いうまでもなく花には様々な色彩があるので、フィルムカメラであれデジタルカメラであれ、カラーでの撮影に向いている被写体の一つと言えます。それぞれの花が持っている色合いを忠実に再現した写真はやはり美しいものです。
一方、敢えて色彩をなくし、花の形だけで表現した写真も趣があって、華やかさとは違う別の表情や雰囲気が伝わってきます。
今回はモノクロも含め、シルエットで撮った花の写真を何枚かご紹介します。
桜
何故か桜の咲く季節が近づくと心がウキウキして、私としては是非ともシャッターを切りたくなる被写体の代表格です。
多くの桜は葉っぱが出る前に花が咲き、しかも、他に類を見ないほど花の密度が高いのでとても華やかに見えます。薄紅の花色はとても清楚な感じがします。
そんな魅力的な桜ですが、桜の木全体をシルエットで撮影したのが下の写真です。
この桜は、福島県にある「平堂壇の桜」という名前がついている一本桜です。小高い丘(古墳らしいです)の上に立つエドヒガンの巨木で、かなり遠くからでも見つけることができます。周囲に障害物がないので、360°どの方角からでも見ることができますが、私は桜の東の方角から見た時の木の形がいちばん好きです。
夕方、太陽が西の空にかかり、東の方角から見ると桜の木全体がシルエットになります。実際にはこの写真よりももっと明るい感じですが、夕暮れの雰囲気を出すために露出を切り詰めています。また、雲の立体感を出すために、W2の色温度変換フィルターを使用しています。
近所の方だと思われるのですが散歩にでもいらしたのか、ちょうど通りかかったのでそのタイミングを撮らせてもらいました。
桜の木までは200mほど離れた場所から撮影しているため、真横から見ているのに近いアングルになり、巨木ではありますが全体の輪郭をとらえることができています。
コスモス(秋桜)
日本に入ってきたのは明治時代らしいですが、今では道端や田圃の畦道、牧場などで普通に目にすることができます。近年は観光用に何十万株というコスモスを人工的に植えたコスモス畑も各地に増え、一斉に咲いている姿は見応えがあります。
下の写真もコスモスのお花畑で 撮影したものです。
撮影した時間は間もなく日の出になろうかという早朝です。太陽の光が強まるにつれ、赤から紫に変わる空のグラデーションがとても美しい時間帯です。
完全にシルエットにしてしまうと早朝の感じが薄れてしまうと思い、わずかに赤紫の花色がわかるくらいの露出をかけています。南国育ちのコスモスは、持ち前の鮮やかな色彩と明るい光がお似合いですが、このようにシルエット、もしくはそれに近い状態でも華やかさが損なわれることがありません。
また、たくさんの花が密生しているところをシルエットにすると重なり合ったところが平面的になってしまうので、他よりも高く伸びた数本の茎を低い位置から見上げるようなアングルで撮影しています。そうすることで、針金のような細い葉っぱや蕾などの形もすっきりと見えるようになります。
お花畑の向こうから太陽が顔を出してしまうと光が花弁に差し込み、シルエットにならなくなってしまいます。それはそれでステンドグラスのような美しさになるのですが、全く雰囲気の違う写真になります。
ヒメジョオン(姫女苑)
どこでも見ることのできる、北アメリカ原産の帰化植物です。
白、またはごく薄いピンクの小さな可愛らしい花を咲かせますが、とても強い繁殖力のせいか、どちらかというと嫌われ者の感があります。亜高山帯にまで生育域を広げているため、要注意外来生物に指定されているようです。
あまりカメラを向けようという気持ちにならないヒメジョオンですが、こんな姿を見せてくれることもあります。
沈む直前の太陽をバックに、ヒメジョオンをシルエットで撮影しました。
花や蕾の形がユニークで、まるで踊っているように見えます。そんな中でいちばん踊りが洗練されている(?)と思えた1本を、太陽のど真ん中に配置してみました。
300mmの望遠レンズを使い、出来るだけ太陽が大きくなるようにして、ヒメジョオンの花だけでなく茎の部分も入るようにしました。
また、ヒメジョオンが1本だけだと画が散漫になってしまうので、ある程度の取り巻きがいるアングルを探して見つけたのがここでした。
西日は沈むのが早いので、300mmのレンズを着けるとファインダーの中で太陽が動いていくのがわかります。ですので時間との勝負です。
同じ場所から同じアングルで撮影しても、日中ではこのようなユニークさは感じられません。嫌われ者の野草に対する見方も少し変わるかも知れません。
ノアザミ(野薊)
アザミは初夏から秋口にかけていろいろな種類が花を咲かせますが、最もポピュラーなのがノアザミです。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、ごくまれに白い花を咲かせるのもがあり、見つけると何だか幸せな気持ちになります。
ノアザミは特に珍しい野草というわけではありませんが、その鮮やかな花色がとても目立つので、撮りたくなる被写体の一つです。緑の中に赤紫の花が点在している景色は何とも言えない美しさです。
花の色もさることながら花の形も特徴的なので、シルエットだけでもすぐにアザミとわかります。
下の写真は日の出前、東の空が明るくなり始めたころに撮影したノアザミの写真です。
花の下、総苞のところに蜂らしきものがしがみついています。指先でツンツンしてみましたが、寒いせいかピクリともしません。どうやら昨夜は家に帰らず、ここにお泊りしたようです。
赤く染まりかけた空に抜いたノアザミだけでも綺麗なシルエットなのですが、蜂というおまけがついて、ちょっとほほえましい写真になりました。
まだ薄暗い時間帯とはいえ、この花が咲いている環境がわかるようにと思い、下の方に草叢を、中間あたりに中景となる山並みを入れ、上の方には明るくなりかけた空を入れてみました。
また、全体のボケが大きくなるよう、200mmのレンズに接写リングをかませての撮影です。そのおかげで溶けるようなボケになり、ノアザミのシルエットがより引き立ってくれました。
因みに、ここでお泊りした蜂ですが、太陽が昇って暖かくなってくるともぞもぞし始め、やがてどこかに飛んでいきました。
キバナコスモス(黄花秋桜)
近年、キバナコスモスをよく見かけるようになりました。よく見慣れているコスモスとは同属ですが別の種類らしく、コスモスに比べて花期が長いようです。東京では12月になっても見かけることがありますが、さすがにその頃になると鮮やかなオレンジ色の花弁も濁った色になってしまいます。
そして、花が少なくなった分、代わりに目立ってくるのがトゲトゲした種子です。
種子ができ始めの頃、トゲトゲは上を向いているのですが、徐々に開いていき、やがて小さなウニのようになります。
上の写真はまだ完全に開ききる前の状態の種子です。そのまま撮ってもつまらないので、玉ボケの中にシルエットとなるようにして撮りました。
シルエットと言ってもこれは実体ではなく、種子の影です。背後の玉ボケは公園に設置されているステンレス製の柵に反射した光で、この中にキバナコスモスの種子の影が入るように撮影したものです。玉ボケと影の大きさのバランスを考えて撮ったつもりですが、もう少し影を小さくした方が良かったようにも思えます。
このような写真は、玉ボケができる場所と被写体との位置関係(距離)によって出来栄えがまったく変わってしまうので、ベストポジションを探すのに手間がかかって結構大変です。
コバギボウシ(小葉擬宝珠)
夏に薄紫色の花を咲かせる野草です。
一本の茎にたくさんの花をつけるので、群生して咲いている様は見事です。開くとユリの花のような形になり、華やかさが増します。薄紫の中に少し濃い紫色の筋が入ったような花はとても品があり、写真映えする花だと思います。
下の写真は、まだ開ききっていないコバギボウシをモノクロフィルムで撮ったものです。
雲がかかっている夕陽をバックにしており、主被写体のコバギボウシは完全なシルエットになっています。赤く染まった空に抜くようにカラーリバーサルで撮ることも考えましたが、花が下向きになっていいる形を見て、モノトーンの方が似合うのではないかと思い、モノクロフィルムを使いました。ちょっと寂しげな雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
雲がかかっていたおかげで全体が硬くならずに済んだ感じです。
軽くレフ板をあてた状態でも撮影してみましたが、花自体は柔らかな印象になったものの、全体としてはこちらの方が趣がある感じでした。
なお、春の山菜の女王と言われているウルイは、同じ仲間のオオバギボウシの若葉です。今はハウス栽培物がほとんどですが、天然物のウルイは山菜特有の苦みがわずかに感じられ、山菜という実感があります。
シシウド(獅子独活)
少し標高の高いところに行くとよく見られる野草です。
背丈が高く、花火のように開いた花が特徴的です。花の色は白に近いクリーム色で、良く晴れた青空とのコントラストは爽やかな夏を感じさせてくれます。
この写真もモノクロフィルムで撮影したものです。
シシウドの根元にカメラを設置し、見上げるようにして太陽を画面上部に直接入れることでシシウド全体をシルエットにしていますが、一つひとつの花はゴマ粒のように小さいので、綺麗な造形がくっきりと出ています。
所どころに薄い雲がかかっていますが、ちょっとコントラストが弱い感じです。モノクロ用のフィルターのY2あたりを使った方が良かったかもしれません。好みもあると思いますが、やはりモノクロはキリッと締まった黒が表現されている方が好ましく感じます。
シシウドは、縦にも横にも広がってたくさんの花をつけているほうが見応えがあるのですが、なかなかそのような個体に遭遇することは多くはありません。大きくて枝っぷりの良いシシウドに巡り合えたら、是非とも撮っておきたい被写体です。
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シルエットで撮ると鮮やかな花の色は失われますが、花の魅力が失われるわけではなく、普通に見ていた時にはわからないものが見えてくるから面白いものです。
また、もともとの色を脳が憶えているからかもしれませんが、シルエットの中に色が見えてくるような気がするのも事実です。シルエット自体はまるで影絵のように平面的にもかかわらず、立体的に見えるのも不思議です。
シルエットのつけ方や濃淡によってずいぶんと写真の雰囲気も変わってきます。このあたりも奥深いところだという感じがします。
(2022.11.8)