第206話 ローデンシュトック RODENSTOCKの大判レンズ ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 MC

 私はローデンシュトックのレンズは数本しか持っていませんが、その中の1本がこのゲロナーGeronar 150mm F6.3 というレンズです。「ジェロナー」と発音する方もいらっしゃいますが、私は「ゲロナー」と言います。どちらが正しいのかよくわかりませんが、「ゲロナー」の方がドイツ語っぽくて好きです。

 ローデンシュトックのパンフレットによると、このレンズは学生やカメラ初心者などにも機材を揃えやすいようにということから廉価版のレンズとして開発されたと記述されています。一方、価格を抑えるために絞り開放値やイメージサークルを犠牲にしたとも書かれています。
 それが理由なのかどうかはわかりませんが、日本では代理店が取り扱わなかったらしく、日本の市場に出回っている数はとても少ないように思います。私もこのレンズの存在自体は知っていましたが現物を見たことはなく、今から10年ほど前に友人から譲り受けたものです。
 私の持っているレンズはシリアル番号からすると、1990~1992年頃に製造されたものではないかと思われますので、比較的新しい部類に入るのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の主な仕様

 ゲロナーには通常のGeronarと、広角タイプのGeronar WAの2種類が存在しており、カタログを見ると通常タイプのGeronarは150mm、210mm、300mmの3本が販売されているようですが、広角タイプのGeronae WAは90mmの1本だけのようです。
 ゲロナー Geronarは凸凹凸の3群3枚のトリプレット構成というレンズで、最近ではあまりお目にかかることのないレンズ構成です。かつて、カールツァイスの「トリオター」というレンズを持っていたことがありますが、そのレンズと基本的には同様の構成かと思われます。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ180mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 3群3枚
   最小絞り : 64
   絞り羽根 : 7枚
   シャッター  : COPAL No.0
   シャッター速度 : T.B.1~1/500
   包括角度 : 約62°
   フィルター取付ネジ : 40.5mm
   前枠外径寸法 : Φ42mm
   後枠外径寸法 : Φ31.6mm
   全長  : 34.2mm
   重量  : 145g (レンズ締め付けリングを含む)

 上記の数値を見てもお分かりのように、とてもコンパクトなレンズです。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ42mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の準標準レンズあたりといったところです。
 4×5判の対角画角が約54.3度、横位置に構えたときの水平画角が約43.6度、垂直画角が約35.5度という値です。
 ただし、このレンズのフランジバックが150mmよりも少し短くて、簡易的に実測してみたところ147mm前後という数値でした。正確には焦点距離が約147mmのレンズということになりますので、実際の画角は上記の値よりも若干大きめになると思います。

 シャッターはCOPALの0番が使われています。絞りはF6.3からF64まであり、1/3段ごとに目盛りが設けられていますが一眼レフカメラ用のレンズみたいなクリックはありません。また、絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはなく、綺麗な7角形を保っています。
 レンズの前枠径が42mmととても小さいのでシャッターの目盛りの上に覆いかぶさるようなこともなく、操作性はとても良好です。

 イメージサークルは180mm(F22)しかないので4×5判での使用が限界で、大きなアオリには耐えられません。ごく普通の風景写真を撮るには問題ないと思いますが、ブツ撮りには向いていません。
 開放絞りがF6.3と、一般的なこの焦点距離のレンズに比べると1/3段ほど暗いことになりますが、特に不都合は感じられません。
 旧フジノンのW.Sシリーズの中に150mm F6.3 というレンズがありましたが、大きさも仕様も非常に似通った感じのするレンズです。ただし、W.Sシリーズはシングルコーティングでしたが、Geronarはマルチコーティングになっています。また、フジノンのW.S 150mmはテッサータイプでしたので、レンズ構成も異なっています。
 小さくて軽いので、携行するにはとてもありがたいレンズです。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約1.5m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF6.3(開放)で撮影したものです。ピント位置を中心にして後方に8cmと16cmの位置に、そして前方にも8cmと16cmの位置に、合計5枚のテストチャートを設置した状態で撮影をしました。わかり易いようにテストチャートの部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置に設置したテストチャート部分を切り出したものです。

 ボケ方としては全体的にクセのない素直なボケではないかと思います。
 また、前ボケと後ボケも非常に似通っているのが印象的ですが、比較してみると前ボケの方がわずかに柔らかな感じを受けます。レンズによっては前ボケと後ボケでずいぶんと様子の異なるものもありますが、このレンズはほとんど見分けがつかないといった感じです。

 次に、絞りをF11にして同様に撮影、テストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 当然、ボケ方は小さくなっていますが、素直なボケ方ですし、前ボケと後ボケも非常に似通っているのは絞り開放の時と同様です。

 参考までに、同じローデンシュトックのSironar-N 150mm 1:5.6 というレンズのボケ方の写真を掲載しておきます。
 撮影条件はGeronarと同じで、絞りはGeronarの開放と同じF6.3にして撮影しました。
 同様にテストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 ボケ方としては似ているように思いますが、Sironar-N のボケの方がわずかにふわっとした印象を受けます。平面のチャートを撮影したのでこういう言い方は適切ではないかもしれませんが、Sironar-N の方がボケに立体感があるように思います。

 また、ピントの合っている位置のチャートの写真を見ると、Sironar-N の方がシャープな感じがします。撮影する際のピントの合わせ方の問題のような気もしますが、ちょっと気になったので簡易的に解像度の確認もしてみました。
 使用したのはISO-12233準拠のテストチャートです。

 このチャートをフレームいっぱいになるように撮影し、比較しやすいように一部分を切り出したのが下の3枚の写真です。上から、Geronar 150mm 開放(F6.3)、Geronar 150mm 絞りF11、Sironar-N 150mm 絞りF6.3 の順です。

▲Geronar 150mm F6.3
▲Geronar 150mm F11
▲Sironar-N 150mm F6.3

 こうして3枚を比較してみると、Geronar 150mm の絞り開放で撮影したものは解像度が若干低い感じがします。コントラストも低めで、数字や線の輪郭がぼやけているように見えます。
 しかし、絞りをF11まで絞り込むとだいぶ改善されており、数字や線の輪郭もずいぶんとはっきりした感じになります。コントラストが向上しているのがわかると思います。

 そして3枚目の写真はSironar-N 150mm ですが、絞りF6.3(開放から1/3段の絞り込み)にもかかわらず非常にシャープでコントラストの高い状態になっていると思います。数字や線のエッジがGeronar 150mm に比べるとくっきりとしています。
 やはり、廉価版ということである程度割り切った性能のレンズということで販売していたのは上にも書いた通りですが、こうして比較してみると差があるのがわかります。
 この差が実際の使用上でどの程度の影響があるかというと、私のように風景を対象としている分にはほとんど気にならないのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の作例

 ということで、Geronar 150mm 1:6.3 で撮影した写真をいくつかご紹介します。撮影した時期は異なりますが、いずれも青森県の奥入瀬渓流で撮影したものです。また、使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100Fです。

 まず1枚目は、川岸に生えていた矢車草を撮影したものです。

 葉っぱの形が端午の節句の鯉のぼりにつけられる矢車に似ていることからこの名がつけられたようです。日本全国の谷沿いの林床などでごく普通に見ることが出来る野草で、奥入瀬渓流にもたくさん育成しています。新緑の5月~6月頃は葉っぱの色も鮮やかで、個人的には奥入瀬川の清流との相性がとても良いと思っています。

 この写真はアオリを使わず、ノーマルの状態で撮影しています。川の流れが表現できるようにスローシャッターを切っていますが、ほぼ無風状態だったので葉っぱもほとんどブレることなく写ってくれました。
 背景がはっきりしすぎないようにということで、絞りはF16での撮影です。そのため、葉っぱの手前の方がピントから外れていますが、鋸歯の感じも良く出ていて、シャープな写りをしているのではないかと思います。
 背景の岩や川中に引っかかっている木の枝などのボケ方も柔らかな感じで、そして綺麗なボケだと思います。

 2枚目は同じく奥入瀬渓流で撮影した紅葉の写真です。

 鮮やかなオレンジ色に紅葉している樹があったので、その色をより引き立てるために手前に黒っぽい樹の幹を配してみました。奥入瀬渓流は紅葉よりも黄色く色づく、すなわち黄葉の方が圧倒的に多いので、このような赤く色づく紅葉はとても目立ちます。

 この写真は右手前の幹をぼかしたくなかったので、軽く右にスイングアオリをかけています。このレンズはイメージサークルに余裕がなく、あまり大きくあおるとけられてしまうので注意が必要です。
 また、この写真はパンフォーカスに近い状態で撮影しているのでボケの具合はほとんどわかりませんが、細い枝先などもしっかりと解像しており、このような被写体では高価なレンズにも引けを取らない写りをしていると思います。

 この日は全体に曇り空で、柔らかな光が渓流全体にまんべんなく回り込んでいるといった状態でした。そのため、紅葉もとても柔らかなしっとりとした感じの描写になってくれました。使用したフィルムはベルビア100Fなので、どちらかというとあっさりした発色傾向にあるのですが、実際に肉眼で見たよりも鮮やかな色になっていると思います。ヌケの良い発色をするレンズという感じがします。

 そして3枚目は、奥入瀬渓流の本流にかかる唯一の滝、銚子大滝の写真です。

 この写真を撮影したのは9月の早朝、川霧が立ち込めている日でした。滝つぼのあたりが白く煙っているのがわかると思います。これを撮影したひと月ほど前、青森県に発生した線状降水帯の影響で奥入瀬渓流も大洪水になったらしく、その時の爪痕が生々しく残っていました。

 ようやく朝陽が渓流に差し込み始めた時間帯ですが、手前のあたりにはまだ日が入り込んおらず、滝と手間の流れとの明暗差が大きい状態だったので、滝が真っ白に飛んでしまわないように露出を決めています。全体としては明るくなり過ぎないように、露出をアンダー気味にしています。
 また、手前の流れや左下の岩にもピントを合わせたかったのでフロントティルトのアオリをかけているのですが、レンズのイメージサークルが小さいのでケラレが生じてしまうため、バックティルトも併用しています。

 これも2枚目の写真と同様、パンフォーカス気味にして撮影しているのでボケの具合はわかりにくいですが、解像度については十分に評価できるレベルではないかと思います。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、川中に引っかかった枝や川岸の小石などもとても鮮明に写し取られています。ベルビア100Fらしい発色も気に入っています。

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 テストチャートの比較撮影の結果でわかるように、このレンズは絞り開放だとやはり解像度が少し低下するようです。F11あたりまで絞り込めばほとんど問題のないレベルになると思いますが、開放にして浅い被写界深度で撮影したいというような場合は、解像度の低下が気になるかもしれません。近接撮影や鮮鋭度を重要視するような撮影には向いていないように思います。
 もともとのコンセプトが学生や初心者にも幅広く使ってほしいということですから、あまりシビアなものを求めるのは無理があるという気がします。しかしながら、風景撮影などでは十分な描写をしてくれるし、癖のないボケやヌケの良い発色など、廉価版とは思えないレンズだと思います。
 そして、何よりも小型軽量というのが風景撮影にはありがたい存在です。150mmのレンズとしては私が個人的にいちばん気に入っているシュナイダーのAPO-SYMMAR 150mm 1:5.6 よりも二回り以上も小柄なレンズです。シビアな目で画質を比べると差はありますが、十分に期待に応えてくれるレンズであると思っています。

 日本国内ではほとんどお目にかかることがりませんが、海外の中古市場なども含めて、Geronarの他の焦点距離のレンズも使ってみたい衝動にかられます。

(2026.4.28)

#Geronar #Rosenstock #Sironar #シロナーN #テストチャート #ローデンシュトック #奥入瀬渓流 #レンズ描写

第161話 ローデンシュトック シロナーN Sironar-N 210mm 1:5.6 大判レンズのボケ具合

 私は大判カメラ用の焦点距離210mmのレンズを4本持っていますが、特段、210mmのレンズが好きで使用頻度が高いというわけではありません。最初は1本だけだったのですが、友人から使わなくなった210mmレンズを譲り受けたものもありますし、何と言っても中古市場に出回っているタマ数が多いため、つい買ってしまったなんていうものもあります。
 2年ほど前に衝動買いのようにゲットしたローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 もそんなレンズの一つです。それまでは210mmというと、もっぱらシュナイダーのAPO-SYMMARを使っていたのですが、Sironar-N を手にしてからその写りが気に入ってしまい、今では210mmというとSirona-Nの使用頻度が最も高くなっています。
 とにかく感覚的な説明しかできないのですが、シャープでありながら柔らかさの感じる描写というようなところが気に入っています。
 私はレンズの数値的性能に関しては無頓着で、描写が気に入るか否かで選択している傾向が大ですが、もう少し客観的に特性がつかめるかも知れないということで、数か月前に作ったテストチャートでボケ具合を確認してみました。
 あくまでも見た目のラフな確認であって定量的な計測ではないので、予めご承知おきください。

テストチャートを使っての撮影

 まずは、以前に作ったボケ具合確認用のテストチャートを用いて撮影を行ないました。ボケ具合確認用のテストチャートの詳細については、下記のページをご覧ください。

  「大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 このテストチャートを45度の角度をつけて設置し、これを2.1m離れた位置から撮影をしました。

 上の図のように、レンズの光軸を水平に保ち、光軸の先にピント合わせ用の十字のマーカーが来るようにして、ピントをこれに合わせます。
 撮影距離に特に理由はありませんが、離れすぎるとボケが小さくなりすぎて比較しにくいだろうし、かといって近すぎても良くないだろうということで、レンズの焦点距離の10倍ほどということで決めました。
 念のため、絞りは開放(F5.6)からF16まで、1段ずつ絞りを変えて撮影してみました。
 撮影した環境は自然光が入る室内ですが、撮影は光が強すぎない曇りの日に行ない、テストチャートに直接光が当たらないようにしています。また、陰にならないようにテストチャートは窓側に向けての撮影です。

Sironar-N 210mmのボケ具合

 実際にテストチャートを撮影した結果が下の写真です。

 中央にある十字型のマークのところにピントを合わせ、絞り開放(F5.6)で撮影したものです。
 前後に3個ずつのテストチャートを設置していますが、チャートの間隔は水平距離にして6cmごとに置いているので、中心から水平距離にして前後に18cmの範囲を写していることになります。チャートの位置が若干斜めになっているものもありますが、その辺りは大目に見てください。
 この画像でもボケ方の特徴のようなものがなんとなくわかりますが、もっとわかり易いように一番手前のチャートといちばん奥のチャートの部分を拡大したのが下の画像です。

 1枚目が一番手前(前ボケ)、2枚目がいちばん奥(後ボケ)の画像です。

 前ボケ(1枚目)は全体がふわっとした感じにボケています。ボケ方に厚みがあるというか、前に膨らんだような印象で、細かな部分はボケの中に溶け込んでしまっているといった感じです。レンズからこの最前列のテストチャートまでの距離は約1.9mですから、それほど大きなボケにはなりませんが、もっと距離を詰めればボケの大きさは格段に大きくなります。
 ちなみに、この距離における点光源が前ボケとなる大きさの理論値(近似式)は、

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 で計算できます。

 この式に、
  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 210mm
  a : 主被写体までの距離 =2,100mm
  b : 点光源までの距離 = 1,900mm
  F : 絞り値 = 5.6

 をあてはめて計算すると、最前列のテストチャートに点光源があったとして、そのボケ径B
は約3.95mmになります。更に、最前列のテストチャートが半分の0.95mの位置にあったとすると、そこの点光源のボケ径は約7.89mmになります。

 また、ボケの広がり方は均等であり、どちらかに片寄ったような広がり方ではないので、クセのない素直なボケ方だと思います。

 一方、後ボケ(2枚目)は柔らかくボケている中にも鮮明さが残っている感じです。ボケの広がり方はとても自然な感じがしますが、前ボケのように厚みのある感じはしません。また、前ボケに比べて元の形がわかり易いボケ方です。かといって、輪郭やエッジが強調されてしまっているようなことはなく、すっきりとした気持ちのよいボケ方だと思います。

 実際に花や風景などの被写体を撮影した場合、前ボケはフワッとベールをかけたように、そして後ボケは元の形を残しながらも緩やかに溶けていくといった感じになるように思います。
 対象とする被写体や個人の好みにもよると思いますが、後ボケが素直にとろけていく方が写真としては綺麗に見えるのではないかと思います。

 参考までに、上記と同じテストチャートを絞りF16で撮影したものを掲載しておきます。1枚目が最前列(前ボケ)のテストチャート画像、2枚目がいちばん奥(後ボケ)のテストチャート画像です。

 F16まで絞り込むと前ボケも後ボケも非常に似通っていて、区別がつきにくい状態です。

Sironar-N 210mmの解像力具合

 ボケ具合の確認用のテストチャートを撮影したついでなので、解像力をチャックするためのテストチャートの撮影も行ってみました。
 使用したのはISO-12233規格の解像度チャートですが、データをダウンロードして自宅で印刷したものなので品質や精度は十分ではありません。特に厳密な測定をするわけでもなく、解像力についての感触が得られればということで試してみました。

 実際に撮影したものが下の画像です。

 A4サイズに印刷したテストチャートがほぼファインダーいっぱいに入る位置でモノクロフィルムで撮影をしています。掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、2,000LW/PHのラインまで解像しているので問題ないのではないかと思うレベルです。
 実際にどれくらいの解像度が出ているのか、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測してみました。本来、このソフトはデジタルカメラの解像度を測定するものですが、撮影したフィルムをスキャナで読み取り、その画像ファイルをHYRes IVで解析するという、いたって簡単な方法で計測してみました。

 このソフトで計測した結果は2,247本でした。本来、このチャートでは2,450本くらいまで計測可能なようですが、使用したプリンターの性能がそこまで追いついていないようで、レンズの限界というよりはプリンターの限界といった感じです。撮影したネガを4,800dpiでスキャンした画像では、最も細いラインも認識できているので、レンズの限界はもう少し高いと思われます。
 また、今回は67判のフィルムを使って撮影しましたが、例えば4×5判で同じ範囲を撮影すれば解像度はより高まりますが、私の持っているプリンターではこれが限界です。テストチャートを倍の大きさのA3用紙に印刷すればプリンターの限界をカバーすることができ、より高い解像度の計測も可能になりますが、そこまでするほどでもなく、大体の感触は得られたと思います。

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 レンズの性能は高いに越したことはありませんが、私はそれほどレンズの解像度や性能に拘る方ではありません。むしろ、ボケなど目視でわかる写り具合が自分にとって気に入るかどうかということに重きを置いています。私は風景写真を撮ることが多く、解像度の高いレンズで撮影した写真は見ていて気持ちが良いですが、やはり写真の味わいに与える影響はボケ具合などの方が大きいと思います。
 ローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 は衝動買いしたレンズですが、解像度もさることながらボケ具合も好みです。ボケ方を定量的に示すのは難しく、どうしても主観的、定性的になってしまいますが、すっきりした中にも柔らかで素直なボケ方が気に入っています。

 私が持っている大判レンズの中で、かなり古いレンズや特殊なレンズを除けば写りの違いを特定するのはかなり難しく、比べて初めて分かる程度ですが、やはりこのように客観的に見てみるのもそれなりに意味があるように思います。

(2023年10月2日)

#Rodenstock #ローデンシュトック #Sironar #シロナーN #テストチャート #ボケ #レンズ描写

第133話 ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 一年ほど前、中古カメラ店で衝動買いのようにして手に入れたローデンシュトックのシロナーN 210mmレンズです。シャッターが不良だったため驚くほど安い価格で購入できたのですが、不良個所を直し、撮影の際には持ち出す頻度の高いレンズになりました。
 私が持っている数少ないローデンシュトックのレンズのうちの一本ですが、一年近く使ってみて、結構お気に入りのレンズの一つになりました。

Sironar-N 210mm 1:5.6 レンズの主な仕様

 このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ301mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm
   後枠外径寸法 : Φ60mm
   全長  : 66.2mm

 ローデンシュトックのレンズの最新モデルはほとんどが「APO」を冠していたり、デジタル用となっていますので、このレンズは二世代ほど前のモデルになります。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当します。標準レンズよりもちょっと長めといった感じです。67判で使用すると、35mm判で105mmくらいのレンズの画角に相当しますので、中望遠レンズといったところでしょうか。
 シャッターは1番、フジノンのW210mmと大きさも似通っていて、標準的な大きさだと思います。

 イメージサークルは301mm(F22)あり、5×7判までカバーできると思いますので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。大きくアオリをかけてもケラレることはなく、安心して使うことができます。フジノンのW210mmのイメージサークルが309mm(F22)ですから、仕様的にも非常によく似たレンズです。

 レンズコーティングの違いによるものだと思いますが、前玉をのぞき込んだ時の色合いはシュナイダーともフジノンとも異なり、赤紫というか濃いピンク色をしており、妖しくも艶めかしい感じがします。

準標準系(4×5判)レンズといえる画角

 35mm判カメラで言うところの標準(50mm)レンズに相当する画角を持ったレンズは4×5判では180mmと言われていますが、それに近いのが210mmレンズです。そのせいか、中古市場には180mmと210mmのレンズはとても多く出回っています。まずは標準レンズということで、この辺りの焦点距離のレンズを最初に買い求める人が多かったのかもしれません。

 4×5判での対角画角は約41度ですので、フレーミングしても違和感のない画角だと思いますが、4×5判の大きなフォーカシングスクリーンに投影された映像を見ると、もう少し焦点距離の長いレンズのような印象を受けます。これは、短焦点レンズに見られるような周辺部が引っ張られる感じがないからかもしれません。とても素直で自然な感じの画像が浮かび上がってくるのは気持ちが良いものです。

 強いパースペクティブを活かした写真には向いていませんが、程よい遠近感を出しながらお目当ての範囲を切り取ることのできる画角だと思います。
 大判レンズにはズームレンズがないので、どうしても持ち出すレンズの本数は増えてしまいがちですが、私の場合、210mmは必ずと言ってよいくらいに持ち歩いています。レンズの本数は少ない方が荷物が軽くてありがたいので、180mmか210mmか、どちらか1本というときには210mmを選択することが多いです。このあたりは焦点距離というか画角に対しての慣れの問題もあると思います。

 私は渓谷とか滝を撮ることが多いのですが被写体にあまり近づくことができないことも多く、また、あまり広い範囲を取り入れてしまうと主題がぼやけしまうこともあるので、40度前後の画角というのは結構重宝します。
 焦点距離が210mmなので、35mm判や中判カメラの場合、あまり被写体に近づくと被写界深度が浅くなってしまいますが、大判カメラの場合、アオリをかけることでそれをカバーすることができます。もちろん画角が大きくなるわけではありませんが、ワーキングディスタンスの自由度も備えていると思います。

とてもシャープでありながら、柔らかな感じの独特な写り

 ローデンシュトックのシロナーというシリーズのレンズは初めて使ってみたのですが、柔らかな写りという印象があります。
 うまく表現できないのですが、いわゆる軟焦点(ソフトフォーカス)レンズのようなフワッとした柔らかさではなく、エッジが尖り過ぎていない柔らかさとでも言ったらよいのか、ポジを比べるとシュナイダーともフジノンとも違う印象を受けます。柔らかく感じるからといって解像度が低いわけでもなく、細部まで見事にシャープな像が形成されています。ルーペで見てもまったく遜色のない、見事な解像度です。コントラストが低いことで柔らかな感じを受けるのかとも思いましたが、決してそんなこともなさそうです。
 ボキャブラリーがなくて申し訳ないのですが、カリカリした硬さがないというのが適切かもしれません。

 また、これは検証したわけではなくあくまでも想像ですが、もしかしたら発色の違いによるものかも知れないと思ったりもします。上でも書いたように、レンズの前玉をのぞき込んだ時の色合いがシュナイダーやフジノンとはずいぶん違うので、これによって色の出方が異なるのかも知れません。シュナイダーやフジノンに比べると発色が地味な印象も受けますが、いちばんナチュラルな発色と言えるかもしれません。

 では、実際にSironar-N 210mm で撮影した事例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目ですが、今年6月に群馬県の桐生川源流林で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 16s ND8 PROVIA100F

 この辺りは木々が覆いかぶさっていて晴れていても渓流全体が薄暗いのですが、さらにこの日は空が雲に覆われており、かなり暗い状態でした。いい感じに木々の隙間から光が差し込んでいる場所を見つけて撮影したのですが、渓流の奥の方はかなり暗いのがわかると思います。
 風が少しあったので木の葉はブレていますが、下半分の渓流の部分はとてもシャープに写っています。ですが、硬さは感じられず、なんとなく全体に柔らかな印象があります。かといってコントラストが低いわけでもなく、階調も豊かに表現されていると思います。
 また、葉っぱや岩肌、苔などもとても自然な発色をしているように感じます。

 曇りの日の光は柔らかいので、一般的には出来上がった写真も柔らかな感じになるものですが、それとは違う種類の柔らかさを感じます。

 中央に近いところの岩の部分を拡大したのが下の写真です。

 岩や苔の質感も見事に表現されており、立体感のある描写です。
 全体的に柔らかさを感じるものの、解像度やシャープネスを損ねているわけでもありません。十分すぎるくらいの鮮明さを保っていると思います。

 もう一枚、下の写真は青森県で撮影したブナ林です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 4s PROVIA100F

 木の幹や葉っぱなどを見るととてもシャープに写っているのですが、写真全体は何となく柔らかな感じを受けるのは上の写真と共通しています。
 少し地味に感じるかも知れませんが全体的に落ち着いた色合いで、シュナイダーのレンズで撮るともう少し派手に写るのではないかという気がします。同じ場所で撮影して比べたわけではありませんが、たぶん、全体から受ける印象が違うのだろうと思います。

 この写真は密生しているブナの林を、およそ20m離れた場所から撮影しています。カメラをほぼ水平に構えた状態で真横から撮っている感じです。木の幹は多少曲がりくねっていますが、カメラを上に振ったときのように、木の上部が中央に集まってしまうようなこともなく、ほぼ平行を保って写っています。また、林の奥の方の木の幹もくっきりと写っていて、このあたりが210mmという焦点距離のレンズならではの写りといった感じです。

 下の写真は栃木県の県民の森で山道を歩いていたところ、道の脇に綺麗に黄葉した葉っぱを見つけたので撮影した一枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F11 1/4 PROVIA100F

 被写体までの距離は1.5mほどで、ほぼ真上からの撮影です。
 もう少し低い位置から斜め下方に向けてカメラを構え、アオリを使って全体にピントを合わせても良かったのですが、葉っぱの形が綺麗に見えるこのポジションにしました。
 黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗です。葉っぱの鋸歯も鮮明に写っていますが、カリカリとした感じはしません。鮮やかな黄色もどぎつくならず、とても自然な発色だと思います。
 葉っぱの高さはほぼそろっていたのですが、出来るだけ全体にピントを合わせたかったのでF11まで絞り込んでいます。もう1段くらい開いても良かったかも知れません。

 写真全体としては派手さが控え気味という印象を受けますが、この被写体には向いているように思います。ぎらつくような黄色よりはしっとりした色合いが似合っている被写体です。

 いずれの写真も解像度やシャープネス、コントラスト、発色など十分すぎるくらいですが、どことなく柔らかな感じがするのは共通しています。それが色合いからくるものなのかわかりませんが、非常にナチュラルな写りのレンズあると言えるのではないかと思います。

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 私が持っているローデンシュトックのレンズの本数が少ないため、このレンズ一本だけでローデンシュトックの特性を語ることはできませんが、個人的には好感の持てる写りをするレンズといった印象です。同じシロナーでも、アポシロナーやアポシロナー・デジタルだと違う写りをするかも知れませんが、驚くほど高額ですし、そもそも手に入りにくいので、たぶん、一生使うことはないと思います。
 そんな最新モデルのレンズでなくても良いので、ローデンシュトックのレンズを使ってみたい衝動が沸々と湧いてきました。ローデンシュトックにはたくさんのシリーズやモデルがあって、気にしだすときりがないのですが、機会があれば別のレンズも使ってみたいと思います。

 こうして、またレンズが増えていってしまうんだろうなぁ、と思いながら...

(2022.12.14)

#ローデンシュトック #シロナーN #Rodenstock #Sironar-N #桐生川源流林 #レンズ描写