前回まで、露出や測光に関する基本的なことを説明してきましたが、3回目の今回は、風景写真を撮る際に用いる主な測光方式について進めていきます。風景撮影においては反射光式露出計を使って測光することが多く、入射光式露出計とは違った測光方式になります。そのあたりを、撮影事例を交えながら説明していきたいと思います。
リバーサルフィルムのラチチュード
測光方式の前にフィルムの「ラチチュード」について簡単に触れておきます。
ラチチュードとは「適正露光域」とか、「露出寛容度」とか訳されていますが、フィルム上で階調がなくならず、画像として成立する範囲のことをいいます。暗すぎると階調がつぶれて真っ黒になってしまい、明るすぎると階調が飛んでしまい真っ白になってしまい、いずれも画像として認識できなくなってしまいます。
簡単に言うと、どのくらいの暗さから、そして、どのくらいの明るさまで再現できるか、その範囲のことを指します。
リバーサルフィルの場合、このラチチュードは約5EVと言われています。モノクロのネガフィルムが約9EVといわれていますから、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いことがわかります。
5EVというのは輝度比でいうと1:32になります(いちばん暗いところの輝度を1としたとき、最も明るいところの輝度が32ということです)。
ニュートラルグレーの輝度を基準にしたとき、フィルム上に再現できる最も明るいところ(白レベル)は基準から「+2・1/3EV」で、最も暗いところ(黒レベル)は基準から「-2・2/3EV」になります。この範囲を超えたところは真っ白に、または真っ黒になってしまいます。
以下、風景撮影での測光方式について説明をしていきますが、カラーリバーサルフィルムでの撮影を前提としています。モノクロネガフィルムやカラーネガフィルムでは設定が異なりますのでご注意ください。
ハーフトーン測光
ハーフトーン測光は、最も標準的な測光法であるいえると思います。被写体の中で、ニュートラルグレーに近い反射率(ハーフトーン)を持った部分を測光し、その測定値で絞り値とシャッター速度を設定して撮影します。
この測光方式は簡単ですが、被写体の中のニュートラルグレーに近い反射率を持った部分が、写真を構成するうえで中心的な存在となっていることが必要です。
ニュートラルグレーが実際にどのような色(被写体)かということについては、前回の記事をご覧いただくとわかり易いと思いますが、木々の葉っぱや草などの緑色が、比較的ニュートラルグレーに近い反射率を持っています。
下の写真はハーフトーン方式で測光し、撮影したものです。
測光箇所は画面の多くを占めている木々の緑です。暗めの緑も少しありますが、大半は明るめの緑ですので、ここを測光しています。
まだ新緑の色が残っている状態ですので、ニュートラルグレーよりも反射率は高いと思われます。そのため、測光値はEV12(ISO100)ですが、そのままだと木々の葉っぱが暗めに写ってしまうので、+0.5EVの補正をかけています。
このように、被写体全体にわたって輝度差があまり大きくない場合はハーフトーン測光でも適正な露出設定をすることができます。
平均測光
この測光方式は、被写体の中で最も明るい(ハイライト)部分と最も暗い(シャドー)部分を測光して、その平均値を出します。例えば、ハイライト部分がEV12(ISO100)、シャドー部がEV8(ISO100)の場合、平均値はEV10(ISO100)となります。
ただし、ハイライト部分もシャドー部分もある程度の面積を占めている必要があります。それぞれが、ごくピンポイントでしか存在しておらず、しかも、それらが写真を構成するうえで重要な場合、この測光方式は適当ではありません。後で説明する別の測光方式を採用してください。
平均測光方式で撮影した事例が下の写真です。
上の写真で、いちばん明るい手前の枯れ草の部分と、いちばん暗い上側の林の部分をそれぞれ測光しています。明るい部分がEV13・1/3(ISO100)、暗い部分がEV9(ISO100)でしたので、平均値としてEV11(ISO100)で撮影しています。
このとき、木の幹の部分をピンポイントで測光するのではなく、林全体をカバーするように少し広い範囲を測光することが必要になります。
また、明るいところと暗いところの輝度差が5EV以上ある場合は、ハイライト部分、シャドー部分のどちらか、もしくは両方の階調は表現できなくなってしまいます。
ハイライト基準測光
ハイライト基準測光は、被写体の中で階調を残しておきたい最も明るい部分を測光する方式です。前回の記事でも説明しましたが、反射光式露出計は色に関係なく、中庸濃度に写るように測光しますので、測光値のままで撮影すると明るい白色などもニュートラルグレーになってしまいます。
まず、最も明るい(ハイライト)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのハイライト限界値までシフトします。上で説明したように、リバーサルフィルムのラチチュードのい白レベル側限界値は基準EVの値から+2・1/3ですから、例えば測光値がEV12(ISO100)の場合、シフトすることでEV9・2/3(ISO100)にするということになります。
次に、被写体の最も暗い(シャドー)部分のを測光し、この値が白レベルの限界値から-5EVの範囲に収まっていれば、黒くつぶれることなく階調が表現できます。
もし、シャドー部分が-5EVの範囲に収まっていない場合は黒くつぶれてしまいますので、黒の階調はあきらめるとか、ハイライト側の階調を若干犠牲にしてハイライト限界値を超えるところまでシフトするとか、被写体のコントラストが下がる光線状態になるのを待つとか、といった選択が必要になります。
下の写真はハイライト基準で測光して撮影した例です。
画像の下半分近くを占めている水の流れの部分が最も明るいわけですが、この波模様が白く飛んでしまわないギリギリのところを基準にしています。このハイライト部分の測光値は EV14.5(ISO100) でしたが、このままで撮影すると、全体に露出アンダーの写真になってしまいます。
そこで、ハイライト部分の測光値をハイライト限界値までシフトし、EV12(ISO100)として露出設定しています。
階調が残るギリギリまで白く(明るく)するのではなく、もう少し抑えたいというような場合は1/3EVとか2/3EV分、EVの値を大きくします。
また、川の流れの明るい部分に比べて岩や林の部分の輝度は4EV以上低いので、岩や林は肉眼で見た以上に暗い感じになっています。しかし、岩に生えているコケや草などの緑の部分の反射率がニュートラルグレーに近いからということでここを測光すると、川の流れは真っ白に飛んでしまい、全体として重厚感に欠けた薄っぺらな感じの写真になってしまいます。
なお、ハイライト基準として測光する箇所は、写真を構成するうえで階調を残しておきたい部分であり、例えば画面内に光源のように非常に明るい部分があっても、そこは白く飛んで構わないような場合は測光対象から外さなければなりません。
シャドー基準測光
シャドー基準測光はハイライト基準測光の逆と考えても良く、被写体の中で階調を表現したい最も暗い部分を測光する方式です。
最も暗い(シャドー)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのシャドー限界値までシフトします。上で示した図の通り、シャドー限界値は基準EVの値からから-2・2/3ですので、測光値がEV9(ISO100)だとすると、EV11・2/3(ISO100)にすることになります。
次に、被写体の最も明るい(ハイライト)部分を測光し、この値が黒レベルの限界値から+5EVの範囲に収まっていれば、白飛びすることなく階調が表現できます。
シャドー基準測光で撮影したのが下の写真です。
山の稜線から朝日が昇ってくるので空はかなり明るくなり、その影響で下半分は真っ黒につぶれてしまいます。手前のなだらかな稜線と山肌が認識でき、かつ、明るくなりすぎないギリギリまで露出を詰めるため、手前側の稜線あたりをスポット測光した値がEV7.5(ISO100)で、黒レベル限界値までシフト(-2・2/3)して、EV10(ISO100)として露出値を決めています。
このとき、朝日が昇る稜線の上側の空の部分は+5EVほども明るい状態です。
また、階調が消える手前ギリギリまで黒く(暗く)するのではなく、もう少し明るめにしたいというような場合は、1/3EVとか2/3EV分、EVの値を小さくします。
この状況も、肉眼ではもっとずっと明るく見えるのですが、明るくし過ぎると朝焼けの空の色や朝日の質感が損なわれてしまいます。このシチュエーションにおいて、日の出の瞬間の雰囲気を出すにはこれくらい露出を切り詰めた方が良いと思います。
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適正露出という言葉がありますが、「適正」というのは厳格な基準があるわけではありません。露出計は測光するために照度や輝度の基準を決めていますが、その値によってどのような露出設定をするかは撮る側の判断です。どういうイメージの写真に仕上げるかは撮る側の主観の問題です。
目の前の風景を自分の感性に沿った写真にするため、露出計は非常に効果的なツールであると思います。露出というのはなかなか奥が深いですが、思い通りの写真が撮れた時はやはり嬉しいものです。
(2021年9月19日)