花を撮る(6) シルエットで撮る

 いうまでもなく花には様々な色彩があるので、フィルムカメラであれデジタルカメラであれ、カラーでの撮影に向いている被写体の一つと言えます。それぞれの花が持っている色合いを忠実に再現した写真はやはり美しいものです。
 一方、敢えて色彩をなくし、花の形だけで表現した写真も趣があって、華やかさとは違う別の表情や雰囲気が伝わってきます。
 今回はモノクロも含め、シルエットで撮った花の写真を何枚かご紹介します。

 何故か桜の咲く季節が近づくと心がウキウキして、私としては是非ともシャッターを切りたくなる被写体の代表格です。
 多くの桜は葉っぱが出る前に花が咲き、しかも、他に類を見ないほど花の密度が高いのでとても華やかに見えます。薄紅の花色はとても清楚な感じがします。

 そんな魅力的な桜ですが、桜の木全体をシルエットで撮影したのが下の写真です。

▲平堂壇桜 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W2 PROVIA100F

 この桜は、福島県にある「平堂壇の桜」という名前がついている一本桜です。小高い丘(古墳らしいです)の上に立つエドヒガンの巨木で、かなり遠くからでも見つけることができます。周囲に障害物がないので、360°どの方角からでも見ることができますが、私は桜の東の方角から見た時の木の形がいちばん好きです。

 夕方、太陽が西の空にかかり、東の方角から見ると桜の木全体がシルエットになります。実際にはこの写真よりももっと明るい感じですが、夕暮れの雰囲気を出すために露出を切り詰めています。また、雲の立体感を出すために、W2の色温度変換フィルターを使用しています。
 近所の方だと思われるのですが散歩にでもいらしたのか、ちょうど通りかかったのでそのタイミングを撮らせてもらいました。

 桜の木までは200mほど離れた場所から撮影しているため、真横から見ているのに近いアングルになり、巨木ではありますが全体の輪郭をとらえることができています。

コスモス(秋桜)

 日本に入ってきたのは明治時代らしいですが、今では道端や田圃の畦道、牧場などで普通に目にすることができます。近年は観光用に何十万株というコスモスを人工的に植えたコスモス畑も各地に増え、一斉に咲いている姿は見応えがあります。

 下の写真もコスモスのお花畑で 撮影したものです。

▲コスモス : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F11 1/15 PROVIA100F

 撮影した時間は間もなく日の出になろうかという早朝です。太陽の光が強まるにつれ、赤から紫に変わる空のグラデーションがとても美しい時間帯です。
 完全にシルエットにしてしまうと早朝の感じが薄れてしまうと思い、わずかに赤紫の花色がわかるくらいの露出をかけています。南国育ちのコスモスは、持ち前の鮮やかな色彩と明るい光がお似合いですが、このようにシルエット、もしくはそれに近い状態でも華やかさが損なわれることがありません。

 また、たくさんの花が密生しているところをシルエットにすると重なり合ったところが平面的になってしまうので、他よりも高く伸びた数本の茎を低い位置から見上げるようなアングルで撮影しています。そうすることで、針金のような細い葉っぱや蕾などの形もすっきりと見えるようになります。

 お花畑の向こうから太陽が顔を出してしまうと光が花弁に差し込み、シルエットにならなくなってしまいます。それはそれでステンドグラスのような美しさになるのですが、全く雰囲気の違う写真になります。

ヒメジョオン(姫女苑)

 どこでも見ることのできる、北アメリカ原産の帰化植物です。
 白、またはごく薄いピンクの小さな可愛らしい花を咲かせますが、とても強い繁殖力のせいか、どちらかというと嫌われ者の感があります。亜高山帯にまで生育域を広げているため、要注意外来生物に指定されているようです。

 あまりカメラを向けようという気持ちにならないヒメジョオンですが、こんな姿を見せてくれることもあります。

▲ヒメジョオン : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 沈む直前の太陽をバックに、ヒメジョオンをシルエットで撮影しました。
 花や蕾の形がユニークで、まるで踊っているように見えます。そんな中でいちばん踊りが洗練されている(?)と思えた1本を、太陽のど真ん中に配置してみました。

 300mmの望遠レンズを使い、出来るだけ太陽が大きくなるようにして、ヒメジョオンの花だけでなく茎の部分も入るようにしました。
 また、ヒメジョオンが1本だけだと画が散漫になってしまうので、ある程度の取り巻きがいるアングルを探して見つけたのがここでした。
 西日は沈むのが早いので、300mmのレンズを着けるとファインダーの中で太陽が動いていくのがわかります。ですので時間との勝負です。

 同じ場所から同じアングルで撮影しても、日中ではこのようなユニークさは感じられません。嫌われ者の野草に対する見方も少し変わるかも知れません。

ノアザミ(野薊)

 アザミは初夏から秋口にかけていろいろな種類が花を咲かせますが、最もポピュラーなのがノアザミです。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、ごくまれに白い花を咲かせるのもがあり、見つけると何だか幸せな気持ちになります。
 ノアザミは特に珍しい野草というわけではありませんが、その鮮やかな花色がとても目立つので、撮りたくなる被写体の一つです。緑の中に赤紫の花が点在している景色は何とも言えない美しさです。

 花の色もさることながら花の形も特徴的なので、シルエットだけでもすぐにアザミとわかります。
 下の写真は日の出前、東の空が明るくなり始めたころに撮影したノアザミの写真です。

▲ノアザミ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/4 EX1 PROVIA100F

 花の下、総苞のところに蜂らしきものがしがみついています。指先でツンツンしてみましたが、寒いせいかピクリともしません。どうやら昨夜は家に帰らず、ここにお泊りしたようです。
 赤く染まりかけた空に抜いたノアザミだけでも綺麗なシルエットなのですが、蜂というおまけがついて、ちょっとほほえましい写真になりました。
 まだ薄暗い時間帯とはいえ、この花が咲いている環境がわかるようにと思い、下の方に草叢を、中間あたりに中景となる山並みを入れ、上の方には明るくなりかけた空を入れてみました。

 また、全体のボケが大きくなるよう、200mmのレンズに接写リングをかませての撮影です。そのおかげで溶けるようなボケになり、ノアザミのシルエットがより引き立ってくれました。

 因みに、ここでお泊りした蜂ですが、太陽が昇って暖かくなってくるともぞもぞし始め、やがてどこかに飛んでいきました。

キバナコスモス(黄花秋桜)

 近年、キバナコスモスをよく見かけるようになりました。よく見慣れているコスモスとは同属ですが別の種類らしく、コスモスに比べて花期が長いようです。東京では12月になっても見かけることがありますが、さすがにその頃になると鮮やかなオレンジ色の花弁も濁った色になってしまいます。

 そして、花が少なくなった分、代わりに目立ってくるのがトゲトゲした種子です。
 種子ができ始めの頃、トゲトゲは上を向いているのですが、徐々に開いていき、やがて小さなウニのようになります。

▲キバナコスモス : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 上の写真はまだ完全に開ききる前の状態の種子です。そのまま撮ってもつまらないので、玉ボケの中にシルエットとなるようにして撮りました。
 シルエットと言ってもこれは実体ではなく、種子の影です。背後の玉ボケは公園に設置されているステンレス製の柵に反射した光で、この中にキバナコスモスの種子の影が入るように撮影したものです。玉ボケと影の大きさのバランスを考えて撮ったつもりですが、もう少し影を小さくした方が良かったようにも思えます。

 このような写真は、玉ボケができる場所と被写体との位置関係(距離)によって出来栄えがまったく変わってしまうので、ベストポジションを探すのに手間がかかって結構大変です。

コバギボウシ(小葉擬宝珠)

 夏に薄紫色の花を咲かせる野草です。
 一本の茎にたくさんの花をつけるので、群生して咲いている様は見事です。開くとユリの花のような形になり、華やかさが増します。薄紫の中に少し濃い紫色の筋が入ったような花はとても品があり、写真映えする花だと思います。

 下の写真は、まだ開ききっていないコバギボウシをモノクロフィルムで撮ったものです。

▲コバギボウシ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4x ACROS100Ⅱ

 雲がかかっている夕陽をバックにしており、主被写体のコバギボウシは完全なシルエットになっています。赤く染まった空に抜くようにカラーリバーサルで撮ることも考えましたが、花が下向きになっていいる形を見て、モノトーンの方が似合うのではないかと思い、モノクロフィルムを使いました。ちょっと寂しげな雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 雲がかかっていたおかげで全体が硬くならずに済んだ感じです。

 軽くレフ板をあてた状態でも撮影してみましたが、花自体は柔らかな印象になったものの、全体としてはこちらの方が趣がある感じでした。

 なお、春の山菜の女王と言われているウルイは、同じ仲間のオオバギボウシの若葉です。今はハウス栽培物がほとんどですが、天然物のウルイは山菜特有の苦みがわずかに感じられ、山菜という実感があります。

シシウド(獅子独活)

 少し標高の高いところに行くとよく見られる野草です。
 背丈が高く、花火のように開いた花が特徴的です。花の色は白に近いクリーム色で、良く晴れた青空とのコントラストは爽やかな夏を感じさせてくれます。

 この写真もモノクロフィルムで撮影したものです。

▲シシウド : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 ACROS100Ⅱ

 シシウドの根元にカメラを設置し、見上げるようにして太陽を画面上部に直接入れることでシシウド全体をシルエットにしていますが、一つひとつの花はゴマ粒のように小さいので、綺麗な造形がくっきりと出ています。
 所どころに薄い雲がかかっていますが、ちょっとコントラストが弱い感じです。モノクロ用のフィルターのY2あたりを使った方が良かったかもしれません。好みもあると思いますが、やはりモノクロはキリッと締まった黒が表現されている方が好ましく感じます。

 シシウドは、縦にも横にも広がってたくさんの花をつけているほうが見応えがあるのですが、なかなかそのような個体に遭遇することは多くはありません。大きくて枝っぷりの良いシシウドに巡り合えたら、是非とも撮っておきたい被写体です。

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 シルエットで撮ると鮮やかな花の色は失われますが、花の魅力が失われるわけではなく、普通に見ていた時にはわからないものが見えてくるから面白いものです。
 また、もともとの色を脳が憶えているからかもしれませんが、シルエットの中に色が見えてくるような気がするのも事実です。シルエット自体はまるで影絵のように平面的にもかかわらず、立体的に見えるのも不思議です。
 シルエットのつけ方や濃淡によってずいぶんと写真の雰囲気も変わってきます。このあたりも奥深いところだという感じがします。

 (2022.11.8)

#コスモス #ノアザミ #シシウド #シルエット #PENTAX67 #野草

花を撮る(5) 夏の終りから秋に咲く花

 今年(2021年)の東京の夏は短かったという印象です。9月になると急に暑さがやわらぎ、一気に秋が来たのではないかと思えるような日が続いていました。急激に秋になってしまうのではないかとも思いましたがそんなことはなく、30度を超える日も数回あったと記憶しています。
 野に咲く花も、夏の花から秋の花に変わっていくのが感じられる季節です。今回は夏の終りから秋にかけて咲く野草を紹介します。

秋桜(コスモス)

 秋といえば何といっても秋桜を外すわけにはいきません。もともとはメキシコ原産らしいですが、今ではすっかり日本の風景となっています。「風を見る花」というロマンチックな愛称を持っており、秋を感じさせてくれる代表的な花となっています。
 田圃の畦や農道の脇に咲く秋桜も風情がありますが、牧場などで大群生している姿は圧巻です。花の色が白やピンク、赤など多彩なのも華やかさを増していると思います。

 秋桜で有名な長野県の内山牧場で撮ったのが下の写真です。

▲秋桜 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 内山牧場は3haもの広大な丘陵地に100万本の秋桜が咲くお花畑です。
 青く澄み渡った空と咲き誇る秋桜のコラボレーションも見事ですが、上の写真は朝日が昇ってきたところを逆光で撮りました。正面にある林の上に朝日が顔を出して、秋桜畑に光が差し込んだ瞬間です。
 300mmの望遠レンズを使い、すぐ手前にある秋桜を大きくぼかし、かなり先の方にある秋桜にピントを合わせています。ピントが合っている範囲はごくわずかです。

 もろに逆光ですので、秋桜の本来の花の色は損なわれていますが、花一つひとつが発光しているような描写を狙ってみました。

 色温度の低い朝の光なので、全体的に赤っぽくなっています。色温度補正フィルターで赤みを落としても良いのですが、このままの方が朝の雰囲気が感じられると思います。

 太陽が正面にあるので、レンズに直接光が当たらないようにハレ切りを使っています。
 このような感じに写せるのはほんのわずかな時間です。太陽が高くなってくると光も白くなりますし、上からの光になるので、秋桜が光り輝くようにはなりません。

ガガイモ

 夏の終り頃から良く見かける野草です。つる性の植物で繁殖力がかなり強いらしく、雑草化してしまうのでどちらかというと嫌われ者のイメージがあります。
 薄紫色の星形をした、小さな可愛らしい花をつけます。細かい毛が密生しているため、砂糖菓子のような感じもします。

 下の写真は雨上がりに撮影したガガイモの花です。

▲ガガイモ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 M135mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 小さな花なので、俯瞰気味に撮ると葉っぱやつるの中に小さな花が埋もれてしまい、花の可愛らしさがまったく浮かび上がってきません。
 半逆光気味になるよう、下から見上げる感じで撮ると花の表情が出せると思います。
 そして、背景には余計なものを入れず、できるだけシンプルにした方が引き立ちます。

 この写真、太陽の位置は画面のほぼ右側の真上方向にあり、トップライトに近い感じで撮影しています。花に立体感を出すため、陰になる部分ができるような位置を選んでいます。
 そして、背景はできるだけ暗くなるように、日陰になっている林を入れました。陽が当たっている花と背景のコントラストが大きいので、真っ黒で平面的になり過ぎないよう、光が差し込む木々の隙間を右上に入れました。

 そのままでも十分に可愛らしい花ですが、水滴がつくことでみずみずしさも出ているのではないかと思います。
 なお、中望遠のレンズに接写リングをつけて撮影しています。

ヤマハギ

 秋の七草のひとつです。山地の草地などに自生しており、早いものでは7月の終り頃から咲き始めるものもあります。背丈は2メートルほどにもなり、紫色の花をびっしりとつけた姿は見応えがあります。
 観賞用として庭に植えられているのを見かけることも多いですが、鎌倉に行くと宝戒寺をはじめ、萩寺と呼ばれる萩の咲く名所がたくさんあります。

 牧草地に咲くヤマハギを撮ったのが下の写真です。

▲ヤマハギ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 こんもりと生い茂った姿も秋らしい風景ですが、萩の花を輝かせるため、早朝の太陽があまり高くなる前の時間帯に逆光気味で撮影しました。バックは草地ですが、ところどころに萩の紫色がボケて入っています。
 暗い背景を選んで、萩の花を浮かび上がらせても綺麗だと思うのですが、初秋の早朝のさわやかさを出すために、あえてハイキー気味で撮っています。
 萩だけではなんとなく締まりがないので、咲き始めたワレモコウの花を隣にいれてアクセントになるようにしてみました。
 また、あまりうるさくなりすぎない程度に、適度に玉ボケを入れています。

 バックをできるだけシンプルにするため、300mmの望遠レンズでの撮影です。
 萩の咲く風景として撮影する場合はもっと短い焦点距離のレンズを使いますが、萩をポートレート風に撮るには長い焦点距離の方が萩の表情を引き出すことができます。

イヌタデ

 畑や道端、野原などでごく普通に見ることのできる野草ですが、秋を彩る野草の一つだと思います。
 子供がままごとで、この花を赤飯に見立てたところから「アカマンマ」という名前で呼ばれたりしますが、何とも風情のある名前です。
 時に畑や田んぼを埋め尽くすほどの大群落をつくることもあります。

 日当たりの良い畑に咲いていたイヌタデを撮ってみました。

▲イヌタデ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 群落というほどではありませんが、かなり広範囲にわたって咲いていました。イヌタデだけでも配置をうまく考えれば画面のバランスはとれると思うのですが、クローバー(シロツメクサ)も所どころに見られたので、これも入れてみました。

 ほとんどが背丈の低いものばかりのため、小さな花が背景に埋もれないよう、地面にすれすれの位置からの撮影です。画面の下の方に下草を入れて、その間から顔を出している様子がわかるようにしています。
 太陽の光がちょっと強すぎる感じです。薄雲がかかって、もう少し柔らかな光になってくれると良かったのですが、ぎりぎり、初秋らしい光の感じにはなっているかと思います。

 200mmの中望遠レンズに接写リングをつけての撮影ですが、接写リングをもう一個くらいかませて、被写界深度をもう少し浅くしても良かったかと思っています。

ユウガギク

 日当たりの良い草地でよく見ることができます。漢字で書くと「柚香菊」で、かすかに柚のような香りがすると言われています。夏の終り頃から晩秋まで、比較的長い期間咲いています。
 花の大きさは3cmほどと小さいですが、たくさんの花をつけるので華やかな感じがします。

 田圃の畦に咲いているユウガギクを撮ってみました。

▲ユウガギク PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 ユウガギクの花弁の白と、周囲の草の緑のコントラストがきれいでした。花はたくさん咲いていましたが、一輪だけにピントを合わせ、他の花はアウトフォーカスにしました。
 白い花弁の質感が飛んでしまわないよう、花弁をスポット測光して露出を決めています。実際には全体的にもう少し明るい感じだったのですが、花の質感を残すためにはこれが限界といった感じです。

 いろいろな草の葉っぱが入り乱れており、雑然とした感じもしますが、そういところに咲いている状況を出したかったので、あまり整理しすぎないようにしました。

 ユウガギクによく似たノコンギクやカントウヨメナなども同じ時期に咲く仲間で、あちこちで見かけることができます。早朝、朝露に濡れた姿は趣があります。

エゾリンドウ

 秋の山を代表する多年草です。鮮やかな紫色の花色は遠目にもよく目立ちます。すっと伸びた茎はとてもスマートですが、大きめの頭がアンバランスな感じで、ちょっとユーモラスにも思えます。

 花屋さんで切り花として売っているのはこのエゾリンドウの栽培種らしいです。

 下の写真は山地の草原に咲くエゾリンドウです。

▲エゾリンドウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 標高が高いので草紅葉が始まっています。短い夏が過ぎ、秋も深まりつつある感じがする景色です。花の色が鮮やかなため、アップで撮ると華やかさが際立ちすぎてしまうので、草紅葉をいれて秋の寂しい感じが出るようにしました。
 花の密度が濃いところもあったのですが、あまりたくさん咲いているところよりもある程度の間隔をもって咲いている方が秋らしさが出ます。
 もう少し露出を切り詰めても良かったかもしれませんが、これ以上切り詰めると花の色が濁ってしまいます。エゾリンドウが咲いている風景として作画する場合はもっとアンダー気味が似合うと思います。

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 夏に咲く花と比べて秋に咲く花は色も地味目で、花の大きさも小型なものが多くなります。どことなくもの悲しさを感じることもありますが、それもまた秋に咲く花の魅力の一つだと思います。

(2021.10.12)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA

花を撮る(4) 夏の高原に咲く花

 梅雨が明けると日差しも強くなり、高原では花の数が一気に増えます。高原に咲く花はどちらかというと地味なものが多いですが、自然の中で力強く生きる美しさがあると思います。
 薔薇のような華やかさはありませんが、短い夏を懸命に生き、そして高原を彩ってくれる野草をご紹介したいと思います。

シシウド(獅子独活)

 夏の青空に花火のように咲くシシウドはかなり存在感があります。大きなものでは背丈が2m以上にもなりますが、セリの仲間だそうです。花には蜜が多いのか、たくさんのハチやハナアブがひっきりなしにやってきて、花の上はとても賑わっています。

 下の写真は大きなシシウドを青空に抜くアングルで撮影しました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 45mm 1:4 F8 1/60 PLフィルター PROVAI100F

 空を深い青にして花とのコントラストを高めるため、PLフィルターを使用しています。PLの効果を強くし過ぎるとペンキを塗ったようにベタッとした感じになってしまうので、半分くらいの強さにしています。
 また、夏の雰囲気を出すため、下の方に雲が湧いてくるのを待って撮りました。
 広角レンズを使っているのでパンフォーカスになりすぎないよう、できるだけ花に近づいて背景が少しボケるようにしました。
 ワンポイントで右下にニッコウキスゲを入れてみました。

 花の細部が飛ばないよう、露出は少しだけ切り詰めています。

シロバナニガナ(白花苦菜)

 黄色の花をつけるニガナの変種らしいですが、ニガナよりも少し大振りの花をつけます。といっても2cmほどしかありませんから、一円硬貨くらいの大きさです。母種となるニガナに比べると、見かける割合はぐっと少ないです。

 群落をつくってたくさんの花が咲いていることが多いのですが、一輪だけ開いている個体があったので撮ってみました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2,EX3 PROVIA100F

 花が小さいため、前後にゴチャゴチャしたものがあると花が埋もれてしまうので、望遠レンズに接写リングをつけて被写界深度をできるだけ浅くしています。
 背景が緑だけだと単調になってしまいますが、先端が赤くなった蕾がいくつかあって、これらが柔らかくボケてアクセントになってくれていると思います。

 針金のように細い茎はわずかの風でも揺れるので、風が止まった瞬間を狙ってシャッターを切ります。

ハクサンフウロ(白山風露)

 高原に咲く数ある花の中でも人気の高いのがこのハクサンフウロです。フウロソウの仲間には地名がついているものが多く、これも石川県の白山に多く見られることからつけられたようです。
 花の大きさは3cmほどで決して大きくありませんが、赤紫色の宝石をちりばめたように高原を彩ってくれます。

 朝露に濡れて輝いているところを撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/125 EX2,EX3 PROVIA100F

 写真の左側上方から朝日が差し込んでいて、逆光に近い状態です。バックにあまり光が当たらなく、暗く落ち込むアングルから撮りました。
 花弁はかなり輝度が高く、それに対して背景は暗いのですが、黒くなりすぎないように朝露がつくる玉ボケをできるだけたくさん入れるようにしました。
 朝日が当たると花弁についた朝露は瞬く間に消えてしまうので、時間との勝負です。

 この花は背丈が低いので、周囲の植物の葉に埋もれるように咲いています。上から撮ると周囲の葉っぱが邪魔になるので、花と同じくらいの高さまでカメラを下げたアングルで撮影すると、背景をシンプルにしやすくなります。

コオニユリ(小鬼百合)

 山地に行くと良く見かけるユリです。鮮やかなオレンジ色をした花をつけるので、とてもよく目立ちます。多年草なので、盗掘でもされない限りは毎年同じところで見ることができます。
 りん茎(いわゆる球根)は百合根といって食用にされるので、盗掘されることも多いようです。

 大きくなるとたくさんの花をつけますが、下の写真のコオニユリは一輪だけの花をつけていました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 M-135mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 下向きに咲くのがユリの花の特徴ですが、うつむき加減に一輪だけ咲いている姿は何とも風情があります。スーッと伸びた茎の先端に花をつけた立ち姿がわかるように茎を長めに入れ、この花の咲いている環境もわかるように、ぼかした背景を多めに取り入れました。絞りすぎるとゴチャゴチャしてしまうので、絞りは開放です。

 この日は雨が降り出しそうな曇り空でしたが、ひっそりと咲くコオニユリには、このしっとりとした感じが似合っていると思います。
 雨に濡れたコオニユリも魅力的だと思い、雨が降らないかしばらく待っていましたが、残念ながらこの日は降りませんでした。

タチフウロ(立風露)

 ハクサンフウロと同じフウロソウの仲間ですが、背丈が50cmほどまで伸びます。薄紫色の花弁に赤紫の筋が目立ちます。ハクサンフウロのように群落をつくっているのは見たことがなく、数株がポツンぽつんと咲いているという感じです。
 背丈が大きいせいか、明るい日差しが似合う花だと思います。

 下の写真は、他の植物のかげに隠れるように一株だけ咲いていたタチフウロです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F5.6 1/125 EX3 PROVIA100F

 背景をぼかすため、望遠レンズに接写リングをつけての撮影です。被写界深度が浅いので、二輪の花にピントが合う角度から撮っています。
 強い光が当たらない方が花の柔らかさは出せるのですが、日当たりの良い草むらに咲いている雰囲気を出そうと思い、日差しがある状態で撮りました。

 写真だと、緑の中に薄紫色の花が咲いているので目立つように見えますが、実際には緑の中に溶け込んでしまっているといった感じで、注意して探さないと見過ごしてしまいます。

オトギリソウ(弟切草)

 山地などで比較的よく見ることができます。葉や茎は止血などの生薬になるらしく、この草を原料にした秘伝薬の秘密を弟が隣家の恋人に漏らしたため、兄が激怒して弟を切り殺したという悲しい言い伝えからつけられた名前だと言われています。
 花は1.5cmほどと小さく、一日花なので一つの花が咲いているのは一日だけですが、次々と花が開いてきます。

 草むらに咲いていることが多く、画作りには結構苦労します。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真も周りを背丈の高い植物に囲まれて一本だけが咲いていました。
 悲しい言い伝えがあるからというわけではありませんが、ちょっと陰のある感じにしようと思い、左右を他の植物の葉っぱで暗く落としながら、上方に青空を入れてトンネル効果を出してみました。
 そして、花に光が当たるところでシャッターを切りました。ミツバチだと思うのですが、ちょうど飛んできて花にとまってくれました。

 同じ光源下だと黄色はかなり輝度が高くなるので、飛んでしまわないように注意が必要ですが、露出がアンダーになると可憐な花の表情が台無しになってしまうので、露出設定には悩みます。この写真も花弁をスポット測光し、2/3段のプラス補正をしています。

コウリンカ(紅輪花)

 かつては良く見かけましたが、今ではレッドデータブック(レッドリスト)入りした絶滅危惧種になってしまいました。
 キク科の植物ですが、一般のキクに比べて頭花の数がとても少ないのでスカスカした感じがします。ですが、鮮やかなオレンジ色はとても印象的です。
 一般的には「紅輪花」と書くことが多いですが、「光輪花」と書くこともあるようです。

 背丈は50cmほどになり、草むらからは頭一つ飛び出しといった感じなので、撮影はし易い方だと思います。

 下の写真は、ちょうど見ごろを迎えたコウリンカです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 この花を撮るには背景との距離をできるだけ大きくとり、長めのレンズを使って前後を大きくぼかすのが良いと思います。花の色がとても鮮やかなので、背景が多少明るくても浮かび上がりますが、ゴチャゴチャしていると埋もれてしまいます。
 ときどき、群落をつくっていることもあるので、たくさんの花が咲いている光景も素晴らしいですが、数輪だけをクローズアップしてもお洒落な写真になると思います。

イブキトラノオ(伊吹虎の尾)

 日当たりの良い山地でよく見かける多年草です。試験管を洗うブラシのような恰好が特徴的です。ほぼ白色に近い極淡い紅色をした花で、非常に地味な存在です。1m近くまで伸びたたくさんの花穂が風にゆらゆらしている光景は少しばかり興味を引きますが、あまりシャッターを切ろうとは思いません。

 しかし、夕暮れになるとこの地味な花も少しばかり状況が変わってきます。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX M67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W8フィルター PROVIA100F

 上の写真は、二本のイブキトラノオを夕陽に重ねて撮影したものです。
 花の形状がシンプルがゆえに、シルエットになるとイブキトラノオの特徴が良く見えてきます。隣にニッコウキスゲとコバギボウシもシルエットになっています。

 この写真はW8色温度補正フィルターを使用して、夕暮れ時の雰囲気を出しています。
 中央下部にあるニッコウキスゲに軽くレフ板を当てて、花の色がわかるようにしても良かったかなと思っています。

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 夏の高原は魅力のある野草が素晴らしい環境の中で咲いており、被写体に困ることはありませんし、様々な撮り方をすることができるのも魅力の一つです。図鑑でしか見た事のない花に出会った時の喜びもひとしおですし、同じ花であっても会うたびに違う表情を見せてくれるので、何度でも行きたくなる場所です。
 8月も中旬になると、標高の高い場所では短い夏に終わりを告げ、秋の風が吹き始めます。ちょっと寂しが漂う秋の高原もいいものです。機会があれば秋の高原に咲く花も紹介したいと思います。

 (2021.7.28)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA

花を撮る(3) 初夏に咲く野草

 木々の新緑の淡い色合いは日増しに変わり、平地ではすっかり色濃くなりました。桜の季節が終わると、フィールドの景色は一変する感じです。
 野に咲く花の数も随分と増えてきて、あれも撮りたいこれも撮りたいと気持ちばかりが急いてしまいます。今回はちょうど今頃に咲く野の花をいくつかご紹介します。

アカツメクサ

 ムラサキツメクサとも呼ばれますが、シロツメクサと同じヨーロッパ原産の多年草です。もともとは牧草として輸入されたらしいですが、今ではすっかり日本にも定着してしまい、いたるところで見ることができます。シロツメクサよりもずっと背丈が大きくなり、花も大きくて鮮やかな色をしているので見応えがあります。

 下の写真は小さな沼の淵に咲いていたアカツメクサを撮ったものです。

アカツメクサ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 /60 C-up3使用 PROVIA100

 バックの緑は芽が出始めて間もない菖蒲ではないかと思われますが、沼を覆いつくすほどになっており、これがアカツメクサの花色を引き立ててくれています。曇りの日なので柔らかな感じになりましたが、晴れているとコントラストが強くなりすぎてこういう柔らかさは出せません。
 左下にもう一輪、アクセントとしてぼかして入れてみました。

 この写真はクローズアップレンズを使っています。もっぱら接写リングを使うことが多く、クローズアップレンズを使うことはほとんどないのですが、バックをできるだけ柔らかくしたかったので、画質は多少低下しますがあえて使ってみました。クローズアップレンズは強い光が当たると滲みが出ることがあるので注意が必要です。

キツネアザミ

 田畑や道端などで割とよく見かけます。ノアザミよりも少し早く、東京近郊では4月下旬ごろから咲き始めるところもあります。アザミによく似ていることからキツネアザミと命名されたようです。花はアザミに比べて小ぶりで、葉っぱにはトゲもなく、全体的にほっそりとした印象です。

 群落をつくることが多く、下の写真も道路脇の空き地にたくさん咲いているところを撮りました。

キツネアザミ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4X使用 PROVIA100

 夜に降った雨が水滴となって残っていたので、逆光になる位置から玉ボケができるように狙ってみました。背景を大きくぼかしたかったので、200mmのレンズに1.4倍のテレコンバータをつけています。
 巾着袋みたいな形をした可愛らしい花なのでアップで撮っても良いのですが、たくさん咲いている中から一株だけにピントを合わせています。
 バックが黒ではなく紺色になってくれたので、この花の色とのコントラストがきれいになったと思います。

ハルジオン

 大正時代に観賞用として輸入されて鉢植えで育てられていたのが、戦後、野に放たれてしまい各地に広がっていったといわれています。今ではかなり標高の高いところでも普通に見かけますので、その繁殖力はすさまじいものがあります。
 あまり見向きもされることのない野草かもしれませんが、よく見ると淡いピンク色をした綺麗な花です。

ハルジオン PENTAX67Ⅱ smc PENTAX M-135mm 1:4 F4 1/250 EX2使用 PROVIA100

 この花は視界に入っても全く気に留めないくらいよく見かけますが、花が小さいうえに背景がごちゃごちゃしているところに咲いていることが多く、イメージ通りの被写体を探すとなると苦労します。
 上の写真は用水路のヘリに数輪咲いていたうちの一つで、用水路にわずかに陽が差し込み始めたときに撮ったものです。このため、背景は黒く落ち込み、少しだけ差し込んだ光に輝く水面の波が玉ボケになっています。
 小さな花なので、背景をできるだけシンプルにしないと花が浮き立ってきません。

 6月くらいになるとこれによく似たヒメジョオンが咲き始めますが、個人的には淡いピンク色をしたハルジオンの方が好きです。

イカリソウ

 花の形が船のアンカー(錨)に似ていることからこの名前がつけられたようです。強壮強精の生薬として古くから用いられてきたらしく、あの有名なユンケルにも入っているようです。
 花の色は赤紫、ピンク、薄黄色、白などがありますが、いちばんよく見かけるのが下の写真のような赤紫色の花です。

イカリソウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 EX1+2使用 PROVIA100

 群落をつくって咲くことが多く、花の数も多いので切り取りには苦労します。
 曇りの日の方が花のディテールがきれいに出るのですが、この写真を撮った日は晴天で強い日差しがもろに当たっていたので、逆光に黄色く輝く葉っぱをバックに花を配置しました。
 複雑な形をした花なので、背景が雑然としていると花の形がわかりにくくなってしまいます。できるだけバックをすっきりとさせながら、茎と葉っぱが少しだけ入るアングルを探して撮りました。

 この花は茎から伸びた長い花穂にぶら下がった状態で咲いているので、少しの風でもゆらゆらと揺れてしまいます。無風状態の日であればいちばん良いのですが、なかなかそうのような日に出くわすこともないので、風がやむ瞬間を狙って撮ることになります。

チゴユリ

 日本全国の落葉樹林の林床で見ることができます。大きくはユリの仲間ですが、イヌサフラン科という聞きなれない科に分類されているようです。漢字で書くと「稚児百合」で、可愛らしい花姿にピッタリの名前だと思います。

チゴユリ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 EX2+3使用 PROVIA100

 背丈は20cmほどと小さく、しかもうつむき加減に咲いているので、撮影もカメラを地面すれすれまで下げないとこの花の表情はとらえられません。また、林の中に咲いていることが多いため、ISO100のフィルムでは高速シャッターを切ることができず、三脚は必須です。
 この写真は200mのレンズに接写リングを2個つけての撮影ですので、ピントの合う範囲は非常に浅いです。

 この花が咲く時期の林床は落ち葉が一面に広がっているので、どうしても背景が茶色っぽくなってしまいがちです。しかし、それだとこの可愛らしい花の雰囲気が損なわれてしまうので、緑色の葉っぱがバックに来るようなポジションが好ましいと思います。 
 白い花弁が濁らないように、かつ、質感が飛んでしまわないように露出を決めなければいけないので、葉っぱ、花弁、雄しべをスポット測光して決めています。

カタクリ

 この時期に咲く山野草の中では3本の指に入るくらい人気のある花ではないかと思います。関東でもカタクリの群生地は何か所かありますが、一面に紫色の花が咲いている光景は見事です。

 下の写真は群生してるというほどではありませんが、それでもたくさんのカタクリが咲いているところに偶然に出くわした時に撮ったものです。

カタクリ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 300mm 1:4 F4 1/30 2x使用 PROVIA100

 カタクリは日が当たるとこのように花弁が反り返ります。ですので、このような姿を撮るには明るい日差しがあることが条件になります。
 魅力のある花なのでアップでポートレート的に撮るのも素敵ですが、少し引いたところから周囲の環境を入れながら複数の花を撮ることでも、この花の魅力を出すことができると思います。

 上の写真は草の間にカタクリの花を置いて、背景を広く入れるように低い位置から撮影しました。300mmの望遠レンズでだいぶ離れた位置からの撮影です。
 日が当たらないと花弁が閉じてしまいますが、日差しが強すぎると花が硬い感じになってしまうので、太陽に薄雲がかかる時を狙って撮っています。

 カタクリの自生地は保護されていて立ち入り禁止なっていることが多いので、撮影には望遠レンズを持参したほうが良いと思います。

 ごくまれに、紫色に交じって白花のカタクリを見かけることがあります。数万株に一つだと言われることがありますが、出会う確率はもう少し高いと思われます。白花のカタクリに出会ったときはちょっと幸せな気持ちになります。

キクザキイチリンソウ

 日当たりの良い林床に群落をつくって咲いていることが多いです。キクザキイチゲとも呼ばれますが、花弁が菊のようで一輪だけの花をつけるのでこの名前があるようです。花の色は白、薄紫、濃い紫など多様性に富んでいますが、圧倒的に多いのは白花ではないでしょうか。

 下の写真は薄紫色の個体です。

キクザキイチリンソウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 2x使用 PROVIA100

 太陽の光を十分に受けるようにほとんどが上を向いて咲いているのですが、この花はこちらを向いて咲いていました。葉っぱを広げ、まるでバレリーナのような感じです。
 薄紫色の清楚な感じが出るように、まだ日が差し込んでいない林を背景にしました。
 接写リングを使って撮ろうとも思いましたが、近づくと他の花を踏んでしまいそうでしたので、望遠レンズに2倍のテレコンバータをつけて、すこし離れた場所からの撮影です。

 カタクリと一緒に咲いていることも多く、明るい日差しの似合う花ですが、ちょっとシックな感じが似合うのも薄紫色ならではと思います。

 キクザキイチリンソウによく似た花に「アズマイチゲ」がありますが、白花だけのようです。

(2021.5.6)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA

花を撮る(2) 春に咲く野草

 3月の声をきくとフィールドの野草も急激に増えてくる感じです。花の少ない冬が終わり、心もうきうきしてきます。
 春の野草は背丈が低いものが圧倒的に多く、撮影にも苦労します。ローアングルでの撮影が多くなりますが、今回はそんな春の野草の撮影にフォーカスしてみたいと思います。

ヒメオドリコソウ

 オオイヌノフグリとともに、今ではすっかり日本の春の風景となってしまったヒメオドリコソウ。シソ科の帰化植物ですがその繁殖力は旺盛で、日本中のいたるところで見ることができます。日本原産のオドリコソウはすっかり少なくなってしまいましたが、ヒメオドリコソウは増える一方です。

 葉っぱの色がくすんだ紫色をしてるため、群生しているところはお世辞にも美しいとは言えません。しかし、よく見ると赤紫の可愛らしい小さな花をつけています。
 この野草は、群生しているところよりも、1本だけ、あるいは数本だけのところを狙った方が可愛らしさを表現できると思います。

 下の写真は、1本だけですがオオイヌノフグリとコラボしているところを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 EX2+3 PROVIA100F

 オオイヌノフグリとともに、春先に最も早く咲く野草の一つです。明るい日差しが感じられる方がこの野草には似合っていると思います。
 カメラを地面すれすれまで下げて撮っています。この写真のヒメオドリコソウの背丈は6~7cmほどですが、20cmくらいまで伸びますので、あまり大きくないほうがバランスは良くなると思います。
 赤紫色の花に露出を合わせていますので、オオイヌノフグリは露出オーバーになっています。

ムラサキハナナ

 この野草も良く見かけます。オオアラセイトウ、ショカッサイ、ハナダイコンなどとも呼ばれており、厳密にはそれぞれ違いがあるらしいのですが、私にはよくわかりません。花の色が紫色と赤紫色があるようですが、それも個体差なのかどうかもわかりません。
 この花が群生しているところを見かけることがありますが、それは見事です。

 群生しているほどではありませんが、そこそこ咲いている中から1本だけを撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 1.4X PROVIA100F

 午前中の比較的早い時間帯、まだ太陽があまり高くならないうちに逆光の状態で写しています。薄い花びらを光が透過して輝きを放っているような雰囲気を狙ってみました。
 この野草は比較的、背丈も大きくなるため、地面にはいつくばって撮る必要もないのでありがたいです。

 露出アンダーだと赤紫色が濁ってしまうので、1段くらいオーバー目にした方が明るい雰囲気が出せると思います。

タチツボスミレ

 スミレの中では早めに咲き始めます。日当たりのよい道端や草原、森林、やぶなどに普通に見られる多年草です。背丈は20cmくらいまで伸びますが、春先に見られるのは半分ほどの背丈です。背丈には不釣り合いなくらい大きな花をつけるので、わずかな風でも大きな花が揺れてしまい、風の強いときの撮影は苦労します。

 下の写真は、里山の道端に咲いていたものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 全面に光が当たっていると平面的になってしまうので、薄雲がかかって、花のところに直接光が当たらない瞬間を狙って撮りました。そのため、光が当たっている背景はかなり露出オーバーになっています。
 タチツボスミレと背景との距離が近いので、背景のごちゃごちゃしたものがボケきれていません。200mmのレンズで撮っていますが、もう少し長めのレンズの方が背景を美しくできたと思います。

 いちばん右の花とその隣の花では、わずかに右の花が手前にあります。両方の花にピントを合わせるため、レンズから二輪の花までの距離が等しくなるよう、カメラアングルを決めています。

タンポポ

 どこででも普通に見られる野草ですが、その多くはセイヨウタンポポです。日本の在来種であるニホンタンポポは本当に少なくなってしまいました。それでも、タンポポの咲いている風景というのは心和むものがあります。

 下の写真もセイヨウタンポポです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F4 1/30 EX3 PROVIA100F

 5月くらいになるとタンポポの背丈もかなり伸びますが、3月の頃に咲くタンポポは、葉っぱもロゼッタ状になっており、花も地面に張り付いてるくらいに背丈が低いものが多いです。一緒に咲いている小さな白い花はタネツケバナですが、それに埋もれてしまうくらいの背丈です。
 カメラを地面につくくらいまで下げ、タンポポとほぼ同じ目線から撮っています。タンポポだけクローズアップして撮ると花の表情が良く出ますが、周りの環境を含めて写すことにより、タンポポの魅力を引き出すことができると思います。

 タンポポに限らず、黄色の花は見た目以上に明るいので、かなり多めに露出をかけないと花の色が黒っぽく濁ってしまいます。太陽に向かって咲いている姿は、明るめの方が似合っていると思います。

クサノオウ

 ケシ科の越年草で有毒植物です。皮膚病などにも効果があるらしく、昔から薬として使われてきたようです。
 初夏の野草というイメージが強かったのですが、近年は暖かいせいか、関東では3月中旬くらいから見かけるようになりました。遠くからも目につく黄色い花を咲かせる野草です。

 近所の公園の脇に咲いていたクサノオウを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 薄紙のような花弁が印象的です。日が当たっていない建物の陰をバックに、黄色の花を浮き立たせました。
 このようなシチュエーションでは画全体でとらえてもうまく露出設定ができないので、スポット露出計を用いてピンポイントで測光するのが望ましいです。
 この写真には写っていませんが、下の方の葉っぱが適正な明るさになるように露出を決めています。花の部分はそれよりも1.3段ほど、露出が多めになっています。先ほどのタンポポと同じで、黄色い花はかなり露出を多めにかけないと暗い印象になってしまいます。

 また、この花は産毛のようなものがびっしりと生えたつぼみも印象的で、良いアクセントになってくれます。

イチリンソウ

 野山に生える代表的な春の野草で、里山や林床などでよく見られます。可愛らしい白い花はとても清楚な感じがします。花が咲き終わり、初夏には地上部分がすっかり枯れてしまいますが、地下茎はしっかりと残っていて、長い期間をその状態で過ごすようです。
 群落をつくって咲くことが多く、写欲をそそられる花です。

 下の写真は偶然見つけたイチリンソウの群落です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 たくさんの花が咲いているときは、どの花を撮るか迷います。いろいろなアングルから見て、画としてバランスの良い部分を見つけ出せればいいのですが、これがなかなか思うようにいきません。テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができればいいのですが。

 それぞれ好き勝手な方を向いて咲いていますが、こちらを向いている一輪を見つけたので、花の形が良くわかるアングルから撮影しました。カメラを目いっぱい低く構え、空が少し入るくらいにレンズを上向きにしています。これによって明るい春の日差しを表現しようとしました。
 こじんまりと咲いているオオイヌノフグリも色どりを添えてくれています。

 花が白いので、緑の葉っぱが適正になるように露出を決めると、色が濁らずに清楚な感じが保てると思います。

イワウチワ

 少し山に入った半日陰の岩場で見かける多年草です。どちらかというと北斜面の岩場で見られることが多く、他の植物が生えていないようなところにしっかりを根を下ろしています。薄ピンク色の花はとても可愛らしいです。
 イワウチワによく似た花にトクワカソウがありますが、葉っぱの形で区別できるようです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/30 EX2 PROVIA100F

 岩場に枯葉が降り積もったような場所に生えているので、周辺の色合いはとても地味です。そのため、薄ピンク色の花は一層目立ちます。陽が差し込むと宝石をちりばめたような光景になります。
 上の写真も逆光気味で撮っており、花びらが浮き上がってくるようなところを狙いました。
 花がとても可愛らしいのでアップで撮りたくなりますが、周囲の環境がある程度わかるように撮った方が、この花の魅力が伝わるように思います。
 自動露出で撮ると、周囲が暗いので花の質感が飛んでしまう可能性があります。花をスポット測光して露出を決めた方が、花の質感を損なうことがないと思います。

 この花の撮影で苦労するのは、三脚が立てにくいところに咲いていることです。平らな足場の良いところに咲いているのを見たことがありません。しかし、毎年撮りに行きたくなるくらい魅力のある花のひとつです。

(2021.4.3)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~啓蟄~

 いよいよ三月、啓蟄という言葉を聞くと本格的な春の訪れを感じます。やはり暖冬なのか、今年(2021年)は2月から暖かな日が多く、春の訪れが早いように感じます。梅の開花も随分と早かったようで、桜の開花も例年よりも早いとの予想のようです。
 この時期はフィールドの変化が早く、近所の公園も一週間も経つと様子がずいぶん変わります。

マンサクが満開でした

 花つきが豊かなため、古くから豊年満作に通ずるとして好まれてきたと言われています。山野では木々の芽吹きもまだ先という時期に、黄色の花をびっしりとつけた姿は遠目にもそれとわかります。まるで縮れ麺を短く切ったような花姿は、どこかユーモラスでさえあります。この花が咲くと寒い季節の幕引きともいわれているらしいです。
 公園に植えられてたり、やはり縁起の良い花ということからなのか、庭木としても植えられているのをよく見掛けます。
 最近は、花の色が赤に近いアカバナマンサクというのも良く見かけるようになりましたが、花の色がちょっと毒々しくて個人的にはあまり好きになれません。やはり黄色の方が品が感じられます。

 下の写真は偶然見つけたマンサクの花です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

 背景に裸木を入れて、黄色に輝くマンサクの花との対比を出してみました。花の形がユニークなのでアップで撮るのも面白いですが、やはり全体を入れた方が季節感が感じられると思います。

 マンサクといえば、秋田に「まんさくの花」という地酒があります。有名なので名前は知っているのですが、ほとんど飲んだ記憶がありません。秋田はマンサクが多いのかと思って調べてみたところ、NHKの連続ドラマ「マンサクの花」からつけた名前らしいです。「マンサクの花」という響きが心地よくて好きです。

日向ではオオイヌノフグリも咲いています

 オオイヌノフグリは、春先に最も早く咲き始める野草ではないかと思います。ヨーロッパ原産の帰化植物ですが、すっかり日本の春の風景になじんでしまっています。日本には明治の初めごろに入ってきたらしいですが、今では河原の土手や田んぼの畦道、道端など、いたるところで見ることができます。小さな花ですが、その繁殖力は驚くばかりです。
 瑠璃色の花は何とも可愛げがありますが、不名誉な名前をつけられてちょっとかわいそうな気もします。

 もともとは日本には在来種であるイヌノフグリがあるのですが、オオイヌノフグリに生育地を奪われてしまい、減少の一途をたどっているようです。オオイヌノフグリに比べると花の大きさが半分くらいしかありませんが、地味でつつましやかな感じがします。

 空き地に咲いていたオオイヌノフグリを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 太陽に向かって背伸びしているようなイメージを出したいと思い、アングルを決めました。
 小さな花なので撮影には苦労します。群生しているところはまさに春の風景といった感じですが、一輪とか数輪を撮ろうとすると、目線をかなり下げなければならないので大変です。地面に腹ばいになって撮るのが楽ですが、たくさんの花を押しつぶしてしまうのでそれもはばかられます。

 同じく帰化植物であるヒメオドリコソウやホトケノザなどと大群落をつくることがありますが、そういう光景を見られるようになるにはもう少し先のようです。

テントウムシはまだ見かけません

 日差しがぽかぽかと暖かなとき、オオイヌノフグリの群落にはテントウムシの姿をよく見かけます。ナナホシテントウが多いのですが、花と同じくらいの大きさで、もぞもぞと花の上を歩きまわっている姿をみると、ほのぼのとした気持ちになります。
 まだ少し寒いのか、この写真を撮ったときには残念ながらテントウムシを見かけることはありませんでした。啓蟄とはいえ、虫が出てくるまではもう少しかかるようです。

(2021年3月7日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~立春~

 今年の立春は2月3日で、これは実に124年ぶりとの報道がされていました。寒さはまだ続きますが、これからの寒さは余寒というらしく、春に向けて暖かくなっていく寒さということで、こういう使い分けが日本人の感性の豊かさだと思います。
 旧暦では立春のころが1年の始まりだったようで、日本では旧正月を祝う習慣はなくなってしまいましたが、中国の春節やベトナムのテトなど、アジアでは旧正月を祝う国がたくさんあるようです。

梅が咲き始めました

 今ではすっかり日本の風景に溶け込んでいる梅ですが、奈良時代に中国から持ち込まれたものらしく、万葉の時代には花というと桜ではなく白梅のことをさすくらい、当時の人々に愛でられていたようです。
 学問の神様として有名な菅原道真も紅梅を深く愛したひとりで、彼の邸宅は「紅梅殿」とよばれ、春の訪れとともに芳しい香りに包まれたといわれています。藤原時平の訴えにより、九州の大宰府に左遷されてしまうわけですが、以来、日本各地にある天満宮の境内には梅の木が植えられ、神紋には梅鉢が使われるようになったといいます。

 下の写真は近所の公園で撮った早咲きの白梅です。ほかの木はまだ1~2輪がようやく咲き始めたところですが、この梅はこの公園の中でも真っ先に咲きます。

白梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 「梅は百花の魁」といわれますが、梅が咲き始めるとあたりが明るくなったようにさえ感じます。満開の状態はもちろん豪華ですが、個人的には梅は咲き始めた頃がいちばん好きです。ぽつぽつと咲き始めた頃のちょっと恥じらうような姿に風情が感じられます。特に白梅には楚々とした感じが漂っていて、例えると、春の光のもとで微笑む小町娘、といったところでしょうか。

 ここ数日の暖かさで紅梅も咲き始めていました。紅梅には白梅と違った華やかさがあります。白梅が楚々とした美しさであれば、紅梅は艶っぽさ漂う美しさといった感じです。

紅梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

福寿草も眩しいくらいに輝いて

 元日草とか正月花などの別名をもつ福寿草、旧暦の正月、ちょうど今頃に咲き始めることからついた名前のようですが、立春を待ちかねたように咲き始めていました。新年を祝う花として古くから日本人の心を癒してきたといわれていますが、いまの時代は春の訪れを告げる花というイメージの方がしっくりきます。
 雪を割って芽を出す姿には心惹かれるものがありますが、東京ではなかなかそういう姿にお目にかかることはできません。それでも緑がほとんどない大地から芽を出して、身の丈に比べて大きな花を咲かせる姿には癒されます。

福寿草 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 花の少ないこの時期に、輝くような黄色の花は遠目にも良く目立ちます。太陽の動きを追いかけて花の向きを変える性質(向日性)があり、このため、花の内側は外側に比べて温度が高くなるらしいです。まるで、太陽の熱を集めるパラボラ集熱装置のようです。

 品種改良がなされて二重咲や八重咲といった豪華な福寿草もありますが、日本に自生しているのは一種のみだそうです。上の写真の福寿草は自生種と思われますが、定かなことはわかりません。しかし、これから次々といろいろな花が咲き始めることを教えてくれることには変わりありません。 

立春限定の日本酒も

 立春の未明に搾りあがったばかりのお酒のことを「立春朝搾り」といい、日本酒好きの人には待ち焦がれたお酒です。このお酒は火入れをしていない生原酒で、どの蔵元のお酒も日付が入った同じデザインのラベルが貼られています。今年のラベルは、「令和三年辛丑二月三日」と書かれています。実は、このラベルの裏側には、「大吉」の文字が書かれており、ビンの反対側から透かすと見ることができます。ちょっとした遊び心ですね。

(2021年2月8日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #白梅 #紅梅 #二十四節気

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~大寒~

 一年のうちでいちばん寒いとされる時期で、天文学では太陽黄経が300度になった日が大寒の初日らしいです。二十四節気では立春が一年の始まりとされているので、いまは年末といったところでしょうか。
 一年でいちばん寒い時期ですが、春に向かっているという想いがあるせいか、冬至のころに比べると明るいイメージがあります。野に咲く花もこれから少しずつ増えてきます。

清楚な花が特徴のニホンスイセン

 1月も半ばを過ぎると東京でも日当たりの良いところではちらほらとスイセンが咲き始めます。ニホンスイセンと呼ばれる野生種で、一重咲きと八重咲きの2種類が見られます。家の庭先や花屋さんでよく見かけるラッパスイセンに比べると花も小ぶりです。華やかさではラッパスイセンに劣るかもしれませんが、ニホンスイセンには楚々とした美しさがあり、この花が咲くとあたりが明るくなったような感じがします。

ニホンスイセン Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 Velvia100

 野生のスイセン群生地といえば伊豆半島の爪木崎が有名ですが、今頃は300万本といわれる満開のスイセンでおおい尽くされます。もともとは平安の頃に、遣唐使などによって薬草として日本に持ち込まれたらしいですが、爪木崎では、はるか南の島から流れついた球根が根付いたという言い伝えもあるようです。どこから流れてきたのかわかりませんがロマンのある話です。
 やはり水仙の群生地で有名な越前海岸地方には、その昔、海からやってきた美しい娘が二人の若者の恋の鞘あてにあった末、海に身を投げ、自らの命を絶った。水仙はその娘の生まれ変わり...こんな逸話も残っているといいます。

 種類にもよるようですがスイセンは香料の原料にも使われるらしく、甘い香りがします。野外で咲いているときはさほど気になりませんが、切り花として屋内に持ち込むと、市販の芳香剤などとは比べ物にならないくらい強烈な芳香を放ちます。
 雪の中でも咲くことから「雪中花」とも呼ばれるようですが、春が近いことを教えてくれる花のひとつだと思います。

小さなぼんぼりのようなロウバイ

 ロウバイも冬に花を咲かせる数少ない花木のひとつです。花弁が厚くて、質感が本当にロウ細工のようで、近寄るととてもいいにおいがします。太陽の光が差し込むと黄色く輝き、小さなぼんぼりに明かりが灯ったようです。
 中国原産の落葉樹らしいですが、花のほとんどない冬枯れの季節に花を見たいという昔の人の強い想いで、日本に持ち込んだのかもしれません。

ソシンロウバイ Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 Velvia100

 ロウバイは花に似合わず大きな実をつけますが、その実が翌年の開花時期になっても真っ黒になったまま残っているのを見かけます。花の写真を撮ろうとするときにはかなり目立ってしまい、邪魔な存在に感じてしまうこともしばしばです。中には小豆ほどの種が入っており、これを土にまくと春分の頃には芽が出てくるらしいです。

 最近は各地に「ロウバイ園」や「ロウバイの郷」なるものが誕生しています。関東近県では埼玉県の宝登山や、群馬県の松井田が有名です。公園などにも植えられているのをよく見かけますが、ソシンロウバイという園芸品種が多いようです。
 漢字で書くと「蝋梅」で、「梅」という字がついていますが梅の仲間ではないらしく、ロウバイ科という種類があるようです。確かに、素人が見ても梅の花と同じ仲間には見えません。
 そういった学術的なことはさておいても、この寒い時期に花を咲かせてくれることには本当に感謝です。スイセン同様に、春もそう遠くないことを感じさせてくれます。

 梅のつぼみもだいぶ膨らんできており、フィールドがにぎやかになるのも間もなくといった感じです。自然界は着実に動いていることを感じます。

(2021.1.23)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~冬至~

 昨日(12月21日)は冬至でした。言わずと知れた、一年のうちで昼の時間が最も短い日です。
 また、日没後の空では実に397年ぶりと言われる木星と土星の大接近が見られました。私は視力があまりよくないので、肉眼では一つに見えてしまいました。
 調べたところ、前回の大接近の時は徳川家光が将軍になった頃のようです。もしかしたら家光も見ていたかも知れません。

 冬至は、太陽の力が一番弱まる日ですが、この日を境に再び太陽の力が蘇ることから、すべての運が上昇に転じる縁起の良い日とされています。この縁起の良い日に「ん」のつく食べ物を食べると「運がつく」と言われています。最も日が短く寒さも厳しくなり、風邪をひきやすい時期であるところから、縁起を担ぐようになったのかも知れません。
 旬をむかえる柚子を入れる柚子風呂も昔からのならわしの一つです。風邪をひかないと言われていますが、高価な柚子を風呂に入れるのはためらわれてしまいます。むしろ、焼酎に入れて飲んだ方が風邪をひかなくなるのではと、ついつい不届きなことを考えてしまいます。

枯れてもなお...セイヤタアワダチソウ

 この時期、東京は冬晴れの日が続きますが、季節感の希薄な東京でも寒さが強まり、冬の訪れを感じます。同時に野に咲く花の数はめっきり減ってしまいます。しかし、この時期ならではの「花」が見られるのも自然界の妙ではないかと思います。
 下の写真はセイタカアワダチソウです。

セイタカアワダチソウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 1:4/200 F4 1/250 PROVIA100F

 秋に黄色い花を咲かせる北アメリカ原産の帰化植物ですが、ものすごい勢いで繁殖すると言われており、いたるところで見ることができます。根から他の植物の成長を抑制する化学物質を出すらしく、嫌われ者の感がありますが、葉っぱはハーブとしても利用されるようです。
 花の時期はとうに終わっており全身すっかり枯れていますが、枯れてもなお原型をとどめているところにも、この植物の繁殖力のすごさを感じます。
 枯草なのでほとんど見向きもされないだろうと思いますが、花の少ないこの時期には貴重な被写体です。セイタカアワダチソウに限らず、植物は花が咲いているときはもちろん美しいのですが、芽が出てから枯れるまでの間、その時々の美しさというのがあります。
 これは河川敷で撮ったものですが、バックが日陰になっていたおかげでセイタカアワダチソウが引き立ってくれました。

ツタモミジも輝いています

 東京の紅葉は12月に入ってからが本番なので、年末になっても場所によってはまだ紅葉を見ることができます。そんな名残の紅葉を撮ってみたのが下の一枚です。

ツタモミジ New Mamiya 6 MF Mamiya G 1:4.5/150 F5.6 1/60 PROVIA100F 

 場所は近所の公園ですが、木の幹に絡みついたツタモミジを逆光で撮ってみました。カサカサした落ち葉ばかりが目立ってしまいますが、まだこのような光景を見ることができます。この紅葉もよく見るといちばん美しい時期は過ぎており、かなり傷みが目立ってきていますが、最後の輝きを放ってくれているという感じです。
 ツタの葉っぱだけではつまらないので、後方にある常緑樹からの木漏れ日を玉ボケにしてみました。玉ボケが大きくなりすぎないように絞りを少し絞ってみましたが、やはり開放の丸いボケのほうが柔らかな感じになり、この時期らしさを出せたかも知れません。

 冬はこれからが本番ですが、葉をすっかり落した木の枝には米粒ほどの芽がついています。植物にとってはすでに春に向けての準備が始まっているのでしょう。

(2020.12.22)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~小雪~

 今日から師走。不思議なもので、12月というよりも師走と言うほうが季節感が漂います。日常の会話の中で、12月以外で旧暦の呼び名を使うことはまれですが、12月だけ旧暦の呼び名を使うことが多いのは何故なのでしょう?

 今は二十四節気の「小雪(しょうせつ)」にあたり、さらに七十二候で言うところの「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」という時期らしいです。冷たい北風が吹き、木々の葉っぱを落とす頃という意味のようですが、こういった昔の日本人の感性には驚かされます。
 木の葉が落ちるといえば、私もよく使う甲州街道(国道20号線)を新宿から八王子方面に向かうと、道路の両側に大きな欅の木がたくさん植えられています。毎年この季節になると大量の欅の葉が道路に舞い落ちます。そこを自動車が走りぬけると落ち葉が舞い上がり、まるで映画かCMのワンシーンのような感じになります。

宝石のようなヒヨドリジョウゴの実

 私は野に咲く花(野草)を撮ることも多いのですが、この時期はそういった花もほとんどなくなってしまいます。それでも、まだ自然が残されている郊外の野山などに行くと、緑もすっかり影を潜めた枯野の中に赤や紫に色づいた木の実を見ることができます。紫色のヤブムラサキやオレンジ色のカラスウリ、真っ赤なガマズミなどなど。
 そんな中でも見つけるとつい撮ってしまうのが「ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)」の実です。

ヒヨドリジョウゴ

 葉っぱもすっかり枯れてしまいカサカサと音をたてそうですが、赤い実はとても瑞々しく、つまんで食べてみようかと思ってしまうほどです。しかし、実だけでなく全草に毒があるらしく、食べ過ぎると下痢や嘔吐などの中毒症状が出るようですが、漢方の生薬としても利用されています。昔の人の知恵は本当に素晴らしいと思います。
 ヒヨドリジョウゴはナス科の植物で、夏から初秋にかけて小さな白い花を咲かせます。花は開いたあと白い花冠が反り返って、まるでダーツの矢のような形になり何とも可愛らしいものです。そして、花が散った後に緑色の実をつけるのですが、この頃はまだ特に目立つこともないごく普通の野草です。
 ところが、周りの野草がその寿命を終えようとしている頃になるとこの写真のように真っ赤になり、ひときわ目立ってきます。

 ヒヨドリが好んで食べることからついた名前と言われていますが、本当にヒヨドリが食べるのかどうか知りません。しかし、ヒヨドリは赤いものを好むのか、春先には梅や桜のつぼみをついばんでしまうので、もしかしたら毒のあるこの実も食べてしまうのかも知れません。

日本の原風景 残り柿

 そして、この季節に見ることができる日本の原風景といえるのが「残り柿」です。葉はすっかり落ちてしまい、実だけが残っています。

残り柿

 昔の人は、柿はすべての実をもいでしまうのではなく、下のほうは旅人のために、上のほうは鳥たちのために残しておいたと言われています。その昔、ここを通りかかった旅人がこの小さな祠にお参りをし、柿を二つ三つもいで、また旅を続けるという光景が浮かんでくるようです。
 今は食べ物も豊富で旅人が柿をもぐこともないかもしれませんが、食べ物が少なくなるこの時期、鳥たちにとっては貴重な食料源です。
 また、「柿若葉」、「柿紅葉」、「柿落ち葉」など、季節ごとの情趣に富んだ名前で呼ばれるのも柿の木ならではだと思います。

 大きな柿の木にたくさんの実がついていても、収穫されることなくそのままになっている光景をよく目にします。冬の風物詩でもある吊るし柿を作る家が減ってしまったことも、ほったらかしになっている理由の一つかもしれません。
 一方、スーパーや八百屋さんで売られている柿はとても立派で、しかもお高いです。出荷するために栽培されているものなので当然ですが、残り柿はあまり立派な実よりも、少々小ぶりのほうが風情があると感じてしまいます。

(2020.12.1)

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