花を撮る(2) 春に咲く野草

 3月の声をきくとフィールドの野草も急激に増えてくる感じです。花の少ない冬が終わり、心もうきうきしてきます。
 春の野草は背丈が低いものが圧倒的に多く、撮影にも苦労します。ローアングルでの撮影が多くなりますが、今回はそんな春の野草の撮影にフォーカスしてみたいと思います。

ヒメオドリコソウ

 オオイヌノフグリとともに、今ではすっかり日本の春の風景となってしまったヒメオドリコソウ。シソ科の帰化植物ですがその繁殖力は旺盛で、日本中のいたるところで見ることができます。日本原産のオドリコソウはすっかり少なくなってしまいましたが、ヒメオドリコソウは増える一方です。

 葉っぱの色がくすんだ紫色をしてるため、群生しているところはお世辞にも美しいとは言えません。しかし、よく見ると赤紫の可愛らしい小さな花をつけています。
 この野草は、群生しているところよりも、1本だけ、あるいは数本だけのところを狙った方が可愛らしさを表現できると思います。

 下の写真は、1本だけですがオオイヌノフグリとコラボしているところを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 EX2+3 PROVIA100F

 オオイヌノフグリとともに、春先に最も早く咲く野草の一つです。明るい日差しが感じられる方がこの野草には似合っていると思います。
 カメラを地面すれすれまで下げて撮っています。この写真のヒメオドリコソウの背丈は6~7cmほどですが、20cmくらいまで伸びますので、あまり大きくないほうがバランスは良くなると思います。
 赤紫色の花に露出を合わせていますので、オオイヌノフグリは露出オーバーになっています。

ムラサキハナナ

 この野草も良く見かけます。オオアラセイトウ、ショカッサイ、ハナダイコンなどとも呼ばれており、厳密にはそれぞれ違いがあるらしいのですが、私にはよくわかりません。花の色が紫色と赤紫色があるようですが、それも個体差なのかどうかもわかりません。
 この花が群生しているところを見かけることがありますが、それは見事です。

 群生しているほどではありませんが、そこそこ咲いている中から1本だけを撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 1.4X PROVIA100F

 午前中の比較的早い時間帯、まだ太陽があまり高くならないうちに逆光の状態で写しています。薄い花びらを光が透過して輝きを放っているような雰囲気を狙ってみました。
 この野草は比較的、背丈も大きくなるため、地面にはいつくばって撮る必要もないのでありがたいです。

 露出アンダーだと赤紫色が濁ってしまうので、1段くらいオーバー目にした方が明るい雰囲気が出せると思います。

タチツボスミレ

 スミレの中では早めに咲き始めます。日当たりのよい道端や草原、森林、やぶなどに普通に見られる多年草です。背丈は20cmくらいまで伸びますが、春先に見られるのは半分ほどの背丈です。背丈には不釣り合いなくらい大きな花をつけるので、わずかな風でも大きな花が揺れてしまい、風の強いときの撮影は苦労します。

 下の写真は、里山の道端に咲いていたものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 全面に光が当たっていると平面的になってしまうので、薄雲がかかって、花のところに直接光が当たらない瞬間を狙って撮りました。そのため、光が当たっている背景はかなり露出オーバーになっています。
 タチツボスミレと背景との距離が近いので、背景のごちゃごちゃしたものがボケきれていません。200mmのレンズで撮っていますが、もう少し長めのレンズの方が背景を美しくできたと思います。

 いちばん右の花とその隣の花では、わずかに右の花が手前にあります。両方の花にピントを合わせるため、レンズから二輪の花までの距離が等しくなるよう、カメラアングルを決めています。

タンポポ

 どこででも普通に見られる野草ですが、その多くはセイヨウタンポポです。日本の在来種であるニホンタンポポは本当に少なくなってしまいました。それでも、タンポポの咲いている風景というのは心和むものがあります。

 下の写真もセイヨウタンポポです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F4 1/30 EX3 PROVIA100F

 5月くらいになるとタンポポの背丈もかなり伸びますが、3月の頃に咲くタンポポは、葉っぱもロゼッタ状になっており、花も地面に張り付いてるくらいに背丈が低いものが多いです。一緒に咲いている小さな白い花はタネツケバナですが、それに埋もれてしまうくらいの背丈です。
 カメラを地面につくくらいまで下げ、タンポポとほぼ同じ目線から撮っています。タンポポだけクローズアップして撮ると花の表情が良く出ますが、周りの環境を含めて写すことにより、タンポポの魅力を引き出すことができると思います。

 タンポポに限らず、黄色の花は見た目以上に明るいので、かなり多めに露出をかけないと花の色が黒っぽく濁ってしまいます。太陽に向かって咲いている姿は、明るめの方が似合っていると思います。

クサノオウ

 ケシ科の越年草で有毒植物です。皮膚病などにも効果があるらしく、昔から薬として使われてきたようです。
 初夏の野草というイメージが強かったのですが、近年は暖かいせいか、関東では3月中旬くらいから見かけるようになりました。遠くからも目につく黄色い花を咲かせる野草です。

 近所の公園の脇に咲いていたクサノオウを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 薄紙のような花弁が印象的です。日が当たっていない建物の陰をバックに、黄色の花を浮き立たせました。
 このようなシチュエーションでは画全体でとらえてもうまく露出設定ができないので、スポット露出計を用いてピンポイントで測光するのが望ましいです。
 この写真には写っていませんが、下の方の葉っぱが適正な明るさになるように露出を決めています。花の部分はそれよりも1.3段ほど、露出が多めになっています。先ほどのタンポポと同じで、黄色い花はかなり露出を多めにかけないと暗い印象になってしまいます。

 また、この花は産毛のようなものがびっしりと生えたつぼみも印象的で、良いアクセントになってくれます。

イチリンソウ

 野山に生える代表的な春の野草で、里山や林床などでよく見られます。可愛らしい白い花はとても清楚な感じがします。花が咲き終わり、初夏には地上部分がすっかり枯れてしまいますが、地下茎はしっかりと残っていて、長い期間をその状態で過ごすようです。
 群落をつくって咲くことが多く、写欲をそそられる花です。

 下の写真は偶然見つけたイチリンソウの群落です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 たくさんの花が咲いているときは、どの花を撮るか迷います。いろいろなアングルから見て、画としてバランスの良い部分を見つけ出せればいいのですが、これがなかなか思うようにいきません。テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができればいいのですが。

 それぞれ好き勝手な方を向いて咲いていますが、こちらを向いている一輪を見つけたので、花の形が良くわかるアングルから撮影しました。カメラを目いっぱい低く構え、空が少し入るくらいにレンズを上向きにしています。これによって明るい春の日差しを表現しようとしました。
 こじんまりと咲いているオオイヌノフグリも色どりを添えてくれています。

 花が白いので、緑の葉っぱが適正になるように露出を決めると、色が濁らずに清楚な感じが保てると思います。

イワウチワ

 少し山に入った半日陰の岩場で見かける多年草です。どちらかというと北斜面の岩場で見られることが多く、他の植物が生えていないようなところにしっかりを根を下ろしています。薄ピンク色の花はとても可愛らしいです。
 イワウチワによく似た花にトクワカソウがありますが、葉っぱの形で区別できるようです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/30 EX2 PROVIA100F

 岩場に枯葉が降り積もったような場所に生えているので、周辺の色合いはとても地味です。そのため、薄ピンク色の花は一層目立ちます。陽が差し込むと宝石をちりばめたような光景になります。
 上の写真も逆光気味で撮っており、花びらが浮き上がってくるようなところを狙いました。
 花がとても可愛らしいのでアップで撮りたくなりますが、周囲の環境がある程度わかるように撮った方が、この花の魅力が伝わるように思います。
 自動露出で撮ると、周囲が暗いので花の質感が飛んでしまう可能性があります。花をスポット測光して露出を決めた方が、花の質感を損なうことがないと思います。

 この花の撮影で苦労するのは、三脚が立てにくいところに咲いていることです。平らな足場の良いところに咲いているのを見たことがありません。しかし、毎年撮りに行きたくなるくらい魅力のある花のひとつです。

(2021.4.3)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~啓蟄~

 いよいよ三月、啓蟄という言葉を聞くと本格的な春の訪れを感じます。やはり暖冬なのか、今年(2021年)は2月から暖かな日が多く、春の訪れが早いように感じます。梅の開花も随分と早かったようで、桜の開花も例年よりも早いとの予想のようです。
 この時期はフィールドの変化が早く、近所の公園も一週間も経つと様子がずいぶん変わります。

マンサクが満開でした

 花つきが豊かなため、古くから豊年満作に通ずるとして好まれてきたと言われています。山野では木々の芽吹きもまだ先という時期に、黄色の花をびっしりとつけた姿は遠目にもそれとわかります。まるで縮れ麺を短く切ったような花姿は、どこかユーモラスでさえあります。この花が咲くと寒い季節の幕引きともいわれているらしいです。
 公園に植えられてたり、やはり縁起の良い花ということからなのか、庭木としても植えられているのをよく見掛けます。
 最近は、花の色が赤に近いアカバナマンサクというのも良く見かけるようになりましたが、花の色がちょっと毒々しくて個人的にはあまり好きになれません。やはり黄色の方が品が感じられます。

 下の写真は偶然見つけたマンサクの花です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

 背景に裸木を入れて、黄色に輝くマンサクの花との対比を出してみました。花の形がユニークなのでアップで撮るのも面白いですが、やはり全体を入れた方が季節感が感じられると思います。

 マンサクといえば、秋田に「まんさくの花」という地酒があります。有名なので名前は知っているのですが、ほとんど飲んだ記憶がありません。秋田はマンサクが多いのかと思って調べてみたところ、NHKの連続ドラマ「マンサクの花」からつけた名前らしいです。「マンサクの花」という響きが心地よくて好きです。

日向ではオオイヌノフグリも咲いています

 オオイヌノフグリは、春先に最も早く咲き始める野草ではないかと思います。ヨーロッパ原産の帰化植物ですが、すっかり日本の春の風景になじんでしまっています。日本には明治の初めごろに入ってきたらしいですが、今では河原の土手や田んぼの畦道、道端など、いたるところで見ることができます。小さな花ですが、その繁殖力は驚くばかりです。
 瑠璃色の花は何とも可愛げがありますが、不名誉な名前をつけられてちょっとかわいそうな気もします。

 もともとは日本には在来種であるイヌノフグリがあるのですが、オオイヌノフグリに生育地を奪われてしまい、減少の一途をたどっているようです。オオイヌノフグリに比べると花の大きさが半分くらいしかありませんが、地味でつつましやかな感じがします。

 空き地に咲いていたオオイヌノフグリを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 太陽に向かって背伸びしているようなイメージを出したいと思い、アングルを決めました。
 小さな花なので撮影には苦労します。群生しているところはまさに春の風景といった感じですが、一輪とか数輪を撮ろうとすると、目線をかなり下げなければならないので大変です。地面に腹ばいになって撮るのが楽ですが、たくさんの花を押しつぶしてしまうのでそれもはばかられます。

 同じく帰化植物であるヒメオドリコソウやホトケノザなどと大群落をつくることがありますが、そういう光景を見られるようになるにはもう少し先のようです。

テントウムシはまだ見かけません

 日差しがぽかぽかと暖かなとき、オオイヌノフグリの群落にはテントウムシの姿をよく見かけます。ナナホシテントウが多いのですが、花と同じくらいの大きさで、もぞもぞと花の上を歩きまわっている姿をみると、ほのぼのとした気持ちになります。
 まだ少し寒いのか、この写真を撮ったときには残念ながらテントウムシを見かけることはありませんでした。啓蟄とはいえ、虫が出てくるまではもう少しかかるようです。

(2021年3月7日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

花を撮る(1) 百花の魁(さきがけ) 梅

 風景と同じくらい花の写真を撮ることが多いのですが、立春から一ヶ月が経ち、フィールドではぽつぽつと花が見られるようになってきています。花を撮りにフィールドに出かける回数も増えていきそうです。
 「花はきれいに撮りたい」と常々思っているのですが、これがなかなか難しく、納得のいく写真はそう簡単に撮れません。そもそも、何をもって「きれい」というかもうまく説明できないのですが、小難しいことはともかく、パッと見た時に「きれいだ!」と感じることが大事なんだろうと思います。
 撮り方に良いとか悪いとか、決まった手法とかがあるわけでもありませんが、花と対峙して自分なりに撮った写真と、それをどのように撮ったかということも含めてご紹介できればと思います。
 第1回目は「梅」です。

ポートレート風に花の表情を撮る

 人を被写体として撮影するポートレートというのは、その人の魅力を最も的確に表現できる手法だと思っています。人と同じように花にも表情があり、ポートレート風に撮ることで花の魅力を引き出すことができます。
 梅は大きなものでは樹高が数メートルにもなり、たくさんの花をつけるので、花のポートレートとしては一輪とか数輪、あるいは一枝だけを対象とした方が花の表情を出しやすいと思います。このときに大事なのは、主役である花をどうやって引き立たせるかということです。花自体がいくら綺麗に写っていても、画全体の中に埋没してしまっているようでは残念という他ありません。

 下の写真は、小さな枝先に咲いている白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 早春の日差しの中で咲く白梅の楚々とした美しさを出そうと思い、背後からの光が透過することで花弁が輝いている状態を撮りました。バックが明るいと花が引き立ってこないので、日が当たっていない大きな常緑樹をいれて、背景全体を暗く落としています。
 しかし、それだけだとバックが黒一色で単調になってしまうので、後方にある梅の花を大きくぼかして入れ、若干青空も入れて明るさを加えました。
 花が逆光で輝いているので、スポット露出計で測った値に2倍の露出補正をしています。
 また、バックを大きくぼかすために焦点距離が長めのレンズに接写リングをかませ、花まで80cmほどの距離で撮っています。このため、さらに1.5倍ほどの露出補正をしています。
 背景をシンプルにするには、焦点距離が長めのレンズの方が効果的です。

 上の写真とは対照的に、静けさの中でひっそりと咲く可憐な姿をソフトフォーカスで撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5 F5.6 1/60 EX2 PROVIA100F

 春がまだ浅い感じを出すために、一輪だけ咲いている小さな枝を撮りました。この日は曇りで日差しが直接あたっていないため、そのままでも柔らく写りますが、温もり感を出すためにソフトフォーカスレンズを使いました。この花は紅梅というよりも濃い目のピンクといった色合いですが、このような描写も似合っています。
 背景に余計なものを入れず、太い枝と一輪の花だけのシンプルな構成にしました。また、窮屈にならないように周囲の空間を広めにとって、斜め上にスッと伸びた小枝のラインの美しさが出るようにしてみました。
 2号の接写リングをかませていますので、花弁をスポット測光した値に対して1.5倍の露出補正をしています。 

樹形全体で華やかさや力強さを表現する

 一輪とか数輪をアップで撮ったものも魅力的ですが、何と言っても樹全体に咲き誇っている状態は圧巻です。
 下の写真は満開になっている紅梅・白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 1/4 PROVIA100F

 紅、白、ピンクの梅が密集して咲いており、華やかさを出すために少し離れたところから望遠レンズで撮っています。あまり余計なものを入れず、むしろ花が画面から若干はみ出すくらいのフレーミングにしています。
 背後に椿の緑を入れ、画全体が平面的になるのを防ぐとともに、その対比で梅の華やかさが引き立つことを狙いました。中央右側に立っている桜と思われる木も、早春の雰囲気を出してくれる良いアクセントになっていると思います。
 晴れた日でしたが、花の色をきれいに出すために太陽に雲がかかった瞬間を狙って撮りました。また、白梅の色が濁らないように、ピンクの梅を基準に露出設定しています。できるだけパンフォーカスにしたかったので、目いっぱい絞り込んでいます。

 もう一枚は、力強く咲く梅の老木(倒木)です(下の写真)。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/15 Velvia100F

 幹の太さからしてもかなりの樹齢があると思われますが、すっかり横倒しになってしまっています。しかし、それでも樹勢が衰えている感じはなく、枝先まで見事に花をつけています。この梅の咲いている環境がわかるようにと、背後に少しだけ山を入れてみました。
 また、綺麗な青空が広がっていましたが、空を入れるとこの老木の力強さが損なわれてしまうと思い、空はカットしています。
 前の写真のような華やかさではなく、倒れてもなお咲く力強さを表現したかったので、幹の質感が飛ばないように露出を若干抑え気味にしています。そのため、梅の花だけを見るとアンダー気味ですが、全体の雰囲気としてはそれほど気にならないと思います。

梅が咲く風景として撮る

 風景の中に梅が咲いている、と言った方がわかり易いかもしれません。梅だけを撮るのではなく風景写真として撮るのですが、その中で梅が重要な役割を果たしているといった感じでしょうか。上で紹介した写真も風景写真と言えなくもありませんので、その境界線は極めて曖昧なものです。

 下の写真は、梅の花越しに妙義山を望む風景として撮りました。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/30 PROVIA100F

 空を広く入れて広大な感じを出し、そこに満開の梅と山(妙義山)を配しました。画の下の方に梅林が広がっているのですが、これだけではしまりのない写真になってしまうので手前に梅の枝を入れています。妙義山が小さすぎて残念なのですが、大きく写すために焦点距離の長いレンズを使うと広大さが損なわれてしまうので、あえて広角レンズを使っています。

 朝の空気が澄んでいる時間帯での撮影なので青空もくっきりとしており、爽やかな感じが出ているのではないかと思っています。これが午後になると太陽が回ってくるとともに遠景が白く霞んでしまうので、爽やかさが薄れてしまいます。
 手前の梅の花が濁らないように、かつ、青空が白っぽくならないようにということで露出を決めています。
 PLフィルター使えばもっと濃い青を出すことができるのでしょうが、絵の具を塗りたくったようなベットリした感じになるのが嫌いなので、PLフィルターを使うことはあまりありません。

 上の写真は広大な感じを狙っていますが、風景として必ずしも広大である必要はありません。例えば、下の写真のように、限られた範囲であっても梅が咲いている風景といえると思います。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F4 1/125 PROVIA100F

 無縁仏の近くに白梅が咲いており、傍らでずっと無縁仏を見守ってきた、そんな物語が感じられればとの思いで撮りました。もし、この梅が紅梅だと華やかさが際立ってしまい、無縁仏との組み合わせは似合わないかもしれません。
 この写真では無縁仏が目立ちすぎないように、あまり絞り込まずに若干ぼかしていますが、主題を無縁仏にした場合は、逆に梅をぼかすという作画もあると思います。この辺りは、何を表現したいかによって変わってきます。

心象的に撮る

 心象とは心の中に生ずる感覚とかイメージのようなものなので、この撮り方は千差万別、その人の主観や感性で自由に撮ればよいと思っています。アップで撮ろうが全体を撮ろうが、どういう撮り方をしようとも伝えたいものがあれば、それで成り立つと思います。

 雨上がり、水滴がついた梅の花をアップで撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1s EX1+2+3 PROVIA100F

 この写真で表現したかったのは、雨に濡れた冷たさではなく、むしろ、春がすぐそこに来ている温もりです。それを大きな水滴と玉ボケを入れることで表現しようとしています。明るさがないとそういう感じは出ないので、露出はオーバー目にしています。
 被写界深度を極端に浅くしたかったので、接写リングの1号から3号をすべてかませています。レンズ先端から梅の花までは20cmほどの近さです。

梅の撮影地

 関東で梅の有名どころと言えば水戸の偕楽園ですが、他にも梅林がたくさんあります。
 例えば、
  湯河原梅林(神奈川県)
  曽我梅林(神奈川県)
  秋間梅林(群馬県)
  越生梅林(埼玉県)
  吉野梅郷(東京都)
  高尾梅郷(東京都)
 などがあります。

 曽我梅林、秋間梅林、越生梅林は観梅ではなく、主に実を採るために農家の方が栽培している梅林です。
 また、吉野梅郷はウイルスに感染したということで、何年か前にすべて伐採されてしまいましたが、その後、植樹が始まりました。今はまだ木は小さいですが、いつの日か、以前のような絶景になってくれると思います。

 近所の公園などでも梅の木が植えられているところが多いので、有名な梅林に行かなくても撮影は十分できます。写真の表現の仕方は決まりがあるわけではなく自由なものです。梅の種類やその日の天候、周囲の環境などで様々な撮り方ができるので、被写体としてとても魅力のあるものだと思っています。

(2021.3.2)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #白梅 #紅梅 #プロビア #PROVIA #花の撮影

PENTAX67用レンズ - PENTAX-K マウントアダプタの作成

 私が使うカメラはもっぱらフィルム用ですが、デジカメを全く使わないというわけではありません。一応、コンパクトデジカメとデジタル一眼レフをそれぞれ1台ずつ持っています。一眼レフは何年か前に中古で購入したPENTAX K-5というカメラですが、ほとんど出番がありません。作品作りはフィルムでということがデジカメの出番のない大きな理由ですが、レンズを1本しか持ち合わせていないということもあります。
 追加でレンズを購入しようと思ったことも何度かありましたが、あまり使うことのないカメラにお金をかけてももったいないということで、結局、踏ん切りがつかずに過ぎてしまいました。

 出番がかなり少ないとはいえ、レンズが1本しかないのは不便なので、PENTAX67用のレンズをマウントアダプタを介して使おうと思い、調べてみましたが、これがかなりお高いことが判明しました。
 それならば作ってしまえということで、家に転がっているパーツを使って作ってみました。
 使用するパーツは下の写真の通りです。

マウントアダプタに使う主なパーツ

 まず、PENTAX67用のレンズをはめ込むマウントとして使用する、1号の接写リング(写真左上)です。
 次に、マウントアダプタの長さを稼ぐために使うPENTAX67用レンズのリアキャップ(写真右上)。
 そして、PENTAX K-5のマウントにはめ込むための金具(写真右下)です。この金具をレンズのリアキャップに取付ければよいのですが、そのまま取付けたのでは長さが足りず無限遠が出ないので、スペーサーとしてPENTAX用のボディキャップ(写真左下)を使います。

 調べてみたところ、PENTAX K マウントのフランジバックは45.46mm。一方、PENTAX67のフランジバックは84.95mmで、マウントアダプタとしては、39.49mmの長さが必要ということがわかりました。1/100mmの精度の加工は無理なので、39.5mmとすることにしました。
 1号の接写リングの厚さは14mm、レンズのリアキャップの厚さは19.5mm、マウント金具の厚さが2mmでしたので、これらを重ねると35.5mmになります。あと4mmはスペーサーでカバーすることになります。

 接写リングは特に加工する必要がないので、そのまま使います。

 次に、レンズのリアキャップですが、PENTAXのボディキャップが入るように、中央に直径45mmの穴をあけます(下の写真)。

PENTAX67用レンズ リアキャップ

 PENTAX K-5のマウントにはめ込む金具は、ネットオークションで1円で落札したジャンクレンズから外して使います。金具を止めている小さなネジが5本ありますので、なくさないように要注意です。

 スペーサーとして使うボディキャップの加工には少し手間がかかりますが、まず、キャップの中央に直径42mmの穴をあけます。次に、キャップ裏側にカメラのマウントと嵌合する爪があるので、これをやすりで削り取ってしまいます。プラスチックなので簡単に取れます。
 そして、キャップの表面をやすりで削って、全体を薄くしていきます。削り取る厚さは2.5mmほどですが、厚みに偏りができるとレンズの光軸が傾いてしまうので、ノギスで厚さを測りながら慎重に行ないます。

 さて、ボディキャップの厚さが4mmほどになったら、これら4点のパーツを仮組して、PENTAX K-5にはめてみます。無限遠が出ていればOKです。もし、無限遠が出ていなければボディキャップがまだ厚すぎるので、もう少し削る必要があります。
 スペーサーとして完成したのが下の写真です。

PENTAX用ボディキャップを加工したスペーサー

 こうして、無限遠が出るようになったら、4点のパーツを組み上げます。マウント金具はスペーサーにネジ止め、スペーサーとレンズリアキャップは強力接着剤で固定します。レンズをカメラに取付けた時に、レンズの距離・絞り指標(赤い菱形のマーク)が真上になるよう、位置関係を確認して取り付けます。
 最後に、接写リングへの取付けですが、レンズのリアキャップは簡単に外れてしまうので、動かないように3か所からネジで締め付けるようにして固定します。
 少々不格好ですが、出来上がったマウントアダプタが下の写真です。

PENTAX6 - PENTAX-K マウントアダプタ

 そして、カメラに取付けるとこんな感じになります。つけているレンズはPENTAX67 MACRO 135mmです。

PENTAX K-5 + PENTAX67 MACRO 135mm

 一通り確認してみましたが、特に問題はなさそうです。
 ただし、光軸が撮像面に対して直角になっているかどうかまでは確認できていません。精密な工作機械で加工したわけではないので、間違いなく傾いていると思います。
 しかし、これでPENTAX67用のレンズ、35mmフィッシュアイから500mm望遠まで11本のレンズがPENTAX K-5で使えるようになりました。ジャンク箱の中から拾い集めたパーツで作ったので、新規購入コストは0円でした。

(2021.2.28)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #マウントアダプター

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~立春~

 今年の立春は2月3日で、これは実に124年ぶりとの報道がされていました。寒さはまだ続きますが、これからの寒さは余寒というらしく、春に向けて暖かくなっていく寒さということで、こういう使い分けが日本人の感性の豊かさだと思います。
 旧暦では立春のころが1年の始まりだったようで、日本では旧正月を祝う習慣はなくなってしまいましたが、中国の春節やベトナムのテトなど、アジアでは旧正月を祝う国がたくさんあるようです。

梅が咲き始めました

 今ではすっかり日本の風景に溶け込んでいる梅ですが、奈良時代に中国から持ち込まれたものらしく、万葉の時代には花というと桜ではなく白梅のことをさすくらい、当時の人々に愛でられていたようです。
 学問の神様として有名な菅原道真も紅梅を深く愛したひとりで、彼の邸宅は「紅梅殿」とよばれ、春の訪れとともに芳しい香りに包まれたといわれています。藤原時平の訴えにより、九州の大宰府に左遷されてしまうわけですが、以来、日本各地にある天満宮の境内には梅の木が植えられ、神紋には梅鉢が使われるようになったといいます。

 下の写真は近所の公園で撮った早咲きの白梅です。ほかの木はまだ1~2輪がようやく咲き始めたところですが、この梅はこの公園の中でも真っ先に咲きます。

白梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 「梅は百花の魁」といわれますが、梅が咲き始めるとあたりが明るくなったようにさえ感じます。満開の状態はもちろん豪華ですが、個人的には梅は咲き始めた頃がいちばん好きです。ぽつぽつと咲き始めた頃のちょっと恥じらうような姿に風情が感じられます。特に白梅には楚々とした感じが漂っていて、例えると、春の光のもとで微笑む小町娘、といったところでしょうか。

 ここ数日の暖かさで紅梅も咲き始めていました。紅梅には白梅と違った華やかさがあります。白梅が楚々とした美しさであれば、紅梅は艶っぽさ漂う美しさといった感じです。

紅梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

福寿草も眩しいくらいに輝いて

 元日草とか正月花などの別名をもつ福寿草、旧暦の正月、ちょうど今頃に咲き始めることからついた名前のようですが、立春を待ちかねたように咲き始めていました。新年を祝う花として古くから日本人の心を癒してきたといわれていますが、いまの時代は春の訪れを告げる花というイメージの方がしっくりきます。
 雪を割って芽を出す姿には心惹かれるものがありますが、東京ではなかなかそういう姿にお目にかかることはできません。それでも緑がほとんどない大地から芽を出して、身の丈に比べて大きな花を咲かせる姿には癒されます。

福寿草 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 花の少ないこの時期に、輝くような黄色の花は遠目にも良く目立ちます。太陽の動きを追いかけて花の向きを変える性質(向日性)があり、このため、花の内側は外側に比べて温度が高くなるらしいです。まるで、太陽の熱を集めるパラボラ集熱装置のようです。

 品種改良がなされて二重咲や八重咲といった豪華な福寿草もありますが、日本に自生しているのは一種のみだそうです。上の写真の福寿草は自生種と思われますが、定かなことはわかりません。しかし、これから次々といろいろな花が咲き始めることを教えてくれることには変わりありません。 

立春限定の日本酒も

 立春の未明に搾りあがったばかりのお酒のことを「立春朝搾り」といい、日本酒好きの人には待ち焦がれたお酒です。このお酒は火入れをしていない生原酒で、どの蔵元のお酒も日付が入った同じデザインのラベルが貼られています。今年のラベルは、「令和三年辛丑二月三日」と書かれています。実は、このラベルの裏側には、「大吉」の文字が書かれており、ビンの反対側から透かすと見ることができます。ちょっとした遊び心ですね。

(2021年2月8日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #白梅 #紅梅 #二十四節気 #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~大寒~

 一年のうちでいちばん寒いとされる時期で、天文学では太陽黄経が300度になった日が大寒の初日らしいです。二十四節気では立春が一年の始まりとされているので、いまは年末といったところでしょうか。
 一年でいちばん寒い時期ですが、春に向かっているという想いがあるせいか、冬至のころに比べると明るいイメージがあります。野に咲く花もこれから少しずつ増えてきます。

清楚な花が特徴のニホンスイセン

 1月も半ばを過ぎると東京でも日当たりの良いところではちらほらとスイセンが咲き始めます。ニホンスイセンと呼ばれる野生種で、一重咲きと八重咲きの2種類が見られます。家の庭先や花屋さんでよく見かけるラッパスイセンに比べると花も小ぶりです。華やかさではラッパスイセンに劣るかもしれませんが、ニホンスイセンには楚々とした美しさがあり、この花が咲くとあたりが明るくなったような感じがします。

ニホンスイセン Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 Velvia100

 野生のスイセン群生地といえば伊豆半島の爪木崎が有名ですが、今頃は300万本といわれる満開のスイセンでおおい尽くされます。もともとは平安の頃に、遣唐使などによって薬草として日本に持ち込まれたらしいですが、爪木崎では、はるか南の島から流れついた球根が根付いたという言い伝えもあるようです。どこから流れてきたのかわかりませんがロマンのある話です。
 やはり水仙の群生地で有名な越前海岸地方には、その昔、海からやってきた美しい娘が二人の若者の恋の鞘あてにあった末、海に身を投げ、自らの命を絶った。水仙はその娘の生まれ変わり...こんな逸話も残っているといいます。

 種類にもよるようですがスイセンは香料の原料にも使われるらしく、甘い香りがします。野外で咲いているときはさほど気になりませんが、切り花として屋内に持ち込むと、市販の芳香剤などとは比べ物にならないくらい強烈な芳香を放ちます。
 雪の中でも咲くことから「雪中花」とも呼ばれるようですが、春が近いことを教えてくれる花のひとつだと思います。

小さなぼんぼりのようなロウバイ

 ロウバイも冬に花を咲かせる数少ない花木のひとつです。花弁が厚くて、質感が本当にロウ細工のようで、近寄るととてもいいにおいがします。太陽の光が差し込むと黄色く輝き、小さなぼんぼりに明かりが灯ったようです。
 中国原産の落葉樹らしいですが、花のほとんどない冬枯れの季節に花を見たいという昔の人の強い想いで、日本に持ち込んだのかもしれません。

ソシンロウバイ Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 Velvia100

 ロウバイは花に似合わず大きな実をつけますが、その実が翌年の開花時期になっても真っ黒になったまま残っているのを見かけます。花の写真を撮ろうとするときにはかなり目立ってしまい、邪魔な存在に感じてしまうこともしばしばです。中には小豆ほどの種が入っており、これを土にまくと春分の頃には芽が出てくるらしいです。

 最近は各地に「ロウバイ園」や「ロウバイの郷」なるものが誕生しています。関東近県では埼玉県の宝登山や、群馬県の松井田が有名です。公園などにも植えられているのをよく見かけますが、ソシンロウバイという園芸品種が多いようです。
 漢字で書くと「蝋梅」で、「梅」という字がついていますが梅の仲間ではないらしく、ロウバイ科という種類があるようです。確かに、素人が見ても梅の花と同じ仲間には見えません。
 そういった学術的なことはさておいても、この寒い時期に花を咲かせてくれることには本当に感謝です。スイセン同様に、春もそう遠くないことを感じさせてくれます。

 梅のつぼみもだいぶ膨らんできており、フィールドがにぎやかになるのも間もなくといった感じです。自然界は着実に動いていることを感じます。

(2021.1.23)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影

御岳渓谷 2020年最後の紅葉をPENTAX67Ⅱで撮影

 御岳渓谷は多摩川の上流、東京都青梅市にある渓谷です。多摩川は、山梨県にある笠取山の山頂直下を源として、東京都、神奈川県を経由して東京湾に注ぎこむ一級河川ですが、上流の方は護岸工事をされていないところも多く、きれいな水が流れています。御岳渓谷のあたりはカヌーの聖地とも呼ばれているらしく、カヌーで川下りをしている人をたくさん見かけます。
 11月中旬あたりから綺麗な紅葉が見られるので、2020年最後の紅葉撮りに行ってきました。

 電車だとJR青梅線の御嶽駅からすぐ、車だと近くに有料駐車場があり、そこから歩いて10分ほどで御岳渓谷に着きます。夏の暑い時期やカヌーの大会があるときは賑わいますが、普段はそれほど人出が多いわけでもなく、ゆっくりと撮影をすることができます。

玉堂美術館前の大イチョウが輝いて

 紅葉の時期、何と言ってもひときわ目を引くのが玉堂美術館の前にある大イチョウの黄葉です。下の写真は対岸(左岸側)から撮ったものです。

玉堂美術館前の大イチョウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 この辺りは南側がすぐ山になっているため、朝のうちは日陰になっていますが、日が回り込んでくると黄色く色づいたイチョウがまさに黄金色に輝きます。樹高が30mほどもあるらしく、自ら光を放っているような姿は圧巻です。
 イチョウの葉っぱは枝についている間は綺麗な黄色を保っており、この色のまま一気に落葉していきます。他の黄葉のように葉っぱが茶色くならないので、綺麗な状態のまま散っていく潔さのようなものがあって好きです。少し強い風が吹いたときなどに一気に散る姿も見事です。

名水百選の蒼い流れ

 御岳渓谷一帯の流れは御岳渓流とも呼ばれており、名水百選に選ばれているようです。水深はあまり深くなさそうですが、大きな岩がごろごろしており、綺麗な景観をつくってくれています(下の写真)。

御岳渓谷 PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 1/2段ほど露出を抑えめにして、渓谷の蒼然たる感じを狙ってみました。まだ渓谷に陽が差し込む前なので、全体に青っぽく色かぶりをしています。
 それにしてもこんなところをカヌーで下っていくのですから凄いです。

燃えるようなイロハモミジの紅葉

 左岸側にはカエデ(イロハモミジ)がたくさんあり、日が差し込むと燃えるような色を見せてくれます。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-M67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 対岸は日が当たっていないので黒く落ち込み、そこに真っ赤に色づいたカエデが浮かび上がります。薄曇りくらいの光の方が柔らかな感じになって個人的にはその方が好きですが、この日は快晴のため光が強すぎたのと、ほぼ正面からの光で撮ってしまったために全体的に硬く、ぎらついた感じになってしまいました。

落ち着いた色合いのトウカエデの黄葉

 下の写真は御岳小橋の脇で見つけた黄葉です。たぶん、トウカエデではないかと思います。

トウカエデ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 だいぶ落葉してしまってスカスカしてますが、まだ綺麗な色を保っていました。太陽の位置もだいぶ高くなっているので、前のカエデの写真に比べると落ち着いた感じになりました。葉っぱが落ちた後の枝も白く輝いて、晩秋らしさが出ているのではないかと勝手に思ってます。

やはりイロハモミジの紅葉は第一級品

 午後2時過ぎ、そろそろ引き上げようと青梅街道に出る階段を昇って行ったところ、偶然に綺麗な紅葉を見つけました。赤と黄色と緑が混在した何とも美しいイロハモミジです。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F11 1/8 PROVIA100F

 逆光で撮っていますが、大木で上の方まで葉があるため、撮影している場所は日陰になっています。紅葉が濁らないように露出はかなりオーバー目にしています。緑から黄色、そして赤へのグラデーションも影響していると思いますが、柔らかな感じが気に入ってます。まだほとんど落葉しておらず、葉っぱが密集しているためにこのような撮り方ができますが、落葉してスカスカ状態だとこのような感じは出せないと思います。

 東京都心の紅葉はあまり鮮やかに色づかないものが多いですが、標高230mmほどの御岳渓谷のあたりは気温の寒暖差が大きいためか、色がとても鮮やかです。同じ東京とは思えない豊かな自然が残されており、近くにある御岳山にはレンゲショウマの群生地があるようです。一度、訪れてみたいものです。

(2021.1.13)

#御岳渓谷 #渓流渓谷 #ペンタックス67 #PENTAX67 #紅葉

中判レンズ ペンタックス67:smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF)

 PENTAX67用で焦点距離300mmの望遠レンズです。35mm判カメラ用の150mmくらいのレンズの画角に相当します。ED(特殊低分散)ガラスが採用されたレンズです。

レンズの主な仕様

 このレンズが発売される前は☆のつかない「smc PENTAX67 1:4 300mm」というレンズがあったのですが、それに比べて仕様もお値段も格段にグレードアップされました。ヘリコイドリングのところにグリーンの線が入り、前のモデルとの差を見せつけているという感じです。
 前玉側から覗き込むと、吸い込まれるような妖しい美しさがあります。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF)

 レンズの仕様は以下の通りです(リコーイメージング株式会社 公式HPより引用)。
   画角      : 17度
   レンズ構成枚数 : 9群9枚
   最小絞り    : 32
   最短撮影距離  : 2.0m
   フィルター径  : 82mm
   最大径x長さ  : 92.5mm × 209.5mm
   重さ      : 1,650g

重いけれど使い易いレンズ

 前のモデルのレンズ構成が5群5枚だったのに対し、こちらは9群9枚構成になり、レンズ枚数がほぼ倍増しています。また、インナーフォーカス方式が採用されているため、ヘリコイドリングを回してもレンズの全長が変化しないので、バランスの移動も起きません。そして、ヘリコイドリングは軽く、とても滑らかに動きます。これは非常に薄い被写界深度の中においても、とてもピント合わせがし易いです。まさに1mmほど動かしてピントの山を移動させたい時など、この滑らかさがないと大変です。

 ヘリコイドはオーバーインフになっていて、無限遠を通り過ぎて少し先まで回ります。前のモデルがオーバーインフになっていたかどうか記憶がありません。
 最短撮影距離が2mと、前のモデルの半分以下になっているのも使い勝手が良く、ありがたいです(前モデルの最短撮影距離は5m)。

 三脚座は鏡筒と一体になっていて取り外しはできませんが、とても薄型なので特に支障は感じません。手持ち撮影の時には手のひらにちょうど収まり、レンズを支えながら指でヘリコイドを回すことができるので便利です。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF) 三脚座

 とはいえ、かなり大きくて重いレンズであることには間違いありません。レンズ先端からマウント面まで約210mmあります。PENTAX67のフランジバックが約85mmですので、このレンズをカメラに取付けたときのレンズ先端からカメラ後端まで、全長は300mmを越えます。そして、レンズ単体の重さが1,650gですので、小ぶりなレンズ2~3本分の重さです。このレンズをカメラバッグに入れると途端に重くなり、持ち歩くのは決して楽ではありません。大判カメラ用で使っているニコンのM300というレンズと比較してみるとこの違いです(下の写真)。開放F値が2段以上違いますので当然と言えば当然ですが、M300は重さがわずか290gですから、いかにPENTAXのレンズが大きいかがわかります。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF) + PENTAX67Ⅱ

浅いピントとシャープな写り

 しかし、その大きさや重さを差し引いても使いたくなる魅力のあるレンズであることも事実です。このレンズ、とにかくキレが良くて、撮影済みのポジをライトボックスで見るとエッジのシャープさが良くわかります。被写界深度が浅いこともあり、ピントの合っている部分がまるで浮き上がっているような立体感を感じます。いわゆるヌケの良い描写をするとともに、ピントのピーキーさが際立っているレンズだと思います。

 下の写真はほとんど落葉して幹と枝ばかりになった木を撮影したものです。

裸木 PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-M 67 1:4 300mm F4 1/250 PROVIA100F

 白く輝く枝を逆光気味で撮影しています。白い枝が飛ばない程度に露出を若干オーバー目にして、裸木なりの力強さを狙ってみました。画面上ではわかりにくいかもしれませんが、枝の先端までくっきりと写っています。コントラストが高く、キリッと引き締まった印象を受ける描写だと思います。ちょっとオーバーかも知れませんが、その場の空気まで写し込むといった表現が当てはまるくらいです。
 この写真では鋭い点光源がないのでそもそも色収差は起こりにくいかもしれませんが、ポジを高倍率のルーペで確認しても色収差らしきものは見当たりません。さすが、EDレンズといった感じです。
 また、ファインダー上でピントのヤマがはっきりとわかり、ピント合わせのし易いレンズです。ヘリコイドリングを回したときにピントがスーッと立ってくるのは気持ちの良いものです。

素の状態で使ってこそ

 このレンズに1.4xのリアコンバータをつけると420mmに、2xのリアコンバータをつけると600mmの超望遠になりますが、画質の低下が目立ちます。リアコンバータが特に粗悪というわけではありませんが、このレンズの性能が高いだけにそのギャップがわかりやすいのだと思います。どうしても長い玉が必要というのでなければ、リアコンバータの併用はお勧めしません。単独で使ってこそ性能が発揮されるレンズではないかと思います。

 PENTAX67用のレンズは二線ボケの傾向がありますが、このレンズも撮影条件によっては若干二線ボケが出ることがあります。風景など遠景を撮る分にはほとんど気になることはありませんが、野草撮影などのように比較的近景を撮ると、二線ボケが気になることがあります。
 そういったレンズのクセというか個性を把握しながら撮影するのも写真の面白さかもしれません。

(2020.12.28)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~冬至~

 昨日(12月21日)は冬至でした。言わずと知れた、一年のうちで昼の時間が最も短い日です。
 また、日没後の空では実に397年ぶりと言われる木星と土星の大接近が見られました。私は視力があまりよくないので、肉眼では一つに見えてしまいました。
 調べたところ、前回の大接近の時は徳川家光が将軍になった頃のようです。もしかしたら家光も見ていたかも知れません。

 冬至は、太陽の力が一番弱まる日ですが、この日を境に再び太陽の力が蘇ることから、すべての運が上昇に転じる縁起の良い日とされています。この縁起の良い日に「ん」のつく食べ物を食べると「運がつく」と言われています。最も日が短く寒さも厳しくなり、風邪をひきやすい時期であるところから、縁起を担ぐようになったのかも知れません。
 旬をむかえる柚子を入れる柚子風呂も昔からのならわしの一つです。風邪をひかないと言われていますが、高価な柚子を風呂に入れるのはためらわれてしまいます。むしろ、焼酎に入れて飲んだ方が風邪をひかなくなるのではと、ついつい不届きなことを考えてしまいます。

枯れてもなお...セイヤタアワダチソウ

 この時期、東京は冬晴れの日が続きますが、季節感の希薄な東京でも寒さが強まり、冬の訪れを感じます。同時に野に咲く花の数はめっきり減ってしまいます。しかし、この時期ならではの「花」が見られるのも自然界の妙ではないかと思います。
 下の写真はセイタカアワダチソウです。

セイタカアワダチソウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 1:4/200 F4 1/250 PROVIA100F

 秋に黄色い花を咲かせる北アメリカ原産の帰化植物ですが、ものすごい勢いで繁殖すると言われており、いたるところで見ることができます。根から他の植物の成長を抑制する化学物質を出すらしく、嫌われ者の感がありますが、葉っぱはハーブとしても利用されるようです。
 花の時期はとうに終わっており全身すっかり枯れていますが、枯れてもなお原型をとどめているところにも、この植物の繁殖力のすごさを感じます。
 枯草なのでほとんど見向きもされないだろうと思いますが、花の少ないこの時期には貴重な被写体です。セイタカアワダチソウに限らず、植物は花が咲いているときはもちろん美しいのですが、芽が出てから枯れるまでの間、その時々の美しさというのがあります。
 これは河川敷で撮ったものですが、バックが日陰になっていたおかげでセイタカアワダチソウが引き立ってくれました。

ツタモミジも輝いています

 東京の紅葉は12月に入ってからが本番なので、年末になっても場所によってはまだ紅葉を見ることができます。そんな名残の紅葉を撮ってみたのが下の一枚です。

ツタモミジ New Mamiya 6 MF Mamiya G 1:4.5/150 F5.6 1/60 PROVIA100F 

 場所は近所の公園ですが、木の幹に絡みついたツタモミジを逆光で撮ってみました。カサカサした落ち葉ばかりが目立ってしまいますが、まだこのような光景を見ることができます。この紅葉もよく見るといちばん美しい時期は過ぎており、かなり傷みが目立ってきていますが、最後の輝きを放ってくれているという感じです。
 ツタの葉っぱだけではつまらないので、後方にある常緑樹からの木漏れ日を玉ボケにしてみました。玉ボケが大きくなりすぎないように絞りを少し絞ってみましたが、やはり開放の丸いボケのほうが柔らかな感じになり、この時期らしさを出せたかも知れません。

 冬はこれからが本番ですが、葉をすっかり落した木の枝には米粒ほどの芽がついています。植物にとってはすでに春に向けての準備が始まっているのでしょう。

(2020.12.22)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~小雪~

 今日から師走。不思議なもので、12月というよりも師走と言うほうが季節感が漂います。日常の会話の中で、12月以外で旧暦の呼び名を使うことはまれですが、12月だけ旧暦の呼び名を使うことが多いのは何故なのでしょう?

 今は二十四節気の「小雪(しょうせつ)」にあたり、さらに七十二候で言うところの「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」という時期らしいです。冷たい北風が吹き、木々の葉っぱを落とす頃という意味のようですが、こういった昔の日本人の感性には驚かされます。
 木の葉が落ちるといえば、私もよく使う甲州街道(国道20号線)を新宿から八王子方面に向かうと、道路の両側に大きな欅の木がたくさん植えられています。毎年この季節になると大量の欅の葉が道路に舞い落ちます。そこを自動車が走りぬけると落ち葉が舞い上がり、まるで映画かCMのワンシーンのような感じになります。

宝石のようなヒヨドリジョウゴの実

 私は野に咲く花(野草)を撮ることも多いのですが、この時期はそういった花もほとんどなくなってしまいます。それでも、まだ自然が残されている郊外の野山などに行くと、緑もすっかり影を潜めた枯野の中に赤や紫に色づいた木の実を見ることができます。紫色のヤブムラサキやオレンジ色のカラスウリ、真っ赤なガマズミなどなど。
 そんな中でも見つけるとつい撮ってしまうのが「ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)」の実です。

ヒヨドリジョウゴ

 葉っぱもすっかり枯れてしまいカサカサと音をたてそうですが、赤い実はとても瑞々しく、つまんで食べてみようかと思ってしまうほどです。しかし、実だけでなく全草に毒があるらしく、食べ過ぎると下痢や嘔吐などの中毒症状が出るようですが、漢方の生薬としても利用されています。昔の人の知恵は本当に素晴らしいと思います。
 ヒヨドリジョウゴはナス科の植物で、夏から初秋にかけて小さな白い花を咲かせます。花は開いたあと白い花冠が反り返って、まるでダーツの矢のような形になり何とも可愛らしいものです。そして、花が散った後に緑色の実をつけるのですが、この頃はまだ特に目立つこともないごく普通の野草です。
 ところが、周りの野草がその寿命を終えようとしている頃になるとこの写真のように真っ赤になり、ひときわ目立ってきます。

 ヒヨドリが好んで食べることからついた名前と言われていますが、本当にヒヨドリが食べるのかどうか知りません。しかし、ヒヨドリは赤いものを好むのか、春先には梅や桜のつぼみをついばんでしまうので、もしかしたら毒のあるこの実も食べてしまうのかも知れません。

日本の原風景 残り柿

 そして、この季節に見ることができる日本の原風景といえるのが「残り柿」です。葉はすっかり落ちてしまい、実だけが残っています。

残り柿

 昔の人は、柿はすべての実をもいでしまうのではなく、下のほうは旅人のために、上のほうは鳥たちのために残しておいたと言われています。その昔、ここを通りかかった旅人がこの小さな祠にお参りをし、柿を二つ三つもいで、また旅を続けるという光景が浮かんでくるようです。
 今は食べ物も豊富で旅人が柿をもぐこともないかもしれませんが、食べ物が少なくなるこの時期、鳥たちにとっては貴重な食料源です。
 また、「柿若葉」、「柿紅葉」、「柿落ち葉」など、季節ごとの情趣に富んだ名前で呼ばれるのも柿の木ならではだと思います。

 大きな柿の木にたくさんの実がついていても、収穫されることなくそのままになっている光景をよく目にします。冬の風物詩でもある吊るし柿を作る家が減ってしまったことも、ほったらかしになっている理由の一つかもしれません。
 一方、スーパーや八百屋さんで売られている柿はとても立派で、しかもお高いです。出荷するために栽培されているものなので当然ですが、残り柿はあまり立派な実よりも、少々小ぶりのほうが風情があると感じてしまいます。

(2020.12.1)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影