大判カメラ撮影に必要な小道具、あると便利な小道具たち(3)

 前回(およそ1年前)に続いて、大判カメラで撮影する際に、あると便利な小道具たちの紹介の3回目です。
 これらがなければ撮影ができないというような切実なものではありませんが、日ごろ、私が撮影の際に持ち歩いているものです。中には必ずしも大判カメラでの撮影に限らないものもありますが、大判カメラ使用時に出番が多いものを選定してみました。

ストーンバッグ

 ウェイトストーンバッグと呼ばれることもあります。もともとは三脚を安定させるための重しを載せるためのもので、三脚の3本の脚のつけ根辺りに紐で縛りつける、ハンモックのようなものです。
 風が強いときに三脚のブレを防ぐためであったり、そもそも重い三脚を持ち歩くのは大変なので、軽めの三脚であっても現地調達した石などを載せて安定させようという目的で作られたようです。確かに、その辺りに転がっている手ごろな石を載せれば、三脚の重心も下がるので安定度は増すと思います。
 ですが、私はもっぱら撮影時に使用する小道具置き場として使っています。

 大判カメラで撮影する際には意外とたくさんの小道具、小物類を使います。単体露出計、ルーペ、ブロア、フィルター、フィルムホルダーなどは常に使用しますが、撮影条件によってはさらにいくつもの小道具が必要になることがあります。
 これらをカメラバッグから取り出し、使い終わったらカメラバッグに入れる、というようなことはとても面倒くさいので、三脚の股の間に取付けたストーンバッグを仮置き場として使っています。もちろん、その場での撮影を終えて移動する際にはカメラバッグにしまわなければなりませんが、撮影時は必要なものが手の届くところにあるのでとても便利です。
 また、私はこの中に、常時ウェスを入れていて、三脚が濡れたり泥で汚れたりしたときにこれでふき取っています。

 私の使っているストーンバッグはナイロン製(たぶん)の安物なのでとても軽く、移動の際にも負担にならないので三脚に着けっぱなしです。安物なので、本来の使い方をしようとして大き目の石を入れると破れてしまうかも知れません。

手鏡(ミラー)

 クレジットカードと同じ大きさの鏡です。AMEX(アメリカン・エクスプレス)からもらったもので、金属製の鏡です。ガラス製ではないので、落としても割れる心配がありません。

 これを何に使うかというと、時々身だしなみを整えるためではなく、主に絞りやシャッター速度の設定の際に使用します。

 大判カメラは後部にあるフォーカシングスクリーンで構図の確認やピント合わせをするので、これが目の高さにあると腰をかがめる必要がないのでとても楽です。
 ですが、そうするとレンズも同じ高さになり、シャッターの外周につけられた絞り値やシャッター速度値がとても見難くなってしまいます。レンズ正面に回れば前面につけられた目盛りは見えますが、カメラの前後を行ったり来たりしなければならないので極めて面倒です。

 そこで、カメラ後部にいながらレンズの指標を確認できるよう、この鏡を使います。

 鏡なので左右反転して写りますが、見たいところを映すことができるのと、半絞りや1/3絞りなどの細かな設定も鏡を見ながらできるのでとても便利です。
 もちろん、強い風に吹かれたり、冠布を被ったことで乱れたヘアーを直すのにも使えることは言うまでもありません。

露出計用PLフィルター

 大判カメラには露出計がついていないので、単体露出計が必須になります。
 通常の撮影であれば、単体露出計の測光値を使う、もしくは、撮影意図によって露出を変える場合でも単体露出計の測光値をもとに補正をかけます。
 ところが、PLフィルターを使用する場合は、単体露出計の測光値をそのまま使うというわけにはいきません。NDフィルターなどは露出補正値がフィルターによってほぼ決まっていますが、PLフィルターは光の具合や偏光をかける度合いによって露出補正値が異なるからです。

 PLフィルターはレンズに装着した状態で、ファインダーやフォーカシングスクリーンを見ながら偏光の効き具合を確認しますが、この時の露出補正値が正確にわかりません。明るさの変化を見て、概ねこれくらいだろうということで露出補正値を決めてしまうこともありますが、正確さを期すためには単体露出計で測光することが望ましいわけです。

 そのためには単体露出計にもPLフィルターを装着し、その状態で測光する必要がありますが、レンズにつけたPLフィルターを外して単体露出計につけるのは面倒です。
 そこで、単体露出計用の小さなPLフィルターをあらかじめ用意しておきます。

 PLフィルターの枠には変更度合いの基準となる位置にマークがついています。レンズに装着したPLフィルターで偏光度合いを確認した後、その時のマーク位置と同じになるよう単体露出計のPLフィルターも回転させ、その状態で測光すれば、偏光のかかり度合いに応じた正確な露出値を得ることができます。

 最近のPLフィルターは、カメラに内蔵されたハーフミラーやローパスフィルターに干渉しないよう、サーキュラPLというものがほとんどですが、大判カメラにはどちらも内蔵されていませんし、単体露出計に影響がなければ普通のPLフィルターでも問題ありません。

フォーカシングスクリーンマスク

 大判カメラのフォーカシングスクリーンは、そのカメラで使用するフィルムとほぼ同じ大きさになっています。つまり、視野率はほぼ100%ということです。
 ですが、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着して撮影する場合、使用するのはフォーカシングスクリーンの中央部だけ、67判であれば約55mmx69mmの範囲だけです。
 フォーカシングスクリーンによっては67判や69判の枠が引かれているものもありますが、視野率が300%ほどにもなってしまうので周囲が見えすぎてしまい、正直、使い易いとはいえません。これを改善するため、使用するフィルムの大きさに合わせたマスクを用意しておくと便利です。

 マスクと言っても黒い厚紙の中央部に、フィルムの大きさに合わせた窓をくり抜いただけのものです。これを、大判カメラのフォーカシングスクリーンのところにはめ込むという単純なものです。単純ではありますが、これで視野率が約100%となり、周囲の余計なものが見えなくなるので構図決めは格段にやり易くなります。

 フォーカシングスクリーンが嵌まっている枠の大きさはカメラによって異なるので、このマスクはカメラごとに用意しておく必要があります。
 また、フィールドタイプの大判カメラの場合、フォーカシングスクリーンにフードがついているものが多く、マスクを嵌めたままでもこのフードを畳めるよう、マスクの紙厚が厚くなりすぎないように考慮する必要があります。

色温度補正フィルター

 大判カメラでの撮影は長時間露光になることも多く、特にリバーサルフィルムを使用した撮影の場合、相反則不軌によってカラーバランスが崩れることがあります。
 この影響が出る露光時間はフィルムによって異なりますが、富士フイルムのデータシートによると、PROVIA100Fで4分以上の露光、Velvia100Fで2分以上の露光、Velvia50で4秒以上の露光となっています。
 2分以上の露光をすることはそれほど多くはありませんが、4秒以上の露光はかなりの頻度で発生します。つまり、Velvia50を使う場合はカラーバランス補正が必要になる頻度も高いということです。
 また、Velvia50の場合はマゼンタ系による色温度補正フィルターとされています。

 これに対応するため、マゼンタのポリエステルフィルターセットを使用しています。

 5Mから30Mまで5種類の濃度のフィルターがセットになっているものです。フィルター枠の大きさは100mmx100mmで、角型フィルターを使うときのホルダーに嵌まるサイズです。

 多少の色補正はレタッチソフトで修正できますが、やはりフィルムで撮る以上、ポジの状態でも適正なカラーバランスにしておきたいと思い、Velvia50を使うときは持ち歩くようにしています。

ケミカルライト

 フィールドタイプの大判カメラはその構造上、Uアーム(レンズスタンダード)を移動させるためのベッドがレンズよりも前にせり出しているものが多く、特に短焦点レンズを使う場合、このベッドが写り込んでしまうことがあります。WISTA 45 SPやタチハラフィルスタンド45では問題になりませんが、私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは、焦点距離が105mmのレンズでも縦位置だとベッドが写り込んでしまいます。
 カメラによって、焦点距離が概ね何ミリ以上のレンズであれば写り込みはないという自分なりの目安はありますが、それはカメラをニュートラル状態で使ったときの話しであって、アオリを使えばその基準は崩れてしまいます。

 ベッドが写り込まないよう、短焦点レンズを使うときは特に注意をしながらフレーミングや構図決めを行ないますが、夜景の撮影であったり、被写体が黒っぽいものであったりすると、ベッドの写り込みに気づかずにシャッターを切ってしまうこともあります。そうなると、大判で最も小さな4×5判であっても、リバーサルフィルムを使っていると千数百円(現像代含む)が飛んで行ってしまいます。

 このミスを防ぐため、夜景や暗い被写体の撮影の際にはベッドの先端にケミカルライトを着けるようにしています。

 これは本来、釣りに使うものです。2~3ヵ所をパキッと折ると緑色に発光し、約10時間くらい発光し続けます。光は蛍光色でかなり明るいです。サイズはいろいろあるのですが、私が使っているのは長さが37mm、直径が4.5mmという比較的小さなものです。価格は10本で400円ほどです。

 発光させたケミカルライトを、長さ50mmほどに切った黒いストローの中に入れます。ストローの中央にはキリで小さな穴を開けておきます。

 これを大判カメラのベッドの先端に貼りつければOKです。貼りつけは両面テープでも何でも良いのですが、私は「ひっつき虫」という粘土のようなものを使っています。つけたりとったりが何度でもできるので便利です。

 この状態で構図決めを行なうわけですが、もしベッドが写り込むとフォーカシングスクリーンの上部に緑色の光が見えるのですぐにわかります。
 10時間以上も発光し続けるので、一日の撮影でも1本あれば間に合います。数十円で高価なフィルムが無駄になるのを防げるのであれば安いものです。

マスキングテープ、ハーネステープ

 これは特に用途が決まっているわけではなく、持ち歩いていると何かと便利といった類のものです。どちらも手で簡単に切れますし、剥がしても痕が残りません。

 私がこれらをどのように使っているかというと、

  ・シートフィルムホルダーの引き蓋が抜けないようにとめておく
  ・長いケーブルレリーズ使用時、写り込まないようにカメラや三脚などにとめておく
  ・角型フィルターの隙間からの光線漏れを塞ぐ
  ・野草撮影の時、邪魔になる草や枝をまとめておく
  ・夜景撮影のため、明るいときにピントを合わせた位置をマーキングしておく

 といったようなところです。

 過去には、指を切ってしまったときに傷口にティッシュペーパーをあてて、その上からマスキングテープを巻いて包帯代わりにしたなんていうこともありました。
 とにかく持っていると重宝します。

折り畳み椅子

 大判カメラに限って必要というわけではありませんが、特に大判カメラの場合、じっくり腰を落ち着けて撮ることが多く、そんなときに椅子があると楽ちんです。レジャーシートなどを地面に広げて、そこに腰を下ろしても良いのですが、やはり椅子の方が何かと便利です。
 私は出来るだけ軽いものをということで、かろうじてお尻が乗るくらいの小さなものを持ち歩いています。長時間座るのには向いていませんが、地面に座るよりはずっと楽です。

 ただし、他の小物に比べると大きいので荷物になります。荷物の少ない方をとるか、多少荷物が増えても待機時の体の負担軽減をとるか、といったところでしょうか。

 いちばん自由度が高いのはレジャーシートだと思い、常時持ち歩いているのですが、立ったり座ったりが結構しんどいので、レジャーシートはもっぱら荷物置き用として使っています。

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 あれば便利というものはなかなかキリがなくて、撮影対象が異なればその内容も変わるでしょうし、年齢を重ねることで変わってくるものあると思います。しかし、持てる量には自ずと限りがあるので、荷物にならず手間もいらず、という小道具がいちばんありがたいです。

 また、今回は色補正フィルターについても触れましたが、その他にもカメラバッグには何種類かのフィルターが入っています。しかし、それらのフィルターは大判カメラに限ったものではないので言及しませんでしたが、フィルターについては別の機会にあらためて書いてみたいと思います。

(2022.10.18)

#撮影小道具 #ストーンバッグ #ケミカルライト #色温度補正フィルター

大判カメラでバレルレンズとソロントンシャッターを使う

 前回、ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズについて書いた中で、ソロントンシャッターについて触れましたので、今回はそれについて書きたいと思います。

 バレルレンズに代表されるような、シャッターが組み込まれていないレンズを用いて大判カメラで撮影を行なう場合、何らかの方法でシャッター機能を実現しなければなりません。秒単位の露光であればレンズキャップを外したり着けたりという方法で対応できますが、何分の一秒という短い露光が必要になると、人間の感覚と動作では無理があります。
 そんな問題を解決すべく、1890年頃にソロントン・ピッカード社によって開発されたのがソロントンシャッターだそうです。
 いまではその存在を目にする機会も非常にまれになってしまいましたが、バレルレンズを使うときは活躍をしてくれます。

ソロントンシャッターの仕組みと操作方法

 ソロントンシャッターというのは固有名詞というか製品名で、一般的にはローラーブラインドシャッターという分類に入るようです。
 私は今から17~8年前、初めて中古のバレルレンズを手に入れました。その後、シャッターを何とかしなければならないということで、ハンザ社製のソロントンシャッターを購入しました。記憶が定かではないのですが、当時は製品カタログにも掲載されている現行品であったような気がします。ですが、使う頻度もそれほど高くないだろうということで、私は中古品を購入しました。当時は中古カメラ店のジャンク箱の中にゴロゴロと入っていたのを憶えています。

 ソロントンシャッターは、使用するレンズによっていろいろな大きさが用意されているようですが、私が購入したのはレンズをはめる開口部の直径が83mmのものです。中程度の大きさだったと思います。このサイズを選んだのは、開口部が83mmあれば、4×5判で使うレンズのほとんどに対応できるだろうとの理由です。
 外枠は木製で、それはもう手作り感満載の製品です。

 このシャッターの仕組み自体は比較的シンプルです(下の図を参照)。

 長さが約30cmで、中央部分が窓(開口)になっているシャッター膜がドラムに巻き付けられています。ドラム内にはバネがあり、シャッター膜を巻き取り軸に巻き取るとこのバネが引っ張られ、シャッターがチャージされた状態になります。
 この状態で、巻き取り軸のロックを解除すると、バネの力でシャッター膜が走り、再びドラム側に巻き取られるという仕組みです。

 このシャッターの使い方ですが、まず、シャッター膜の巻き上げレバーを回して、シャッター膜の巻き上げを行ないます(上図の青い矢印)。
 このレバーは180度(半回転)回すと後膜が巻き上げられ、開口部が出た状態でロックされます。さらに半回転回すと先膜が巻き上げられ、同様にロックされます。つまり、2ストロークの巻き上げ操作になりますが、これでチャージ完了です。

 この状態でシャッターレバー(上図の赤い矢印)を持ち上げると、ロックが解除され、シャッター膜がドラム側に巻き取られていきます。シャッターレバーのところにはケーブルレリーズを取付けるネジ穴があり、実際にはここにレリーズを取付けてリリース操作、すなわち、シャッターを切る操作を行ないます。

 シャッター速度は上図の黄色の黄色い矢印のついたダイヤルで行ないます。
 私の持っているシャッターの場合、設定できる速度は1/15、1/30、1/45、1/60、1/75、1/90秒の6通りです。
 このダイヤルがついている面の反対側に、シャッター速度を示す目盛り板がついています。

 シャッター速度設定ダイヤルを回すと、ドラムのバネにテンションがかかるようになっていて、バネの引っ張る力が強まり、シャッター速度が上がるという仕組みのようです。
 しかしながら、その精度はあまり高いとは思えません。
 実際にシャッターを切ってみると、ガラガラというような音を立ててシャッター膜が巻き取られていき、開口部が通り過ぎる際には向こう側の景色がしっかりと見えます。その動きは何とも長閑で、ほほえましささえ感じられます。

 では、実際にどれくらいの速度で動いているのか、今さらながらではありますが、シャッター速度を計測してみました。
 その結果は以下の通りです。いずれも3回の計測値と平均値です。

  1/15 : 1/14.7 1/16.3 1/15.4  平均 1/15.4
  1/30 : 1/21.4 1/21.8 1/23.1  平均 1/22.1
  1/60 : 1/28.7 1/27.2 1/28.3  平均 1/28.1
  1/90 : 1/37.8 1/37.1 1/36.4  平均 1/37.1

 この結果から分かるように、1/15秒ではほぼ基準値、1/30秒では基準値の約1.35倍、1/60秒では約2倍、1/90秒では約2.5倍の露出がかかっていることになります。
 一方、ばらつきはそれほど大きくありません。

 はなから高い精度が出ることは期待していませんでしたが、まぁ、こんなものかという感じです。
 今まで、撮影の際には1/15秒と1/60秒しか使わず、経験値から1/60秒では-1段の補正をしていましたので、概ね、適正露出での撮影ができていました。

 なお、シャッター速度を変更する場合は、ドラムに掛けたテンションをいったん解除し、1/15秒のポジションに戻してから、再度、所定の位置までダイヤルを回すという手順をとった方が良いようです。

 また、このシャッターにはバルブ機能がついていて、上の図の緑矢印のレバーを動かす(図では下方向)と、巻き上げレバーが戻るときに180度回転したところで爪に引っかかり、シャッター膜の開口部が出た状態で止まります。つまり、露光状態になります。
 この状態で再度シャッターを切る操作をすると、この爪が外れてシャッターが閉じられる仕組みです。バルブというよりは、今のレンズで言うところのT(タイム)ポジションのような動きをします。

バレルレンズへの取付け

 さて、撮影するためにはレンズにシャッターを取付けなければなりませんが、レンズの鏡胴の外径と、シャッターの開口部の内径がぴったりと合うわけではないので、私は取付け用のアダプタを自作して、それで取付けをしています。
 使わなくなったフィルターの枠だけを利用し、バレルレンズの鏡胴にピッタリと嵌まるリングと、ソロントンシャッターの開口部にピッタリと入るリングを作成し、これらをステップアップリングで結合しています。

 上の写真で、レンズの上部に嵌めてある黒いリングが自作のアダプタです。
 シャッターの開口部にはめ込むリングは一つで済みますが、レンズの鏡胴に嵌めるリングは、使うレンズに合わせて複数個必要になります。

 これを大判カメラに取付けるとこんな感じになります。

 レンズの前側に箱がついて、何とも不格好ではありますが、昔の写真館のような雰囲気があります。上の写真ではWISTA 45に取付けていますが、本当は昔の木製カメラの方がしっくりくると思います。
 カメラとシャッターをこのような位置関係で縦長の状態で取り付けると、シャッター膜が上から下に向って走るようになります。ドラムのバネにかかる負荷を出来るだけ軽くしようと思って縦位置で使用していますが、横位置で使っている方もおられ、本当はどれが正しい使い方なのか私もよくわかりません。

 また、大判フィルムで撮影するときは、フィルムホルダーの引き蓋を引く前にシャッターをチャージしておかないと、フィルムが露光してしまいますので注意が必要です。

NDフィルターの取付け

 バレルレンズでシャッターが使えるようになるとはいえ、上でも書いたようにシャッター速度の精度が良くないので、実際に私が使っているシャッター速度は1/15と1/60秒くらいです。1/60秒は露出補正が必要ですが、2倍なので補正し易く、実用に耐えるといったところです。
 シャッター速度を変えるよりも、シャッター速度は固定にしたままで、レンズの絞りで対応する方が現実的な気がします。その方が露出の失敗も少なくて済むのではないかと思います。

 しかしながら、あまり絞りたくないという場合もあります。特にソフトフォーカスレンズの場合は絞り込んでしまうとソフト効果がなくなってしまうので、どうしても絞りを開いておく必要があります。

 そこで、NDフィルターで露出補正ができるよう、ソロントンシャッターの前側開口部にフィルターを装着できるようにしてあります。

 これも使わなくなったフィルターの枠だけを利用しています。使用しているのは82mm径のフィルター枠ですが、ソロントンシャッターの前側開口部の方がフィルター枠より少し大きいので、フィルター枠のネジの部分にプラバンを巻き付けて、前側開口部にピッタリと嵌まるようにしています。
 ここにNDフィルターを装着すれば露出補正ができます。ただし、何種類かのNDフィルターが必要になりますが、最近、よく見かけるようになった可変NDフィルターがあれば1枚で済みます。

 私はガラスを外してフィルター枠だけを使いましたが、無色のフィルターなどをそのままつければシャッター膜の保護にもなると思います。ですが、重くなるのであまりお勧めではありません。

 また、フィルター取付け枠があるとNDフィルター以外のフィルターを装着することもできるので、それなりに便利です。

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 私が使っているソロントンシャッターがいつ頃に作られたものかわかりませんが、今のところ、シャッター膜もしっかりしているし、精度はともかく、使える状態です。
 ですが、私がこれを持ち出すのは1年に数回ほどしかありません。バレルレンズ自体を使うことがまれなのですが、もともと手間のかかる大判カメラでの撮影に輪をかけて手間がかかってしまうことも理由の一つです。
 また、とりあえず撮影ができる状態ではありますが、1枚何百円もするシートフィルムを入れているときに、シャッター膜が走るガラガラというような音を聞くと、本当に撮影できているのかと不安になることがあります。

 しかしながら、シンプルな構造とはいえ実によく考えられていて、最初にこのシャッターを作った人を尊敬します。

(2022.10.8)

#ソロントンシャッター #バレルレンズ #ウイスタ45 #WISTA45

ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズは汚れがひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2群3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

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 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika #レンズ描写