布された色ごとの乳剤粒子が重なっているため、それによって複雑な色の組合せが生まれていることが理由だと思われます。デジタルに比べてはるかにたくさんの色数が表現されていますが、これがざらついた感じに見えるのだと思います。
 デジタルの撮像素子とフィルムの性能比較をするつもりはなく、生成される画の違いを見ていただければと思います。

 ざらついていると言っても、中判フィルムから全紙くらいの大きさに引き伸ばしプリントした程度ではざらつきはほとんど感じられません。超高感度のフィルムを使ったときの粒子の粗さによるざらつきとは全く別物で、豊かな色調からなる画の奥深さのようなものを感じます。 
 個人的にはこのフィルムのざらついた感じが好きで、それがフィルムの魅力の一つでもあります。

 このように、私はいろいろなところでフィルムの魅力を感じていて、しかも、それらが相乗効果で押し寄せてくるので、そう簡単にフィルムに踏ん切りをつけることができないというのが正直なところです。もちろん、フィルム価格や現像料の高騰は大打撃ですが、ごくごく些細な工夫をしながらでも、フィルムを使い続けたいという気持ちがあります。
 私はフィルムと日本酒の保管専用に小型の冷蔵庫を使っていますが、扉を開けた時にフィルムと日本酒が並んでいるのを見ると幸せな気持ちになります(なぜ、フィルムと日本酒が同居しているのかという突っ込みはしないでください)。使用前のフィルムのパッケージを眺めていると、それだけでどこかに出かけて撮影しているときの映像が頭の中に浮かんできます。まるで、うなぎを焼くときの煙でご飯を食べることができるおっさんみたいですが、私にとってはそれくらい魅力的な存在です。

 現在、冷蔵庫に保管されているフィルムは1年~1年半ほどで使い切ってしまいそうな量です。今の品薄状態と高額には閉口しますが、切らさないように何とか補充し続けていきたいと思っています。

(2023.6.5)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #リバーサルフィルム #ライトボックス

現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管

隅田川に架かる橋 ライトアップ夜景 -吾妻橋・隅田川橋梁・駒形橋・厩橋・蔵前橋-

 隅田川は岩淵水門で荒川から分岐して東京湾にそそぐ川ですが、たくさんの橋が架かっています。東京オリンピックの開催に向けてライトアップの整備も行われたため、それぞれ、個性的な景観を見ることができます。ライトアップは日没の15分後から夜11時ごろまで行われており、今の時期は午後6時を少し回った頃からライトアップが始まります。長時間ライトアップされているので、ゆっくりと撮影することができます。
 また、川の両岸は整備された広い遊歩道が続いており、フットライトも設置されているので足元も安心です。散歩をする人、ジョギングをする人、撮影をする人等々、多くの人がいらっしゃいますが、私のようにフィルムカメラを持ち込んでも安心して撮影できる場所です。

 今回、特に橋が密集している浅草界隈でライトアップされた橋の撮影をしてきました。
 なお、今回の撮影はISO100のリバーサルフィルムを使用しました。

赤色のライトアップ 吾妻橋

 吾妻橋は、浅草駅の入り口あたりから対岸のアサヒビール本社ビルの手前あたりに架かっている橋で、隅田川に架かる橋の中では最初の鉄橋らしいです。現在の橋は1931年の開通とのことですので、90年以上が経っていることになります。
 3つの径間をもった綺麗なアーチ橋です。橋の上部に構造物がないため、明るいときに見るととてもさっぱりとしたというか、簡素な感じがしますが、品格のある美しさを感じる橋です。

 ライトアップされた吾妻橋を浅草側から撮影したのが下の写真です。

▲吾妻橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 16s PROVIA100F

 アーチ部分の鉄骨も赤色で塗装されていますし、昔は灰色だったらしいのですが、欄干部分も赤系になっていることもあり、ライトアップされると橋全体がとても華やかな印象になります。欄干の部分の照明色は季節によって変わるようで、今は桜色というかピンク色に照明されていました。
 アサヒビール本社ビルの屋上に設置されている金色のオブジェもライトアップされていて、不思議な景観を作り出しています。もう少し引いて撮ると、左の方に東京スカイツリーがあります。

 少し風のある日でしたが水面が大きく波立つほどではなく、長時間露光にもかかわらず水面に映る照明の色合いがしっかりと残ってくれました。
 いちばん手前のアーチの下が暗くなっているのがわかると思いますが、何故かここだけ照明がされていないようでした。ここも赤い鉄骨が浮かび上がると、もっと華やかな感じになったと思うのですが。

白色のライトアップ 隅田川橋梁

 吾妻橋の少し上流側にある東武伊勢崎線の隅田川橋梁と、そこに併設されているすみだリバーウォーク(遊歩道)です。
 すみだリバーウォークは朝7時から夜10時までが通行可能で、浅草の浅草寺と東京スカイツリーの間を行き来するのにとても便利です。遊歩道の床板にはガラスがはめ込まれていて、隅田川を真上から見ることができます。

▲隅田川橋梁:PENTAX67 smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 60s PROVIA100F

 隅田川橋梁は電車が通る橋なので重量級の建造物という感じがしますが、架線柱がお洒落なデザインになっていて、隅田川の風景にマッチしているように思います。
 また、この橋を渡るとすぐに浅草駅がある関係で、電車はこの橋を通るときとてもゆっくりとしたスピードになり、時には橋の上でしばらく停車していることもあります。この橋を電車が通過する景色はとても絵になります。

 橋の上部や架線柱は季節によって照明色が変わるようですし、また、イベントがあったりすると特別照明がされるようです。一方、下部の方は白い照明ですが、太い鉄骨を一層無機質な感じに照らし出します。何だか、未来都市の一部を見ているような気になります。
 架線柱の真下に見える薄緑色の光は通過する電車の窓の明かりです。右方向からゆっくりした速度で来て、左の方にある浅草駅に入っていきました。高速で通過してしまうとこんなに明るく写らないのですが、これもこの橋梁ならではの景色かも知れません。

 白い鉄骨の部分の質感が損なわれないようにするため、露出のかけ過ぎに気をつけたのですが、水面が思ったほど明るくなってくれませんでした。もう半段くらい、露出を多めにしても良かったと思います。

青色のライトアップ 駒形橋

 上野から東に延びている浅草通りに架かっている橋です。浅草側の橋のたもとに「駒形堂」というこじんまりとした観音堂がありますが、これが名前の由来のようです。橋が架かる前は渡し舟で川を渡っていたらしいです。
 橋脚の上にはバルコニーのようなものが設けられていて、中世のお城のようなデザインです。このバルコニーからは東京スカイツリーや隅田川に沿って走る首都高が良く見え、絶好の撮影スポットです。

 ちょっとレトロ感の漂う橋ですが、夜になってライトアップされると雰囲気が一変します。

▲駒形橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 16s PROVIA100F

 橋の両端のアーチは下側にありますが、中央のアーチは橋の上部に設置されていて、三つのアーチがとても綺麗な弧を描いています。橋の下側には照明がありませんが、欄干やアーチを照らす明かりがかなり明るいので、水面への映り込みもとても見事です。青系で統一された色合いはちょっと冷たい感じがするかも知れませんが、暗い背景とのコントラストは抜群に綺麗だと思います。

 隅田川は屋形船や観光船などがたくさん往来しているので、船が来るのを待ってその光跡を入れたものも撮ってみました。右から左にオレンジ色の線がスーッと入って温かみを感じるような画にはなりますが、この橋には余計な光がない方がお似合いだと思います。

薄緑色のライトアップ 厩橋

 厩橋は、駒形橋から少し下流に行ったところにある3連のアーチ橋です。「厩」という名前が示すように、この橋にはいたるところに馬のレリーフやステンドグラスなどが埋め込まれています。
 流れるような優美な曲線で構成されたアーチが特徴的で、太い鉄骨で組み上げられているにもかかわらず、柔らかな感じのする橋です。アーチ部分に大量に打ち込まれているリベットさえも景色になっているように思えます。
 橋の上を車で走ってしまうと、その橋の形などはなかなかわからないものですが、この厩橋は特徴的な3連アーチが車の中からも良くわかります。

 そんな3連アーチ橋ですが、ライトアップで優美さは更に増します。

▲厩橋:PENTAX67 smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 12s PROVIA100F

 薄緑を基調に、全体的に淡い色合いの照明がなされています。橋の形が柔らかな感じなので、あまり強い色調の照明よりもこのくらいの方が似合っていると思います。
 この写真を撮ったとき、欄干部分はパステル調の青と紫色で照明されていましたが、季節によって変えているようです。

 橋の上部に大きなアーチが三つあることで、ライトアップされると遠くからでもいちばん目を引く橋です。この写真は橋の北側(上流側)から撮っていますが、橋の下をくぐって反対側に行くと東京スカイツリーとアーチがちょうど重なる位置関係になります。
 駒形橋と同じでこの橋も橋脚部分を除いて、橋の下部の照明はありません。肉眼だともっと明るい感じなので、もう少し露光時間を長くしても良かったかもしれません。

黄色のライトアップ 蔵前橋

 厩橋から数百メートル下流に架かっている橋で、形状は吾妻橋によく似ています。稲のもみ殻をイメージさせるということで、淡黄色というか黄檗色というか、そんな感じの色で塗装されています。
 大相撲の国技館、今は両国にありますが、その前は蔵前にあったことから、橋の高欄には力士のレリーフが施されています。橋の上は障害物もなくとてもすっきりとしていて、高速道路を走っているような錯覚を感じてしまう橋です。

▲蔵前橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 24s PROVIA100F

 黄色系の照明はとても明るく感じるせいか、ライトアップされると圧倒的な存在感があります。
 アーチの下側に整然と並んで組まれている鉄骨が浮かび上がり、とても綺麗です。無機質な鉄骨の建造物でありながら、周囲の景観と見事に調和している感じです。石造りの橋脚も趣があって、控えめな照明が作り出す陰影が美しいです。

 黄色は見た目以上に明るいので、露出計任せにすると暗く写ってしまい、濁った色合いになってしまいます。特にこのような夜景では思い切って多めに露出をかけた方が綺麗に仕上がります。
 上の写真でも、弧を描いているアーチの部分はほとんど白飛びしてしまっています。中央のアーチの上部には橋の名前が書かれているのですが、これが読めるように適正な明るさにすると鉄骨の部分はかなり暗くなってしまい、橋の優美さが損なわれてしまいます。

 今回使用したISO100のフィルムは常用感度(と言っても、リバーサルフィルムで現在手に入るのはISO100とISO50の2種類しかないのですが)といえるフィルムですが、決して感度が高いというわけではありません。夜景のような撮影の際、露光時間を長くしても弱い光をとらえきることは難しく、硬い感じの写真に仕上がってしまいます。
 それはそれで気持ちの良い描写ですが、明るく表現するか、暗く表現するかは撮り手の作画意図や伝えたいものによって異なります。ですが、出来るだけたくさんの光をとらえつつも、過度な露出オーバーにならないように露出を決めたいという思いもあり、そのような写真を撮るには神経を使います。

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 今回撮影した橋のうち、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋は関東大震災の復興橋梁として架けられた9橋に含まれ、いずれも建設から90年以上が経っていますが、古臭さはまったく感じられません。むしろ、近年の建造物よりもずっとセンスがあると思います。
 さらに下流に行くといくつもの個性的な橋が架かっているので、そちらの撮影にも出かけてみたいと思っています。

 例年だと今の時期は夜になると肌寒いのですが、今年は暖かくなるのが早く、重い機材を担いで川べりを歩いていると汗ばむくらいでした。季節によって違った景観を見せてくれますが、撮影するにはいまがいちばん体への負担が少ない季節です。

(2023.3.31)

#PENTAX67 #吾妻橋 #駒形橋 #厩橋 #蔵前橋 #リバーサルフィルム #ペンタックス67

67判のポジフィルムをカバーするライトボックス用ルーペの作成

 私が主に使っているフィルムはリバーサルフィルムの中判と大判です。現像が上がったリバーサルフィルムはライトボックスで確認をするわけですが、その際、ピントやブレなどの具合を調べるためにルーペを使います。
 そのためのルーペは数個持っていますが、いずれもルーペのレンズの直径があまり大きくないので一度に見ることのできる範囲は狭く、中判や大判のフィルムを確認するためにはルーペをあちこち移動させなければなりません。これが結構なストレスになります。もちろん、大口径のルーペも販売されてはいますが驚くほど高額です。
 そこで、大判フィルムはともかく、せめて67判フィルムをカバーできるルーペをということで、家にころがっているガラクタを集めて作ってみました。

今回、作成するルーペの仕様

 私が使っている中判のサイズは圧倒的に67判が多いので 、作成するルーペの大きさとしては、このフィルムをカバーするサイズとします。「カバーする」というのは、フィルムの上にルーペを置いた状態で、ほぼフィルム全体が視野に入るということを意味します。67判の対角線長は約88mmありますから、理想は直径88mm以上のレンズということになりますが、それだとかなり大きくなってしまい、手の小さな私には持ちにくくなってしまいます。フィルムの四隅が少しカットされるのは我慢するとして、今回は直径80mm前後ということにします。

 次にルーペの高さですが、ライトボックス上にフィルムを置いたとき、どれくらいの位置から見るのが最も見易いのかをいろいろ試してみました。低すぎると上体を前に倒さなければならないので、あまり有り難くありません。かといって高すぎると、これまたルーペが巨大になってしまい、使い回しに手を焼いてしまいそうです。
 結局、ライトボックスの上面から10~15cmくらいが最も使い勝手がよろしいというのがわかったので、ルーペの高さとしてはおよそ10cmとすることにしました。

 さて、ルーペの倍率をどれくらいにするかですが、私が普段使っているルーペの倍率は約6倍と約8倍で、細部をしっかり確認するにはちょうど良いのですが、ポジ全体を見渡すには倍率が高すぎます。もう少し倍率を落とした、3~4倍あたりが使い易そうですので、今回は4倍を目安にすることにしました。

 これらの条件を満たすレンズを決めなければならないのですが、ルーペの高さから逆算すると、ライトボックス上面からレンズまでの距離が70~80mmが適当な感じです。中間値をとって75mmとして計算してみます。

 レンズの焦点距離(f)、レンズから物体(フィルム)までの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係は下の図のようになります。

 ここで、a=75mm、倍率mは4倍と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、

  b = m・a

 で求められます。
 よって、

  b = 4 x 75 = 300mm

 となります。

 次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、

  1 / a - 1 / b = 1 / f

 の関係式に各値を代入すると、

  1 / f = 1 / 75 - 1 / 300

 よって、f = 100mm となります。

 すなわち、焦点距離100mmのレンズが必要ということです。

ルーペの作成に必要なパーツ類

 焦点距離100mmのレンズというと、クローズアップレンズのNo.10がこれに相当しますが、残念ながらそんなものは持ち合わせておりません。ガラクタをあさってみたところ、直径82mmのクローズアップレンズ(No.2)が1枚と、直径77mmのクローズアップレンズ(No.2、No.3、No.3、No.4)が4枚、計5枚がでてきました。
 なぜこんなにクローズアップレンズがあるかというと、昔、35mm判カメラで接写にはまったことがあり、その時に買い集めたものが今も使われずに残っていたというものです。
 82mm径であれば大きさも問題ないのですが、No.2が1枚ではどうしようもないので、少し小さくなってしまいますが77mm径のクローズアップレンズを組み合わせて使うことにします。

 クローズアップレンズの焦点距離は以下のようになっています。

  No.2 : 500mm
  No.3 : 330mm
  No.4 : 250mm

 2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。

  1 / f = 1 / f₁ + 1 / f₂ - d / (f₁・f₂)

 この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。

 この式から、これらのクローズアップレンズを組み合わせて焦点距離100mmを作り出すには、No.3(330mm)を2枚とNo.4(250mm)を1枚、計3枚で100mmが作り出せることがわかります。厳密にはクローズアップレンズ同士の間隔ができるので少し変わってきますが、そんなに精度を求めているわけではないので良しとします。

▲今回使用したクローズアップレンズ (左からNo.4、No.3、No.3)

 また、クローズアップレンズを同じ向きで重ね合わせると像の歪みが大きくなるので、1枚をひっくり返して反対向きにする必要があります。反対向きにするとオネジ同士、またはメネジ同士が向かい合ってしまい、ネジ込みすることができなくなってしまいます。そこで、これらをつなぐアダプタを作らなければなりませんが、これは使わなくなった77mm径のフィルターの枠を2個、流用することにします。

▲アダプタ用に使用したフィルター(2枚)

 そして、ライトボックス上面からレンズまでの高さを稼ぐため、これも昔使っていた金属製のレンズフードを使うことにしました。おあつらえ向きに77mm用のフードがあったので、まさに復活という感じです。フード先端の内径が約80mmあるので67判の対角には少し足りませんが、まぁ、我慢することにしましょう。
 また、ライトブックスは下から光が照射されるのでルーペ内には外光が入らない方が望ましく、金属製のフードは打ってつけです。

▲77mmのレンズフード(金属製)

 後は、レンズまでの距離(高さ)が不足する場合、それを埋めるためのスペーサーとして、やはり使わなくなったフィルター枠を使います。

ルーペの組み立て

 組み立てと言ってもクローズアップレンズやフィルター枠をはめ込んでいくだけですが、作らなければならないのがクローズアップレンズ同士をつなぐアダプタと、レンズフード取り付けのためのアダプタです。
 まず、クローズアップレンズを向かい合わせにつなぐために、上にも書いたように77mm径のフィルターからガラスを取り外した枠を反対向きに接着剤でくっつけます。接着面は非常に狭くて接着剤だけでは強度的に心もとないので、内側にグルーガンで補強しておきます。
 接着剤がはみ出したりしてあまり綺麗でないので、表面に自動車用の絶縁テープを巻いておきます。

▲フィルター枠(2個)を貼り合わせたアダプタ

 それともう一つ、レンズフードを取付けるためにオネジをメネジに変換しなければならないので、不要になったフィルターの枠をひっくり返してレンズフードに接着しなければなりません。これも同じように接着剤でくっつけ、内側をグルーガンで補強しておきます。

 あとは下から順に、レンズフード、クローズアップレンズ(No.4)、アダプタ、クローズアップレンズ(No.3)、クローズアップレンズ(No.3)と重ねていけば完成です。
 今回使用したクローズアップレンズのNo.3のうちの1枚は枠が厚いタイプだったので問題ありませんでしたが、枠が薄いタイプだとレンズの中央部が枠よりも飛び出しているため、重ねると干渉してしまいます。その場合は、フィルター枠を1枚かませるなどして、干渉しないようにする必要があります。

 下の写真が組み上がったルーペです。

 大きさがわかるように隣にブローニーフィルムを置いてみました。
 いちばん上に乗っているのは保護用(プロテクター)フィルターですが、これもガラクタの中から出てきたので、上側のクローズアップレンズを保護するためにつけてみました。使用上はなくても何ら問題はありませんが、クローズアップレンズが傷ついたり汚れたりするのを防いでくれるという点では役に立っていると思います。
 また、ルーペの下に置いてあるのが67判のポジ原版です。四隅が少しはみ出しているのがわかると思います。

 No.10のクローズアップレンズがあれば1枚で済んだのですが、有り合わせのもので作ったのでちょっと不細工になってしまいました。フィルター名やレンズ名の刻印がたくさんあってにぎやかですが、気になるようであれば適当なクロスか何かを巻いておけば問題ないと思います。

ガラクタから作ったルーペの使い勝手

 こうして完成したルーペですが、大きさや重さは以下の通りです。

  高さ : 105.5mm
  外径 : 80mm(上側) 85mm(下側)
  重さ : 224g

 クローズアップレンズ3枚と保護フィルター1枚、金属製のフードやフィルター枠を使っているので、やはりちょっと重いという感じはします。
 また、もう少し外径が細い方が私には持ちやすいとは思いますが、十分に許容範囲内です。

 実際にライトボックス上でポジ原版を見てみると、若干、糸巻型の歪みが感じられますが気になるほどではありません。
 67判の四隅はフードによってカットされてしまいますが、それでもほぼ全体が視野に入ってくるのでルーペを移動させる必要もなく、とても便利です。
 倍率は正確にわからないのですが、たぶん4倍程度といった感じです。ピントの甘いところやブレているところなどもしっかりとわかりますから、十分な倍率だと思います。

 そして、いちばん驚いたのがポジ原版の画像がものすごく立体的に、浮き上がって見えることです。広い範囲が見えるのでそう感じるのかもしれませんが、肉眼で見たのとは別の写真を見ているような印象です。

 ピントの位置も特に問題なく、ルーペをライトボックス上に置いた状態でフィルムにピントが来ています。
 もし、ピント位置が合わないようであればフィルター枠をかませようかと思っていましたが、その必要もなさそうです。

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 ガラクタを集めて作ったので見てくれは良くありませんが、クローズアップレンズを交換したり減らしたりすれば倍率も変えることができますし、ピント位置の調整もフィルター枠などを使うことで容易に行なうことができます。実際にクローズアップレンズを1枚外し、2枚構成にしてポジ原版を見てみましたが、倍率は少し下がるものの、十分に使用できるレベルでした。
 細部をシビアに点検するときは6倍以上のルーペが必要ですが、67判をほぼ視野に入れることができるメリットは大きく、今後、活躍してくれそうです。

(2023.1.12)

#ルーペ #クローズアップレンズ #リバーサルフィルム #ライトボックス

リバーサルフィルムのラチチュードは本当に狭いのか?

 一般にリバーサルフィルム(ポジフィルム)はラチチュード(適正露光域とか露出寛容度)が狭いので露出設定がシビアだと言われています。この「狭い」というのが何と比べて狭いのかというと、カラーネガフィルムと比べて狭いと思われているふしがあるようなのですが、ちょっと違うような気がしています。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使う頻度が高く、確かに露出設定には神経を使いますが、特段、カラーネガに比べてラチチュードが狭いとは感じたことはありません。
 リバーサルフィルムを使った撮影はハードルが高いと言われることもありますが、決してそんなことはないと思っています。

カラーリバーサルとカラーネガのフィルム特性

 何故、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言われているかというと、写真としてのそもそもの使い方の違いから来ているのではないかと思います。リバーサルは現像した時点で完成形ですが、カラーネガの場合は現像しただけでは完成しておらず、プリントが前提となっています。このため、プリントの段階で調整がきくので、カラーネガはラチチュードが広いと思われているのではないかということです。
 確かにプリントの段階で調整できるのはその通りですが、これはフィルム上に大きく圧縮された画像を、コントラストの高いペーパー上に伸長させて再現することで実現しているわけです。

 残念ながらずいぶん前に終了してしまいましたが、ダイレクトプリントというサービスがあり、リバーサルフィルムから直接プリントできました。ネガフィルムからのカラープリントに比べると、プリント時の調整幅は狭く、シャドー部がつぶれがちであったりしましたが、インターネガを介してプリントするとカラーネガフィルムからのプリントに引けを取らない調子が再現できていました。
 それを考えると、カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムのラチチュードが狭いとは言い切れないのではないかと思います。

 富士フイルムから出ているデータシートからフィルムの特性グラフを参照してみました。フジカラーPRO 160 NHというネガフィルムと、フジクロームVelvia 100Fというリバーサルフィルムの比較です。

 ネガフィルムの場合、実際の被写体の明暗が反転した状態でフィルムに記録されるので、光が当たった部分が暗くなります。すなわち、グラフ上の濃度の数値が大きいということになります。逆に光が当たってない部分は明るくなるので、濃度の数値が小さくなります。
 一方、リバーサルフィルムはネガと反対ですから、光の当たった部分は濃度が低く、光の当たってない部分は濃度が高くなります。このため、グラフの傾きは、ネガとリバーサルで反対になります。

 上のグラフの横軸の相対露光量の範囲を見ると、ネガ(PRO 160 NH)はおよそ-3.6~+0.5、リバーサル(Velvia100F)はおよそ-3.4~+1.0となっていて、若干の違いはあるものの、露光量に対して画像として記録できる範囲に大きな差はありません。
 ただし、曲線の傾きがネガの方が緩やかで、リバーサルはネガに比べて傾きが大きいことがわかります。これは、ネガの方が広い露光範囲で露光量に応じた濃度が得られることを意味しています。

 また、曲線が示す最大濃度はネガが約2.7(青)に対して、リバーサルは約3.8(緑)ですから、リバーサルの方が高い濃度まで再現できることになります。しかし、リバーサルは相対露光量が-0.2くらいで曲線がフラットになってしまいますが、ネガは+0.5でもまだフラットになっていません。
 これが、ネガは露出をオーバー気味にした方が良く、リバーサルは露出をアンダー気味にした方が良いと言われている原因ではないかと思います。
 とはいえ、あくまでもフィルムの特性が示す傾向であって、意図を持った作品作りを除けば、再現性という点ではネガでもリバーサルでも適正露出で撮るのが望ましいはずです。

ポジ原版をライトボックスで見てみると..

 リバーサルフィルムの特性曲線のグラフで、相対露光量の多いところと少ないところでは曲線の傾きがなだらかになっています。これは、黒くつぶれてしまっていたり、白く飛んでしまっているように見える画像の中にもコントラストとして記録されてるということです。

 実際にリバーサルフィルムで撮影した中から、黒くつぶれているところが多いポジ原版を探してきました。ライトボックス上で撮影したのが下の写真です。

 肉眼で見たのと同じようにはいきませんが、画の右半分が真っ黒につぶれているのがわかると思います。
 まだ陽が十分に差し込む前の渓谷で撮影したものですが、黒くつぶれた右半分のさらに上半分はこの渓谷の左岸にある岩肌で、下半分は水面なのですが上の岩肌を映しこんでいて、結果、右半分が真っ黒といった状態です。肉眼で見た時には岩肌ももっと明るく見えたのですが、撮影するとこんな状態です。人間の眼のすばらしさをあらためて感じます。

 それはさておき、この写真ではほとんどわかりませんが、この黒くつぶれた中にも所どころ明るい箇所があり、何やら写っているというのが見てとれます。墨で塗りつぶしたように真っ黒というわけではなさそうです。特に右下の辺りは川底の石がぼんやりと見えるので、それなりの画像は記録されていると思われます。

黒つぶれしているポジ原版をスキャンしてみる

 では、このポジ原版をスキャンしてみます。
 特に画質調整などの加工はせず、スキャンした素のままの画像が下の写真です。

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影したものに比べると、多少は細部も認識できるとは思いますが、アンダー部が黒くつぶれているのは変わりありません。画の左半分がほぼ適正露出なのに比べると明らかにアンダーです。
 それでも、ポジを肉眼で見たのに比べると画像が記録されている印象を受けるので、どの程度のまで認識できるかをレタッチソフトで明るくしてみます。画質をあまり犠牲にしないようにして、極端に劣化されない範囲で明るくしてみたのが下の写真です。右側上部の岩の部分です。

 一見、黒くつぶれているように見えますが、実はかなりのディテールまで画像として認識できるレベルに記録されています。もちろん、この著しくアンダーな部分を救済すれば、ほぼ適正露出である左半分は大きく露出オーバーになってしまいます。ですが、黒くつぶれているとはいえ全く画像が認識できないわけではなく、それどころかかなり鮮明に記録されているといえます。
 これが黒い中にも微妙なコントラストがある、リバーサルフィルムの表現力ではないかと思います。

 特性曲線のグラフでもわかるように、相対露光量に濃度が比例する範囲は狭いかも知れませんが、その前後が画像として記録されていないわけでなく、しっかりと記録されています。
 そういう視点からすると、一概にリバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言い切ってしまうことはできないと思います。むしろ、露光量が少ない範囲においてもしっかりと記録できるパフォーマンスを持っていると言っても良いのではないかと思います。

 因みに、この写真の左半分にある木々の緑に対して、右側の黒くつぶれているように見える箇所の測光値は-3EV以上になります。

 なお、この写真の右半分があまり明るくなってしまうと重厚感がなくなり、この場の雰囲気が大きくそがれてしまいます。もう少し明るくても良かったとは思いますが、意図して撮影した範囲ではあります。

白飛びでも画像として認識できるか?

 黒つぶれとは反対に、露出オーバーで白く飛んでしまった状態でも画像として記録されているのか気になるところです。
 ポジ原版のストックを探したのですが適当なものが見つかりません。唯一、露出設定を著しく間違えて撮影したポジがありましたので、これで検証してみます。

 このポジは滝を撮影したものです。NDフィルターを装着して撮影するつもりでしたが、ピント合わせなどをした後にNDフィルターをつけるのを忘れてたか、NDフィルターはつけたが絞り込むのを忘れてシャッターを切ってしまったかのどちらかですが、いずれにしろ実にお粗末な結果と言わざるを得ません。たぶん、これだけスケスケ状態になっているので、絞り込むのを忘れていたのだろうと想像しますが、そうすると5EVほどの露出オーバーということになります。
 ポジ原版を見ても何が写っているのかよくわかりません。撮影した本人でさえわからないのですから、他人からすれば全く認識不能といったところでしょう。

 この写真の中央付近を切り出して、無理矢理に画質調整をしてみたのが下の写真です。

 岩の質感などはわかる程度にはなりましたが色調はどうしようもなく崩れており、もはや写真として成り立たないレベルです。しかしながら、真っ白に近い中にこれだけの情報が残っているというのは驚きです。
 この例は極端すぎますが、3EVくらいのオーバーであればもう少しまともな画像が得られるのではないかと思います。

リバーサルフィルムのラチチュードは決して狭くない

 リバーサルの場合は現像が上がった時点で完成ですから、今回のようにレタッチソフトで画質調整をすることに意味があるとは思いませんが、真っ黒につぶれているように見えたり真っ白に飛んでしまっているような中にも、かなりしっかりと記録されているというのは事実であり、フィルムの力だと思います。
 また、露出オーバーよりも露出アンダーの方がよりしっかりと記録されており、特性曲線と一致しています。もっともこれは、露光量が増えれば増えるほど情報が消えていってしまうので、当たり前のことと言えますが。

 リバーサルフィルムは、特性曲線が傾いている範囲がカラーネガに比べて少ないのでラチチュードが狭いと言われているのかもしれませんが、決して狭いわけではないと思います。
 黒くつぶれたり白く飛んだりしている中にも情報が記録されていることでべったとした感じにならず、良くわからないけれど何やら写っている、というような印象を受けることで写真全体の雰囲気が変わってきます。ここにフィルム独特の味わいが醸し出されているのではないかと勝手に思い込んでいます。

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 モノクロプリントやカラープリントはもちろんですが、リバーサルフィルムからのダイレクトプリントでも覆い焼きや焼き込みといった作業で色を調整したりディテールを引き出したりしていたことを考えると、リバーサルフィルムの潜在能力の凄さをあらためて感じます。
 そして、特性の違いはありますがカラーネガフィルムに比べてハードルが高いということはなく、特に構えて使うフィルムでもないと思っています。むしろ、特性を知っておくことでいろいろな使い方ができる、そういったことに応えてくれるフィルムだと思います。
 ただし、お値段はお高めですが...

(2022.6.19)

#リバーサルフィルム #露出

コンパクトフィルムカメラ コンタックス CONTAX T2

 他のページにも書きましたが、私は何年か前に35mm判カメラのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っている35mm判カメラは、CONTAX T2とフォクトレンダーBESSAMATICの2台のみです。BESSAMATICはすっかりディスプレイと化していて実際に使うことはほとんどありませんが、CONTAX T2はお散歩カメラとして、発売から四半世紀を過ぎた今でもバリバリの現役です。
 CONTAX T2にもいろいろなバリエーションがありますが、私の持っているカメラは最終型のリミテッドブラックというモデルです。

CONTAX T2の主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(CONTAX T2取扱説明書より引用)。

   レンズ      : Sonnar T*38mm F2.8 4群5枚
   シャッター    : レンズシャッター 1秒~1/500秒
   絞り目盛り   : F2.8~F16
   最短撮影距離  : 0.7m
   露出計      : SPD受光素子
   ファインダー   : 逆ガリレオ型採光式ブライトフレーム
   AF方式     : 赤外線式アクティブオートフォーカス
   フィルム感度  : ISO25~5000
   フィルム装填  : オートローディング方式
   電池      : CR123Aリチウム電池 1本
   大きさ     : 119mm x 66mm x 33mm
   重量      : 295g(電池別)

 初代のCONTAX T2が発売されたのは1990年ですが、リミテッドブラックが発売されたのは通常モデルの生産終了後の1998年で、2,000台の限定品でした。価格(メーカー希望小売価格)は他のCONTAX T2と同じく12万円という高額のカメラでした。
 直方体の中にほとんど凹凸のない状態でレンズ(収納時)やダイヤル、ボタンなどが綺麗に納まっており、それまでのコンパクトカメラとは一線を画しているという印象がありました。

 初代のCONTAX T2を目にしたとき、欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、あまりの高額に手が出せずにいました。「いつかはT2」と思いながらも時は過ぎ、やがて生産終了を迎えてしまいましたが、その後まもなくして限定品が出るというアナウンスを耳にし、これを逃したらいつかは来ないと思い、予約して購入したのがついこの間のことのようです。

 チタン製のボディに加えてファインダー窓にサファイアガラスが採用されていたり、多結晶サファイアのシャッターボタンやセラミック製のフィルム圧板、そして立派な化粧箱など、随所に高級感がちりばめられているというカメラでした。
 その当時、他メーカーのコンパクトカメラも持っていたのですが、CONTAX T2を手にしたとたん、それまでのコンパクトカメラがとてもチープに見えてしまったことを覚えています。CONTAX T2を持ち出すと何だか写欲が湧いてくるように感じたのは、その高額な価格のせいだけではないと思います。

自動とマニュアルを兼ね備えた、優れた操作性

 オートフォーカス(AF)、および自動露出(AE)に設定しておけば、あとはシャッターを押すだけで撮影ができるわけですが、マニュアル撮影もできるようになっており、この辺りもカメラ好きの心をくすぐるカメラと言えます。
 カメラ上面のダイヤルをAFポジションから解除する方向に回すと、その瞬間からマニュアルフォーカスになります。レンズの絞りもAEポジションから回すとマニュアル露出になり、少ない操作で自動/マニュアルが切り替えられるようになっていて、操作性に優れていると思います。
 また、ストロボ撮影もレンズの絞りリングで切り替えるようになっていて、いくつものスイッチやダイヤルをいじらなくても済むように考えられています。

 もちろん、一眼レフカメラのように細かな設定はできませんが、通常の撮影には全く不便を感じません。コンパクトカメラというカテゴリーに入るようですが、使っているとそれを忘れてしまいます。「高級コンパクトカメラ」という分野を築いたと言われるのも頷けます。

オートフォーカス機能が弱い?

 このカメラの唯一の弱点と言えるのかも知れませんが、オートフォーカスが弱いというか、クセがあるというか、そんな印象があります。
 狙ったところにピントが合わない、ということが時々起きます。特に、近景にピントを合わせようとしたときに起きる傾向が強いように感じます。ただし、これは個体差があるのかもしれません。

 また、マニュアルフォーカスでピント合わせをしようとしても、フォーカシングダイヤルの目盛りは非常にラフな状態だし、ファインダー内にフォーカシングインジケータがありますが、どの程度の精度があるのか良くわからないし、ということでマニュアルフォーカスはほとんど使ったことがありません。

 36枚撮りのフィルム1本の中で1~2コマのピンボケが生まれることがありますが、フレーミングの際に少し気をつけて慎重に行なえば回避できるレベルです。

カールツァイス ゾナー Sonnarレンズの描写力

 CONTAX T2に採用されているレンズはカールツァイスのSonnar T* 38mm F2.8ですが、焦点距離38mmに対して開放F値が2.8というのは特に明るいわけでもなく、レンズ構成の4群5枚を見ても特に目を引く仕様というわけではありません。
 これは個人的な感想ですが、カールツァイスのSonnarというと色ノリが良いという印象があります。当時、一眼レフ用のレンズでも何本かのSonnarを持っていましたが、Planarなどと比べるとこってりとした色合いになるように感じていました。
 実際にCONTAX T2で撮影してみた時に、やはり色のりはSonnarだと感じたのを覚えています。

 下の写真は、CONTAX T2で撮ったスリーブをライトボックスに乗せた状態で撮影したものです。

 良く晴れた日だったので、近所を散歩しながら青の景色を撮り歩いた写真ですが、色のりの良さがわかると思います。使用しているフィルムはVelvia100というリバーサルフィルムなので、もともとが鮮やかな色合いになる傾向ではありますが、Sonnarっぽさが感じられます。

 もちろん解像度も素晴らしく、一眼レフカメラで撮影したものと比べても遜色ないといった感じです。
 スリーブの中の1コマをスキャンしたのが下の写真です。

 中央の高圧線の鉄塔やケーブルはもちろんですが、手前の木々の葉っぱも非常に良く解像していると思います。順光に近い状況ということもあり、空の青や下の方の葉っぱの緑がとても鮮やかな色になっています。

 もう一枚、福島県の大内宿で撮ったものです。

 大きな民家の軒下にたくさんのお土産品が並べられており、直射日光は当たっていないので光が柔らかく回り込んでいる状況ではありますが、やはり解像度は立派だと思います。

赤が鮮やかに発色するという噂

 CONTAX T2に搭載されたSonnarは、特に赤の発色が極めて鮮やかだという話しは有名です。
 私自身はそのように感じたことはほとんどなく、どちらかというと青とか緑の発色が鮮やかだと思っていたのですが、あらためてCONTAX T2で撮影したポジを見てみると確かに赤の発色の鮮やかさは感じられます。ただし、極めて鮮やかかというと、それほどでもないというのが正直なところです。ですが、これは撮影した被写体によるところも大きいのではないかと思います。

 CONTAX T2で撮影したコマの中から、赤が鮮やかに発色しているものを物色してみました。

 日光東照宮で撮影したものですが、建物の周囲に設置されている柵がとても鮮やかに出ています。雨上がりの早朝ということで全体が落ち着いた色合いになっているのですが、確かに赤い柵だけが妙に鮮やかに感じられます。
 全体のトーンが低いので赤が目立っているのかもしれませんが、光の具合や他の被写体との組み合わせで見え方も変わってくるわけで、この噂に関する真偽のほどはわかりません。

 むしろ、私は赤よりもピンクというか肌色というか、赤よりも少し淡い色の方が綺麗に発色すると感じていました。
 ポートレートだとわかり易いと思うのですが、CONTAX T2で撮影したポートレートがないので、比較的色合いが近いと思われるものを見つけてきました。

 どこの神社でもよく見ることができる狛犬です。
 色のトーンがニュートラルグレーに近い感じだと思うのですが、とても自然な感じに描写されていると思います。赤の鮮やかな発色とは対極にあるような印象さえ受けます。
 このように、CONTAX T2の赤の発色に対して私が持っているイメージはそれほど派手なものではありません。

いま、CONTAX T2の中古価格が異常に高騰している

 ところで、昨今、中古カメラ価格が全般的に上昇しているように感じているのですが、中でもCONTAX T2の中古価格の高騰ぶりには驚かされます。
 もともとの価格(12万円)を超える中古品はざらで、中には20万円以上するものまで出回っています。もちろん、そういった価格がついているものは程度も非常に良い個体だし、金ぴかのゴールドモデルだったりするわけですが、それにしても異常とも思える状況です。
 いったい、20万円も30万円も出して誰が買うのだろうと考えてしまいます。個人で購入する方もいらっしゃるだろうし、中古カメラ販売をビジネスにしている方もいらっしゃるとは思うのですが、そのカメラの行き先が妙に気になってしまいます。

 ネットオークションなどを見ると、CONTAX T2やT3はとても綺麗で程度の良いものがたくさん出品されています。四半世紀も前のカメラが綺麗な状態でこれほどたくさん出品されているということは、大事に保管されていてあまり使われてこなかったということなのかとも思ってしまいます。
 CONTAX T2にしてもT3にしても、これまで実際に持ち歩いている人を見かけたことは非常に少ないです。もしかしたら、箱入り娘のようなカメラなのかも知れません。

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 私はこのカメラを散歩や旅行などの時に良く持ち出して他愛もないものを撮っています。購入してから24年が経ちますが、四半世紀も前のカメラということを全く感じさせません。もちろん、人によって好みがあると思いますが、私はすっきりとしたデザインがとても気に入っています。

(2022.6.12)

#CONTAX #コンタックス #リバーサルフィルム #レンズ描写