年末にジャンク箱の中を漁っていたところ、下の方からホースマンの69判のロールフィルムホルダーが出てきました。しかも、大判(4×5判)用ではなく、中判カメラ用のホルダーです。私がこれを取付けられるような中判カメラを持っていたのは20年以上も前のことですから、多分、そのころに手に入れたものだと思うのですが全く記憶にありません。
外観はそこそこ綺麗で、確認してみたところ、動作にも問題はなさそうでした。しかし、これが使えるカメラがないので、またジャンク箱の中に戻そうと思ったのですが、ふと、これを使ってピンホールカメラを作ってみたくなりました。なぜか、時々ピンホールカメラを作ってみたくなることがあります。
ということで、69判のピンホールカメラを製作しました。
【Table of Contents】
焦点距離54mm、絞り値 F180の広角系ピンホールカメラ
以前、大判カメラを使ったピンホール写真を撮ろうと思い立ち、それ用のピンホールレンズを作ったことがありました。興味のある方は下のページをご覧ください。
ただし、大判カメラを使ったピンホールカメラなので焦点距離などの自由度も大きいのですが機材が大げさになってしまい、気軽にピンホール写真を撮りに行くという感じではなありませんでした。最初のうちこそ結構使っていましたが、徐々にその頻度も減り、最近ではほとんど持ち出すことはなくなってしまいました。
そんな経緯もあり、今回はもっとお手軽なピンホールカメラをつくることにしました。焦点距離なども固定にし、できるだけ小型軽量にするということを第一に、下の図のような仕様にすることにしました。
ピンホールレンズは前回作ったものを使うこととし、それ以外は新規に作成します。
ピンホールカメラなので広角系の方が使い勝手が良いだろうということで、画角は80度前後、35mm判のカメラにすると焦点距離28mmくらいのレンズに相当するカメラとします。
厳密な焦点距離や画角は必要ありませんが、露出値の換算をする際にやり易いよう、F値は切れの良い数字にする必要があります。前回作ったピンホール径は0.3mmなので、これをベースに焦点距離が50~60mmで切れの良いF値ということで計算した結果、焦点距離54mmの時にF値が180になるので、これを採用することにしました。欲を言えば、F値は128、もしくは256の方が換算しやすいのですが、そうすると焦点距離が短すぎたり長すぎたりしてしまうので、F180で妥協することにしました。
なお、今回作成するピンホールカメラに使用する部材等はすべて身近にある端材などを流用し、新規に購入せずに行なうこととします。
ピンホールレンズの改造
まずはピンホールレンズの改造からです。
前回作ったのは、シャッターNo.1の大判レンズから前玉と後玉を外し、シャッターの前面に自作のピンホールをはめ込むというものでしたが、これだとシャッター位置よりもだいぶ前にピンホールレンズがくることになります。そのため、焦点距離が長くなってしまい、画角を大きくすることができないという欠点がありました。
そこで、今回はピンホールレンズをシャッター幕のすぐ前に設置することにしました。これを、前玉のレンズを全部外した枠だけを使ってシャッター幕の直前のピンホールレンズを固定するという方法をとります。
シャッターにピンホールレンズを取付けたのが下の写真です。
以前のものと比べ、これ単体でも焦点距離を15mmほど短くすることができました。
また、前玉の枠がフードの役目をしてくれるので、直接ピンホールレンズに太陽光があたるのをある程度防ぐことができ、フレアのようなものが生じるのを軽減することができます。
ピンホールカメラ筐体の製作
カメラの筐体はアクリル板か木板で作ろうと考えていたのですが、アクリル板だとなんとなく味気がないので、木板を使うことにしました。適当な端材がないか探したところ、厚さ9mmの合板があったのでこれを使用します。
各部の寸法はホースマンのロールフィルムホルダーに合うようにしなければならないので、必要個所を採寸して筐体のサイズを算出します。
実際に筐体の図面を引くとこのようになります。
上の図で分かるように、端材で作った四角な枠の中にロールフィルムホルダーがすっぽりと嵌まり込む構造になります。光線漏れがないよう、内寸は正確にする必要があります。
また、シャッターを取付けるフロントパネルは厚さ5mmの合板を使用しました。この板の中央に直径48mmの穴をあけ、ここにシャッターを取付けます。
これを組み上げたのが下の写真です。
木工用の接着剤で貼り付けているのでそのままでも強度的には問題ありませんが、デザイン性を考慮して真鍮製の釘を打ってみました。
ピンホールカメラは長時間露光が必要なので、三脚使用が前提となります。そこで、筐体の底面に三脚用の台座を取付けます。
厚さ9mmの合板を適当な大きさ(ここでは35mmx70mm)にカットし、その中央にメネジを埋め込みます。直径8.5mmの下穴をあけ、そこにねじ込めば完成です。ネジの径の方が若干大きいので、ねじ込むにはかなり力が要りますが、雲台プレートのネジを締め付けるときに動いてしまうと使い物にならないので、固いくらいが丁度良いです。もし、緩いようであれば、メネジの周囲に瞬間接着剤を少し流し込んでおけば心配ありません。
この三脚台座を筐体の底板に接着します。
次に、筐体天板の加工を行います。
後ほど触れますが、今回は簡易型のスピードファインダーのようなものを取付けられるようにするのと、フィルムホルダーを固定するため、天板に若干の加工を施します。
加工内容は下の図の通りです。
まず、スピードファインダーを取付けるための磁石を埋め込みます。これは、レンズ側に2個、フィルムホルダー側に1個です。
今回使用した磁石は、約9mmx14mm、厚さが約2mmのネオジム磁石です。小さいですがとても強力な磁石です。これを天板につけるのですが、天板の表面が平らになるように磁石を埋める穴を掘ります。
こんな感じです。
この穴に接着剤を流し込み、磁石をしっかりと固定します。
さてもう一つ、ロールフィルムホルダーを筐体に固定しなければならないのですが、固定ピンを筐体側から差し込み、フィルムホルダーの溝に嵌合させるという簡単な方法です。
固定ピンは大型のゼムクリップを利用して自作しました。サイズは適当で構いませんが、ピンの長さはある程度、正確にする必要があります。今回、筐体に使用した端材の板厚が9mmなので、この板を貫通してフィルムホルダーの溝に届かせるには13mmの長さが必要です。短すぎるとフィルムホルダーがしっかり固定できませんし、長すぎると固定ピンが浮いてしまいます。
この固定ピンは筐体の底板にも取り付けます。
これで筐体の組み立ては完了ですので、内側に反射防止のため、艶消し黒で塗装をします。
外側はそのままでも問題はありませんが、少しでも見栄えをよくするため、透明のラッカーを数回塗りました。
なお、隙間からの光線漏れはないと思いますが、もし心配なようであればモルトを貼っておけば心配ないと思います。
ちなみに、ロールフィルムホルダーを取り付ける際は、固定ピンを浮かせた状態でフィルムホルダーを筐体にはめ込み、その後、固定ピンを奥まで押し込みます。これで、フィルムホルダーが外れることはありません。
簡易型スピードファインダーの製作
ピンホールカメラの撮影でいちばん苦労するのがフレーミングです。ピンホールはその名の通りとても小さいので、フォーカシングスクリーンのようなものに投影しても暗くてほとんど像を認識することができません。
そこで今回は、簡易型のスピードファインダーなるものを取付けることにしました。
仕組みはいたって簡単です。
上の図でお分かりいただけると思いますが、フィルム面と同じ大きさのブライトフレームを書き込んだ透明の板を焦点距離と同じだけ離れた位置から見ることで、フィルムに写る範囲を確認するというものです。
レンズ側に取り付けるのは、フィルム面よりも一回り大きな透明の板です。今回は、厚さ1.8mmの透明のアクリル板を使いました。これをL字型に曲げ、そこにブライトフレームを書き込みます。使用するフィルムのサイズが69判で実寸が56mmx83mmなので、それに合わせて白いペンキで線を引いています。
もう一つ、フィルム側に取り付けるものも同じように透明のアクリル板をL字型に曲げますが、こちらはずっと小さなもので大丈夫です。
そして、レンズ側のブライトフレームの中心に小さなマーキングをします。私は、同じように白のペンキを使いましたが、何でも構いません。
一方、フィルム側に取り付けるファインダーには、レンズ側フレームの中心のマーキングと同じ高さのところに小さな穴をあけます。
次に、スピードファインダーをカメラの筐体に取り付けるため、L字型に曲げたところに磁石を取付けます。
これは、両面テープや接着剤などで貼り付けても良いのですが、私はアクリル板に磁石がはまるサイズの穴をあけ、そこに円形の磁石をはめ込み、瞬間接着剤で固定しました。
ここで重要なのが磁石の向きと固定する位置です。
まず磁石の向き(極性)ですが、筐体の天板につけた磁石とくっつくようにしなければなりません。これを間違えると磁石の反発力でファインダーがぶっ飛んでしまいます。
次に磁石を固定する位置ですが、レンズ側のファインダー面が、概ねレンズの位置に来るように磁石を固定すること、フィルム側のファインダー面が、概ねフィルムの位置に来るように磁石を固定することです。つまり、2枚のファインダーの間隔が、焦点距離にほぼ等しくなるようにします。
こうして出来上がった簡易型スピードファインダーが下の写真です。
使い方は簡単で、フィルム側のファインダーの小さな穴からレンズ側ファインダーの中心点が重なるように覗きます。その時のブライトフレームの内側がフィルムに写り込む範囲になります。それほど精度の高いものではありませんが、フレーミングをする上ではまずまず使い物になるレベルだと思います。
後は、これをカメラに取り付けるだけです。強力な磁石を使用しているため、取り付け位置を気にしなくても2枚の磁石がほぼ中心でくっつきます。
取り外す時もファインダーの上の方を持って、前後どちらかに押せば簡単に外すことができます。使わないときは取り外しておけば、よりコンパクトなカメラになります。
磁石を固定するための瞬間接着剤の量が多すぎたようで、アクリル板が白くなってしまいました。後日、白いペンキか何かを吹き付けて綺麗にしてやろうと思います。
実際にカメラに取り付けるとこのようになります。
フィルムホルダー側(後側)から見た写真がこちらです。
作例...は、まだありません。
まだ撮影に行っていないので、残念ながら作例はご紹介できません。近いうちに実際に撮影をしてみようと思います。
このカメラを実際に操作した時の感触ですが、剛性はそこそこ保たれているようで、三脚に固定すれば安定しています。フィルムの巻き上げやシャッターチャージなどの際にもぐらついたりきしんだりすることがありません。ここで使用したシャッターはSEIKO製ですが、シャッターチャージレバーがとても重く、動かすのに力が要るのですが、特に問題なく使用に耐えられます。
また、ストラップは着けてありませんが、やはりストラップがあった方が扱い易いように思います。適当な金具があれば、筐体の両サイドに取り付けてみたいと思います。
なお、撮影の際にはフィルムホルダーの引き蓋を外すのを忘れないようにする必要があります。シャッターがついているので、フィルムホルダーの引き蓋は外したままでも問題ないと思いますが、万が一のため、引き蓋は着けておく方が安心です。
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20年以上も暗いジャンク箱の中で眠っていた69判のロールフィルムホルダーですが、やっと日の当たる場所に出ることができたという感じです。
また、今回は家にあった端材や部材などを利用して作ったので見てくれはイマイチですが、ちゃんとした材料を使えばもっときれいなカメラに仕上がると思います。
ピンホールカメラは簡単に作ることができるということも手伝ってか、根強い人気があるようです。世界に1台しかない自分だけのカメラということにも愛着が湧くのかも知れません。銘板なんぞを取付ければ、一層カメラらしくなると思います。
(2024.1.5)