今どきの中古カメラ店事情 ~時代とともに変化する中古カメラ店~

#中古カメラ

大判カメラのアオリ(8) ティルトアオリをかけた時のピント合わせ

 大判カメラのアオリの中でも使う頻度が高いと思われるのがティルト、特にフロント(レンズ)部のティルトダウンアオリです。撮影する被写体によってその度合いは異なりますが、風景撮影の際にはパンフォーカスにしたいということから、そこそこの頻度でティルトダウンを使うことがあります。
 また、パンフォーカスとは逆に、一部のみにピントを合わせて他はぼかしたいというような場合も、ティルトアオリを使うことがあります。
 当然、ティルトをかけることによってピント位置が移動するわけで、一度合わせたピントがティルトによってずれてしまいます。そこで、再度ピントを合わせるとティルトの度合いがずれてしまうということになり、これらの操作を何度も繰り返す羽目になるということが起こり得ます。これはかなりのイライラです。

 そこで、ティルトをかけるときに、できるだけスムーズにピント合わせができる方法をご紹介します。

センターティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトはレンズを上下に首振りさせるアオリのことですが、この動きには二通りの振る舞いがあります。
 一つは「センターティルト」と呼ばれるもので、金属製のフィールドカメラに採用されていることが多い方式です。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などがこのタイプに該当し、レンズが上下に首を振る際の回転軸(ティルト中心)、すなわち支点がレンズのシャッター付近にあります。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45をティルトダウンさせた状態のものです。

 Uアーム(レンズスタンダード)の中央あたりにレンズボードを取付けるパネルが回転する軸があり、ここを中心して回転しているのがわかると思います。
 このタイプの特徴は、レンズの光軸は傾きますがレンズの位置はほとんど動かないということです。つまり、被写体とレンズの距離もほとんど変化しないということです。言い換えると、ティルトダウンすることによってピント面は回転移動しますが、いったん合わせたピント位置が大きくずれることはありません。

 このようなアオリの特性を持ったカメラの場合、最初のピント位置をどこに置けば都合がよいかを表したのが下の図です。

 上の図でもわかるように、アオリによってピント位置がずれないので、ピントを合わせたい最も近い(手前)被写体にピントを置いた状態でティルトダウンさせると、ピント合わせを効率的に行なうことができます。
 アオリをかける前のピント面は、手前の花の位置にあるレンズ主平面と平行な面ですが、この状態でティルトダウンすると、ピント位置が保持されたままピント面だけが奥側に回転して、結果的に手前から奥まで、概ね、ピントの合った状態にすることができます。
 このティルトダウンを行なっているとき、カメラのフォーカシングスクリーンを見ていると、手前から奥にかけてスーッとピントが合っていくのがわかります。ほぼ全面にピントが合った状態でティルトダウンを止め、後は微調整を行ないます。

 この方法を用いると、ピント合わせとティルトダウンを何度も繰り返す必要がありません。ほぼ1回の操作でティルトダウンの量を決めることができるので、とてもスピーディにピント合わせを行なうことができます。

 なお、最初に奥の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、同様にピントの位置は移動しませんが、奥に向かってピントが合っていくので手前の方はボケボケの状態になります。

 ちなみに、例えば、藤棚などを棚の下から見上げるアングルでパンフォーカスで撮影したいというような状況を想定すると、この場合、レンズはティルトアップ、つまり上向きにアオリをかけることになりますが、最初にピントを合わせる位置はティルトダウンの時と同様で手前側になります。レンズの光軸が回転する方向はティルトダウンと反対になりますが、レンズ自体はほとんど移動しないのでピント面もほぼ移動しません。したがって、ティルトアップによってピント面を上側に回転させていくことで全面にピントを合わせることができます。

ベースティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトのもう一つのタイプは、「ベースティルト」と呼ばれるもので、ウッド(木製)カメラに採用されていることが多い方式です。私の持っているタチハラフィルスタンドもこの方式を採用しています。

 タチハラフィルスタンドのフロント部をティルトダウンするとこのようになります。

 上の写真で分かるように、ベースティルトの場合はティルトダウンする支点がカメラベースの上あたりになります。レンズよりもだいぶ下の位置に支点があり、ここを軸として前方に回転移動するので、レンズ全体が前方に移動するのが特徴です。そのため、ピント位置も手前に移動します。

 その振る舞いを図示するとこのようになります。

 上の図のように、ベースティルトのカメラをティルトダウンすると、ピント面が最初に合わせた位置から手前に移動するとともに、レンズの回転移動に伴ってピント面も奥に向かって回転していくことになります。これら二つの動きが別々に行なわれるわけではなく、ティルトダウンすることで同時に発生することになります。
 ピント位置が手前に移動するので、最初の段階でピントを合わせたいいちばん奥の被写体にピントを置くことで、ティルトダウンすると奥から手間にかけてピントが合ってきます。

 最初に手前の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、ピント位置はさらに手前に移動することになり、全くピントが合わなくなります。
 同じティルトダウンですが、センターティルトとベースティルトでは、最初にピントを置く位置が正反対になります。

スイング時のピント合わせ

 スイングアオリはレンズが左右に首を振る動作で、ティルトを光軸に対して90度回転させた状態に相当します。したがって、ピント合わせに関してはティルトと同じ考え方を適用することができます。
 ただし、ほとんどのカメラの場合、スイングに関してはセンタースイングが採用されているのではないかと思います。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などの金属製フィールドカメラはもちろんですが、タチハラフィルスタンドなどのウッドカメラもセンタースイングが採用されており、左右のどちらかを支点にしてスイングするようなカメラを私は見たことがありません。

 したがって、スイングアオリをかけたときのピント合わせはセンターティルトと同様に、ピントを合わせたい被写体の手前側に最初にピントを合わせておくと、ピント合わせをスピーディに行なうことができます。

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 ライズやフォール、あるいはシフトといったアオリはレンズが平行移動するだけなのでピント面が移動することもありません。しかし、ティルトやスイングはピント面が動いてしまい、ピント合わせに手間がかかります。経験知によってその人なりのピントの合わせ方というものがあると思いますが、アオリをかけることによるピント面の移動の基本を把握しておくことで、手間のかかる操作を多少なりとも軽減することができると思います。
 手前にピントを合わせたら奥側のピントが外れた、奥側に合わせたら今度は手前側がボケた、などということを繰り返さないためにも、ちょっとしたコツのようなものですが、使えるようにしておけば撮影時のイライラも解消されるかも知れません。

(2024.1.22)

#FielStand #Linhof_MasterTechnika #アオリ #タチハラフィルスタンド #リンホフマスターテヒニカ

ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使ったピンホールカメラの製作

 年末にジャンク箱の中を漁っていたところ、下の方からホースマンの69判のロールフィルムホルダーが出てきました。しかも、大判(4×5判)用ではなく、中判カメラ用のホルダーです。私がこれを取付けられるような中判カメラを持っていたのは20年以上も前のことですから、多分、そのころに手に入れたものだと思うのですが全く記憶にありません。
 外観はそこそこ綺麗で、確認してみたところ、動作にも問題はなさそうでした。しかし、これが使えるカメラがないので、またジャンク箱の中に戻そうと思ったのですが、ふと、これを使ってピンホールカメラを作ってみたくなりました。なぜか、時々ピンホールカメラを作ってみたくなることがあります。
 ということで、69判のピンホールカメラを製作しました。

焦点距離54mm、絞り値 F180の広角系ピンホールカメラ

 以前、大判カメラを使ったピンホール写真を撮ろうと思い立ち、それ用のピンホールレンズを作ったことがありました。興味のある方は下のページをご覧ください。

  「ピンホールカメラ(針穴写真機)をつくる

 ただし、大判カメラを使ったピンホールカメラなので焦点距離などの自由度も大きいのですが機材が大げさになってしまい、気軽にピンホール写真を撮りに行くという感じではなありませんでした。最初のうちこそ結構使っていましたが、徐々にその頻度も減り、最近ではほとんど持ち出すことはなくなってしまいました。
 そんな経緯もあり、今回はもっとお手軽なピンホールカメラをつくることにしました。焦点距離なども固定にし、できるだけ小型軽量にするということを第一に、下の図のような仕様にすることにしました。

 ピンホールレンズは前回作ったものを使うこととし、それ以外は新規に作成します。
 ピンホールカメラなので広角系の方が使い勝手が良いだろうということで、画角は80度前後、35mm判のカメラにすると焦点距離28mmくらいのレンズに相当するカメラとします。
 厳密な焦点距離や画角は必要ありませんが、露出値の換算をする際にやり易いよう、F値は切れの良い数字にする必要があります。前回作ったピンホール径は0.3mmなので、これをベースに焦点距離が50~60mmで切れの良いF値ということで計算した結果、焦点距離54mmの時にF値が180になるので、これを採用することにしました。欲を言えば、F値は128、もしくは256の方が換算しやすいのですが、そうすると焦点距離が短すぎたり長すぎたりしてしまうので、F180で妥協することにしました。

 なお、今回作成するピンホールカメラに使用する部材等はすべて身近にある端材などを流用し、新規に購入せずに行なうこととします。

ピンホールレンズの改造

 まずはピンホールレンズの改造からです。
 前回作ったのは、シャッターNo.1の大判レンズから前玉と後玉を外し、シャッターの前面に自作のピンホールをはめ込むというものでしたが、これだとシャッター位置よりもだいぶ前にピンホールレンズがくることになります。そのため、焦点距離が長くなってしまい、画角を大きくすることができないという欠点がありました。
 そこで、今回はピンホールレンズをシャッター幕のすぐ前に設置することにしました。これを、前玉のレンズを全部外した枠だけを使ってシャッター幕の直前のピンホールレンズを固定するという方法をとります。

 シャッターにピンホールレンズを取付けたのが下の写真です。

 以前のものと比べ、これ単体でも焦点距離を15mmほど短くすることができました。
 また、前玉の枠がフードの役目をしてくれるので、直接ピンホールレンズに太陽光があたるのをある程度防ぐことができ、フレアのようなものが生じるのを軽減することができます。

ピンホールカメラ筐体の製作

 カメラの筐体はアクリル板か木板で作ろうと考えていたのですが、アクリル板だとなんとなく味気がないので、木板を使うことにしました。適当な端材がないか探したところ、厚さ9mmの合板があったのでこれを使用します。
 各部の寸法はホースマンのロールフィルムホルダーに合うようにしなければならないので、必要個所を採寸して筐体のサイズを算出します。

 実際に筐体の図面を引くとこのようになります。

 上の図で分かるように、端材で作った四角な枠の中にロールフィルムホルダーがすっぽりと嵌まり込む構造になります。光線漏れがないよう、内寸は正確にする必要があります。
 また、シャッターを取付けるフロントパネルは厚さ5mmの合板を使用しました。この板の中央に直径48mmの穴をあけ、ここにシャッターを取付けます。

 これを組み上げたのが下の写真です。

 木工用の接着剤で貼り付けているのでそのままでも強度的には問題ありませんが、デザイン性を考慮して真鍮製の釘を打ってみました。

 ピンホールカメラは長時間露光が必要なので、三脚使用が前提となります。そこで、筐体の底面に三脚用の台座を取付けます。
 厚さ9mmの合板を適当な大きさ(ここでは35mmx70mm)にカットし、その中央にメネジを埋め込みます。直径8.5mmの下穴をあけ、そこにねじ込めば完成です。ネジの径の方が若干大きいので、ねじ込むにはかなり力が要りますが、雲台プレートのネジを締め付けるときに動いてしまうと使い物にならないので、固いくらいが丁度良いです。もし、緩いようであれば、メネジの周囲に瞬間接着剤を少し流し込んでおけば心配ありません。

 この三脚台座を筐体の底板に接着します。

 次に、筐体天板の加工を行います。
 後ほど触れますが、今回は簡易型のスピードファインダーのようなものを取付けられるようにするのと、フィルムホルダーを固定するため、天板に若干の加工を施します。

 加工内容は下の図の通りです。

 まず、スピードファインダーを取付けるための磁石を埋め込みます。これは、レンズ側に2個、フィルムホルダー側に1個です。
 今回使用した磁石は、約9mmx14mm、厚さが約2mmのネオジム磁石です。小さいですがとても強力な磁石です。これを天板につけるのですが、天板の表面が平らになるように磁石を埋める穴を掘ります。

 こんな感じです。

 この穴に接着剤を流し込み、磁石をしっかりと固定します。

 さてもう一つ、ロールフィルムホルダーを筐体に固定しなければならないのですが、固定ピンを筐体側から差し込み、フィルムホルダーの溝に嵌合させるという簡単な方法です。
 固定ピンは大型のゼムクリップを利用して自作しました。サイズは適当で構いませんが、ピンの長さはある程度、正確にする必要があります。今回、筐体に使用した端材の板厚が9mmなので、この板を貫通してフィルムホルダーの溝に届かせるには13mmの長さが必要です。短すぎるとフィルムホルダーがしっかり固定できませんし、長すぎると固定ピンが浮いてしまいます。
 この固定ピンは筐体の底板にも取り付けます。

 これで筐体の組み立ては完了ですので、内側に反射防止のため、艶消し黒で塗装をします。
 外側はそのままでも問題はありませんが、少しでも見栄えをよくするため、透明のラッカーを数回塗りました。
 なお、隙間からの光線漏れはないと思いますが、もし心配なようであればモルトを貼っておけば心配ないと思います。

 ちなみに、ロールフィルムホルダーを取り付ける際は、固定ピンを浮かせた状態でフィルムホルダーを筐体にはめ込み、その後、固定ピンを奥まで押し込みます。これで、フィルムホルダーが外れることはありません。

簡易型スピードファインダーの製作

 ピンホールカメラの撮影でいちばん苦労するのがフレーミングです。ピンホールはその名の通りとても小さいので、フォーカシングスクリーンのようなものに投影しても暗くてほとんど像を認識することができません。
 そこで今回は、簡易型のスピードファインダーなるものを取付けることにしました。

 仕組みはいたって簡単です。

 上の図でお分かりいただけると思いますが、フィルム面と同じ大きさのブライトフレームを書き込んだ透明の板を焦点距離と同じだけ離れた位置から見ることで、フィルムに写る範囲を確認するというものです。

 レンズ側に取り付けるのは、フィルム面よりも一回り大きな透明の板です。今回は、厚さ1.8mmの透明のアクリル板を使いました。これをL字型に曲げ、そこにブライトフレームを書き込みます。使用するフィルムのサイズが69判で実寸が56mmx83mmなので、それに合わせて白いペンキで線を引いています。
 もう一つ、フィルム側に取り付けるものも同じように透明のアクリル板をL字型に曲げますが、こちらはずっと小さなもので大丈夫です。

 そして、レンズ側のブライトフレームの中心に小さなマーキングをします。私は、同じように白のペンキを使いましたが、何でも構いません。
 一方、フィルム側に取り付けるファインダーには、レンズ側フレームの中心のマーキングと同じ高さのところに小さな穴をあけます。

 次に、スピードファインダーをカメラの筐体に取り付けるため、L字型に曲げたところに磁石を取付けます。
 これは、両面テープや接着剤などで貼り付けても良いのですが、私はアクリル板に磁石がはまるサイズの穴をあけ、そこに円形の磁石をはめ込み、瞬間接着剤で固定しました。
 ここで重要なのが磁石の向きと固定する位置です。
 まず磁石の向き(極性)ですが、筐体の天板につけた磁石とくっつくようにしなければなりません。これを間違えると磁石の反発力でファインダーがぶっ飛んでしまいます。
 次に磁石を固定する位置ですが、レンズ側のファインダー面が、概ねレンズの位置に来るように磁石を固定すること、フィルム側のファインダー面が、概ねフィルムの位置に来るように磁石を固定することです。つまり、2枚のファインダーの間隔が、焦点距離にほぼ等しくなるようにします。

 こうして出来上がった簡易型スピードファインダーが下の写真です。

 使い方は簡単で、フィルム側のファインダーの小さな穴からレンズ側ファインダーの中心点が重なるように覗きます。その時のブライトフレームの内側がフィルムに写り込む範囲になります。それほど精度の高いものではありませんが、フレーミングをする上ではまずまず使い物になるレベルだと思います。
 後は、これをカメラに取り付けるだけです。強力な磁石を使用しているため、取り付け位置を気にしなくても2枚の磁石がほぼ中心でくっつきます。
 取り外す時もファインダーの上の方を持って、前後どちらかに押せば簡単に外すことができます。使わないときは取り外しておけば、よりコンパクトなカメラになります。

 磁石を固定するための瞬間接着剤の量が多すぎたようで、アクリル板が白くなってしまいました。後日、白いペンキか何かを吹き付けて綺麗にしてやろうと思います。

 実際にカメラに取り付けるとこのようになります。

 フィルムホルダー側(後側)から見た写真がこちらです。

作例...は、まだありません。

 まだ撮影に行っていないので、残念ながら作例はご紹介できません。近いうちに実際に撮影をしてみようと思います。

 このカメラを実際に操作した時の感触ですが、剛性はそこそこ保たれているようで、三脚に固定すれば安定しています。フィルムの巻き上げやシャッターチャージなどの際にもぐらついたりきしんだりすることがありません。ここで使用したシャッターはSEIKO製ですが、シャッターチャージレバーがとても重く、動かすのに力が要るのですが、特に問題なく使用に耐えられます。
 また、ストラップは着けてありませんが、やはりストラップがあった方が扱い易いように思います。適当な金具があれば、筐体の両サイドに取り付けてみたいと思います。

 なお、撮影の際にはフィルムホルダーの引き蓋を外すのを忘れないようにする必要があります。シャッターがついているので、フィルムホルダーの引き蓋は外したままでも問題ないと思いますが、万が一のため、引き蓋は着けておく方が安心です。

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 20年以上も暗いジャンク箱の中で眠っていた69判のロールフィルムホルダーですが、やっと日の当たる場所に出ることができたという感じです。
 また、今回は家にあった端材や部材などを利用して作ったので見てくれはイマイチですが、ちゃんとした材料を使えばもっときれいなカメラに仕上がると思います。

 ピンホールカメラは簡単に作ることができるということも手伝ってか、根強い人気があるようです。世界に1台しかない自分だけのカメラということにも愛着が湧くのかも知れません。銘板なんぞを取付ければ、一層カメラらしくなると思います。

(2024.1.5)

#ピンホール写真 #Horseman

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 シュナイダー Schneider の大判レンズ

 シュナイダー製の大判レンズにはいくつかのテレタイプがラインナップされていますが、このテレアートン Tele-Arton もその一つです。
 私はテレアートンについてあまり詳しくないのですが、シュナイダーの古いカタログを見ると、スタジオ撮影を意識して作られたレンズのように書かれています。つまり、風景などの被写体よりも、ポートレート撮影などに向いているということだと思います。
 テレタイプのレンズはその焦点距離に対してフランジバックが短かいという特徴がありますが、反面、レンズが大きく重くなってしまい、スタジオ撮影ならともかく、フィールドに持ち出すことを考えると携行性には劣ると言わざるを得ません。
 しかしながら、魅力のあるレンズであることも確かです。

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 の主な仕様

 他のレンズと同じように、テレアートンも改良が重ねられてきているのでたくさんのバージョンがありますが、私の持っているレンズは比較的新しいモデルだと思われます。新しいといっても、シリアル番号からすると1973年ごろにつくられたようですので、半世紀も前のレンズということになります。
 この数年後に発売されたテレアートンには「MC(マルチコーティング)」の称号がつけられていますが、私のレンズにはついていないのでシングルコーティングレンズです。前玉をのぞき込むと、シングルコーティングらしいあっさりとした色合いをしています。

 テレアートンに関する情報が少ないなかで、わかる範囲でこのレンズの仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ178mm(f16)
   レンズ構成枚数 : 5群5枚
   最小絞り : 32
   シャッター  : COPAL No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フランジバック : 約158mm (実測値)
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm (実測値)
   後枠外径寸法 : Φ51mm (実測値)
   全長  : 86.7mm (実測値)
   重量  : 512g (実測値)

 なお、フランジバック、寸法、および重量は私のレンズでの実測値です。カタログ値とは異なっているかもしれませんので、ご承知おきください。

 古いタイプのレンズにはレンズ構成が4枚とか6枚というものもあったようですが、後期モデルは5枚構成になっているようです
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ80mm前後のレンズに相当します。中望遠にあたる焦点距離で、まさにポートレート用として多用されているレンズに該当します。
 絞りの目盛りは32までしかありませんが、絞りレバーはさらに絞り込む方向に動かすことができ、F64くらいまで絞られる感じです。
 シャッターはコパルの1番が採用されていますが、後期モデルとは異なり、シャッター速度設定リングがギザギザのついた金属製のタイプです。触った感触や、回転させるとカチッとした動きなど、個人的にはこの方が好きです。
 前玉はシャッターの径と同じくらいあるのですが、長く前方に飛び出しているので絞りやシャッター速度目盛りがとても見易く、また、操作もしやすいです。

 イメージサークルは178mm(F16)と、焦点距離の割にはかなり小さめです。テレタイプではない通常の焦点距離105mmくらいのレンズよりわずかに大きいくらいですから、大きなアオリは使えません。4×5判を横位置で使用する場合、F22まで絞った状態でライズできる量は15㎜程度と思われます。
 フランジバックは約158mm(実測値)なので焦点距離に対してとても短く、一般的なフィールドカメラに装着した場合、よほどの近接撮影でない限り、可動レールがカメラベースからはみ出さすことなく使える長さです。長焦点レンズは繰り出し量が大きく、風などの影響を受けやすいのですが、フランジバックが短いとそのリスクも軽減されます。

 絞り羽根は7枚で、最小絞り(F32)まで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
 また、重量は512g(実測値)もあり、ズシッと重いレンズです。

テレアートン 270mm のボケ具合と解像度

 このレンズがどのような感じにボケるのか、以前に作成したテストチャートを用いてボケ具合を確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.7m離れた位置から撮影をしました。絞りは開放(F5.5)です。
 撮影した画像から、ピントを合わせた位置のテストチャート、後方に25cmの位置にあるテストチャート、および、前方に25cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 1枚目がピントを合わせた位置のもので、概ね、問題のないレベルだと思います。
 2枚目が後方25cmの位置にあるテストチャートで、後ボケ状態のものです。ボケ方自体は比較的柔らかな感じですが、ボケの中心付近に芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの中に元の図形が残っているというのが正しい表現かも知れません。細い線状のものだと、それが残る傾向が強い感じで、被写体の形状によっては気になるボケ方になる可能性があります。
 そして、3枚目が前方25cmの位置にあるテストチャートです。いわゆる前ボケですが、後ボケに比べるとすっきりとした感じのするボケ方です。ボケがいずれかの方向に偏ることもなく、概ね、均等なボケ方をしていると思います。多くの場合、前ボケは大きくなる傾向にあるので多少クセがあっても気にならないことが多いですが、柔らかくふわっとしたボケである方が望ましいのは言うまでもありません。

 前ボケの大きさ(ボケ径)の理論値を下の近似式で計算してみます。

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 この式に、

  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 270mm
  a : 主被写体までの距離 =2,700mm
  b : 点光源までの距離 = 2,450mm
  F : 絞り値 = 5.5

 をあてはめると、ピント位置から前方25㎝の位置にある点光源が約5mmの大きさになります。上の写真でも感触はわかると思いますが、そこそこ大きなボケが期待できると思います。

 また、参考までにISO-12233規格の解像度チャート(A4サイズ)も撮影してみました。

 掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでほぼ問題ないレベルだと思います。
 また、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測したところ、結果は2,163本という値が得られました。テストチャートを印刷したプリンタの性能が追いついていないので、A3サイズに印刷したテストチャートを用いればもう少し良好な結果が得られるかも知れません。

テレアートン 270mm の作例

 焦点距離270mmというレンズは4×5判で使用した場合、対角画角はおよそ32度なので、広い範囲を写し込むには被写体との距離をかなり大きくとる必要があります。ですので、広い範囲を写すというよりは、その中からある範囲を切り取るという写し方に向いています。

 まず1枚目は、きれいに色づいたカエデの紅葉を撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F11 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、オレンジ色から赤色へのグラデーションがとても綺麗です。
 薄曇りなので直接の日差しはありませんが、太陽の位置は後方になるので順光に近い状態です。上部の葉っぱの一部が反射で白く輝いているのがわかると思います。日差しが強いときは順光で撮影すると葉っぱの色が綺麗に出ませんが、柔らかな光だと順光状態でもきれいな色が出ます。

 背後には、かなり落葉してしまってますが茶色く色づいた枝を配しました。主要被写体のカエデから背後の木までの距離は2~3mほどでしょうか。カエデの葉っぱはなるべくぼかしたくなかったのでF11まで絞り込んでいます。背後の木がはっきりとし過ぎており、ちょっと絞り込み過ぎた感じです。カエデの葉の色が鮮やかなので背景に埋もれすぎることはありませんが、もう少しボケた方がよりカエデの葉が引き立ったと思います。
 ボケはクセがなく、素直な感じだと思います。

 画角は大きくないので、バックに余計なものが入り込まないのも270mmという焦点距離ならではという感じです。背景の選び方によってはかなり簡素化できるのも、このクラスのレンズの特徴の一つです。被写体の形が変わってしまうこともなく、また、被写界深度が浅すぎることもないので、不自然さもなく写すことができます。
 葉っぱの先端も綺麗に表現されているので解像力も問題ないと思います。

 2枚目は紅葉をバックに、まだ青々とした葉を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 紅葉はもちろん綺麗ですが、紅葉前の緑とのコントラストも美しいものです。季節の移り変わりを感じることのできる光景の一つかも知れません。
 写真を見ていただいてわかる通り、これを撮影した日は快晴で強い日差しが差し込んでいる状態です。逆光位置で紅葉を見るととても鮮やかに見えるものですが、コントラストが高くなりすぎてしまうのも事実です。

 そこで、カエデの木の近くにあった、まだ黄葉していない木の下に入り込んで撮影しました。上から下がっている一枝の葉っぱ全体にピントが合う位置を探し、その位置から紅葉を背景にしています。太陽はほぼ上部正面方向にあり、この葉っぱは透過光で見ている状態です。葉脈も綺麗に見えています。
 この枝までの距離は3mほど。もう少し近づいて背景の紅葉を大きくぼかしたかったのですが、ある程度の範囲を入れるのと、背景のボケ具合との妥協点がこの位置という結果になりました。
 背景も結構明るいので、その明るさに負けないように、そして、緑が濁らないようにということで露出は若干オーバー目にしています。そのため、葉っぱの色が本来の色より黄色っぽくなっています。

 シングルコーティングのレンズですが、この程度の逆光条件で、レンズに直接光があたっていなければフレアなども感じられず、ほとんど問題のないレベルで写ります。光の反射している箇所にはごくわずかの滲みも見られますが、ほとんど気にならないレベルです。

 さて、3枚目は紅葉したカエデの葉っぱをアップで撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/8 PROVIA100F

 近所の公園に比較的大きなカエデの木が何本もあり、そこで撮影したものです。
 木の下から見上げるようなポジションで撮っています。午前中の早い時間帯だったので太陽高度が低く、バックは日陰になっている状態なのでほぼ真っ黒に落ち込んでいます。数枚の葉っぱに木漏れ日があたったタイミングを見計らってシャッターを切っています。光があたっている葉っぱだけにすると画全体が散漫な感じになってしまうので、少し多めに入れています。

 主被写体である葉っぱまでの距離は2mほどだったと思います。マクロ撮影ほど近接はしていませんが、それでも、そこそこの大きさで撮影することができます。絞り開放で撮っているので、ピントが合っているのは葉っぱ1枚だけです。左上に行くに従いピントから外れていきますが、なだらかなボケ具合は好感が持てます。
 太陽は逆光の位置にあるのですが、このカエデの葉っぱにとってはトップライトに近い感じであり、そのため、立体感が損なわれてしまった感じの描写です。
 また、このような写真の場合、F5.5というのは若干物足りなく感じてしまいます。もう1段、絞りを開くことができれば、もっと柔らかくてだいぶ印象の違う描写になるだろうと思われます。

 前ボケの具合がわかる写真をと思って探したのですがなかなか適当なものがなく、ようやく春に写した桜の写真を見つけたので、最後にご紹介します。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 菜の花越しにしだれ桜を撮影したもので、個人的にはあまり気に入っていない写真なのですが、比較的、前ボケの出方がわかりやすいかと思います。
 しだれ桜までの距離は5~6mほどで、一番手前の菜の花までは1mもなかったと思います。桜のピンクに対して菜の花の黄色が強すぎるので桜の印象が薄れてしまった感じですが、菜の花のふわっと広がるようなボケ方は嫌味な感じがしません。レンズによっては前ボケがこってりと出過ぎるものもありますが、このレンズのボケは割と控えめといった印象です。色とか量に気をつければ効果的な前ボケを得ることのできるレンズだと思います。

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 私はテレタイプのレンズを数本持っていますが、実はその出番は決して多くありません。例えば、今回のテレアートン270mmに関しても、これを持ち出さずに250mmや300mmのテレタイプ以外のレンズを持ち出すことの方が圧倒的に多いです。レンズが大きくて重いというのと、イメージサークルが小さいというのが理由ですが、写りに不満があるわけではありません。むしろ、花の写真を撮ったりするときなどは、扱いやすいレンズだと思っています。

 また、50年も前のレンズですから、新しいレンズと比べると性能的にも劣るのでしょうが、厳しい条件での撮影でもない限り、十分な写りをするレンズだと思います。ボケ方も変なクセがなく好感が持て、ポートレート用ということを意識して作られたレンズというのもうなずけます。
 広い風景をダイナミックに撮るというのには向いていないかも知れませんが、重さを差し引けば風景撮影にも持っていきたい1本ではあります。

(2023.12.21)

#Schneider #シュナイダー #テストチャート #ボケ #レンズ描写

富士フイルムのリバーサルフィルム フジクロームの系譜に思うこと ~回顧~

#PROVIA #Velvia #プロビア #ベルビア #リバーサルフィルム #富士フイルム

大判レンズ シュナイダー Schneider ジンマー Symmar 210mm 分解・清掃とバルサム修理

 ひと月ほど前、リンホフ規格の大判レンズ用のレンズボードが必要になり、ジャンク箱をあさってみたのですが使い切ってしまったらしく、残念ながら見つかりませんでした。中古カメラ店やネットオークションサイトなどを探してみたところ、あることはあるのですが4,000円とか5,000円という価格設定で、そこまで高額のものを購入する気にはなれません。
 つらつらとネットオークションサイトを眺めていると、時たま、1円という価格でボード付きの大判レンズが出品されていることに気がつきました。動作不良や汚れや傷みのひどいレンズがジャンク品として出品されていることが多いようですが、さすがに1円で落札させてはくれないだろうと思いながらも、送料込みで2,000円くらいまでなら許容範囲ということで、時々チェックしていました。

前玉の清掃

 1週間ほどウォッチをしていたところ、「動作未確認、レンズにカビ、クモリ、汚れあり」と説明書きのあるシュナイダーのジンマー Symmar 210mm 1:5.6 という大判レンズが1円で出品されていて、幸運にもこのレンズをを1,000円ほどで落札することができました。送料込みでも1,800円ほどです。カビやクモリがあろうが動作しなかろうが、レンズが欲しいわけではないので全く問題ありません。リンホフ規格のレンズボードさえ手に入れば目的達成です。

 数日後、落札した商品が宅配便で届きました。そのレンズがこちらです。

 リンホフがシュナイダーに委託したレンズのようで、シャッター部には大きな文字で「LINHOF」と刻印されています。確かにレンズは汚い状態です。カビとクモリもしっかりとついています。シュナイダー純正の前後のレンズキャップもついていますが、必要なのはレンズボードなので、ボードからレンズを外し、レンズはジャンク箱行きです。

 それから2週間ほど経ったある日、ジャンク箱をあさっていたところ先日のジンマー210mmがふと目に留まりました。せっかく我が家に来たレンズだからきれいにしてみようかと思い立ち、分解・清掃することにしました。
 レンズをよく見てみると、カビとクモリに加えて、バルサムもいってしまっている感じです。

 掲載した写真ではわかり難いですが、前玉の中の方に直径3~4mmの気泡のようなものがいくつか見えます(赤い矢印の先)。前玉を外し、前群のレンズユニットを取り出してみると、レンズのコバのところがべとべとしています。バルサムが流れ出てしまっているようです。

 バルサムは後回しにして、とりあえず前玉のカビとクモリの除去から始めます。

 カビは前群ユニットに、クモリは前群ユニットと後群ユニットの両方についています。カビはそれほどひどくありませんがクモリがひどくて、この状態ではフォギーフィルターを着けて撮影したような描写になってしまうのではないかと思うほどです。
 しばらく無水エタノールに浸した後、丹念に拭いていくとカビもクモリもすっかりなくなり、きれいなレンズになりました。カビもレンズの中まで侵食していなかったらしく、カビ跡も全く分かりません。

前玉のバルサム修理

 次に、前玉の前群ユニットのバルサム修理ですが、まずは接着されている2枚のレンズを剝がさなければなりません。バルサムが流れ出ているので、指で押せば動くかと思いましたがびくともしません。
 ということで、煮沸して剥がすことにしました。

 小さな鍋に水を入れ、この中でレンズを煮沸するのですが、鍋の中でレンズが踊って傷がつかないように、レンズよりも二回りほど大きな皿にラップを巻いて、その上にレンズを載せて鍋に投入します。
 弱火でコトコトと5分ほど煮ると、レンズのコバに塗ってあった墨が剥がれてきたので、バルサムも柔らかくなっているだろうと思い、鍋からレンズを取り出して指で押してみます。ねっとり感が残ってはいるものの、わずかにレンズがずれました。
 再度、鍋に入れてコトコト煮ては取り出し指で押す、ということを4~5回繰り返して、ようやく貼りついていた2枚のレンズを剥がすことができました。

 剥がれた状態が下の写真です。

 気泡のようなものがびっしりとついているのはバルサムです。
 これを無水エタノールでふき取っていきます。

 そして、きれいになったレンズがこれです。

 レンズのコバのざらついたところに若干の墨が残っていて黒っぽくなていますが、カビもクモリもないクリアな状態になりました。

 さて、前玉の前群ユニットのレンズがきれいになったところで、これを再度、貼り合わせなければなりません。
 ここで最も気を遣うのが、2枚のレンズの中心がずれないように貼り合わせるということです。専用の機器や治具などがあるわけではないので、身の回りにあるものを使って簡易的な治具を作ります。

 用意するのは円筒形のボトルキャップを3個とステンレス板、そして接着剤です。ステンレス板の代わりにアルミ板やアクリル板など、表面が平らでしっかりした板状のものであれば問題ありません。
 ステンレス板の上に前群ユニットの下側の凹レンズを置き、これを3方からボトルキャップで挟み込みます。レンズとの間に隙間ができないようにしっかりと挟み、ボトルキャップを接着剤でステンレス板に接着します。多少、力を加えても動かないくらいに強く接着しておく必要があります。ボトルキャップは概ね、120度間隔で配置するのですが、それほど正確である必要はありません。3方から挟めば確実にレンズを押さえることができます。

 次に、このレンズの上にバルサムを1~2滴、垂らします。バルサムの量が多くても流れ出てしまうだけなので、ごく少量で問題ありません。
 そして、もう1枚のレンズをこの上に乗せて、下のレンズに押しつけます。バルサムが全面に広がって、中に空気が残らないようにしっかりと押さえます。

 ボトルキャップが治具の役割を果たすので、2枚のレンズの中心が一致するはずなのですが、レンズを重ねた状態で天井にある蛍光灯などの照明を写し込んだ際、それが縞状になっていたり滲んだような状態になっていたりすると、レンズの中心がうまく一致していない可能性が大です。その場合、上側のレンズをゆっくりと左右に回すと縞模様や滲みが消える場所がありますので、その位置で固定します。
 この状態で、マスキングテープなどを用いてレンズをステンレス板に固定します。レンズに糊が付着しないようにレンズの上にシルボン紙などを置き、その上からマスキングテープで抑えるのがお勧めです。
 あとは結果次第、試し撮りで確認ということになります。

 バルサムを固着させるために熱をかけるのですが、私はドライヤーで熱風を20分ほどかけました。あまり高温にしなくても固着するので、できるだけ熱が均等になるよう、満遍なく風を送ります。

 ちなみに、今回、レンズの接着に使用したのはキシロールバルサムです。カナダバルサムをキシレンで希釈したもので、私は顕微鏡用のプレパラートをつくるために使っているものです。カナダバルサムよりも粘度が低く、サラサラしているので使いやすいです。
 最近はバルサムを使わずに合成接着剤を使うことがほとんどのようですし、UVレジンを使うという方もいらっしゃるようですが、UVレジンは硬化するとやり直しがきかないのでリスクがあります。バルサムだと、万が一、失敗してもやり直しがきくので安心です。

 バルサムが完全に固まるまで1日ほど放置しておきました。
 バルサム貼りが完了した前玉前群ユニットがこちらです。

 このままでも使えないことはありませんが、コバに墨入れをします。
 私はレンズの鏡胴内などの反射防止に JET BLACK のアクリル絵の具を使っています。これは本当に「真黒」で、しかも、つやが全くないので理想的ですが、ごく薄く塗るのが難しく、今回のようなレンズのコバにはあまり向いていません。コバに塗った塗装に厚みが出てしまうとレンズが嵌まらなくなってしまう可能性があります。1㎜の数十分の一という塗装の厚みでもレンズが嵌まらなくなることがあるので、ほとんど塗り厚を気にしなくてよいということで、今回使用したのは墨汁です。二度塗りしても塗り厚が気になることはありません。

 コバに墨入れをしたのが下の写真です。

 これで前玉の分解・清掃は完了です。あとは元通りに組み上げるだけです。

後玉の清掃

 後玉は前玉に比べるとかなりきれいな状態を保っており、バルサム切れのような状態も確認できませんでした。クモリはかなりありましたがカビは見当たらず、バルサムの問題もなさそうだったので無水エタノールでの洗浄だけとしました。
 後玉の前群ユニットを外し、後群ユニットも含めて4面を清掃するだけで後玉の清掃は完了とします。

 後玉も元通りに組み上げ、シャッターに取り付ければレンズの清掃はすべて完了です。

清掃後のレンズで試し撮り

 レンズのカビやクモリもすっかりきれいになり、バルサムも修理したので見違えるようなレンズになりました。しかし、バルサムの修理をしているので、写りに問題がないかどうかの試し撮りが必要ですが、その前に、シャッターの動作確認を行います。
 このレンズに組み込まれているシャッターの絞りはF5.6~F45、シャッター速度はT・B・1~1/200秒です。いわゆる、大陸系列と呼ばれるシャッター速度になっています。私はこの大陸系列のシャッター速度に慣れていなくて、微妙な露出設定をするときには混乱してしまうことがあります。
 それはともかく、絞り羽根の開口度合いもシャッター速度も、感覚的には概ね良好といった感じです。正確に測定したわけではありませんが、シビアな精度を求めるものではないので良しとします。

 清掃後のレンズで実際に撮影したのが下の写真です。

 2枚とも、近くの公園で撮影したものですが、特に問題もなく写っていると思います。いちばん心配した、レンズを貼り合わせる際の中心軸のずれですが、これも目視する限りでは気になりません。解像度も問題のないレベルだと思います。
 また、露出も概ね良好で、顕著な露出オーバーやアンダーにはなっていません。すべての絞りやシャッター速度を試したわけではありませんが、シャッターも正常に動作しているものと思われます。

 もう一枚、黄葉した桜の葉っぱをアップで撮ってみました。

 葉っぱの縁にある鋸歯もくっきりと写っていて、特に問題になるようなところは見受けられません。

 もともと、使う予定のなかったレンズなので、清掃前の状態での撮影はしてありません。そのため、比較はできませんが、清掃前の状態ではこんなに綺麗に写ることがないだろうということは想像に難くありません。全体にフレアがかかったようなボヤっとした感じになるだろうと思われ、それはそれで趣があるといえなくもありませんが、やはりくっきりと写ると気持ちの良いものです。

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 今回の分解・清掃でレンズはすっかりきれいになりましたが、欲しくて購入したレンズではないので、この先、このレンズを使う機会はほとんどないだろうと思われます。ですが、鏡胴などにステンレスが多用されていて、持つとずっしりと重いレンズには風格が感じられるのも確かです。
 今回はレンズボードが必要だったので、このレンズについていたボードは他で使ってしまいましたが、いつか、あらたにレンズボードが手に入ったらこのレンズにつけてやろうと思います。

 なお、今回ご紹介したバルサム修理ですが、素人が我流でやっているので決してお勧めはしません。失敗するとレンズを1本駄目にしてしまいますので、もし、バルサム修理をされる場合はしかるべき専門のところに依頼するのがよろしいかと思います。

(2023.12.4)

#Schneider #シュナイダー #Symmar

ずっと欲しかったコンパクトフィルムカメラ コニカ KONICA C35 Flash matic をゲット

 半年ほど前(2023年4月)、「いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~」というタイトルのページを書きましたが、その中の一つ、コニカ KONICA C35 Flash matic というコンパクトフィルムカメラを手に入れました。小さくて、とても愛嬌のあるフォルムが気に入っていて、ずっと以前から欲しい欲しいと思っていたカメラでした。
 今回、フィルム2本(カラーネガとリバーサル各1本)で試し撮りをしてみましたので、その使い勝手とともにご紹介したいと思います。

大手ネットオークションサイトで購入

 このカメラをネットオークションサイトで検索すると、かなりの件数(台数)がヒットします。そのほとんどは5,000円~15,000円くらいの範囲におさまっています。まれに3,000円という安いものや、20,000円を超えるようなお高いものも出品されていますが、やはり安いものはそれなりに理由があるもので、正常に動作するかどうかわからなかったり、かなり傷みがあるものだったりしています。

 1ヶ月ほど前、ビールを飲みながらオークションサイトを物色していた際、このカメラが目に留まり、欲しいという欲望が再び頭を持ち上げてきました。レンズを探す目的でオークションサイトを見ていたのですが、それはどこへやら行ってしまい、ひたすら KONICA C35 を探す羽目に。
 結局、数ある中から私が選んだのは8,000円という値がついていたものです。当然、通常使用による細かな傷などはあるものの、全体的にはかなり綺麗な状態を保っている感じで、一通りの動作もすると書かれていました。掲載された写真だけではわからないこともたくさんありますが、ある程度の割り切りも必要と思い、アルコールが入っていた勢いもあり、ぽちっとしてしまいました。
 他に入札する人もいなかったようで、2時間ほど後に「落札」のメールが届きました。

 その翌々日、早くも宅配便で KONICA C35 が届きました。
 掲載されていた写真の通り、かなり綺麗な状態の個体です。汚れもほとんど見当たりませんが、念のため、アルコールで清掃をします。
 その後、一通りの動作確認を行ないましたが特に問題になるようなところは見当たらず、たぶん問題なく使えるだろうとの感触を得ました。

こんな仕様で、こんな使い勝手のカメラ

 ネットで検索したところ、当時の取扱説明書が見つかりましたので、そこから主な部分を抜粋したのが下の仕様です。

  ・レンズ : HEXANON 38mm 1:2.8 3郡4枚
  ・撮影距離 :約1m~∞
  ・露出調整 : CdSによる自動露出
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.46倍
  ・距離計 : 二重像合致式
  ・シャッター : B ・ 1/30~1/650
  ・セルフタイマー : 約10秒
  ・フィルム感度設定 : ASA25~ASA400 
  ・フラッシュ対応 : GN 7~56
  ・電池 : 1.3v 水銀電池
  ・サイズ : 112mm x 70mm x 52mm
  ・重さ : 380g

 電池とフィルムを入れ、フィルム感度を設定した後は、実際に操作するのは距離合わせのピントリングのみという、実にシンプルなカメラです。
 フィルム感度も「ISO」ではなく、今となっては懐かしい「ASA」となっているところが何ともレトロさを感じます。

 フィルムの巻き上げ角は約132度で、右手の親指がちょうどカメラの右側面に行ったところで止まるので、指に負担なく巻き上げができる感じです。しかも、巻き上げ後のレバーは約30度引き出された位置で停止するので、次の巻き上げがとても楽です。
 ピント合わせのヘリコイドの回転角は約48度。少ない回転角でピント合わせができるので、最短距離から無限遠までリングを持ち変える必要がありません。
 ファインダー内の二重像合致式は視認性も良く、ピント合わせはし易い方だと思いますが、縦のラインがないと使いにくいです。

 ファインダー内には露出を示す目盛りと指針があり、露出オーバーなのか露出アンダーなのかがわかるようになっています。これを見て不思議に思ったのですが、シャッター速度と絞りの値が互いに固定されており、明るさに応じて露出計の針は動くものの、これではシャッター速度と絞り値の組合せが変化しないということです。
 どうやらこのカメラは、シャッター速度と絞りの組合せがあらかじめ決まっていて、その範囲だけで露光しているようです。
 シャッター速度が変化しているのかどうか気になったので、シャッター速度を計測してみました。
 その結果、露出計の受光部分を指で覆った場合、約1/30秒で切れていました。また、受光部分にLEDライトをあてて計測したところ、最速で約1/500秒という値が得られました。1/650秒という高速シャッターは確認できませんでしたが、たぶん、もっと強い光を当てればその速度で切れるのでしょう。ということで、精度はわかりませんが、明るさに応じてシャッター速度が変化しているのは確実なようです。

 また、ファインダー内の指標によると、このカメラの露出範囲はF2.8 1/30秒から、概ねF14 1/650秒までと読み取れます。これをEV値にするとEV8(ISO100)~約EV17(ISO100)に相当します。つまり、約9段分の露出範囲を持っていることになります。シャッター速度の変化で約4.5段分を対応し、絞りの変化で残りの約4.5段に対応していることになります。今のカメラのように複雑な露出の組合せをすることなく、極めてシンプルな方法で露出調整を行っているカメラという印象です。

 試しに電池を抜いて確認してみました。電池がなくてもシャッターは切れますが、シャッター速度は1/30秒固定のままです。また、絞り羽も開放のまま変化しません。

カラーネガフィルムでの撮影例

 実際にカラーネガフィルムを装填して撮影した写真を何枚かご紹介します。
 使用したフィルムは富士フイルムのフジカラー SUPERIA PREMIUM 400です。
 なお、カラーネガフィルムで撮影したものをスキャナで読み取っているので、フィルム上に記録された状態が比較的忠実に再現されていると思います。同時プリントしてもらうとプリントの段階でかなり補正がかかるので、ここで掲載した写真よりもかなり綺麗に仕上がると思います。 

 まず1枚目は地下鉄丸ノ内線の車両基地の写真です。

 この車両基地は道路から見下ろせる場所にあり、道路脇にはフェンスが張られていますが、その網の間にレンズを置いて撮ったものです。
 薄曇りの日なので全体に光が回っていて、コントラストはあまり高くない状態です。露出は1段くらいオーバー気味の感じです。
 ピントは画の中央部付近にある赤い車両の丸窓の辺りに合わせています。画の下側に写っている有刺鉄線や金網もはっきりとわかる状態ですし、線路に敷かれた砕石の質感も良くわかるので、解像度はまずまずといったところでしょうか。
 全体にマゼンタ系に寄っている印象があり、これはカメラというよりはフィルムによるものと思われますが、私はカラーネガフィルムを使うことがほとんどないのでその特性については疎いのではっきりとはわかりません。ですが、カラーネガの場合、この程度のカラーバランスはプリント時にいくらでも調整が効くので、特に問題になるほどではないと思います。

 2枚目は近所の公園で撮影した紅葉の写真です。

 紅葉したカエデの木の下から、頭上に伸びる枝を逆光になる位置から撮影しています。
 光が葉っぱを透過することで紅葉はとても綺麗ですが、これもやはり露出オーバーといった感じです。飽和してしまっているようにも見受けられ、葉っぱの質感も損なわれてしまっています。やはり、このようなシチュエーションでは少し厳しいのかも知れません。
 とはいえ、すべてカメラ任せでシャッターを押すだけでここまで撮れるのですから、良しとせねばなりません。

 次は、散歩の途中で見つけた河童のオブジェです。

 今にも雨が降り出しそうなどんよりとした日だったので、実際にはこの写真よりももっと暗い感じです。そのため、絞りは開放かそれに近い状態だったのではないかと思われ、歩道脇の石垣や奥の方はピントから外れています。
 画全体が低コントラストの中で河童の下の石だけがかなり明るい状態で白飛びしてしまっていますが、河童とのコントラストという点では効果的に働いているようにも思えます。
 この写真もわずかにマゼンタに寄っている感じを受けます。

 さて、4枚目の写真は近所の公園で日向ぼっこしている野良猫です。

 太陽に背中を向けて、気持ちよさそうにしています。
 周囲は枯葉があったり木の影が落ちていたりして、野良猫の白い毛の部分とのコントラストが大きすぎ、さすがにこのような状態をカメラ任せというのは厳しい感じです。それでも、カラーネガフィルムならではの柔らかさで救われているところもありますが、やはり硬調気味に仕上がっています。
 白い毛の部分は飛んでいますが、背中の茶色い毛の部分は毛並もはっきりとわかるくらいに解像しています。さすが、ヘキサノンという感じです。

 カラーネガフィルムで撮影した5枚目は居酒屋で撮影した写真です。

 店内の鴨居につるされた提灯や、天井から下がっている電球がとても印象的でした。壁に貼ってあるポスターも、レプリカかも知れませんが時代を感じさせるようなものばかりで、思わずシャッター切った一枚です。提灯がたくさんあるといえ、昼間の屋外のように明るい状態ではないので、果たしてうまく写るかどうか気にはなりましたし、全体が暗いので提灯や電球が真っ白に飛んでしまうかとも思いましたが、予想以上に良く写ってくれました。レンズの上側についている小さな露出計ですが、良い働きをしてくれています。
 左下のメニューの文字も何となく読めるのは、ISO400のフィルムのお陰でしょう。

カラーリバーサルフィルムでの撮影例

 せっかくの試し撮りなのでリバーサルフィルムでもということで、冷蔵庫に残っていた富士フイルムのPROVIA 100F で撮影してみました。ちなみに、このフィルムは使用期限を1年ほど過ぎていました。

 まず1枚目は、日本民家園で撮影したものです。

 さすがリバーサル、といった色合いです。
 緑やグレー、茶といった色合いが多いので露出合わせはし易い状況だと思いますが、露出は1段以上オーバーという感じです。マニュアル露出で撮影するときのことを考えると、合掌造りの屋根の質感をもっと出すために1.3段、もしくは1.5段くらいは露出を切り詰めると思います。そうすると、手前のススキももっと落ち着いた色合いになるはずですが、自動露出なのであまり文句は言えません。
 解像度も概ね良好で、掲載した画像ではわかりにくいですが、ススキの穂先や合掌造り背後の木の葉先もはっきりとわかるくらいです。

 もう一枚は、散歩の途中で通りかかった神社で撮影した写真です。

 最短撮影距離に近い位置から撮影しています。ピント位置が適切ではありませんが、この被写体の場合、これくらい露出がオーバーになってもさほど気にならない感じです。実際にはもっと薄暗い感じでしたが、明るめに写ることで良い感じに仕上がったかも知れません。左側からの光に金色に輝く柄杓がやはり飛び気味ですが、かろうじて木の質感も残っています。
 かなり近寄って撮影しているので被写界深度も浅くなっており、ボケ具合も大きくはありませんが、クセのない素直なボケ方だと思います。もう少しボケて欲しいと思いますが、38mmという焦点距離を考えるとこんなところでしょうか。
 ポイントとなる柄杓の色をもっと落ち着かせたいというのが本音ですが、マニュアル設定できないカメラの限界かも知れません。

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 ずっと以前から欲しいと思っていたカメラで、その理由は性能とか写りとかではなく、その可愛らしいフォルムが魅力だったのですが、実際に使ってみて想像以上に素晴らしいカメラだというのが正直な感想です。もちろん、最近の高性能のカメラやレンズと比べるのは酷ですが、50年以上経った今でも十分に使えるカメラです。

 今回、カラーネガフィルムとリバーサルフィルムをそれぞれ1本ずつ使ってみましたが、露出は1段、もしくは1.3段くらいオーバーになる傾向のようです。しかしながら、露出条件のかなり厳しい状況でなければ問題なく使えると思いますし、カラーネガフィルムを使うのであればプリントの段階で補正が効くので全く問題のないレベルだと思います。露出計の精度や露出コントロールも優れているという印象です。微妙な露出調整はできませんが、面倒なことは考えず、お手軽に撮影できるカメラとしても十分に使えると思います。

 それにしても、見れば見るほど可愛らしいカメラです。撮ることが楽しくなるカメラ、眺めているだけで何だか笑みがこぼれてくるカメラというのはこういうカメラのことかも知れません。

 (2023.11.27)

#KONICA_C35 #コニカ #カラーネガフィルム #リバーサルフィルム

花を撮る(7) 晩秋に咲く花を撮る

 花が圧倒的に多いのは春から夏にかけてであり、秋になると咲く花の種類はぐっと減り、さらに晩秋ともなると園芸品種を除けばとても少なくなってしまいます。しかも、春や夏の花のようにエネルギーに満ち溢れているという感じではなく、どことなくうら寂しさが漂っているように思えてなりません。
 とはいえ、種類は少ないながらも晩秋ならではの魅力があるのも事実で、そんな花を探すのも楽しみの一つではあります。
 なお、今回掲載の写真はすべてPENTAX67Ⅱで撮影をしています。

キク(菊)

 菊というと春に咲く桜と同じくらい日本人にはなじみのある花ですが、いわゆる「菊」というのは、その昔、中国から入ってきたものらしく、日本には自生種の菊という植物は存在していないらしいです。皇室の御紋にも使われているので日本古来の花かと思っていましたが、どうもそうではないようです。
 キク科の植物には野菊と呼ばれるものがありますが、これらの多くは日本の在来種のようで、我々が「菊」と呼んでいるのものに比べるととても控えめな花です。
 外来種と言えども菊はすっかり日本の風景になじんでいて、栽培されている大輪の菊をはじめ、庭先や畑の隅の方で見かけることが多くあります。

 下の写真は農作物の収穫がすっかり終わり、さっぱりとした畑の隅の方に咲いていた菊です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 PROVIA100F

 正式な名前はわかりませんが、山形県などで良く食べられている食用菊にも似ています。
 そぼ降る雨の中で健気に咲いてはいますが、何度か霜が降りたのか、一部の葉っぱや周囲の草もすっかり茶色くなっていて、哀愁を感じる景色です。キクというと上を向いて咲くイメージがありますが、この写真の花はすっかり俯いてしまっています。

 半円形のアーチのように並んでいる形が綺麗だったので、これらの花がいちばんきれいに見えるアングルを探して撮影しました。背景は紅葉している山ですが、キクの花が埋もれてしまわないように大きくぼかしました。
 雲が垂れ込めていて雨も降っているので薄暗いような状態でしたが、花を引き立てるために露出はオーバー気味にしています。

 そういえば、もともとは白っぽい色をした花弁が霜にあたって紫色に変わっていくキクを「移菊(うつろいぎく)」というらしいですが、もしかしたらこのキクもそうかもしれません。何とも風情のある呼び名です。

ノコンギク(野紺菊)

 秋も深まり、何度か霜が降りると野草の葉も赤く染まっていきます。木々の葉っぱが紅葉するのと同じ現象なのかどうかはわかりませんが、草も霜焼けになるという話しを聞いたことがあります。同じ辺りに生えていても赤く染まる葉っぱと染まらない葉っぱがあるのですが、専門的なことはともかく、一面に赤く染まった光景は何とも言えない美しさがあります。

 そんな草むらの中に、かろうじて咲いているノコンギクを見つけました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/15 EX2 PROVIA100F

 ノコンギクは日本にたくさんある野菊の仲間です。秋口になると薄紫の可憐な花を咲かせます。葉っぱはすっかり茶色になってしまっていますが、まだ数輪の花が残っています。しかし、花弁が落ちてしまったのか、ずいぶんを花が縮んでいる感じです。周囲に他の花は見当たらず、エノコログサの穂も茶色に変色しているような中で咲いている姿には心引きつけられるものがあります。
 ノコンギクの背丈は40~50cmほど。周囲の草と同じくらいの高さなのでそれらの草と重ならないように、バックに比較的広い空間がある場所で撮りました。

 二線ボケが出やすい状況なので接写リングをつけて撮影していますが、やはり二線ボケが少し気になります。もう少し長めのレンズで、離れた位置から撮影したほうが全体にすっきりした描写になったと思いますが、ぼかし過ぎると周囲にあるスーッと伸びた細い葉っぱの印象が薄れてしまうので悩ましいところです。

キバナコスモス(黄花秋桜)

 コスモスもすっかり日本の景色になじんだ外来種の一つですが、近年、キバナコスモスがとても増えてきたように感じています。もともとは園芸品種だったようですが、野生化してしまったものも多いと聞きます。コスモスという名前がついていますが、赤紫やピンク、白色をした一般的なコスモスとは同属ではあるが別種のようです。
 また、キバナコスモスは開花している期間がとても長い印象があり、普通のコスモスがすっかり枯れてしまった後でも咲き続けています。公園の花壇や道端などでもよく見かける花の一つです。

 近所の公園に行った際、キバナコスモスを撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 Macro 135mm F4 1/30 EX1+3 PROVIA100F

 さすがに花の数はずいぶんと少なくなっていますが、わずかに残っている花に蝶がとまったところを撮りました。蝶のことは詳しくないのですが、シジミチョウだと思われます。もう、花に蜜も残っていないのではないかと思うのですが、小春日和の中、数少ない花をめぐって蜜を吸っていました。

 135mmのマクロレンズに接写リングをつけての撮影です。キバナコスモスの花芯の辺りに置きピンをして、蝶の頭部がそこに来た時にシャッターを切っています。
 逆光に近い状態で撮っているのでキバナコスモスの花弁は硬調な感じになってしまいました。背後にある白っぽい大きな玉ボケのようなものは、公園の遊歩道に設置されたステンレス製の柵の反射です。この玉ボケの中に蝶が入ってくれる瞬間を待ち続けたのですが、時間の経過とともに太陽が動き、玉ボケも移動していってしまうのでなかなか思うようにいきません。

エゾリンドウ(蝦夷竜胆)

 エゾリンドウは日本原産の野草で、山地の湿ったところでよく見掛けることができる秋の花のひとつです。背丈は50cmくらいから、大きいものでは1m近くになるものもあり、大ぶりの花をつけるので見応えがあります。日本の伝統色(和色)に「竜胆色」というのがありますが、色の名前に採用されるほど親しまれてきた花なのかも知れません。

 下の写真は長野県で見つけたエゾリンドウです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/60 PROVIA100F

 群落というほどたくさんは咲いていませんが、ポツポツと点在しているといった感じです。周辺は茶色くなった葉っぱが目立っていますが、エゾリンドウの花はまだしっかりとしており、鮮やかな竜胆色が健在です。
 春に咲くハルリンドウやフデリンドウの花はラッパのように開きますが、このエゾリンドウの花は開くことはないらしく、この写真のような状態を開花していると言うようです。

 この写真を撮影した日は曇りだったのでコントラストが高くなりすぎず、花の色が綺麗に出ていると思います。秋の花は柔らかめの光が似合っていると思います。
 ちなみに、右側に写っている丸い玉のようなものはエゾリンドウではなく、ユウスゲかキスゲの種子ではないかと思われます。愛嬌があったので入れてみました。

セイタカアワダチソウ(背高泡立草)

 北アメリカ原産のセイタカアワダチソウは、切り花としての観賞用に導入されたらしいのですが、今では嫌われ者の代表格のようになっています。関東では9月ごろから咲き始め、あちこちで大群落をつくっています。花が咲いている時期は長く、12月になってもまだまだ咲いています。観賞用ということだけあって咲きはじめの頃は綺麗な黄色をしていますが、徐々に黒っぽく薄汚れたような花色になり、そうなるとお世辞にも綺麗とは言い難い状態になります。
 背丈は2mを超えるほど大きくなりますが、それほど大きくならない群落もあって、どういう違いなのかはわかりません。

 秋も深まった頃、背丈がさほど大きくない群落があったので撮ってみました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F4 1/60 PROVIA100F

 この写真は、上で紹介した菊を撮った場所に近いところで撮影したものです。霜が降りるほど冷え込む時期であるにもかかわらず花の色は鮮やかで、葉っぱも青々としています。セイタカアワダチソウだけを見ればとても晩秋の景色とは思えません。
 根もとのごちゃごちゃした部分を隠すために鮮やかに赤く染まった草を配し、バックに紅葉した山を入れて晩秋の雰囲気を出してみました。また、前景と遠景をぼかし、セイタカアワダチソウだけにピントが来るよう、離れたところから300mmのレンズでの撮影です。

 嫌われ者のセイタカアワダチソウですが、このような鮮やかな色合いで、これくらい控えめに咲いているのであれば、観賞用として持ち込まれたのも頷けなくもないといったところでしょうか。

ボタンヅル(牡丹蔓)

 ボタンヅルは8月から9月頃にかけて花が咲きます。名前の通り蔓性の植物で、薄いクリーム色の可愛らしい花をたくさんつけますが、有毒植物で家畜も近寄らないと言われています。杉林などに入ると杉の幹に絡まりついて咲いている光景を目にすることができます。杉の木の茶褐色とのコントラストも綺麗で、写欲をそそられる被写体ではあります。
 このボタンヅルは花が終わった後に実をつけるのですが、晩秋になると真っ白な綿毛に覆われて、花とはまた違った美しさがあります。

 下の写真はボタンヅルの綿毛を撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 EX3 PROVIA100F

 ボタンヅルはたくさんの花をつけるので、ここにつけた実が綿毛に包まれるとかなり見応えがあるのですが、この写真では数個の実だけをクローズアップしてみました。被写界深度を浅くするために接写リングをつけ、綿毛以外のところは極力ぼかすようにしています。
 画の右端が黒くなっていますが、撮影位置をもう少し左側に移動し、背景を真っ黒にすることで綿毛の白さを引き立てることも出来ます。しかし、そうすると晩秋の雰囲気がなくなってしまうので、秋色の占める比率を多くしてみました。
 真っ白な綿毛は逆光で見るとキラキラと輝いてとても綺麗なのですが、少しの風でも揺れてしまうため、撮影は無風かそれに近い状態の時が望ましいです。

フユザクラ(冬桜)

 正式名称はコバザクラ(小葉桜)というらしいのですが、10月後半から12月頃に咲くのでフユザクラと呼ばれています。しかも、冬だけでなく春、4月頃にも花をつける二季咲きというとても珍しい桜です。ソメイヨシノなどは開花してから1週間ほどで散ってしまいますが、このフユザクラは1ヶ月以上の長い間、咲き続けます。
 関東では群馬県藤岡市にある桜山公園が有名で、今の時期に訪れると紅葉とフユザクラのコラボレーションを見ることができます。

 この写真も桜山公園で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F8 1/60 PROVIA100F

 桜山公園は小高い山になっていて、そこにおよそ7,000本ものフユザクラがあるそうです。花はとても小ぶりで、ソメイヨシノの半分くらいしかないと思えるような可愛らしい花です。
 紅葉とのコラボレーションもちょっとした違和感があって面白いですが、日陰になって暗く落ち込んだ山肌(たぶん、秩父の山並みと思われます)をバックに、真っ白な花だけを逆光で撮ってみました。ちょっと絞り過ぎた感じです。
 桜の撮影というと多くの場合は下から見上げるアングルが多くなってしまいますが、この桜山公園は斜面にたくさんの桜の木があるので、上から見下ろすようなアングルや高いところの枝先を目線のアングルで撮ることができます。

シオン(紫苑)

 この写真は道端で偶然に見つけたもので、たぶん、シオンの仲間、もしくはアスターの仲間、俗にいう宿根アスターではないかと思うのですが定かではありません。自生種なのか園芸種なのかもわかりません。シオンの仲間だとするともとは自生種だった可能性もありますが、シオンの自生種は絶滅危惧種らしいので、やはり園芸種の可能性が大でしょう。いずれにしろ、道祖神のような月待塔のような石塔の脇に植えられていましたので、毎年ここで花を咲かせるのだろうと思います。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm F2.8 1/60 EX1 PROVIA100F

 葉っぱはだいぶ枯れてきていますが花はまだ元気に咲いています。花の色のせいなのか、葉っぱが茶色いせいなのか、写真では花がカサカサしたように感じられますが、実際にはみずみずしさを保っています。シオンの仲間は花の数が多いので見栄えがしますが、それだけを撮っても面白みに欠けてしまいます。傍らの石塔を入れることで里山のような感じが出せればとの想いで撮ってみました。
 実際にはもっと明るい感じだったのですが、明るすぎると晩秋の感じが出ないので露出は若干アンダー気味にしています。
 バックは畑ですが人工物などもあったため、大きくぼかして色だけがわかるようにしてみました。もう少しバックが暗くなってくれるとありがたかったのですが。

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 晩秋から冬にかけて元気に咲く花というとサザンカ(山茶花)やツバキ(椿)を思い浮かべますが、それらの花とは対極にある寂しさや侘しささえ感じるような花もたくさんあります。その多くは最後の輝きを放っている花かも知れませんが、そういう花たちの持つ美しさというものも確かにあります。この時期は木々の葉っぱも落ちて殺風景な感じになってしまいますが、そんな時期だからこその被写体といえるのかも知れません。
 春や初夏のように積極的に花を撮りに行こうという思いになり難いのも事実ですが、晩秋の色合いというのもなかなか味わい深いものだと思います。

(2023.11.20)

#PENTAX67 #PROVIA #プロビア #ペンタックス67 #野草 #花の撮影

クマ除けグッズのあれこれ クマに出逢わないための効果的な方法はあるのか? 

 今年(2023年)は例年になくクマの出没やクマによる被害が多いとのことで、連日のようにこのニュースが流れています。本来、クマは警戒心も強く臆病な動物で、特に人間を怖がると言われていますが、人家の庭に来てくつろいでいたり、車がぶんぶん走る街中をスタスタと駆けていく映像などを見ると、本当に人間を怖がっているのだろうかと思ってしまいます。
 酷暑ともいえる今年の夏の暑さの影響で山の木の実が少ないため、食べ物の多い里に降りて来るという専門家の方の解説もよく聞きますが、どうもそれだけが理由ではないように感じてしまいます。
 本州に生息しているツキノワグマはどちらかというと草食系のようで、本来、クマは人間を襲ったり食べるために里に下りたり街中に出てくるわけではないと思いますが、食料を得るためにクマにとっても背に腹は代えられないということなのでしょうか?

 私が撮影する被写体は主に自然風景なので、どうしても一人で山に入ることが多くなります。もともと、クマだけでなくシカやイノシシ、サルなどが生息しているところに入っていくわけですから、そういった動物たちに出会っても不思議はないとは思いますが、これまでの数十年の間でクマを見かけたのは4~5回だけです。ですので、これまではそれほどクマに対する警戒心のようなものを強く持ち合わせてはいませんでした。とはいえ、クマには出逢いたくないので、山に入るときはクマ除けの鈴(ベアベル)程度は着けていました。
 しかし、近年のクマ目撃回数やクマによる被害件数の増加を見るとベアベルだけでは心もとなく感じるようになり、ここ数年でクマ対策のグッズをいろいろと揃えてきました。特に今年のようにその回数が急増しているという話しを聞くにつけ、対策を強化しなければいけないと思っています。

 ということで、以前はベアベルのみという状態だったのですが、徐々に持ち歩くクマ除けアイテムが増えていき、現在では山に入る際には下の写真のようなものを携行しています。

▲クマ除けグッズ:左からクマスプレー、電子ホイッスル、ベアベル、熊おどし、クマ除けピストル、下側中央がクマ忌避剤「熊をぼる」、その右が爆竹

 まず、いちばん基本的なアイテムのベアベルです。
 クマ除けグッズで最もポピュラーなのがこのベアベルですが、たくさんの製品が市販されています。形状や色も様々ですが、いちばん特徴的なのがその音色です。「カラカラ」というような乾いた音や「チリンチリン」という可愛らしい音のするもの、あるいは「カーンカーン」というような音のするものまで様々です。
 クマの生態に詳しい方の話だと音の大小はあまり関係ないらしいです。クマの聴覚はとても発達しているので、小さな音でもかなり遠くから聞き分けることができるようです。
 私が使っているベアベルは真鍮製で、「キーンキーン」というような甲高い音がします。音も大きめで、かなり遠くにいても聞こえるようです。これを腰に下げているので、歩いているときは常に「キーンキーン」と鳴り響いています。この音でクマの方から避けてくれればありがたいのですが、どの程度の効果があるのかはわかりません。
 一人で山の中を歩いていたり撮影しているときに遠くの方からこのベアベルの音が聞こえると、人が来るんだというのがわかってちょっとホッとしたりします。
 なお、このベアベルの音がうるさいと感じる人もいるようです。人が大勢いるような場所では鳴らさないようにしておくのもマナーかも知れません。

 ベアベルだけでは少し心もとないという思いと、歩いていないときは音がしないということもあり、4~5年ほど前に電子ホイッスルを購入しました。これはボタンを押すだけで、交通整理の警察官が吹いている笛のような音がします。しかもかなりの大音量で、取扱説明書には約120dbと書かれています。実際に近くで鳴らされると本当にうるさいと感じます。また、音量は3段階に切り替えが可能で、音色も3種類が用意されていますが、もちろん最大音量で使用しています。
 この電子ホイッスルはストラップで首から下げて携行していますが、歩きながら時どき鳴らしたり、撮影に入る前や撮影の合間に10秒ほど鳴らします。ベアベルに比べるとかなり遠くまで音が届くと思うのですが、これもクマに対して効果があるかどうかは不明です。
 ただし、近くに人がいる場所で鳴らすとかなり驚かせてしまうので、これを使用するときは近くに人がいないことを確認する必要があります。

 3つ目のアイテムはクマ除けピストルです。
 5~6年前に秋田県に撮影に行った際、地元の猟師の方から、「爆竹がいちばん効果がある」と教えていただき、その後、いろいろ探して見つけたものです。小学校の運動会などで使われるスターターを小型にしたようなもので、火薬を装填して引き金を引くと「パーン」という大きな音がします。価格は数百円だったと思います。おもちゃのようなものですが、円形に配置された8個の火薬を装填すると、8連発が可能になります。更に、撃った直後は辺りに火薬のにおいが漂います。
 山の中で撃つとこだまのように響き渡り、数百メートルくらい離れていても十分に聞こえるだろうという感じです。何の確証もないのですが、この音を聞けばクマも逃げてくれるだろうという都合の良い思い込みがあり、これを鳴らすと何だかとても心強くなります。
 もちろん、電子ホイッスルと同様で、周囲に人がいないことを確認してから使うのは言うまでもありません。

 クマ除けピストルに特に不満があったわけではありませんが、秋田の猟師さんの言葉が妙に頭の隅に残っていて、爆竹を使ったクマ除けを何とかできないかと考えていました。爆竹は子供の頃によく遊んだ記憶があり、身近に感じられたこともあるかも知れません。
 いろいろ調べていたところ、「熊おどし」というのがあることを知りました。これは北海道や東北では昔から使われてきたもののようです。片方のフシを切り落とした竹筒に爆竹を入れて火をつけるだけ、といういたってシンプルなものです。動画もいくつかアップされていたのでそれらを参考にしながら、2年ほど前に自作をしました。
 竹筒では強度的に不安があったので、金属素材で作ることにしました。直径20mmほどのステンレスパイプの切れ端があったので、これを長さ15cmほどにカットし、このパイプに、剪定で切り落とした庭の桜の枝を削ってはめ込むという簡単なものです。手で持って爆発させるので、その爆風が手にかからないようにステンレスパイプとの隙間がないようにするだけで、これといった難しさはありません。
 ステンレスパイプの先端内側に爆竹を引っかけ、ライターで導火線に火をつけると数秒後にはステンレスパイプの中で爆発します。その音はクマ除けピストルの比ではなく、感覚的には倍以上の音量ではないかと思うほどです。たまたま、道路脇にあるガードレールの近くで使ったことがあったのですが、爆発の衝撃波でガードレールが共鳴するくらいでした。爆竹を複数本入れて着火するとその威力はさらに増しますが、大量に詰め込めばよいというものでもなく、せいぜい2~3本くらいが限度かと思います。やはり空洞がないと音が良くないし、いくらステンレスと言えども同時に爆発させればダメージも大きいと思います。
 クマの生態に詳しい方によると、いきなり爆竹を鳴らすのではなく、笛(ホイッスル)を鳴らした後に熊おどしなどの爆竹を鳴らすと効果的だそうです。もし近くにクマがいた場合、いきなり爆竹の音が鳴り響くとクマもパニックを起こすかもしれないというのが理由のようです。
 爆竹を取り出し、ステンレスパイプの先端に引っ掛け、火をつけるという手間がかかるので、クマ除けピストルのような迅速性はないし連射も出来ませんが、効果はかなりあるように感じます。
 また、火をつけた爆竹を地面に放り出すわけでもないので、落ち葉に火が着くという心配もありません。
 私はステンレスパイプで自作しましたが、しっかりした素材で底のついた筒状のものであれば何でも代用可能だと思います。

 そして、今年の春に新たに手に入れたのがクマ忌避剤です。これは、「熊をぼる」という製品名で販売されているもので、1個2,300円ほどで購入しました。
 中身は木酢とカプサイシン(唐辛子成分)の混合液らしく、強烈な臭いでクマを寄せつけない効果があるらしいです。これをバックパックなどにぶら下げておくと、風下方向では1kmくらい離れていてもクマは感じ取るらしく、とても効果があると書かれていました。風上にいるクマに対しての効果は薄くなるのかもしれませんが、風の向きは常に一定ではないので、かなりの広範囲に匂いが広がるのではないかと思います。ただし、結構危険な液体のようで、直接手に触れると火傷をしたようになるらしく、取り扱いには注意が必要です。
 木酢なのでスモークのような強い臭いがします。家の中で袋から取り出すと強烈な臭いが立ち込め、半日くらいは臭いが残っています。これをつけて歩いていると風下にいる人にも臭いを浴びせることになってしまい、不快な思いをさせてしまう可能性があります。迷惑をかけたりトラブルになるのも困るので、人が多いところでは密閉袋に入れておくのが無難です。

 ここまで紹介したアイテムは、クマに人間の所在を知らせるとか、クマが嫌がる音や臭いを出すというもので、つまり、クマに出会わないようにすることを狙ったものです。たとえクマが生息していることがわかっていても、ソーシャルディスタンスをとってクマと出逢いさえしなければそれほど恐ろしさは感じません。ですから、クマと出くわさないのが最良なのですが、運悪く出くわしてしまったときには、たぶんこれらのアイテムでは役に立たないと思います。
 そこで、そのようなときのために「クマスプレー」を携行しています。

 これは実際に一度も使ったことがないので効果のほどはわかりませんが、説明書によるとカプサイシンが大量に含まれた超危険な液体が8~10mほどの距離まで噴射されるようです。また、噴射できる時間はおよそ7~8秒とのことです。したがって、クマがかなり近くに来た時に噴射しなければ効果がないということになります。そのような近距離にクマがいる状態で落ち着いてスプレーを吹きかけることができるのか、また、風向きによっては自分の方に流れてくる可能性もあるわけで、そういったことに注意しながら対応できるのか、そちらの方がはなはだ心配ですが、最後の砦といったところでしょうか。
 クマスプレーは結構高額(私が購入したものは13,000円ほどしました)で、使用期限も4~5年しかないし、しかも、これを使わざるを得ないような状況では、たぶん1回で使い切ってしまうだろうということもあり、今までは購入を見送っていました。しかし、今年のクマの出没や被害の多さをきいて4か月ほど前に初めて購入してみました。
 なお、6,000~7,000円という格安の商品もありますが、使用期限が数ヶ月しかないというようなものであることが多いらしく、格安品を購入する場合は注意が必要なようです。
 近年はクマスプレーを携行している登山者を多く見かけます。実際にクマに遭遇し、使った経験のある方にお会いしたことはありませんが、お守り代わりに持っているという方が多いようです。

 運悪くクマに出逢ったらいきなりスプレーをかけるのではなく、刺激を与えないように静かに後ずさりしながらクマにさよならするのが良いみたいですが、そういうことも理解はしていても、実際にそのような場面に遭遇した時に体がそのように動くかどうか、はなはだ疑問ではあります。

 腰のベルトにベアベルとクマスプレーをつけ、首には電子ホイッスルをぶら下げ、ウエストポーチにクマ除けピストルや熊おどしを入れ、バックパックにはクマ忌避剤をぶら下げ、撮影機材よりもクマ除けグッズの方に力が入っている感じがしないでもありませんが、クマには出逢いたくないので仕方ありません。
 突然、藪からぬっと出てこられてはどうしようもありませんが、歩いているときはあちこちを見ることができるので、黒いものが動いていると気がつきやすいと思います。いちばん恐怖心が高まるのは撮影しているときです。周囲に目がいかないし、滝や渓流の近くに入れば音がかき消されてしまうし、そんなときにクマに近寄られても全く気がつきません。撮影に入る際には音と匂いでクマを遠ざけておくしかありません。
 これらのクマ除けグッズが、はたしてクマに対して効果があるかは不明ですが、クマも人間には出逢いたくないと思っているという言葉を信じて、注意しながら山に入りたいと思います。

(2023.10.24)

#クマ避け鈴 #小道具

国産大判カメラ タチハラフィルスタンド45 TACHIHARA Fiel Stand 45

 タチハラフィルスタンドは東京都北区にあったタチハラ写真機製作所が製造・販売していた大判カメラです。樹齢300年以上と言われる北海道産の朱里桜材を使うというこだわりの木製(ウッド)カメラで、4×5判だけでなく5×7判や8×10判などの大判カメラも製造していました。とても美しいフォルムをしたカメラで、国内だけでなく海外でも人気が高いようですが、残念ながらタチハラ写真機製作所は2013年に閉じられてしまいました。
 フィルスタンド(Fiel Stand)のFielの名前の由来については良くわかりませんが、フィールドカメラという意味でつけたのではないかと勝手に想像しています。

◆追記(2023年10月14日)
 このページを見ていただいた方から名前の由来について教えていただきました。
 「タチハラ=立原」は野原(原っぱ)に立つ、すなわち、Field Stand、そこからFiel Stand と命名されたとのことです。ありがとうございます。

 このカメラにはⅠ型からⅢ型まで3つのモデルがあるようですが、私の持っているのはいちばん古いⅠ型というモデルです。中古で購入したので詳しくはわからないのですが、たぶん1980年代に製造されたものではないかと思われます。
 私はこれまでに4×5判の木製カメラを4台ほど使ってきましたが、現在手元に残っている木製カメラはこのフィルスタンド1台だけになってしまいました。

タチハラフィルスタンド45の概要と主な仕様

 いわゆるフィールドタイプに分類される4×5判のカメラで、一般的なフィールドタイプのカメラに求められる機能はほぼ備わっています。左右のシフト機能はありませんが、風景撮影でシフトアオリを使うことはほとんどありませんし、どうしても使いたい場合は前後のスイングの組合せでシフトと同じ効果を出すことができるので、特に不都合は感じません。
 カメラベースの内側に可動トラックが組み込まれていて、これを繰出すことでフランジバックは約65mm~330mmが可能になります。テレタイプのレンズであれば焦点距離400mmくらいまでは問題なく使えますし、テレタイプでないレンズであっても、よほど近接撮影でもしない限りは300mmくらいまで使用可能です。
 取付けられるレンズボードはディファクトスタンダードともいえるリンホフ規格用になっていて、他のカメラとの使い回しもし易いと言えます。

 蛇腹のサイズは前側(レンズ側)が約115mmx115mm、後側(スクリーン側)が約145mmx145mmで、リンホフマスターテヒニカと比べると一回り以上大きくなっています。そのせいか、カメラを開いたときは実際のサイズ以上に大きく見えるというか、存在感のようなものを感じます。

 また、携行に便利なように折りたたむことができます。折りたたんだ時のサイズは突起部を含めてもおよそ195mm(縦)x210mm(横)x90mm(厚さ)という大きさで、リンホフマスターテヒニカと比べると突起部が多いため、縦横の流さは若干大きいですが、厚さはフィルスタンドの方が薄くなります。重量は約1.5kgとリンホフマスターテヒニカに比べると1kg以上も軽く、長時間歩くような撮影の場合にはとてもありがたいです。
 本体上部には革製のベルトがついていて、カメラを出し入れする際はとても便利です。

フロント部の機能、およびムーブメント

 リンホフ規格のレンズボードが取り付けられるようになっているのは前でも書いた通りですが、レンズ取付け穴の径が約89mmあり、リンホフマスターテヒニカよりも6mmほど大きくなっています。
 リンホフ規格のレンズボードの裏側にある円形の突起は2段になっていて、リンホフのカメラのレンズ取付けパネルの方にはこの突起が嵌合するように段差が刻んであるのですが、フィルスタンドのレンズ取付けパネルにはそのような段差がありません。レンズボード裏側にある外側の大きな突起がすっぽりと嵌まるように口径を大きくしているのかもしれません。

 カメラのフロント部のムーブメントとしてはライズ、フォール、ティルト、スイング、およびフロント部全体の移動が可能です。
 ライズとフォールは、レンズボード取付けパネル(レンズスタンダード)をフィルムの中心位置まで上げた状態でライズが約38mm、フォールが約18ミリ可能になります。ただし、センターが下方に約8mmオフセットされたリンホフ規格のレンズボードを使用した場合、フィルム中心とレンズ光軸を合わせるためには約8mm上げなければならないので、その状態からだとライズが約30mm、フォールが約26mmということになります。一般的な風景を撮影するのであれば十分な数値ではないかと思います。
 なお、ライズ量がわかるようにレンズボード取付けパネルの端に目盛り板があり、0を中心に上下に3まで目盛りが振ってありますが、この間隔が約5.5mmとなっています。なぜ、5.5mmなのか、その理由はわかりません。

 フロント部のティルトは前方に約32度、後方は蛇腹の影響を受けてしまいますが、42度くらいまで倒すことができます。これは、リンホフマスターテヒニカに比べてかなり大きなアオリが可能になります。実際の風景撮影でここまで大きなティルトを使うことはありませんが、ライズやフォールよりもティルトの使用頻度が圧倒的に多いので自由度は大きいと言えます。
 ティルトの角度を示すような目盛りや微動の仕組みはなく、手で角度を加減することになりますが、ニュートラルの位置でロックされるような構造になっています。
 なお、ティルトの支点はレンズスタンダードの下部になります。したがって、ティルトをかけるとレンズ下側の移動量は少なく、レンズの上側が大きく動くことになります。リンホフマスターテヒニカのようにレンズ中心を支点として回転するタイプと比べると、ピント合わせの方法が若干変わります。

 スイングはレンズボード取付けパネルの下部にあるレバーでロックを外すと、左右に約15度ずつ首を振ることができますが、これはニュートラル位置でロックされるような機構にはなっておらず、戻す場合は目視での確認が必要になります。

 また、可動レール上でレンズスタンダードを前後に約110mm動かすことができます。つまり、リア部を最後部まで下げ、可動レールをいっぱいに引き込んだ状態でレンズスタンダードをいちばん奥に入れるとフランジバックが約65mmに、いちばん前に出すとフランジバックが約175mmになります。
 ただし、レールに若干のガタがあり、移動後にロックする際、注意しないとわずかに傾いた状態で固定されてしまうことがあります。通常の風景撮影ではほとんど問題になりませんが、厳密に光軸の傾きをなくしたい場合は、左右のレールにある目盛りに合わせて位置決めをしてロックする必要があります。

リア部の機能、およびムーブメント

 リア部のムーブメントとしてはティルト、スイング、およびリア部全体の前後移動があります。

 まずティルトですが、後方に約25度、前方は機構的には90度まで可能ですが、実際には蛇腹の影響があるので30度くらいといったところでしょうか。フロントティルトと同様で、リア部の下部にティルトの支点があるので、やはりティルトをかけるとリア部の下側の動きは少なく、上側が大きく動くようになります。
 また、ニュートラル位置でロックされるような機構になっているのもフロントと同様です。

 スイングはリア部の左右にあるロックピンを緩めると、左右に約15度のスイングが可能になります。機構自体はシンプルなのですがわずかな動きには不向きで、バックスイングで微妙なピント出しをするのはちょっと大変です。

 リア部は約46mm、前方に移動させることができます。
 短焦点レンズを使用する場合、フロント部(レンズスタンダード)を奥に引き込んでしまうとベッドが写り込んでしまうことがありますが、このような際にリア部を前方に移動させることでフロント部の引き込み量を少なくして、ベッドの写り込みを防止することができます。リンホフマスターテヒニカではリア部を動かすことはできないのでベッドの写り込みを防ぐにはベッドダウンなどが必要になりますが、フィルスタンドではそのような手間がかからず、とても便利な機能だと思います。フィルスタンドのⅡ型になるとリア部の前後移動もラック&ピニオン式になっていて使い易さも向上しているようですが、Ⅰ型はリア部を手で押したり引いたりしなければなりません。

 写真の縦横の向きを変更する場合はフォーカシングスクリーンの嵌まっている枠をいったん外し、90度回転させて再度取付けるという手間が必要になります。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45のようにくるっと回転してくれると便利なのですが、カメラ自体を90度回転させなければならないわけでもないので、目くじらを立てるほどのことではありません。

 多くの木製カメラは金属製カメラのように弁当箱のような筐体の中にすべてがおさまる構造ではないため、フォーカシングスクリーンもむき出しになっているものがほとんどです。そのままだと持ち運びなどの際に傷をつけてしまう可能性もあるため、私はアクリル板で保護板を自作して取り付けています。フォーカシングスクリーンのところに嵌まる大きさにアクリル板をカットし、ゴムひもでノブに引っかけるだけの簡単なものですが、これがあれば少々ぶつけても安心です。

タチハラフィルスタンド45の使用感

 このカメラに対する個人的な印象は、とてもしっかりした作りであるとともに使い易いカメラであるということです。大きさや重さという点でも携行性に優れていて、実際にフィールドで使用していても安心感のあるカメラです。機能的にも不足に感じることがないだけのものを装備しており、問題になるようなこともほとんどありません。このカメラを使い始めて20年ほどになりますが、今のところガタが来ているようなところもありませんが、長年使っていると可動部、特にレールの部分の動きが渋くなることがあるので、そのメンテナンスは時々おこなっています。
 360mmとか400mmという長焦点レンズを取付けるとレンズが重いので、カメラに負担がかかってブレてしまうのではないかという懸念もありますが、各部をしっかりとロックすればかなりの剛性が保たれているという感じで、堅牢性という点でも優れたカメラだということが実感できます。

 私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカと比べても使い勝手の違いはあるものの、取り立てて欠点と言えるようなところはありません。むしろ、リンホフマスターテヒニカよりもムーブメントの自由度が大きく、特に短焦点レンズの使用時などは使い易いと感じることさえあります。
 唯一、これがあったらなぁと思うのはグラフロック機構です。ホースマンなどのロールフィルムホルダーが使えず、このカメラで使えるフィルムホルダーはごく一部のものに限られてしまいます。ホースマンのロールフィルムホルダーを無理に使うとフォーカシングスクリーンを傷めてしまいます。

 また、カメラに対する慣れの問題も大きいと思うのですが、金属製カメラに比べると可動部を締めつけるためのネジなどが多く、カメラのセットアップなどに若干、手間がかかるかも知れません。木製カメラの場合、各可動部に遊びが多いため、締め付けをしっかり行わないとガタガタしてしまいます。動かしたら締める、という動作が体に染みついていればどうってことはないのですが、時たま締め付けを忘れたりするとピントがずれる、なんていうことが起こりかねません。

 そしていちばん気をつけたいのが雨です。しっかりと塗装がされているとはいえ、材質が木材ですから濡らすことは絶対に避けたいと思っており、雨の日の撮影に持ち出すことはほとんどありません。滝などの飛沫も出来るだけ避けたいので、シャワーキャップやタオルは欠かせません。

 なお、私のフィルスタンドは蛇腹が少々劣化してきていて、何ヵ所かピンホールの補修をしてあります。そろそろ蛇腹の交換時期かも知れません。

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 私は大判カメラで撮影する場合、リンホフマスターテヒニカを使うことが多く、このタチハラフィルスタンド45の使用頻度はそれほど高くないのですが、カメラとしてはとても気に入っています。何といっても金属製のカメラにはない温もりのようなものが感じられます。タチハラフィルスタンドで撮ろうがリンホフマスターテヒニカで撮ろうが、出来上がる写真に違いはありませんが、やはり、お気に入りのカメラで撮ると意気込みも違ってくるというものです。
 このカメラを新たに購入しようとしても新品を手に入れることはまず不可能で、中古品も程度の良いものは徐々に少なくなっていくと思われます。わずか10年前まで、数人の職人さんたちでこのような見事な製品を作り続けておられたということが奇跡のように感じられます。

(2023年10月12日)

#タチハラフィルスタンド #FielStand