第191話 撮影時に使用しているフィルターのあれこれ

 写真撮影用のフィルターというのは昔からいろいろなものがラインナップされていて、それらは時代とともに進化しており、現在もたくさんのフィルターが販売されています。フィルターメーカー大手のケンコーからは、現行品だけでも優に100種類を超えるフィルターが勢ぞろいしています。
 しかし、フィルターの需要というのはデジタルカメラの普及によって全体としては減少しているのではないかと思います。フィルム時代はこれでもかというくらいのフィルターをカメラバッグに入れて撮影に臨んでいる人もいましたが、撮影後の加工が容易になったデジタル写真ではその必要性も薄れてきているように思います。
 私も数種類のフィルターをカメラバッグに入れてはいますが、フィルターを使う頻度はあまり高くありません。1日撮影して一度も使わないということもありますが、今回は私が持ち歩いているフィルターをご紹介します。

色温度変換(CC)フィルター

 デジタルカメラにはホワイトバランスという機能があって色温度を任意に設定することができますが、フィルムカメラの場合はそれができないので、色温度を変換するためのフィルターが用意されています。
 このフィルターの機能は簡単に言うと、例えば朝夕の時間帯に撮影すると太陽の光の影響で赤っぽく写ってしまいますが、この赤っぽくなるのを防ぐため、色温度を若干上げるというものです。また逆に、特に晴天時の日陰などで撮影すると全体が青っぽくなってしまうのを防ぐため、色温度を下げるというフィルターです。もちろん、フィルター1枚で色温度を上げたり下げたりはできないので、色温度上昇用、下降用と用意されています。
 また、色温度の変換度合いによって、さらに何種類ものフィルターがあります。

▲左側の2枚が色温度降下用Wフィルター(W2とW10)、右側の2枚が色温度上昇用Cフィルター(C2とC8)

 一般に、色温度を上げるフィルターを「Cフィルター」、色温度を下げるフィルターを「Wフィルター」と呼ぶことが多く、それぞれCとWの後にどの程度の量を変換するかという数字がついています。例えばC2とかC4、あるいはW2とかW4という具合に。
 では、このCやWの後の数字がどのような意味を持っているかというと、これは「ミレッド」という値を表しています。
 ミレッドとは逆色温度のことで、色温度(ケルビン[K])の逆数をとって10⁶倍した値を用いています。なぜこんな面倒なことをしているかというと、数値の違いと、我々が実際に感じる色の差が比例するようにということで作られた単位のようです。

 色温度(ケルビン[K])と逆色温度(ミレッド[M])の関係をグラフにすると下の図のようになります。

 つまり、色温度で200[K]の差を例にとると、色温度2,000[K]と2,200[K]を比較した場合、視覚的にもその違いは判りますが、色温度10,000[K]と10,200[K]場合はおなじ200[K]の差であっても視覚的にはほとんど違いが感じられません。
 これをミレッドで表すと、2,000[K]は500[M]、2,200[K]は455[M]となり、その差は45[M]です。一方、10,000[K]は100[M]で10,200[K]は98[M]となり、その差はわずか2[M]です。
 色温度の差が同じ値であっても、もとの色温度の値が大きい(高い)ときはその影響度が少ないので、それに比例した数値にするための仕組みということになります。

 前置きが長くなりましたが、色温度変換フィルターのCとかWの後ろについている数字はミレッドを表していて、C2の場合は20ミレッド分の色温度を上昇させる、W2の場合は20ミレッド分の色温度を下降させるということを意味します。
 これを色温度に当てはめてみると、色温度2,000[K]=500[M]の時にC2フィルターを装着すると480[M]となり、色温度に変換すると2,083[K]になります。同様に、色温度10,000[K]=100[M]のときにC2フィルターを装着すると80[M]となり、この時の色温度は12,500[K]になります。
 すなわち、同じ20[M]であっても2,000[K]のときと10,000[K]のときとでは色温度の変換量が大きく異なりますが、視覚的には同じくらいの変化として感じられるということです。

 このように、光の具合によって赤っぽくなったり青っぽくなったりするのを防いで、自然な色合いにするのが本来の使い方なのでしょうが、私の場合、こういった使い方をすることはほとんどなく、逆の使い方をしています。つまり、色温度が低いときにさらに色温度を下げるためにWフィルターを使ったり、色温度が高いときにさらに上げるためにCフィルターを使うといった感じです。
 なぜこんな使い方をするかというと、例えば、朝夕の光が赤っぽいときに一層赤っぽくして明け方とか夕方の雰囲気を出すとか、晴天の日中の日陰で青っぽくなるのをさらに青っぽくして幻想的な雰囲気にするというのが狙いです。

 参考までに色温度変換フィルターを装着して撮影した写真を掲載します。
 下の写真は夏の日中に撮影したものですが、1枚目がフィルターなしで撮影、2枚目がC2フィルターを装着して撮影したものです。

 薄暗い渓流なのでフィルターなしでも全体的に青っぽくなっています(1枚目)が、C2フィルターをつけることで奥深い森の雰囲気を出そうとしたものです。

 色温度変換フィルターをこのような使い方をした場合、その効果が強すぎると現実離れした色になってしまい写真が台無しになってしまうこともありますが、明確な作画意図をもって使えばそれなりの効果があると思います。
 なお、色温度変換フィルターを装着した場合は露出補正が必要になります。メーカーが提示している変換量と補正量は以下の通りです。

  <変換量> <露出倍数>
  C2 : -20[M]  1.2倍
  C4 : -40[M]  1.6倍
  C8 : -80[M]  2.0倍
  W2 : +20[M]  1.2倍
  W4 : +40[M]  1.4倍
  W8 : +80[M]  1.8倍

モノクロ用フィルター

 代表的なモノクロ用フィルターと言えばY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)で、私もこの3種類のフィルターを持っています。主に使うのは黄色のY2で、ときどきYA3を使うこともありますが、R1はほとんど使うことがありません。このほかにも緑色などもありますが、私は持っていません。

▲左下から時計回りにY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)フィルター

 あらためて説明するまでもありませんが、これらのモノクロ用フィルターの機能は、ある波長以下の光、すなわち青寄りの光をカットしてコントラストを高めるというものです。
 具体的にフィルターごとの特性を数値で示すと以下のようになります。

  Y2  : 約500[nm]以下の光をカット
  YA3 : 約550[nm]以下の光をカット
  R1  : 約600[nm]以下の光をカット

 これをグラフにすると以下のようになります。

 これらのフィルターの効果は天候や被写体などによって異なりますが、Y2フィルターはモヤっとした描写を引き締めてくれる感じで、YA3フィルターはかなりコントラストが高くなる印象、そしてR1は赤外線フィルムで撮影したような感じに仕上がります。
 モノクロ写真の描写に関してはそれぞれの好みもあるでしょうし、作画意図によるところも大きいと思いますが、私はどちらかというとキリっとしまった感じの描写が好きです。かといってコントラストが高すぎるのは好みではなく、そういった点から黄色のY2フィルターを使うことが多いです。適度にコントラストを高めてくれるといった感じです。

 モノクロ用フィルターも露出補正が必要になります。メーカーが推奨している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 2倍
  YA3 : 4倍
  R1  : 8倍

 ですが、私が実際に採用している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 1.6倍
  YA3 : 3.2倍
  R1  : 6.2倍

 この差は何かというと、私が持っているフィルターを用いて実際に測光した値に基づいています。フィルターによって若干の個体差があるのかもしれませんが、メーカーの推奨値よりも補正量は少なめです。

減光(ND)フィルター

 あまたあるフィルターの中でも使用する方が多いほうに属するフィルターだと思います。
 このフィルターを使用する主な理由としては、

  1) 低速(スロー)シャッターを切りたい
  2) 絞りを開いて撮りたい 
  3) 目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになってしまう

 というようなシチュエーションではないでしょうか。
 私の場合、大判カメラや中判カメラがメインなので、目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになるというようなことはほとんどなく、低速シャッターを切りたいという理由がいちばん多いと思います。カメラバッグの中に常に入れているのは、ND8、ND16、ND400の3枚です。ND400は数十秒とか数分という長時間露光をするとき以外に使うことはありません。ほとんどはND8で事足りているという感じです。

▲左下から反時計回りにND8、ND16、ND400フィルター

 通常のNDフィルターよりも出番が多いのがハーフNDフィルターです。
 これは円形ではなく、私が使っているのは100mm x 150mmの長方形のフィルターです。真ん中あたりから徐々に黒くなっているもので、画面の半分くらいを減光したいというときに使います。例えば、曇った空を入れた風景を撮るときなど、空が明るすぎて飛んでしまうようなとき、空の部分だけにNDをかけるというような使い方です。
 これも減光度合いによって何種類もありますが、私が使っているのは「HND 0.6」という製品で、ND4に相当する2段分の減光をしてくれるものです。
 また、透明な部分と黒い部分の境目が急激に変わるハードタイプと、緩やかに変わっているソフトタイプがありますが、私はソフトタイプを使っています。

偏光(PL)フィルター

 このフィルターも使用していらっしゃる方は非常に多いのでないかと思います。特に風景を撮られる方の中には常用フィルター並みに多用されている方もいらっしゃるようです。
 最近はカメラのハーフミラーにも干渉を与えないC-PLがほとんどですが、大判カメラを使っている分には問題ないので、私は昔ながらの普通のPLフィルターを使っています。

▲PLフィルター

 PLフィルターを使うとコントラストが上がったりヌケの良い色合いになったりして見栄えがするのですが、かけすぎるとべたっとした感じになってしまいますので、私がこのフィルターを使うのは主に以下のような場合です。

  1) 渓流などで濡れた岩の反射を取り除きたい
  2) 木々の葉っぱが白っぽくなる反射を取り除きたい
  3) 水面の反射を取り除きたい

 渓流の濡れた岩の表面が反射するのは立体感があると言えばそうなのですが、あのぬらぬらした感じの反射があまり好きではありません。多少ならばそれほど気になりませんが、大きな岩全体がぬらぬらとテカっているのはいただけません。
 また、木々の葉っぱが白く反射していると妙にそれが目立ってしまい、しかもその量が多いと写真の重厚感が薄れてしまいます。
 そして、水面の反射に関しては、水底を見せたいという意図があるときに使います。ですが、水面は何か写りこんでいる方が見栄えがすることが多いと感じているので、この目的で使うことは多くはありません。

 なお、PLフィルターは経年劣化するというか、長年使っていると変色してきます。そうなると発色に影響があるので、変色してきたら新しいフィルターに買い替える必要があります。

保護フィルター

 レンズの性能を100%引き出すにはフィルターは使わない方がよいという意見があり、こだわりがあってフィルターは使わないという方もいらっしゃいます。確かに、レンズの前に余計なものは置かないに越したことはなく、しっかりコーティングが施されたフィルターであってもごくわずかの反射はあるでしょうから、厳密にいえば画質の低下があると言えるのかもしれません。
 しかし、保護用の無色透明のフィルターをつけた状態と外した状態で撮影した写真を比較してみても、私にはその差が全く感じられませんでした。

 私の場合、屋外、特に渓流とか山などでの撮影が多く、保護フィルターをつけておかないと埃が付着したり、木の枝などにレンズをぶつけて傷がついたりしてしまう恐れがあります。撮影の時だけフィルターを取り外すという選択肢もありますが、とてつもなく面倒くさいので着けっ放しです。唯一、取り外すのは他のフィルターを取り付ける時だけです。つまり、フィルターの2枚重ねはしないようにしています。
 保護フィルターはすべてのレンズに取り付けてありますからそれだけでそこそこの重量になるので、これらがなければ荷物も少しは軽くなると思うのですが、レンズを傷つけるわけにはいかないというほうが優先された結果です。

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 本文にも書いたように、保護フィルターを除けば私がフィルターを使う頻度は決して高くはありません。フィルターは持たないで出かけようと思うこともありますが、どうしても使いたいというときに持っていなければ手の打ちようもないので、最低限のフィルターだけはバッグに入れています。
 フィルター枠も薄いタイプのものがありますが、より軽くてかさばらないものがあればそれと交換したいです。

 余談ですが、今回からタイトルに通し番号をつけてみました。過去のページについては追って対応したいと思います。

(2025.3.13)

#NDフィルター #フィルター #色温度補正フィルター

カラーリバーサルフィルムを使った撮影時のカラーバランスの崩れ

 フィルムカメラで特にカラーリバーサルフィルムを使って撮影をしていると、光の状態や撮影の条件などでカラーバランスが崩れてしまうことがあります。デジタルカメラのようにホワイトバランスの調整機能があれば便利なのですが、そういうわけにもいかないので、カラーバランスを崩したくないときは補正をかけるなどの対策が必要になります。もちろん、敢えてカラーバランスが崩れたままにしておくこともありますが、補正をするにしてもしないにしても、現像が完了するまでは崩れ具合を確認することはできません。
 カラーバランスの崩れ方はフィルムによって違いがありますが、代表的なカラーバランスの崩れについて触れてみたいと思います。

長時間露光によるカラーバランスの崩れ

 フィルムというのは光が当たることで、表面に塗られている乳剤(感光材料)の中のハロゲン化銀が化学反応を起こすことで像(潜像)がつくられるわけですが、このとき、フィルムにあたる光の量とハロゲン化銀が起こす化学反応の度合いの間には「相反則」という関係があります。簡単に言うと、フィルムにあたる光の量が2倍になれば化学反応の度合いも2倍になるということです。
 カメラの場合、フィルムにあたる光の量というのは絞りとシャッター速度、つまり光が当たる時間によって決まりますが、この時間が極端に短いとか、逆に極端に長い場合はこの相反則が成り立たなくなってしまいます。この現象を「相反則不軌」と言い、これが発生するとカラーバランスが崩れてしまいます。

 相反則不軌が生じる短い時間、および長い時間というのがどれくらいの時間なのか、富士フイルムから公開されているデータシートを見ると以下のように記載されています。

  PROVIA 100F : 1/4000~128秒  補正不要
  Velvia 100F  : 1/4000~1分  補正不要
  Velvia 50  : 1/4000~1秒  補正不要

 また、上記の時間を超える長時間露光の場合は色温度補正フィルター等による補正の方法も記載されていますが、上記の時間よりも短い場合の補正方法に関しては記載されていません。一般的なフィルム一眼レフカメラの最高速シャッター程度では補正するほど顕著には生じないということかもしれません。

 これを見ると、PROVIA 100FやVelvia 100Fでは一般的な撮影条件の範囲において、相反則不軌が起きることはほとんどないと思われますが、Velvia 50の場合は数秒の露光時間でも発生してしまうことになります。
 私が主に使っているフィルムはPROVIA 100FとVelvia 100Fですが、確かに長時間露光をしても相反則不軌が生じたことはほとんどありません。星の撮影などをする場合は補正が必要になると思いますが、私のように一般的な風景撮影の場合は補正不要の範囲内におさまってしまいます。
 一方、ごくまれにVelvia 50を使うことがありますが、こちらは数秒の露光でもカラーバランスが崩れてしまい、数十秒の長時間露光をすると顕著に表れてきます。

 実際にVelvia 50で長時間露光撮影した例がこちらです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 64s Velvia50

 埼玉県にある三十槌の氷柱で撮影したものですが、早朝のため太陽光が山で遮られており、辺りは日陰になった状態です。露光時間は64秒です。
 カラーバランスが大きく崩れて、全体的にかなり青みがかっているのがわかると思います。氷柱や石の上に積もった雪の影の部分なども青くなっていますし、河原の石も黒というよりは群青色といった感じで、相反則不軌がしっかり生じています。
 このような色合いの方が冷たさや寒さが感じられるという見方もあろうかと思いますが、実際に肉眼で見た印象とはかなり異なっています。
 相反則不軌によって色合いが青になるのは、長時間露光すると赤感光層の感度が大きく低下することが理由のようです。

 富士フイルムのデータシートによると、このカラーバランスの崩れを補正するために下記のようなフィルターの使用を推奨しています。

  PROVIA 100F : 2.5G
  Velvia 100F  : 2.5B
  Velvia 50  : 5M~12.5M

 なお、長時間露光による相反則不軌は全体的に露出が不足しているわけではないので、露光時間を長くしても改善はしません。むしろ増長してしまいます。光の強い箇所(ハイライト部分)は相反則不軌はほとんど起きませんが、光の弱い箇所(シャドー部分)は相反則不軌の度合いが高いため、露光時間を長くするほどコントラストが高まっていきます。

タングステン電球や水銀ランプ等の照明によるカラーバランスの崩れ

 現在、一般に市販されているカラーリバーサルフィルムはすべてデーライト(昼光)用フィルムです。これは昼間の太陽光のもとで撮影するとバランスのとれた綺麗な発色がされるというもので、色温度がおよそ5,500Kで正しい発色をするように作られているようです。
 かつては3,200Kあたりで正しい発色をするタングステンタイプと呼ばれるフィルムも販売されていましたが、ずいぶん昔に廃盤になってしまいました。

 光の色温度が異なれば、その違いは人間の眼でもある程度はわかりますが、フィルムはこれをとても敏感に感じ取ってしまいます。タングステン電球や水銀ランプ、あるいは蛍光灯などの人工照明のもとでデーライトフィルムを使って撮影すると、それらの光の特性の影響をもろに受けます。
 例えば、タングステン電球のもとではオレンジっぽい色に、水銀ランプのもとでは緑っぽい色の写真になります。縁日などの夜景を撮ると全体に赤っぽく写ってしまうのは典型的な例です。

 下の写真は京王線の若葉台車両基地の夜景を撮影したものです(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F4.5 4s PROVIA100F

 鉄道の施設で使用する照明については細かな決まりがあるらしく、詳しくは知りませんが車両基地やヤードなどでは主に水銀灯が用いられています。車両の入れ替えを安全に行なうため、作業される方が構内の施設物や車両などを確実に認識できるようにということで採用されているようです。
 この水銀灯の光は人間の眼には若干青みがかった白に見えますが、色温度が太陽光よりも低く(だいたい4,500K~5,000Kらしい)、赤色の成分が低いため、デーライトフィルムで撮ると青緑というような色に写ります。肉眼で見たのとは全く違います。
 しかし、これはこれで夜の雰囲気が出ているし、幻想的というのとはちょっと違いますがSFの世界を見ているような、秘密基地を見ているような感じがします。

 人工照明下で撮影した場合、単なる色温度の違いだけでなく色の成分の度合いも違うため、使用されている照明によって全く異なる発色をします。現像するまで発色の状態がわからないという不便さはありますが、予想外の色合いのポジが仕上がってきたときは新たな発見です。

晴天時の日陰におけるカラーバランスの崩れ

 晴天の日中、太陽光が潤沢に降り注いでいるときがデーライトフィルムにとって最も綺麗に発色するというのは上にも書いた通りですが、晴天の日中でも日陰に入ると状況はまったく異なります。
 晴天時の日陰は太陽からの直接の光が遮られるため、上空で乱反射した波長の短い光、すなわち青い成分の光の度合いが高く、それによって青っぽく写るらしいですが、難しい理由はともかく、晴天時の日陰は見た目以上に青く写ります。
 晴天時の日陰の色温度はおよそ7,000~7,500Kらしいので、直接の太陽光と比べるとかなり高い値です。

 晴天時に日陰で撮影するということは少なからずありますが、部分的に日陰になっている程度であればほとんど影響はありません。ただし、撮影している周辺一帯が日陰になっているような場合は影響が大きく、写真は青被りを起こしてしまいます。

 青被りがはっきりと出ている例が下の写真です(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 東京都の御岳渓谷で撮影したものですが、太陽の光が正面の山に遮られており、この一帯は日陰になっている状態です。そして、上空は雲一つない青空です。
 このようなシチュエーションのときが最もカラーバランスが崩れやすく、まるでレンズに青いフィルターでも着けたかのようです。

 同じ青被りでも、長時間露光による相反則不軌が発生した時とは根本的に異なっています。相反則不軌の場合は赤の感光度合いが著しく低下することで青が強く出てしまうような状態になるわけですが、こちらは露光不足ではなく、全体に青い方にシフトしているという感じです。ですので、相反則不軌のようにコントラストが高まるということはありません。

 このようなカラーバランスの崩れは、色温度補正(変換)フィルターを使うことで補正することができます。一般的にはW2とかW4というフィルターをつけることで色温度を下げ、正常なカラーバランスにすることができます。
 色温度補正フィルターは、変換することのできる色温度によって名称がつけられていて、例えば、W2フィルターの場合は20ミレッド、W4フィルターの場合は40ミレッドの変換ができることを示しています。
 色温度変換の詳細についてはここでは触れませんが、ごく簡単にいうと、オリジナルの光源の色温度(K₁)と、フィルターを通った光の色温度(K₂)の関係を表したもので、次のような式になります。

  変換ミレッド = 1/K₂ * 10⁶ - 1/K₁ * 10⁶

 上の式にあてはめると、例えば色温度5,000Kのオリジナル光源が、W2フィルターを通ることで約4,545Kに色温度が下がることになります。

朝夕の撮影時におけるカラーバランスの崩れ

 日の出や日の入りの時間帯の光というのは見た目にも赤っぽいとわかるので、このような光の状態で撮影をすれば赤っぽく写るのはごく当たり前というか、とてもわかり易いと思います。
 しかし、この朝方や夕方の赤っぽく写る現象は人間の眼が感じているよりも長い時間続いていて、日中の光とほとんど変わらないと思っても、実際に撮影してみると赤っぽく色被りをしていたなんていうことはよくあります。
 赤っぽいからこそ朝方や夕方の感じが出るのであって、私の場合、敢えてこれを補正することはあまりありません。むしろ、風景写真などの場合、赤みを強くしたいということの方が多いのですが、時には、被写体や撮影意図によっては赤みを取り除きたいという場合もあります。

 下の写真は小海線の小淵沢大カーブと呼ばれるところで撮影したものです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX 200mm 1:4 F16 1/125 PROVIA100F

 全体に赤っぽく色被りをしたようになっています。
 撮影したのは朝です。太陽はだいぶ高い位置まで登っており、肉眼では日中の光とほとんど同じに感じたのですが、実際に撮影してみるとかなり赤みがかってしまいました。

 この程度の赤みを補正するのであれば色温度補正フィルターのC2くらいをつければ、日中の光で撮影したと同じようなカラーバランスになります。補正せずそのままにしておくか、補正して正常なカラーバランスにするかは好みや撮影意図に合わせて選択ということになります。

 ちなみにC2とかC4フィルターはW2やW4フィルターとは逆に、色温度を高い方に変換します。変換の度合いはC2で20ミレッド、C4で40ミレッドです。

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 富士フイルムが異常とも思える値上げを発表したり、MARIXマリックスから新たにリバーサルフィルム(中身はエクタクロームとのことですが)が発売されたりと、日ごろ、リバーサルフィルムを使っている私にとっては心穏やかならぬ6月でした。
 リバーサルをやめなければならない日もそう遠くないのでは、という思いもありながら、買い置きしてあるフィルムであと1年半くらいは持ちこたえられそうなので、あまり外乱に惑わされないようにしようと思ってはいます。しかし、イマイチ、気持ちが晴ればれとしないのも事実です。
 それでも、虎の子のようなフィルムを持っていそいそと撮影に出かけると、この先もフィルムの価格がどんどん上昇して、いずれ購入することができなくなるかも知れないという沈鬱な気持ちもどこへやら吹っ飛んでしまいます。

 光の状態や撮影条件によってカラーバランスが大きく変わるリバーサルフィルムですが、非現実的な発色に出会えたりするのもリバーサルフィルムならではかも知れません。

(2023年6月30日)

#リバーサルフィルム #色温度補正フィルター #カラーバランス #相反則不軌 #Velvia #PROVIA

大判カメラ撮影に必要な小道具、あると便利な小道具たち(3)

 前回(およそ1年前)に続いて、大判カメラで撮影する際に、あると便利な小道具たちの紹介の3回目です。
 これらがなければ撮影ができないというような切実なものではありませんが、日ごろ、私が撮影の際に持ち歩いているものです。中には必ずしも大判カメラでの撮影に限らないものもありますが、大判カメラ使用時に出番が多いものを選定してみました。

ストーンバッグ

 ウェイトストーンバッグと呼ばれることもあります。もともとは三脚を安定させるための重しを載せるためのもので、三脚の3本の脚のつけ根辺りに紐で縛りつける、ハンモックのようなものです。
 風が強いときに三脚のブレを防ぐためであったり、そもそも重い三脚を持ち歩くのは大変なので、軽めの三脚であっても現地調達した石などを載せて安定させようという目的で作られたようです。確かに、その辺りに転がっている手ごろな石を載せれば、三脚の重心も下がるので安定度は増すと思います。
 ですが、私はもっぱら撮影時に使用する小道具置き場として使っています。

 大判カメラで撮影する際には意外とたくさんの小道具、小物類を使います。単体露出計、ルーペ、ブロア、フィルター、フィルムホルダーなどは常に使用しますが、撮影条件によってはさらにいくつもの小道具が必要になることがあります。
 これらをカメラバッグから取り出し、使い終わったらカメラバッグに入れる、というようなことはとても面倒くさいので、三脚の股の間に取付けたストーンバッグを仮置き場として使っています。もちろん、その場での撮影を終えて移動する際にはカメラバッグにしまわなければなりませんが、撮影時は必要なものが手の届くところにあるのでとても便利です。
 また、私はこの中に、常時ウェスを入れていて、三脚が濡れたり泥で汚れたりしたときにこれでふき取っています。

 私の使っているストーンバッグはナイロン製(たぶん)の安物なのでとても軽く、移動の際にも負担にならないので三脚に着けっぱなしです。安物なので、本来の使い方をしようとして大き目の石を入れると破れてしまうかも知れません。

手鏡(ミラー)

 クレジットカードと同じ大きさの鏡です。AMEX(アメリカン・エクスプレス)からもらったもので、金属製の鏡です。ガラス製ではないので、落としても割れる心配がありません。

 これを何に使うかというと、時々身だしなみを整えるためではなく、主に絞りやシャッター速度の設定の際に使用します。

 大判カメラは後部にあるフォーカシングスクリーンで構図の確認やピント合わせをするので、これが目の高さにあると腰をかがめる必要がないのでとても楽です。
 ですが、そうするとレンズも同じ高さになり、シャッターの外周につけられた絞り値やシャッター速度値がとても見難くなってしまいます。レンズ正面に回れば前面につけられた目盛りは見えますが、カメラの前後を行ったり来たりしなければならないので極めて面倒です。

 そこで、カメラ後部にいながらレンズの指標を確認できるよう、この鏡を使います。

 鏡なので左右反転して写りますが、見たいところを映すことができるのと、半絞りや1/3絞りなどの細かな設定も鏡を見ながらできるのでとても便利です。
 もちろん、強い風に吹かれたり、冠布を被ったことで乱れたヘアーを直すのにも使えることは言うまでもありません。

露出計用PLフィルター

 大判カメラには露出計がついていないので、単体露出計が必須になります。
 通常の撮影であれば、単体露出計の測光値を使う、もしくは、撮影意図によって露出を変える場合でも単体露出計の測光値をもとに補正をかけます。
 ところが、PLフィルターを使用する場合は、単体露出計の測光値をそのまま使うというわけにはいきません。NDフィルターなどは露出補正値がフィルターによってほぼ決まっていますが、PLフィルターは光の具合や偏光をかける度合いによって露出補正値が異なるからです。

 PLフィルターはレンズに装着した状態で、ファインダーやフォーカシングスクリーンを見ながら偏光の効き具合を確認しますが、この時の露出補正値が正確にわかりません。明るさの変化を見て、概ねこれくらいだろうということで露出補正値を決めてしまうこともありますが、正確さを期すためには単体露出計で測光することが望ましいわけです。

 そのためには単体露出計にもPLフィルターを装着し、その状態で測光する必要がありますが、レンズにつけたPLフィルターを外して単体露出計につけるのは面倒です。
 そこで、単体露出計用の小さなPLフィルターをあらかじめ用意しておきます。

 PLフィルターの枠には変更度合いの基準となる位置にマークがついています。レンズに装着したPLフィルターで偏光度合いを確認した後、その時のマーク位置と同じになるよう単体露出計のPLフィルターも回転させ、その状態で測光すれば、偏光のかかり度合いに応じた正確な露出値を得ることができます。

 最近のPLフィルターは、カメラに内蔵されたハーフミラーやローパスフィルターに干渉しないよう、サーキュラPLというものがほとんどですが、大判カメラにはどちらも内蔵されていませんし、単体露出計に影響がなければ普通のPLフィルターでも問題ありません。

フォーカシングスクリーンマスク

 大判カメラのフォーカシングスクリーンは、そのカメラで使用するフィルムとほぼ同じ大きさになっています。つまり、視野率はほぼ100%ということです。
 ですが、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着して撮影する場合、使用するのはフォーカシングスクリーンの中央部だけ、67判であれば約55mmx69mmの範囲だけです。
 フォーカシングスクリーンによっては67判や69判の枠が引かれているものもありますが、視野率が300%ほどにもなってしまうので周囲が見えすぎてしまい、正直、使い易いとはいえません。これを改善するため、使用するフィルムの大きさに合わせたマスクを用意しておくと便利です。

 マスクと言っても黒い厚紙の中央部に、フィルムの大きさに合わせた窓をくり抜いただけのものです。これを、大判カメラのフォーカシングスクリーンのところにはめ込むという単純なものです。単純ではありますが、これで視野率が約100%となり、周囲の余計なものが見えなくなるので構図決めは格段にやり易くなります。

 フォーカシングスクリーンが嵌まっている枠の大きさはカメラによって異なるので、このマスクはカメラごとに用意しておく必要があります。
 また、フィールドタイプの大判カメラの場合、フォーカシングスクリーンにフードがついているものが多く、マスクを嵌めたままでもこのフードを畳めるよう、マスクの紙厚が厚くなりすぎないように考慮する必要があります。

色温度補正フィルター

 大判カメラでの撮影は長時間露光になることも多く、特にリバーサルフィルムを使用した撮影の場合、相反則不軌によってカラーバランスが崩れることがあります。
 この影響が出る露光時間はフィルムによって異なりますが、富士フイルムのデータシートによると、PROVIA100Fで4分以上の露光、Velvia100Fで2分以上の露光、Velvia50で4秒以上の露光となっています。
 2分以上の露光をすることはそれほど多くはありませんが、4秒以上の露光はかなりの頻度で発生します。つまり、Velvia50を使う場合はカラーバランス補正が必要になる頻度も高いということです。
 また、Velvia50の場合はマゼンタ系による色温度補正フィルターとされています。

 これに対応するため、マゼンタのポリエステルフィルターセットを使用しています。

 5Mから30Mまで5種類の濃度のフィルターがセットになっているものです。フィルター枠の大きさは100mmx100mmで、角型フィルターを使うときのホルダーに嵌まるサイズです。

 多少の色補正はレタッチソフトで修正できますが、やはりフィルムで撮る以上、ポジの状態でも適正なカラーバランスにしておきたいと思い、Velvia50を使うときは持ち歩くようにしています。

ケミカルライト

 フィールドタイプの大判カメラはその構造上、Uアーム(レンズスタンダード)を移動させるためのベッドがレンズよりも前にせり出しているものが多く、特に短焦点レンズを使う場合、このベッドが写り込んでしまうことがあります。WISTA 45 SPやタチハラフィルスタンド45では問題になりませんが、私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは、焦点距離が105mmのレンズでも縦位置だとベッドが写り込んでしまいます。
 カメラによって、焦点距離が概ね何ミリ以上のレンズであれば写り込みはないという自分なりの目安はありますが、それはカメラをニュートラル状態で使ったときの話しであって、アオリを使えばその基準は崩れてしまいます。

 ベッドが写り込まないよう、短焦点レンズを使うときは特に注意をしながらフレーミングや構図決めを行ないますが、夜景の撮影であったり、被写体が黒っぽいものであったりすると、ベッドの写り込みに気づかずにシャッターを切ってしまうこともあります。そうなると、大判で最も小さな4×5判であっても、リバーサルフィルムを使っていると千数百円(現像代含む)が飛んで行ってしまいます。

 このミスを防ぐため、夜景や暗い被写体の撮影の際にはベッドの先端にケミカルライトを着けるようにしています。

 これは本来、釣りに使うものです。2~3ヵ所をパキッと折ると緑色に発光し、約10時間くらい発光し続けます。光は蛍光色でかなり明るいです。サイズはいろいろあるのですが、私が使っているのは長さが37mm、直径が4.5mmという比較的小さなものです。価格は10本で400円ほどです。

 発光させたケミカルライトを、長さ50mmほどに切った黒いストローの中に入れます。ストローの中央にはキリで小さな穴を開けておきます。

 これを大判カメラのベッドの先端に貼りつければOKです。貼りつけは両面テープでも何でも良いのですが、私は「ひっつき虫」という粘土のようなものを使っています。つけたりとったりが何度でもできるので便利です。

 この状態で構図決めを行なうわけですが、もしベッドが写り込むとフォーカシングスクリーンの上部に緑色の光が見えるのですぐにわかります。
 10時間以上も発光し続けるので、一日の撮影でも1本あれば間に合います。数十円で高価なフィルムが無駄になるのを防げるのであれば安いものです。

マスキングテープ、ハーネステープ

 これは特に用途が決まっているわけではなく、持ち歩いていると何かと便利といった類のものです。どちらも手で簡単に切れますし、剥がしても痕が残りません。

 私がこれらをどのように使っているかというと、

  ・シートフィルムホルダーの引き蓋が抜けないようにとめておく
  ・長いケーブルレリーズ使用時、写り込まないようにカメラや三脚などにとめておく
  ・角型フィルターの隙間からの光線漏れを塞ぐ
  ・野草撮影の時、邪魔になる草や枝をまとめておく
  ・夜景撮影のため、明るいときにピントを合わせた位置をマーキングしておく

 といったようなところです。

 過去には、指を切ってしまったときに傷口にティッシュペーパーをあてて、その上からマスキングテープを巻いて包帯代わりにしたなんていうこともありました。
 とにかく持っていると重宝します。

折り畳み椅子

 大判カメラに限って必要というわけではありませんが、特に大判カメラの場合、じっくり腰を落ち着けて撮ることが多く、そんなときに椅子があると楽ちんです。レジャーシートなどを地面に広げて、そこに腰を下ろしても良いのですが、やはり椅子の方が何かと便利です。
 私は出来るだけ軽いものをということで、かろうじてお尻が乗るくらいの小さなものを持ち歩いています。長時間座るのには向いていませんが、地面に座るよりはずっと楽です。

 ただし、他の小物に比べると大きいので荷物になります。荷物の少ない方をとるか、多少荷物が増えても待機時の体の負担軽減をとるか、といったところでしょうか。

 いちばん自由度が高いのはレジャーシートだと思い、常時持ち歩いているのですが、立ったり座ったりが結構しんどいので、レジャーシートはもっぱら荷物置き用として使っています。

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 あれば便利というものはなかなかキリがなくて、撮影対象が異なればその内容も変わるでしょうし、年齢を重ねることで変わってくるものあると思います。しかし、持てる量には自ずと限りがあるので、荷物にならず手間もいらず、という小道具がいちばんありがたいです。

 また、今回は色補正フィルターについても触れましたが、その他にもカメラバッグには何種類かのフィルターが入っています。しかし、それらのフィルターは大判カメラに限ったものではないので言及しませんでしたが、フィルターについては別の機会にあらためて書いてみたいと思います。

(2022.10.18)

#撮影小道具 #ストーンバッグ #ケミカルライト #色温度補正フィルター