PENTAX67 ペンタックス67用 リアコンバータ2X

 PENTAX67用には2種類のコンバージョンレンズが用意されていました。いずれもレンズとボディの間に挿入するタイプで、「リアコンバータ REAR CONVERTER」という商品名で、1.4倍(1.4X)用と2倍(2X)用がありました。
 ズームレンズが主流になってからコンバージョンレンズが使われる頻度は急激に下がったように思いますが、これ1本でレンズの焦点距離を伸ばすことができるわけですから、結構重宝された時代もあったと思います。特にPENTAX67用にズームレンズが出たのは1990年代の後半で、それまでは単焦点レンズのみだったので、それなりの需要はあったのではないかと思います。
 私も2本のリアコンバータを持っていましたが、実のところ使用頻度はかなり低く、今でも新品のようにきれいな状態を保っています。

PENTAX67用リアコンバータ2Xの主な仕様

 最初のPENTAX67用リアコンバータは「T6-2X」という製品だったらしいのですが、私はそれを使ったことはもちろん、現物を見たこともありません。私の持っているリアコンバータは2代目ということだと思います。当時の製品カタログを見ると、110,000円(税別)という価格が記載されています。結構なお値段だと思います。
 取扱説明書等を放り込んである箱をあさったところ、リアコンバータの取説が出てきたので、そこから主な仕様を転載しておきます。

  ・倍率 : 2倍(2X)
  ・レンズ構成 : 4群6枚
  ・絞り方式 : 自動
  ・測光方式 : 開放
  ・大きさ : φ91 x 71.5mm
  ・重さ : 560g

 使用できるレンズはフィッシュアイ35mmから400mmまでで、500mm以上のレンズやシフト75mm、レンズシャッター内蔵のレンズ等は使用不可、もしくは推奨しないとなっています。レンズの構造上、取り付けができなかったり、画面周辺部で光量不足が生じることが理由のようです。
 PENTAX67用レンズのほとんどは外観が黒色に塗られていますが、リアコンバータはグレー(灰色)に塗装されています。
 コンバージョンレンズなので操作するような箇所はありませんが、レンズの絞りや開放測光に連動するための機構が組み込まれています。

リアコンバータの基本的なふるまいとレンズ構成

 コンバージョンレンズには大きく分けて倍率を下げるワイドコンバージョンレンズと倍率を上げるテレコンバージョンレンズ、そして、レンズの前に取り付けるフロントコンバージョンレンズとレンズ後端に取り付けるリアコンバージョンレンズがあります。
 PENTAX67用のコンバージョンレンズはテレタイプ、そしてリアタイプということになります。

 テレタイプのコンバージョンレンズの基本的なふるまいは、マスターレンズからの光を凹レンズで広げて、撮像面(フィルム)に入る光の範囲を狭く(小さく)するというものです。したがって、テレタイプのコンバージョンレンズは全体が凹レンズ、すなわちマイナスのパワーを持ったレンズということになります。

 下の図はテレコンバージョンレンズのふるまいを模式図にあらわしたものです。

 左側のマスターレンズからの光を凹レンズによっていったん広げることで、合焦面をマスターレンズよりもさらに後方に伸ばしています。
 マスターレンズからの光を広げるだけであれば凹レンズだけでも可能ですが、像面平坦性を確保するために凸群と凹群の組み合わせになっているものがほとんどのようです。

 PENTAX67用の2Xリアコンバータも同様の構成を採用していることは知っていたのですが、実際のレンズ構成が不明だったので分解してみました。
 その結果、上図の下側の図に示すようなレンズ構成であることがわかりました。

 取扱説明書には4群6枚構成となっているので、てっきり2群3枚構成のユニットが2つ存在しているものとばかり思っていましたが、実際には前側ユニットが1群3枚構成の凸群、後側ユニットが3群3枚構成の凹群となっていました。

 鏡胴から取り出したレンズユニットが下の写真です。

 写真の上側がマスターレンズ側、下側がボディ側になります。

 ここからレンズを取り出したのが下の写真です。

▲左から凹群の凸レンズ、凹レンズ、凹レンズ、右端が凸群のレンズ

 左から3枚が後側ユニット(凹群)のレンズ、いちばん右側が前側ユニット(凸群)のレンズです。
 後側ユニット(凹群)の3枚のレンズのうち、いちばん外側の1枚は凸レンズで残りの2枚は凹レンズです。そして、前側ユニット(凸群)は3枚のレンズが張り合わせてあるので詳しい構成は不明です。
 メーカーによっては前群ユニットを凹群、後群ユニットを凸群としているコンバージョンレンズもあるようで、それぞれ長所短所があるのかもしれませんが、詳しいことは私にはわかりません。いずれにしてもマスターレンズの特性を損なわないようにしながら倍率だけを変化させるということが求められるのだろうと思います。
 あらためて言うまでもありませんが、倍率が上がった分、暗くなるので露出の補正が必要になります。2倍のコンバージョンレンズの場合、露出は4倍(2段)にする必要があります。

 余談ですが、レンズユニットを分解していて思ったのですが、極めて高精度に加工されている感じです。冬場で室内の温度も若干低いことも影響しているのかも知れませんが、レンズを押さえているリングを外してもレンズがぴったりとはまっていて出てきません。ドライヤーで温めてようやく取り出せるといった状態です。
 レンズをはめる時もしかりで、ドライヤーで温めて枠を膨張させておかないとレンズがはまってくれません。

リアコンバータ2Xの写りについて

 では、リアコンバータ2Xを装着することで、マスターレンズの写りに影響があるのかどうかということで、いくつかのテストチャートを使って撮影をしてみました。
 実際に使ったレンズは「SMC TAKUMAR 6×7 105mm F2.4」という67判では標準レンズといわれている焦点距離のものです。

 まずは、自作のテストチャート用の目盛り板を撮影したものです。

▲左:105mm単体 右:105mm+リアコンバータ

 左側が105mmレンズ単体で撮影したもの、右側がリアコンバータを装着して焦点距離を210mm相当にして撮影したものです。いずれも約5mの距離から撮影しており、そこからほぼ同じ範囲を切り出して並べたものです。
 厳密にはわずかな違いがありますが、目盛り0を中心にして前後のボケ方はほとんど変わらないといってよいと思います。

 ちなみに、105mmレンズにリアコンバータを装着した場合とほぼ同じ焦点距離の200mmのレンズで撮影したものと比較したのが下の写真です。

▲左:105mm+リアコンバータ 右:200mm

 左側が105mmレンズにリアコンバータを装着して撮影、右側が200mmレンズ単体で撮影したもので、撮影距離は同じく約5mです。
 明らかに右側の200mmレンズで撮影した方がボケ方が大きくなっています。

 次に、ボケの具合を見るためにテストチャートを撮影・比較してみます。
 比較用に使用するテストチャートはこちらです。

 これを105mmレンズ単体とリアコンバータを装着した場合について、それぞれ前ボケ、後ボケになるような位置で撮影したのが以下の写真です。
 まず、105mmレンズ単体で、絞りF2.4(開放)で撮影した前ボケ、後ボケ状態のテストパターンです。

▲105mm単体 F2.4 前ボケ
▲105mm単体 F2.4 後ボケ

 1枚目が前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態で、レンズからピント位置までの距離は約5m、そこから前後に30cmずらした状態で撮影したものです。

 そしてこちらが105mmレンズにリアコンバータを装着して撮影したものです。撮影条件は同じです。

▲105mm+リアコンバータ F2.4 前ボケ
▲105mm+リアコンバータ F2.4 後ボケ

 同様に1枚目が前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態です。

 レンズ単体の方がボケの中にわずかに芯が残っているような印象を受けますが、極端に大きな違いは感じらません。

 次に絞りをF8にして撮影した写真の比較です。
 1枚目が105mmレンズ単体の前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態、3枚目が105mmにリアコンバータを装着しての前ボケ状態、4枚目が後ボケ状態の写真です。

▲105mm単体 F8 前ボケ
▲105mm単体 F8 後ボケ
▲105mm+リアコンバータ F8 前ボケ
▲105mm+リアコンバータ F8 後ボケ

 こちらは絞り開放時よりもさらに似通っている感じで、ほとんど差がわかりません。
 リアコンバータは倍率を変えるだけでマスターレンズの特性を極力保持するという点からすると、それに十分に応えているように思います。倍率が上がったのは良いけれど、写りが大きく変わってしまったというのでは有難くありません。

 最後に、解像度用のテストチャートを撮影してみましたので、それも掲載しておきます。
 1枚目が105mmレンズ単体で撮影、2枚目がリアコンバータを装着しての撮影です。いずれも絞りはF4、撮影距離は約5mです。撮影範囲が異なるので、ほぼ同じ範囲を切り出しています。

▲105mm単体 F4
▲105mm+リアコンバータ F4

 コンバージョンレンズを入れると多少なりとも画質が落ちるというイメージがあったのですが、ほとんど影響がないのではないかと感じました。もっと厳密に計測すれば差は出るのでしょうが、実用上はほとんど問題のない範囲ではないかと思います。
 コンバージョンレンズとはいいながら6枚ものレンズで構成されていて、今回、マスターレンズとして使用したSMC TAKUMAR 6×7 105mm も5群6枚構成ですから、それと同等の枚数で構成されているということになります。性能が高くてもうなずける気がします。

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 冒頭でも書いたように、私はリアコンバータを使うことが非常に少なく、そのいちばんの理由は面倒くさいからということです。
 確かに、リアコンバータを1本持っていけばレンズの焦点距離のラインナップが2倍になるわけですから便利ではあります。しかし、リアコンバータをはめたり外したりという面倒くささが優先してしまい、つい敬遠しがちになってしまいます。
 なお、2倍のリアコンバータを使用する場合、露出を4倍かけなければなりませんが、私の場合、風景が主な被写体なのであまり気になることはありません。

 また、マスターレンズの画質を落としたり特性を変えたりしたくないという思いもあり、レンズはできるだけ素のままで使いたいという思いもあります。
 しかし、今回、非常に簡易的ではありますが比較撮影をしてみて、画質に関しては危惧するほどではないというのが実感です。あとは面倒くさいという気持ちが払しょくできれば、リアコンバータの活躍頻度も上がるかもしれません。

(2025.1.16)

#PENTAX67 #テストチャート #ペンタックス67 #ボケ #レンズ描写

モノクロフィルム現像用「D-76準拠」現像液の自家調合

 コダックから販売されていたD-76現像剤が生産終了になってから2年近くになります。私はこのアナウンスがあったときにD-76現像剤を少し買い入れておきましたが、それも1年ほど前に底をついてしまいました。今は中外写真薬品株式会社からD76現像剤が発売されていますが結構お高い価格設定になっているので、私はD-76現像剤に「準拠」した現像剤を自分で調合して使っています。
 今や、はるかに優れた現像液がたくさんありますが、比較的安価でお手軽でそこそこの品質が得られるということで、使いやすい現像液であるといえると思います。私も以前に比べるとD-76現像液を使う頻度はずいぶん減ってしまいましたが、ちょっと現像というようなときには重宝しています。
 今回はD-76に準拠した現像液の調合と、その現像結果についてまとめてみました。

「D-76準拠」現像液に必要な薬剤

 D-76現像剤がコダックから発売されたのは1927年だそうですから、間もなく一世紀が経とうとしています。100年近くにわたってもなお世界中で使われ続け、しかもあまり進化もしていないということに驚きです。
 D-76現像剤の構成は非常にシンプルで、必要な薬剤はわずか4種類だけです。いずれの薬剤も今のところ簡単に調達でき、しかも比較的安価なものばかりです。必要な薬剤とおおよその価格は以下の通りです。なお、価格は2024年12月20日時点、新宿の大手カメラ店でのもので、いずれも税込み価格です。

  ・無水亜硫酸ソーダ(500g)  793円
  ・硼砂(500g)   1,300円
  ・メトールサン(25g)  1,100円
  ・ハイドロキノン(50g)  1,200円

 上の写真で、無水亜硫酸ソーダと硼砂を入れている容器は本来のものではありません。購入時はビニール袋と紙箱に入った状態であり、湿気てしまうといけないので保管し易い空いたペット容器に移し替えています。

 無水亜硫酸ソーダは現像液の酸化を防ぐためのもので、現像保恒剤の役割を果たします。食品の褐色化防止剤やワインの酸化防止剤としても使われているようです。
 硼砂は水に溶かすと弱アルカリ性となり、現像液のアルカリ調整剤として転嫁されるものです。
 そして、メトールサンとハイドロキノンは現像主薬となる還元剤で、感光したフィルムの臭化銀を銀に変化させる役目を持っています。

現像液の調合

 さて、実際の現像液の調合ですが、1リットル(1,000ml)のD-76準拠現像液の原液を作るのに必要な薬剤の量は以下の通りです。

  ・無水亜硫酸ソーダ : 100g
  ・硼砂 : 2g
  ・メトールサン : 2g
  ・ハイドロキノン : 5g

 これらを以下の手順で調合していきます。

 まず、55℃前後の温水800mlをビーカーに用意します。これは精製水を使うのが望ましいのですが、購入すると結構な出費になるので、私は水道水を5分ほど煮沸し55℃近くまで下がったものを使っています。
 ここに、無水亜硫酸ソーダ100gのうちの10~20g程度を入れ、完全に溶けるまで撹拌します。これはメトールサンを投入した際の酸化を防ぐためです。

 次にメトールサン2gを投入し、撹拌します。

 メトールサンが完全に溶けたら残りの無水亜硫酸ソーダを投入して撹拌します。

 同様に、ハイドロキノンを投入して撹拌、硼砂を投入して撹拌という手順で行います。

 最後に水を約200ml追加して、全体が1,000mlになるようにします。

 これでD-76準拠の現像液の原液が完成です。

 ちなみに、1リットルの原液を作るのに必要な薬剤のコストを単純計算してみると以下のようになります。

  ・無水亜硫酸ソーダ 100g/500g x 793円 = 158.6円
  ・硼砂  2g/500g x 1,300円 = 5.2円
  ・メトールサン  2g/25g x 1,100円 = 88円
  ・ハイドロキノン 5g/50g x 1,200円 = 120円

 ということで、合計で371.8円となります。
 中外写真薬品から販売されているD76現像剤の価格が1,300~1,400円ほどですから、それに比べるとかなり割安といえると思います。

現像結果 D-76現像液との比較

 今回、使用したフィルムはイルフォードのDELTA100 PROで、現像はいずれも下記の条件で行ないました。

  希釈 : 1 + 1
  液温 : 20℃
  現像時間 : 11分

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というタイプで、必要な現像液の量は500mlです。ですので、原液250mlに水250mlで希釈した現像液を使用しました。

 まず、コダックのD-76現像液で現像した写真です。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmです。

 撮影した日は薄曇り、時々、雲の間から陽が差すという天候で、極端にコントラストが高いという状況ではないため、若干柔らかめな描写になっていますが、DELTA100らしい黒の出方をしていると思います。粒状感が出過ぎるような荒れた感じもなく、比較的きれいに仕上がっているのではないかと思います。
 また、現像ムラのようなものも見受けられず、特に問題のない状態のようです。

 次に、自家製のD-76準拠の現像液で現像した写真です。
 フィルム、現像条件は同じです。

Created with GIMP

 こちらは撮影した日が異なり、晴天だったのでコントラストが高めの景色になっていますが、現像条件によってコントラストが高めに出ているわけではありません。同じ日に同じ場所、同じ条件で撮影すればわかり易いのでしょうが、残念ながらそのような同じ条件で撮影をしておりません。
 コダック製のD-76現像液で現像したものと違いがあるかといわれると、コダック製のほうがごくわずかにシャープに見える気もしますが、そのような気がするだけでほとんど違いがわかりません。
 ネガをルーペで見ても両者の差を判別することはできませんでした。

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 本家(コダック)のD-76がなくなってしまい、厳密な比較をすることはできませんが、レシピに基づいて自家調合した現像液でも概ね良好な仕上がりになっており、十分にD-76現像液の代替にはなるかと思います。
 この自家製現像液、私は120フィルム2~3本で廃棄してしまうので、どれくらいの処理能力があるのかは不明です。現像時間を増やしていけば5~6本くらいはいけるかもしれませんが、毎日使うわけではないので、使用したものは保管せずに廃棄してしています。

(2024.12.23)

#D76 #ILFORD #KODAK #イルフォード #コダック #モノクロフィルム

「2032年までにフィルム写真カメラの市場が約1.4倍になる」という予測レポートについて思うこと

#カメラ業界

シュナイダー Schneiderの大判レンズ Gクラロン G-Claron 240mm 1:9

 クラロン Claron は等倍などの近接撮影用に作られたレンズにつけられた名称で、GクラロンのほかにCクラロン、Dクラロン、リプロクラロンなどがあります。私は大判用のGクラロンしか使ったことがありませんが、頭についている「G」はGraphicを意味しているようです。ちなみに、「C」はCopy、「D」はDocument、「リプロ」はReproductionを意味しているようで、いずれも近接撮影や複写用のレンズということで命名されているようです。
 私の持っているGクラロンは、シリアル番号からすると1975年前後に製造されたレンズのようです。製造からちょうど半世紀が経過したことになります。

 Gクラロンのシリーズはどれくらいの数が製造されたのか全く分かりませんが、中古市場を見てもそれほどたくさん出回っている感じもしません。近接撮影用ということで使う人も限られていたのかも知れませんが、写真館やスタジオなどで使われていたという話しも聞きます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の主な仕様

 Gクラロンは大きく分けて前期型と後期型があるようで、私の持っているレンズは後期型です。レンズ構成もずいぶん違うようで、前期型はダゴールタイプ、後期型はオルソメタータイプとのことです。いずれも前群と後群が対称に配置された設計のレンズです。
 レンズはシングルコーティングと思われ、あっさりした色をしています。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ298mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 90
   絞り羽根 : 10枚
   シャッター  : COMPUR No.1
   シャッター速度 : T、1~1/500
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ50.8mm
   全長  : 53mm

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ68mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の標準と中望遠の中間あたりに相当する焦点距離です。
 4×5判の対角画角が約36度、横位置に構えたときの水平画角が約29度、垂直画角が約22.5度ですから、準標準というにはちょっと長い感じです。私の場合、風景撮影で使う頻度はどちらかというと低めの画角です。画角だけを見るとポートレート向きかも知れません。

 シャッターはCOMPURの1番が使われています。絞りは90まであり、1/3段ごとにクリックが設けられています。また、絞り羽根は10枚で、円形とはいきませんが5枚羽根や7枚羽根に比べると滑らかな形状を保っています。
 私はCOMPUR製のシャッターを採用したレンズは数本しか持っておらず、コパル製のシャッターほど使い慣れてもいませんが、このシャッターも操作方法がちょっと変わっています。シャッター速度にB(バルブ)ポジションがなくT(タイム)ポジションのみで、BとTを兼用しているタイプです。そして、Tポジションの時はシャッターチャージをせずにシャッターレバーを押すとシャッターが開き、もう一度押すとシャッターが閉じる仕組みです。
 Tポジションでシャッターチャージをしても特に問題はありませんが、シャッターレバーを押してもチャージがリリースされることはありません。リリースするためにはシャッター速度ダイヤルをTポジション以外のところにセットし、そこでシャッターレバーを押すという操作が必要になります。

 また、絞り羽根を動かすレバーがシャッターチャージ用レバーと重なるような位置にあり、とても操作がしにくいのと、構図決めやピント合わせの際にシャッターを開くためのレバーもとても小さく、やはり操作しにくいのが難点です。

 イメージサークルは298mm(F22)ですので、4×5判で使う分には十分すぎる大きさがあります。
 開放絞りがF9と暗めですが、その分、レンズ全体が小ぶりなので携行には有難いです。フジノンのWシリーズに250mmのレンズがあり、焦点距離がほぼ同じですがフジノンのW250mmの開放絞りはF5.6で、明るいのは有難いのですがレンズがとても重くて携行には難儀します。F5.6とF9だと1+1/3段の違いがありますから、明るさをとるか携行性をとるかといったところで悩んでしまいます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.4m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF9(開放)で撮影したものです。1枚目がピントを合わせた位置、2枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート、そして3枚目が前方30cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 2枚目の後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ状態)を撮影したものを見ると、とても素直できれいなボケ方をしていると思います。ほんのわずかに芯のようなものが見て取れますが輪郭などは全く感じられず、なだらかにフワッとぼけているように思います。また、ボケ方に偏りもなく、どの方向にも均等なボケ方をしているのがわかります。
 次にテストチャートの3枚目の写真は前ボケの状態です。全体的に綺麗で素直なボケ方は同じですが、後ボケに比べるとボケ方が控えめな感じを受けます。こちらもわずかに芯が残っているように見えます。また、ボケ方は小さいですがボケに厚みが感じられ、全体がふっくらとしている印象を受けます。

 風景撮影などでよく使うF22まで絞り込んで撮影したテストチャートの写真も掲載しておきます。
 1枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ)、2枚目が前方30cmの位置にあるテストチャート(前ボケ)です。 

 前ボケ、後ボケともに綺麗で素直なボケ方をしています。

 参考までに、解像度確認用のテストチャートの中央部分を撮影したのが下の写真です。

 テストチャート自体の印刷精度があまり良くないのですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでレンズの解像度としては問題のないレベルだと思います。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の作例

 上でも書いたように、標準と準望遠の中間くらいの焦点距離ということで使う頻度はあまり高くありません。景色を広く取り込むには少々画角が狭すぎるのですが、ある程度限定された範囲を撮るには都合の良いときもあります。また、撮影ポジションやワーキングディスタンスに自由度がある場合は応用範囲が広がるレンズでもあります。

 まず1枚目は秋田県の田沢湖で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F9 1/15 Velvia100F

 湖畔にある木の枝が湖の方に張り出していて、その影が湖面に映っているのですが、波によって揺らいでいるところを撮りました。良く晴れた日だったので湖面が見事なまでにコバルトブルーになっていて、それによって木の枝の影も黒くならず、ブルーグリーンとでもいう色合いになっていました。
 波の具合によって湖面に映る影は常にその形を変えており、シャッターを切るタイミングがなかなか決められません。低速シャッターにすると波がぶれてしまうので、絞り開放にしてなるべく早いシャッター速度でと思いましたが、1/15秒が精一杯でしした。

 手前の石と奥の木の枝、そして湖面にピントを合わせたかったのでフロント部でアオリをかけていますが、画の下側と右上の葉っぱにはピントが合っていません。ボケ方としては素直な綺麗なボケだと思います。また、解像度も良好だと思います。
 撮影しているときには気がつかなかったのですが、手前の石の上にトンボがとまっていました。掲載写真の解像度を落としてあるのでわかり難いと思いますが、トンボの翅の模様までわかります。

 2枚目も同じく田沢湖で撮影した「たつこ像」です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F45 1/250 Velvia100F

 対岸の山の上に朝日が昇った瞬間で、たつこ像がシルエットになるよう、太陽にカメラを向けての撮影です。
 レンズの絞り羽根が10枚なので、太陽の周りに10本の光条が発生しています。
 シングルコーティングレンズなのでこのようなシチュエーションは苦手かた思いましたが、予想に反してくっきりとした画像が得られています。たつこ像の周囲に滲みのようなものもほとんど感じられず、輪郭がはっきりと出ています。また、山の稜線にある木々もはっきりと認識ができ、50年も前のレンズとは思えない解像度という感じです。

 この像の大きさは台座も含めると4mほどの高さがあり、それほど大きな像ではありません。撮影場所からたつこ像までの距離は20mほどだったと思うのですが、240mmという焦点距離のせいか、実際よりも大きく感じられます。このように周囲に遮るものがなく見通しのきく場所であれば、実際のレンズの焦点距離よりも短いレンズで撮影したような画をつくることが出来ます。

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 このレンズで撮影した写真はあまり多くないのですが、非常にシャープに写るという印象があります。同じシュナイダーのジンマーなどはもう少し柔らかな感じに写るように思うのですが、このレンズは複写用や近接撮影用に作られたということで、写り方に差があるのかも知れません。
 個人的にはシャープすぎるよりは若干柔らかさを感じる写りの方が好きなのですが、シャープに写った写真は気持ちの良いのも事実です。この辺りは好みによるものかも知れませんし、これらは被写体やその時のシチュエーションによって大きく異なりますが、今の時期、鮮やかな紅葉をアップで撮るといったような場合、このレンズの力が出るのではないかと思います。

 余談ですが、このレンズを購入(もちろん中古で)したのは7~8年前だったと思います。シャッターや絞りなどの動作自体は何ら問題はありませんでしたが、前玉にも後玉にもクモリがあり、分解して清掃をしてあります。今はとてもきれいなレンズです。
 なお、ダゴールタイプのレンズのシャープさは別物という話しをよく聞きます。前期型のGクラロンを見つけたらぜひゲットしたいと思っています。

(2024.11.12)

#Linhof_MasterTechnika #Schneider #シュナイダー #テストチャート #リンホフマスターテヒニカ #レンズ描写

AIが写真をつくる時代  写真とはいったい何なのか?

#写真観

アグファ AGFA のモノクロフィルム COPEX RAPID の使用感

 アグファ AGFA といえば世界で最初に内式のリバーサルフィルムを製造・販売した会社で有名ですが、いまから30年ほど前、アグファからはSCALA200というモノクロのリバーサルフィルムが販売されていました。個性的なフィルムを出す会社という印象がありました。今はADOXから若干のモデルチェンジをした製品がSCALAブランドで販売されているようです。
 実は、前々からAGFA COPEX RAPID というフィルムが気になっていたのですがなかなか使う機会がなく、ようやくそのフィルムを使って撮影が実現できましたのでご紹介します。

アグファのドキュメント用フィルム

 AGFA COPEX RAPID というフィルムはドキュメント撮影用というカテゴリーに分類されるようで、フィルムケースのラベルには「MICROFILM」と書かれています。すなわち、風景やポートレートなどを撮る一般的なモノクロフィルムではなく、本来は書類や図面などを記録するためのフィルムということのようです。
 ISO感度は50で、マイクロフィルムとしてみれば感度は高いと思いますが、一般的なフィルムからすると低感度です。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムで、通販で1本1,300円ほどで販売されていました。1本ずつプラスチックケースに入っており、そのキャップの上部には「Rollei」のロゴが入っています。
 また、ラベルには「MANUFACTURED BY AGFA GEVAERT N.V.」とあるので、フィルムの供給はドイツのマコという会社が行なっていますが、実際に製造しているのはベルギーにあるアグファ・ゲバルト社のようです。

 マイクロフィルムというとその用途から高い鮮明度と解像力が求められており、このフィルムも鮮明度や解像力は優れているようで、販売元のデータを見ると解像力は600本/mmとなっています。富士フイルムのモノクロフィルムACROSⅡの解像力はハイコントラスト時で200本/mmとのことですから、いかにCOPEX RAPIDの解像力が高いかがわかります。
 実際にウェブサイトなどに掲載されている作例を見ても、とてもハイコントラストで高解像度の写真に仕上がっていて、やはり、一般的なモノクロフィルムとは別物といった感じです。

 ドキュメント用フィルムだからといって風景が撮れないわけではないので、今回は神社仏閣と野草を対象に撮影をしてみました。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像は専用の現像液として販売されている「シュプール Dokuspeed SL-N」が推奨となっていますが、私は持ち合わせていないので、今回はSilverSalt現像液を使うことにしました。
 SilverSaltは比較的使う頻度が高く、使いかけのボトルが手元にあるのですが、COPEX RAPIDを現像する際のデータがありません。あちこち調べてみたのですが的確な情報を得ることが出来ず、環境的にいちばん似通っているであろうと思われるデータをもとに現像条件を決めました。

 ということで、今回の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : SilverSalt
  ・希釈 : 1 + 30 (原液1に対して水30)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 9分30秒
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルなので、必要な現像液の量は約500mlです。SilverSaltの原液17mlと水510mlを合わせて527mlの現像液を調合しました。

 因みに、135フィルムの場合、撹拌は1回で大丈夫なようです。

 先日までの猛暑もひと段落して室内温度もそれほど高くないので、現像液の温度を20度に保つにはありがたい気温になっていました。いったん20度になれば、20分ほどであればそのまま放っておいても液温はほとんど変わることはありません。

 現像後の現像液はピンク色に染まっていました。
 また、フィルムベースはほぼ透明ですが、非常にカールが強い傾向にあります。乾かしてもクリップを外すとくるんと丸まってしまい、スリーブに入れてもスリーブ自体が丸まってしまうほど強力です。

 なお、停止液と定着液は富士フイルムの製品を使いました。

COPEX RAPID の作例

 現像が成功したのか、はたまたイマイチだったのか、正直なところ判断がつきませんが、まずまずの像が得られているようです。
 今回の撮影に使用したカメラはPENTAX67、使用したレンズは105mm、200mm、300mmの3本、そして一部に接写リングを使用しています。

 まず1枚目は、神社の参道の入口にある狛犬を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX-M 67 300mm F5.6 1/250

 狛犬とその隣にある石灯籠などには陽が当たっていますが、背後の神社の森は日陰になっていて、コントラストの高い状態です。肉眼では背後の森もしっかりとわかる明るさなのですが、写真ではほとんど黒くつぶれています。
 こうしてみてみると、確かにハイコントラストに仕上がっているのがわかります。ローライのRPX25というフィルムもハイコントラストの傾向がありますが、それよりももっとシャープな印象があります。

 2枚目は、お寺の山門脇の草むらに置かれていた小さなお地蔵様です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 200mm F5.6 1/500

 右側のお地蔵様にピントを合わせていますが、何と言ったらよいのか、お地蔵さまも着けている前掛けや帽子などの質感さえも変わってしまっているような感じを受けます。柔らかさのようなものはどこへやら失せてしまい、金属で作られたオブジェのようにも見えてきます。

 そして3枚目、神社の拝殿を撮影しました。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 67 105mm F16 1/8

 少しコントラストの低い被写体をということで、太陽に雲がかかっている状態で神社の拝殿を正面から写しました。画の下半分はだいぶ明るいのですが、上に行くに従って陰になっているので徐々に暗くなっています。
 前の2枚に比べると確かにコントラストは低いのですが、シャープさはしっかり残っているというか、とにかくエッジがしっかりと効いているといった感じの描写です。正面の格子戸や賽銭箱、壁板、回廊に張られた床板の木目など、まるで鋭い刃物の先で線を引いたような感じで写っています。

 次に、野草も何枚か写してみたのですが、はっきり言ってこちらの方が驚きました。

 まずは道端に咲いていた野菊、多分、柚香菊(ユウガギク)だと思います。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500

 順光状態での撮影なので背後の草むらももっと明るいのですが、花弁だけがひときわ白く、まるでたくさんの小さな花火が開いているようです。花の質感が失われており露出オーバー気味ですが、それを差し引いても驚くようなハイコントラストです。

 そしてこちらも野菊の仲間、野紺菊(ノコンギク)だと思われますが、数輪だけをアップにしてみました。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500 EX3

 前の写真に比べると光が弱いのと、こちらは露出オーバーにはなっていないのでコントラストは若干低めですが、作り物のような印象を受けます。やはり単に鮮明度が高いというだけでなく、エッジがピンと立っているという感じです。花特有の柔らかさなありませんが、これはこれで一つの表現方法かも知れません。

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 今回は120フィルム1本、10コマだけの撮影でしたが、COPEX RAPIDというフィルムの特性を垣間見るには十分すぎるくらいでした。特に花を撮った写真の描写にはびっくりといった感じです。
 確かに風景写真や花の写真には不向きなフィルムかも知れませんが、一般的なモノクロフィルムでは味わえない独特な描写はとても印象的です。
 ただし、初めて使ったフィルムなので現像の特性等もわかっておらず、希釈率や現像時間、温度などを変えて何度か試してみる必要はありそうです。

 推奨されている現像、シュプール Dokuspeed SL-Nを使えばもう少し違う描写になるかも知れませんし、普段よく使っているD-76とかID-11などを使って現像すれば全く違う感じに仕上がるかも知れません。何種類かの現像液で試してみたい気もしています。

(2024.10.5)

#AGFA #アグファ #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム #COPEX_RAPID

大判カメラ タチハラフィルスタンド45 Fiel Stand 45 の蛇腹交換

 現在、私が使っている大判カメラのうち、唯一の木製カメラであるタチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は蛇腹がだいぶくたびれてきていて腰が弱くなっており、蛇腹を伸ばすと自身の重みで下側に垂れ下がってしまいます。しかも、ピンホールの補修箇所が何ヵ所もあります。光線漏れしているわけではないので使えないことはありませんが、蛇腹の締まりがないのは見てくれも良くありません。
 そこで、思い切って蛇腹を交換することにしました。

古い蛇腹の取外し

 タチハラフィルスタンドの蛇腹は、カメラのフロント部(レンズスタンダード)の裏側と、バック部の内側に直接接着されています。金属製のフィールドカメラなどのように何らかの金具を用いているわけではなく直付けです。このため、蛇腹はベりべりと引っ剥がす感じになります。
 フロント部、バック部のどちらから剝がしても問題はありませんが、フィルスタンドのフロント部は可動範囲が大きいので、フロント部を先に剥がした方が作業がし易いです。

 しかし、口で言うほど簡単には剥がれてくれず、蛇腹の端の方から少しずつ捲りあげ、ゆっくりと剥がしていくことになります。
 それでも長年の使用でへたってきている蛇腹は簡単に破れてしまい、フロント部の裏側に接着剤とともに残ってしまいますが、後で綺麗にするとして、まずはフロント側を全部剥ぎ取ってしまいます。

 フロント側を外した状態がこちらです。

 次にバック側ですが、こちらは木枠の底に貼り付けてあるような状態なので作業はしにくいですが、フロント部が外れているので蛇腹を畳んだ状態で隅のところから持ち上げていくと何とか剥がれていきます。
 取り外した蛇腹は使い道もなく廃棄ですが、こんな感じです。

 写真でもわかるように、合成ゴム系の接着剤が使われています。

 蛇腹を外したフィルスタンドはなんだかとても頼りなげな感じになってしまいます。

 次に、蛇腹が貼りついていたところに接着剤や破れた蛇腹の残骸があるので、これを綺麗にしていきます。
 カメラの素材が木なので、ドライバーの先やヘラなどの固いもので擦ると木が削れてしまう可能性があります。面倒ですが、ピンセットなどを使って残った接着剤をコツコツと取り除いていきます。剝がれにくい場合はドライヤーなどで温めると接着剤が柔らくなって剥がしやすくなります。

 こうして綺麗になったのが下の写真です。

 内側の縁が黒くなっているのは接着剤ではなく、黒い塗料が塗られていた名残です。

 バック部の内側も綺麗になりました。

新しい蛇腹の調達

 さて、新しい蛇腹ですが、いろいろと悩んだ末、今回は特注で作成していただきました。
 既製品を探してみたところ、耐久性に優れた本革製の蛇腹は非常に高額なのと、注文を受けてから作る受注生産品なので納期が2か月近くかかってしまうとのことで断念しました。私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは本革製の蛇腹を使用しているのですが、フィルスタンドはリンホフに比べると使用頻度が低いので本革製でなくてもいいだろうという自分なりの妥協です。
 また、ビニールのような素材のものあり、価格は安いのですが耐久性が心配で、こちらも候補から外しました。

 結局のところ、いろいろな蛇腹を専門に作っている会社に特注でお願いすることにしました。素材はウレタン系とのことで、耐久性も本革製に比べて劣ることはないだろうとのことでした。価格も本革製に比べると半額ほどで、納期も2週間ほどとのことでした。
 発注に際して指定した寸法等は以下の通りです。

  ・フロント側 : 外寸 112mm x 112mm、内寸 86㎜ x 86mm
  ・バック部  : 外寸 152mm x 152mm、内寸 126mm x 126mm
  ・縮長  : 45mm以下
  ・伸長  : 320mm
  ・山数  : 17(両端を除く)

 また、蛇腹の前後両端は合成ゴム系の接着剤で貼り付ける旨も伝えておきました。

 こうして届いた新しい蛇腹がこちらです。

 適度な厚みが感じられますが、本革性に比べるとたぶん軽いのではないかと思います。また、両端は接着剤がなじみやすいように布のような素材が貼り付けてありました。
 腰がしっかりしていて、両端に指をかけて持ち上げても重みで垂れ下がるようなこともありません。

新しい蛇腹の取り付け

 いよいよ新しい蛇腹の取り付けですが、手順としては外した時と反対、すなわち、バック部への取り付けを先に行ない、次にフロント部を取付けるという順番です。

 まずはバック部への取り付けですが、接着剤がはみ出して蛇腹どうしがくっついてしまわないように、一つ目の山の内側に保護用の紙を差し込んでおきます。

 上の写真だとわかり難いかもしれませんが、画用紙程度の厚さの紙を幅4cmほどに切り、これを蛇腹の内側に差し込んで紙どうしを糊付けしておきます。これで、もし接着剤が内側に流れ出ても、蛇腹の山と山がくっつかずに済みます。

 次に、蛇腹の位置が中央に来るように、バック部の木枠の内側に蛇腹のコーナーの位置をマーキングしておきます。
 そして、このマーキングした木枠の内側と、蛇腹の接着面に接着剤を塗布します。両方に薄く均一に塗った後、少し時間をおいてさらにもう一回塗布し、その状態で蛇腹をバック部の木枠内マーキング位置に貼り付けます。
 この時、カメラを後方に倒して、蛇腹を上から木枠内に落とす要領でやると作業がし易いです。

 この状態で蛇腹を上からぎゅっと押し付けます。すぐにくっつきますが、念のため5分ほど押さえておき、その後、蛇腹の上に重し(私は単行本を使いました)を載せて半日ほど放置しておきます。

 バック部を貼り付けた状態が下の写真です。

 次にフロント部への貼り付けですが、蛇腹のバック部が固定されているので作業がしにくいところがあります。貼り付け位置をバック部のようにマーキングだけではおぼつかないので、フロント部の裏側にマスキングテープを貼って位置がずれないようにします。
 このマスキングテープの内側と、蛇腹のフロント側接着面に接着剤を塗布して接着します。バック部と同様、2回の塗布を行ないました。
 フロント部は重しを載せて固定というわけにはいかないので、接着後は下の写真のようにクリップで挟んでおきます。

 蛇腹の角の部分はクリップで挟めないので、浮いてしまわないようにヘラなどを押し当ててしっかり接着しておきます。
 この状態でおよそ半日経てば、蛇腹はしっかりと接着されます。

 こうして新しい蛇腹になったタチハラフィルスタンドがこちらです。

 蛇腹の腰もしっかりしており、なんだか新しいカメラになったようです。
 接着面も確認してみましたが、浮いているような様子もなく、少々引っ張っても全く問題ありませんでした。
 また、暗室内にカメラを持ち込み、内部にLEDライトを入れてみましたが、光線漏れは確認できませんでした。
 今回、蛇腹の伸長を320mmにしてもらいました。このカメラのレールは約300mmまでしか繰り出せないのですが、蛇腹に約20mmの余裕を持たせることで蛇腹が伸び切ってしまわないようにという理由からです。

 蛇腹交換後、実際の撮影は行なっていませんが、たぶん、問題になるようなことはないと思われます。

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 タチハラフィルスタンドの使用頻度はあまり高くないとはいえ、くたびれた蛇腹のままにしておくことがずっと気になっていたのですが、やっと気持ちもすっきりし、気兼ねなく撮影に使えるようになりました。
 これまでウレタン系素材の蛇腹というものを使ったことがなく、今回初めての試みですが、耐久性については最低でも4~5年は使ってみないとわからないと思います。4~5年でヘタるようなことはないと思いますが、使用感など、気がついたことがあればあらためてレポートしてみたいと思います。

(2024.9.25)

#タチハラフィルスタンド #FielStand

写真用レンズの被写界深度とボケについて 

 カメラで写真を撮ったことのある方は被写界深度とかボケいうものを経験値として理解されている方も多いと思います。いまさら被写界深度について書くのもどうかと思いましたが、大判カメラで撮影していると結構気にすることが多くありますので、今回はそのあたりについて触れてみたいと思います。
 因みに写真のボケを英語では、「out of focus」と「blur」、そして「bokeh」の3通りがあるようで、out of focus はピントが合っていない状態、いわゆるピンボケで、blur は明瞭に写っていない状態、そしてbokeh はボケ味を意味するようです。今回対象としているのはout of focus 、すなわちピントの合っていないボケについてです。
 なお、3番目のbokeh は日本語のボケがそのまま英語になったらしく、もともと海外ではボケ味を鑑賞するという文化がなかったようです。ボケを味わうというのは日本独特の文化だったのかも知れません。

許容錯乱円と焦点深度

 実際のカメラ用レンズは複数枚のレンズで構成されていますが、最終的にレンズの後端から出る光路をつくり出す1枚のレンズとして考えることができます。また、レンズには収差が発生するので、厳密にはレンズから出た光が1点に収束することはありませんが、ここでは1点に収束する理想のレンズがあるとして話を進めます。

 無限遠からレンズに入ってくる平行光はレンズを通過した後、レンズの後側焦点に収束、つまり結像します。

 上の図で、無限遠からの平行光は後側焦点F’で1点に収束しますが、その前後は1点にならず、ある幅を持っており、焦点から離れるにしたがって大きくなっているのがわかります。ですので、ピントが合っているのは厳密には焦点の位置だけで、その前後はボケている状態であり、このボケている円のことを錯乱円といいます。
 ところが、この錯乱円が極めて小さい範囲においては、人間の眼にはピントが合っているように見える、つまりボケているようには見えないという状態で、ピントが合っているように見えるギリギリの位置の錯乱円のことを「許容錯乱円」とよびます。

 この許容錯乱円の大きさは長らく0.033mmという値が用いられてきました。実際にはあるところまではピントが合っているように見え、そこから先は急にボケているように見えるなどということはなく、徐々にボケ量が大きくなっていくわけですが、どこかで線引きをしなければならないのでこの値が決められたようです。
 ではなぜ、許容錯乱円径が0.033mmとされたのか詳しいことはわかりませんが、一説には視力1.0の人がある距離からある大きさ(例えば四切とか)に引き伸ばされた写真を見たとき、その中の識別できる最小の点の大きさ、つまり分解能が約0.033mmであるというところからきているようです。

 また、許容錯乱円は撮像面(フィルム面)上での大きさなので、そこから同じ大きさに引き伸ばしてプリントをした場合、撮像面が小さいほど拡大率は大きくなりますし、撮像面が大きいほど拡大率は小さくて済みます。この値が決められたころは、645版のネガなりポジからの引き伸ばしを想定しており、その場合は許容錯乱円0.033mmが妥当であったかも知れません。しかし、それよりも小さな35mm判とかハーフサイズ版、あるいは現代のAPS-C版などでは許容錯乱円をもっと小さくする必要があるし、逆に67判とか大判の場合はもっと大きくしても差し支えないということになります。
 ただし、この値がフラフラしているとややこしくなるので、便宜上、ここでは許容錯乱円を0.033mmとして進めることにします。

 上の図で後側焦点の両側にできる錯乱円ですが、この円の直径が0.033mmのところが許容錯乱円になります。そして、後側焦点の位置から前側にある許容錯乱円までの距離を「前側焦点深度」、後側にある許容錯乱円までの距離を「後側焦点深度」といい、これらを合わせた距離を「焦点深度」とよんでいます。言い換えると、焦点深度とは錯乱円径が許容錯乱円径以下になる範囲ということになります。
 この焦点深度は許容錯乱円が一定とすると、レンズのF値によって決まる値で、レンズの焦点距離が長かろうが短かろうがF値が同じであれば焦点深度も同じになります。
 例として、焦点距離50mm F2と、焦点距離100mm F2のレンズの焦点深度を表したのが下の図です。

 レンズのF値は焦点距離と有効径で決まり、式で表すと以下のようになります。

   F = f / D

 ここで、FはレンズのF値、fはレンズの焦点距離、Dはレンズの有効径を表します。
 上の式から、焦点距離50mmで有効径25mmのレンズのF値はF2、焦点距離100mmで有効径が50mmのレンズのF値もF2となります。そして、これらのレンズに入射する無限遠からの平行光はレンズを通過した後は同じ光路を通って後側焦点に収束することになります。したがって、許容錯乱円も焦点深度も同じということになります。
 これは、被写体を同じ大きさになるように写した場合、レンズの焦点距離が違ってもF値が同じであれば同じようにボケるということを意味します。

 これらのことから焦点深度は許容錯乱円径とレンズのF値によって決まることがわかります。
 焦点深度を求める式は以下のようになります。

   焦点深度 = ±εF = 2εF

 ここで、εは許容錯乱円径[mm]、FはレンズのF値を表します。
 また、±の符号がついているのは焦点深度の向きが前側と後側で反対になるからであり、絶対値としては2倍になることを示しています。

 実際に2種類の焦点距離のレンズを用いて、被写体が同じ大きさになるように撮影したものが下の写真です。
 使用したのは焦点距離55mm(左)と105mm(右)のレンズで、いずれもF4で撮影しています。2本のレンズの焦点距離が2倍になっている方が望ましいのですが、そのようにぴったりのレンズがなかったのでできるだけ近い焦点距離のものを採用しました。

 レンズの焦点距離が約2倍の違いがあるので、被写体までの距離も約2倍の差がありますが、ボケ方はほぼ同じことがわかると思います。
 ただし、撮影距離が違うのでパースペクティブに差が出ています。短焦点レンズ(55mm)の方は手前のものが大きく、奥のものが小さく写っているのに対して、長焦点レンズ(100mm)の方は大きさの差が少なくなっています。主被写体を同じ大きさになるように写しても、短焦点レンズの方が画角が大きいので背景が広く、そして小さく写るというレンズの特性です。

焦点深度と被写界深度

 上で説明したように焦点深度は撮像面での振る舞いであり、普段あまり使うことはない用語かも知れません。一方、被写界深度という用語は使う頻度が結構高く、感覚的にもわかりやすいと思いますが、この焦点深度と被写界深度の関係について少し触れておきたいと思います。

 下の図はレンズの基本的な光路を描いたものです。

 まず、レンズの前方の任意の位置にある被写体S (緑色の矢印)を、比較的焦点距離の長いレンズを想定して撮像面に結像した状態を表したのが図3の①です。右側にある下向きの緑色の矢印S’の位置が撮像面になります。
 いま、この下向きの緑色矢印の位置を基準に前側焦点深度と後側焦点深度の位置に緑色点線で矢印を書き入れます(図3の② S1’、および S2′)。ここはピントが合っているとみなされるギリギリの位置ということになります(実際に焦点深度はもっと浅いのですが、わかり易くするために大きめにとっています)。
 次に、前側、後側焦点深度の位置にある緑色点線の矢印から、そこに結像するための被写体の位置を描き入れます。図3の②の左側に示した緑色点線の矢印S1、およびS2 がその位置になります。
 つまり、撮像面の焦点深度両端が、被写体ではどの位置になるかを示しており、これが被写界深度になります。

 この図で分かるように、焦点深度は前側も後側も同じ距離ですが、被写界深度は後側が大きく(深く)、前側が小さい(浅い)ことがわかると思います。被写界深度は手前に浅く、奥に深いと言われている所以です。

 次に、これよりも焦点距離の短いレンズを想定して同じように作図をしてみます。
 下の図の赤色の線が短い焦点距離のレンズの場合で、図3で用いたレンズの半分の焦点距離としています。なお、いずれも同じF値という想定で描いています。

 レンズから被写体までの距離が同じ場合、焦点距離が短いほど撮像面に写る被写体の像は小さくなるのは言うまでもありません。
 そして、この結像の位置から前後に、許容錯乱円の大きさとなる場所に赤色点線の矢印(S1’、およびS2′)を描き入れます。許容錯乱円の大きさは図3②の青色矢印と青色点線矢印の高さの差になるので、これと等しい差分になる位置が焦点深度の両端になります。
 次に赤色点線の矢印からそれぞれの被写体の位置に線を引き、そこに結像するための被写体の位置を赤色点線の矢印(S1、およびS2)で描き入れます。この図の左側にある赤色点線の矢印間(S1~S2)がこのレンズの場合の被写界深度になります。

 この図からも明らかなように、同じ距離の被写体を写した場合、焦点距離の短いレンズの方が被写界深度が深くなるのがわかると思います。
 また、被写体までの距離が大きくなれば焦点深度が深くなり、逆に被写体までの距離が短くなれば焦点深度が浅くなるので、被写界深度にも同様の影響が出ます。

 一眼レフ用のレンズなどはピントリングのところに被写界深度目盛りがついているものがほとんどですが、同じF値でも広角レンズの方が広範囲まで被写界深度内に入っていることと一致します。
 参考までにPENTAX67用の焦点距離55mm(左)と200mm(右)のレンズの被写界深度目盛りの写真を掲載します。

 上の写真でもわかるように、被写体までの距離を3mに合わせた場合、焦点距離55mmのレンズでは絞りF22で約1.5mから無限遠までが被写界深度内に入っています。一方、焦点距離200mmのレンズでは絞りF22で約2.8mから約3.2mまでしか入っていません。
 レンズの焦点距離によって被写界深度は大きく異なりますが、あくまでも被写体までの距離が同じという前提があることに注意してください。

被写界深度とボケ

 ここまでの内容から、被写界深度を決める要素は次の4つになります。

  1) レンズの焦点距離:f
  2) レンズのF値:F
  3) 被写体までの距離(撮影距離):a
  4) 許容錯乱円径:ε

 これらの要素から被写界深度を求める近似式は以下のようになります。

  前側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² + a・ε・F )

  後側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² - a・ε・F )

 上の2つの式から、分子の値を大きく、分母の値を小さくすれば被写界深度が大きくなることがわかります。アバウトな表現をすると、許容錯乱円径を一定とした場合、被写体までの距離aを大きく、F値を小さく、レンズの焦点距離を短くすれば被写界深度が深くなるということになり、撮影の際に感覚的に理解している内容と一致すると思います。

 数式だけではわかり難いので、撮影距離と被写界深度の関係をグラフにしてみました。
 わかりやすいように焦点距離50mmと100mmのレンズを対象に、絞りをF4、F8、F16にしたときのグラフで、縦軸に被写界深度、横軸に撮影距離をとっています。縦軸の被写界深度は上側が後側被写界深度、下側が前側被写界深度です。なお、横軸、縦軸とも対数目盛を用いています。

 これら2つのレンズで被写体を同じ大きさに写そうとした場合、言うまでもなく、被写体までの距離(撮影距離)は焦点距離50mmのレンズに対して100mmのレンズでは2倍になります。この時、F値が同じであればそれぞれの焦点深度も同じになりますが、被写界深度は被写体距離がさほど大きくないときは比較的近い値をとります。

 被写界深度はピントが合っているように見える範囲であり、厳密にはピントを合わせた位置から前後に変位すればするほどボケ量が大きくなっていくというのは前で述べたとおりですが、では、ボケ量がどれくらい変化するのかを近似式で求めてみます。

 任意の位置に被写体を置き、レンズから被写体までの距離をaとします。
 そして、この被写体の位置から前後に、ある相対量だけ変位した位置の点光源が撮像面上でどれくらいのボケ径になるかを計算してみます。
 レンズから被写体後方にある点光源までの距離をc、また、レンズから被写体前方にある点光源までの距離をc’とします。
 これを図で表すとこのようになります。

 ここで、被写体の位置にピントを合わせた状態で、後方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる後ボケ)b₁、前方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる前ボケ)b₂ を求める近似式は以下の通りです。

  b₁ = ( f/F ) ・ ( f (c-a)/c(a-f))

  b₂ = ( f/F ) ・ ( f (a-c’)/c'(a-f))

 上の式をもとに、焦点距離50mmと100mmのレンズについて計算した結果をグラフにしてみるとこんな感じになります。なお、被写体までの距離は5mとして計算しています。

 このグラフでのボケ径とは撮像面における錯乱円の大きさを意味します。つまり、このボケ径が許容錯乱円(0.033mm)以下であれば被写界深度の範囲内にあることを示しています。
 グラフの目盛りの範囲が大きすぎるので、被写体距離周辺部だけを拡大したのがこちらのグラフです。

 焦点距離100mmのレンズで絞りF4、被写体距離5mで撮影した時の被写界深度を近似式で計算すると、

   前側被写界深度 : 283.0mm
   後側被写界深度 : 319.1mm

 となります。
 このグラフでボケ径が約0.03mmのところを見ると、被写界深度の位置が被写体の後方が5.3m付近、前方が4.7m付近となっており、被写界深度との関係が一致しているのがわかると思います。

 ここまで述べてきたように、ボケの大きさや被写界深度を決定づける要素として、レンズの焦点距離、F値、被写体距離、背景や前景との距離などがありますが、それぞれが密接に関係し合っていて、単純にどれか一つの要素だけで被写界深度やボケ径が決まるわけではありません。例えば、焦点距離が長い方がボケる、というのは間違いではありませんが、それより短い焦点距離のレンズでも絞りを開いた方がボケは大きくなることもあるわけですから、それぞれの要素に前提条件をつけておかないと全く違った結果になってしまうなどということが起こり得ます。
 複雑な計算式を覚えておく必要はありませんが、要素の相互関係とそれによる振る舞いを理解しておくというのは大事なことだと思います。

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 撮影したい被写体を前にした時、どの範囲を撮るか(フレーミング)、パンフォーカスにするか、あるいはどこをぼかしたいか等々、自分の作画意図に合わせて出来上がるであろう写真を頭の中で想像しながらレンズの選択や撮影位置、露出などを決めています。
 被写界深度やボケ具合はカメラのファインダーを覗けばある程度確認はできますが、それが作画意図に合わなかった場合はレンズを変えたり場所を変えたりと、とても非効率です。
 露出も重要なことですが、被写界深度やボケというものも同じくらい写真の出来に影響を与える重要な構図の要素の一つだと思います。

(2024.9.10)

#ボケ #絞り #被写界深度 #焦点深度

野草撮影にあると便利な小物のあれこれ

 私が撮影対象としていちばん多いのは自然風景ですが、次いで多い対象物(被写体)が野草です。
 野草は背丈が低く、しかも、草むらの中などにひっそりと咲いていることが多いので、どうしてもローポジションでの撮影になりますし、マクロ撮影とまではいかなくてもかなりの近接撮影になるとこが多いです。また、光の具合を調整したりすることも多く、そのための小物類もいくつか持ち歩いています。
 私が野草撮影に使っているカメラは主にPENTAX67、およびPENTAX67Ⅱですが、今回はこれらのカメラでの撮影の際に用いている小物類をご紹介します。

クランプヘッド

 野草撮影で最も苦労するのが、カメラをいかに低いポジションに構えられるかということです。
 PENTAX67は言わずと知れた中判のフィルムカメラで、レンズも含めるとかなりの重量級となるため、三脚も大型のものを使っています。大型の三脚は、脚を目一杯広げて低くなるようにしても、カメラの位置は地上から40~50cmほどが精一杯という状況です。
 そこで、三脚の脚の部分にカメラを設置できるようなクランプヘッドを使用しています。

 私が使用しているこのクランプヘッドは改造品で、もともとはスリック製の「クランプヘッド38N」という製品と、マンフロット製の「スーパークランプ」という製品を組み合わせて作ったものです。これについては下記のページで紹介しています。

  「スリッククランプヘッドと超ローアングル撮影」

 この自作クランプヘッドを三脚の脚の最下部に取り付けると、最低地上高が数cmという高さでの撮影が可能になります。背丈が数cmしかないような小さな野草でも、ほぼ同じ目線で撮影することができます。
 このスリックのクランプヘッドの難点は、チルトとサイドチルトはできるのですがパンができないということです。つまり、カメラを上下に振ったり水平を調節したりはできるのですが、左右に振ることができません。
 これを解決するにはここに自由雲台のようなものを取付けるしかないのですが、そうすると最低地上高が高くなってしまい、地面すれすれでの撮影ができなくなってしまいます。

アングルファインダー

 クランプヘッドを用いることで低いポジションでの撮影が可能になりますが、そうすると、地面に腹ばいにでもならない限り、カメラのファインダーを覗くのがとても難儀になってしまいます。
 そこでカメラのファインダーを上から覗くことができるアングルファインダーを使用しています。

 ファインダーからの光を直角に曲げてくれるものですが、カメラのファインダーを中心に360°回転するようになっているので、上からも横からも覗くことができます。また、視度調整機能が備わっているので、自分の視力に合わせてくっきりとした像を見ることができます。
 カメラを地面すれすれに構えた状態であっても、しゃがみ込めばファインダー内を見ることができるのでとても便利です。
 私が使っているPENTAX67用のアングルファインダーは、カメラ背面のファインダー窓に嵌まっている視度調整レンズを外し、そこにアングルファインダーをねじ込むという方式なので、取り付け取外しが少々面倒です。野草を撮るときは付けっ放しにすることが多いのですが、そうするとアイレベルでの撮影の時に不便を感じます。取り付け取外しがもっと簡単だといいのですが。

接写リング

 レンズの最短撮影距離を更に短くして近接撮影を行なうためのものです。
 これについても下記のページで紹介しているので、詳細はこちらをご覧ください。

  「PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)」

 私が接写リングを使う理由は、近接撮影をするということもありますが、いちばんはボケを大きくしたいということです。なので、近くによってマクロ的な撮影をするというよりも、比較的焦点距離の長いレンズに接写リングを取り付けて、少し離れた位置から撮影するというスタイルが多いです。もちろん、3個の接写リングすべてを取付ければ、長焦点レンズでもその撮影距離はかなり短くなりますが、3個も同時に使うことはほとんどなく、なだらかできれいなボケが得られる範囲での使い方が多いです。

 接写リングを使用すると、レンズ側のピント調整リングで合わせることのできる範囲が非常に狭くなってしまうので、接写リングをとっかえひっかえしたり、三脚ごと撮影位置を前後したりしなくて済むように、あらかじめ撮影位置や撮影倍率のアタリをつけておくことが望ましいです。

レフ板

 前にも書いたように野草は背丈の低いものが多いので、うまい具合に光が回ってくれないことも多々あります。小さいがゆえに、光の状態が良くないと出来上がった写真はどことなく精彩を欠いてしまうことも少なくありません。
 光を調整するといっても限界があるのですが、比較的よく使うのがレフ板です。

 ポートレート撮影などでは畳半分くらいもあるような大きなレフ板を使うこともありますが、野草撮影ではそんな大きなものは必要なく、私が使っているのは25cmx40cmほどの大きさで、二つに折りたためば半分の大きさになります。
 このレフ板も自作品で、ボール紙にアルミホイルを張り付けただけのものです。できるだけコンパクトになるよう、真ん中から半分に折りたためるようにしています。
 アルミホイルは光沢のある表と光沢の少ない裏側とがあるので、反射率で使い分けられるようにレフ板の半分に表側、もう半分に裏側を出して貼っています。また、光が拡散(乱反射)するように、アルミホイルをしわくちゃに揉んだものを使用しています。

 草むらなどで光が十分に回っていないときなど、柔らかな光をあてて全体的に明るくするという目的で使用します。

 また、二つ折りにできるレフ板をくの字に折ることで地面に自立させることができます。レフ板を手で持っていなくても済むということと、本来のレフ板の使い方ではありませんが、被写体の脇に立てることで風よけにもなります。野外で撮影していると風で花が揺れてしまうということもよくありますが、この小さなレフ板でも被写体ブレを防ぐことに大いに役立ってくれます。

手鏡(ミラー)とストロボスポット光アダプタ

 レフ板は全体的に柔らかな光を回すために使いますが、部分的に強めの光を当てたいということもあります。周囲は暗めにして、花のところなど部分的に明るくしたいというような場合です。
 レフ板に比べると使う頻度は低いのですが、お目当ての野草を引きたたせるために、私は手鏡とストロボを使うことがります。

 まず手鏡ですが、カードサイズの小さな手鏡の中央部分だけを出して、周囲は黒い紙でマスクしたものを使います。

 カードサイズと言えども、そんな大きな反射光は必要なく、直径3~4cmほどの大きさの反射面があればほぼ用が足ります。
 手鏡と同じ大きさの黒い紙の中央をくり抜き、これを鏡に重ねて使うだけです。くり抜く大きさのものを数種類用意しておけば便利かもしれません。
 手鏡程度であれば荷物にもならなく便利ではありますが、光の調整ができません。太陽の光をもろに反射させるので、結構強い光が当たります。周囲が影になっているときだとコントラストがとても高くなってしまうので、使い方を誤ると失敗作をつくり出しかねません。

 手鏡に比べると荷物としてはかさばりますが、光の調整ができるのがストロボです。
 マクロ撮影などで影ができないリングストロボを使う方も多いと思いますが、全体を明るくするのではなく、あくまでもスポット光を手に入れたいということなので、私はごく普通のクリップオンストロボ(しかもかなり昔の製品)を使っています。
 ただし、ストロボそのままでは照射される光がかなり広範囲に広がってしまうので、ごく狭い範囲だけに照射できるようなアダプタを自作して使っています。

 アダプタというほど大層なものではないのですが、100均のお店で黒色のストローを買ってきて、これを半分の長さに切って束ねただけのものです。これをストロボの発光窓の前に被せて使います。
 ストローの直径が約5mm、長さが約90mmで、ストロボから発せられた光はここを通ることでほぼ直進成分の光だけに絞られます。斜め成分の光はストローの中を通る際に減衰してしまうので、照射される光は絞られたスポット光になります。

 正面から見るとこんな感じになります。

 これでもストロボの発光窓と同じくらいの大きさの照射光になってしまうので、さらに小さくするためにアダプタの先端に黒い紙で作ったマスクを取付けます。これで、直径3~4cmほどのスポット光になります。
 ストロボ側で光量を調整できるので、作画意図に合わせた光を得ることができます。

半透明ポリ袋

 手鏡やストロボとは反対に、光を拡散させて弱める目的で使用します。
 使っているのはスーパーなどのレジ近くに置いてあるタイミーパック、いわゆる半透明のポリ袋です。このポリ袋をボール紙で作った四角い枠に張り付けただけのものです。

 非常に薄い素材でできていて、光の透過率はかなり高いと思われるのですが、きれいに拡散されるので影になることなく柔らかな光にすることができます。ちょうど雲を通り抜けてきた光と同じような状態になります。
 直射日光が当たっていてコントラストが高すぎるときは、雲がかかってくれないかなぁと空を仰ぎ見ることがありますが、そういときに限って青空が広がっているものです。そんな時にこのポリ袋を被写体の上の方に置くだけで、雲がかかった時のような光の状態になります。

 サイズは大きい方が使い勝手は良いと思うのですが、大きすぎるとカメラバッグに入らなくなってしまうので、スーパーのレジに置いてある程度の大きさが手ごろではないかと思います。

洗濯ばさみ

 屋外で野草撮影していて以外に重宝するのが洗濯ばさみです。
 洗濯ばさみをそのまま使うのではなく、私は洗濯ばさみどうしを紐でつないだものと、菜箸の先端に洗濯ばさみを括り付けたものの2種類をカメラバッグに入れて持ち歩いています。

 これらをどう使うかというと、まず、洗濯ばさみどうしを紐でつないだ方ですが、これは撮影に際に邪魔になる枝や草などをちょっと脇に避けてもらうときなどに使います。枝を折ったり草を切ってしまうわけにはいかないので、これを洗濯ばさみでつまんで引っ張って、もう一方の洗濯ばさみをほかの木の枝なり三脚なりに挟みます。これで、撮影が終わるまでの暫時、邪魔になるものに避けてもらうことができます。

 菜箸の先端に括り付けたほうも目的は似たようなものですが、こちらは地面に刺して使うことが多いです。紐でつないだ洗濯ばさみの一方を止める場所がないときに、この菜箸を地面に刺してここに止めるとか、あるいは菜箸の先端の洗濯ばさみで避けたいものを挟み、菜箸を地面に刺すなどといった使い方です。もちろん、手で持っていることもできますが、地面に刺しておいた方が楽です。
 また、上で紹介した半透明のポリ袋の枠をこれで保持するといった使い方もします。
 なお、洗濯ばさみは挟む力が強すぎない木製のものを使用しています。

 自然のものはあるがままの状態で写すべきとも思いますが、時にはどうしてもフレームの中に入ってほしくないものがあるのも事実で、そういったときに使っています。

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 フィールドでの野草撮影は結構手間がかかります。被写体が小さいというのもありますが、光の状態などによって全く雰囲気が変わってしまうので、気に入った光、気に入ったアングルなどを決めるのに時間がかかります。その間にも状況はどんどん変わっていってしまいます。自然の状態にできるだけ手は加えたくないと思うのですが、最低限の処理で撮影をするようにしています。
 野草撮影といってもそうそう珍しい花に出会えるわけではありませんが、植物図鑑やネット上の記事でしか見たことのない野草に出会ったりするとやはり嬉しいものです。
 一方で、昨年ここに咲いていたはずなのに、今年はなくなっていたなんていうこともあり、環境の変化で生きていけなくなったのか、盗掘によるものなのかはわかりませんが、寂しい思いをすることもあります。
 どちらかというと華やかさはなく地味なものが多い野草ですが、野生で生きていく力強さも相まって何とも魅力のある存在です。

(2024.8.23)

#PENTAX67 #クランプ #ペンタックス67 #小道具 #接写リング

夏の野外撮影 暑さ対策グッズのあれこれ

 昨年(2023年)は記録的な暑い夏でしたが、今年(2024年)はそれに輪をかけて暑い日が続いています。たぶん、昨年の記録を上回る暑い夏になるのではないかと確信をしています。体温に匹敵する、時には体温を上回るような暑い日が続くと撮影意欲も減退します。
 私が主に撮影する被写体は自然風景や野生の花などなので、撮影となると暑くても野外に出かけなければなりません。できるだけ気温の低い早朝や夕方の撮影をと思ってはいますが、時には日中に出かけることもあり、容赦ない太陽の光と熱を浴びながら歩いていると気が遠くなるような気がします。
 撮影中に熱中症などでぶっ倒れでもしたら大変なので、自分自身の暑さ対策もあれこれやっていますが、同じくらい、カメラやフィルムの暑さ対策も必要になります。できるだけ日陰を選んで歩いたり撮影したりはしていますが、特に大判カメラの場合、撮影の準備や撮影そのものに時間がかかるので、どうしても日にさらされる時間が長くなります。

 ということで、今回は私がやっている暑さ対策についてご紹介します。

日傘ホルダー&日傘

 夏の撮影でいちばん苦労するのは、いかに直射日光を浴びないようにするかということです。森の中などのように木が生い茂っているところは有難いのですが、自然相手の撮影なのでなかなか都合よくはいきません。
 そこで、人工的に日陰を作ろうということで、三脚に日傘を取付けて撮影に臨んでいます。

 私が使っているのは、エツミの「傘ホルダーレインブラケット DXⅡ」という製品で、これに日傘を取付けて使っています。もともとは雨降りの日の撮影用にということで用意したものですが、夏の日除け対策にも役立っています。
 この製品を購入したのは10年以上前になると思います。かなり以前から販売されていたもので、まるでメタルベンダーを使って手作業で作ったような手作り感満載の風貌です。
 最近はクランプ型の傘ホルダーの類いがたくさん販売されていますが、ちょっと力がかかると壊れてしまいそうな気がして食指が動きません。その点、この傘ホルダーはハンマーで力いっぱいたたいてもびくともしなさそうです。

 この製品は2つのパーツに分かれているのですが、L型に曲がっているパーツ(固定プレート)は三脚の雲台を固定するネジに差し込み、そのまま運台を締めつけて使用します。取り付けたり外したりが面倒なので、私は取り付けたままにしています。ここに、もう一つのパーツ(ブラケット)を取付けて使用します。こちらは取り付けたままにしておくと三脚の持ち運びの際にとても邪魔になるので、使用するときに取り付けるようにしています。

 何ともシンプルな構造ですが結構しっかりしていて、大きめの傘でもぐらつくことがありません。傘の取り付け角度は前後にそれぞれ30度ほど調整ができるので、撮影アングルや日差しの向きなどに合わせて動かすことができます。 
 傘の柄の直径が概ね10mm以下であればどんな傘でも問題なく取り付けることができますが、私は撮影の際は折りたたみ傘を持ち歩いているので、それを使用しています。

 人工的な小さな日陰ですが、この日陰があると無いとでは夏の撮影時にかかる負担は雲泥の差です。

カメラ用の日除けカバー

 日除けの傘があれば自分自身だけでなくカメラも日差しから守ることができるのですが、太陽の位置や角度によってはどうしてもカメラに直射日光が当たってしまうという場合もあります。真夏の強烈な日差しにさらしておくとカメラの筐体や蛇腹がものすごく熱くなります。このような状態を長時間続けておくと、カメラへのダメージも大きいだろうと思われ、その対策用にカメラカバーを持ち歩いています。

 これは、100均で購入した保冷袋を切り開いて、カメラにかぶせるようにしたものです。これだけだと腰がなくてフニャフニャしてしまうので、内側に薄手の段ボール紙を貼っています。
 これをカメラの上にかぶせ、左右両側に取り付けたゴム紐をカメラの下側に回しかけて固定するだけという単純なものです。
 使用するレンズによってレンズ自体の長さや繰り出す蛇腹の長さが異なるので、あまりピッタリとした寸法にするのではなく、若干大きめにしておいて、前後に自由に動かせるようにしています。

 以前は白っぽい色のタオルをカメラにかけて日除けをしていたのですが、タオルをかけてしまうとカメラの操作がしにくくなるのと、タオルがカメラに密着してしまうので、以外と熱が伝わってしまうということがあり、このカバーを使うようになりました。
 とても軽く、畳んでカメラバッグに入れておけば邪魔にもならないので思いのほか重宝しています。

フィルム用保冷バッグ

 暑い夏の撮影でもっとも神経を使うのがフィルムです。フィルムは冷凍保存ができるくらいですから寒さには強いのですが、高温のところに長時間さらされると乳剤が変質してしまいます。なので、暑い季節に野外撮影に行くときは、フィルムをできるだけ涼しいところに保管するようにしています。
 本来は保冷剤を入れた保冷バッグを使うのが望ましいのですが、かさばってしまうので現実的ではありません。
 そこで、小さな保冷袋にフィルムを入れて携行するようにしています。

 この保冷袋はフィルム用というわけではありませんが、ちょうど4×5判のフィルムホルダーが入る大きさのものを見つけたので購入したものです。4×5判フィルムホルダーが6枚と、ブローニーフィルムが5~6本入ります。
 保冷剤を入れているわけではないので冷やすことはできませんが、フィルムの温度が上がるのを極力抑えることはできます。この保冷袋ごとカメラバッグに入れています。
 4×5判フィルムホルダーが6枚だと両面で12枚のフィルムを携行することができるので、手ごろな大きさだと思います。

クールタオル

 野外撮影の際にタオルは汗を拭くだけでなく様々な用途に使えるので傾向は必須ですが、暑い時期に普通のコットンタオルを首にかけていると熱がこもってさらに暑く感じます。吸水性には優れているので何かと便利ではありますが、暑さ対策という点からするとイマイチといったところです。
 私は少しでも涼しさを感じられるようにということで、暑いときの野外撮影にはクールタオルを用いています。

 この類いの商品はたくさん販売されていて、どれが良いのやら判断に迷いますが、私が使っているのは特別なものではなく、薄い生地のクールタオルです。水で濡らした後、絞ったりブンブン振ったりするとひんやり感のあるタオルになります。暑いときは20分もすれば水分は抜けてしまいますが、それでも肌触りがサラサラした素材なので気持ちが良いです。乾いた状態で首にかけていても、熱がこもるような感じはありません。

冷却スプレー

 渓流沿いを歩いて撮影しているときのように、常に手が届くところに水がある場合は、タオルが乾けばすぐに濡らすことができますが、山や森に入るとなかなかそういうわけにはいきません。携行している飲み水でタオルを濡らすということもできますが、大量の水を持ち歩いているわけではないので、飲用以外の用途に使うことはほとんどありません。
 そこで、濡れタオルの代用として重宝するのが冷却スプレーです。

 あまり容量の大きなものは重いしかさばるので、ほどほどの大きさのものをカメラバッグに入れています。タオルに吹きかけるとすぐにキンキンに冷えるし、薄手のTシャツなどの上から吹きかけるととてもひんやりとします。
 ただし、ひんやり感はそう長くは続かないので、一時的に冷やすだけの効果です。それでも、暑さに火照った体にはありがたい存在です。
 直接肌に吹きかけると冷たさを通り越して痛みを感じるので要注意です。

瞬間冷却材

 冷却スプレーは局所的、かつ、短時間しか冷えないのに対して、もう少し長い時間、体を冷やしたいというときのために瞬間冷却材を携行しています。
 外袋を叩いて中の袋を破ると、中に入っている硝酸アンモニウムと水が反応して瞬時に冷たくなる仕組みのようです。

 外気温によっても違うのでしょうが、暑いときでも20分くらいは冷たい状態を保ってくれます。これを手ぬぐいなどにくるんで首筋や額に巻いておくと体全体が冷える感じがします。
 軽いので5~6個持ち歩いてもそれほど負担にはなりませんが、私は3個ほどを携行して、本当に暑いときにだけ使うようにしています。
 とても便利なアイテムですが、使い終わった後、ゴミになってしまうのが難点です。

防虫スプレー

 防虫スプレーは暑さ対策というわけではありませんが、特に初夏から秋口にかけては虫に刺されるリスクも高いので、防虫スプレーは常に携行しています。
 これもいろいろな商品が販売されているので自分に合ったものを使えばよいのですが、私は天然由来成分配合と書かれたものを使っています。これまでたくさんの種類の防虫スプレーを使ってみましたが、臭いがきつかったり、スプレーすると肌がべたついたりするものも多くあり、適度な香りとサラサラ感のあるものということで、今はこれを使っています。

 携行するので、できるだけ小さなボトルのものを購入しています。

 防虫スプレーはその名の通り虫よけで、いちばんなじみ(?)があるのが蚊だと思います。確かに蚊はどこにでもいるし、刺されると痒くて撮影の集中力が低減するし、防御したい虫の代表格ではありますが、実は私がいちばん避けたいのはアカウシアブです。蚊に比べると出会う頻度は格段に少ないのですが、どこにでも生息しているらしいので、どこで遭遇しても不思議ではありません。
 このアカウシアブ、見た目の大きさも姿かたちもスズメバチにそっくりです。ハチの場合、こちらが何かしなけば刺すことはないですし、追い払えば逃げていきますが、アカウシアブは動物の血液を吸うことが目的なのでしつこくつきまとい、追い払っても逃げません。刺すといういうよりは血液を吸うために肌を噛み切るらしいのですが、そうすると大きく腫れて痛みもあり、それが何日も続いて大変なことになるようです。
 私もアカウシアブには何度もつきまとわられたことがあります。幸いにもまだ噛まれた経験はありませんが。
 防虫スプレーがアカウシアブにどの程度の効果があるかわかりませんが、虫が嫌がる臭いであれば寄ってこないのではないかと思い使っています。

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 年々、夏の暑さが厳しくなる気がしており、夏の野外撮影は本当にしんどいと感じることが増えたように思います。毎年、自分が歳をとっていることも影響しているかもしれませんが...
 このような暑いときに撮影に行かなくてもよいではないかと思ったりもしますが、やはり、この時期でなければ撮れないものもあるわけで、暑い々々と言いながらもカメラを背負って出かけていきたくなります。
 20年くらい前まではこのような暑さ対策グッズなど持たずに出かけていたと思うのですが、年齢を重ねたことを差し引いても、近年は急速に暑さが増していると思います。
 いろいろなものを携行すればそれだけ荷物が重くなるわけで、本来は暑いときは荷物を軽くしたいのに、それに逆行している現実があります。

 そういえば、最近、水冷式のベストが脚光を浴びているようで、鳥肌が立つほど涼しいというレポートを見たことがあります。そんなに効果があるのかとだいぶ気になっているのですが、大量の水を背負った状態でさらにカメラバックを背負うことは困難だと思われ、今のところ購入に至っていません。

(2024.8.8)

#大判フィルム #小道具