PENTAX 67用 中望遠レンズ smc PENTAX 67 200mm 1:4

 PENTAX 67用の中望遠レンズです。35mm判カメラ用の焦点距離100mmくらいのレンズと同じ画角になります。
 この焦点距離は望遠というにはちょっと物足りないし、スナップなどを撮るには少し長すぎるといった感じで、それが理由なのか、あまり人気のないレンズのようです。中古市場やネットオークションなどでもよく見かけるし、何よりも他のレンズに比べて驚くほど安い価格が設定されています。にもかかわらず、商品の動きはあまりないようです。
 巷では不人気(?)なレンズですが、私は結構気に入っていて、持ち出す頻度もそこそこ高いレンズです。

smc PENTAX 67 200mm レンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX 67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成 : 4群5枚
   絞り目盛り : F4~F32
   画角  : 25度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 1.5m
   測光方式 : 開放測光
   フィルター径 : 77mm
   全長  : 135mm
   重量  : 795g

 このレンズは初代のスーパータクマー6×7、2代目のSMCタクマー6×7、そして3代目のSMCペンタックス67と、3つのモデルがあります。初代と2代目のレンズ構成は4群4枚でしたが、3代目のSMCペンタックス67になって4群5枚構成に変更されています。
 最短撮影距離もそれまでの2.5mから1.5mへと短くなり、だいぶ使い易くなった感じがします。欲を言えばもう少し短くしてほしいとも思いますが、200mmという焦点距離を考えればこんなものかもしれません。
 また、SMCペンタックス67になってからは、それまでのモデルに比べると重さも随分軽くなりました。カタログデータ上では100g以上軽くなっており、実際に手に持った時もズシッとした感じはなく、見た目以上に軽く感じます。プラスチックが多用されているせいもあり、デザイン的な重厚感もなくなり、どことなく安っぽさが漂っているように思えてなりません。もしかしたら、その辺りも人気がない理由の一つかもしれません。

 絞りリングはF5.6からF22の間で中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間、およびF22とF32の間にはクリックがありません。絞り羽根は8枚で、最小絞りのF32まで絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。
 ピントリングの回転角は300度くらいはあると思われ、最短撮影距離(1.5m)まで回すと鏡筒が約37mm繰出されます。ピントリングは適度な重さがあり、200mmという焦点距離でピント合わせをする際、ほんのわずか動かしたいという場合でも難なく動かすことができます。

 F32まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、遠景側でおよそ12m~∞までが被写界深度内、近景側でおよそ1.5~1.6mが被写界深度内となっています。一方、絞り開放時の被写界深度は極端に浅くなり、レンズの指標からは読み取れませんが、近景側だと数cmといったところでしょう。

 因みに、このレンズの最短撮影距離、絞り開放での被写界深度の理論値を計算してみると以下のようになります。

  前側被写界深度 = a²・ε・F/f²+a・ε・F
  後側被写界深度 = a²・ε・F/f²-a・ε・F

 ここで、aは撮影距離、εは許容錯乱円、FはF値、fはレンズの焦点距離です。
 上の式に、a = 1,500mm(最短撮影距離)、ε= 0.03mmとし、F = 4、f = 200mmをあてはめて計算すると、

  前側被写界深度 = 約6.72mm
  後側被写界深度 = 約6.78mm

 となり、前後を合わせた時の被写界深度は約13.5mmとなります。
 67判で使った場合、画角的には中望遠ですが焦点距離は200mmなので、やはり被写界深度の浅いことが良くわかると思います。

 また、このレンズをPENTAX67に装着した際のバランスはとてもよく、レンズ自体に適度の長さがあるので手持ち撮影でもホールドのし易さが感じられます。

絞りを開き、ボケを活かした写真を撮る

 上でも触れたように、200mmという焦点距離と絞り開放、もしくはそれに近い絞りを用いることで、浅い被写界深度を活かした写真に仕上げることができます。被写体までの距離が近ければ近いほどボケの効果は大きくなりますし、25度という画角は限られた比較的狭い範囲だけを切り取るので、被写体を強調し易いと言えます。フレーム内に入れたくないようなものも、撮影位置をちょっと移動するだけで簡単にフレームアウトすることができるので、画面の整理のし易さもあると思います。

 下の写真は昨年(2022年)の秋、田圃の畦に群生していたチカラシバを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/125 PROVIA100F

 この写真を撮影する少し前まで霧雨が舞っているような天気だったため、穂に水滴がついてとても綺麗な状態でした。まるで霧吹きで水を吹きかけたかのようです。たくさんのチカラシバの中から形の良いものを探し、全体のバランスや重なり具合のよさそうなアングルを選んで撮りました。
 バックには田んぼがあり、その向こうには大きな木が何本か立っている環境です。画の上部中央にある木までの距離は100m前後ではないかと思われます。
 主被写体であるチカラシバまでの距離は1.6mほどで、このレンズの最短撮影距離に近い位置からの撮影です。絞りは開放(F4)で、三脚をいちばん低くしてチカラシバとほぼ同じ高さで撮っています。

 被写界深度が浅いため、ピントが合っているのは中央の穂と左下にある小さめの穂、そして、中央の穂の下の方にある黄色く色づいた葉っぱの一部だけです。
 奥の方の穂はその形を残しながらも緩やかにボケていますし、下の方の葉っぱや茎も素直なボケ方をしていると思います。所どころに二線ボケが見られますがそれほど顕著というわけではなく、許容範囲内ではないかといった感じです。

 手前の穂といちばん奥にある穂との距離は40~50cmくらいだと思うのですが、200mmの焦点距離と近距離での撮影なのでこれだけのボケ方をしてくれます。背景など、この場の環境をもう少し説明的に写したい場合は、もう1段くらい絞り込めばかなり明確になってくると思いますが、画全体はうるさく感じられるようになってしまうと思います。
 また、これ以上ボケを大きくするには接写リング等が必要になります。

 次の写真はやはり昨年の秋に、近所の公園で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/500 PROVIA100

 画全体に写っている茶色く枯れたようなものはトウカエデの木の種子(実)だと思います。まるでドライフラワーのように鈴なりになっていて、この季節ならではの被写体です。このトウカエデの種子だけでは寂しいので、紅葉した葉っぱを前ボケに配置しました。
 主被写体のトウカエデの種子までの距離はおよそ7~8m、手前にある紅葉した葉っぱまでの距離は2~3mほどです。1枚目の写真に比べると被写体までの距離が長いので、背景の木の形もわかるくらいに写っていますが、主被写体を埋めてしまうほどではありません。むしろ、左側の種子にはピントが合っていませんので、もう1段くらい絞り込んでも良かったかもしれません。
 また、紅葉した葉っぱの前ボケは、暗い背景との対比で鮮やかな色が出ていますが、柔らかにボケているので邪魔になるほどではないと思います。

 この撮影距離(7~8m)における絞りF4の時の被写界深度を計算してみると290~300mmくらいなので、ワーキングディスタンスをこれだけとっても大きなボケを活かすことができます。もちろん、主被写体に近いところに何かがある場合はこれほど大きくボケることはないので、主被写体の前後は出来るだけ大きな空間があった方が望ましいのは言うまでもありません。

 画の隅の方を見ると、わずかにコマ収差のようなものが感じられますが、さほど気になるほどのものではありません。

 なお、この写真は画の左前方から陽が差していて、半逆光に近い状態です。そのため、トウカエデの種子がぎらついた感じになってしまいました。もう少し陽ざしが弱い方が柔らかな感じに仕上がったと思います。

 さて、3枚目の写真は長野県にある奈良井宿の夕景を写したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F5.6 30s PROVIA100

 陽が沈んで 家々の街灯が灯り始めたころで、まだ西の空に青さが残っています。
 このような撮影では目いっぱい絞り込んで、通りの奥までピントを合わせることが多いのですが、この写真ではいちばん手前の民宿の明かりのところだけにピントを合わせ、それ以外はぼかしています。絞りを開放にすると、いちばん手前の民宿にもピントから外れてしまう部分が出るため、絞りはF5.6で撮影しています。
 手前の民宿まで20~30mほど離れた位置からの撮影ですが、2件目の民宿辺りから徐々にボケはじめ、3件目より奥はかなりボケているのがわかります。ただし、何が写っているのかわからないほどのボケではなく、ある程度の原形をとどめながら緩やかにボケています。綺麗なボケ方ではないかと思います。

 また、ピントが合ったところの解像度は高く、左上に写っている民宿の2階に設置されている柵の木目などもしっかりと認識できます。

絞り込んでパンフォーカスの写真を撮る

 被写体に寄ったり絞りを開いたりすることでボケを活かした写真に仕上げるのとは反対に、全面にピントの合ったパンフォーカスに近い写真にすることもできます。
 遠景だけを対象にするのであれば、焦点距離が多少長くても全面にピントを合わせることができますが、中景と遠景が同居しているような場合でも、パンフォーカスにすることができるのは200mmという焦点距離ならではという感じもします。

 長野県小諸市で晩秋の風景として、うっすらと冠雪した浅間山と残り柿を撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/15 PROVIA100

 柿の木までの距離は20mほどだったと思います。中央の浅間山までの距離は無限遠と言ってもよいので、20mから無限遠まで被写界深度内に入れるために最小絞りのF32まで絞り込んでいます。
 ピントの位置は柿の木の向こうにある雑木の辺りに置いていますが、これで無限遠まで被写界深度内に入ります。レンズの指標でも確認できますが、実際に絞り込んだ状態(プレビュー)でもピントの確認をしています。

 早朝の撮影ですが、晴天のため太陽の光が強くてコントラストがつきすぎてしまい、柿の葉っぱが黒くつぶれ気味ですが、ほぼ全面にピントが合っているのと、柿の木を見上げるようなアングルで入れているので、焦点距離100mmとか120mmくらいのレンズで写したような印象を受けます。柿の木の全体を入れず、枝先だけを配した構図にすると望遠レンズで撮った感じが出てくると思います。

 掲載した写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、浅間山の手前にある山の稜線の木々や柿の木の向こうにある雑木の枝先などもしっかり描写されているので、十分な解像度があると思います。
 朝の色温度の低い時間帯なので赤みが強く出ていますが、特に発色のクセのようなものは感じられず、自然な発色をしていると思います。

 もう一枚、青森県の薬研渓流で撮影した写真です。渓流を俯瞰できる橋の上から撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/2 PROVIA100

 この写真の左側には車道が走っているため、画角の大きなレンズだと写したくないものがたくさん入り込んでしまいます。渓流の雰囲気を壊さないようにするには焦点距離200mmのレンズで縦位置にするのが適当だったのですが、若干、右側が窮屈になってしまいました。カメラを右側に振ると左側が窮屈になってしまうので、たぶん、180mmくらいのレンズが最適だと思います。

 画の下側にある右岸の岩から、画の上部の奥の木までピントを合わせるため、最小絞りで撮影しています。このようなアングルの場合、大判カメラであればティルトアオリをかけることで簡単に全面にピントを合わせることができますが、PENTAX67ではそういうわけにいかないので、絞りで稼ぐしかありません。
 手前の岩までは10mくらいで、いちばん奥の木までは150m以上はあると思います。左下の岩に生えているシダ(?)の葉っぱにも、奥の木の葉っぱにもピントを合わせたかったのですが、やはり若干無理があったようで、奥の木の葉っぱのピントは甘めです。それでも、奥の木の占める面積が少ないので、ボケているという感じはあまりしません。

 また、手前の岩にもピントが合っているとはいえ、もっと焦点距離の短いレンズで撮影したものと比べるとパースペクティブに強さがありませんが、実際に使用したレンズよりは短焦点レンズで写したような印象があります。

 この写真を見ながら、カメラを横位置に構え、上1/3をカットするフレーミングも有りだと感じ、もしかしたらその方が左右の窮屈感は薄れるのではないかと思いました。残念ながら、そのように写真は撮っていませんでした。撮影の時は気がつかなくとも、後になって感じることはたくさんあるものです。

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 画角的には中望遠レンズかもしれませんが、焦点距離は200mmなのでそれなりの大きなボケを出すことができますし、絞り込むことで被写界深度を稼ぐこともでき、いろいろな使い方のできるレンズだと思っています。若干、二線ボケの傾向が見られますが、それ以外の写りに関してはこれといった難点が感じられません。
 私はこのレンズと接写リングを組み合わせて、野草などのマクロ撮影にも使っています。応用性の広いレンズだと思うのですが、人気のない理由がいまひとつわかりません。
 このレンズ1本だけを持って撮影に行ってみるのも面白いかも知れません。

(2023.2.8)

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