写真撮影における測光と露出設定(3) 風景撮影における測光方式

 前回まで、露出や測光に関する基本的なことを説明してきましたが、3回目の今回は、風景写真を撮る際に用いる主な測光方式について進めていきます。風景撮影においては反射光式露出計を使って測光することが多く、入射光式露出計とは違った測光方式になります。そのあたりを、撮影事例を交えながら説明していきたいと思います。

リバーサルフィルムのラチチュード

 測光方式の前にフィルムの「ラチチュード」について簡単に触れておきます。
 ラチチュードとは「適正露光域」とか、「露出寛容度」とか訳されていますが、フィルム上で階調がなくならず、画像として成立する範囲のことをいいます。暗すぎると階調がつぶれて真っ黒になってしまい、明るすぎると階調が飛んでしまい真っ白になってしまい、いずれも画像として認識できなくなってしまいます。
 簡単に言うと、どのくらいの暗さから、そして、どのくらいの明るさまで再現できるか、その範囲のことを指します。

 リバーサルフィルの場合、このラチチュードは約5EVと言われています。モノクロのネガフィルムが約9EVといわれていますから、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いことがわかります。
 5EVというのは輝度比でいうと1:32になります(いちばん暗いところの輝度を1としたとき、最も明るいところの輝度が32ということです)。

 ニュートラルグレーの輝度を基準にしたとき、フィルム上に再現できる最も明るいところ(白レベル)は基準から「+2・1/3EV」で、最も暗いところ(黒レベル)は基準から「-2・2/3EV」になります。この範囲を超えたところは真っ白に、または真っ黒になってしまいます。

 以下、風景撮影での測光方式について説明をしていきますが、カラーリバーサルフィルムでの撮影を前提としています。モノクロネガフィルムやカラーネガフィルムでは設定が異なりますのでご注意ください。

ハーフトーン測光

 ハーフトーン測光は、最も標準的な測光法であるいえると思います。被写体の中で、ニュートラルグレーに近い反射率(ハーフトーン)を持った部分を測光し、その測定値で絞り値とシャッター速度を設定して撮影します。
 この測光方式は簡単ですが、被写体の中のニュートラルグレーに近い反射率を持った部分が、写真を構成するうえで中心的な存在となっていることが必要です。
 ニュートラルグレーが実際にどのような色(被写体)かということについては、前回の記事をご覧いただくとわかり易いと思いますが、木々の葉っぱや草などの緑色が、比較的ニュートラルグレーに近い反射率を持っています。

 下の写真はハーフトーン方式で測光し、撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F16-22 1/8 PROVIA100F

 測光箇所は画面の多くを占めている木々の緑です。暗めの緑も少しありますが、大半は明るめの緑ですので、ここを測光しています。
 まだ新緑の色が残っている状態ですので、ニュートラルグレーよりも反射率は高いと思われます。そのため、測光値はEV12(ISO100)ですが、そのままだと木々の葉っぱが暗めに写ってしまうので、+0.5EVの補正をかけています。

 このように、被写体全体にわたって輝度差があまり大きくない場合はハーフトーン測光でも適正な露出設定をすることができます。

平均測光

 この測光方式は、被写体の中で最も明るい(ハイライト)部分と最も暗い(シャドー)部分を測光して、その平均値を出します。例えば、ハイライト部分がEV12(ISO100)、シャドー部がEV8(ISO100)の場合、平均値はEV10(ISO100)となります。
 ただし、ハイライト部分もシャドー部分もある程度の面積を占めている必要があります。それぞれが、ごくピンポイントでしか存在しておらず、しかも、それらが写真を構成するうえで重要な場合、この測光方式は適当ではありません。後で説明する別の測光方式を採用してください。

 平均測光方式で撮影した事例が下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX6x7 200mm 1:4 F16-22 1/4 PROVIA100F

 上の写真で、いちばん明るい手前の枯れ草の部分と、いちばん暗い上側の林の部分をそれぞれ測光しています。明るい部分がEV13・1/3(ISO100)、暗い部分がEV9(ISO100)でしたので、平均値としてEV11(ISO100)で撮影しています。
 このとき、木の幹の部分をピンポイントで測光するのではなく、林全体をカバーするように少し広い範囲を測光することが必要になります。

 また、明るいところと暗いところの輝度差が5EV以上ある場合は、ハイライト部分、シャドー部分のどちらか、もしくは両方の階調は表現できなくなってしまいます。

ハイライト基準測光

 ハイライト基準測光は、被写体の中で階調を残しておきたい最も明るい部分を測光する方式です。前回の記事でも説明しましたが、反射光式露出計は色に関係なく、中庸濃度に写るように測光しますので、測光値のままで撮影すると明るい白色などもニュートラルグレーになってしまいます。
 まず、最も明るい(ハイライト)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのハイライト限界値までシフトします。上で説明したように、リバーサルフィルムのラチチュードのい白レベル側限界値は基準EVの値から+2・1/3ですから、例えば測光値がEV12(ISO100)の場合、シフトすることでEV9・2/3(ISO100)にするということになります。

 次に、被写体の最も暗い(シャドー)部分のを測光し、この値が白レベルの限界値から-5EVの範囲に収まっていれば、黒くつぶれることなく階調が表現できます。
 もし、シャドー部分が-5EVの範囲に収まっていない場合は黒くつぶれてしまいますので、黒の階調はあきらめるとか、ハイライト側の階調を若干犠牲にしてハイライト限界値を超えるところまでシフトするとか、被写体のコントラストが下がる光線状態になるのを待つとか、といった選択が必要になります。

 下の写真はハイライト基準で測光して撮影した例です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 1/4 PROVIA100F

 画像の下半分近くを占めている水の流れの部分が最も明るいわけですが、この波模様が白く飛んでしまわないギリギリのところを基準にしています。このハイライト部分の測光値は EV14.5(ISO100) でしたが、このままで撮影すると、全体に露出アンダーの写真になってしまいます。
 そこで、ハイライト部分の測光値をハイライト限界値までシフトし、EV12(ISO100)として露出設定しています。
 階調が残るギリギリまで白く(明るく)するのではなく、もう少し抑えたいというような場合は1/3EVとか2/3EV分、EVの値を大きくします。

 また、川の流れの明るい部分に比べて岩や林の部分の輝度は4EV以上低いので、岩や林は肉眼で見た以上に暗い感じになっています。しかし、岩に生えているコケや草などの緑の部分の反射率がニュートラルグレーに近いからということでここを測光すると、川の流れは真っ白に飛んでしまい、全体として重厚感に欠けた薄っぺらな感じの写真になってしまいます。

 なお、ハイライト基準として測光する箇所は、写真を構成するうえで階調を残しておきたい部分であり、例えば画面内に光源のように非常に明るい部分があっても、そこは白く飛んで構わないような場合は測光対象から外さなければなりません。

シャドー基準測光

 シャドー基準測光はハイライト基準測光の逆と考えても良く、被写体の中で階調を表現したい最も暗い部分を測光する方式です。
 最も暗い(シャドー)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのシャドー限界値までシフトします。上で示した図の通り、シャドー限界値は基準EVの値からから-2・2/3ですので、測光値がEV9(ISO100)だとすると、EV11・2/3(ISO100)にすることになります。
 次に、被写体の最も明るい(ハイライト)部分を測光し、この値が黒レベルの限界値から+5EVの範囲に収まっていれば、白飛びすることなく階調が表現できます。

 シャドー基準測光で撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 1/2 PROVIA100F

 山の稜線から朝日が昇ってくるので空はかなり明るくなり、その影響で下半分は真っ黒につぶれてしまいます。手前のなだらかな稜線と山肌が認識でき、かつ、明るくなりすぎないギリギリまで露出を詰めるため、手前側の稜線あたりをスポット測光した値がEV7.5(ISO100)で、黒レベル限界値までシフト(-2・2/3)して、EV10(ISO100)として露出値を決めています。
 このとき、朝日が昇る稜線の上側の空の部分は+5EVほども明るい状態です。
 また、階調が消える手前ギリギリまで黒く(暗く)するのではなく、もう少し明るめにしたいというような場合は、1/3EVとか2/3EV分、EVの値を小さくします。

 この状況も、肉眼ではもっとずっと明るく見えるのですが、明るくし過ぎると朝焼けの空の色や朝日の質感が損なわれてしまいます。このシチュエーションにおいて、日の出の瞬間の雰囲気を出すにはこれくらい露出を切り詰めた方が良いと思います。

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 適正露出という言葉がありますが、「適正」というのは厳格な基準があるわけではありません。露出計は測光するために照度や輝度の基準を決めていますが、その値によってどのような露出設定をするかは撮る側の判断です。どういうイメージの写真に仕上げるかは撮る側の主観の問題です。
 目の前の風景を自分の感性に沿った写真にするため、露出計は非常に効果的なツールであると思います。露出というのはなかなか奥が深いですが、思い通りの写真が撮れた時はやはり嬉しいものです。

(2021年9月19日)

#露出 #EV値

写真撮影における測光と露出設定(2) Ev表の使い方と測光方式

 前回は、露出を決める5つの要素について説明しましたが、今回は、実際に撮影におけるそれぞれの値の使い方や、露出計を用いた測光方式について進めたいと思います。

Evダイヤグラム(Ev表)

 露出を決める5つの要素(絞り値、露出時間、ISO感度、照度、輝度)は、APEXが定めた方式によってAv、Tv、Iv、Bv、Svという単純化された数値に置き換えられ、それぞれの間には3つの関係式が成り立つということを説明しました。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)
  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 写真撮影するうえでなじみの深い「Ev」はこれらの要素から相対的に求まる値です。そしてこれは、下のような「Evダイヤグラム」という表で表すことができます。

 上の表で、横軸はTv、Iv、Bvの値を表しています(下から4行目)。そして、その下の3行はそれぞれの値に対応する露出時間、照度、輝度になります。
 縦軸はAv、Svの値を表しており(左から3列目)、その左側の2列はAvに対応した絞り値、Svに対応したISO感度になります。

 表の中の数値はEvの値を示しており、横軸(Tv、Iv、Bv)と縦軸(Av、Sv)の交点はそれぞれの値を加算した値であり、上の式(1)から(3)を表しています。

 例えば、Ev=12となるためには、Av=5(F5.6)とTv=7(1/125秒)のほかに、この表に表されているだけでも12通りの組み合わせがあることがわかります。
 また、同様にEv=12となるために、Sv=5(ISO100)とIv=7(照度800[fc])の組合せのほかに、やはりこの表内だけで12通りあることがわかります。

 露出計によって照度、または輝度を測定することでIv、またはBvの値が決まりますので、ここに使用するフィルムや撮像素子のISO感度に相当するSvの値を加えるとEv(露出値)がわかります。
 そして、そのEvの値をAvとTvに分解すると、絞り値と露出時間(シャッター速度)が求まります。

照度の値と実際の明るさ

 絞り値や露出時間(シャッター速度)、ISO感度はカメラで設定したり、フィルムによって決まる値なのでわかり易いですが、照度が〇〇フィートカンデラとか、輝度が〇〇フィートルーメンとか言われても非常にわかりにくいです。この2つに関しては数値で覚えるよりは、Iv=5はこれくらいの明るさ、Bv=6はこれくらいの明るさというように、感覚的に覚えた方が現実的です。

 そこで、照度に関してIvの値と実際の明るさの関係をいくつか挙げてみます。

  Iv=0    夜の街灯の下
  Iv=1~2  室内
  Iv=3~4  オフィス内
  Iv=4~5  曇天の屋外
  Iv=5~6  晴天時の窓際
  Iv=8~9  晴天の屋外
  Iv=10~11 晴天の海辺やゲレンデ

 といった感じです。
 「曇天の屋外」と言っても雲の厚さや太陽の位置などによって明るさは変化しますので、おおよそこれくらいの範囲というあいまいさを残した表現になってしまいますが、仕方ありません。

 実際には露出計で測定するので、これらの関係を覚えても意味がないと思えるかもしれませんが、これくらいの明るさならIvの値はいくつくらい、ということが感覚的にわかっていると、測光しなくても絞りやシャッター速度の値がある程度わかるので、写真の仕上がり具合がイメージできます。

 因みに、フィルムの場合はISO100の感度のものを使うことが多いので、その場合はIvの値に5を加算するとEvの値になります。また、ISO400のフィルムの場合は、Ivの値に7を加算します。

入射光式露出計を用いての測光

 露出計には「入射光式露出計」と「反射光式露出計」があるということを前回も触れましたが、それぞれの測光方式と特徴について説明していきます。

 まず、「入射光式露出計」です。
 この露出計は、被写体にあたっている光、すなわち照度を測定します。いろいろな形状のものがありますが、外観上の特徴は白い半球状のカバーが見られることです。
 この半球状のカバーをカメラの方に向けて、被写体の前にかざして測光します。

▲入射光式露出計

 測定する前に、使用するフィルム(または撮像素子)のISO感度を設定しておきます。その状態で測定ボタンを押すと、測定した照度のIvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、Evの値が表示されるというのが一般的な動作です。Evの値を針で示すアナログ式や、数値で表示されるデジタル式などがあります。

 実際に入射光式露出計で測光して撮影したのが下の写真です。
 わかり易いように色の異なる6色(白、黄、緑、赤、青、黒)のスケッチブック(黒だけはスケッチブックがなかったので、単なる厚紙です)を並べて、薄曇りの窓際の自然光で撮影しました。

▲入射光式露出計で測光して撮影 Ev=9 (ISO100)

 この時の入射光式露出計で測定した照度はIv=4でした。感度はISO100(Sv=5)にしていますので、Ev=9ということになります。
 この写真でもわかるように、赤、または青がニュートラルグレーに近いと思われ、紙の質感も良く出ています。一方、白や黄色は露出オーバー気味ですが、全体としては肉眼で見た感じに近いのではないかと思います。

 このように、入射光式露出計は被写体に入射する光の量(照度)を測定し、ニュートラルグレー(反射率18%)が中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、入射光式露出計で測定した値で撮影すると、ニュートラルグレーよりも反射率の高いものは白っぽく、反射率の低いものは黒っぽく写ることになります。すなわち、被写体の色によって測定した値が変わることはありません。
 反面、露出計を被写体の前にもっていかなければならないので、風景撮影などのように被写体がはるか遠方にある場合、そこまで出向いて測光するということは現実的ではありません。

反射光式露出計を用いての測光

 次に、「反射光式露出計」です。
 この露出計は、被写体に当たった光が反射することで、見かけ上の被写体の明るさ、つまり被写体の輝度を測定します。外観上の特徴は接眼部があることです。ここから被写体を覗き見て、被写体の輝度を測定します。受光角1度という非常に狭い範囲を測定するもの(スポット露出計と呼ばれることが多い)から、30度くらいの比較的広い範囲を測定するものまで、いろいろあります。

 下の写真はペンタックスのデジタルスポットメーターという受光角1度の反射光式露出計です。

▲反射光式露出計 PENTAXデジタルスポットメーター

 測定する前にISO感度を設定しておくのは入射光式と同じです。
 受光部を被写体の測定したい部分に向けて測定ボタンを押すと、測定した輝度のBvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、露出値であるEvの値が返されます。

 では、入射光式と同じように6色の被写体を反射光式露出計で測定し、撮影してみます。
 被写体の輝度は色によって異なりますので、6色のそれぞれの色の部分を測定し、その結果の値で撮影したのが下の6枚の写真です。上から順番に、白、黄、緑、赤、青、黒を測定して撮影したものです。

▲反射光式露出計で測光して撮影 「白」を測光 Ev=11・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黄」を測光  Ev=10・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「緑」を測光  Ev=9・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「赤」を測光 Ev=9・1/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「青」を測光 Ev=9 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黒」を測光  Ev=8 (ISO100)

 光の状態(照度)は同じですが、被写体の色によって写真の仕上がり具合がまったく違うのがわかると思います。
 反射光式露出計は、被写体の色に関係なく、すべてがニュートラルグレーと仮定して、それが中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、露出計の測光結果通りに撮影すると、白や黄色のように明るい色は暗めに、黒のように暗い色は明るめに写ります。

 わかり易くするために上の6枚の写真から色情報を抜いて、グレースケールに変換してみます。

▲反射光式露出計で測光して撮影 「白(左端)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黄(左から2番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「緑(左から3番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「赤(右から3番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「青(右から2番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黒(右端)」を測光

 白を測定した1枚目の写真は全体的に露出アンダー気味に、黒を測定した6枚目の写真は露出オーバー気味になっていますが、それぞれ測定した色のところを見ると、ばらつきはありますが、ほぼ同じようなグレーになっているのがわかると思います。

 それぞれの写真の下に記載した実際の測定データを見ていただけるとわかりますが、白のEvの値は11・2/3、黒のEvの値は8ですので、曇天という比較的柔らかい光の条件下であっても、 4段近くの露出の差があります。コントラストが強い場合はもっと大きな差が出てしまいます。

 このように、反射光式露出計は被写体のごく一部を測光することができますが、同じ光の状態であっても被写体の色によって測定結果が異なりますので、色と輝度の関係をある程度把握しておく必要があります。

被写体の輝度の値と実際の明るさ

 照度と同じように輝度も「〇〇フィートルーメン」とか言われてもピンときません。
 そこで、被写体の輝度を示すBvの値と、実際の被写体の見た目の明るさの関係について、主なものを挙げてみます。

  Bv=1~2  雨が降り出しそうな曇天下の木々の葉
  Bv=4~5  曇天下のクリーム色の家の外壁
  Bv=5~6  曇天下の黒っぽい瓦屋根
  Bv=5~6  晴天下、日陰になっている木々の葉
  Bv=6~7  晴天下の赤いチューリップ
  Bv=7~8  晴天下、日が当たっている木々の葉
  Bv=9~10  青空
  Bv=10~11 曇天の空(雲)

 これらの値にISO感度のSvの値(ISO100だとSv=5)を加算すると、露出値であるEvになります。

 一般には草や木々の葉の緑、あるいは人の肌などがニュートラルグレーに近いと言われています(上の写真では緑がかなり明るめですが、このスケッチブックの色は黄緑に近いので、草や木々の葉よりもだいぶ明るいです)。ニュートラルグレーの反射板を持ち歩いていれば基準がわかり易いですが、それも面倒なので、ニュートラルグレーに近い自分の手のひらなどを基準にする人もいます。

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 実際の被写体というのは色や光の状態によって見た目の明るさにずいぶんと差があります。写真というのは、すべてが中庸濃度になるように写せば良いというものでもなく、撮影する人の意図によって露出をコントロールするということになります。
 デジカメの場合は露出値を変えて何枚も撮影し、モニタで確認することで自分の感覚に合ったものを選ぶことができます。しかし、ピンポイントでここの色を出したいとか、この部分は飛ばないようにぎりぎりまで明るくしたいとか、そういった場合はスポット露出計があると思い通りの露出設定ができます。

 次回は具体的な事例を交えてご紹介したいと思います。

(2021年9月11日)

#露出 #EV値

写真撮影における測光と露出設定(1) 露出を決める要素

 最近のカメラは自動露出計が内蔵されており、様々なシチュエーションに合わせた適正露出を自動で決定してくれますが、大判カメラなど、露出計が内蔵されていない場合は露出計を使って測光するなどして露出値を決める必要があります。経験を積むことである程度の露出は露出計がなくても決めることができるようになりますが、精度を高めるためには露出計が必要になります。
 写真撮影において露出の設定はとても重要な要素ですが、そもそも測光とはどういうことなのか、そして、測光した結果を露出設定にどのように反映するのか、というようなことを説明していきたいと思います。

光の表現の仕方と単位

 まず、測光や露出設定に最低限必要な光の定量的な表現の仕方(とらえ方)について触れておきたいと思います。
 写真というのは、光源から発せられた光が被写体に当たり、被写体面で反射した光がカメラ(撮像面)に入射することで像が記録されるわけです。

 光源(太陽とか電球など)から発せられる単位時間当たりの光の量を「光束」といい、単位は「ルーメン[lm]」で表します。そして、ある方向への光の強さを「光度」といい、単位は「カンデラ[cd]」です。
 そして、この光が被写体に入射するわけですが、被写体の単位面積あたりに入射する光束を「照度」といい、記号は「I」、単位は「ルーメン毎平方メートル[lm/m²]」、または「ルーメン毎平方フィート[lm/ft²]」で表されます。

  【照度】
    定義:単位面積あたりに入射する光束
    記号:I
    単位:[lm/m²]、または[lm/ft²]

 また、1[ft²]あたりの光束[lm]を、1[fc](フィートカンデラ)という単位で表すこともあります。
 すなわち、1[fc] = 1[lm/ft²]になります。

 光度が1[cd]の点光源から1[sr]内に放射される光束が1[lm]となります。
 (ステラジアン[sr]とは、半径rの球体の表面を、表面積がr²となる円で切り取ったときの錐面と球の中心との立体角になります。球の表面積は4πr²ですので、光度1[cd]の光源が全方向に放射する光束は4π[lm]となります。)

 照度Iが入射した被写体面は反射率ρの反射面となり、観測者(カメラ)からは見かけ上の単位面積当たりの明るさとして認識されます。これを「輝度」といい、記号は「B」、単位は「カンデラ毎平方メートル[cd/m²]」、または「カンデラ毎平方フィート[cd/ft²]」で表されます。
 これは、反射面によって照度が輝度に変換されたことを意味し、反射面は照度を受けて光る二次光源と言えます。

  【輝度】
    定義:見かけ上の単位面積あたりの明るさ
    記号:B
    単位:[cd/m²]、または[cd/ft²]

 また、[fL](フィートランバート)という単位が用いられることがあり、1[fL] = 1/π[cd/ft²]になります。

 写真撮影における測光とは、この「照度」、または「輝度」を測定することをいいます。

露出を決める要素とその関係

 実際に測光した照度、または輝度をもとに露出値を決めることになるわけですが、その要素は照度、輝度を含めて5つあります。

  (1)絞り値(F値)
  (2)露出時間(シャッター速度)
  (3)被写体の照度
  (4)被写体の輝度
  (5)感材の感度(ISO感度)

 照度と輝度は必ずしも両方必要ではなく、どちらか一方だけで露出値を決めることができます。

 この5要素の関係は、被写体の照度もしくは輝度と、感材の感度から露出量が決定され、それを絞り値と露出時間の組合せに換算するということになります。
 そして、これらを簡易に計算するため、APEXシステムという方法(仕組み)によってそれぞれの要素が以下のような数値に置き換えられています。

  絞り値  –> Av
  露出時間 –> Tv
  照度   –> Iv
  輝度   –> Bv
  感度   –> Sv

 これらの値から導き出される露出値はEvで表されます。

  露出値  –> Ev

 これによって、これらの数値の関係は以下のような非常に簡単な式によって表すことができます。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)
  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 では、これらの数値について、順番に説明していきます。

絞り値(F値)とAvの関係

 絞り値というのはF5.6とかF8とか、カメラを扱う方であれば非常になじみの深い数値ですが、この値はレンズの焦点距離と有効径によって決まり、以下のような関係式が成り立っています。

  F値 = 焦点距離/有効径 …… 式(4)

 例えば、焦点距離50mm、有効径25mmのレンズの場合、F値は2になります。
 F2から1段絞るとF2.8、さらに1段絞るとF4となり、1段絞るとF値は√2倍(約1.4倍)になっていきます。

 しかし、これだと計算がしにくいので、1段絞ったら1だけ上がる数値に置き換えたのが「Av」です。
 F値をAとすると、AとAvは以下のような関係になります。

  Av = 2log₂ A …… 式(5)

 この式にF値(A)をあてはめると、以下のようになります。

   <F値>  <Av> 
   0.7   -1
   1    0
   1.4   1
   2    2
   2.8   3
   4    4
   5.6   5
   8    6
   11    7

 Avとは、絞りF1.0をAv=0として、絞りの段数を表していると言い換えることができます。Avの値が1増えると露出量は1/2倍(半分)になります。
 F1.4とF5.6を例にとると、それぞれのAvは1と5ですから、その差となる4がF1.4からF5.6までの段数ということになります。そして露出量は1/2 ^ 4 = 1/16となります。

 逆に、AvからF値を求める場合は、下の式になります。

  F値 = √2 ^ Av …… 式(6)

露出時間(シャッター速度)とTvの関係

 次に露出時間についてですが、露出時間をTとすると、TとTvの間は下のような関係になっています。

  Tv = -log₂ T …… 式(7)

 この式にあてはめると、露出時間1秒をTv=0とし、露出時間が半分(シャッター速度が2倍)になるとTvの値が1増え、露出時間が2倍(シャッター速度が半分)になるとTvの値が1減ることがわかります。

  <露出時間[s]> <tv>
    2     -1
    1      0
    1/2     1
    1/4     2
    1/8     3
    1/15    4
    1/30    5
    1/60    6
    1/125    7

 Avと同様に、Tvは露出時間(シャッター速度)の段数を表していることになります。Tvの値が1増えると露出時間は1/2倍(半分)になります。
 Tvを求める式でlogの逆数をとっているのは、露出時間が小さく(短く)なるほど、Tvの値を大きくする必要があるからです。

 また、下の式により、Tvから露出時間(T)を求めることができます。

  T = 1 / (2^Tv) …… 式(8)

AvとTvの関係

 絞りを1段絞ったら露出時間を2倍にすれば同じ露出が得られるというのは経験則で理解していると思いますが、これを式で表したのが式(1)です。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)

 例えば、絞り値F2.8(Av=3)、露出時間1/60秒(Tv=6)の時と、 絞り値F5.6(Av=5)、露出時間1/15秒(Tv=4)の時はいずれも Evの値が9になるので、同じ露出値であることがわかります。
 つまり、AvとTvを足して9になる組合せのすべてが同じ露出値になる、ということを表した式であることがわかると思います。

 このように、絞り値と露出時間をそれぞれAv、Tvという値で表すことで、露出値の扱い(計算)が簡単になります。見慣れたEvの値がこのような構造になっていることも理解いただけるのではないかと思います。

被写体の照度とIvの関係

 露出値を決める5つの要素のうち、実際に測光対象となるのが被写体の照度、もしくは輝度ですが、まずは照度についてです。
 APEXの定義にあてはめると、被写体の照度IとIvには以下の関係式が成り立ちます。

  Iv = log₂(2^4/100)・I = log₂(I/6.25) …… 式(9)

 APEXの定義では、照度の単位に[fc](フィートカンデラ)が用いられているようです。6.25[fc]をIv=0としていますが、なぜこの値が用いられたのか、その理由は良くわかりません。下の表でわかるように、照度[fc]の値が切れの良い数字になるということで決められたのかもしれません(例えば、100[fc]をIv4にしたとか)。

 上の式に照度IとIvをあてはめると以下のようになります。

  <照度[fc]> <Iv> 
   3.125   -1
   6.25   0
   12.5   1
   25    2
   50    3
   100    4
   200    5
   400    6
   800    7

 照度が2倍になるとIvの値が1増え、照度が1/2倍(半分)になるとIvの値が1減るのはAvやTvと同様です。

 ちなみに、Iv=0のときの照度6.25[fc]を、なじみのある単位[lx](ルクス)に置き換えると約67ルクスになります(1[fc]=10.764[lx])。これは、夜の街灯下に近い感じです。蛍光灯照明されたオフィス内は6~700ルクスと言われていますので、かなり暗いことがわかると思います。

 一般に、照度は「入射光式露出計」で測光します。被写体に当たる光の量を測定するので被写体の色などの影響は受けませんが、被写体のある場所で測定しなければならず、風景などのように被写体が遠方にある場合は測定が困難です。

被写体の輝度とBvの関係

 輝度は[fL](フィートランバート)という単位を用いています(1[fL] = 1/π[cd/ft²])。
 被写体の輝度BとBvをAPEXの定義にあてはめると、以下のようになります。

  Bv = log₂B …… 式(10)

 これは、輝度1[fL]がBv=0となります。

 上の式に輝度BとBvをあてはめると以下のようになります。

  <輝度[fL]> <Bv> <輝度[cd/ft²]>
   0.5    -1   0.16
   1     0   0.32
   2     1   0.64
   4     2   1.27
   8     3   2.55
   16     4   5.09
   32     5   10.2
   64     6   20.4
   128    7   40.7

 輝度が2倍になるとBvの値が1増え、輝度が半分になるとBvの値が1減るのは他の要素と同様です。

 さて、照度Iで照らされた被写体の見かけ上の明るさを輝度というのは上で説明しましたが、光源が理想的な均等拡散反射面を照らしているとき、照度と輝度の間には以下のような関係が成り立ちます。

  輝度B = (反射率ρ/π)・照度I …… 式(11)

 この式に照度[fc]と輝度[cd/ft²]をあてはめると、反射率ρは16%となります。
 例えば、上の表から、Iv=4の照度は100[fc]、Bv=4の輝度は5.09[cd/ft²]ですので、これらの値を、上の式をもとに反射率を求めるように変形した式にあてはめてみます。

  反射率ρ = 輝度B/照度I× π
       = 5.09 / 100 x 3.14
       = 0.16

 一般に被写体の反射率は18%(ニュートラルグレー)という値が採用されていますが、この定義式からするとAPEXでは16%としているようです。その理由は定かではありませんが、16%とすることで輝度[fL]の値が切れの良い数字(1、2、4、8…)になるからではないかと勝手に思ってます。

 因みに、一般に使われる反射率18%という値は、白と黒の中間の反射率だという理由で採用されているようです。
 かなり反射率が低い黒色でも3%ほどは反射され、また、かなり反射率の高い白色でも100%の反射はなく、96%程度といわれており、この値を3%を起点に反射率が2倍ごとの数列で表現すると、

  3 - 6 - 12 - 24 - 48 - 96

 となります。
 ここに、各数値の中間の値を追加すると以下のようになります。

  3 - 6 - 12 - 24 - 48 - 96
   4.5 - 9 - 18 - 36 - 72

 この数列でわかるように、18%がちょうど中間の値ということになります。

 なお、被写体の輝度は「反射光式露出計」で測光しますが、同じ照度であっても被写体の色や表面の状態などによって輝度は異なりますので、測光値も変わってきます。一方、風景など遠方の被写体でも測定できるというメリットがあります。

感材の感度(ISO感度)とSvの関係

 露出を決める要素の5番目は感材の感度です。
 一般に「ISO感度」と呼ばれており、ISO100とかISO200などと表現されています。絞り値やシャッター速度と同様にカメラ側(またはフィルム)で設定するものなので、なじみ深い数値です。

 感度SとSvをAPEXの定義にあてはめると以下のようになります。

  Sv = log₂(2^5/100)・S = log₂(S/3.125) …… 式(12)

 これは、ISO3.125をSv=0とし、ISO感度が2倍になるとSvの値が1増えます。

 上の式にISO感度SとSvをあてはめると以下のようになります。

   <ISO感度> <Sv>
    1.5625  -1 
    3.125   0
    6.25    1
    12.5    2
    25     3
    50     4
    100    5
    200    6
    400    7

 なじみの深いISO100はSv=5となります。

IvとSv、BvとSvの関係

 感材の感度(ISO感度)が高ければ多少暗くても写りますし、また、明るい場所であればISO感度が低くても問題ないわけですが、これを式で表したのが式(2)、および式(3)になります。

  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 例えば、輝度128[fl](Bv=7)の被写体をISO100の感度(Sv=5)で撮影する場合と、輝度32[fl](Bv=5)の被写体をISO400の感度(Sv=7)で撮影する場合、いずれもEvの値は12であり、同じ露出値になることを示しています。
 このように、被写体の照度、輝度、感材の感度をそれぞれ、Iv、Bv、Svという値で表すことで、露出値の計算が容易になります。

 なお、感材の感度をどのような基準で決めたのかはわからないのですが、例えば、輝度が1[fL](Bv=0)の被写体を、絞り値F1.0(Av=0)、露出時間1秒(Tv=0)で撮影した時、被写体が中庸濃度で写る感材の感度をISO3.125(Sv=0)としたのではないかと思います。式(1)から式(3)を成り立たせるためにはそうする必要があるように思います。

露出値の式が意味すること

 露出値Evを求める3つの式のうち、式(1)は絞り値と露出時間と露出値の関係を表していますが、Av、およびTvの値が大きくなるほど、入射する光の量は少なくなることを意味します。
 一方、式(2)、および式(3)は照度、輝度、感材の感度と露出値の関係を表していますが、Iv、Bv、およびSvの値が大きくなるほど、より多くの光の影響を受けることを意味しています。

 式(1)から式(3)は等価ですから、以下のようになります。

  Ev = Av+Tv = Iv+Sv = Bv+Sv

 すなわち、同じ露出値を得るためには、より多くの光の影響を受ける状態(Iv、Bv、Svが大きい)のときは入射する光の量を少なく(Av、Tvを大きく)するということを示しており、逆に、光の影響が少ない状態 (Iv、Bv、Svが小さい)のときは入射する光の量を多く(Av、Tvを小さく)するということを示しており、 3つの式が等価であることがわかると思います。
 写真撮影ではごく当たり前に行なわれていることですが、式で表すとこのようになります。

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 今回は露出を決める5つの要素とそれらの関係について説明をしましたが、次回以降はこれらの値の具体的な使い方や測光の仕方等について触れていきたいと思います。

(2021年9月4日)

#露出 #EV値