花を撮る(1) 百花の魁(さきがけ) 梅

 風景と同じくらい花の写真を撮ることが多いのですが、立春から一ヶ月が経ち、フィールドではぽつぽつと花が見られるようになってきています。花を撮りにフィールドに出かける回数も増えていきそうです。
 「花はきれいに撮りたい」と常々思っているのですが、これがなかなか難しく、納得のいく写真はそう簡単に撮れません。そもそも、何をもって「きれい」というかもうまく説明できないのですが、小難しいことはともかく、パッと見た時に「きれいだ!」と感じることが大事なんだろうと思います。
 撮り方に良いとか悪いとか、決まった手法とかがあるわけでもありませんが、花と対峙して自分なりに撮った写真と、それをどのように撮ったかということも含めてご紹介できればと思います。
 第1回目は「梅」です。

ポートレート風に花の表情を撮る

 人を被写体として撮影するポートレートというのは、その人の魅力を最も的確に表現できる手法だと思っています。人と同じように花にも表情があり、ポートレート風に撮ることで花の魅力を引き出すことができます。
 梅は大きなものでは樹高が数メートルにもなり、たくさんの花をつけるので、花のポートレートとしては一輪とか数輪、あるいは一枝だけを対象とした方が花の表情を出しやすいと思います。このときに大事なのは、主役である花をどうやって引き立たせるかということです。花自体がいくら綺麗に写っていても、画全体の中に埋没してしまっているようでは残念という他ありません。

 下の写真は、小さな枝先に咲いている白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 早春の日差しの中で咲く白梅の楚々とした美しさを出そうと思い、背後からの光が透過することで花弁が輝いている状態を撮りました。バックが明るいと花が引き立ってこないので、日が当たっていない大きな常緑樹をいれて、背景全体を暗く落としています。
 しかし、それだけだとバックが黒一色で単調になってしまうので、後方にある梅の花を大きくぼかして入れ、若干青空も入れて明るさを加えました。
 花が逆光で輝いているので、スポット露出計で測った値に2倍の露出補正をしています。
 また、バックを大きくぼかすために焦点距離が長めのレンズに接写リングをかませ、花まで80cmほどの距離で撮っています。このため、さらに1.5倍ほどの露出補正をしています。
 背景をシンプルにするには、焦点距離が長めのレンズの方が効果的です。

 上の写真とは対照的に、静けさの中でひっそりと咲く可憐な姿をソフトフォーカスで撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5 F5.6 1/60 EX2 PROVIA100F

 春がまだ浅い感じを出すために、一輪だけ咲いている小さな枝を撮りました。この日は曇りで日差しが直接あたっていないため、そのままでも柔らく写りますが、温もり感を出すためにソフトフォーカスレンズを使いました。この花は紅梅というよりも濃い目のピンクといった色合いですが、このような描写も似合っています。
 背景に余計なものを入れず、太い枝と一輪の花だけのシンプルな構成にしました。また、窮屈にならないように周囲の空間を広めにとって、斜め上にスッと伸びた小枝のラインの美しさが出るようにしてみました。
 2号の接写リングをかませていますので、花弁をスポット測光した値に対して1.5倍の露出補正をしています。 

樹形全体で華やかさや力強さを表現する

 一輪とか数輪をアップで撮ったものも魅力的ですが、何と言っても樹全体に咲き誇っている状態は圧巻です。
 下の写真は満開になっている紅梅・白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 1/4 PROVIA100F

 紅、白、ピンクの梅が密集して咲いており、華やかさを出すために少し離れたところから望遠レンズで撮っています。あまり余計なものを入れず、むしろ花が画面から若干はみ出すくらいのフレーミングにしています。
 背後に椿の緑を入れ、画全体が平面的になるのを防ぐとともに、その対比で梅の華やかさが引き立つことを狙いました。中央右側に立っている桜と思われる木も、早春の雰囲気を出してくれる良いアクセントになっていると思います。
 晴れた日でしたが、花の色をきれいに出すために太陽に雲がかかった瞬間を狙って撮りました。また、白梅の色が濁らないように、ピンクの梅を基準に露出設定しています。できるだけパンフォーカスにしたかったので、目いっぱい絞り込んでいます。

 もう一枚は、力強く咲く梅の老木(倒木)です(下の写真)。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/15 Velvia100F

 幹の太さからしてもかなりの樹齢があると思われますが、すっかり横倒しになってしまっています。しかし、それでも樹勢が衰えている感じはなく、枝先まで見事に花をつけています。この梅の咲いている環境がわかるようにと、背後に少しだけ山を入れてみました。
 また、綺麗な青空が広がっていましたが、空を入れるとこの老木の力強さが損なわれてしまうと思い、空はカットしています。
 前の写真のような華やかさではなく、倒れてもなお咲く力強さを表現したかったので、幹の質感が飛ばないように露出を若干抑え気味にしています。そのため、梅の花だけを見るとアンダー気味ですが、全体の雰囲気としてはそれほど気にならないと思います。

梅が咲く風景として撮る

 風景の中に梅が咲いている、と言った方がわかり易いかもしれません。梅だけを撮るのではなく風景写真として撮るのですが、その中で梅が重要な役割を果たしているといった感じでしょうか。上で紹介した写真も風景写真と言えなくもありませんので、その境界線は極めて曖昧なものです。

 下の写真は、梅の花越しに妙義山を望む風景として撮りました。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/30 PROVIA100F

 空を広く入れて広大な感じを出し、そこに満開の梅と山(妙義山)を配しました。画の下の方に梅林が広がっているのですが、これだけではしまりのない写真になってしまうので手前に梅の枝を入れています。妙義山が小さすぎて残念なのですが、大きく写すために焦点距離の長いレンズを使うと広大さが損なわれてしまうので、あえて広角レンズを使っています。

 朝の空気が澄んでいる時間帯での撮影なので青空もくっきりとしており、爽やかな感じが出ているのではないかと思っています。これが午後になると太陽が回ってくるとともに遠景が白く霞んでしまうので、爽やかさが薄れてしまいます。
 手前の梅の花が濁らないように、かつ、青空が白っぽくならないようにということで露出を決めています。
 PLフィルター使えばもっと濃い青を出すことができるのでしょうが、絵の具を塗りたくったようなベットリした感じになるのが嫌いなので、PLフィルターを使うことはあまりありません。

 上の写真は広大な感じを狙っていますが、風景として必ずしも広大である必要はありません。例えば、下の写真のように、限られた範囲であっても梅が咲いている風景といえると思います。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F4 1/125 PROVIA100F

 無縁仏の近くに白梅が咲いており、傍らでずっと無縁仏を見守ってきた、そんな物語が感じられればとの思いで撮りました。もし、この梅が紅梅だと華やかさが際立ってしまい、無縁仏との組み合わせは似合わないかもしれません。
 この写真では無縁仏が目立ちすぎないように、あまり絞り込まずに若干ぼかしていますが、主題を無縁仏にした場合は、逆に梅をぼかすという作画もあると思います。この辺りは、何を表現したいかによって変わってきます。

心象的に撮る

 心象とは心の中に生ずる感覚とかイメージのようなものなので、この撮り方は千差万別、その人の主観や感性で自由に撮ればよいと思っています。アップで撮ろうが全体を撮ろうが、どういう撮り方をしようとも伝えたいものがあれば、それで成り立つと思います。

 雨上がり、水滴がついた梅の花をアップで撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1s EX1+2+3 PROVIA100F

 この写真で表現したかったのは、雨に濡れた冷たさではなく、むしろ、春がすぐそこに来ている温もりです。それを大きな水滴と玉ボケを入れることで表現しようとしています。明るさがないとそういう感じは出ないので、露出はオーバー目にしています。
 被写界深度を極端に浅くしたかったので、接写リングの1号から3号をすべてかませています。レンズ先端から梅の花までは20cmほどの近さです。

梅の撮影地

 関東で梅の有名どころと言えば水戸の偕楽園ですが、他にも梅林がたくさんあります。
 例えば、
  湯河原梅林(神奈川県)
  曽我梅林(神奈川県)
  秋間梅林(群馬県)
  越生梅林(埼玉県)
  吉野梅郷(東京都)
  高尾梅郷(東京都)
 などがあります。

 曽我梅林、秋間梅林、越生梅林は観梅ではなく、主に実を採るために農家の方が栽培している梅林です。
 また、吉野梅郷はウイルスに感染したということで、何年か前にすべて伐採されてしまいましたが、その後、植樹が始まりました。今はまだ木は小さいですが、いつの日か、以前のような絶景になってくれると思います。

 近所の公園などでも梅の木が植えられているところが多いので、有名な梅林に行かなくても撮影は十分できます。写真の表現の仕方は決まりがあるわけではなく自由なものです。梅の種類やその日の天候、周囲の環境などで様々な撮り方ができるので、被写体としてとても魅力のあるものだと思っています。

(2021.3.2)

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