1950年代に爆発的なブームを迎えたと言われている二眼レフカメラですが、その独特のフォルムは半世紀以上たった今でも色あせるどころか、独特のオーラを放っているように私には感じられます。そして、写真を撮る気にさせてくれるカメラの一つです。
今回は、 東京光学(現トプコン)製の二眼レフカメラ、「プリモフレックス オートマット」を紹介したいと思います。
このカメラの主な仕様
このプリモフレックス オートマットは「L型」と思われ、1957年の発売で、プリモフレックスシリーズの最終機になります。初代のプリモフレックスは1950年の発売ですから、7年ほどでプリモフレックスシリーズは終焉を迎えてしまったことになります。
主な仕様は以下の通りです。
・ビューレンズ Toko 7.5cm 1:3.5
・テイクレンズ Topcor 7.5cm 1:3.5 3群4枚
・最短撮影距離 約65cm
・絞り 3.5~22
・シャッター速度 B、1~1/500秒(大陸系列)
・シャッター SEIKOSHA-MXL
・シャッターチャージ セルフコッキング(巻上げ連動式)
・使用フィルム 120
初代プリモフレックス オートマットは1956年に発売されたましたが、それまでのプリモフレックスシリーズに対して、レンズコーティングの変更、セルフコッキングの採用、オートマット機構の採用など、いくつかの改良が加えられたようです。
また、テイクレンズはテッサー型のTopcor 7.5cmで、3郡4枚構成にグレードアップされています。「驚異的解像力 200L/mm」というキャッチフレーズは有名だったようです。
特徴的なライトバリュー方式の採用
最終型であるL型になって最も特徴的なところは、シャッター速度レバーを動かすとそれに連動して絞り値が動き、一定のLV値を保つという「ライトバリュー方式」が採用されたことだと思います。巻き上げクランクのところに取付けられた露出表をもとにLV値を設定すれば、シャッター速度を変更しても常に同じ露出が得られるというすぐれものです。
これについては便利と思うか煩わしいと思うか、賛否があると思いますが、私はどちらかというと煩わしい方に一票という感じです。私にとってはシャッター速度と絞りはそれぞれ独立して動く方が便利というのが理由ですが、これは撮影のスタイルによって異なるので、このライトバリュー方式が便利と感じる方も多いのではないかと思います。
ピント合わせがし易い、明るいスクリーン
フレネルタイプのフォーカシングスクリーンが採用されており、非常に明るいのでピント合わせがし易いです。フォーカシングスクリーンの上部には「TOKOBRITE」という銘が彫られており、非常にこだわりが感じられます。
また、ピントルーペを出した状態でもスクリーン全体が視野に入るため、構図確認とピント合わせでルーペを畳んだり出したりということをしなくても済むので便利です。
最短撮影距離が約65cmと短いため、パララックス補正のための線がスクリーン上部左右にあります。二眼レフの場合はその構造上、近い被写体を撮影する際はスクリーン上の投影像と実際に写る範囲に上下のずれが生じてしまいます。そのため、近接撮影での正確なフレーミングは結構難しいです。パララックス補正ラインがあっても、実際にはスクリーンの上端と補正ラインの間で位置決めをしなければならないので、この辺りは勘に頼るといった感じです。
フィルムの装填位置にもこだわりが
多くの二眼レフカメラの場合、フィルムはカメラの下側(底の方)にいれ、上側(スクリーン側)に巻き上げるようになっています。これに対してこのカメラは逆で、フィルムを上側に入れ、下側(底の方)に巻き取っていくようになっています。
フィルムを下側に入れて上方向に巻いていくと、次に撮影するコマの位置でフィルムが直角に曲げられてしまいます。これによってフィルムの平面性が損なわれてしまうのを防ぐため、フィルムを上側に装填する方式を採用しているようです。
実際にどの程度の影響があるのかわかりませんが、こういったところにもこのカメラのこだわりが感じられます。
プリモフレックス オートマットで撮影した作例
まず、中野駅(東京都)周辺の路地で撮影した一枚です。居酒屋の軒に下がった赤ちょうちんを撮ってみました。
絞りはF4ですので、開放に近い状態です。
焦点距離は75mmなのでそれほど大きなボケは期待できませんが、画右半分の路地風景は比較的素直なボケになっていると思います。遠くに行くにしたがってなだらかにボケていく綺麗なボケです。これくらいの遠近差であれば、何が写っているか識別できるというのがこの焦点距離ならではだと思います。
一方、ピントは左側の赤ちょうちんに合わせていますが、まずまずの解像度が出ていると思います。紙の質感や上に被せられたビニールの質感も良く出ており、レンズの解像度の高さが感じられます。
日陰なので青被りしていますが、色乗りも自然な感じです。
二枚目も同じく中野駅周辺で撮影したものです。壁に描かれた絵が印象的だったので撮ってみました。
ここは建物の陰になっているので直接の日差しがなく、コントラストが低めな状況です。壁に描かれた絵はすっかり汚れてしまっていますが、このくすんだ感じも良く描写されていると思います。前の写真と同様に、しっかりした色乗りがありながらこってりしすぎておらず、自然な感じの色合いです。
ベニヤ板のようなところに描かれたと思われますが、表面のざらつきなどもわかるので良く解像していると思います。
さて、三枚目は雪景色です。
青空、真っ白な雪、踏切の警報器、杉木立と、明暗差が大きな被写体で、画の左側からのサイド光で撮影しています。逆光というほどではないのですが、全体にごく薄いフレアがかかっているように感じられます。今の高性能のレンズで撮れば、全体にもっとパキッとした感じになると思われます。コーティング技術の違いによるものかもしれませんが、嫌味のない発色だと思います。
掲載した写真は解像度を落としているのでわかりにくいですが、元画像を見ると中央の木々の先端まではっきりと見えます。
半世紀以上も前のレンズということからしても十分な解像度を持っていると思いますし、色の出方にも不自然さがなく、個人的には好印象なレンズです。そして、どちらかというと繊細な描写をするレンズといった感じです。ボケも柔らかな感じなので、綺麗な作画ができると思います。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二眼レフカメラは何台か持っているのですが、風景を撮ることが多い私にとって、それらのカメラはそれほど出番が多いわけではありません。しかし、ときどき二眼レフを持ち出したくなる衝動に駆られることがあります。いわゆる風景写真とはちょっと違った、その辺りに普通に存在している身近な景色を撮るには二眼レフカメラ、と思うのは私だけでしょうか?
(2022年1月31日)