梅は百花の魁と言われるように、春の訪れはまだずいぶん先と思われるような寒い時期から咲き始めます。まだフィールドにはほとんど花の姿が見られない時期に梅の花を見ると、春も間もなくだなぁと感じます。
日本人が梅を愛でる習慣は桜よりも古いらしく、そのせいか、神社仏閣には必ずと言ってよいほど梅の木が植えられています。また、観賞用だけでなく実を収穫するための梅園も各地にあり、花の少ない時期には最高の被写体です。
(2024年3月29日)
スローなフォトグラファー・こぼうしの銀塩写真とフィルムカメラのサイトにようこそ
梅は百花の魁と言われるように、春の訪れはまだずいぶん先と思われるような寒い時期から咲き始めます。まだフィールドにはほとんど花の姿が見られない時期に梅の花を見ると、春も間もなくだなぁと感じます。
日本人が梅を愛でる習慣は桜よりも古いらしく、そのせいか、神社仏閣には必ずと言ってよいほど梅の木が植えられています。また、観賞用だけでなく実を収穫するための梅園も各地にあり、花の少ない時期には最高の被写体です。
(2024年3月29日)
昨年(2023年)の暮れから今年の年始にかけ、思いついたようにピンホールカメラ(針穴写真機)を作成しましたが、そのカメラを使って実際に撮影をしてみました。ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使用した広角系固定焦点ピンホールカメラです。
ピンホールレンズ自体は以前につくったものを若干改良しているだけなので、概ね問題なく撮影はできるだろうと思っていますが、今回、新たに作成したカメラ本体との相性も含めて試し撮りをしてみました。
なお、ピンホールカメラの製作に関しては以下のページをご覧ください。
「ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使ったピンホールカメラの製作」
ホースマンの69判ロールフィルムホルダーにDELTA 100(120)フィルムを入れ、近所の公園で試し撮りをしました。天気は晴れ、撮影した時間帯は午前10時~11時です。
1枚目は、木立に囲まれた公園の広場を撮影したものです。
カメラから中央の立木までの距離は3mほど、右端に少しだけ写っている立木までは50~60cmほどだったと思います。また、立木の影でわかるように、太陽はほぼ右側にある撮影ポジションです。
単体露出計での計測値はEV13(ISO100)だったので、露光時間は4秒としました(ちなみに、このピンホールレンズのF値は180になるように作ったつもりです)。露出に関しては概ね良好、ほぼ予定通りのF値になっている感じです。
木立の枝の先端もおぼろげながら認識できるので、解像度もピンホールとしてはまずまずといったところでしょう。
この写真のように近距離を写した場合、周辺部が引っ張られて、見るからに広角系の写真という感じがします。
2枚目は、立木の枝の広がりを逆光で撮影したものです。
太陽は中央の立木の幹に隠してありますが、全体にわたり逆光状態なので、立木はすべてシルエットになっています。ピンホールカメラは逆光に弱いのですが、太陽からの光を直接入れなければ、結構クリアな写真になるようです。さすがに太陽を隠している幹の辺りは滲んでいますが、それ以外は比較的綺麗なシルエットになっていると思います。
1枚目の写真ではあまり気にならなかったのですが、こちらの写真では周辺部の光量不足が感じられます。多少、周辺光量の落ち込みがあった方がピンホール写真らしさがあるという見方もありますが、個人的にはこれ以上の落ち込みがあると失敗作となってしまうので、ギリギリ許容範囲といった感じです。
常々、ピンホール写真はモノクロが似合っていると思っているのですが、せっかくなのでカラーリバーサルフィルムでも撮影をしてみました。使用したフィルムは富士フイルムのVelvia 100(120)です。
撮影日は異なりますが、撮影場所はモノクロと同じ近くの公園です。
まず1枚目は紅梅の写真です。
この日も晴天で、澄んだ青空と梅の花のコントラストがとても綺麗でした。
中央の梅の花の位置まではおよそ1m。まだ咲き初めで花の数がそれほど多くないので、できるだけ花に近づいての撮影です。
全体的な露出はほぼ適正な状態だと思われますが、やはり、周辺光量の落ち込みが目立ちます。周辺部が極端に暗くなっているわけではないのでそれほど違和感はありませんが、周辺部が引っ張られるのと相まって、若干気になります。
ピンホール写真として見れば解像度は悪くはないと思うのですが、梅の花の鮮鋭度となると、正直、厳しいといった感じです。
2枚目は同じ公園にある白梅を撮影したものです。
いちばん手前の花まで50cmほどに近づいて撮影しています。上の方は切れてしまいましたが、左右に関しては8割方、フレーム内に収まっています。
ピンホール写真は全体のピントが合うパンフォーカス写真になりますが、この写真のようにたくさんの花が重なった状態の被写体の場合、ボケた部分がないので雑然とした感じに仕上がってしまいます。撮影の仕方によるところが大きいのでしょうが、この写真ではピンホールらしさがあまり感じられません。ボケた梅の写真、といった方が適切かも知れません。
もう一枚は、近くの神社の境内で撮影したものです。
周囲が大きな木立に囲まれているため、ほとんど日陰で暗く落ち込んでいますが、中央の社殿だけは日が差し込んでいて、全体にコントラストが大きくなっている状態です。普通のカメラで撮れば固い感じになってしまいますが、ピンホール写真特有のボケでふわっとした感じに仕上がっています。どうってことのない風景も、ちょっとばかり雰囲気のある写真になっています。
左側の赤い奉納のぼりに書かれている文字や、社殿の軒下にある注連縄、社殿の後ろにある消火器などのはっきりと認識できるくらいの解像度があります。
今回製作したピンホールカメラは、焦点距離が54mm、F値が180ということで寸法取りをしたのですが、仕上がった写真を見る限り、ほぼ予定通りの仕様になっている感じです。もっとも、焦点距離が3mm長かったり短かったりしたところで、F値は190、もしくは170になる程度なので、実際の露出に与える影響はほとんど誤差の範囲です。つまり、F値が大きいので、多少の寸法の違いは影響がないということです。
また、上で掲載した写真からも、周辺部がかなり引っ張られているのがわかると思います。これは短焦点になればなるほど顕著に現れますが、このカメラの場合、横位置に置いた時の左右両端で、およそ17%伸びる計算になります。この値は被写体によってはかなり影響が大きく、遠景ではあまり気になりませんが、近景を撮影した場合ははっきりとわかります。それに伴って光量の落ち込みも発生するので、うまく使えば味わいのある写真になるかも知れません。
一般的に、写真は解像度が高くてくっきりと写っていた方が好ましいと思いますが、ピンホール写真に関しては必ずしもそうとは言えません。むしろ、ボヤっとしていた方が好ましいと感じる場合が多々あります。
そういった視点からすると、今回使った直径0.3mm(にしたつもり)のピンホールは、解像度が少し高すぎるようにも思えます。ピンホール径をもう少し大きくして、全体的なボケを大きくした方がピンホール写真っぽくなるかも知れません。
カメラの使い勝手という点では、二眼レフカメラを横にしたくらいの大きさなのでこじんまりとしていて持ち運びも苦にならいのですが、難点はホールド性がよろしくないということです。三脚に取り付けてしまえば何ら問題はないのですが、三脚に着けたり外したりする際、落としてしまいそうでちょっと不安になります。ストラップかグリップのようなものがあると安心感が高まるというのが率直な感想です。
簡易的なスピードファインダーに関しては、もちろん、精度は良くありませんが、フレーミングした範囲と実際に写る範囲にそれほど大きな乖離はなく、実用レベルであると思います。
ただし、スピードファインダーのフィルム側のアクリル板の取り付け位置が、フィルムホルダーの後端よりも前にあるため、のぞきにくいという欠点があります。前方のアクリル板との間隔を保ちながら、取り付け位置を全体的に30mmほど、後ろにずらした方が使いやすいことがわかりました。今から改造するのは大変なので、次回、また製作することがあれば反映したいと思います。
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ピンホール写真というのはノスタルジックでもあり、また、そのボケ具合から独特な印象を持った写真になり、シンプルな仕組みでありながらなかなか奥の深いものだと思っています。
しかしながら、何でもかんでもピンホールカメラで撮れば雰囲気のある写真になるかというとそうではなく、やはり、作品作りということを意識することも大事だと思います。
普通のカメラでもいろいろとレンズが欲しくなるのと同じで、ピンホールカメラでもピンホール径や焦点距離の異なるもので撮影してみたくなります。何種類ものピンホールカメラを作って、自分のイメージにぴったりと合うものを見つけるのもピンホールカメラの面白さかも知れません。
今年の年末にでも、仕様の違ったピンホールカメラを作ってみたいと思います。
(2024.2.29)
東京には中古カメラ店がたくさんあるように思っています。人口も多いので、人口当たりの店舗数という見方をすると本当に多いのかどうか定かではありませんが、店舗の絶対数だけを見ると多いのではないかと思います。新宿駅の周辺、新橋、銀座界隈、秋葉原から御徒町、上野の一帯などは特に中古カメラ店がたくさん集まっている地域です。
これらの地域以外でもそこまで数は多くないにしろ、中古カメラ店はたくさん存在しており、一つの街に1店舗はあるのではないかと思えるほどです。フィルムカメラの衰退とともに閉めてしまった中古カメラ店もたくさんあるのですが、最近になって新たに開店するお店もあったりして、フィルム全盛期に比べると確実に需要は落ちていると思われるのですが、根強い人気があるのも事実のように思えます。
とはいえ、時代の流れとともにいろいろなことが変化していくので、お店の側からすると、これらに対応していくのも大変なようです。
上野の隣に御徒町(おかちまち)というところがあります。江戸時代は馬に乗ることを許されていない下級武士、すなわち御徒(おかち)と呼ばれる武士たちがたくさん住んでいたことが名前の由来のようです。
この御徒町一帯も中古カメラ屋さんが何件かあるのですが、その中の一件、かつては新橋の駅前で営業していた中古カメラ屋さんが、20年ほど前に御徒町に移転したお店があります。
決して大きなお店ではありませんが、大判カメラや大判レンズ、細かなパーツなども扱っていて、私も訪れる頻度が比較的多いお店でした。しかも、基本的には修理や調整したものを販売するというスタイルで、それゆえ、信頼のおけるお店という印象がありました。
ところが昨年(2023年)の秋、突然、個人客向けの販売を辞めてしまいました。それまでは実店舗での販売はもちろん、ネット通販も積極的に行なっていたのですが、現在は買取専門、そして業者向けの販売卸専門になってしまいました。
同店のサイトを見るとその経緯が掲載されていますが、その理由の多くは、購入した商品の正しい使い方をせずに壊してしまったにもかかわらず、その修理費用をお店に負担させたとか、現状渡しと記載している商品を購入したにも拘らず、不良品だとして整備済のものを要望された、あるいは、注文後、出荷直前になってキャンセルされた等々、ということのようです。
また、それらに関して、ネット上に罵詈雑言のように書き込まれてしまったということもあったようです。
このようなことがどれくらいの件数発生していたのかはわかりませんが、昔であればほとんど発生することはなかったのではないかと思われます。私のような部外者がとやかく言うつもりはありませんが、いろいろなことが変化してきたことの影響かも知れません。70年続いてきた中古カメラ店がそのスタイルを大転換しなければならないほどのインパクトがあったのだということが想像できます。
この中古カメラ店も会社自体を閉めてしまったわけではないので、いつの日か、以前のように個人向けの販売事業を再開してくれることを願っています。
私が比較的よく行くのは新宿駅周辺にある中古カメラ店です。自宅から地理的に近いというのありますが、中古カメラやレンズを物色するのに私のスタイルに合ったお店があるというのが大きな理由です。
中でも私が好んでいくお店は、置いてある商品のほとんどがフィルムカメラやそれ用のレンズで、さほど広くない店内には数えきれないカメラやレンズが所狭しと置かれていて、まるでカオスのような状態(失礼)です。ガラスの扉のついた陳列棚に並べてはあるのですが、置ききれないため、カメラの上にカメラを2段にも3段にも重ねて置いてある状態で、下の方や棚の奥の方には何があるのかさっぱりわからないといった具合です。
また、カメラやレンズに限らず小物やパーツ類も豊富で、お店の人に探し物を伝えると、何段にも重ねてある箱から一つを取り出し、持ってきてくれます。どこに何があるか、お店の人はすべて頭に入っているようです。
一見、雑然としているようですが、たくさんの宝物が埋まっているような気がして、あてもなくふらりと入ってもワクワクするようなお店です。
そんな中古カメラ店ですが、一昔前と比べるとずいぶん様子が変わってきている感じがします。
まずは、何といっても近年、在庫(商品)の数が格段に増えてきているということです。上でも書いたように、陳列棚の中は商品が積み重なった状態で、それでも入りきらないため、箱に入れられて通路に置かれているといった状態です。個人的な感覚ですが、以前に比べて倍以上に増えているのではないかと思います。デジタルカメラが普及したことで、使われなくなったフィルムカメラがこのような中古カメラ店に集まってくるのかも知れません。
しかし、集まってくるのは歓迎すべきことかもしれませんが、出ていく数、すなわち売れる数は増えているようには思えません。売れる数も同じように増えれば、これほど急激に在庫が増加するとは思えないからです。たくさん在庫があるというのは、お店を訪れる客にとってはありがたいことですが、商売が成り立つのだろうかと要らぬ心配をしてしまいます。
そして、もう一つ変わったと思うのが訪れる客層です。
以前は、このようなタイプの中古カメラ店を訪れる客はおっさんと相場が決まっていましたが、最近は若い女性と外国人の客がとても目立ちます。といっても、店内が混雑するほど押し寄せるわけではありませんが、数人の客しかいない店内で若い女性や外国人の姿はとても目立ちます。私の場合、そう頻繁に通っているわけではないので、たまたま訪れたときに若い女性や外国人の客がいたという可能性もありますが、訪れるたびにそのような光景を目にするということは、偶然とも言い切れない気がします。
狭い店内なので客とお店の人との会話が聞くともなく耳に入ってくるのですが、若い女性客の場合、フィルムカメラに精通しているというよりは、これからフィルムカメラを始めたいので手ごろなカメラを探しているといった感じです。お店の人にあれこれと相談しながら、カメラを探しているのだと思います。
一方、外国人客の場合はちょっと様子が異なっていて、いくつかお目当てのカメラやレンズがあるようで、それを探しているらしく、やはり、お店の人にあれこれと質問をしながらカメラを見せてもらっています。
このように訪れる客層が変わるとお店の方の対応も変えざるを得ないのでしょうが、以前は客が来てもレジのところに腰を下ろしたままひたすら自分の仕事をしていましたが、若い女性客や外国人客に質問責めにされると対応しないわけにもいかず、客の要望に応えるべく、とても忙しそうに店内を飛び回っています。私も気になった商品を見つけた時や、探している商品があるときはお店の方に声をかけるのですが、このように忙しく対応している様子を見ると声をかけるのを躊躇ってしまいます。
一昔前には想像もできない光景が繰り広げられており、これも時の流れや時代の変化の産物だと思わずにはいられません。
ここ数年で老舗ともいえる中古カメラ店が何店舗も閉店に追い込まれていますが、反面、新たにオープンした中古カメラ店もたくさんありますし、リニューアルをした店舗もあります。
そんな中でとてもユニークなお店が秋葉原にあります。秋葉原の駅前を昭和通りという大きな幹線道路が通っていますが、この通りに面したところにあるお店で、20年以上にわたり営業を続けている中古カメラ店です。
このお店、夜になると1階の店舗がバー(飲み屋)になるという驚きの中古カメラ屋さんです。なんでも店長さんがお酒好きなことから始めたバーらしいですが、接客も店長さん自らが行われるようです。私もこの中古カメラ店には年に数回ほど行きますが、残念ながらバーに入ったことはありません。店長さんや店員さんはもちろん、訪れるお客さんもカメラ好きでしょうから、カメラやレンズを肴にお酒を飲んでいるであろうことは想像でき、ちょっとうらやましく感じます。カメラやレンズを売るだけでなく、人々が集う場所、サロンのような場所を提供するという試みかも知れません。
そういえば、昔の街中にあった中古カメラ店の多くは店内にソファーが置かれていて、ここでお店の人と客がお茶を飲みながらカメラ談義をしている、という光景をよく見かけました。中には何も買わずにお茶だけ飲んで帰っていく客も多かったようですが、そういった人とのつながりを大切にすることが見直されているようにも思えます。
数年前、全国にチェーン展開をしているカメラや写真用品を扱っている大手販売店が、新宿に大きな店舗をオープンしました。中古カメラだけでなく新品のカメラやレンズ、アクセサリー、時計など、幅広い商品を扱うお店ですが、店内がとてもスタイリッシュなデザインで、それまでの中古カメラ店のイメージを一新したという感じです。常時、5,000点以上はあると言われているカメラやレンズが整然と陳列されていて、とても見易く、そして探し易くなっています。
また、商品に関する説明もしっかりされていたり、店員さんの対応も丁寧であったり、中古品といえども安心して購入できるということも大きな理由ではないかと思うのですが、若い人や女性客がとても多く訪れています。
このお店に影響されたのかどうかはわかりませんが、ここ数年の間に新規にオープンした中古カメラ店は、押しなべてお洒落でスタイリッシュにデザインされた店内という印象を受けます。所狭しと無造作に並べられているのではなく、整理され、整然と並んでいる姿を見ると、中古カメラ店のありようが大きく変わりつつあるというのを実感します。
私などは古い人間なので、このようなお洒落なお店よりも昔ながらの混沌としたお店の方が落ち着くのですが、やはり世の中の多くの人は、今風の洗練されたお店を好むのは自明の理です。必ずしも高級志向というわけではないのでしょうが、同じものを買うにしてもスマートに行ないたいというのは人情かも知れません。
一口に中古カメラ店といっても店舗の大きさもビジネス(商売)のやり方も様々ですが、私が以前から、ちょっと一線を画していると感じていた中古カメラ店が銀座にあります。
銀座周辺の中古カメラ店というのはどちらかというと高級志向的な雰囲気の漂っているところが多いのですが、中でも銀座5丁目の中央通りに面したところに店舗を構えている中古カメラ店は、新品と見紛うような程度の良い商品ばかり、しかも、とてもレアなものがたくさん並べられています。お店に入った時の空気もちょっと違うぞという感じで、店員さんもパリッとしたスーツを着ており、冷やかしで入るのは気が引けてしまうように思えるほどです。
銀座という一等地に店舗を構えていることもあるのかもしれませんが、結構な高額のついた商品ばかりで、私などはおいそれと購入することができません。もうずいぶん昔になりますが、どうしても欲しいレンズがあり、一度だけこのお店で購入したことがあります。店員さんの対応もすこぶる丁寧で、まるで宝石でも購入しているのではないかと錯覚するほどでした。
それにしても、これほど程度の良いレアものをたくさん集められるものだと、常々感心させられています。
フィルムカメラに興味をもつ若い人が増えているという話しも聞きますが、実際に販売される台数はデジタルカメラに比べたら誤差の範囲ではないかと思います。
しかしながら、多くの中古カメラ店はフィルムカメラを扱っていて、経営的には決して楽ではないと思われるのですが、特色を出したり工夫をしながら継続をしてくださっていることを本当にありがたく思います。
フィルムカメラを使う人は非常に少ないとはいえ、新しいフィルムカメラが製造されていないに等しい今ですから、かえって市場に出回る中古品の数が増えているのかも知れません。実店舗を持たずにネット販売に特化しているところもたくさんありますし、今の時代、実店舗があっても並行してネット対応もしていかなければならず、中古カメラ店を運営していくことはいろいろと大変な時代だろうと想像がつきます。しかし、実際に実物を見て手にすることができる中古カメラ店は代えがたい存在であり、その価値はとても大きいと思っています。
(2024.2.21)
大判カメラのアオリの中でも使う頻度が高いと思われるのがティルト、特にフロント(レンズ)部のティルトダウンアオリです。撮影する被写体によってその度合いは異なりますが、風景撮影の際にはパンフォーカスにしたいということから、そこそこの頻度でティルトダウンを使うことがあります。
また、パンフォーカスとは逆に、一部のみにピントを合わせて他はぼかしたいというような場合も、ティルトアオリを使うことがあります。
当然、ティルトをかけることによってピント位置が移動するわけで、一度合わせたピントがティルトによってずれてしまいます。そこで、再度ピントを合わせるとティルトの度合いがずれてしまうということになり、これらの操作を何度も繰り返す羽目になるということが起こり得ます。これはかなりのイライラです。
そこで、ティルトをかけるときに、できるだけスムーズにピント合わせができる方法をご紹介します。
フロントティルトはレンズを上下に首振りさせるアオリのことですが、この動きには二通りの振る舞いがあります。
一つは「センターティルト」と呼ばれるもので、金属製のフィールドカメラに採用されていることが多い方式です。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などがこのタイプに該当し、レンズが上下に首を振る際の回転軸(ティルト中心)、すなわち支点がレンズのシャッター付近にあります。
下の写真はリンホフマスターテヒニカ45をティルトダウンさせた状態のものです。
Uアーム(レンズスタンダード)の中央あたりにレンズボードを取付けるパネルが回転する軸があり、ここを中心して回転しているのがわかると思います。
このタイプの特徴は、レンズの光軸は傾きますがレンズの位置はほとんど動かないということです。つまり、被写体とレンズの距離もほとんど変化しないということです。言い換えると、ティルトダウンすることによってピント面は回転移動しますが、いったん合わせたピント位置が大きくずれることはありません。
このようなアオリの特性を持ったカメラの場合、最初のピント位置をどこに置けば都合がよいかを表したのが下の図です。
上の図でもわかるように、アオリによってピント位置がずれないので、ピントを合わせたい最も近い(手前)被写体にピントを置いた状態でティルトダウンさせると、ピント合わせを効率的に行なうことができます。
アオリをかける前のピント面は、手前の花の位置にあるレンズ主平面と平行な面ですが、この状態でティルトダウンすると、ピント位置が保持されたままピント面だけが奥側に回転して、結果的に手前から奥まで、概ね、ピントの合った状態にすることができます。
このティルトダウンを行なっているとき、カメラのフォーカシングスクリーンを見ていると、手前から奥にかけてスーッとピントが合っていくのがわかります。ほぼ全面にピントが合った状態でティルトダウンを止め、後は微調整を行ないます。
この方法を用いると、ピント合わせとティルトダウンを何度も繰り返す必要がありません。ほぼ1回の操作でティルトダウンの量を決めることができるので、とてもスピーディにピント合わせを行なうことができます。
なお、最初に奥の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、同様にピントの位置は移動しませんが、奥に向かってピントが合っていくので手前の方はボケボケの状態になります。
ちなみに、例えば、藤棚などを棚の下から見上げるアングルでパンフォーカスで撮影したいというような状況を想定すると、この場合、レンズはティルトアップ、つまり上向きにアオリをかけることになりますが、最初にピントを合わせる位置はティルトダウンの時と同様で手前側になります。レンズの光軸が回転する方向はティルトダウンと反対になりますが、レンズ自体はほとんど移動しないのでピント面もほぼ移動しません。したがって、ティルトアップによってピント面を上側に回転させていくことで全面にピントを合わせることができます。
フロントティルトのもう一つのタイプは、「ベースティルト」と呼ばれるもので、ウッド(木製)カメラに採用されていることが多い方式です。私の持っているタチハラフィルスタンドもこの方式を採用しています。
タチハラフィルスタンドのフロント部をティルトダウンするとこのようになります。
上の写真で分かるように、ベースティルトの場合はティルトダウンする支点がカメラベースの上あたりになります。レンズよりもだいぶ下の位置に支点があり、ここを軸として前方に回転移動するので、レンズ全体が前方に移動するのが特徴です。そのため、ピント位置も手前に移動します。
その振る舞いを図示するとこのようになります。
上の図のように、ベースティルトのカメラをティルトダウンすると、ピント面が最初に合わせた位置から手前に移動するとともに、レンズの回転移動に伴ってピント面も奥に向かって回転していくことになります。これら二つの動きが別々に行なわれるわけではなく、ティルトダウンすることで同時に発生することになります。
ピント位置が手前に移動するので、最初の段階でピントを合わせたいいちばん奥の被写体にピントを置くことで、ティルトダウンすると奥から手間にかけてピントが合ってきます。
最初に手前の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、ピント位置はさらに手前に移動することになり、全くピントが合わなくなります。
同じティルトダウンですが、センターティルトとベースティルトでは、最初にピントを置く位置が正反対になります。
スイングアオリはレンズが左右に首を振る動作で、ティルトを光軸に対して90度回転させた状態に相当します。したがって、ピント合わせに関してはティルトと同じ考え方を適用することができます。
ただし、ほとんどのカメラの場合、スイングに関してはセンタースイングが採用されているのではないかと思います。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などの金属製フィールドカメラはもちろんですが、タチハラフィルスタンドなどのウッドカメラもセンタースイングが採用されており、左右のどちらかを支点にしてスイングするようなカメラを私は見たことがありません。
したがって、スイングアオリをかけたときのピント合わせはセンターティルトと同様に、ピントを合わせたい被写体の手前側に最初にピントを合わせておくと、ピント合わせをスピーディに行なうことができます。
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ライズやフォール、あるいはシフトといったアオリはレンズが平行移動するだけなのでピント面が移動することもありません。しかし、ティルトやスイングはピント面が動いてしまい、ピント合わせに手間がかかります。経験知によってその人なりのピントの合わせ方というものがあると思いますが、アオリをかけることによるピント面の移動の基本を把握しておくことで、手間のかかる操作を多少なりとも軽減することができると思います。
手前にピントを合わせたら奥側のピントが外れた、奥側に合わせたら今度は手前側がボケた、などということを繰り返さないためにも、ちょっとしたコツのようなものですが、使えるようにしておけば撮影時のイライラも解消されるかも知れません。
(2024.1.22)
#FielStand #Linhof_MasterTechnika #アオリ #タチハラフィルスタンド #リンホフマスターテヒニカ
年末にジャンク箱の中を漁っていたところ、下の方からホースマンの69判のロールフィルムホルダーが出てきました。しかも、大判(4×5判)用ではなく、中判カメラ用のホルダーです。私がこれを取付けられるような中判カメラを持っていたのは20年以上も前のことですから、多分、そのころに手に入れたものだと思うのですが全く記憶にありません。
外観はそこそこ綺麗で、確認してみたところ、動作にも問題はなさそうでした。しかし、これが使えるカメラがないので、またジャンク箱の中に戻そうと思ったのですが、ふと、これを使ってピンホールカメラを作ってみたくなりました。なぜか、時々ピンホールカメラを作ってみたくなることがあります。
ということで、69判のピンホールカメラを製作しました。
以前、大判カメラを使ったピンホール写真を撮ろうと思い立ち、それ用のピンホールレンズを作ったことがありました。興味のある方は下のページをご覧ください。
ただし、大判カメラを使ったピンホールカメラなので焦点距離などの自由度も大きいのですが機材が大げさになってしまい、気軽にピンホール写真を撮りに行くという感じではなありませんでした。最初のうちこそ結構使っていましたが、徐々にその頻度も減り、最近ではほとんど持ち出すことはなくなってしまいました。
そんな経緯もあり、今回はもっとお手軽なピンホールカメラをつくることにしました。焦点距離なども固定にし、できるだけ小型軽量にするということを第一に、下の図のような仕様にすることにしました。
ピンホールレンズは前回作ったものを使うこととし、それ以外は新規に作成します。
ピンホールカメラなので広角系の方が使い勝手が良いだろうということで、画角は80度前後、35mm判のカメラにすると焦点距離28mmくらいのレンズに相当するカメラとします。
厳密な焦点距離や画角は必要ありませんが、露出値の換算をする際にやり易いよう、F値は切れの良い数字にする必要があります。前回作ったピンホール径は0.3mmなので、これをベースに焦点距離が50~60mmで切れの良いF値ということで計算した結果、焦点距離54mmの時にF値が180になるので、これを採用することにしました。欲を言えば、F値は128、もしくは256の方が換算しやすいのですが、そうすると焦点距離が短すぎたり長すぎたりしてしまうので、F180で妥協することにしました。
なお、今回作成するピンホールカメラに使用する部材等はすべて身近にある端材などを流用し、新規に購入せずに行なうこととします。
まずはピンホールレンズの改造からです。
前回作ったのは、シャッターNo.1の大判レンズから前玉と後玉を外し、シャッターの前面に自作のピンホールをはめ込むというものでしたが、これだとシャッター位置よりもだいぶ前にピンホールレンズがくることになります。そのため、焦点距離が長くなってしまい、画角を大きくすることができないという欠点がありました。
そこで、今回はピンホールレンズをシャッター幕のすぐ前に設置することにしました。これを、前玉のレンズを全部外した枠だけを使ってシャッター幕の直前のピンホールレンズを固定するという方法をとります。
シャッターにピンホールレンズを取付けたのが下の写真です。
以前のものと比べ、これ単体でも焦点距離を15mmほど短くすることができました。
また、前玉の枠がフードの役目をしてくれるので、直接ピンホールレンズに太陽光があたるのをある程度防ぐことができ、フレアのようなものが生じるのを軽減することができます。
カメラの筐体はアクリル板か木板で作ろうと考えていたのですが、アクリル板だとなんとなく味気がないので、木板を使うことにしました。適当な端材がないか探したところ、厚さ9mmの合板があったのでこれを使用します。
各部の寸法はホースマンのロールフィルムホルダーに合うようにしなければならないので、必要個所を採寸して筐体のサイズを算出します。
実際に筐体の図面を引くとこのようになります。
上の図で分かるように、端材で作った四角な枠の中にロールフィルムホルダーがすっぽりと嵌まり込む構造になります。光線漏れがないよう、内寸は正確にする必要があります。
また、シャッターを取付けるフロントパネルは厚さ5mmの合板を使用しました。この板の中央に直径48mmの穴をあけ、ここにシャッターを取付けます。
これを組み上げたのが下の写真です。
木工用の接着剤で貼り付けているのでそのままでも強度的には問題ありませんが、デザイン性を考慮して真鍮製の釘を打ってみました。
ピンホールカメラは長時間露光が必要なので、三脚使用が前提となります。そこで、筐体の底面に三脚用の台座を取付けます。
厚さ9mmの合板を適当な大きさ(ここでは35mmx70mm)にカットし、その中央にメネジを埋め込みます。直径8.5mmの下穴をあけ、そこにねじ込めば完成です。ネジの径の方が若干大きいので、ねじ込むにはかなり力が要りますが、雲台プレートのネジを締め付けるときに動いてしまうと使い物にならないので、固いくらいが丁度良いです。もし、緩いようであれば、メネジの周囲に瞬間接着剤を少し流し込んでおけば心配ありません。
この三脚台座を筐体の底板に接着します。
次に、筐体天板の加工を行います。
後ほど触れますが、今回は簡易型のスピードファインダーのようなものを取付けられるようにするのと、フィルムホルダーを固定するため、天板に若干の加工を施します。
加工内容は下の図の通りです。
まず、スピードファインダーを取付けるための磁石を埋め込みます。これは、レンズ側に2個、フィルムホルダー側に1個です。
今回使用した磁石は、約9mmx14mm、厚さが約2mmのネオジム磁石です。小さいですがとても強力な磁石です。これを天板につけるのですが、天板の表面が平らになるように磁石を埋める穴を掘ります。
こんな感じです。
この穴に接着剤を流し込み、磁石をしっかりと固定します。
さてもう一つ、ロールフィルムホルダーを筐体に固定しなければならないのですが、固定ピンを筐体側から差し込み、フィルムホルダーの溝に嵌合させるという簡単な方法です。
固定ピンは大型のゼムクリップを利用して自作しました。サイズは適当で構いませんが、ピンの長さはある程度、正確にする必要があります。今回、筐体に使用した端材の板厚が9mmなので、この板を貫通してフィルムホルダーの溝に届かせるには13mmの長さが必要です。短すぎるとフィルムホルダーがしっかり固定できませんし、長すぎると固定ピンが浮いてしまいます。
この固定ピンは筐体の底板にも取り付けます。
これで筐体の組み立ては完了ですので、内側に反射防止のため、艶消し黒で塗装をします。
外側はそのままでも問題はありませんが、少しでも見栄えをよくするため、透明のラッカーを数回塗りました。
なお、隙間からの光線漏れはないと思いますが、もし心配なようであればモルトを貼っておけば心配ないと思います。
ちなみに、ロールフィルムホルダーを取り付ける際は、固定ピンを浮かせた状態でフィルムホルダーを筐体にはめ込み、その後、固定ピンを奥まで押し込みます。これで、フィルムホルダーが外れることはありません。
ピンホールカメラの撮影でいちばん苦労するのがフレーミングです。ピンホールはその名の通りとても小さいので、フォーカシングスクリーンのようなものに投影しても暗くてほとんど像を認識することができません。
そこで今回は、簡易型のスピードファインダーなるものを取付けることにしました。
仕組みはいたって簡単です。
上の図でお分かりいただけると思いますが、フィルム面と同じ大きさのブライトフレームを書き込んだ透明の板を焦点距離と同じだけ離れた位置から見ることで、フィルムに写る範囲を確認するというものです。
レンズ側に取り付けるのは、フィルム面よりも一回り大きな透明の板です。今回は、厚さ1.8mmの透明のアクリル板を使いました。これをL字型に曲げ、そこにブライトフレームを書き込みます。使用するフィルムのサイズが69判で実寸が56mmx83mmなので、それに合わせて白いペンキで線を引いています。
もう一つ、フィルム側に取り付けるものも同じように透明のアクリル板をL字型に曲げますが、こちらはずっと小さなもので大丈夫です。
そして、レンズ側のブライトフレームの中心に小さなマーキングをします。私は、同じように白のペンキを使いましたが、何でも構いません。
一方、フィルム側に取り付けるファインダーには、レンズ側フレームの中心のマーキングと同じ高さのところに小さな穴をあけます。
次に、スピードファインダーをカメラの筐体に取り付けるため、L字型に曲げたところに磁石を取付けます。
これは、両面テープや接着剤などで貼り付けても良いのですが、私はアクリル板に磁石がはまるサイズの穴をあけ、そこに円形の磁石をはめ込み、瞬間接着剤で固定しました。
ここで重要なのが磁石の向きと固定する位置です。
まず磁石の向き(極性)ですが、筐体の天板につけた磁石とくっつくようにしなければなりません。これを間違えると磁石の反発力でファインダーがぶっ飛んでしまいます。
次に磁石を固定する位置ですが、レンズ側のファインダー面が、概ねレンズの位置に来るように磁石を固定すること、フィルム側のファインダー面が、概ねフィルムの位置に来るように磁石を固定することです。つまり、2枚のファインダーの間隔が、焦点距離にほぼ等しくなるようにします。
こうして出来上がった簡易型スピードファインダーが下の写真です。
使い方は簡単で、フィルム側のファインダーの小さな穴からレンズ側ファインダーの中心点が重なるように覗きます。その時のブライトフレームの内側がフィルムに写り込む範囲になります。それほど精度の高いものではありませんが、フレーミングをする上ではまずまず使い物になるレベルだと思います。
後は、これをカメラに取り付けるだけです。強力な磁石を使用しているため、取り付け位置を気にしなくても2枚の磁石がほぼ中心でくっつきます。
取り外す時もファインダーの上の方を持って、前後どちらかに押せば簡単に外すことができます。使わないときは取り外しておけば、よりコンパクトなカメラになります。
磁石を固定するための瞬間接着剤の量が多すぎたようで、アクリル板が白くなってしまいました。後日、白いペンキか何かを吹き付けて綺麗にしてやろうと思います。
実際にカメラに取り付けるとこのようになります。
フィルムホルダー側(後側)から見た写真がこちらです。
まだ撮影に行っていないので、残念ながら作例はご紹介できません。近いうちに実際に撮影をしてみようと思います。
このカメラを実際に操作した時の感触ですが、剛性はそこそこ保たれているようで、三脚に固定すれば安定しています。フィルムの巻き上げやシャッターチャージなどの際にもぐらついたりきしんだりすることがありません。ここで使用したシャッターはSEIKO製ですが、シャッターチャージレバーがとても重く、動かすのに力が要るのですが、特に問題なく使用に耐えられます。
また、ストラップは着けてありませんが、やはりストラップがあった方が扱い易いように思います。適当な金具があれば、筐体の両サイドに取り付けてみたいと思います。
なお、撮影の際にはフィルムホルダーの引き蓋を外すのを忘れないようにする必要があります。シャッターがついているので、フィルムホルダーの引き蓋は外したままでも問題ないと思いますが、万が一のため、引き蓋は着けておく方が安心です。
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20年以上も暗いジャンク箱の中で眠っていた69判のロールフィルムホルダーですが、やっと日の当たる場所に出ることができたという感じです。
また、今回は家にあった端材や部材などを利用して作ったので見てくれはイマイチですが、ちゃんとした材料を使えばもっときれいなカメラに仕上がると思います。
ピンホールカメラは簡単に作ることができるということも手伝ってか、根強い人気があるようです。世界に1台しかない自分だけのカメラということにも愛着が湧くのかも知れません。銘板なんぞを取付ければ、一層カメラらしくなると思います。
(2024.1.5)
シュナイダー製の大判レンズにはいくつかのテレタイプがラインナップされていますが、このテレアートン Tele-Arton もその一つです。
私はテレアートンについてあまり詳しくないのですが、シュナイダーの古いカタログを見ると、スタジオ撮影を意識して作られたレンズのように書かれています。つまり、風景などの被写体よりも、ポートレート撮影などに向いているということだと思います。
テレタイプのレンズはその焦点距離に対してフランジバックが短かいという特徴がありますが、反面、レンズが大きく重くなってしまい、スタジオ撮影ならともかく、フィールドに持ち出すことを考えると携行性には劣ると言わざるを得ません。
しかしながら、魅力のあるレンズであることも確かです。
他のレンズと同じように、テレアートンも改良が重ねられてきているのでたくさんのバージョンがありますが、私の持っているレンズは比較的新しいモデルだと思われます。新しいといっても、シリアル番号からすると1973年ごろにつくられたようですので、半世紀も前のレンズということになります。
この数年後に発売されたテレアートンには「MC(マルチコーティング)」の称号がつけられていますが、私のレンズにはついていないのでシングルコーティングレンズです。前玉をのぞき込むと、シングルコーティングらしいあっさりとした色合いをしています。
テレアートンに関する情報が少ないなかで、わかる範囲でこのレンズの仕様を記載しておきます。
イメージサークル : Φ178mm(f16)
レンズ構成枚数 : 5群5枚
最小絞り : 32
シャッター : COPAL No.1
シャッター速度 : T.B.1~1/400
フランジバック : 約158mm (実測値)
フィルター取付ネジ : 67mm
前枠外径寸法 : Φ70mm (実測値)
後枠外径寸法 : Φ51mm (実測値)
全長 : 86.7mm (実測値)
重量 : 512g (実測値)
なお、フランジバック、寸法、および重量は私のレンズでの実測値です。カタログ値とは異なっているかもしれませんので、ご承知おきください。
古いタイプのレンズにはレンズ構成が4枚とか6枚というものもあったようですが、後期モデルは5枚構成になっているようです
このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ80mm前後のレンズに相当します。中望遠にあたる焦点距離で、まさにポートレート用として多用されているレンズに該当します。
絞りの目盛りは32までしかありませんが、絞りレバーはさらに絞り込む方向に動かすことができ、F64くらいまで絞られる感じです。
シャッターはコパルの1番が採用されていますが、後期モデルとは異なり、シャッター速度設定リングがギザギザのついた金属製のタイプです。触った感触や、回転させるとカチッとした動きなど、個人的にはこの方が好きです。
前玉はシャッターの径と同じくらいあるのですが、長く前方に飛び出しているので絞りやシャッター速度目盛りがとても見易く、また、操作もしやすいです。
イメージサークルは178mm(F16)と、焦点距離の割にはかなり小さめです。テレタイプではない通常の焦点距離105mmくらいのレンズよりわずかに大きいくらいですから、大きなアオリは使えません。4×5判を横位置で使用する場合、F22まで絞った状態でライズできる量は15㎜程度と思われます。
フランジバックは約158mm(実測値)なので焦点距離に対してとても短く、一般的なフィールドカメラに装着した場合、よほどの近接撮影でない限り、可動レールがカメラベースからはみ出さすことなく使える長さです。長焦点レンズは繰り出し量が大きく、風などの影響を受けやすいのですが、フランジバックが短いとそのリスクも軽減されます。
絞り羽根は7枚で、最小絞り(F32)まで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
また、重量は512g(実測値)もあり、ズシッと重いレンズです。
このレンズがどのような感じにボケるのか、以前に作成したテストチャートを用いてボケ具合を確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.7m離れた位置から撮影をしました。絞りは開放(F5.5)です。
撮影した画像から、ピントを合わせた位置のテストチャート、後方に25cmの位置にあるテストチャート、および、前方に25cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。
1枚目がピントを合わせた位置のもので、概ね、問題のないレベルだと思います。
2枚目が後方25cmの位置にあるテストチャートで、後ボケ状態のものです。ボケ方自体は比較的柔らかな感じですが、ボケの中心付近に芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの中に元の図形が残っているというのが正しい表現かも知れません。細い線状のものだと、それが残る傾向が強い感じで、被写体の形状によっては気になるボケ方になる可能性があります。
そして、3枚目が前方25cmの位置にあるテストチャートです。いわゆる前ボケですが、後ボケに比べるとすっきりとした感じのするボケ方です。ボケがいずれかの方向に偏ることもなく、概ね、均等なボケ方をしていると思います。多くの場合、前ボケは大きくなる傾向にあるので多少クセがあっても気にならないことが多いですが、柔らかくふわっとしたボケである方が望ましいのは言うまでもありません。
前ボケの大きさ(ボケ径)の理論値を下の近似式で計算してみます。
B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b
この式に、
B : ボケ径
f : レンズの焦点距離 = 270mm
a : 主被写体までの距離 =2,700mm
b : 点光源までの距離 = 2,450mm
F : 絞り値 = 5.5
をあてはめると、ピント位置から前方25㎝の位置にある点光源が約5mmの大きさになります。上の写真でも感触はわかると思いますが、そこそこ大きなボケが期待できると思います。
また、参考までにISO-12233規格の解像度チャート(A4サイズ)も撮影してみました。
掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでほぼ問題ないレベルだと思います。
また、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測したところ、結果は2,163本という値が得られました。テストチャートを印刷したプリンタの性能が追いついていないので、A3サイズに印刷したテストチャートを用いればもう少し良好な結果が得られるかも知れません。
焦点距離270mmというレンズは4×5判で使用した場合、対角画角はおよそ32度なので、広い範囲を写し込むには被写体との距離をかなり大きくとる必要があります。ですので、広い範囲を写すというよりは、その中からある範囲を切り取るという写し方に向いています。
まず1枚目は、きれいに色づいたカエデの紅葉を撮影したものです。
大きな木ではありませんが、オレンジ色から赤色へのグラデーションがとても綺麗です。
薄曇りなので直接の日差しはありませんが、太陽の位置は後方になるので順光に近い状態です。上部の葉っぱの一部が反射で白く輝いているのがわかると思います。日差しが強いときは順光で撮影すると葉っぱの色が綺麗に出ませんが、柔らかな光だと順光状態でもきれいな色が出ます。
背後には、かなり落葉してしまってますが茶色く色づいた枝を配しました。主要被写体のカエデから背後の木までの距離は2~3mほどでしょうか。カエデの葉っぱはなるべくぼかしたくなかったのでF11まで絞り込んでいます。背後の木がはっきりとし過ぎており、ちょっと絞り込み過ぎた感じです。カエデの葉の色が鮮やかなので背景に埋もれすぎることはありませんが、もう少しボケた方がよりカエデの葉が引き立ったと思います。
ボケはクセがなく、素直な感じだと思います。
画角は大きくないので、バックに余計なものが入り込まないのも270mmという焦点距離ならではという感じです。背景の選び方によってはかなり簡素化できるのも、このクラスのレンズの特徴の一つです。被写体の形が変わってしまうこともなく、また、被写界深度が浅すぎることもないので、不自然さもなく写すことができます。
葉っぱの先端も綺麗に表現されているので解像力も問題ないと思います。
2枚目は紅葉をバックに、まだ青々とした葉を撮ったものです。
紅葉はもちろん綺麗ですが、紅葉前の緑とのコントラストも美しいものです。季節の移り変わりを感じることのできる光景の一つかも知れません。
写真を見ていただいてわかる通り、これを撮影した日は快晴で強い日差しが差し込んでいる状態です。逆光位置で紅葉を見るととても鮮やかに見えるものですが、コントラストが高くなりすぎてしまうのも事実です。
そこで、カエデの木の近くにあった、まだ黄葉していない木の下に入り込んで撮影しました。上から下がっている一枝の葉っぱ全体にピントが合う位置を探し、その位置から紅葉を背景にしています。太陽はほぼ上部正面方向にあり、この葉っぱは透過光で見ている状態です。葉脈も綺麗に見えています。
この枝までの距離は3mほど。もう少し近づいて背景の紅葉を大きくぼかしたかったのですが、ある程度の範囲を入れるのと、背景のボケ具合との妥協点がこの位置という結果になりました。
背景も結構明るいので、その明るさに負けないように、そして、緑が濁らないようにということで露出は若干オーバー目にしています。そのため、葉っぱの色が本来の色より黄色っぽくなっています。
シングルコーティングのレンズですが、この程度の逆光条件で、レンズに直接光があたっていなければフレアなども感じられず、ほとんど問題のないレベルで写ります。光の反射している箇所にはごくわずかの滲みも見られますが、ほとんど気にならないレベルです。
さて、3枚目は紅葉したカエデの葉っぱをアップで撮影した写真です。
近所の公園に比較的大きなカエデの木が何本もあり、そこで撮影したものです。
木の下から見上げるようなポジションで撮っています。午前中の早い時間帯だったので太陽高度が低く、バックは日陰になっている状態なのでほぼ真っ黒に落ち込んでいます。数枚の葉っぱに木漏れ日があたったタイミングを見計らってシャッターを切っています。光があたっている葉っぱだけにすると画全体が散漫な感じになってしまうので、少し多めに入れています。
主被写体である葉っぱまでの距離は2mほどだったと思います。マクロ撮影ほど近接はしていませんが、それでも、そこそこの大きさで撮影することができます。絞り開放で撮っているので、ピントが合っているのは葉っぱ1枚だけです。左上に行くに従いピントから外れていきますが、なだらかなボケ具合は好感が持てます。
太陽は逆光の位置にあるのですが、このカエデの葉っぱにとってはトップライトに近い感じであり、そのため、立体感が損なわれてしまった感じの描写です。
また、このような写真の場合、F5.5というのは若干物足りなく感じてしまいます。もう1段、絞りを開くことができれば、もっと柔らかくてだいぶ印象の違う描写になるだろうと思われます。
前ボケの具合がわかる写真をと思って探したのですがなかなか適当なものがなく、ようやく春に写した桜の写真を見つけたので、最後にご紹介します。
菜の花越しにしだれ桜を撮影したもので、個人的にはあまり気に入っていない写真なのですが、比較的、前ボケの出方がわかりやすいかと思います。
しだれ桜までの距離は5~6mほどで、一番手前の菜の花までは1mもなかったと思います。桜のピンクに対して菜の花の黄色が強すぎるので桜の印象が薄れてしまった感じですが、菜の花のふわっと広がるようなボケ方は嫌味な感じがしません。レンズによっては前ボケがこってりと出過ぎるものもありますが、このレンズのボケは割と控えめといった印象です。色とか量に気をつければ効果的な前ボケを得ることのできるレンズだと思います。
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私はテレタイプのレンズを数本持っていますが、実はその出番は決して多くありません。例えば、今回のテレアートン270mmに関しても、これを持ち出さずに250mmや300mmのテレタイプ以外のレンズを持ち出すことの方が圧倒的に多いです。レンズが大きくて重いというのと、イメージサークルが小さいというのが理由ですが、写りに不満があるわけではありません。むしろ、花の写真を撮ったりするときなどは、扱いやすいレンズだと思っています。
また、50年も前のレンズですから、新しいレンズと比べると性能的にも劣るのでしょうが、厳しい条件での撮影でもない限り、十分な写りをするレンズだと思います。ボケ方も変なクセがなく好感が持て、ポートレート用ということを意識して作られたレンズというのもうなずけます。
広い風景をダイナミックに撮るというのには向いていないかも知れませんが、重さを差し引けば風景撮影にも持っていきたい1本ではあります。
(2023.12.21)
かつて、イーストマン・コダックからコダクロームというリバーサルフィルムが販売されており、何とも言えないコクのある発色をするフィルムでした。私もとても気に入っていて、使用するリバーサルフィルムの半分くらいはコダクロームでした。残念ながら2009年に製造販売が終了してしまい、それ以降、使用するリバーサルフィルムはフジクロームだけになってしまいました。コダックからはエクタクロームというリバーサルフィルムも販売されていましたが、私はその発色があまり好きになれず、ほとんど使うことはありませんでした。
フジクロームはコダクロームに比べるととても鮮やかな発色をするフィルムで、コダクロームのコクのある発色とは対極にあるようなフィルムですが、一言でいえば「とても綺麗に写るフィルム」という感じです。
そのフジクロームも今や風前の灯火といった感じで、現行品として手に入れることができるのはわずかに3種類のみ(2023年12月現在)といった状況です。
フジクロームの歴史は結構古く、少し調べてみたところ、最初のリバーサルフィルムは1948年(昭和23年)に「フジカラーリバーサルフィルム」という名称で発売されたようです。この時はまだ「フジクローム」という名前は冠していません。
もちろん、私が生まれるはるか以前のことなので、私はこのフィルムを使ったことも見たこともありませんが、私の父親が生前に撮影した写真の中にポジ原版が含まれていて、ひょっとしたら富士フイルム初代のリバーサルフィルムかも知れないと思ったりしています。また、写真に関する私の大先輩が、「はっきり言って使い物にならなかったらしい」とおっしゃっているのを聞いたことがあり、いまのフィルムと比べると画質はかなり劣っていたのだろうと思われます。
私が使った最初のフジクロームは、「フジクローム100プロフェッショナルD」というフィルムで、「RDP」というフィルムコードがつけられたものでした。ですので、最初のリバーサルフィルムから数えると4代目ということになるようです。
以来、長年に渡ってフジクロームを使ってきており、このフィルム(RDP)以降の製品に関しては今でもかなり記憶に残っているので、フジクロームの系譜のようなものを作ってみました。もちろん、記憶があいまいなところもあるので間違いや抜けがあると思いますし、懐古的になってしまうところもありますが、そのあたりは大目に見てください。なお、映画用フィルムに関しては今回の対象から外していますのでご承知おきください。
RDPが出たころはリバーサルフィルムの種類も多くはありませんでしたが、1990年代に入ると次々と新しいフィルムが発売されていきました。
1990年に初代の「ベルビア Velvia」 が発売されました。それまで、ISO50には「フジクローム50プロフェショナル(RFP)」というフィルムがあり、これもよく使っていました。とてもきれいな発色をするフィルムだと思っていたのですが、初めてベルビアで撮影したポジを見たとき、あまりの鮮やかさにびっくりしたのを覚えています。その鮮やかな発色ゆえ、自然風景を撮影する人から絶大な支持があり、「風景撮影にはベルビア」みたいな風潮になっていました。特に緑と赤の発色が鮮やかで、被写体や光の具合によってはしつこすぎると感じることもありましたが、一度ベルビアの味を知ってしまうと簡単には離れられないという感じでした。
ベルビアの成功に気を良くしたのかどうかはわかりませんが、ベルビアよりももっと鮮やかさを追求したリバーサルフィルムをということで、2004年に「フォルティア fortia」という新しい製品が発売されました。
早速、私も一箱購入して使ってみましたが、鮮やかさを通り越してどぎついともいえる発色、まるでペンキを塗りたくったようなベタっとした描写で、とても使う気にはなれませんでした。結局、1本使っただけで残りの4本は友人にあげてしまいました。
そう感じたのは私だけではなかったようで、とにかく不評だったらしく、翌年、改良版の「フォルティアSP」というフィルムが出ました。しかし、私は初代フォルティアのマイナスのイメージが強かったので一度も使うことはありせんでしたが、世の中の評判は結構よかったようです。
フォルティアもフォルティアSPも、富士フイルムが試験的に発売したフィルムではないかと思うのですが、いずれも発売から1年ほどで終焉を迎えてしまいました。
そんな中でもベルビアの人気は衰えることがなく、たくさんの人に支持され続けていましたが、2006年に製造販売が終了となってしまいました。原材料の調達が困難というのが理由のようでした。
ユーザーからの「ベルビア復活」の声もあったようで、翌年、「ベルビア50」という新製品が発売されました。調達困難な原材料を代替品にして、初代ベルビアに極力近づけたというアナウンスがありましたが、私が使ってみた率直な印象は、やはりベルビアとは違う、ということでした。確かに発色は似ていたのですが、初代ベルビアの方が自然な色合いに感じられ、以後、ベルビア50を使うことはごくまれになってしまいました。
時は前後しますが、初代ベルビアが販売終了となる数年前の2003年に「ベルビア100」と「ベルビア100F」という2製品が新たに発売されました。
ベルビア100は、鮮やかというよりは「派手な」という表現がぴったりするような発色傾向で、私の好みには合わず、このフィルムも数本使っただけで、以後、使うことはほとんどありませんでした。
一方、ベルビア100Fは、ベルビアの名を冠してはいますが全く別物のようなフィルムで、自然な発色は私の好みにぴったりという感じでした。
富士フイルムのリバーサルフィルムは、その発色の仕方によって、「イメージカラー」、「ナチュラルカラー」、「リアルカラー」の3つが定義されていて、ベルビアシリーズは高彩度な「イメージカラー」に分類されているのですが、ベルビア100Fだけは本来の色に忠実な「リアルカラー」に属しています。私は、鮮やかだけれど自然な色合いのベルビア100Fがたいそう気に入っていたのですが、残念ながらこれも生産終了となってしまいました。
さて、元祖フジクロームの本流を受け継いでいるのがプロビアシリーズで、「プロビア100」、「プロビア400」、「プロビア1600」とISO感度の異なる3種類がラインナップされていましたが、現在残っているのはプロビア100の後に発売された「プロビア100F」だけとなってしまいました。
フジクローム100Dの後継として初代のプロビア100が発売されたのが1994年です。フィルムコードはフジクローム100Dを受け継いで、「RDPⅡ」となっていました。その後、2000年に発売されたプロビア100FがRDPⅢで、これが現行品になります。ベルビアに比べるとおとなしめの発色をする「ナチュラルカラー」に分類されるようです。高彩度ではあってもベルビアほど硬調ではないといったところでしょうか。フジクロームのDNAを受け継いでいる正統派フィルムというべき存在なのかも知れません。
もともと、フジクローム100Dには「RDP」と「RD」の2種類が存在していました。リバーサルフィルムはそのほとんどがプロフェショナル用ということでフィルムコードの末尾に「P」がつくのですが、「P」のつかない「RD」はアマチュア向けということで販売されていたフィルムです。常温保存が可能など、扱い易さを売りにしていたのですが、ベルビアシリーズやプロビアシリーズになってからはアマチュア向けというのが姿を消してしまいました。
リバーサルフィルムは、カラーネガフィルムに比べると圧倒的に需要が少ないわけで、それを打破してもっと裾野を広げたいという思いがメーカーにあったのではないか想像するのですが、プロビア100をベースにアマチュア向けとして「トレビ400」と「トレビ100C」というフィルムが発売されました。135のみで、ブローニーサイズやシートフィルムはなかったと思うのですが、価格も低く抑えられていたように記憶しています。これらのフィルムが裾野を広げたり全体の底上げに貢献したのかどうかはわかりませんが、数年で姿を消してしまいました。
高感度のプロビア400やプロビア1600も何度か使ったことはありますが、自然風景が主な被写体の場合、それほど高感度である必要はなく、また、高感度フィルムで撮影したポジから大きく引き伸ばすと粒子の荒れが気になり、これらのフィルムを常用することはありませんでした。
そして、どちらかというと高彩度で派手な発色傾向にある富士フイルムのリバーサルフィルムの中で、異彩を放っていたのが「センシア Sensia」と「アスティア Astia」です。
発売時期はセンシアが1994年、アスティアが1997年とのことです。
センシアのフィルムコードには「P」がついておらず、アスティアのフィルムコードの末尾には「P」がついているので、センシアはアマチュア向け、アスティアはプロ向けということで用意されていたようです。また、センシアは135だけだったと思いますが、アスティアはブローニーやシートフィルムも販売されていました。
いずれも「リアルカラー」に分類されるフィルムで、肉眼で見たのに近い色再現性のフィルムでした。それまでのベルビアやプロビアという高彩度のフィルムを見慣れてきた目からすると、とてもあっさりした色合いで、拍子抜けするほどでした。まるで、半世紀以上も前に撮影され、すっかり退色してしまったポジを見ているかのように感じたものです。
私はポートレートを撮ることはあまりないのですが、プロビアやベルビアで撮ると肌が赤っぽくなってしまいます。しかし、アスティアで撮ると女性の肌が本当に綺麗に表現されて、まさにポートレートのために生まれてきたフィルムといった感じです。
このフィルムで風景を撮影し、そのポジを見たときは、あっさりしていてインパクトに欠けるなと思ったものですが、繰り返し何度も見るにつけ、これが本来の色だと思うようになりました。それ以来、アスティアで自然風景を撮ることが随分と増えました。
同じ場所をベルビアとアスティアで写したポジを見た場合、ベルビアの方が鮮やかでインパクトがあるのは間違いがなく、それを見た多くの人はベルビアの方が綺麗だというかも知れません。しかし、自然の繊細さや優美さのようなものを表現するには、明らかにアスティアの方が勝っていると感じていました。
また、アスティアは当時のリバーサルフィルムとしては最も粒状性に優れたRMS7を実現していたらしく、この辺りもポートレートを意識したフィルムだったのかも知れません。
アスティアも2012年にはすべてのサイズが販売終了となってしまいました。
ベルビアとプロビアは比較的似ているところもありますが、アスティアに関してはこれの代替となるようなフィルムは存在せず、このフィルムが廃版になってしまったのは本当に残念でなりません。
フジクロームの中で特殊な存在というとタングステンフィルムとデュプリケート用フィルムでしょう。
タングステンフィルムは、人工照明のもとでの撮影用として用意されていたフィルムで、主に商品撮影に使われていたことが多いと思います。現在のデジタルカメラであればホワイトバランスの設定で簡単に対応できますが、フィルムの場合はそういうわけにはいかず、人工照明下でもカラーバランスが崩れないという、フジクロームの中で唯一のタングステンタイプのフィルムでした。
私はほとんど使うことはありませんでしたが、時々、このフィルムを太陽光のもとで使用したことがあります。太陽光のもとで撮ると色温度の関係で全体が青っぽくなり、ちょっと幻想的な表現ができるため、お遊びで使っていました。
また、デュプリケート用のフィルムは、大切なポジ原版に傷がついたりすると台無しになってしまうので、複製をつくるということで用いていたフィルムです。デジタルカメラが普及する前は、フォトライブラリーなどにもポジ原版を預けていたものですが、その際にも複製をつくるなど、それなりに需要のあったフィルムでした。
こうして振り返ってみると、1990年から2000年代の前半にかけて、本当にたくさんのリバーサルフィルムが生まれてきたのがわかります。今からすると夢のような時代でした。これほどたくさんの種類があっても常用するフィルムは限られてはいますが、それでも、選択肢が多いということは幸せなことでした。
目的とする被写体と使用するフィルムの組合せを考えて撮影するという、面倒くさいけれどもそれが楽しみでもあったのも事実です。フィルムはメーカーが設定した画質や色合いなどをユーザーが変えることはできませんが、それでもフィルムの特性を理解しながら、露出コントロールしたりフィルターを使ったり、はたまた現像条件を変えたりしながら、自分なりの色を追い求めていたというのも一つのスタイルだったかもしれません。
今のデジタルカメラであればフィルムをとっかえひっかえしなくても、フィルムシミュレーションやホワイトバランスなどで如何様にでも対応できてしまうので、本当に便利になったと思います。
自分なりにフジクロームの系譜を書いてみて、昔は良かったなどと懐古主義に走るわけではありませんが、あらためて思うのはフィルムの偉大さです。これら、廃版になってしまったフィルムをこの先、使うことは叶いませんが、過去にこれらのフィルムで撮影したポジが残っているのがとても貴重なことのように思えてきます。
(2023.12.10)
ひと月ほど前、リンホフ規格の大判レンズ用のレンズボードが必要になり、ジャンク箱をあさってみたのですが使い切ってしまったらしく、残念ながら見つかりませんでした。中古カメラ店やネットオークションサイトなどを探してみたところ、あることはあるのですが4,000円とか5,000円という価格設定で、そこまで高額のものを購入する気にはなれません。
つらつらとネットオークションサイトを眺めていると、時たま、1円という価格でボード付きの大判レンズが出品されていることに気がつきました。動作不良や汚れや傷みのひどいレンズがジャンク品として出品されていることが多いようですが、さすがに1円で落札させてはくれないだろうと思いながらも、送料込みで2,000円くらいまでなら許容範囲ということで、時々チェックしていました。
1週間ほどウォッチをしていたところ、「動作未確認、レンズにカビ、クモリ、汚れあり」と説明書きのあるシュナイダーのジンマー Symmar 210mm 1:5.6 という大判レンズが1円で出品されていて、幸運にもこのレンズをを1,000円ほどで落札することができました。送料込みでも1,800円ほどです。カビやクモリがあろうが動作しなかろうが、レンズが欲しいわけではないので全く問題ありません。リンホフ規格のレンズボードさえ手に入れば目的達成です。
数日後、落札した商品が宅配便で届きました。そのレンズがこちらです。
リンホフがシュナイダーに委託したレンズのようで、シャッター部には大きな文字で「LINHOF」と刻印されています。確かにレンズは汚い状態です。カビとクモリもしっかりとついています。シュナイダー純正の前後のレンズキャップもついていますが、必要なのはレンズボードなので、ボードからレンズを外し、レンズはジャンク箱行きです。
それから2週間ほど経ったある日、ジャンク箱をあさっていたところ先日のジンマー210mmがふと目に留まりました。せっかく我が家に来たレンズだからきれいにしてみようかと思い立ち、分解・清掃することにしました。
レンズをよく見てみると、カビとクモリに加えて、バルサムもいってしまっている感じです。
掲載した写真ではわかり難いですが、前玉の中の方に直径3~4mmの気泡のようなものがいくつか見えます(赤い矢印の先)。前玉を外し、前群のレンズユニットを取り出してみると、レンズのコバのところがべとべとしています。バルサムが流れ出てしまっているようです。
バルサムは後回しにして、とりあえず前玉のカビとクモリの除去から始めます。
カビは前群ユニットに、クモリは前群ユニットと後群ユニットの両方についています。カビはそれほどひどくありませんがクモリがひどくて、この状態ではフォギーフィルターを着けて撮影したような描写になってしまうのではないかと思うほどです。
しばらく無水エタノールに浸した後、丹念に拭いていくとカビもクモリもすっかりなくなり、きれいなレンズになりました。カビもレンズの中まで侵食していなかったらしく、カビ跡も全く分かりません。
次に、前玉の前群ユニットのバルサム修理ですが、まずは接着されている2枚のレンズを剝がさなければなりません。バルサムが流れ出ているので、指で押せば動くかと思いましたがびくともしません。
ということで、煮沸して剥がすことにしました。
小さな鍋に水を入れ、この中でレンズを煮沸するのですが、鍋の中でレンズが踊って傷がつかないように、レンズよりも二回りほど大きな皿にラップを巻いて、その上にレンズを載せて鍋に投入します。
弱火でコトコトと5分ほど煮ると、レンズのコバに塗ってあった墨が剥がれてきたので、バルサムも柔らかくなっているだろうと思い、鍋からレンズを取り出して指で押してみます。ねっとり感が残ってはいるものの、わずかにレンズがずれました。
再度、鍋に入れてコトコト煮ては取り出し指で押す、ということを4~5回繰り返して、ようやく貼りついていた2枚のレンズを剥がすことができました。
剥がれた状態が下の写真です。
気泡のようなものがびっしりとついているのはバルサムです。
これを無水エタノールでふき取っていきます。
そして、きれいになったレンズがこれです。
レンズのコバのざらついたところに若干の墨が残っていて黒っぽくなていますが、カビもクモリもないクリアな状態になりました。
さて、前玉の前群ユニットのレンズがきれいになったところで、これを再度、貼り合わせなければなりません。
ここで最も気を遣うのが、2枚のレンズの中心がずれないように貼り合わせるということです。専用の機器や治具などがあるわけではないので、身の回りにあるものを使って簡易的な治具を作ります。
用意するのは円筒形のボトルキャップを3個とステンレス板、そして接着剤です。ステンレス板の代わりにアルミ板やアクリル板など、表面が平らでしっかりした板状のものであれば問題ありません。
ステンレス板の上に前群ユニットの下側の凹レンズを置き、これを3方からボトルキャップで挟み込みます。レンズとの間に隙間ができないようにしっかりと挟み、ボトルキャップを接着剤でステンレス板に接着します。多少、力を加えても動かないくらいに強く接着しておく必要があります。ボトルキャップは概ね、120度間隔で配置するのですが、それほど正確である必要はありません。3方から挟めば確実にレンズを押さえることができます。
次に、このレンズの上にバルサムを1~2滴、垂らします。バルサムの量が多くても流れ出てしまうだけなので、ごく少量で問題ありません。
そして、もう1枚のレンズをこの上に乗せて、下のレンズに押しつけます。バルサムが全面に広がって、中に空気が残らないようにしっかりと押さえます。
ボトルキャップが治具の役割を果たすので、2枚のレンズの中心が一致するはずなのですが、レンズを重ねた状態で天井にある蛍光灯などの照明を写し込んだ際、それが縞状になっていたり滲んだような状態になっていたりすると、レンズの中心がうまく一致していない可能性が大です。その場合、上側のレンズをゆっくりと左右に回すと縞模様や滲みが消える場所がありますので、その位置で固定します。
この状態で、マスキングテープなどを用いてレンズをステンレス板に固定します。レンズに糊が付着しないようにレンズの上にシルボン紙などを置き、その上からマスキングテープで抑えるのがお勧めです。
あとは結果次第、試し撮りで確認ということになります。
バルサムを固着させるために熱をかけるのですが、私はドライヤーで熱風を20分ほどかけました。あまり高温にしなくても固着するので、できるだけ熱が均等になるよう、満遍なく風を送ります。
ちなみに、今回、レンズの接着に使用したのはキシロールバルサムです。カナダバルサムをキシレンで希釈したもので、私は顕微鏡用のプレパラートをつくるために使っているものです。カナダバルサムよりも粘度が低く、サラサラしているので使いやすいです。
最近はバルサムを使わずに合成接着剤を使うことがほとんどのようですし、UVレジンを使うという方もいらっしゃるようですが、UVレジンは硬化するとやり直しがきかないのでリスクがあります。バルサムだと、万が一、失敗してもやり直しがきくので安心です。
バルサムが完全に固まるまで1日ほど放置しておきました。
バルサム貼りが完了した前玉前群ユニットがこちらです。
このままでも使えないことはありませんが、コバに墨入れをします。
私はレンズの鏡胴内などの反射防止に JET BLACK のアクリル絵の具を使っています。これは本当に「真黒」で、しかも、つやが全くないので理想的ですが、ごく薄く塗るのが難しく、今回のようなレンズのコバにはあまり向いていません。コバに塗った塗装に厚みが出てしまうとレンズが嵌まらなくなってしまう可能性があります。1㎜の数十分の一という塗装の厚みでもレンズが嵌まらなくなることがあるので、ほとんど塗り厚を気にしなくてよいということで、今回使用したのは墨汁です。二度塗りしても塗り厚が気になることはありません。
コバに墨入れをしたのが下の写真です。
これで前玉の分解・清掃は完了です。あとは元通りに組み上げるだけです。
後玉は前玉に比べるとかなりきれいな状態を保っており、バルサム切れのような状態も確認できませんでした。クモリはかなりありましたがカビは見当たらず、バルサムの問題もなさそうだったので無水エタノールでの洗浄だけとしました。
後玉の前群ユニットを外し、後群ユニットも含めて4面を清掃するだけで後玉の清掃は完了とします。
後玉も元通りに組み上げ、シャッターに取り付ければレンズの清掃はすべて完了です。
レンズのカビやクモリもすっかりきれいになり、バルサムも修理したので見違えるようなレンズになりました。しかし、バルサムの修理をしているので、写りに問題がないかどうかの試し撮りが必要ですが、その前に、シャッターの動作確認を行います。
このレンズに組み込まれているシャッターの絞りはF5.6~F45、シャッター速度はT・B・1~1/200秒です。いわゆる、大陸系列と呼ばれるシャッター速度になっています。私はこの大陸系列のシャッター速度に慣れていなくて、微妙な露出設定をするときには混乱してしまうことがあります。
それはともかく、絞り羽根の開口度合いもシャッター速度も、感覚的には概ね良好といった感じです。正確に測定したわけではありませんが、シビアな精度を求めるものではないので良しとします。
清掃後のレンズで実際に撮影したのが下の写真です。
2枚とも、近くの公園で撮影したものですが、特に問題もなく写っていると思います。いちばん心配した、レンズを貼り合わせる際の中心軸のずれですが、これも目視する限りでは気になりません。解像度も問題のないレベルだと思います。
また、露出も概ね良好で、顕著な露出オーバーやアンダーにはなっていません。すべての絞りやシャッター速度を試したわけではありませんが、シャッターも正常に動作しているものと思われます。
もう一枚、黄葉した桜の葉っぱをアップで撮ってみました。
葉っぱの縁にある鋸歯もくっきりと写っていて、特に問題になるようなところは見受けられません。
もともと、使う予定のなかったレンズなので、清掃前の状態での撮影はしてありません。そのため、比較はできませんが、清掃前の状態ではこんなに綺麗に写ることがないだろうということは想像に難くありません。全体にフレアがかかったようなボヤっとした感じになるだろうと思われ、それはそれで趣があるといえなくもありませんが、やはりくっきりと写ると気持ちの良いものです。
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今回の分解・清掃でレンズはすっかりきれいになりましたが、欲しくて購入したレンズではないので、この先、このレンズを使う機会はほとんどないだろうと思われます。ですが、鏡胴などにステンレスが多用されていて、持つとずっしりと重いレンズには風格が感じられるのも確かです。
今回はレンズボードが必要だったので、このレンズについていたボードは他で使ってしまいましたが、いつか、あらたにレンズボードが手に入ったらこのレンズにつけてやろうと思います。
なお、今回ご紹介したバルサム修理ですが、素人が我流でやっているので決してお勧めはしません。失敗するとレンズを1本駄目にしてしまいますので、もし、バルサム修理をされる場合はしかるべき専門のところに依頼するのがよろしいかと思います。
(2023.12.4)
半年ほど前(2023年4月)、「いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~」というタイトルのページを書きましたが、その中の一つ、コニカ KONICA C35 Flash matic というコンパクトフィルムカメラを手に入れました。小さくて、とても愛嬌のあるフォルムが気に入っていて、ずっと以前から欲しい欲しいと思っていたカメラでした。
今回、フィルム2本(カラーネガとリバーサル各1本)で試し撮りをしてみましたので、その使い勝手とともにご紹介したいと思います。
このカメラをネットオークションサイトで検索すると、かなりの件数(台数)がヒットします。そのほとんどは5,000円~15,000円くらいの範囲におさまっています。まれに3,000円という安いものや、20,000円を超えるようなお高いものも出品されていますが、やはり安いものはそれなりに理由があるもので、正常に動作するかどうかわからなかったり、かなり傷みがあるものだったりしています。
1ヶ月ほど前、ビールを飲みながらオークションサイトを物色していた際、このカメラが目に留まり、欲しいという欲望が再び頭を持ち上げてきました。レンズを探す目的でオークションサイトを見ていたのですが、それはどこへやら行ってしまい、ひたすら KONICA C35 を探す羽目に。
結局、数ある中から私が選んだのは8,000円という値がついていたものです。当然、通常使用による細かな傷などはあるものの、全体的にはかなり綺麗な状態を保っている感じで、一通りの動作もすると書かれていました。掲載された写真だけではわからないこともたくさんありますが、ある程度の割り切りも必要と思い、アルコールが入っていた勢いもあり、ぽちっとしてしまいました。
他に入札する人もいなかったようで、2時間ほど後に「落札」のメールが届きました。
その翌々日、早くも宅配便で KONICA C35 が届きました。
掲載されていた写真の通り、かなり綺麗な状態の個体です。汚れもほとんど見当たりませんが、念のため、アルコールで清掃をします。
その後、一通りの動作確認を行ないましたが特に問題になるようなところは見当たらず、たぶん問題なく使えるだろうとの感触を得ました。
ネットで検索したところ、当時の取扱説明書が見つかりましたので、そこから主な部分を抜粋したのが下の仕様です。
・レンズ : HEXANON 38mm 1:2.8 3郡4枚
・撮影距離 :約1m~∞
・露出調整 : CdSによる自動露出
・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.46倍
・距離計 : 二重像合致式
・シャッター : B ・ 1/30~1/650
・セルフタイマー : 約10秒
・フィルム感度設定 : ASA25~ASA400
・フラッシュ対応 : GN 7~56
・電池 : 1.3v 水銀電池
・サイズ : 112mm x 70mm x 52mm
・重さ : 380g
電池とフィルムを入れ、フィルム感度を設定した後は、実際に操作するのは距離合わせのピントリングのみという、実にシンプルなカメラです。
フィルム感度も「ISO」ではなく、今となっては懐かしい「ASA」となっているところが何ともレトロさを感じます。
フィルムの巻き上げ角は約132度で、右手の親指がちょうどカメラの右側面に行ったところで止まるので、指に負担なく巻き上げができる感じです。しかも、巻き上げ後のレバーは約30度引き出された位置で停止するので、次の巻き上げがとても楽です。
ピント合わせのヘリコイドの回転角は約48度。少ない回転角でピント合わせができるので、最短距離から無限遠までリングを持ち変える必要がありません。
ファインダー内の二重像合致式は視認性も良く、ピント合わせはし易い方だと思いますが、縦のラインがないと使いにくいです。
ファインダー内には露出を示す目盛りと指針があり、露出オーバーなのか露出アンダーなのかがわかるようになっています。これを見て不思議に思ったのですが、シャッター速度と絞りの値が互いに固定されており、明るさに応じて露出計の針は動くものの、これではシャッター速度と絞り値の組合せが変化しないということです。
どうやらこのカメラは、シャッター速度と絞りの組合せがあらかじめ決まっていて、その範囲だけで露光しているようです。
シャッター速度が変化しているのかどうか気になったので、シャッター速度を計測してみました。
その結果、露出計の受光部分を指で覆った場合、約1/30秒で切れていました。また、受光部分にLEDライトをあてて計測したところ、最速で約1/500秒という値が得られました。1/650秒という高速シャッターは確認できませんでしたが、たぶん、もっと強い光を当てればその速度で切れるのでしょう。ということで、精度はわかりませんが、明るさに応じてシャッター速度が変化しているのは確実なようです。
また、ファインダー内の指標によると、このカメラの露出範囲はF2.8 1/30秒から、概ねF14 1/650秒までと読み取れます。これをEV値にするとEV8(ISO100)~約EV17(ISO100)に相当します。つまり、約9段分の露出範囲を持っていることになります。シャッター速度の変化で約4.5段分を対応し、絞りの変化で残りの約4.5段に対応していることになります。今のカメラのように複雑な露出の組合せをすることなく、極めてシンプルな方法で露出調整を行っているカメラという印象です。
試しに電池を抜いて確認してみました。電池がなくてもシャッターは切れますが、シャッター速度は1/30秒固定のままです。また、絞り羽も開放のまま変化しません。
実際にカラーネガフィルムを装填して撮影した写真を何枚かご紹介します。
使用したフィルムは富士フイルムのフジカラー SUPERIA PREMIUM 400です。
なお、カラーネガフィルムで撮影したものをスキャナで読み取っているので、フィルム上に記録された状態が比較的忠実に再現されていると思います。同時プリントしてもらうとプリントの段階でかなり補正がかかるので、ここで掲載した写真よりもかなり綺麗に仕上がると思います。
まず1枚目は地下鉄丸ノ内線の車両基地の写真です。
この車両基地は道路から見下ろせる場所にあり、道路脇にはフェンスが張られていますが、その網の間にレンズを置いて撮ったものです。
薄曇りの日なので全体に光が回っていて、コントラストはあまり高くない状態です。露出は1段くらいオーバー気味の感じです。
ピントは画の中央部付近にある赤い車両の丸窓の辺りに合わせています。画の下側に写っている有刺鉄線や金網もはっきりとわかる状態ですし、線路に敷かれた砕石の質感も良くわかるので、解像度はまずまずといったところでしょうか。
全体にマゼンタ系に寄っている印象があり、これはカメラというよりはフィルムによるものと思われますが、私はカラーネガフィルムを使うことがほとんどないのでその特性については疎いのではっきりとはわかりません。ですが、カラーネガの場合、この程度のカラーバランスはプリント時にいくらでも調整が効くので、特に問題になるほどではないと思います。
2枚目は近所の公園で撮影した紅葉の写真です。
紅葉したカエデの木の下から、頭上に伸びる枝を逆光になる位置から撮影しています。
光が葉っぱを透過することで紅葉はとても綺麗ですが、これもやはり露出オーバーといった感じです。飽和してしまっているようにも見受けられ、葉っぱの質感も損なわれてしまっています。やはり、このようなシチュエーションでは少し厳しいのかも知れません。
とはいえ、すべてカメラ任せでシャッターを押すだけでここまで撮れるのですから、良しとせねばなりません。
次は、散歩の途中で見つけた河童のオブジェです。
今にも雨が降り出しそうなどんよりとした日だったので、実際にはこの写真よりももっと暗い感じです。そのため、絞りは開放かそれに近い状態だったのではないかと思われ、歩道脇の石垣や奥の方はピントから外れています。
画全体が低コントラストの中で河童の下の石だけがかなり明るい状態で白飛びしてしまっていますが、河童とのコントラストという点では効果的に働いているようにも思えます。
この写真もわずかにマゼンタに寄っている感じを受けます。
さて、4枚目の写真は近所の公園で日向ぼっこしている野良猫です。
太陽に背中を向けて、気持ちよさそうにしています。
周囲は枯葉があったり木の影が落ちていたりして、野良猫の白い毛の部分とのコントラストが大きすぎ、さすがにこのような状態をカメラ任せというのは厳しい感じです。それでも、カラーネガフィルムならではの柔らかさで救われているところもありますが、やはり硬調気味に仕上がっています。
白い毛の部分は飛んでいますが、背中の茶色い毛の部分は毛並もはっきりとわかるくらいに解像しています。さすが、ヘキサノンという感じです。
カラーネガフィルムで撮影した5枚目は居酒屋で撮影した写真です。
店内の鴨居につるされた提灯や、天井から下がっている電球がとても印象的でした。壁に貼ってあるポスターも、レプリカかも知れませんが時代を感じさせるようなものばかりで、思わずシャッター切った一枚です。提灯がたくさんあるといえ、昼間の屋外のように明るい状態ではないので、果たしてうまく写るかどうか気にはなりましたし、全体が暗いので提灯や電球が真っ白に飛んでしまうかとも思いましたが、予想以上に良く写ってくれました。レンズの上側についている小さな露出計ですが、良い働きをしてくれています。
左下のメニューの文字も何となく読めるのは、ISO400のフィルムのお陰でしょう。
せっかくの試し撮りなのでリバーサルフィルムでもということで、冷蔵庫に残っていた富士フイルムのPROVIA 100F で撮影してみました。ちなみに、このフィルムは使用期限を1年ほど過ぎていました。
まず1枚目は、日本民家園で撮影したものです。
さすがリバーサル、といった色合いです。
緑やグレー、茶といった色合いが多いので露出合わせはし易い状況だと思いますが、露出は1段以上オーバーという感じです。マニュアル露出で撮影するときのことを考えると、合掌造りの屋根の質感をもっと出すために1.3段、もしくは1.5段くらいは露出を切り詰めると思います。そうすると、手前のススキももっと落ち着いた色合いになるはずですが、自動露出なのであまり文句は言えません。
解像度も概ね良好で、掲載した画像ではわかりにくいですが、ススキの穂先や合掌造り背後の木の葉先もはっきりとわかるくらいです。
もう一枚は、散歩の途中で通りかかった神社で撮影した写真です。
最短撮影距離に近い位置から撮影しています。ピント位置が適切ではありませんが、この被写体の場合、これくらい露出がオーバーになってもさほど気にならない感じです。実際にはもっと薄暗い感じでしたが、明るめに写ることで良い感じに仕上がったかも知れません。左側からの光に金色に輝く柄杓がやはり飛び気味ですが、かろうじて木の質感も残っています。
かなり近寄って撮影しているので被写界深度も浅くなっており、ボケ具合も大きくはありませんが、クセのない素直なボケ方だと思います。もう少しボケて欲しいと思いますが、38mmという焦点距離を考えるとこんなところでしょうか。
ポイントとなる柄杓の色をもっと落ち着かせたいというのが本音ですが、マニュアル設定できないカメラの限界かも知れません。
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ずっと以前から欲しいと思っていたカメラで、その理由は性能とか写りとかではなく、その可愛らしいフォルムが魅力だったのですが、実際に使ってみて想像以上に素晴らしいカメラだというのが正直な感想です。もちろん、最近の高性能のカメラやレンズと比べるのは酷ですが、50年以上経った今でも十分に使えるカメラです。
今回、カラーネガフィルムとリバーサルフィルムをそれぞれ1本ずつ使ってみましたが、露出は1段、もしくは1.3段くらいオーバーになる傾向のようです。しかしながら、露出条件のかなり厳しい状況でなければ問題なく使えると思いますし、カラーネガフィルムを使うのであればプリントの段階で補正が効くので全く問題のないレベルだと思います。露出計の精度や露出コントロールも優れているという印象です。微妙な露出調整はできませんが、面倒なことは考えず、お手軽に撮影できるカメラとしても十分に使えると思います。
それにしても、見れば見るほど可愛らしいカメラです。撮ることが楽しくなるカメラ、眺めているだけで何だか笑みがこぼれてくるカメラというのはこういうカメラのことかも知れません。
(2023.11.27)
花が圧倒的に多いのは春から夏にかけてであり、秋になると咲く花の種類はぐっと減り、さらに晩秋ともなると園芸品種を除けばとても少なくなってしまいます。しかも、春や夏の花のようにエネルギーに満ち溢れているという感じではなく、どことなくうら寂しさが漂っているように思えてなりません。
とはいえ、種類は少ないながらも晩秋ならではの魅力があるのも事実で、そんな花を探すのも楽しみの一つではあります。
なお、今回掲載の写真はすべてPENTAX67Ⅱで撮影をしています。
菊というと春に咲く桜と同じくらい日本人にはなじみのある花ですが、いわゆる「菊」というのは、その昔、中国から入ってきたものらしく、日本には自生種の菊という植物は存在していないらしいです。皇室の御紋にも使われているので日本古来の花かと思っていましたが、どうもそうではないようです。
キク科の植物には野菊と呼ばれるものがありますが、これらの多くは日本の在来種のようで、我々が「菊」と呼んでいるのものに比べるととても控えめな花です。
外来種と言えども菊はすっかり日本の風景になじんでいて、栽培されている大輪の菊をはじめ、庭先や畑の隅の方で見かけることが多くあります。
下の写真は農作物の収穫がすっかり終わり、さっぱりとした畑の隅の方に咲いていた菊です。
正式な名前はわかりませんが、山形県などで良く食べられている食用菊にも似ています。
そぼ降る雨の中で健気に咲いてはいますが、何度か霜が降りたのか、一部の葉っぱや周囲の草もすっかり茶色くなっていて、哀愁を感じる景色です。キクというと上を向いて咲くイメージがありますが、この写真の花はすっかり俯いてしまっています。
半円形のアーチのように並んでいる形が綺麗だったので、これらの花がいちばんきれいに見えるアングルを探して撮影しました。背景は紅葉している山ですが、キクの花が埋もれてしまわないように大きくぼかしました。
雲が垂れ込めていて雨も降っているので薄暗いような状態でしたが、花を引き立てるために露出はオーバー気味にしています。
そういえば、もともとは白っぽい色をした花弁が霜にあたって紫色に変わっていくキクを「移菊(うつろいぎく)」というらしいですが、もしかしたらこのキクもそうかもしれません。何とも風情のある呼び名です。
秋も深まり、何度か霜が降りると野草の葉も赤く染まっていきます。木々の葉っぱが紅葉するのと同じ現象なのかどうかはわかりませんが、草も霜焼けになるという話しを聞いたことがあります。同じ辺りに生えていても赤く染まる葉っぱと染まらない葉っぱがあるのですが、専門的なことはともかく、一面に赤く染まった光景は何とも言えない美しさがあります。
そんな草むらの中に、かろうじて咲いているノコンギクを見つけました。
ノコンギクは日本にたくさんある野菊の仲間です。秋口になると薄紫の可憐な花を咲かせます。葉っぱはすっかり茶色になってしまっていますが、まだ数輪の花が残っています。しかし、花弁が落ちてしまったのか、ずいぶんを花が縮んでいる感じです。周囲に他の花は見当たらず、エノコログサの穂も茶色に変色しているような中で咲いている姿には心引きつけられるものがあります。
ノコンギクの背丈は40~50cmほど。周囲の草と同じくらいの高さなのでそれらの草と重ならないように、バックに比較的広い空間がある場所で撮りました。
二線ボケが出やすい状況なので接写リングをつけて撮影していますが、やはり二線ボケが少し気になります。もう少し長めのレンズで、離れた位置から撮影したほうが全体にすっきりした描写になったと思いますが、ぼかし過ぎると周囲にあるスーッと伸びた細い葉っぱの印象が薄れてしまうので悩ましいところです。
コスモスもすっかり日本の景色になじんだ外来種の一つですが、近年、キバナコスモスがとても増えてきたように感じています。もともとは園芸品種だったようですが、野生化してしまったものも多いと聞きます。コスモスという名前がついていますが、赤紫やピンク、白色をした一般的なコスモスとは同属ではあるが別種のようです。
また、キバナコスモスは開花している期間がとても長い印象があり、普通のコスモスがすっかり枯れてしまった後でも咲き続けています。公園の花壇や道端などでもよく見かける花の一つです。
近所の公園に行った際、キバナコスモスを撮ったのが下の写真です。
さすがに花の数はずいぶんと少なくなっていますが、わずかに残っている花に蝶がとまったところを撮りました。蝶のことは詳しくないのですが、シジミチョウだと思われます。もう、花に蜜も残っていないのではないかと思うのですが、小春日和の中、数少ない花をめぐって蜜を吸っていました。
135mmのマクロレンズに接写リングをつけての撮影です。キバナコスモスの花芯の辺りに置きピンをして、蝶の頭部がそこに来た時にシャッターを切っています。
逆光に近い状態で撮っているのでキバナコスモスの花弁は硬調な感じになってしまいました。背後にある白っぽい大きな玉ボケのようなものは、公園の遊歩道に設置されたステンレス製の柵の反射です。この玉ボケの中に蝶が入ってくれる瞬間を待ち続けたのですが、時間の経過とともに太陽が動き、玉ボケも移動していってしまうのでなかなか思うようにいきません。
エゾリンドウは日本原産の野草で、山地の湿ったところでよく見掛けることができる秋の花のひとつです。背丈は50cmくらいから、大きいものでは1m近くになるものもあり、大ぶりの花をつけるので見応えがあります。日本の伝統色(和色)に「竜胆色」というのがありますが、色の名前に採用されるほど親しまれてきた花なのかも知れません。
下の写真は長野県で見つけたエゾリンドウです。
群落というほどたくさんは咲いていませんが、ポツポツと点在しているといった感じです。周辺は茶色くなった葉っぱが目立っていますが、エゾリンドウの花はまだしっかりとしており、鮮やかな竜胆色が健在です。
春に咲くハルリンドウやフデリンドウの花はラッパのように開きますが、このエゾリンドウの花は開くことはないらしく、この写真のような状態を開花していると言うようです。
この写真を撮影した日は曇りだったのでコントラストが高くなりすぎず、花の色が綺麗に出ていると思います。秋の花は柔らかめの光が似合っていると思います。
ちなみに、右側に写っている丸い玉のようなものはエゾリンドウではなく、ユウスゲかキスゲの種子ではないかと思われます。愛嬌があったので入れてみました。
北アメリカ原産のセイタカアワダチソウは、切り花としての観賞用に導入されたらしいのですが、今では嫌われ者の代表格のようになっています。関東では9月ごろから咲き始め、あちこちで大群落をつくっています。花が咲いている時期は長く、12月になってもまだまだ咲いています。観賞用ということだけあって咲きはじめの頃は綺麗な黄色をしていますが、徐々に黒っぽく薄汚れたような花色になり、そうなるとお世辞にも綺麗とは言い難い状態になります。
背丈は2mを超えるほど大きくなりますが、それほど大きくならない群落もあって、どういう違いなのかはわかりません。
秋も深まった頃、背丈がさほど大きくない群落があったので撮ってみました。
この写真は、上で紹介した菊を撮った場所に近いところで撮影したものです。霜が降りるほど冷え込む時期であるにもかかわらず花の色は鮮やかで、葉っぱも青々としています。セイタカアワダチソウだけを見ればとても晩秋の景色とは思えません。
根もとのごちゃごちゃした部分を隠すために鮮やかに赤く染まった草を配し、バックに紅葉した山を入れて晩秋の雰囲気を出してみました。また、前景と遠景をぼかし、セイタカアワダチソウだけにピントが来るよう、離れたところから300mmのレンズでの撮影です。
嫌われ者のセイタカアワダチソウですが、このような鮮やかな色合いで、これくらい控えめに咲いているのであれば、観賞用として持ち込まれたのも頷けなくもないといったところでしょうか。
ボタンヅルは8月から9月頃にかけて花が咲きます。名前の通り蔓性の植物で、薄いクリーム色の可愛らしい花をたくさんつけますが、有毒植物で家畜も近寄らないと言われています。杉林などに入ると杉の幹に絡まりついて咲いている光景を目にすることができます。杉の木の茶褐色とのコントラストも綺麗で、写欲をそそられる被写体ではあります。
このボタンヅルは花が終わった後に実をつけるのですが、晩秋になると真っ白な綿毛に覆われて、花とはまた違った美しさがあります。
下の写真はボタンヅルの綿毛を撮ったものです。
ボタンヅルはたくさんの花をつけるので、ここにつけた実が綿毛に包まれるとかなり見応えがあるのですが、この写真では数個の実だけをクローズアップしてみました。被写界深度を浅くするために接写リングをつけ、綿毛以外のところは極力ぼかすようにしています。
画の右端が黒くなっていますが、撮影位置をもう少し左側に移動し、背景を真っ黒にすることで綿毛の白さを引き立てることも出来ます。しかし、そうすると晩秋の雰囲気がなくなってしまうので、秋色の占める比率を多くしてみました。
真っ白な綿毛は逆光で見るとキラキラと輝いてとても綺麗なのですが、少しの風でも揺れてしまうため、撮影は無風かそれに近い状態の時が望ましいです。
正式名称はコバザクラ(小葉桜)というらしいのですが、10月後半から12月頃に咲くのでフユザクラと呼ばれています。しかも、冬だけでなく春、4月頃にも花をつける二季咲きというとても珍しい桜です。ソメイヨシノなどは開花してから1週間ほどで散ってしまいますが、このフユザクラは1ヶ月以上の長い間、咲き続けます。
関東では群馬県藤岡市にある桜山公園が有名で、今の時期に訪れると紅葉とフユザクラのコラボレーションを見ることができます。
この写真も桜山公園で撮影したものです。
桜山公園は小高い山になっていて、そこにおよそ7,000本ものフユザクラがあるそうです。花はとても小ぶりで、ソメイヨシノの半分くらいしかないと思えるような可愛らしい花です。
紅葉とのコラボレーションもちょっとした違和感があって面白いですが、日陰になって暗く落ち込んだ山肌(たぶん、秩父の山並みと思われます)をバックに、真っ白な花だけを逆光で撮ってみました。ちょっと絞り過ぎた感じです。
桜の撮影というと多くの場合は下から見上げるアングルが多くなってしまいますが、この桜山公園は斜面にたくさんの桜の木があるので、上から見下ろすようなアングルや高いところの枝先を目線のアングルで撮ることができます。
この写真は道端で偶然に見つけたもので、たぶん、シオンの仲間、もしくはアスターの仲間、俗にいう宿根アスターではないかと思うのですが定かではありません。自生種なのか園芸種なのかもわかりません。シオンの仲間だとするともとは自生種だった可能性もありますが、シオンの自生種は絶滅危惧種らしいので、やはり園芸種の可能性が大でしょう。いずれにしろ、道祖神のような月待塔のような石塔の脇に植えられていましたので、毎年ここで花を咲かせるのだろうと思います。
葉っぱはだいぶ枯れてきていますが花はまだ元気に咲いています。花の色のせいなのか、葉っぱが茶色いせいなのか、写真では花がカサカサしたように感じられますが、実際にはみずみずしさを保っています。シオンの仲間は花の数が多いので見栄えがしますが、それだけを撮っても面白みに欠けてしまいます。傍らの石塔を入れることで里山のような感じが出せればとの想いで撮ってみました。
実際にはもっと明るい感じだったのですが、明るすぎると晩秋の感じが出ないので露出は若干アンダー気味にしています。
バックは畑ですが人工物などもあったため、大きくぼかして色だけがわかるようにしてみました。もう少しバックが暗くなってくれるとありがたかったのですが。
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晩秋から冬にかけて元気に咲く花というとサザンカ(山茶花)やツバキ(椿)を思い浮かべますが、それらの花とは対極にある寂しさや侘しささえ感じるような花もたくさんあります。その多くは最後の輝きを放っている花かも知れませんが、そういう花たちの持つ美しさというものも確かにあります。この時期は木々の葉っぱも落ちて殺風景な感じになってしまいますが、そんな時期だからこその被写体といえるのかも知れません。
春や初夏のように積極的に花を撮りに行こうという思いになり難いのも事実ですが、晩秋の色合いというのもなかなか味わい深いものだと思います。
(2023.11.20)