現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管

撮影済みフィルムの効率的な管理方法...フィルム写真をデッドストックにしないために

 フィルム写真をやっていると当然のことながら撮影済みのフィルム(ポジやネガ)が溜まっていきます。フィルム1枚は薄いし軽いのですが、数が増えるとその量や重さも半端なく、保管するにも物理的に場所をとります。このあたりがデジタル写真との大きな違いでもあります。
 どんどん増えていく撮影済みフィルムの保管とその管理をどうするか、これはフィルム写真をやっていく上での永遠のテーマのようにも思えます。
 フィルムの保管の仕方や管理方法はみなさん工夫をされていると思いますし、これまで私もいろいろ試行錯誤してきました。しかし、なかなか最適解が見つからずにいますが、現在、私が行っている管理方法について触れてみたいと思います。多少なりとも参考になれば幸いです。

フィルムは整理しすぎない方が良い?

 日頃、私が使っているフィルムは大判(4×5判)と中判(ブローニー)がほとんどですが、かつては35mm判もかなり使っていました。リバーサルフィルムがいちばん多いのですが、モノクロフィルムやわずかですがカラーネガフィルムもあります。
 35mm判と4×5判ではフィルムの大きさも随分違いますし、当然、保管の方法も異なります。
 大判や中判の中でも大切なコマは中性紙に挟んで保管していますが、1コマずつのスリーブに入れて保管しているものもあります。35mm判は6コマずつのスリーブに入れたり、マウントしてあるものもあります。

▲様々な大きさのフィルム

 以前は、、35mm判も大判もできるだけ同じ方法で保管する方が管理もし易いと思い、スリーブやホルダーを統一したり、保管場所(キャビネット)を厳密に決めたりいろいろトライしてみたこともありますが、ほどなく行き詰まりを感じてしまいました。保管するための物理的なスペースの問題やコストの問題もさることながら、手間がかかりすぎるのと使いにくいということがいちばんの理由でした。
 そんな紆余曲折を経ながら、整理しすぎないことがいちばん良いのではないかという結論に達しました。

 今は、大判や中判はコマ単位にスリーブに入れたり中性紙に挟んだりしていますが、大きさや種類もバラバラですし、35mm判は6コマごとのスリーブのままというのが圧倒的に多いです。
 保管も以前のようなホルダーは使わず、お菓子の入っていた箱など、身近にある適当なものを再利用しています。その方が保管効率がはるかに高いと思っています。
 急に思い立って押し入れの中を整理し、奥の方から隙間なく詰め込んでいったら綺麗に収まったけど、どこに何があるかわからなくなり、取り出したくても取り出せなくなったという状況によく似ています。

保管するなら管理が必要

 しかしながら、整理をほどほどにしておく場合は管理をしっかり行わないと活用できなくなってしまうという問題があります。
 撮影済みのフィルムの量が少ないうちは全貌が把握できているので管理するまでもありませんが、量が増えてくると頭の中だけで把握するのは無理があります。紙でもEXCELでも構いませんが、台帳のような方式で管理してもやはり限界があります。
 今、私の手元に残っている撮影済みフィルムは、コマ数でいうと20万コマを軽く超えています。ここまでくるとEXCELでも手に負えません。

 写真というのは他人からすればつまらないものであっても、自分が撮ったものは簡単には捨てられないものです。撮影から3年を経過したら廃棄する、というようなことができれば悩まずに済むのですが、なかなかそういうわけにもいきません。
 ですが、捨てられずに保管をしておいても、使わない、あるいは使えないのであれば、そもそも保管をしておく意味がありません。撮影済みのフィルムを捨てられないのは、いつか使うかもしれない、何十年後かにまた見てみたい、というような思いがあるからではないかと思いますし、大切な思い出や記録をそう簡単に捨てられるわけがないということでしょう。
 また、仮に電子データ化したとしても、フィルムは捨てられないと思います。

 私もそのような思いをもっていますし、私の場合、過去に撮った写真を使うことが割と多くあります。オリジナルカレンダーやポストカードを作ったり額装して壁にかけたり用途は様々ですが、いずれも大量のストックの中からお目当てのコマを探し出さねばなりません。それも、できるだけ迅速に簡単に。
 一生使わないのであればともかく、使う可能性があるのであれば保管してあるフィルムを管理することがどうしても必要になります。

自作の管理ツールで撮影済みフィルムを一括管理

 そんなわけで、効率的な管理の必要性を痛感し、ずいぶん前になりますが撮影済みフィルムの管理ツールを作り、今はそれを使って管理しています。

 私が使っている管理ツール(名前はありません)は、RDBMS(リレーショナルデータベース)にコマ単位で写真の情報を登録し、それをいろいろな条件で検索できるようにしているという非常にシンプルなものです。個人が使うレベルであればRDBMSやアプリケーション開発用の環境なども無償で入手できるものがたくさんあるので、多少の手間がかかるだけでコストはほとんどかかりません。
 因みに私が使っているRDBMSはオープンソース・データベースで最もポピュラーな「My SQL」で、アプリケーションは「Visual Studio」で作っています。どちらも無償です。

 無償と言っても個人が使うには十分すぎる機能や性能があり、数百万件の中から指定された条件で抽出するというようなことは瞬時にやってのけます。
 また、データベースに登録できる件数はサーバ(ハードディスク)の容量に左右されますが、画像データを含めなければ数千万件くらいは物ともしません。

 実際に使用している管理方法を簡単にご紹介しますが、まず、撮影済みフィルムを管理するために以下のような項目を用いています。

  ・コマの固有番号やタイトル
  ・保管箱の番号
  ・撮影に用いた機材
  ・撮影データ(絞りやシャッター速度、フィルムなど)
  ・撮影日時
  ・撮影場所
  ・写真のカテゴリー

 これらの項目を入力したり参照したりするために、Visual Studioで作成した以下のような画面を使っています。

▲撮影済みのフィルムを管理するツールの画面

 フィルム(コマ)を入れたスリーブには固有番号を書き込み、それを保管箱に入れて保管します。
 固有番号は自由につけることができますが、それとは別に管理ツールが自動で採番する番号(Seq-No)もあるので、どちらを使っても構いません。 
 
 「タイトル」はいわゆる作品につけるタイトルではなく、どのような写真かがわかるような説明文です。
 また、青い入力フィールドは直接入力しなくても、その左側にある黄色の入力フィールドに入れると自動的に入るようになっています。例えば、撮影地(上の例では「白川郷」)を入力すると、白川村、岐阜県、日本が自動的に入るようにしています(もちろん、個別に入力することもできます)。

 写真のカテゴリーは全部で8項目まで入力できるようにしていますが、これは非常に自由度の高い項目です。当該のコマがどのようなカテゴリーなのかを登録するのですが、例えば、「風景」とか「スナップ」、「桜」、「渓谷」、「街並み」、「夏」、「人物」など等、その写真をある程度分類できるような項目を入れるようにしています。
 これは検索のときにとても効果を発揮してくれ、目的の写真を見つけ出すのに非常に役立っています。
 例えば暑中見舞いのポストカードに海の写真を使いたいというような場合、「海」、「風景」などといったカテゴリーを入力して検索すると、それに該当したコマを一覧で表示することができます。

 また、カテゴリー以外もすべて検索条件として使用でき、北海道で冬に撮影した写真を検索したいような場合は、撮影都道府県を「北海道」、季節を「冬」と入力して検索すると該当するコマの一覧が表示されます。

 そして、表示された一覧の中からコマを選択すると、登録されている写真の情報や、画像データがある場合はサムネイルが表示され、お目当てのコマがどの箱に保管されているかがわかりますので、その箱の中から固有番号(コード)のコマを探せばよいことになります。

▲撮影済みフィルムの保管箱

 箱によって保管するフィルムの種類を決めることはせず、一つの箱に大判も中判も35mm判も同居しています。その方が整理の手間がかからずに済みます。

 前の方にも書きましたが、撮影済みフィルムを保管している箱は適当な空き箱を使っており、大きさもまちまちですが、あまり大きなものは使っていません。箱に通し番号を書き込んでおいて、その番号をコマ情報の一項目として入力します。

 管理ツールの入力画面でもわかるように、撮影したコマごとに入力する情報は結構たくさんありますが、すべての項目を入力しなければならないわけではありません。
 また、固有番号とタイトル以外の項目はあらかじめ登録されたマスタデータの中から選択する方式なので、手入力する手間も省けます。
 なお、保管する箱の番号は必ず入れておかないと保管場所が特定できず、管理ツールに登録する意味が半減してしまいます。

フィルムの検索履歴や使用履歴も重要な情報

 このようにフィルムを管理していると、検索に引っかかったコマの履歴がわかります。そのコマが何に使われたかまでは記録していませんが、そのデータもとれるようにしておけば使用履歴もわかるようになります。その使用履歴がわかると、あの時使ったコマをまた使いたいというような場合、とても効率的に探し出すことができます。
 自作の管理ツールですので、時間のある時にでも機能改善したいと思っています。

 しかし、こうした便利機能もデータがあってこそです。簡単な仕組みで結構便利だと自分では思っているのですが、登録してあるデータベースが消えたら目も当てられません。少々の障害なら修復できるのですが、例えばサーバのハードディスクがお亡くなりになられたりするともうお手上げです。
 そうならないようにバックアップなどの対策は必要になります。

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 撮影済みのフィルムはじわじわと増え続け、気がついたら手に負えなくなっていたなんてことは容易に起こりえます。デジタルにすればこういった悩みのいくつかは解消されますが、せっかくのフィルム写真ですから、死蔵品とならないように活用していきたいと思います。
 もっとも、デジタルにしたところで、データをどうやって保存していくかという悩みは残っていくと思いますが。

(2022.4.29)

#保管

写真にタイトルをつける(2) タイトルをつけるときの視点

 前回は、写真にタイトルをつけることによる効果について触れましたが、今回は、実際に写真にタイトルをつける際に意識すること、もう少し具体的に言うと、どのような視点でタイトルを決めるかということについて進めてみたいと思います。
 私は今回ご紹介するように、5つの視点のうちのいずれかでタイトルをつけることが多いです。あくまでも私の個人的な視点ですので、もちろん他にもたくさんの視点があると思いますが、参考になればと思います。

光や色、音、匂いなどからタイトルをつける

 写真というのは光を画像として記録しているわけですから、当然のこと、光とか色を視覚的に認識することができます。カラー写真であれば様々な色であり、モノクロ写真であれば濃淡として表現されます。また、光芒とか光彩などのように、光そのものが感じられることもあります。

 さらに、光のように直接的に認識できるものだけでなく、画像から、その場に聞こえているであろう音とか匂いとか、そういうものも間接的に感じることができます。例えば滝の写真であれば、流れ落ちる水の音を感じるでしょうし、梅の写真を見ればほのかな香りを感じると思います。

 こういった光や色、音、匂いなどをタイトルのもとにすることは比較的多く、タイトルにし易いかも知れません。
 例えば、木々の間から差し込む光芒が印象的だった場合、それをタイトルに加工することで、より印象が強まります。ただし、タイトルを「光芒」などのようにそのまま使うのではなく、表現を変えるなどのひと工夫が必要です。

 下の写真は、ちょうど今頃に咲いている「ロウバイ」を撮ったものです。

 この写真のタイトルは「木陰のぼんぼり」としました。黄色のロウバイの花に光が差し込んで、まるで花が自ら発光しているような感じです。
 ロウバイの印象がより強まるようにと思い、逆光になる位置からの撮影で、背景は暗く落ち込むように陰になっている場所を選んでいます。
 光り輝いている小さな花が、まるでひな祭りのぼんぼりのように感じられたのでこのようなタイトルにしたのですが、これを「木陰の提灯」としてしまうと雰囲気がそがれてしまう感じです。また、ぼんぼりは漢字で「雪洞」と書きますが、漢字よりも平仮名の方が優しい感じになると思います。

擬人化してタイトルをつける

 このタイトルのつけ方は一般的な風景よりも、花とか木とかの写真に対して使うことが多いです。簡単に言うと、花や木を人間に見立てて、姿かたちや仕草、立ち居振る舞い、表情などに例えるというやり方です。特に花の場合は人間に例え易く、そういう視点で見るとまるで人間と同じように見えてくるので不思議なものです。

 チューリップやヒマワリ、ユリなどが被写体になることは多いと思いますが、咲いている姿が躍っているようだとか唄っているようだと感じた経験のある方もたくさんいらっしゃると思います。そういった人間の姿や言動を重ね合わせて、それをタイトルにします。
 踊っているように見えるとすれば、「踊り子」とか「バレリーナ」などという言葉が連想されますし、唄っているように見えるところからは「熱唱」とか「コーラス」などという言葉が浮かんできます。
 「踊り子」などは写真によってはそのままタイトルになるような場合もあると思いますが、ちょっと味付けをすることで、より印強いタイトルにすることができます。

 紅葉し始めたカエデの葉っぱを撮ったのが下の写真です。

 タイトルは、「初めてのルージュ」です。

 まるで塗り絵でもしたかのように、しかも一枚だけが色づくのはあまりないと思うのですが、その色づいた赤があまりに鮮やかだったので、初めて口紅を塗ってみた女性に例えたタイトルです。ちょっとはみ出してるように見えるところから、「初めてのルージュ」としてみました。

 また、この写真にはキャプションもつけてみました。
 「ようやく色づき始めたカエデが一葉 まだお化粧には慣れていないようです」

 タイトルだけでは伝わりにくいかなと思ったこともありますが、ほのぼのとしたユーモラスさを表現できればと思ってつけたキャプションです。
 自然界は時として予想もしなかった姿を見せてくれることがありますが、そういう光景も擬人化することで写真を引き立てるタイトルになることもあると思います。

主題からタイトルをつける

 写真は主役と主題があるとよく言われます。主役と主題が同じということもまれにはあると思いますが、主役と主題は別のものであることの方がはるかに多いのではないかと思います。
 例えば、桜を中心となる被写体として撮影した写真の場合、主役は桜であっても主題は全く別物です。雪の残る山を背景に咲いている風景であれば、「春の訪れ」というようなことが主題になるかも知れませんし、風に散っていく桜の写真であれば、「儚さ」のようなものや「春から初夏へ」というようなことが主題になるかも知れません。
 要するに、桜の写真を通して何を伝えたいかによって主題は変わってきます。

 写真を撮影するときに主題が明確になっている場合もあれば、あとで仕上がった写真を見て主題が決まる場合もあるというのは前回にも触れた通りです。撮影の前に主題がはっきりしていたほうが作画意図が明確になるのは言うまでもありませんが、あとから主題を決めるのが悪いとも思いません。
 いずれにしても、その写真から何を伝えたいか、それを明確に持つことは大切なことで、それをタイトルにするというやり方です。

 長野県と群馬県の県境にある白根山を撮影しました。

 この写真には、「天翔ける」というタイトルをつけてみました。

 撮影したのは雨が降った翌日の早朝で、空気がとても澄んでおり、はるか向こうに富士山が見えます。筋状になっている雲も含めてとにかく空がきれいで、白根山と同じくらいの高さから撮影していることもあり、まるで空を飛んでいるかのような錯覚さえ覚えます。
 この写真の主題は限りなく広がる美しい空です。それを、そのとき自分が抱いた感覚をタイトルにしてみました。

 もし、空ではなく煙が立ち昇っている白根山に主題を感じたならば、構図も違ってくるでしょうし、当然タイトルも全く違ったものになります。

イメージや印象からタイトルをつける

 このタイトルのつけ方はちょっと説明しずらいのですが、被写体、あるいは仕上がった写真を見た時に全体から受ける印象をタイトルにする方法です。
 同じ被写体でも肉眼で見た時とファインダー越しに見た時、そして仕上がった写真を見た時では受ける印象はずいぶん違うことがありますが、いずれにしても全体から受けるイメージや印象を言葉にするといったやり方です。前の3通りのやり方のように、この部分がというよりは全体をボヤっと見た感じとでも言ったらよいのか、とにかく感覚とか感性に頼るという感じです。
 被写体として何が写っているかということよりも、全体の色とかコントラストとか、そういうものに影響されると思います。

 下の写真はニガナという小さな花を撮ったものです。

 「幸せの予感」というタイトルは、この写真全体から受ける印象をもとにしています。
 また、このようなタイトルは撮り手の感性によるところが大きいので、見る人はまったく違った印象を持つ可能性が大です。そのため、キャプションをつけています。

 「梅雨の合間の青空に黄色が映えて、何かいいことがありそうな気がします」

 このように、キャプションをつけることで撮り手が感じていることを伝える補助にはなりますが、だからと言って誰しもが同じように感じてもらえるわけではありません。理解不能などと思われてしまうことも考えられるということを承知しておいた方が良いと思います。

 とはいえ、このタイトルと写真がぴったりと合ったときは、それなりの訴求力があると思います。

説明的にタイトルをつける

 さて、タイトルのつけ方の5つ目ですが、これは写っている状況を説明するようなタイトルにするという方法です。
 説明するといっても、誰が見てもわかるようなことをそのまま表現しても効果的なタイトルにはなりません。例えば、湖のほとりに菜の花が咲いている写真に、「湖畔に咲く」という説明的なタイトルをつけても、言われるまでもないといった感じになってしまいます。

 偶然見つけたミズバショウの群落を撮った写真です。

 タイトルは「雪消水の潤い」です。
 雪消水(ゆきげみず)とは雪が解けて生じた水のことですが、その大量の水がこの場所に流れ込み、ミズバショウが育つ環境を作っているということを説明しようと思ってつけたタイトルです。
 湿地にミズバショウが咲いているのは写真を見れば明らかですが、それは冬の間に降った雪によってもたらされているということを伝えようと思いました。

 写真に写っている状況を直接的に説明するだけでなく、その状況を作り出すもとになっているものやそこに至るまでの経緯などを説明するようなタイトルにすることで、見る人にイメージを膨らませてもらうことが出来ると思います。

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 自分で撮った写真にタイトルをつけて、それを何度も眺めていると、しっくりくるものもあればちょっと違うなと思うものもあります。もし、違和感があればつけ直してみるも良し、また、違った視点でタイトルを考え直してみるも良しで、自分の写真を見直す良いきっかけになるのではと思っています。
 今回は日頃、私が写真にタイトルをつけるときに用いているやり方をご紹介しましたが、タイトルやキャプションのつけ方は自由です。自分の感性でつけるのがいちばんだと思いますが、できれば写真を生かすようなタイトルにしたいものです。

(2022年2月21日)

#フレーミング #写真観 #構図 #額装

写真にタイトルをつける(1) タイトルがもたらす効果

 デジタルにしても銀塩にしても、撮影した写真はパソコンやスマホで見たりプリントして観賞したりしますが、コンテストや写真展に出す以外はタイトルもつけられずに放っておかれることが多いのではないかと思います。
 しかし、写真はタイトルをつけて初めて完成するものだと思っています。もちろん、自分だけで観賞する写真にタイトルなんか必要ないという考えもあるかと思いますが、タイトルをつけると自分で撮った写真がちょっと立派になったように感じるのも事実です。撮影した写真すべてにつけることはありませんが、お気に入りの写真にはタイトルをつけてあげたいと思います。
 私が自分で撮影した写真にどのようにタイトルをつけるかということについて、私なりの考え方、やり方をご紹介したいと思います。あくまで私流であるということをご承知おきください。

「タイトル」をつけると写真が輝いてくる

 写真にタイトルをつけずに放っておく最大の理由は「面倒くさい」ということではないかと思います。タイトルをつけるというのは、管理番号や識別番号を振るように機械的にできるわけではなく、それなりに時間もかかるので面倒くさいと感じるのも確かです。
 また、タイトルのつけ方に決まり事があるわけではないので、どのようなタイトルをつけようと自由なのですが、かと言って何でもつければ良いというものでもなく、やはり写真が生きるタイトルにするのが望ましいわけです。

 一つの例として、赤いバラを撮影した写真を想定してみます。この写真に「薔薇」とか「赤いバラ」というようなタイトルがつけられているのを目にすることがあります。しかし、バラの写真を見てヒマワリだとかスミレだと思う人はいないでしょうし、赤いバラを白いバラだと思う人もまずいないでしょう。そのようなことはわざわざ言われなくてもわかるわけですから、タイトルとしては無意味とは言いませんが、決して効果的なタイトルとも言えません。
 また、バラは数万種もあると言われている一つひとつに固有の名前(有名どころでは、ピースとかクイーン・エリザベスとか)がつけられているようですが、それらをタイトルにつけても、植物図鑑ではないのでやはり効果的なタイトルとは思えません。

 写真というのは見る人にとっては二次元の画像だけですから、撮り手が撮影の際に持っていた情報のごく一部しか伝えることができません。それを補うことができるのがタイトルだと思います。
 撮影の際に見たことや聞いたこと、感じたこと、体験したこと、そして写真を通して伝えたいことなどをタイトルとして表現することで、見る人は画像だけでは感じ得ないその場の情景や雰囲気などをイメージすることができます。見る人がイメージを膨らますことで、単に画像だけを見せられた時と比べて全く違う写真に見えるはずです。これがタイトルによって写真が輝きを増す、あるいは写真が生きるということだと思います。

 タイトルをつけることで見る人に与える情報量の増加分は、文字数にして数文字というほんのわずかでしかありません。しかし、そのわずかに増えた情報量によって、見る人が描くイメージは何倍にも何十倍にも、もしかしたら何百倍にもなるわけで、それがタイトルの持つ大きな効果だと思うわけです。

 赤いバラの写真を例にと思いましたが適当なバラの写真がありませんでしたので、タンポポの綿毛の写真を例にしてみます。
 写真展のように、写真が額装されて壁にかけられている状態をイメージしてみました。

 このように写真だけを見せられた場合、まず、タンポポの綿毛ということはすぐにわかると思います。そして、下の方にスギナとかタネツケバナとかが写っているのと、画全体が比較的明るい緑色をしているので、春なんだろうなぁということぐらいはわかるでしょう。しかし、見る人にとって、それ以上にイメージは膨らまないのではないかと思います。

 では、この写真にタイトルをつけてみます。

 一つの例として、ここでは「旅立ちを待つ」というタイトルをつけてみました。

 このタイトルによって、もう間もなくするとタンポポの綿毛が飛んでいくのだろうということが伝わり、見る人はいろいろなイメージを描くことができます。空に舞い上がった綿毛を思い浮かべるかもしれませんし、綿毛がすっかりなくなった後の光景をイメージするかも知れません。それは見る人によって千差万別ですが、タイトルによってイメージが膨らむことは事実だと思います。
 もし、この綿毛をポンポンに見立てて、タイトルを「草むらのポンポン」とすると、全く違ったイメージになると思います。

 このように、写真にタイトルをつけることで、見る人のイメージを膨らませるとともに、写真から何を伝えたいのかをある程度、明確にすることができます。

さらに「キャプション」をつけることで写真の訴求力が高まる

 タイトルをつけただけでも写真の見え方はずいぶん変わってきますが、撮り手の想いをより伝えたい場合はキャプションをつけると効果的だと思います。
 キャプションは、タイトルによって写真を見る人が描くイメージをより大きくしたり、タイトルだけでは伝えきれないことを見る人に伝えることができます。
 その場の情景を説明的に書いたり、撮影した時に自分が感じたことや思ったことを書いたり、内容は自由で構わないと思いますが、あまり長い文章にしない方が良いと思います。長いと読みたくなくなってしまうので、パッと見て書かれている内容が把握できるくらいが効果的ではないかと思います。

 先ほどのタンポポの綿毛の写真にキャプションをつけてみます。

 例えば、「背伸びをして、新天地に向かう風が来るのをじっと待っているようです」というキャプションをつけてみました。

 このキャプションがあることによって、タンポポの綿毛が風に乗って飛んでいくというイメージをより強く描くことができるようになると思います。

 ただし、キャプションは必ずしも必要というわけではなく、見る人がイメージする自由度を大きくしたい場合はタイトルだけにしておいた方が良い場合もあります。見る人がどう感じるかは自由ですから、撮り手の想いをあまり無理強いしないようにすることも大切だと思います。

タイトルをつけることで自分の写真を見直す

 写真を撮るという行為をするということは、対象となる被写体を撮りたくなる何某かの理由があるわけです。風景や花などの場合は、「とにかく綺麗だから」というのが最も明確でわかり易い理由かもしれません。
 そして、綺麗だと感じたその被写体を四角の枠で切り取るわけですが、この時、どこをどのように切り取るかというところに撮り手の作画意図が働くわけです。同じ位置からの撮影であっても、カメラを少し上に振ったときと下に振ったときでは出来上がる写真に大きな違いがあります。

 下の2枚の写真は蕎麦畑の中の石仏を撮ったものですが、2枚とも同じポジションから撮影しています。

 左の写真はカメラを下側に、右の写真はカメラを上側に、それぞれ少しだけ振っています。同じ被写体ですが写真から受ける印象はまったく違います。いずれも主な被写体は石仏と蕎麦畑ですが、左の写真は蕎麦の花に囲まれており安らぐような感じがしますが、右の写真は寂寥感さえ感じます。被写体を見た時にどう感じたか、それをどのように伝えたいかによって撮り方が変わってくるということです。

 また、写真で伝えたいものが最初から明確になっていて撮影する場合もあれば、それほど意識をせずに撮影して、あとから伝えたいものを明確にしていく場合もあります。いずれにしても、自分で撮影した写真を何度も見て、いったい自分はこの写真を通して何を伝えたいのか、ということを自分自身に問うてみることは大切なことだと思います。

 そして、それをタイトルにして写真につけます。タイトルをつけるのが難しいということを良く聞きますが、その理由は大きく2つあると思っていて、一つは、そもそも写真で伝えたいものがはっきりしていないという状態、もう一つは、伝えたいものは明確になっているが、それをタイトルとしてうまく表現できないという理由です。
 後者はイメージを具体的な文字として表現するわけですから、いわばテクニックのようなものであって、これは何とでもなると思っています。問題は前者で、こちらはイメージすらないということですから、タイトル云々以前の問題です。

 撮影の段階で伝えたいことが、もっと言えば、つけるタイトルまでもがある程度イメージできているのが良いのかもしれませんが、魅力的な被写体を前にしたときは撮ることが精いっぱい、ということが多いのも事実です。
 自分で撮った写真をじっくり見直してみるというのも大切なことで、それによって撮影時の作画意図も徐々に明確になっていくものだと思います。

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 今回は、タイトルやキャプションが写真に与える効果について触れましたが、次回は、実際にどのような視点でタイトルをつけているかということについて書いてみたいと思います。

(2022年2月15日)

#フレーミング #写真観 #構図 #額装

久しぶりのモノクロフィルムのリバーサル現像 イルフォード DELTA100

 ビューティーモデル1という骨董カメラの試し撮りの際、マミヤ6 MFにモノクロフィルムを入れて一緒に持っていきました。その時に撮った写真をリバーサル現像してみました。
 リバーサル現像は通常のネガ現像よりもプロセスが多くて手間がかかるのであまりやらないのですが、カラーリバーサルほど難しくはないし、リバーサルで見るモノクロも味わいがあるので、久しぶりにやってみました。

イルフォードの推奨プロセスで処理

 今回、撮影に使ったフィルムはイルフォードのDELTA100 PROFESSIONALです。シャープネスでキリッと締まった画像が得られるので、個人的には気に入っています。
 ということで、現像はイルフォードの推奨プロセスを参考に行ないました。イルフォードから提示されているプロセスは下記の通りです。

  1) 第一現像 : 20度 12分
  2) 水洗   : 20度 5分
  3) 漂白   : 20度 5分
  4) 水洗   : 20度 1分
  5) 洗浄   : 20度 2分
  6) 水洗   : 20度 30秒
  7) 再露光  : 片面30秒
  8) 第二現像 : 20度 6分
  9) 停止   : 20度 30秒
  10) 水洗   : 20度 30秒
  11) 定着   : 20度 5分
  12) 水洗   : 20度 10分
  13) 水滴防止 : 20度 30秒
  14) 乾燥

 なお、イルフォードの推奨プロセスには停止工程と水滴防止工程は記載されていませんが、これらは通常の現像でも行なう工程なので今回も入れています。

 現像液は「ブロモフェン」または「PQユニバーサル」が推奨となっていますが、手元になかったので今回はシルバークロームデベロッパーを使用しました。
 漂白液は過マンガン酸カリウム水溶液と希硫酸(硫酸水溶液)の混合液、洗浄液はピロ亜硫酸ナトリウム水溶液を使っており、これらはイルフォード推奨プロセスと同じです。
 また、定着液はシルバークロームラピッドフィクサーを使いました。

 全工程にわたり水温20度を保つというのは結構難しいので、いちばん影響のある第一現像だけは極力、20度に近い状態を保つように気をつけましたが、それ以外は±1~2度の変動があると思います。

黒が締まったイルフォードらしい描写

 リバーサル現像後のスリーブの写真です。ライトボックスにのせた状態で撮影しています(全12コマ中の9コマ)。

▲リバーサル現像後のスリーブ(ライトボックス上で撮影)

 モノクロフィルムを使うときはモノクロ用のフィルター(Y2とかYA3など)を装着することが多いのですが、今回はいずれも使用していません。
 コントラストもまずまずで、黒もイルフォードらしい感じが出ていると思います。

 下の写真は東京都庁の都民広場にある彫像「天に聞きく」です。

▲Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F5.6 1/30 DELTA100

 彫像にも建物にも陽があたっていないので全体的に軟調な感じがしますが、彫像のエッジは綺麗に出ているのではないかと思います。手振れが心配だったので絞りはF5.6で撮影していますが、もう一段くらい開いた方が良かったようです。

 次の写真は、新宿にある住友ビルの一階部分の天井です。屋根を支える鉄骨が描くラインが綺麗です。

▲Mamiya 6 MF G 50mm 1:4 F4 1/15 DELTA100

 屋内での撮影なのでコントラストはあまり高くありませんが、屋根から差し込む光で鉄骨に模様が描かれていますが、そこそこ綺麗に表現できていると思います。
 太陽が西に回り込んでこの屋根に光が差し込むと、よりアーティスティックな模様が浮かび上がるのではと想像します。

 さて、もう一枚は公園での一コマです。

▲Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/250 DELTA100

 斜光状態なのでコントラストが高めになっています。中央の地面は落ち葉が白く輝いており、飛び気味です。左右にある2本の木の幹は日陰になっていますが、ぎりぎりディテールが見て取れる感じです。

ネガ現像とリバーサル現像の比較

 同じフィルム(イルフォード DELTA100 PROFESSIONAL)で撮影し、普通にネガ現像したものとリバーサル現像したものとで違いがあるかということで、下の写真はネガ現像したものです。

▲Mamiya 6 MF G 50mm 1:4 F8 1/60 DELTA100

 電話ボックスを撮影したもので、同じ場所や同じ条件で撮影したわけではないので比較しにくいですが、ネガ現像したほうが黒の締まりが強いように感じます。光の条件が違うのでそう感じるのかもしれませんが、現像による影響もあるかも知れませんし、スキャナで読み取る際はネガ設定とポジ設定と異なりますので、その影響も考えられます。
 やはり、リバーサル現像の方が難しく、扱いを慎重にやらないと良い結果が出ないようです。

 参考に、リバーサル現像とネガ現像した写真の部分拡大を掲載しておきます。
 下の写真の1枚目がリバーサル現像(新宿住友ビル)の天井部分を拡大したもの、2枚目がネガ現像(電話ボックス)の自転車のハンドル部分を拡大したものです。

▲新宿住友ビルの写真の部分拡大
▲電話ボックスの写真の部分拡大

 粒状感やシャープネスなどに大きな違いは感じられません。

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 手間のかかるリバーサル現像ですが、スリーブをライトボックスで観賞できるのは便利です。それ以外にリバーサル現像するメリットはほとんど思いつかないのですが、いつもとは違うフィルムで撮影したような気持ちになれるので、気分転換にはなるかも知れません。

(2022年2月4日)

#イルフォード #ILFORD #モノクロフィルム #リバーサル現像

現像済みのフィルムの経年劣化と保管

 フィルムを使っていると、撮影前のフィルムの保管、撮影後から現像するまでの保管、そして現像後のフィルムの保管と、常に「保管」をどうするかということがついて回ります。
 フィルムをデータ化されている方も多いと思いますが、やはり、せっかく撮った写真をフィルムの状態で残しておきたいというのが正直な気持ちです。
 そこで今回は、現像後のフィルムの経年劣化や保管方法について触れてみたいと思います。

ビネガーシンドローム

 ネガにしてもリバーサルにしても現像後のフィルムというのは、スリーブに入ったまま箱などに放り込まれ、長年にわたってそのままの状態で保管されっぱなしということが多いのではないかと思います。いったんプリントしたり電子化したりした写真のネガやポジはそれほど頻繁に使うものではないので、以降は日の目を見る機会が非常に少なくなります。
 ある日、ふと思いついたように現像済みのフィルムを保管しておいた箱を開けてみたら、ツーンとする酢のような臭いがしたという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。

 これは一般に「ビネガーシンドローム」と呼ばれており、フィルムが高温多湿の密閉された状態に長期間置かれていたことによる劣化で、フィルムのベース素材が空気中の水分と結びついて変質(加水分解)していく現象と言われています。
 初期の段階は酢のような臭い(酢酸臭)だけですが、進行するとフィルム表面がべとつきはじめ、さらに進行するとフィルムがワカメのように波打ったりカールしたりしてしまいます。
 ビネガーシンドロームが一度起きてしまうと、修復することはもちろん、完全に進行を止めることもできません。
 保管してある箱を開けただけでは臭いがわからなくても、スリーブからフィルムを抜き出して鼻を近づけたときに、ふんわりと酢の臭いがしたら、既にビネガーシンドロームが始まっている証拠です。

 このビネガーシンドロームは、セルローストリアセテートという素材で作られたフィルムに起きる現象のようで、ポリエステル製のフィルムでは発生しないようです。
 富士フィルムのデータシートを調べてみたところ、カラーネガ、モノクロ、リバーサルのいずれも35mmフィルム、およびブローニー(120、220)フィルムはセルローストリアセテートが使用されており、シートフィルム(4×5、8×10)に関してはポリエステル素材を使用しているとのことでした。
 すなわち、シートフィルム以外はビネガーシンドロームの呪縛からは逃れられないということになります。

退色と黄変

 ビネガーシンドロームと同じくらい避けがたい経年劣化が「退色」と「黄変」です。
 退色は色が抜けていってしまう現象で、退色前と比べるとずいぶんあっさりした色合いになってしまいます。ネガは見ただけではわかりにくいですが、プリントすると良くわかります。

 下の写真はおよそ35年前にカラーネガフィルム(フジカラー)で撮ったものですが、退色してしまった例です。

▲退色の例 カラーネガフィルムにて撮影

 モノクロ写真ではないかと思えるほど、あっさりした色になってしまっています。退色前のものと比較するまでもなく、誰が見ても退色しているのは明らかです。

 そして、退色よりも発生頻度が高いのではないかと思われるのが黄変です。黄変も退色の一つかもしれませんが、画全体、もしくは一部分が黄色く変色してしまう現象です。青が抜けて(退色)しまうことで黄色くなってしまうようですが、ネガを見ただけではわからず、プリントしたりスキャンして初めて黄変に気がつくことが多いです。

 同じく、およそ35年前にカラーネガフィルムで撮った写真ですが、見事なまでに黄変しています。

▲黄変の例(1)  カラーネガフィルムにて撮影

 青い色が抜けてしまい、補色となるなる黄色が目立ってくるのだと思います。
 また、同じころに撮影したものでも、あまり黄変が生じていないスリーブもあります。スリーブによって出たりでなかったりしているので、フィルムの違いとか現像処理の影響とかがあるのかもしれません。

 黄変がそれほど感じられない写真でも、拡大してみると黄変が発生しているものもたくさんあります。
 下の写真はパッと見では比較的黄変は少なく感じます。

▲黄変の例(2)  カラーネガフィルムにて撮影

 しかし、上の空の部分を拡大してみると、こんな感じです。

▲黄変の例(2) の部分拡大

 斑点のように黄色が広がっているのがわかると思います。たぶん、あと何年かすると真っ黄色になってしまうと思われます。

リバーサルフィルムは退色に強い

 カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムは退色や黄変に対して非常に強い印象です。
 下の写真は36年前にリバーサルフィルム(フジクローム)で撮影したものです。

▲リバーサルフィルムにて撮影

 若干の退色は認められますが、変色はほとんど感じられません。
 保管条件はほとんど同じですので、リバーサルフィルムの方がはるかに劣化に対する耐性が強いのがわかります。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使うことが多いのですが、カラーネガのように退色や変色で手に負えなくなったということがありません。

私流、フィルム劣化の防止と保管方法

 残念ながらフィルムの経年劣化を完全に防止することは不可能と思われます。一説には冷凍保存すれば良いという話しもあります。確かに、何十万年も前に死んだマンモスが永久凍土から発見された例があるくらいなので、フィルムも冷凍保存すれば劣化は防げるかもしれませんが、再利用することはあきらめねばなりません。

 しかし、ビネガーシンドロームにしろ退色にしろ、進行を遅らせることはある程度可能だと思います。高温と高湿と光をどれだけ防ぐことができるかによって、劣化の速度はずいぶん変わるといわれていますので、冷凍保存とは言わないまでも、冷蔵庫で保存することができればかなり効果的だとは思います。しかし、保管するフィルム量が多くなると個人でそれを行なうのは結構ハードルが高いと思います。

 また、日の当たらない、比較的涼しい場所で保管することは大切ですが、スリーブに入れっぱなしというのはあまり好ましくないと思っています。特に、ビネガーシンドロームを発症している状態だと、フィルムとスリーブがくっついてしまい、使い物にならなくなってしまう可能性があります。

 私は、重要なフィルムについてはスリーブを使わず、中性紙に挟んで保管しています。「ピュアガード」という製品名で販売されている中性紙があるのですが、これをフィルムの幅に切り、蛇腹状に折って、ここにフィルムを挟んでいます。
 下の写真はブローニーフィルムの例です。

▲中性紙を用いたフィルムの保管(ブローニーフィルム)
▲ピュアガード

 これを同じく中性紙で作られた箱に入れて保管しています。
 ビネガーシンドロームの予防には通気性も重要だと言われていますので、スリーブのようにフィルムと密着することもなく、通気性も多少は改善されると思います。
 そして、普通に市販されているキャビネット(金属製)に入れておくだけですが、キャビネットの天井にパソコンに使われているような冷却ファンを2個、取り付けてあります。これでキャビネット内の空気を常に入れ替えるようにしています。キャビネット内には光が入らないので、フィルムを入れた箱には蓋をしてありません。

 この方法でどれくらいの効果があるのか、定量的なデータは持ち合わせておりませんが、いま手元にある最も昔に撮影したフィルムを見る限り、退色はあるものの、ワカメ状態になっているものやカールしているものは確認されていません。ただし、鼻を近づけるとわずかに酢の臭いがするものがあります。やはり、ビネガーシンドロームは進行していると思われます。
 因みにいちばん古いのはカラーネガフィルムで、1983年4月の撮影ですから、今から38年前ということになります。

 それでは、何年くらいすると酢の臭いがしてくるのか、保管してあるカラーネガフィルムを一年ごとに遡って臭いをかいでみました。
 その結果、2002年6月に撮影したフィルムからかすかに酢の臭いが感じられました。今から19年前になります。これがさらに5年ほど遡る(24年前)と、酢の臭いはだいぶはっきりとしてきます。

 一方、リバーサルフィルムからは酢の臭いがしません。手元にあるリバーサルフィルムで最も古いのが37年前に撮影したものです。
 富士フィルムの資料を見る限り、フィルムベースの素材はネガフィルムと同じセルローストリアセテートですので、同様にビネガーシンドロームが起きると思われるのですが、不思議です。
 なお、私の嗅覚は「並」だと思います。念のため。

ビネガーシンドロームと退色の修復

 ビネガーシンドロームでカールしたりワカメ状になったフィルムは、80度くらいの温度をかけながら加圧することでフィルムから水分を除去し、平面性を保つことができるという事例があるようです。まるでアイロンをかけるようですが、私は実際に試したことはありません。興味のある方は検索してみてください。
 カールしている程度なら直るかも知れませんが、ワカメ状になっていたり、フィルムベースが傷んでしまっているような場合、修復は無理ではないかと思います。

 また、退色や変色については、フィルム上で色を取り戻すことは不可能ですが、スキャンしてデータ化した後にレタッチソフト等である程度復元することはできます。しかし、これは私も何度かやったことはありますが、やり方が下手なのか、やはり色が不自然になってしまい好ましい結果は得られません。特に黄変してしまったネガは手に負えないといった感じです。

 フィルムが劣化する前にデータ化しておくのが最も効果的な方法かもしれませんが、これまでに撮りためた膨大な量のフィルムをすべてデータ化するとなると、まさにライフワークになってしまいそうです。
 さらに、データが壊れたり消えたりしたときの対策まで考えると、これまた大変な作業になりそうです。

 修復については機会があれば別途掲載したいと思います。

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 今回ご紹介した保管方法は一般的に認証されているわけでもなく、あくまでも個人的に試みている方法であり、その効果性については不明です。効果を定量的に測定するためには比較が必要ですが、近いうちに保管条件を変えた実験をしてみたいと思います。ただし、結果が出るまでに何年もかかると思われますので、ご紹介できるかどうか..

(2021年8月16日)

#カラーネガフィルム #リバーサルフィルム #保管