1950年代のカメラBeauty MODEL1 ビューティーモデル1で撮影してみました

 友人から送り付けられた1950年代のフォールディングカメラ「Beauty MODEL1」、修理をして一通りの動作確認はしましたが、ちゃんと撮れるのかどうか確認するため、フィルムを入れて実際に撮影してみました。最初はモノクロフィルムでと思ったのですが、色のノリ、絞りやシャッター速度等の露出精度も確認するため、ちょっともったいないと思いましたがリバーサルフィルム使うことにしました。
 結果は予想外でした。

 なお、このカメラの分解・修理についてご興味のある方はこちらの記事をご覧ください。

 「1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

撮影の前に結像することを確認

 いきなり撮影してもなにがしかの映像は写ると思いますが、フィルムを無駄にしたくないので、きちんと結像することを確認します。
 カメラの裏蓋を開け、フィルムがあたるところに乳白色のシートを貼って、レンズのシャッターを開いたときに像ができれば一応合格ということになります。
 実際に確認したのが下の写真です。

▲結像を確認するため、乳白色のシートに投影

 正確なピントまではわかりませんが、概ね、ピントは合っているようです。念のため近景でも確認しましたが、レンズの距離指標と合っているように見えますので、それほどピンボケになることはないと思われます。

 また、このカメラのピント合わせは目測で、しかもレンズの距離指標は「フィート」です。被写体までの距離を目測(もちろんメートル)で決め、およそ3倍するとフィートになりますが、目測で距離を測るということに慣れていないのでピント合わせに手間がかかりそうです。

▲ピント合わせは目測 距離目盛りは「フィート」

 フィルムの巻き上げとシャッターのチャージは独立しているので、今のカメラのようにフィルムを巻き上げないとシャッターが切れないというロック機構がありません。フィルムを巻かなくても何回でもシャッターが切れてしまうので、多重露光にならないように注意が必要です。

 フィルムの巻き上げは、裏蓋の小さな窓からフィルムの裏紙に記載されている番号(1~12)を確認して行ないます。
 因みに、このカメラは645判での撮影もできるので、その際は上側の窓を使い、1~16の番号を確認しながら巻き上げを行ないます。

▲カメラの裏蓋 66判の時は下側の窓からコマ数を確認する

予想に反してしっかりとした写りをするカメラ

 下の写真が実際に撮影したポジ原版(全12枚中の9枚)です。

▲ポジ原版 ライトボックス上で撮影

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影しているので画質は良くありませんが、意外としっかり写っているのがわかると思います。何枚か抜粋した写真はこのあと紹介しますが、まずまずのコントラストや解像度が保たれているようです。ただし、レンズのイメージサークルが小さいのでしょうか、周辺光量の落ち込みが目立ちます。

 使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100ですので、本来であればもっとくっきりとした鮮やかな発色になるのですが、60年以上前のカメラということを考慮すると健気に頑張っているという感じです。
 正直なところ、写りに関してはまったく期待をしておらず、酷い写真しか撮れないのではないかと思っていたのですが、予想に反した仕上がりに驚きです。

 ただし、ファインダーの精度は決して良くはありません。ファインダー自体は非常に単純な構造なので、覗き込む目の位置によって見える範囲がずれますし、ファインダーで見える範囲よりもだいぶ広く写るようです。写したと思ったのに周囲が欠けてしまったというよりは、多少広く写しておいた方が救済できるという判断からかも知れません。

最近のレンズと比較するのは酷だが、及第点の写り

 では、撮影したうちの何枚かをスキャンしてみましたのでご紹介します。いずれもスキャンしたままの状態で、画像の加工はしていません。

 まずは、晴天時に斜め後ろからの順光に近い状態で撮影したのが下の写真です。

▲F8 1/200

 このような条件下だと少々難ありのレンズでも比較的良好に写りますが、遊具に塗られた赤青黄の色や地面の土、生け垣の緑なども自然な感じの発色です。黄色が褪せて見えるかもしれませんが、実際にこんな感じでした。また、桜の小枝の先端も識別できるくらいですから、解像度も及第点でしょう。

 次に、近景から遠景までということで、手前に木を入れて新宿の高層ビルを撮ってみました。

▲F22 1/50

 このような構図だと周辺光量の低下が目立ちます。しかも画の中央部が最も明るいという状況なので、手前の木が黒くつぶれないようにすると新宿の高層ビルが露出オーバーになってしまいます。
 最小絞りであるF22まで絞っていますが、パンフォーカスにするには若干無理がある感じです。手前の木のディテールは損なわれますが、ピントの位置をもう少し先にもっていくと遠景がくっきりとした写真になると思います。

 もう一枚、周辺光量の落ち込みによる影響を受けている写真です。高圧線の鉄塔を見上げるアングルで撮ったものです。

▲F11 1/200

 中央の鉄塔が白く飛び気味です。もう一段絞ると鉄塔は落ち着いた色になると思いますが、手前の山茶花などはアンダーになってしまいます。やはり、このようなシチュエーションは難しいというのが正直なところですが、半世紀以上も前のカメラならではの写りと思えば、それはそれで味わい深いものです。

 下の写真は明暗差の大きな被写体ということで撮ってみました。

▲F11 1/200

 神社に奉納されたお酒の樽に陽が当たっており、そのお堂の軒下が暗く落ち込んでいる状態です。軒下はつぶれてしまうかと思いましたが、かろうじて梁のようなものが認識できます。
 やはり最も明るい酒樽のところの解像度は低下しているように見えます。

 さて、次は道路沿いにある公園にたむろしていた鳩たちです。寒いので縮こまっています。

▲F11 1/100

 中央にいる鳩までの距離は1.5mほどです。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、近距離ということもあり、まずまずの解像度が感じられます。
 また、上の1/3は暗く落ち込んでいるためにわかりませんが、下の両端を見ると光量が低下していることがわかります。

 下の写真は東京都庁の都民広場にある彫像「アダムとエヴァ」です。都民広場には全部で8体の彫像がありますが、そのうちの一つです。

▲F11 1/200

 順光ですので、彫像のディテールも結構よく出ていると思います。アダムの顔の辺りとその後方のリンゴの部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 やはりエッジのシャープさはイマイチですが、ここまで写れば文句なしというところでしょう。

 同じく都民広場の彫像の「早蕨」を背後から撮影したのが次の写真です。

▲F5.6 1/50

 彫像に直接の日差しはあたっていませんが、都庁の窓ガラスに反射した光で彫像の輪郭が青く輝いています。彫像の表情がわかるくらいまで露出をかけているので背景が非常に明るくなり、このカメラのレンズにとっては苦手な状況です。都庁にピントは合っていませんが、全体的に霞がかかったようなモヤっとした感じの描写です。

 最近のレンズと比較すると解像度は低く、エッジがシャープになっていないので画全体がふわっとした感じに写りますが、十分に撮影に使えると思います。逆光気味の条件下では厳しい感じですが、その辺りを理解して光の入り方に注意すればひどい状態になるのは避けられます。
 また、レンズのコーティングも今のレンズと全く違うのは明らかで、前玉をのぞき込んだ時、深みのある吸い込まれそうな色合いがありませんので、その影響も大きいと思います。

 なお、距離合わせが目測のため、ピントが甘くなっている可能性もありますのでご承知おきください。

60年以上経っているが十分に使えるカメラ

 今回の試し撮りでは単体露出計を使って露出を設定しました。特に露出オーバーとか露出アンダーということもなく、ほぼ設定どおりの露出で撮影できているので、シャッター速度も絞りも問題なく、正常に機能していると思います。
 また、蛇腹を修復していますが、蛇腹からの光線漏れや裏蓋周辺からの光線漏れも生じていないようです。このカメラ、裏蓋の周辺にはモルトはまったく使われていません。モルトをべたべたと貼り付けて光線漏れを防いでいるよりも個人的には好ましく思います。

 発売から60年以上が経っていますが、手入れをしていけばまだまだ十分に使えそうです。

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 疑心暗鬼で行なった試し撮りですが予想もしていない結果となり、ささやかな満足感とともにほっとした気持ちです。スローな写真ライフを楽しむにはうってつけのカメラかも知れません。
 きちんと写ることも確認もできたので、カメラは本来の持ち主のところに戻っていきました。

(2022年1月19日)

#スプリングカメラ #中古カメラ #リバーサルフィルム

1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

 先日、友人から「かなり昔のカメラが手に入ったんだけど、使える?」という要領のまったく得ないメールが来ました。現物を見てみないとわからないと返信すると、「では送る」という短い回答があり、後日、宅配便でカメラが送られてきました。
 開けてみると「Beauty MODEL1」というカメラでした。この週末にこのカメラを分解・清掃・修理をしてみましたのでご紹介します。

Beauty MODEL1の状態を調べてみると..

 このカメラは1950年代の半ばに、東京の神田にあった太陽堂光機という会社が発売した国産のフォールディング(折り畳み式)カメラです。
 Beautyというブランドは「BEAUTY FLEX」という二眼レフカメラの方が有名で、今でも中古カメラ店で見かけることがありますが、今回のようなシックス判のフォールディングカメラはほとんど見かけることはありません。二眼レフカメラが大成したので、フォールディングカメラからは手を引いてしまったのかも知れません。

▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1 かなり汚い
▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1

 120フィルムを使用するカメラで、Doimer(ドイマー)という焦点距離80mm 1:3.5のレンズがついています。土居さんという社長の苗字からとった名称らしいですが、洒落っ気が感じられます。シャッター速度はB・1~1/200秒、最小絞りはF22、距離合わせは目測です。

 送られてきたカメラを一通り見てみると、以下のような状態でした。

 1) 全体に汚い
 2) ファインダーが曇っていてほとんど見えない
 3) 折りたたんだ時に前蓋がしっかりと閉まらない
 4) シャッターをチャージすると、シャッター膜が半開きになってしまう
 5) レンズが汚れている カビ、クモリもある
 6) 蛇腹が破れている

 果たして使えるようになるのかどうか、分解してみることにしました。

レンズの清掃とシャッターの修理

 まずはレンズが使えるようにならないと撮影はできないので、レンズを取り外してばらしていきます。

▲Doimer 80mm 1:3.5

 レンズは3枚構成で、前玉と後玉は激しく汚れています。カビが取れるかどうかわかりませんが、しばらくエタノールに浸しておき、その後、清掃しました。わずかにカビの跡が残っていますが、かなり綺麗になりました。

▲前玉を外したところ
▲後玉を外したところ

 問題はシャッター膜が半開きになってしまう現象ですが、ばらして調べたところ、シャッターをチャージした時にロックされる爪の位置がずれているようです。なぜそのようなことが発生したのかは不明ですが、しっかりロックされる位置になるよう、調整しました。

▲シャッターをチャージすると半開き状態になってしまう

 シャッター速度はバルブも含め、変化していますが、絞り羽根もシャッター膜も粘っている感じがあったので分解して洗浄しました。

 また、ピント合わせをする前玉のヘリコイドがかなり重かったので、少しグリスを塗り込んでおきます。

▲清掃・修理後のレンズ

 シャッターとレンズを組み立てて動作確認してみましたが、粘った感じもなくなり快調に動いているようです。念のため、シャッター速度を計測してみたところ、以下のような状況でした。

 <速度目盛り> <実測値>
  1      1.083秒
  1/2     0.458秒
  1/5     0.185秒
  1/10     0.109秒
  1/25     0.048秒
  1/50     0.023秒
  1/100    0.013秒
  1/200    0.006秒

 それぞれ3回計測した平均値です。ばらつきはありますが、まずまずといったところでしょう。

ファインダーの清掃

 軍幹部の中央に可愛らしい覗き穴のようなファインダーがあります。真っ白に曇っていてほとんど視界はゼロといった感じです。軍幹部を取り外してファインダーレンズを清掃します。
 このカメラは66判と645判が使えるのですが、それに合わせて接眼部を回すとファインダー内のマスクが切り替わるようになっています。このカメラの中で最もセンスが輝いている構造のように感じました。

▲ファインダー(軍幹部のカバーの内側)

 ファインダーのレンズは取り外してエタノールで拭くと、驚くほどクリアになりました。

蛇腹の修理

 蛇腹には棒状のもので突いたような破れがあります。ピンホールもあるかと思い、LEDライトを照射して確認しましたが大丈夫そうです。蛇腹自体もヨレヨレした感じはなく、しっかりとしているので破れたところを塞げばまだ使えそうです。

 蛇腹をカメラ本体から取り外すためには、カメラ前面の張り革を剥がさなければならないようです。先の薄いヘラを張り革の下に差し込んだところ、張り革が5mmほどの大きさでボロッと欠けてしまいました。60年以上も経っているのですっかり劣化しているようです。
 うまく剥がせれば再利用しようと思っていたのですが、それはあきらめて前面の張り革を全部削り取ってしまいました。

▲カメラ前面の張り革を剥がしたところ

 張り革の下のネジを外すと、カメラの筐体から蛇腹部分を取り出すことができます。

▲カメラ筐体から蛇腹機構を取り出す

 蛇腹の破れたところは、外側と内側の両方から補修テープで塞ぎます。両面にテープを貼ると厚みが増して、蛇腹の折り畳みに影響が出るかと思いましたが問題ななそうです。念のため、補修テープの周囲に黒のタッチアップペンを塗っておきます。

 蛇腹を外したついでに、前蓋のロック機構も修理しておきます。
 前蓋を閉めた際に、カチッと爪が引っかかるようになっているのですが、この爪が歪んでいてロックされません。ラジオペンチで歪みを直してロックされるようにしましたが、前蓋自体も少し歪んでいるようで、隙間ができてしまいます。カメラを落としたか、どこかにぶつけたかして歪んでしまったのでしょう。とりあえず閉まるようになったので良しとします。

カメラ前面の張り革

 取り外した蛇腹やレンズ、軍幹部をもとのように組み上げ、ボロボロになってしまったカメラ前面の張り革は新しく張り替えます。全面張り替えたいところですが、他は剝がれたり傷んだりはしていないので、とりあえずそのままにしておきます。

▲清掃・修理後のBeauty MODEL1

 前面だけとはいえ張り革も新しくなり、長年の汚れも落としたので、見違えるほどきれいなカメラになりました。ファインダーもくっきりと見えるし、絞りやシャッターも問題なく動作しているようです。

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 とりあえず正常に動作しているようには見えますが、実際に撮影をしてないので、きちんと写るのかどうかは不明です。後日、実際に撮影をしてみたいと思います。

(2021年12月5日)

#ビューティー #Beauty #スプリングカメラ #中古カメラ