前回は、露出を決める5つの要素について説明しましたが、今回は、実際に撮影におけるそれぞれの値の使い方や、露出計を用いた測光方式について進めたいと思います。
【Table of Contents】
Evダイヤグラム(Ev表)
露出を決める5つの要素(絞り値、露出時間、ISO感度、照度、輝度)は、APEXが定めた方式によってAv、Tv、Iv、Bv、Svという単純化された数値に置き換えられ、それぞれの間には3つの関係式が成り立つということを説明しました。
Ev = Av + Tv …… 式(1)
Ev = Iv + Sv …… 式(2)
Ev = Bv + Sv …… 式(3)
写真撮影するうえでなじみの深い「Ev」はこれらの要素から相対的に求まる値です。そしてこれは、下のような「Evダイヤグラム」という表で表すことができます。
上の表で、横軸はTv、Iv、Bvの値を表しています(下から4行目)。そして、その下の3行はそれぞれの値に対応する露出時間、照度、輝度になります。
縦軸はAv、Svの値を表しており(左から3列目)、その左側の2列はAvに対応した絞り値、Svに対応したISO感度になります。
表の中の数値はEvの値を示しており、横軸(Tv、Iv、Bv)と縦軸(Av、Sv)の交点はそれぞれの値を加算した値であり、上の式(1)から(3)を表しています。
例えば、Ev=12となるためには、Av=5(F5.6)とTv=7(1/125秒)のほかに、この表に表されているだけでも12通りの組み合わせがあることがわかります。
また、同様にEv=12となるために、Sv=5(ISO100)とIv=7(照度800[fc])の組合せのほかに、やはりこの表内だけで12通りあることがわかります。
露出計によって照度、または輝度を測定することでIv、またはBvの値が決まりますので、ここに使用するフィルムや撮像素子のISO感度に相当するSvの値を加えるとEv(露出値)がわかります。
そして、そのEvの値をAvとTvに分解すると、絞り値と露出時間(シャッター速度)が求まります。
照度の値と実際の明るさ
絞り値や露出時間(シャッター速度)、ISO感度はカメラで設定したり、フィルムによって決まる値なのでわかり易いですが、照度が〇〇フィートカンデラとか、輝度が〇〇フィートルーメンとか言われても非常にわかりにくいです。この2つに関しては数値で覚えるよりは、Iv=5はこれくらいの明るさ、Bv=6はこれくらいの明るさというように、感覚的に覚えた方が現実的です。
そこで、照度に関してIvの値と実際の明るさの関係をいくつか挙げてみます。
Iv=0 夜の街灯の下
Iv=1~2 室内
Iv=3~4 オフィス内
Iv=4~5 曇天の屋外
Iv=5~6 晴天時の窓際
Iv=8~9 晴天の屋外
Iv=10~11 晴天の海辺やゲレンデ
といった感じです。
「曇天の屋外」と言っても雲の厚さや太陽の位置などによって明るさは変化しますので、おおよそこれくらいの範囲というあいまいさを残した表現になってしまいますが、仕方ありません。
実際には露出計で測定するので、これらの関係を覚えても意味がないと思えるかもしれませんが、これくらいの明るさならIvの値はいくつくらい、ということが感覚的にわかっていると、測光しなくても絞りやシャッター速度の値がある程度わかるので、写真の仕上がり具合がイメージできます。
因みに、フィルムの場合はISO100の感度のものを使うことが多いので、その場合はIvの値に5を加算するとEvの値になります。また、ISO400のフィルムの場合は、Ivの値に7を加算します。
入射光式露出計を用いての測光
露出計には「入射光式露出計」と「反射光式露出計」があるということを前回も触れましたが、それぞれの測光方式と特徴について説明していきます。
まず、「入射光式露出計」です。
この露出計は、被写体にあたっている光、すなわち照度を測定します。いろいろな形状のものがありますが、外観上の特徴は白い半球状のカバーが見られることです。
この半球状のカバーをカメラの方に向けて、被写体の前にかざして測光します。
測定する前に、使用するフィルム(または撮像素子)のISO感度を設定しておきます。その状態で測定ボタンを押すと、測定した照度のIvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、Evの値が表示されるというのが一般的な動作です。Evの値を針で示すアナログ式や、数値で表示されるデジタル式などがあります。
実際に入射光式露出計で測光して撮影したのが下の写真です。
わかり易いように色の異なる6色(白、黄、緑、赤、青、黒)のスケッチブック(黒だけはスケッチブックがなかったので、単なる厚紙です)を並べて、薄曇りの窓際の自然光で撮影しました。
この時の入射光式露出計で測定した照度はIv=4でした。感度はISO100(Sv=5)にしていますので、Ev=9ということになります。
この写真でもわかるように、赤、または青がニュートラルグレーに近いと思われ、紙の質感も良く出ています。一方、白や黄色は露出オーバー気味ですが、全体としては肉眼で見た感じに近いのではないかと思います。
このように、入射光式露出計は被写体に入射する光の量(照度)を測定し、ニュートラルグレー(反射率18%)が中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、入射光式露出計で測定した値で撮影すると、ニュートラルグレーよりも反射率の高いものは白っぽく、反射率の低いものは黒っぽく写ることになります。すなわち、被写体の色によって測定した値が変わることはありません。
反面、露出計を被写体の前にもっていかなければならないので、風景撮影などのように被写体がはるか遠方にある場合、そこまで出向いて測光するということは現実的ではありません。
反射光式露出計を用いての測光
次に、「反射光式露出計」です。
この露出計は、被写体に当たった光が反射することで、見かけ上の被写体の明るさ、つまり被写体の輝度を測定します。外観上の特徴は接眼部があることです。ここから被写体を覗き見て、被写体の輝度を測定します。受光角1度という非常に狭い範囲を測定するもの(スポット露出計と呼ばれることが多い)から、30度くらいの比較的広い範囲を測定するものまで、いろいろあります。
下の写真はペンタックスのデジタルスポットメーターという受光角1度の反射光式露出計です。
測定する前にISO感度を設定しておくのは入射光式と同じです。
受光部を被写体の測定したい部分に向けて測定ボタンを押すと、測定した輝度のBvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、露出値であるEvの値が返されます。
では、入射光式と同じように6色の被写体を反射光式露出計で測定し、撮影してみます。
被写体の輝度は色によって異なりますので、6色のそれぞれの色の部分を測定し、その結果の値で撮影したのが下の6枚の写真です。上から順番に、白、黄、緑、赤、青、黒を測定して撮影したものです。
光の状態(照度)は同じですが、被写体の色によって写真の仕上がり具合がまったく違うのがわかると思います。
反射光式露出計は、被写体の色に関係なく、すべてがニュートラルグレーと仮定して、それが中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、露出計の測光結果通りに撮影すると、白や黄色のように明るい色は暗めに、黒のように暗い色は明るめに写ります。
わかり易くするために上の6枚の写真から色情報を抜いて、グレースケールに変換してみます。
白を測定した1枚目の写真は全体的に露出アンダー気味に、黒を測定した6枚目の写真は露出オーバー気味になっていますが、それぞれ測定した色のところを見ると、ばらつきはありますが、ほぼ同じようなグレーになっているのがわかると思います。
それぞれの写真の下に記載した実際の測定データを見ていただけるとわかりますが、白のEvの値は11・2/3、黒のEvの値は8ですので、曇天という比較的柔らかい光の条件下であっても、 4段近くの露出の差があります。コントラストが強い場合はもっと大きな差が出てしまいます。
このように、反射光式露出計は被写体のごく一部を測光することができますが、同じ光の状態であっても被写体の色によって測定結果が異なりますので、色と輝度の関係をある程度把握しておく必要があります。
被写体の輝度の値と実際の明るさ
照度と同じように輝度も「〇〇フィートルーメン」とか言われてもピンときません。
そこで、被写体の輝度を示すBvの値と、実際の被写体の見た目の明るさの関係について、主なものを挙げてみます。
Bv=1~2 雨が降り出しそうな曇天下の木々の葉
Bv=4~5 曇天下のクリーム色の家の外壁
Bv=5~6 曇天下の黒っぽい瓦屋根
Bv=5~6 晴天下、日陰になっている木々の葉
Bv=6~7 晴天下の赤いチューリップ
Bv=7~8 晴天下、日が当たっている木々の葉
Bv=9~10 青空
Bv=10~11 曇天の空(雲)
これらの値にISO感度のSvの値(ISO100だとSv=5)を加算すると、露出値であるEvになります。
一般には草や木々の葉の緑、あるいは人の肌などがニュートラルグレーに近いと言われています(上の写真では緑がかなり明るめですが、このスケッチブックの色は黄緑に近いので、草や木々の葉よりもだいぶ明るいです)。ニュートラルグレーの反射板を持ち歩いていれば基準がわかり易いですが、それも面倒なので、ニュートラルグレーに近い自分の手のひらなどを基準にする人もいます。
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実際の被写体というのは色や光の状態によって見た目の明るさにずいぶんと差があります。写真というのは、すべてが中庸濃度になるように写せば良いというものでもなく、撮影する人の意図によって露出をコントロールするということになります。
デジカメの場合は露出値を変えて何枚も撮影し、モニタで確認することで自分の感覚に合ったものを選ぶことができます。しかし、ピンポイントでここの色を出したいとか、この部分は飛ばないようにぎりぎりまで明るくしたいとか、そういった場合はスポット露出計があると思い通りの露出設定ができます。
次回は具体的な事例を交えてご紹介したいと思います。
(2021年9月11日)
初めましてこぼうし様、Natsu Natsuと申します。
数年前からカメラで子供の部活動撮影(室内競技:ハンドボール、空手、剣道等)を行っています。それこそカメラ任せに連写して数撃ちゃ当たる方式で撮影してきましたが、どうしても写真の色合いに満足出来ませんでした。
数え切れない撮影枚数の中で奇跡的に数枚だけ魅入ってしまう色合いで撮影出来ていましたが、そのように狙ったわけではなく偶然の産物であるため再現する事が叶いません。
露出を意識せずに撮影している事が原因だとは分かっているのですが、露出の書籍は難解で私にとっては睡眠薬のようなものです…orz
こぼうし様の本シリーズを拝見し、ほんの少しですが理解することが出来ました。まだまだ学ぶべき事が多いですが、何とか意識した色合いで写真を表現出来るように精進致したいと思います。
Natsu Natsuさん
コメントいただき、ありがとうございます。
露出は奥が深くて、イメージ通りに写すための露出設定は本当に難しいですね。おっしゃる通り、そのシチュエーションに露出がピタリと決まったときの写真は確かに美しいと思います。
部活動をされているお子さんの姿を写真として残す、素晴らしいことだと思います。数えきれないほどの枚数を撮影するということもかけがえのない記録になると思います。
この測光と露出設定のシリーズを全て拝読しました。
撮影において基本である露出決定を見直すきっかけ、またヒントになり大変勉強になりました。
えっせるさん
ご覧いただきまして、ありがとうございます。
多少なりともお役に立てたなら、大変うれしく思います。