私はローライのモノクロフィルムRPX25が好きで時々使っています。ISO25と低感度で使いにくいところもありますが、引き締まった黒や高コントラストが気に入っています。使用頻度の多いイルフォードのDELTA100と比べるとずっと少ないのですが、陰陽を表現したいときにはやっぱりRPX25といった感じです。
先日、久しぶりにマミヤの中判カメラ Mamiya 6 MFを持ち出し、RPX25とイルフォードのDELTA100を1本ずつ持って都内に撮影に出かけました。日中なので低感度フィルムでもそこそこのシャッター速度を切ることができ、何か月ぶりかで街角スナップを撮ってきました。
翌日、撮影済みの2本のフィルムの現像を行ないました。
いつもの通り現像処理を行ない、乾燥を終えたネガをスリーブに入れるため、カットしようとライトボックスに乗せた時でした。何やら小さな白い斑点のようなものが一面に付着しているのに気がつきました。まさに、「なんじゃ、こりゃ!?」といった感じです。他のコマも見てみましたが、12コマすべてにポツポツとした白い斑点のようなものがびっしりとついています。ネガ上で白い斑点なので、プリントしたりネガスキャンすれば黒い斑点となって現れることになります。
それが下の画像です。モノクロネガを反転させず、そのままスキャンしてありますので、ネガを見ているのと同じ状態です。
わかり易いのは空の部分で、ネガ上では黒っぽいところなので白い斑点状のものがはっきりと見えます。白っぽいところには出ていないように見えますが、わかりにくいだけで、ルーペで見るとはっきりと出現しています。
白枠で囲った辺りを拡大したのが下の画像です。
びっしりと斑点状になっているのがわかると思います。
最初にこれを見た時は現像の失敗かと思いました。現像液内に気泡のようなものができて、それによるものなのかとも思いましたが、どう見ても気泡によるものではなさそうです。
また、私は現像液を調合する際は水道水を5分ほど煮沸し、それを冷ましたものを使いますので、水道水の中に含まれている不純物等による影響も考えにくいです。
フィルムの結露かも知れないとも考えましたが、結露には十分注意しているのでたぶんあり得ません。
掲載画像だとわかりにくいかも知れませんが、フィルムの上に何かが付着しているという感じではなく、画像として写り込んでいるといった方が適切かもしれません。
しかし解せないのは、白っぽくなっているということはほとんど露光されていないということになります。つまり、光が当たっていない、もしくはごく弱い光しか当たっていないということになります。
自家現像は何十年もやってきましたが、こんな現象は初めてのことです。ちなみに、もう一本のフィルム、DELTA100の方は何ともありません。今回使用した現像液はイルフォードのID-11で、1+1の希釈にしています。2本とも現像液は同じものを使っています。
液温管理も20℃±1℃くらいの範囲でやりましたので、特に問題になるとは思えません。
しかし、見れば見るほど不気味でおぞましい画像です。失敗作として廃棄してしまおうかとも思いましたが、何だかとても気になるのも事実であり、どういった現象で何が原因なのかを知りたくなり、いろいろ検索してみました。
その結果、似たような経験をされた方の記事をいくつか見つけることができました。私の経験した現象と同じかどうかわかりませんが、斑点が出るという現象は似ているようです。
その方々の記事によると、「カビ説」と「静電気説」の二つがあるようです。
まず「カビ説」ですが、使用前のフィルムにカビが繁殖してしまうというものです。現像済みのフィルムが長年経つ間にカビが付着するというのはよく聞く話しですが、使用前のフィルムにカビがつくことなどあるのかと思ってしまいます。そもそも、使用前のフィルムは遮光性のポリ袋のような中に入れられて密閉されているので、外からカビが入り込むなどということは考えにくいです。もし、カビが入り込んだとしたら、工場での製造工程中がいちばん怪しいということになってしまいますが、フィルムをつくるような工場がそんなずさんな管理をしているとも思えません。
また、このフィルムは購入してから半年くらいしか経っておらず、もちろん使用期限内であり、しかも冷蔵庫で保管していたので、仮にカビであったとしてもこんなにすさまじく繁殖するのも考えにくいです。
二つ目の「静電気説」ですが、摩擦などによってまれにフィルム全体が静電気をあびてしまうことがあるとのことです。冬場の乾燥した時期とか、自分の着ている衣類の材質等によって静電気が発生する可能性は十分あるわけですが、このフィルムをそのような環境にさらした記憶はありません。
フィルムが静電気を浴びるとどのようなダメージを受けるのか、私は良く知りませんが、もし静電気によって露光したのと同じような症状になるとしたら、現像したネガ上では、そこは白ではなく黒っぽく出るのではないかと思います。白い斑点状ということは未露光に近い状態なので、つじつまが合わない気がします。
それに、静電気によるものだとしたら、このようにゴマをまき散らしたような感じになるのかという疑問も湧いてきます。スタティックマーク、いわゆる静電気によるフィルム上の傷跡というのを見たことがありますが、もっとシャープな感じでした。
「カビ説」も「静電気説」も、私にはどうも納得がいきません。
それと、もう一つ気になる点があります。空の辺りがわかり易いのですが、横方向に縞模様が見えると思いますが、これは斑点が鎖のように横方向に連なっている状態です。縦方向に連なっているのは見られず、横方向だけというのがとても気になります。カメラの中でのフィルムの送り方向と何らかの関係があるのかとも考えてみましたが、もしそうだとしたら他のフィルムでも発生するだろうと思います。
また、縞模様というとレチキュレーションという疑いも捨てきれないわけですが、何年も経過したフィルムではないし、特に高温状態で保管されていたわけでもなく、フィルムに過度の力を加えてもいないわけで、やはり原因は違うのではないかと思います。
ネットでいろいろ検索していたところ、何年か前にイルフォードのフィルムでもこのような現象が出たことがあったらしいのですが、画像や詳細な情報を見つけられず、今回のこの現象と同様のものだったのかどうかはわかりませんでした。
ということで原因はまったくわからないままですが、試しにネガを顕微鏡で覗いてみました。白い斑点のところはフィルムに何かが付着しているという感じではなく、明らかにフィルムの中に記録された像の一部になっていて、あまり露光されていない白い部分と同じような状態でした。何かが付着しているのであれば盛り上がって見えるのですが、フィルムのどちらの面を見てもそのようなことはありません。
また、輪郭はボヤっとしていて、倍率を上げ過ぎると境界がわからなくなってしまうくらいです。斑点の大きさはまちまちですが、比較的大きめのものでもフィルム上での直径が0.05~0.1mmといったところです。
今回使用したRPX25は10本まとめて購入したもので、念のため確認してみましたがエマルジョン番号はすべて同じでした。
いろいろ調べたり、購入から現像までの経緯を疑ってみたりしてみましたが、今のところ原因はまったくわかりません。上でも書いたように、ネガ上で白くなるということは光が十分に当たっていないということなので、何か光を遮る原因があったのではないかというのがいちばん理にかなっているように思えます。カビのように物理的に何かが付着して光を遮ったのかとか、あるいはフィルムの平面性が保てずに光が拡散してしまったのかとか、あれこれ思いめぐらしてはみてもどれも決定打にはなりえない感じです。
購入した10本のRPX25のうち、今回のフィルムが6本目なので未使用フィルムがあと4本あります。残りの4本の中にも白い斑点が出現するのか、あるいはRPX25以外のフィルムでも発生することがあるのか、原因がわからないというのは精神衛生上、とてもよろしくない状態です。
フィルム価格が高騰している昨今、120フィルム1本を駄目にしてしまったというのは少なからずダメージがありますが、大判フィルムで気合を入れて撮ったものでなかったというのがせめてもの救いです。今回は気軽に出かけられる都内だったのも幸いしましたが、これが遠方で何日もかけて撮影してきたものだったりすると目も当てられません。
しかし、原因不明のこんなことがあると、モノクロフィルムを使うのをためらってしまいます。原因がわかれば対処のし様もありますが、今のところは起きないように神頼みしかないといった情けない状況です。原因がはっきりするまでモノクロの大判フィルムの使用は控えようかと思いますが、いろいろ試してみないと原因はつかめないままですし...
同様の事例がないか、もう少し時間をかけて調べてみようと思いますので、何かわかればあらためてご報告したいと思います。
(2023年8月16日)
通りすがりのものです。見当違いでしたらすいません。
症状は 全く違いますが 自分も自家現像したフィルムにおいて 一様に 鹿の子斑の症状になったことがあります。
症状の出たものは 夏の暑い時期に車の中に撮影中のカメラを置いておいたので 自分はそこに原因が有るのではないか…と思っています。
症状の出たのは 少々変わったタイプのものです。 ILFORDのオルソ、AGFA COPEX RAPIDです。どちらも低感度のトラディショナルな乳剤のフィルムなのではないかと思います。(AGFA COPEX RAPIDもオルソフィルムです。)
8月に記事を書かれているので もしやと思いコメントさせてもらいました。
Ohkzm3さま
拙いサイトをご覧いただき、また、コメントまで頂きましてありがとうございます。
撮影したのはまだそれほど暑い時期ではなく、長時間、暑い状態においた記憶もないのですが、いかんせん、原因がわからずにいます。
おっしゃるように、暑い状態に置かれていたことによるというのもゼロではありません。
メーカーに問い合わせをしましたが、製造に起因するものではないとの回答があっただけでまったく解決しておりません。
Ohkzm3さまが経験された症状も低感度フィルムとのことですので、私は何らかの製造上の問題ではないかと思っています。
しかし、あれこれ検索しても同様の症状が出たという記事は見当たらず、個人的には迷宮入りといった状態です。
あれ以来、RPX25は使っておりません。また同じような症状が出れば、せっかく撮影したものが台無しになってしまいます。残りのフィルムは冷凍保存しております。
こぼうし様 おはようございます。返信ありがとうございます。
連投失礼いたします。昨日コメントを投稿した後 一昨年の事だったので忘れていましたが、自分もRPXで 似たような症状になっていた事を思い出しました。やはり夏の盛りに 車内においていたものです。ただ そのRPXは こぼうしさんより更にひどく細かな水ぶくれを押しつぶしたような感じです。 値段が通常のフィルムより割高ですので RPX25とILFORDのオルソはそれ以来使っていません。
AGFA COPEX RAPIDは 取り寄せてすぐにGWに撮ったものは良かったのですが 上記の様な症状が出たため 残りを夏場室温で放置して 涼しくなって来てから撮ったものは 車内に放置していなくても うっすら画面全体に鹿の子斑の斑点が入っていました。
フィルムも昔は 冷蔵されて販売されていましたし デリケートなものも有る様です。自分はILFORDのDELTA100とFP4+を常用していますが これらのフィルムでは 車内に置いておいたとしても その様な症状になった事はありません。
Ohkzm3さま
ご丁寧にありがとうございます。
私の場合、暑い状態に長時間置いたということはないので、どう考えても保管上の問題とか撮影上の問題ではないと思われます。
Ohkzm3さまがおっしゃるように、私もイルフォードのフィルムを使っていますが、このような現象を見たことがありません。
減感スポットということを教えてくださった方もいらっしゃって、フィルムに何某かの遺物が付着していたのではないかと思っています。
それをどのように検証すればよいのかわかりませんが、冷凍保存してあるフィルムを使って突き止められればと思っています。
謎の白い斑点ですか。とても不思議ですね。
私の勝手な想像ですが,これは増感スポットではなく「減感スポット」のように思います。ロールフィルムの製造工程は知りませんが,裏紙には印刷の薬剤が含まれますし,もしかするとフィルム面との摩擦を減らす(又は固着を防ぐ)微粒子(パウダー?)も散布されているかもしれません。もしこれらの微量の薬剤が,フィルム面に取り込まれ,露光部分の現像プロセスを阻害する性質を持っていたとすると,その部分が白い斑点となって現れる可能性があります。この薬剤は,未露光の部分には影響を与えない為,白い斑点は露光部分のみに現れる。現像プロセスは基本的には酸化還元反応なので,薬剤(パウダー?)が弱い酸化傾向を持っているだけで,減感スポットを生じさせる可能性があります。
これまでIlfordや富士フイルム,Rolleiで起きた「斑点問題」とその経緯を見ると,フィルムの製造工程に(ある時期に新たに?)加えられた添加物(パウダー?)に原因があるような気がします。フィルム製造会社は自分らの非を認めたがらない傾向がありますが,一般のユーザーは問題点を積極的に指摘して,問題解決に繋がる情報を出していくと良いと思います。
Mumumuさま
いつも拙いサイトをご覧いただき、ありがとうございます。
なるほど、裏紙に何らかの薬剤が塗布されていた可能性があるということですね。
そういわれるとつじつまが合うような気もします。
それにしても、同じRPX25でもこのような斑点が発生しないフィルムもあるということが不思議です。
今回の件はメーカーにも問い合わせをしていますが、いまだ回答はありません。
購入したRPX25はまだ何本か残っていますので、同じような斑点が出るかもしれないという覚悟をもって使ってみたいと思います。
貴重な情報をありがとうございます。
通りすがりです。以前、初期ロット(2019年あたり)のAcros IIで全く同じ現象にあいました。。イルフォードでも同じ時期に同じ現象が出ていた時期と同じです。富士フイルムに現象を報告し、回答を得ていますので、本文下に少し長いですが引用します。*メール2回分です。
富士フイルムからは代替品を提供されました。製造起因ではないとの回答でしたが、結局原因不明でしたので、同じロットのフィルムは10本持っていましたが、同じ現象が起きるのを忌避して手放し、別ロットを購入しています。その後、Across IIもイルフォードのフィルムも使い続けていますが、同じ現象は今日まで起きていません。
カメラ内部のサビについて言及されていますが、使っていたカメラは状態の良いGF670でしたので、サビではないとの自己結論です。更に以前Kodakのモノクロフィルムも一時期似た現象が起きており、原因は裏紙とフィルムの化学反応だったかと思います。
***********
弊社の技術部門で解析を行った結果、斑点はネガが発色した”増感スポット”であることがわかりました。”増感スポット”を引き起こすような物質が、フィルム上に残っていなかったため、残念ながら原因特定には至りませんでした。このスポットが撮影コマのフレーム内にのみ発生し、コマ間の未感光部分に見られないことから、私どもの製造起因の可能性は極めて低いと考えております。現像した5本中2本にだけ発生している状況から、処理剤起因の可能性は低く、フィルムを開封してから現像されるまでの間に起こった可能性が高いと考えます。
ACROS 2の増感スポットに関する追加質問について、今回のフィルムで発生した斑点と関連しているかどうかはわからない、一般論として以下の通り回答いたします。
フィルムなどの感光材料に接触すると増感スポットを引き起こすものは多数ありますが、身近にあるものとしては以下のものが挙げられます。
1) 金属成分を含む粉状の物質
代表的なものとしては(鉄)錆です。フィルム中の感光成分に影響を及ぼし光によって感光したのと同じような状態になります。カメラの内部でも起こる可能性があるため、定期的なチェックや清掃が対策としては有効です。
2) 硫黄を含む物質
硫黄はフィルムの製造で使われる増感剤の一種ですので、付着すると増感スポットの原因になります。それほど一般的なものではないが、温泉地では存在していると考えます。
以上、お役に立てば幸いに存じます。
wichershamさま
ご丁寧にありがとうございます。
そうでしたか、ACROSⅡでも同様の現象をご経験されていらっしゃるのですね。
「増感スポット」という言葉は知りませんでした。要は、何某かの物質(錆とか硫黄)がフィルムに付着したことで露光したような状態が生じる現象ということですね。しかし、私もそのような物質が付着するようなことは思い当たりません。
また、私が現像したフィルムもコマ間に斑点は確認できておりません。
富士フイルムの説明もイマイチ理解できないところがあるのですが、コマ間に増感スポットが確認されないということは、未露光状態ではこの現象は起きないというように読み取れます。しかし、原因となる物質が付着することで増感スポットが生じるのであれば、コマ間でも起きるのではないかと思います。
いずれにしても納得のいかない不可解な現象ですね。私もメーカーに問い合わせをしてみようと思っています。
貴重な情報をありがとうございました。