フォーカシングスクリーンの視野率は、写真の出来を大きく左右する

 ミラーレス一眼レフのデジタルカメラは構造が異なっていますが、35mm判や中判のフィルム一眼レフカメラや二眼レフカメラ、あるいは大判カメラにはフォーカシングスクリーンがついていて、ここにレンズから入った光が結像するようになっています。大判カメラや多くの二眼レフカメラはフォーカシングスクリーンに映った像を直接見て、構図決めやピント合わせを行ないますが、一眼レフカメラの多くはアイレベルファインダーを通して見るような仕組みになっています。
 このように多少の違いはあれ、フォーカシングスクリーンに映った像を頼りに撮影することには変わりがありません。したがって、フォーカシングスクリーン上には、フィルムに記録されるのと同じように像が映されていないと具合が悪いわけですが、カメラによって映される範囲が異なっているのが実情です。

 カメラのカタログや取扱説明書を見ると、「ファインダー視野率 ○○%」という記載があります。これは撮像面(フィルム)に記録される範囲を基準にしたとき、フォーカシングスクリーン(ファインダー)で見ることの出来る範囲の割合を示したもので、100%であれば記録される範囲と見ている範囲が一致しているわけですが、100%より小さい場合は記録される範囲よりも狭い範囲しか見えていないことになります。反対に100%より大きければ、記録される範囲よりも広い範囲を見ているわけです。

 最近の一眼レフのデジカメはファインダー視野率100%というのが多いようですが、かつてのフィルム一眼レフカメラの場合、一部の機種を除いてファインダー視野率が90%台というのが多かったと記憶しています。
 何故、ファインダー視野率を低くしているのか本当の理由はわからないのですが、一説には、フィルムからL判などに機械焼き(いわゆるサービスプリントと呼ばれていたものです)する際に、周囲が若干カットされてしまうので、それを考慮してファインダーの視野率も下げているという話しを聞いたことがありますが、事実のほどはわかりません。

 理由はともかく、フォーカシングスクリーンの視野率が低いというのは撮影する側からするとあまり有り難くありません。
 因みに、私が愛用している中判カメラのPENTAX67は、アイレベルファインダーを装着した場合の視野率は約90%(カタログ値)です。
 PENTAX67のアパーチャーサイズ、すなわち、実際にフィルムに記録されるサイズは69.3mm x 55.5mmです。視野率が90%ということは、周囲が均等にカットされるとして、65.7mm x 52.7mmになってしまいます。つまり、横位置で構えた場合、フォーカシングスクリーンの左右それぞれが約1.8mm、上下それぞれが約1.7mmも見えていないということになります。

▲PENTAX67のフォーカシングスクリーン

 この値は誤差の範囲と思われるかもしれませんがそんなことはなく、例えば、中判(67判)の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズで50m先の被写体を撮影する場合、フォーカシングスクリーン上の左右それぞれ1.8mmは、50m先の被写体の位置では約85cmにも相当します。これは決して誤差の範囲などではなく、大人一人が簡単に隠れてしまう横幅です。
 フォーカシングスクリーン上では見えていなかったのに、実際に出来上がったポジ原版を見たらしっかりとおじさんが写り込んでいた、なんていうことがごく当たり前に起きてしまいます。

 もちろん、写り込んでしまったのはおじさんが悪いのでなく、撮影するこちら側に全責任があるわけです。近くに人がいるときはフレーム内に入らないか確認すべきですし、もし入りそうであれば通り過ぎるまで待つべきなのですが、つい撮り急いでしまったりするとこのようなことが起こり得ます。実際に私も何度か経験をしています。
 また、人がいなくても目に見えている範囲よりも実際に写る範囲の方が広いわけですから、構図を決める際にカメラを上下左右に振りながら確認しなければならないので、とても煩わしいです。右方向を確認するためにカメラを右に振ると左側が切れていってしまいますし、上下に関しても然りであり、フィルムに記録される全景を一度に見ることができないわけですから結構なストレスです。

 端の方に余計なものが写り込んだらトリミングすれば済む話ですが、リバーサルフィルムを使っているとそれを容認できなくなってしまいます。リバーサルフィルムの場合、現像が上がった時点で完成形となるので、そこに余計なものが写っているとそのコマは失敗作となってしまいます。
 最近はなくなってきましたが、以前は写真コンテストなどでもポジ原版(スライド)をそのまま応募する形式のものが結構ありました。余計なものが写っているからと言ってポジ原版をハサミやナイフで切ってしまうわけにはいかないので、すなわち、応募に値しない失敗作ということになってしまいます。
 そのような経験をしてきていることも理由かもしれませんが、ポジ原版上で完成させないと気が済まないという、とても面倒くさい状態になっているわけです。

 私が普段使っているカメラは、中判のPENTAX67と大判(4×5判)のカメラです。
 PENTAX67もアイレベルファインダーをつけた状態ですと視野率は約90%になってしまいますが、これを取り外してフォーカシングスクリーンを直接見るようにすると、視野率が100%にかなり近づきます。
 大判カメラの視野率もすべて同じというわけではなく、機種によって微妙に違っています。

▲Linhof MasterTechnika 2000 のフォーカシングスクリーン

 ということで、私が持っているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズと視野率を実測してみました。
 まず、アパーチャーサイズ(フィルムに記録されるサイズ)は以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.3mm x 55.5mm
  4×5判フィルムホルダー : 120.1mm x 96.1mm

 これに対して、今現在、所持しているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズを実測したのが以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.6mm x 54.0mm
  Linhof MasterTechnika 45 : 121.4mm x 98.4mm
  Linhof MasterTechnika 2000 : 120.3mm x 97.1mm
  WISTA 45 SP : 120.1mm x 99.7mm
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 120.0mm x 94.6mm

 この値から視野率を計算すると以下のようになります。

  PENTAX67 : 97.7%
  Linhof MasterTechnika 45 : 102.5%
  Linhof MasterTechnika 2000 : 101.2%
  WISTA 45 SP : 103.7%
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 98.4%

 縦と横とで比率は異なっていますが、フォーカシングスクリーン全体の視野率を見るとこんな感じになっています。

 リンホフとウイスタはわずかですが100%を上回っています。リンホフMT45とMT2000は同じだと思っていたのですが、実際にはごくわずかに違いがあるようです。
 一方、タチハラは短辺が少しカットされる状態になっています。

 個人的には視野率は100%を上回っているのがありがたく、できれば110%くらいあると理想的だと思っています。理由は、実際に写り込むよりも少しだけ広い範囲が見える方が構図決めがし易いからです。フィルムに納まる範囲のちょっと外側に何があるかがわかることで、もう少し右に振るか左に振るか、あるいは上、または下に振るかを判断することができます。これによって、フィルムの上下左右や四隅を曖昧な状態にせずに、意識を配ってきちんとまとめることができるのはとても大事なことだと思っています。
 また、フィルムの端の方や隅に余計なものが入り込むのを防ぐのはもちろんですが、中途半端な入り方になってしまうのを防ぐこともできます。
 例えば、隅の方に太い木の枝がほんの少しだけ入ってしまうなんてことは有りがちですが、これは出来上がった写真(ポジ)を見た時にとても気になります。撮影の際にはそこに気が回らなくて起きてしまう失敗ですが、これもフィルムに写り込む範囲よりも少し広く見えていれば防ぐことができます。
 隅の方に写った木の枝なんてどうってことないと思うかも知れませんが、そんなことはなくて、周辺部まで気配りの行き届いた写真とそうでない写真を見比べると、カメラの位置や向きがほんのちょっと違っているだけなのに、写真から受ける印象はずいぶんと違ってきます。

 リンホフもウイスタも視野率100%を上回っているとはいえ、ゆとりをもって周辺を見ることができるほどの大きさはありません。それでも周辺部がカットされているよりははるかに構図決めはし易いです。
 そういった点からすると、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着しての撮影というのは極めて理想的と言えます。精度の問題はありますが、レンジファインダーカメラのブライトフレームの外側も見えているのと同じ感覚です。
 視野率を高くしようとするとフォーカシングスクリーンのサイズを大きくしなければならず、そうでなくても図体の大きな大判カメラはますます大きくなってしまいます。また、シートフィルムホルダーの規格もあるので無暗に大きくもできなのでしょうが、視野率にゆとりのあるフォーカシングスクリーンによる恩恵は大きいと思います。

 カメラを持ち出すたびに、フォーカシングスクリーンの視野率を高める方法はないものかと思案を巡らせる日が続いています。

(2022.12.24)

#フォーカシングスクリーン #PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45

ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 一年ほど前、中古カメラ店で衝動買いのようにして手に入れたローデンシュトックのシロナーN 210mmレンズです。シャッターが不良だったため驚くほど安い価格で購入できたのですが、不良個所を直し、撮影の際には持ち出す頻度の高いレンズになりました。
 私が持っている数少ないローデンシュトックのレンズのうちの一本ですが、一年近く使ってみて、結構お気に入りのレンズの一つになりました。

Sironar-N 210mm 1:5.6 レンズの主な仕様

 このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ301mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm
   後枠外径寸法 : Φ60mm
   全長  : 66.2mm

 ローデンシュトックのレンズの最新モデルはほとんどが「APO」を冠していたり、デジタル用となっていますので、このレンズは二世代ほど前のモデルになります。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当します。標準レンズよりもちょっと長めといった感じです。67判で使用すると、35mm判で105mmくらいのレンズの画角に相当しますので、中望遠レンズといったところでしょうか。
 シャッターは1番、フジノンのW210mmと大きさも似通っていて、標準的な大きさだと思います。

 イメージサークルは301mm(F22)あり、5×7判までカバーできると思いますので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。大きくアオリをかけてもケラレることはなく、安心して使うことができます。フジノンのW210mmのイメージサークルが309mm(F22)ですから、仕様的にも非常によく似たレンズです。

 レンズコーティングの違いによるものだと思いますが、前玉をのぞき込んだ時の色合いはシュナイダーともフジノンとも異なり、赤紫というか濃いピンク色をしており、妖しくも艶めかしい感じがします。

準標準系(4×5判)レンズといえる画角

 35mm判カメラで言うところの標準(50mm)レンズに相当する画角を持ったレンズは4×5判では180mmと言われていますが、それに近いのが210mmレンズです。そのせいか、中古市場には180mmと210mmのレンズはとても多く出回っています。まずは標準レンズということで、この辺りの焦点距離のレンズを最初に買い求める人が多かったのかもしれません。

 4×5判での対角画角は約41度ですので、フレーミングしても違和感のない画角だと思いますが、4×5判の大きなフォーカシングスクリーンに投影された映像を見ると、もう少し焦点距離の長いレンズのような印象を受けます。これは、短焦点レンズに見られるような周辺部が引っ張られる感じがないからかもしれません。とても素直で自然な感じの画像が浮かび上がってくるのは気持ちが良いものです。

 強いパースペクティブを活かした写真には向いていませんが、程よい遠近感を出しながらお目当ての範囲を切り取ることのできる画角だと思います。
 大判レンズにはズームレンズがないので、どうしても持ち出すレンズの本数は増えてしまいがちですが、私の場合、210mmは必ずと言ってよいくらいに持ち歩いています。レンズの本数は少ない方が荷物が軽くてありがたいので、180mmか210mmか、どちらか1本というときには210mmを選択することが多いです。このあたりは焦点距離というか画角に対しての慣れの問題もあると思います。

 私は渓谷とか滝を撮ることが多いのですが被写体にあまり近づくことができないことも多く、また、あまり広い範囲を取り入れてしまうと主題がぼやけしまうこともあるので、40度前後の画角というのは結構重宝します。
 焦点距離が210mmなので、35mm判や中判カメラの場合、あまり被写体に近づくと被写界深度が浅くなってしまいますが、大判カメラの場合、アオリをかけることでそれをカバーすることができます。もちろん画角が大きくなるわけではありませんが、ワーキングディスタンスの自由度も備えていると思います。

とてもシャープでありながら、柔らかな感じの独特な写り

 ローデンシュトックのシロナーというシリーズのレンズは初めて使ってみたのですが、柔らかな写りという印象があります。
 うまく表現できないのですが、いわゆる軟焦点(ソフトフォーカス)レンズのようなフワッとした柔らかさではなく、エッジが尖り過ぎていない柔らかさとでも言ったらよいのか、ポジを比べるとシュナイダーともフジノンとも違う印象を受けます。柔らかく感じるからといって解像度が低いわけでもなく、細部まで見事にシャープな像が形成されています。ルーペで見てもまったく遜色のない、見事な解像度です。コントラストが低いことで柔らかな感じを受けるのかとも思いましたが、決してそんなこともなさそうです。
 ボキャブラリーがなくて申し訳ないのですが、カリカリした硬さがないというのが適切かもしれません。

 また、これは検証したわけではなくあくまでも想像ですが、もしかしたら発色の違いによるものかも知れないと思ったりもします。上でも書いたように、レンズの前玉をのぞき込んだ時の色合いがシュナイダーやフジノンとはずいぶん違うので、これによって色の出方が異なるのかも知れません。シュナイダーやフジノンに比べると発色が地味な印象も受けますが、いちばんナチュラルな発色と言えるかもしれません。

 では、実際にSironar-N 210mm で撮影した事例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目ですが、今年6月に群馬県の桐生川源流林で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 16s ND8 PROVIA100F

 この辺りは木々が覆いかぶさっていて晴れていても渓流全体が薄暗いのですが、さらにこの日は空が雲に覆われており、かなり暗い状態でした。いい感じに木々の隙間から光が差し込んでいる場所を見つけて撮影したのですが、渓流の奥の方はかなり暗いのがわかると思います。
 風が少しあったので木の葉はブレていますが、下半分の渓流の部分はとてもシャープに写っています。ですが、硬さは感じられず、なんとなく全体に柔らかな印象があります。かといってコントラストが低いわけでもなく、階調も豊かに表現されていると思います。
 また、葉っぱや岩肌、苔などもとても自然な発色をしているように感じます。

 曇りの日の光は柔らかいので、一般的には出来上がった写真も柔らかな感じになるものですが、それとは違う種類の柔らかさを感じます。

 中央に近いところの岩の部分を拡大したのが下の写真です。

 岩や苔の質感も見事に表現されており、立体感のある描写です。
 全体的に柔らかさを感じるものの、解像度やシャープネスを損ねているわけでもありません。十分すぎるくらいの鮮明さを保っていると思います。

 もう一枚、下の写真は青森県で撮影したブナ林です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 4s PROVIA100F

 木の幹や葉っぱなどを見るととてもシャープに写っているのですが、写真全体は何となく柔らかな感じを受けるのは上の写真と共通しています。
 少し地味に感じるかも知れませんが全体的に落ち着いた色合いで、シュナイダーのレンズで撮るともう少し派手に写るのではないかという気がします。同じ場所で撮影して比べたわけではありませんが、たぶん、全体から受ける印象が違うのだろうと思います。

 この写真は密生しているブナの林を、およそ20m離れた場所から撮影しています。カメラをほぼ水平に構えた状態で真横から撮っている感じです。木の幹は多少曲がりくねっていますが、カメラを上に振ったときのように、木の上部が中央に集まってしまうようなこともなく、ほぼ平行を保って写っています。また、林の奥の方の木の幹もくっきりと写っていて、このあたりが210mmという焦点距離のレンズならではの写りといった感じです。

 下の写真は栃木県の県民の森で山道を歩いていたところ、道の脇に綺麗に黄葉した葉っぱを見つけたので撮影した一枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F11 1/4 PROVIA100F

 被写体までの距離は1.5mほどで、ほぼ真上からの撮影です。
 もう少し低い位置から斜め下方に向けてカメラを構え、アオリを使って全体にピントを合わせても良かったのですが、葉っぱの形が綺麗に見えるこのポジションにしました。
 黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗です。葉っぱの鋸歯も鮮明に写っていますが、カリカリとした感じはしません。鮮やかな黄色もどぎつくならず、とても自然な発色だと思います。
 葉っぱの高さはほぼそろっていたのですが、出来るだけ全体にピントを合わせたかったのでF11まで絞り込んでいます。もう1段くらい開いても良かったかも知れません。

 写真全体としては派手さが控え気味という印象を受けますが、この被写体には向いているように思います。ぎらつくような黄色よりはしっとりした色合いが似合っている被写体です。

 いずれの写真も解像度やシャープネス、コントラスト、発色など十分すぎるくらいですが、どことなく柔らかな感じがするのは共通しています。それが色合いからくるものなのかわかりませんが、非常にナチュラルな写りのレンズあると言えるのではないかと思います。

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 私が持っているローデンシュトックのレンズの本数が少ないため、このレンズ一本だけでローデンシュトックの特性を語ることはできませんが、個人的には好感の持てる写りをするレンズといった印象です。同じシロナーでも、アポシロナーやアポシロナー・デジタルだと違う写りをするかも知れませんが、驚くほど高額ですし、そもそも手に入りにくいので、たぶん、一生使うことはないと思います。
 そんな最新モデルのレンズでなくても良いので、ローデンシュトックのレンズを使ってみたい衝動が沸々と湧いてきました。ローデンシュトックにはたくさんのシリーズやモデルがあって、気にしだすときりがないのですが、機会があれば別のレンズも使ってみたいと思います。

 こうして、またレンズが増えていってしまうんだろうなぁ、と思いながら...

(2022.12.14)

#ローデンシュトック #シロナーN #Rodenstock #Sironar-N #桐生川源流林 #レンズ描写

秋の福島・山形 ~大信不動滝・裏磐梯・湯川・朝日渓谷・慈光滝・地蔵沼~

 10月末から福島、山形に紅葉の撮影行に行ってきました。今年は秋の訪れが早いのではと思っていたのですが、紅葉の盛りまではもう4~5日後の方が良さそうな感じでした。また、今年は夏が暑かったからなのかわかりませんが、色づきもイマイチという印象を受けました。
 最低気温が8度を下回ると紅葉が始まるらしいのですが、私が訪れた時は結構暖かくて、紅葉も足踏みをしていたのではないかという感じです。それでも東北の紅葉はやっぱり綺麗です。

 今回は、福島県の南側県境にある白河を起点に下郷、会津若松、裏磐梯、山形県の米沢、上山、山形、新庄、酒井、鶴岡を回ってきました。
 持参したのは大判カメラ(リンホフマスターテヒニカ45)です。

大信不動滝(福島県)

 白河の市街地から国道294号線を北上し、県道58号矢吹天栄線をひたすら西に向かうと聖ヶ岩ふるさとの森キャンプ場があります。シーズンにはキャンプする人で賑わうのか、広い駐車場が完備されています。ここに車を停めて、隈戸川に沿った遊歩道を歩くこと7~8分で大信不動滝の前に出ます。
 落差は5mほどでそれほど高くありませんが、横幅が30m以上はあると思われ、黒い岩肌を滑るように流れ落ちる滝です。

▲大信不動滝 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F32 4s PROVIA100F

 6月に訪れた時は水量がとても多く、滝の前に立っていると飛沫でびしょ濡れになってしまうくらいでしたが、今回は水量が少なく、6月の迫力とは別物のような滝でした。水量が多いと岩肌はほとんど見えないくらいで、日差しが強いときは真っ白に飛んでしまいますが、水量が少なくて 迫力に欠ける分、しっとりとした感じがします。
 まだ色づき始めたところで緑がたくさん残っていますが、岩に貼りついたたくさんの落ち葉が深まる秋を感じさせてくれる景色です。

 周囲は木立に囲まれており、まだ太陽高度が低い時間帯だったので薄暗いような場所です。露出をかけすぎると重厚感がなくなってしまうので少し切り詰めています。
 また、左上を見ていただくとわかるように、ところどころ日が差し込んでいます。これが滝に差し込むとしっとり感がなくなってしまうので、雲がかかったタイミングを見計らってシャッターを切っています。

 農繁期も過ぎ、上流にあるダムで絞っているのかもしれませんが、それにしても水量が少なすぎます。
 なお、この辺りはマムシが出るらしく、「マムシ注意!」の看板がいくつもあります。クマのような恐ろしさはありませんが、気持ちの良いものではありません。

湯川渓谷(福島県)

 会津若松の市街地から県道325号線に入り有名な東山温泉街を抜け、さらに山道を十数キロ進むと湯川が作る渓谷を見ることができます。湯川に沿って県道が走っているため、道路脇の斜面をちょっと下ると渓谷に降りることができます。特に遊歩道のようなものが整備されているわけではありませんが、渓谷美が広がっていて撮影ポイントだらけといった感じです。

 川が蛇行していて見通しがきかないところも多いのですが、緩やかにS字を描きながら流れている場所で撮影したのが下の写真です。

▲湯川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F22 4s PROVIA100F

 この辺りの木々はほとんどが黄葉で、紅く色づく木はとても少ない印象です。しかし、黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗で、地味ではありますがたくさんの紅葉がある景色とは違った趣があります。渓谷の岩の上に積もった落ち葉が黒い岩肌を隠していて、全体的に柔らかな感じの風景になっています。
 水量が少なめなので、流れよりも黄葉の方に重きをおいて撮りました。白い波の部分が少ないので、静けさが漂うような描写になったのではないかと思っています。

 この近くに大滝という滝があるのですが、ロープを伝いながら崖のようなところを降りていかなければならず、重い機材を背負っていくにはもっとしっかりとした装備がいると思い、大判カメラでの撮影は断念しました。

裏磐梯 曲沢沼(福島県)

 9月にも裏磐梯に行きましたが、あれから2か月足らず、すっかり秋が深まっていました。ほとんど落葉してしまっている木もあり、あっという間に秋が進んでいくのを感じます。
 裏磐梯の桧原湖、小野川湖、曽原湖に囲まれた一帯は小さな沼が無数に点在していますが、曽原湖の東側に位置する大沢沼や曲沢沼の紅葉は裏磐梯の中でも鮮やかな感じがします。

 下の写真は曲沢沼で撮影したものです。

▲曲沢沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/2 PROVIA100F

 小さな沼ですが周囲がこんもりとした森に囲まれていて、紅葉の密度が高い場所です。
 朝の7時過ぎ、一部の木々だけに陽が差し込み、紅葉が輝いていますが、背後は日陰になっているので黒く落ち込んでいます。ほとんど無風状態だったので水鏡のようになっています。
 ほぼ逆光の位置で撮っているためコントラストがとても高く、陽のあたっている葉っぱは若干飛び気味ですが、光の強さを出すために葉っぱの輝きが損なわれないよう、オーバー目の露出にしています。

 もう一枚、曲沢沼の近くで見つけたカエデです。

▲カエデ紅葉 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F5.6 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、羽を広げたような枝っぷりと、何と言っても鮮やかなオレンジ色の紅葉が目を引きました。背後にも赤く染まったカエデがありますが、それとは違った輝くような色が印象的でした。
 背景があまりくっきりしないように絞りは開放に近い状態にしているので、主被写体となるカエデの葉っぱのピントが甘いところがあります。もう少し焦点距離の長いレンズで、離れたところから撮影したほうが良かったように思います。

裏磐梯 レンゲ沼(福島県)

 レンゲ沼はジュンサイが採れることでも有名ですが、冬には3,000本ものキャンドルが灯される雪まつりでも有名です。沼の周囲には探勝路があり、およそ15分もあれば一周できるくらいの小さな沼です。
 特に紅葉が多いというわけではありませんが、色づいた木々と沼とのコラボレーションが綺麗な場所です。曲沢沼のような派手さはありませんが、落ち着いた秋の景色を見ることができます。

 下の写真は水面に映る景色を主に撮った一枚です。

▲レンゲ沼 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F22 1/4 PROVIA100F

 手前と奥の方に浮いている楕円形の葉っぱがジュンサイではないかと思います。夏はもっと緑色をしているのですが、だいぶ黄色くなっています。
 この日は良く晴れて青空が広がっており、紅葉とのコラボが綺麗でしたが、空を直接写し込まずに水面の中に入れました。青の濃度が増してコクのある色合いになっています。
 この沼ではカモと思われる水鳥をよく見かけるのですが、この日は一羽も来ませんでした。水鳥がいるとそれはそれで絵になるのですが 、そうすると水面が波立ってしまい、綺麗な水鏡を撮ることができなくなってしまいます。

朝日川渓谷(山形県)

 山形県の中央部に近いあたりに、最上川の支流の一つの朝日川があります。この朝日川に沿って県道289号線が走っているのですが、この一帯が朝日川渓谷で磐梯朝日国立公園に指定されているようです。
 水がとても綺麗であちこちに渓谷美が見られるのですが、車道の道幅が狭くてすれ違いができないような箇所もあり、車の運転は緊張します。国道287号線から分岐しておよそ10kmほど走ったあたりが最も渓谷美を感じる場所だと思います。

 渓谷の両岸は険しく切り立っていて、車道から降りていくことのできる場所は少ないのですが、偶然、河原まで降りることのできる場所を見つけて撮影したのが下の写真です。

▲朝日川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F

 ここも水量はかなり少なめでした。川の中に入って向こう岸まで歩いて行けるのではないかと思えるほどです。
 木々もいい感じに色づいており、右上にある紅葉がとても綺麗でした。薄曇りのためコントラストが高くなりすぎることもなく、落ち着いた感じになりました。
 水面の反射や岩の反射を取り除き、紅葉を濃くするためにPLフィルターを使うことも考えましたが、ベッタリとした感じに仕上がるのが嫌で結局使いませんでした。

 撮影したくなる場所があちこちにあるのですが、車を停める場所がほとんどありません。すれ違いのための待避所は結構あるのですが、そこに停めてしまうとすれ違いの車の迷惑になってしまいます。広いスペースのところに駐車して、歩いて撮影するのお勧めの場所です。

慈光滝(山形県)

 真室川町から酒田市に通じる国道344号線沿いにある滝です。道路のすぐ脇にある滝で、すぐ近くの駐車スペースに車を停めてサンダル履きでもOKという、ロケーション的にはとっても恵まれています。
 この滝のある川の名前はわからないのですが、流れ落ちた水は車道の下をくぐり、大俣川に流れ込んでいます。

 落差は6mくらいで小ぶりな滝ですが、岩肌を糸状に落ちる優美な感じのする滝です。

▲慈光滝 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 ここも紅葉真っ盛りというタイミングで、滝の美しさが一層引き立っている感じです。夏に訪れた時は木々が生い茂っていて、その中に滝が埋もれているようでしたが、この時期になると滝の全貌も見えて、夏とは全く違う景色になります。
 滝の真上にある紅葉、たぶんハウチワカエデではないかと思うのですが、このオレンジ色が個人的にはとても気に入っています。この滝には赤よりもこの色の方がお似合いな感じです。

 この写真を撮影しているとき、ちょうど通りかかった地元の方が「イワナがいる」と教えてくれました。滝つぼをのぞき込んでみると確かにいました。20cm以上はあるのではないかと思われる大きなイワナでした。

地蔵沼(山形県)

 月山の南山麓、標高およそ750mにあるこじんまりとした沼です。周囲はブナ林に囲まれていて、とても神秘的な雰囲気が漂っています。
 沼の中ほどにある島に歩いて渡るための橋がかけられていたり、沼の周囲には運動広場や野営場などがあるのですが、沼からは見えないこともあり、そういったものを感じさせない静かなたたずまいです。

 下の写真は早朝、沼に陽が差し込み始めたころに撮ったものです。

▲地蔵沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 標高が高いこともあり、紅葉のピークは少し過ぎてしまっている感じです。対岸にある木々は落葉してしまっていますが、幹や枝が朝日に白く輝いて晩秋の雰囲気があります。
 沼の中ほどにある島をもう少し広く入れたかったのですが、カメラを右に振ると島に渡る橋が写り込んでしまうのでこれがギリギリでした。
 沼の西側から東を向いて撮影しているので半逆光状態ですが、夕方になって西日が差し込むと、対岸のブナ林が真っ赤に染まるのではないかと思います。青森県にある蔦沼の紅葉を思い浮かべてしまいました。

 今回、私は初めて訪れたのですが、ここは紅葉の人気撮影スポットらしく、ピーク時には三脚がずらっと並ぶそうです。私が撮影していた1時間ほどの間、他に訪れる人は一人もいませんでした。

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 紅葉のピークにはちょっと早い感じもしましたが、少し高いところに行くと落葉が始まっており、紅葉の時期は本当に短いと感じます。時間が許せば、緯度の高いところから紅葉前線とともに南下しながら撮影していくのが理想かも知れませんが、自然相手なので、その年その時の状況が同じでないところが良いのだと思います。
 いつも感じることですが、撮影していると予想以上に時間が早く過ぎてしまい、予定していた場所を回り切れないことばかりです。特に秋は日が短いので。

(2022.12.5)

#大信不動滝 #曲沢沼 #レンゲ沼 #朝日川渓谷 #慈光滝 #地蔵沼 #リンホフマスターテヒニカ #渓流渓谷