モノクロフィルム現像用「D-76準拠」現像液の自家調合

 コダックから販売されていたD-76現像剤が生産終了になってから2年近くになります。私はこのアナウンスがあったときにD-76現像剤を少し買い入れておきましたが、それも1年ほど前に底をついてしまいました。今は中外写真薬品株式会社からD76現像剤が発売されていますが結構お高い価格設定になっているので、私はD-76現像剤に「準拠」した現像剤を自分で調合して使っています。
 今や、はるかに優れた現像液がたくさんありますが、比較的安価でお手軽でそこそこの品質が得られるということで、使いやすい現像液であるといえると思います。私も以前に比べるとD-76現像液を使う頻度はずいぶん減ってしまいましたが、ちょっと現像というようなときには重宝しています。
 今回はD-76に準拠した現像液の調合と、その現像結果についてまとめてみました。

「D-76準拠」現像液に必要な薬剤

 D-76現像剤がコダックから発売されたのは1927年だそうですから、間もなく一世紀が経とうとしています。100年近くにわたってもなお世界中で使われ続け、しかもあまり進化もしていないということに驚きです。
 D-76現像剤の構成は非常にシンプルで、必要な薬剤はわずか4種類だけです。いずれの薬剤も今のところ簡単に調達でき、しかも比較的安価なものばかりです。必要な薬剤とおおよその価格は以下の通りです。なお、価格は2024年12月20日時点、新宿の大手カメラ店でのもので、いずれも税込み価格です。

  ・無水亜硫酸ソーダ(500g)  793円
  ・硼砂(500g)   1,300円
  ・メトールサン(25g)  1,100円
  ・ハイドロキノン(50g)  1,200円

 上の写真で、無水亜硫酸ソーダと硼砂を入れている容器は本来のものではありません。購入時はビニール袋と紙箱に入った状態であり、湿気てしまうといけないので保管し易い空いたペット容器に移し替えています。

 無水亜硫酸ソーダは現像液の酸化を防ぐためのもので、現像保恒剤の役割を果たします。食品の褐色化防止剤やワインの酸化防止剤としても使われているようです。
 硼砂は水に溶かすと弱アルカリ性となり、現像液のアルカリ調整剤として転嫁されるものです。
 そして、メトールサンとハイドロキノンは現像主薬となる還元剤で、感光したフィルムの臭化銀を銀に変化させる役目を持っています。

現像液の調合

 さて、実際の現像液の調合ですが、1リットル(1,000ml)のD-76準拠現像液の原液を作るのに必要な薬剤の量は以下の通りです。

  ・無水亜硫酸ソーダ : 100g
  ・硼砂 : 2g
  ・メトールサン : 2g
  ・ハイドロキノン : 5g

 これらを以下の手順で調合していきます。

 まず、55℃前後の温水800mlをビーカーに用意します。これは精製水を使うのが望ましいのですが、購入すると結構な出費になるので、私は水道水を5分ほど煮沸し55℃近くまで下がったものを使っています。
 ここに、無水亜硫酸ソーダ100gのうちの10~20g程度を入れ、完全に溶けるまで撹拌します。これはメトールサンを投入した際の酸化を防ぐためです。

 次にメトールサン2gを投入し、撹拌します。

 メトールサンが完全に溶けたら残りの無水亜硫酸ソーダを投入して撹拌します。

 同様に、ハイドロキノンを投入して撹拌、硼砂を投入して撹拌という手順で行います。

 最後に水を約200ml追加して、全体が1,000mlになるようにします。

 これでD-76準拠の現像液の原液が完成です。

 ちなみに、1リットルの原液を作るのに必要な薬剤のコストを単純計算してみると以下のようになります。

  ・無水亜硫酸ソーダ 100g/500g x 793円 = 158.6円
  ・硼砂  2g/500g x 1,300円 = 5.2円
  ・メトールサン  2g/25g x 1,100円 = 88円
  ・ハイドロキノン 5g/50g x 1,200円 = 120円

 ということで、合計で371.8円となります。
 中外写真薬品から販売されているD76現像剤の価格が1,300~1,400円ほどですから、それに比べるとかなり割安といえると思います。

現像結果 D-76現像液との比較

 今回、使用したフィルムはイルフォードのDELTA100 PROで、現像はいずれも下記の条件で行ないました。

  希釈 : 1 + 1
  液温 : 20℃
  現像時間 : 11分

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というタイプで、必要な現像液の量は500mlです。ですので、原液250mlに水250mlで希釈した現像液を使用しました。

 まず、コダックのD-76現像液で現像した写真です。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmです。

 撮影した日は薄曇り、時々、雲の間から陽が差すという天候で、極端にコントラストが高いという状況ではないため、若干柔らかめな描写になっていますが、DELTA100らしい黒の出方をしていると思います。粒状感が出過ぎるような荒れた感じもなく、比較的きれいに仕上がっているのではないかと思います。
 また、現像ムラのようなものも見受けられず、特に問題のない状態のようです。

 次に、自家製のD-76準拠の現像液で現像した写真です。
 フィルム、現像条件は同じです。

Created with GIMP

 こちらは撮影した日が異なり、晴天だったのでコントラストが高めの景色になっていますが、現像条件によってコントラストが高めに出ているわけではありません。同じ日に同じ場所、同じ条件で撮影すればわかり易いのでしょうが、残念ながらそのような同じ条件で撮影をしておりません。
 コダック製のD-76現像液で現像したものと違いがあるかといわれると、コダック製のほうがごくわずかにシャープに見える気もしますが、そのような気がするだけでほとんど違いがわかりません。
 ネガをルーペで見ても両者の差を判別することはできませんでした。

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 本家(コダック)のD-76がなくなってしまい、厳密な比較をすることはできませんが、レシピに基づいて自家調合した現像液でも概ね良好な仕上がりになっており、十分にD-76現像液の代替にはなるかと思います。
 この自家製現像液、私は120フィルム2~3本で廃棄してしまうので、どれくらいの処理能力があるのかは不明です。現像時間を増やしていけば5~6本くらいはいけるかもしれませんが、毎日使うわけではないので、使用したものは保管せずに廃棄してしています。

(2024.12.23)

#D76 #ILFORD #KODAK #イルフォード #コダック #モノクロフィルム

イルフォードもコダックも値上げ! フィルムはどこまで高くなるのか?

 昨年(2021年) 末、銀塩カメラの愛好者にとっては極めて衝撃的なニュースが飛び込んできました。2022年の早いうちに、イルフォードもコダックもフィルムをはじめとした写真用品の値上げをするという内容です。詳細はわかりませんが、今でも十分に高いのに更に高くなるということで、ずいぶん暗い気持ちになったものです。

 2022年1月現在の主なフィルムの価格を調べてみました。いずれも東京の大手カメラ店での実売価格(税込)です。

 【イルフォード 135フィルム(35mm判) 36枚撮り】

   モノクロ HP5(ISO400) 990円
   モノクロ FP4(ISO125) 990円 
   モノクロ DELTA400(ISO400) 1,320円
   モノクロ DELTA100(ISO100) 1,210円
   モノクロ DELTA3200(ISO3200) 1,580円

 【イルフォード 120フィルム(ブローニー判)】

   モノクロ HP5(ISO400) 990円
   モノクロ FP4(ISO125) 990円 
   モノクロ DELTA400(ISO400) 1,150円
   モノクロ DELTA100(ISO100) 1,100円
   モノクロ DELTA3200(ISO3200) 1,370円

 【コダック 135フィルム(35mm判) 36枚撮り】

   モノクロ トライX400(ISO400) 2,120円
   モノクロ T-MAX400(ISO400) 2,270円 
   モノクロ T-MAX100(ISO100) 2,080円
   カラーネガ ColorPlus(ISO200) 1,050円
   カラーネガ PORTRA800(ISO800) 3,060円
   カラーネガ PORTRA400(ISO400) 13,740円(5本パック)
   カラーネガ Ektar100(ISO100) 2,490円
   リバーサル E100(ISO100) 4,110円

 【コダック 120フィルム(ブローニー判) 5本パック】

   モノクロ TRI-X400(ISO400) 11,000円
   モノクロ T-MAX100(ISO100) 7,710円
   モノクロ T-MAX400(ISO400) 11,000円
   カラーネガ PORTRA800(ISO800) 16,180円
   カラーネガ PORTRA400(ISO400) 13,290円
   カラーネガ Ektar100(ISO100) 11,930円
   リバーサル E100(ISO100) 14,700円

 参考までに富士フイルムの価格です。

 【富士フイルム 135フィルム(35mm判) 36枚撮り】

   モノクロ ACROS100Ⅱ(ISO100) 1,040円
   カラーネガ FUJICOLOR100(ISO100) 1,080円 
   カラーネガ SUPERIA PREMIUM 400(ISO400) 1,350円
   リバーサル PROVIA100F(ISO100) 1,760円
   リバーサル Velvia50(ISO50) 2,030円

 【富士フイルム 120フィルム(ブローニー判)】

   モノクロ ACROS100Ⅱ(ISO100) 1,040円
   リバーサル PROVIA100F(ISO100) 5,550円(5本パック)
   リバーサル Velvia50(ISO50) 5,710円(5本パック)

 こうしてあらためてフィルムの価格を見てみると、つくづく高いと感じます。特にコダックの製品が際立っているように思います。極めつけは35mm判リバーサルフィルムのE100で、1本4,000円を超えているという驚くべき価格です。アメリカの人件費高騰による影響が大きいともいわれていますが、実際のところはよくわかりません。
 フィルムの需要が激減している現実からすると致し方ない気もしますが、値上げ幅は20%以上という話しもあり、35mm判のフィルム1本が軒並み2,000円という時代になるのではないかと思わずにいられません。
 もちろん、ここに掲載したフィルム以外に格安の製品がありますので、それらも同様に値上げになるのかどうかはわかりません。

 一方で、若い世代を中心にフィルムカメラを使う人が増えているという話しも聞きます。これまでフィルムカメラなど使ったことがないけど、フィルム写真の雰囲気が良いとか、インスタ映えするとか、フィルムカメラ自体がかっこいいとか、いろいろな理由があるようです。富士フイルムの「写ルンです」の売上げが好調なのも、こういった理由かもしれません。

 理由はともかく、フィルム人口が増えてくれるのはありがたいことです。私もときどき、中古カメラ店に足を運ぶことがありますが、確かに20代くらいの若い人を見かけることが増えた気がします。「これからフィルムカメラを始めたいので」と言って、お店の方に相談しているのを耳にしたことが何度もあります。しかも、女性のお客さんを見かけるようになったのは驚きです。数年前までは、中古カメラ店と言えば中高年以上のおっさんの姿しかなかったのですから。

コンパクトカメラの売行きが好調らしい

 しかし、これからフィルムカメラを始めようとしている方にとって、現在のフィルムの価格はべらぼうな値段に感じるのではないかと思います。加えて、現像料金がかかります。初めてフィルムで撮ろうという人が、いきなり自家現像するというのはゼロではないにしても極めて少数派だと思われますので、現像料金もバカになりません。
 カメラ自体は中古カメラ店でリーズナブルな値段で購入できたとしても、フィルム代や現像代がランニングコストとして重くのしかかってきます。家庭用のインクジェットプリンターとインクカートリッジの値段の関係に似た構図になっています。

 今回掲載した35mm判の中でいちばん安いフィルムを使っても、一回シャッターを押せばフィルム代と現像代を合わせて60円ほどがかかるわけで、最も高いコダックのリバーサルフィルムE100を使いようものなら、1カットあたり160円ほどにもなってしまいます。
 デジタルカメラのように機材を揃えるのに費用はかかっても、その後のランニングコストはほとんどかからないというのであれば気にせずにバシバシ撮れますが、フィルムだとなかなかそういうわけにはいきません。まさに「一球入魂」といった感じでシャッターを押すことになります。
 逆にそれが新鮮でいいという意見をお持ちの方もいらっしゃるようですが、それにしてもランニングコストは安いに越したことはありません。

 フィルム価格の高騰は簡単に言えばフィルム需要が激減しているからなのでしょうが、さらに価格が上がれば需要は一層減り、今でも負のスパイラルに入っているのに、ますます深まってしまいます。
 とはいえ、今の状況で需要が拡大することは到底望めません。フィルムカメラに興味を持つ若い世代の人が増えたといっても、下がってきた需要を回復できるほど多くの人が興味を持ってくれているとも思えません。

 私は主にリバーサルフィルムを使用していますが、ここ数年、消費するフィルムの数が減ってきています。年間に撮影に出かける回数は特に減っておらず、むしろ増えていると思うのですが、使うフィルム数は減っています。
 これは、従来は同じ場所で何カットも撮影したのですが、最近は2カットとか3カット、少ないときは1カットしか撮らないので、結果として消費量が減っているわけです。その理由は、複数カットを撮っても廃棄に回ってしまうものがあってもったいないということと、やはりフィルムの価格が上がったということが大きく影響しています。致し方ないことだとは思いながらも、自分自身も負のスパイラルを加速している一人なんだという思いもあります。

 今回のイルフォードやコダックの値上げのニュースを聞いて思ったのは、このままフィルム価格が上がり続けて、いくらになるまで自分はフィルムを使い続けていられるんだろう、いくらになったらフィルムをあきらめるのだろうということです。例えば、今の価格の2倍になったらあきらめるかというと、そうとも思えません。「もう少し、もう少し...」とあがきながら細々と使い続けているんだろうなと思います、たぶん...

 話は変わりますが、最近、若い女性が二眼レフカメラや中判カメラを首から下げて、街中を歩いている姿を見かけることが多くなりました。たぶん、スナップを撮っているのではないかと思われるのですが、妙にカッコ良くて思わず見入ってしまうことがあります。どんなフィルムを使っているのか、もちろん尋ねたこともありませんが、とても応援したい気持ちになります。
 前出のフィルムに興味を持った若い世代もそうですが、こういう方々がフィルム価格の高騰が理由で、せっかく踏み入れたフィルムの世界から足を洗ってしまうことがないようにと願うばかりです。

二眼レフカメラや中判カメラを持ち歩いている人を見かけることも

 この先フィルムがどうなっていくのか、私などには全くわかりませんが、すぐになくなるとも思えません。市場では中古カメラの価格が下がるどころか、むしろ上がっているようにも感じます。私には不思議な現象に思えるのですが、中古価格の高騰がフィルムの足を引っ張ることにならなければ良いがと思っています。

 それにしても値上げは痛い! これ、本音です。

(20221年1月14日)

#イルフォード #ILFORD #コダック #KODAK