撮影済みフィルムのデータ化と保存について思うこと  ~フィルムの保存は永遠の課題~

 「フィルムは生もの」という表現を聞くことがありますが、これはどちらかというと使用前のフィルムのことを指していることが多いと思われます。フィルムには使用期限が決められており、それを過ぎるとどんどん劣化していってしまうという意味で「生もの」という表現をしているのだろうと思います。確かに、使用期限を大幅に過ぎてしまうと感度の低下や発色不良などが生じてしまうことがあります。
 同様に、撮影済み、現像済みのフィルム(ポジやネガ)も経年劣化は避けられません。特に東京のように高温多湿の時期が長い地域では劣化が進む度合いが速いと思います。

 冷暗所など、保管場所に気をつけることで劣化の速度を遅らせることはできても、劣化をとめることはできません。冷凍保存でもすれば良いのかもしれませんが、何百年も未来の人類に残すための写真であるならともかく、自分が撮影したフィルムを冷凍保存しようものなら、自分が生きている間に二度とその写真を見ることはかなわず、非現実的であるのは言うまでもありません。永久凍土に閉じ込められたマンモスのようにしても意味があるとも思えません。

 これといった画期的な手立てがなかなか思いつかないフィルムの保存ですが、有効な保存方法の選択肢の一つとして写真のデータ化があります。完ぺきな方法とはいえませんし、物理的なポジやネガのフィルムと同じような状態で保存できるわけではありませんが、私も大事な写真はデータ化をして保存しています。

 フィルムのデータ化そのものは比較的単純な作業であり、自分で行なう場合はパソコンとスキャナがあればとりあえず可能になります。しかし、民生用の機器では時間もかかるし、フィルムの枚数が多いと大変な作業量になります。
 私がこれまでに撮影したフィルム写真のうち、現在も保管されているのは20数万コマあります。フィルムの種類は35mm判、ブローニー判、大判などいろいろですが、これらをすべてデータ化しようとしたら、私の余生のすべてを注ぎ込んでも時間が足りないと思われます。
 今はフィルムからデータ化してくれるサービスもたくさんありますから、そういったところにお願いする手もありますが、全部やろうとしたら半端ない費用がかかります。

 近年、フィルム価格が高騰しているとはいえ、今もフィルムを使っているので撮影済みのフィルムは増え続てけいるわけです。過去のものも含めてすべてをデータ化しようなどとはまったく思っていません。自分にとって大切で、残しておきたいと思うコマに限って少しずつスキャンしているという状況です。

 私がデータ化に使っているスキャナはエプソンのGT-X970というフラットベッド型のスキャナです。購入してから15~6年は経過しており、製品自体はかなり古いのですが、35mm判から大判(8×10)シートフィルムまで対応できるスキャナとなると選択肢が他にありません。現行機種は後継機のGT-X980ですが、私のGT-X970はまだ問題なく動いているので使い続けています。

 私はこのスキャナを使って、読取り解像度6,400dpiでスキャンしています(6,400dpiはこのスキャナの主走査方向の最高解像度です)。
 6,400dpiなどという高解像度でスキャンしてもそのままの解像度で使うことはないのですが、6,400dpiというとピッチが約3.97μmで、これはリバーサルフィルムの乳剤粒子の大きさにほぼ近い値です。値が近いからと言ってフィルムと同じようになるわけではありませんが、保存用なので出来るだけフィルムの状態に近づけておきたいという思いです。実際にプリントしたりするときには、品質を損なわないところまで解像度を落として使用するのは言うまでもありません。

 6,400dpiでフィルムをスキャンした場合の画像の画素数は以下のようになります。計算上の値であり、実際には若干前後します。

  ・35mm判 : 6,047 x 9,070 (約5,480万画素)
  ・67判   : 14,110 x 17,386 (約2億4,530万画素)
  ・4×5判  : 25,700 x 32,000 (約8億2,240万画素)

 ちなみに、GT-X970の副走査方向は9,600dpiと12,800dpiも対応していますが、実際にその解像度でスキャンしても画質が良くなるわけではなく、むしろ悪くなる感じなので、私は使用していません。
 また、スキャナ用のソフトウェアにはエプソン自慢のDigital ICEやホコリ除去、退色復元などの機能がついていますが、フィルムに忠実なデータを残すということから、私はこれらの機能も一切使用していません。

 このようにスキャンして得られたデータを保存するわけですが、私は2種類のデータを用意しています。
 まず一つ目のデータはスキャンしたままのデータ、つまり、一切加工を加えていない状態のデータです。厳密にいえばスキャナのドライバやソフトウェアによって何某かの加工が加えられているわけですが、さすがにどのようなアルゴリズムで機能しているかまでは知ることはできないので、出来るだけ加工の少ない状態で読み取ったデータを素の状態とせざるを得ません。
 また、細かなゴミやホコリが着いていたりしますが、それも含めて読み取ったままの状態としておきます。これをオリジナルデータとしています。

 二つ目のデータですが、こちらはゴミの除去と色調の調整を行ないます。
 レタッチソフトを使ってオリジナルデータからゴミなどを除去していきます。ゴミ以外のところは極力いじらないようにするため、とにかく手間のかかる作業です。ゴミの付着度合いにもよりますが、67判のフィルムの場合、1コマあたり20~30分はかかります。青空のようなフラット状態のところに着いたゴミは比較的簡単に除去できますが、花とか木の枝葉など、ゴチャゴチャしているところに着いたゴミを取り除くのは手間がかかります。

 ごみを取り除いた後にポジ原版に限って行なうのが色調の調整で、ライトボックスで見たポジ原版とスキャンしたデータの色調を出来るだけ合わせるというのが目的です。
 スキャンデータはスキャナのハードウェアやソフトウェアによって色が作り出されているわけで、ライトボックス上のポジ原版と同じ色調になるはずもないのですが、出来るだけフィルムに近づけておきたいという理由です。そのため、パソコンのモニタもキャリブレーションしたものを使い、モニタによる色の影響を出来るだけ受けないようにします。
 エプソンGT-X970の場合、それほどポジ原版から偏った色調になることはないというのが私の印象ですが、若干、マゼンタが強く出る傾向があると感じています。ただし、これは私が使っている機器だけ、つまり個体差によるものかも知れません。

 なぜ、何の加工も施さないオリジナルデータと、そこに若干の加工を加えたデュプリケートデータの2種類を用意するかというと、ポジ原版が経年劣化で退色していった場合、元の色がわからなくなってしまうのを防ぐためです。全く同じ色をデータで残すことは無理ですが、少しでも撮影直後の色を残しておきたいということです。

 スキャンしたデータは48bitのTIFF形式で保存します。データサイズは大きくなりますが、圧縮などによる劣化が起きないようにするためにTIFF形式を用いています。

 さて、こうしてできた保存用のデータですが、最も頭の痛いのがその保存方法です。
 画素数も大きく、データ形式もTIFFのため、データサーズがバカになりません。1コマあたりのおおよそのデータサイズを計算すると以下のようになります。

  ・35mm判 : 約320MB
  ・67判   : 約1.4GB
  ・4×5判  : 約4.6GB

 データ保管してくれるサービスもありますが、このようにバカでかいデータをポンポンとアップロードしようものならあっという間に容量の上限を超えてしまい、課金対象の超優良顧客になってしまいます。
 ということで、私はハードディスクを用意して、そこに保存しています。

 一過性のデータを保存するのであればあまり神経質になることもありませんが、あくまでも保存用ということですので、ある程度の信頼性も必要という判断から、RAID-5構成のハードディスクを使用しています。4台のディスクドライブで構成されており、4台あっても1台分はパリティ用として使われてしまうので実効容量は3/4に減ってしまいますが、障害に対する信頼性が高いのと、ドライブ故障時のリカバリ(交換)が簡単にできるというメリットがあります。
 現在、私が使用しているハードディスクの実効容量は9TB(RAID-5)です。このハードディスクに、上で書いたような方法で作成した画像データを保存する場合、67判だと約3,290コマ分、4×5判だと約1,001コマ分の保存ができます。かなりの枚数が保存できるように感じますが、今あるフィルム全体の数パーセントにも満たない量です。

 すべてのコマをデータ化して保存するつもりはないとはいえ、保存するデータは徐々に増えていくので、ハードディスクに入りきらなくなったら新たにハードディスクを追加するしかありません。しかし、いくら小型化しているとはいえ、そこそこの場所をとります。今は1台だけなので何とかなっていますが、これが2台、3台と増えていったら大変なことになります。それこそデータセンターとかホスティングを検討しなければならない状態になってしまいますが、そこまでして保存しようという気にはなりません。用意できる設備に保存可能な範囲の中で運用していくというのが現実的だと思っています。

 そして、最大の悩みが保存媒体(ハードディスク)の劣化対応です。
 データ自体は経年劣化しませんが、それを入れておく記憶媒体は機械ものなので、やはり経年劣化していきます。一般的にハードディスクの場合、3~5年が寿命と言われています。もちろん使用頻度によって寿命も大きく変わるので、業務用で使っているのでなければもう少し長くもつとは思いますが、いずれにしても交換しなければならない時期が定期的にやってくるということです。
 また、仮にクラッシュしてもバックアップがあれば何とかリカバリが可能ですが、もし、それもなければ救済不可能ということにもなりかねません。
 私もこれまでに、使用していたハードディスクがクラッシュしたという経験は何度もありますが、壊れてしまうとリカバリがとにかく大変です。壊れる前に新しい機器に交換しておくのが望ましいのでしょうが、交換するとなると出費もかさむことだし、まだ変な音がしていないからしばらくは大丈夫だろうなどと、何の根拠もない理由をこじつけて先延ばししてきたことも数えきれません。

 RAID-5構成の場合、このような最悪の事態のいくつかは軽減してくれますが、その製品自体が販売終了などということになると、いずれは総入れ替えが必要になってきます。そうなると、新しい代替の機器を購入してきても膨大な量のデータ移行という作業が待っていて、これも結構時間がかかります。
 データによる保存というのは便利で効果的にも思えますが、確実に保存していくための運用を考えるととても大変で、キリがないということです。
 例えば、フィルムは火事などで燃えてしまえば何も残りませんが、データは複数個所に分散保存しておけば完全消失は防げます。しかし、保存場所が1ヵ所しかなければデータと言えどもすべて消失してしまうことに変わりはありません。

 こうして、あらためて撮影済みのフィルムの保存について考えてみると、データ化というのは効果的な面もありますが、より確実性の高いものを求めると、時間とお金がいくらあっても足りないという気がしてきます。むしろ、フィルム自体の経年劣化を出来るだけ遅らせるところに時間とお金をかけた方が良いのではないかと思えてきたりもします。
 フィルムの経年劣化は防げないとはいえ、私のささやかな経験からすると、ポジ原版(リバーサルフィルム)は経年劣化に対する耐性が優れていると思っています。常温保管の場合、カラーネガだと6~7年で黄変やビネガーシンドロームが出始めますが、ポジ原版は30年近く経っても健在です。もちろん、劣化は進んでいるのでしょうが、目視で明確にわかるほどひどくはなりません。そして、モノクロネガははるかに耐性があります。
 であるならば、撮影済みのフィルム保管用に冷蔵庫を調達したほうが良いのでないかと思ってしまいます。

 私は、撮影済みのフィルムについては光が入らないキャビネットの中で保管していますが、特に温度管理をしているわけではなく常温保管です。それでも20年、30年経過してもまずまずの状態を維持しているわけですから、冷蔵保管すればもっと良い状態を保つことができるのではないかと思います。冷凍保存と違い、冷蔵保存であれば出し入れもし易いので、いつでも使うことができますし、冷蔵庫はハードディスクに比べて何倍も寿命が長いのもメリットに思えます。また、冷蔵庫が壊れても中のフィルムがなくなるわけではないというのが素晴らしいです(当たり前ですが)。
 ただし、全てのフィルムを冷蔵保管するとなると容量600L並みの大型冷蔵庫が必要となり、置き場所など考えるとそれはそれで頭の痛い問題です。

 自分にとって大切な写真、残しておきたい写真のデータ化は今後も地道にやろうと思いますが、完璧を求めすぎず、ほどほどにしておくのが良いと感じています。
 私の場合、何といっても撮っている写真がアナログなわけですから、保存もアナログが適しているのかも知れません。

(2023年7月9日)

#リバーサルフィルム #スキャナ #エプソン #EPSON #保管

現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管

撮影済みフィルムの効率的な管理方法...フィルム写真をデッドストックにしないために

 フィルム写真をやっていると当然のことながら撮影済みのフィルム(ポジやネガ)が溜まっていきます。フィルム1枚は薄いし軽いのですが、数が増えるとその量や重さも半端なく、保管するにも物理的に場所をとります。このあたりがデジタル写真との大きな違いでもあります。
 どんどん増えていく撮影済みフィルムの保管とその管理をどうするか、これはフィルム写真をやっていく上での永遠のテーマのようにも思えます。
 フィルムの保管の仕方や管理方法はみなさん工夫をされていると思いますし、これまで私もいろいろ試行錯誤してきました。しかし、なかなか最適解が見つからずにいますが、現在、私が行っている管理方法について触れてみたいと思います。多少なりとも参考になれば幸いです。

フィルムは整理しすぎない方が良い?

 日頃、私が使っているフィルムは大判(4×5判)と中判(ブローニー)がほとんどですが、かつては35mm判もかなり使っていました。リバーサルフィルムがいちばん多いのですが、モノクロフィルムやわずかですがカラーネガフィルムもあります。
 35mm判と4×5判ではフィルムの大きさも随分違いますし、当然、保管の方法も異なります。
 大判や中判の中でも大切なコマは中性紙に挟んで保管していますが、1コマずつのスリーブに入れて保管しているものもあります。35mm判は6コマずつのスリーブに入れたり、マウントしてあるものもあります。

▲様々な大きさのフィルム

 以前は、、35mm判も大判もできるだけ同じ方法で保管する方が管理もし易いと思い、スリーブやホルダーを統一したり、保管場所(キャビネット)を厳密に決めたりいろいろトライしてみたこともありますが、ほどなく行き詰まりを感じてしまいました。保管するための物理的なスペースの問題やコストの問題もさることながら、手間がかかりすぎるのと使いにくいということがいちばんの理由でした。
 そんな紆余曲折を経ながら、整理しすぎないことがいちばん良いのではないかという結論に達しました。

 今は、大判や中判はコマ単位にスリーブに入れたり中性紙に挟んだりしていますが、大きさや種類もバラバラですし、35mm判は6コマごとのスリーブのままというのが圧倒的に多いです。
 保管も以前のようなホルダーは使わず、お菓子の入っていた箱など、身近にある適当なものを再利用しています。その方が保管効率がはるかに高いと思っています。
 急に思い立って押し入れの中を整理し、奥の方から隙間なく詰め込んでいったら綺麗に収まったけど、どこに何があるかわからなくなり、取り出したくても取り出せなくなったという状況によく似ています。

保管するなら管理が必要

 しかしながら、整理をほどほどにしておく場合は管理をしっかり行わないと活用できなくなってしまうという問題があります。
 撮影済みのフィルムの量が少ないうちは全貌が把握できているので管理するまでもありませんが、量が増えてくると頭の中だけで把握するのは無理があります。紙でもEXCELでも構いませんが、台帳のような方式で管理してもやはり限界があります。
 今、私の手元に残っている撮影済みフィルムは、コマ数でいうと20万コマを軽く超えています。ここまでくるとEXCELでも手に負えません。

 写真というのは他人からすればつまらないものであっても、自分が撮ったものは簡単には捨てられないものです。撮影から3年を経過したら廃棄する、というようなことができれば悩まずに済むのですが、なかなかそういうわけにもいきません。
 ですが、捨てられずに保管をしておいても、使わない、あるいは使えないのであれば、そもそも保管をしておく意味がありません。撮影済みのフィルムを捨てられないのは、いつか使うかもしれない、何十年後かにまた見てみたい、というような思いがあるからではないかと思いますし、大切な思い出や記録をそう簡単に捨てられるわけがないということでしょう。
 また、仮に電子データ化したとしても、フィルムは捨てられないと思います。

 私もそのような思いをもっていますし、私の場合、過去に撮った写真を使うことが割と多くあります。オリジナルカレンダーやポストカードを作ったり額装して壁にかけたり用途は様々ですが、いずれも大量のストックの中からお目当てのコマを探し出さねばなりません。それも、できるだけ迅速に簡単に。
 一生使わないのであればともかく、使う可能性があるのであれば保管してあるフィルムを管理することがどうしても必要になります。

自作の管理ツールで撮影済みフィルムを一括管理

 そんなわけで、効率的な管理の必要性を痛感し、ずいぶん前になりますが撮影済みフィルムの管理ツールを作り、今はそれを使って管理しています。

 私が使っている管理ツール(名前はありません)は、RDBMS(リレーショナルデータベース)にコマ単位で写真の情報を登録し、それをいろいろな条件で検索できるようにしているという非常にシンプルなものです。個人が使うレベルであればRDBMSやアプリケーション開発用の環境なども無償で入手できるものがたくさんあるので、多少の手間がかかるだけでコストはほとんどかかりません。
 因みに私が使っているRDBMSはオープンソース・データベースで最もポピュラーな「My SQL」で、アプリケーションは「Visual Studio」で作っています。どちらも無償です。

 無償と言っても個人が使うには十分すぎる機能や性能があり、数百万件の中から指定された条件で抽出するというようなことは瞬時にやってのけます。
 また、データベースに登録できる件数はサーバ(ハードディスク)の容量に左右されますが、画像データを含めなければ数千万件くらいは物ともしません。

 実際に使用している管理方法を簡単にご紹介しますが、まず、撮影済みフィルムを管理するために以下のような項目を用いています。

  ・コマの固有番号やタイトル
  ・保管箱の番号
  ・撮影に用いた機材
  ・撮影データ(絞りやシャッター速度、フィルムなど)
  ・撮影日時
  ・撮影場所
  ・写真のカテゴリー

 これらの項目を入力したり参照したりするために、Visual Studioで作成した以下のような画面を使っています。

▲撮影済みのフィルムを管理するツールの画面

 フィルム(コマ)を入れたスリーブには固有番号を書き込み、それを保管箱に入れて保管します。
 固有番号は自由につけることができますが、それとは別に管理ツールが自動で採番する番号(Seq-No)もあるので、どちらを使っても構いません。 
 
 「タイトル」はいわゆる作品につけるタイトルではなく、どのような写真かがわかるような説明文です。
 また、青い入力フィールドは直接入力しなくても、その左側にある黄色の入力フィールドに入れると自動的に入るようになっています。例えば、撮影地(上の例では「白川郷」)を入力すると、白川村、岐阜県、日本が自動的に入るようにしています(もちろん、個別に入力することもできます)。

 写真のカテゴリーは全部で8項目まで入力できるようにしていますが、これは非常に自由度の高い項目です。当該のコマがどのようなカテゴリーなのかを登録するのですが、例えば、「風景」とか「スナップ」、「桜」、「渓谷」、「街並み」、「夏」、「人物」など等、その写真をある程度分類できるような項目を入れるようにしています。
 これは検索のときにとても効果を発揮してくれ、目的の写真を見つけ出すのに非常に役立っています。
 例えば暑中見舞いのポストカードに海の写真を使いたいというような場合、「海」、「風景」などといったカテゴリーを入力して検索すると、それに該当したコマを一覧で表示することができます。

 また、カテゴリー以外もすべて検索条件として使用でき、北海道で冬に撮影した写真を検索したいような場合は、撮影都道府県を「北海道」、季節を「冬」と入力して検索すると該当するコマの一覧が表示されます。

 そして、表示された一覧の中からコマを選択すると、登録されている写真の情報や、画像データがある場合はサムネイルが表示され、お目当てのコマがどの箱に保管されているかがわかりますので、その箱の中から固有番号(コード)のコマを探せばよいことになります。

▲撮影済みフィルムの保管箱

 箱によって保管するフィルムの種類を決めることはせず、一つの箱に大判も中判も35mm判も同居しています。その方が整理の手間がかからずに済みます。

 前の方にも書きましたが、撮影済みフィルムを保管している箱は適当な空き箱を使っており、大きさもまちまちですが、あまり大きなものは使っていません。箱に通し番号を書き込んでおいて、その番号をコマ情報の一項目として入力します。

 管理ツールの入力画面でもわかるように、撮影したコマごとに入力する情報は結構たくさんありますが、すべての項目を入力しなければならないわけではありません。
 また、固有番号とタイトル以外の項目はあらかじめ登録されたマスタデータの中から選択する方式なので、手入力する手間も省けます。
 なお、保管する箱の番号は必ず入れておかないと保管場所が特定できず、管理ツールに登録する意味が半減してしまいます。

フィルムの検索履歴や使用履歴も重要な情報

 このようにフィルムを管理していると、検索に引っかかったコマの履歴がわかります。そのコマが何に使われたかまでは記録していませんが、そのデータもとれるようにしておけば使用履歴もわかるようになります。その使用履歴がわかると、あの時使ったコマをまた使いたいというような場合、とても効率的に探し出すことができます。
 自作の管理ツールですので、時間のある時にでも機能改善したいと思っています。

 しかし、こうした便利機能もデータがあってこそです。簡単な仕組みで結構便利だと自分では思っているのですが、登録してあるデータベースが消えたら目も当てられません。少々の障害なら修復できるのですが、例えばサーバのハードディスクがお亡くなりになられたりするともうお手上げです。
 そうならないようにバックアップなどの対策は必要になります。

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 撮影済みのフィルムはじわじわと増え続け、気がついたら手に負えなくなっていたなんてことは容易に起こりえます。デジタルにすればこういった悩みのいくつかは解消されますが、せっかくのフィルム写真ですから、死蔵品とならないように活用していきたいと思います。
 もっとも、デジタルにしたところで、データをどうやって保存していくかという悩みは残っていくと思いますが。

(2022.4.29)

#保管

現像済みのフィルムの経年劣化と保管

 フィルムを使っていると、撮影前のフィルムの保管、撮影後から現像するまでの保管、そして現像後のフィルムの保管と、常に「保管」をどうするかということがついて回ります。
 フィルムをデータ化されている方も多いと思いますが、やはり、せっかく撮った写真をフィルムの状態で残しておきたいというのが正直な気持ちです。
 そこで今回は、現像後のフィルムの経年劣化や保管方法について触れてみたいと思います。

ビネガーシンドローム

 ネガにしてもリバーサルにしても現像後のフィルムというのは、スリーブに入ったまま箱などに放り込まれ、長年にわたってそのままの状態で保管されっぱなしということが多いのではないかと思います。いったんプリントしたり電子化したりした写真のネガやポジはそれほど頻繁に使うものではないので、以降は日の目を見る機会が非常に少なくなります。
 ある日、ふと思いついたように現像済みのフィルムを保管しておいた箱を開けてみたら、ツーンとする酢のような臭いがしたという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。

 これは一般に「ビネガーシンドローム」と呼ばれており、フィルムが高温多湿の密閉された状態に長期間置かれていたことによる劣化で、フィルムのベース素材が空気中の水分と結びついて変質(加水分解)していく現象と言われています。
 初期の段階は酢のような臭い(酢酸臭)だけですが、進行するとフィルム表面がべとつきはじめ、さらに進行するとフィルムがワカメのように波打ったりカールしたりしてしまいます。
 ビネガーシンドロームが一度起きてしまうと、修復することはもちろん、完全に進行を止めることもできません。
 保管してある箱を開けただけでは臭いがわからなくても、スリーブからフィルムを抜き出して鼻を近づけたときに、ふんわりと酢の臭いがしたら、既にビネガーシンドロームが始まっている証拠です。

 このビネガーシンドロームは、セルローストリアセテートという素材で作られたフィルムに起きる現象のようで、ポリエステル製のフィルムでは発生しないようです。
 富士フィルムのデータシートを調べてみたところ、カラーネガ、モノクロ、リバーサルのいずれも35mmフィルム、およびブローニー(120、220)フィルムはセルローストリアセテートが使用されており、シートフィルム(4×5、8×10)に関してはポリエステル素材を使用しているとのことでした。
 すなわち、シートフィルム以外はビネガーシンドロームの呪縛からは逃れられないということになります。

退色と黄変

 ビネガーシンドロームと同じくらい避けがたい経年劣化が「退色」と「黄変」です。
 退色は色が抜けていってしまう現象で、退色前と比べるとずいぶんあっさりした色合いになってしまいます。ネガは見ただけではわかりにくいですが、プリントすると良くわかります。

 下の写真はおよそ35年前にカラーネガフィルム(フジカラー)で撮ったものですが、退色してしまった例です。

▲退色の例 カラーネガフィルムにて撮影

 モノクロ写真ではないかと思えるほど、あっさりした色になってしまっています。退色前のものと比較するまでもなく、誰が見ても退色しているのは明らかです。

 そして、退色よりも発生頻度が高いのではないかと思われるのが黄変です。黄変も退色の一つかもしれませんが、画全体、もしくは一部分が黄色く変色してしまう現象です。青が抜けて(退色)しまうことで黄色くなってしまうようですが、ネガを見ただけではわからず、プリントしたりスキャンして初めて黄変に気がつくことが多いです。

 同じく、およそ35年前にカラーネガフィルムで撮った写真ですが、見事なまでに黄変しています。

▲黄変の例(1)  カラーネガフィルムにて撮影

 青い色が抜けてしまい、補色となるなる黄色が目立ってくるのだと思います。
 また、同じころに撮影したものでも、あまり黄変が生じていないスリーブもあります。スリーブによって出たりでなかったりしているので、フィルムの違いとか現像処理の影響とかがあるのかもしれません。

 黄変がそれほど感じられない写真でも、拡大してみると黄変が発生しているものもたくさんあります。
 下の写真はパッと見では比較的黄変は少なく感じます。

▲黄変の例(2)  カラーネガフィルムにて撮影

 しかし、上の空の部分を拡大してみると、こんな感じです。

▲黄変の例(2) の部分拡大

 斑点のように黄色が広がっているのがわかると思います。たぶん、あと何年かすると真っ黄色になってしまうと思われます。

リバーサルフィルムは退色に強い

 カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムは退色や黄変に対して非常に強い印象です。
 下の写真は36年前にリバーサルフィルム(フジクローム)で撮影したものです。

▲リバーサルフィルムにて撮影

 若干の退色は認められますが、変色はほとんど感じられません。
 保管条件はほとんど同じですので、リバーサルフィルムの方がはるかに劣化に対する耐性が強いのがわかります。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使うことが多いのですが、カラーネガのように退色や変色で手に負えなくなったということがありません。

私流、フィルム劣化の防止と保管方法

 残念ながらフィルムの経年劣化を完全に防止することは不可能と思われます。一説には冷凍保存すれば良いという話しもあります。確かに、何十万年も前に死んだマンモスが永久凍土から発見された例があるくらいなので、フィルムも冷凍保存すれば劣化は防げるかもしれませんが、再利用することはあきらめねばなりません。

 しかし、ビネガーシンドロームにしろ退色にしろ、進行を遅らせることはある程度可能だと思います。高温と高湿と光をどれだけ防ぐことができるかによって、劣化の速度はずいぶん変わるといわれていますので、冷凍保存とは言わないまでも、冷蔵庫で保存することができればかなり効果的だとは思います。しかし、保管するフィルム量が多くなると個人でそれを行なうのは結構ハードルが高いと思います。

 また、日の当たらない、比較的涼しい場所で保管することは大切ですが、スリーブに入れっぱなしというのはあまり好ましくないと思っています。特に、ビネガーシンドロームを発症している状態だと、フィルムとスリーブがくっついてしまい、使い物にならなくなってしまう可能性があります。

 私は、重要なフィルムについてはスリーブを使わず、中性紙に挟んで保管しています。「ピュアガード」という製品名で販売されている中性紙があるのですが、これをフィルムの幅に切り、蛇腹状に折って、ここにフィルムを挟んでいます。
 下の写真はブローニーフィルムの例です。

▲中性紙を用いたフィルムの保管(ブローニーフィルム)
▲ピュアガード

 これを同じく中性紙で作られた箱に入れて保管しています。
 ビネガーシンドロームの予防には通気性も重要だと言われていますので、スリーブのようにフィルムと密着することもなく、通気性も多少は改善されると思います。
 そして、普通に市販されているキャビネット(金属製)に入れておくだけですが、キャビネットの天井にパソコンに使われているような冷却ファンを2個、取り付けてあります。これでキャビネット内の空気を常に入れ替えるようにしています。キャビネット内には光が入らないので、フィルムを入れた箱には蓋をしてありません。

 この方法でどれくらいの効果があるのか、定量的なデータは持ち合わせておりませんが、いま手元にある最も昔に撮影したフィルムを見る限り、退色はあるものの、ワカメ状態になっているものやカールしているものは確認されていません。ただし、鼻を近づけるとわずかに酢の臭いがするものがあります。やはり、ビネガーシンドロームは進行していると思われます。
 因みにいちばん古いのはカラーネガフィルムで、1983年4月の撮影ですから、今から38年前ということになります。

 それでは、何年くらいすると酢の臭いがしてくるのか、保管してあるカラーネガフィルムを一年ごとに遡って臭いをかいでみました。
 その結果、2002年6月に撮影したフィルムからかすかに酢の臭いが感じられました。今から19年前になります。これがさらに5年ほど遡る(24年前)と、酢の臭いはだいぶはっきりとしてきます。

 一方、リバーサルフィルムからは酢の臭いがしません。手元にあるリバーサルフィルムで最も古いのが37年前に撮影したものです。
 富士フィルムの資料を見る限り、フィルムベースの素材はネガフィルムと同じセルローストリアセテートですので、同様にビネガーシンドロームが起きると思われるのですが、不思議です。
 なお、私の嗅覚は「並」だと思います。念のため。

ビネガーシンドロームと退色の修復

 ビネガーシンドロームでカールしたりワカメ状になったフィルムは、80度くらいの温度をかけながら加圧することでフィルムから水分を除去し、平面性を保つことができるという事例があるようです。まるでアイロンをかけるようですが、私は実際に試したことはありません。興味のある方は検索してみてください。
 カールしている程度なら直るかも知れませんが、ワカメ状になっていたり、フィルムベースが傷んでしまっているような場合、修復は無理ではないかと思います。

 また、退色や変色については、フィルム上で色を取り戻すことは不可能ですが、スキャンしてデータ化した後にレタッチソフト等である程度復元することはできます。しかし、これは私も何度かやったことはありますが、やり方が下手なのか、やはり色が不自然になってしまい好ましい結果は得られません。特に黄変してしまったネガは手に負えないといった感じです。

 フィルムが劣化する前にデータ化しておくのが最も効果的な方法かもしれませんが、これまでに撮りためた膨大な量のフィルムをすべてデータ化するとなると、まさにライフワークになってしまいそうです。
 さらに、データが壊れたり消えたりしたときの対策まで考えると、これまた大変な作業になりそうです。

 修復については機会があれば別途掲載したいと思います。

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 今回ご紹介した保管方法は一般的に認証されているわけでもなく、あくまでも個人的に試みている方法であり、その効果性については不明です。効果を定量的に測定するためには比較が必要ですが、近いうちに保管条件を変えた実験をしてみたいと思います。ただし、結果が出るまでに何年もかかると思われますので、ご紹介できるかどうか..

(2021年8月16日)

#カラーネガフィルム #リバーサルフィルム #保管

レンズやカメラの保管方法 防湿庫保管は完璧か?

 レンズやカメラの保管に気を遣う方は多いと思います。特に日本のように湿気の多い国では、レンズにカビが生えてしまうのではないかと心配になります。防湿庫を購入して、そこに大切な機材を保管している方もいらっしゃるでしょうし、もう少しお手軽に、ドライボックスの中にシリカゲルなどの乾燥剤を入れて保管している方もいらっしゃるでしょう。

 私も中型の防湿庫を1台持っていますが、すべての機材がその中に納まりきるわけではありません。むしろ、入りきらない機材の方がはるかにたくさんあります。それでも、数年前に35mm判のカメラとレンズのほとんどを処分してしまったので、機材の量は半分以下になりましたが、まだその辺りにゴロゴロしています。
 防湿庫で保管する機材とそうでない機材を区別してるかというと、実は特にそういうことをしているわけではありません。正直なところ、防湿庫に入れたり出したりするのが面倒くさいので、すべて手の届くあたりに転がしておきたいというのが本音です。

 もちろん、レンズにとってカビは大敵なので、湿気の少ないところで保管するに越したことはありません。防湿庫には湿度計がついており、大体、30~40%に保たれています。湿気を取りながらも乾燥しすぎない、適度な状態にしてくれています。

防湿庫内を湿度30~40%に保ってくれる

 しかし、どんなに快適な温度や湿度であっても、レンズをカビから完全に守ることはできないと思っています。そもそも、空気中には常にカビが浮遊しており、それがレンズ内に入り込んで腰を落ち着けてしまうのが問題なわけです。ですから、レンズ内に空気の流れをつくり、入り込んだカビが腰を落ち着けないようにすることが最も効果的だと思っています。

 そういう視点で考えると、防湿庫の中は空気の流れが皆無に等しいので、長期間そのままにしておくとレンズ内に入り込んだカビが増殖し、固着してしまう可能性が高いのではないかと想像するわけであります。もちろん、防湿庫内はカビが繁殖しにくい環境なので、すぐにカビが生えるわけではなく、長期間にわたって触らないのであれば、その辺りに転がしておくよりも防湿庫に入れておいた方が望ましいのは言うまでもありません。しかし、防湿庫に入れてさえおけば絶対に安心というわけではないということです。

 あらためて自分の持っている機材を見てみると、非常に出番の少ないレンズというのがあります。例えば、PENTAX67用のフィッシュアイ 35mmレンズなどは、実際に持ち出すのは1年に数回程度です。こういうレンズがいちばんカビに襲われやすいのだと思います。

 前置きが長くなりましたが、私は毎日のようにカメラやレンズを手に取っており、どのカメラやレンズでも最低、4~5日に1回は可動部分を動かすようにしています(カメラは空シャッターを切ったり、レンズはヘリコイドや絞りを動かしたり)。毎日、すべての機材を構ってはいられないので、4~5日ですべての機材が一回りするという感じです。
 こうすることでレンズ内に空気の流れをつくり、カビが付着するのを防いでいます。なので、防湿庫に入れておくよりも、手の届くところに置いてあった方が出し入れの手間が省け、実は都合が良いのです。

 また、大判レンズにはシャッターが組み込まれていますが、ここに使われているスローガバナーという部品(低速シャッターを司る重要なパーツです)は、長期間動かさないでおくと動きが鈍くなってしまうことがあります。そうなると、分解して清掃・修理をしなくてはならなくなります。カビだけでなく、可動部分の故障対策という意味でも、ときどき動かすことがカメラやレンズのためには好ましいということです。
 もちろん、そのうえで防湿庫等で保管すれば最高であることは言うまでもありません。

 ちょっと自慢げに聞こえたら申し訳ないのですが、私はレンズに目視で確認できるようなカビを生やしたことはありません。特別なことをしなくても、週に1~2回、可動部を動かすことでカビの発生はかなり防げると思っています。わかり易く言うと、カメラやレンズはいつもかまってあげることが大切ではないかということです。頻繁に使うレンズにカビが生えたという話しはあまり聞いたことがありません。

カメラやレンズは時々かまってやることが大切

 一方、空気の流れをつくると、小さなホコリもレンズ内に舞い込んでしまいます。しかし、微細なホコリも定期的に空気の流れをつくることで出たり入ったりするので、長期的に見ればホコリも増えるでしょうが、いきなりレンズ内にどんどん蓄積されてしまうというわけではありません。微細なホコリは着地するのにかなりの時間がかかるらしいので、やはり空気の流れをつくることは効果があると思います。

 誤解のないように付け加えますが、決して防湿庫を否定しているわけではありませんし、効果がないと言っているわけでもありません。防湿庫の効果は十分認めておりますが、防湿庫に入れてさえおけば安心ということではなく、防湿庫を使ったうえで、ときどき機材を動かしてあげることで防カビ効果は倍増するであろうし、何よりも、機材を健全な状態で長く使うことができるであろうということです。

 カビも小さなうちであれば割と簡単に落とすことができますが、レンズに深く入り込んでしまったカビは拭いた程度では取れません。カビの発生を完璧に防ぐことができないのであれば、カビを早期に発見することがやはり重要になります。

 夜な夜な愛しいレンズを手に取り、酒でも飲みながら、このレンズでこんなものを撮影したいとか想像するのも楽しいものです。すべてを吸い込んでしまうのではないかと思われるような美しいレンズを眺めながら、撮影のイメージングとレンズのカビ防止とカビの早期発見が同時にできるのであれば、これを一石二鳥と言わずに何というのでしょう?
 くれぐれも、レンズに酒をこぼさないように注意は必要ですが。

(2021.3.15)

#保管