フィルム写真やフィルムカメラの将来は悲観することばかりではない...のかも知れない

 フィルムや現像薬品の製造販売終了や値上げをはじめ、現像料金の値上げなど、フィルム写真に関する暗いニュースが後を絶ちません。その類いのニュースを見たり聞いたりするたびに暗い気持ちになり、いったい、フィルム写真はいつまで続けることができるのだろうか、もしかしたら数年後にはフィルムで写真を撮ることができなくなってしまうのではないか、といった不安がよぎります。
 私のような一消費者がどんなに心配しようがあがこうが大勢には全く影響がありませんが、じわじわと真綿で首を絞められるような感じを禁じえません。

 しかし、そんな気の重くなるようなニュースの陰にも、気持ちが明るくなるような話題が時々飛び込んでくることがあり、もしかしたらフィルムの将来にも希望が持てるのかも、と思わせてくれます。

 昨年(2022年)の暮れ、リコーイメージングが新たにPENTAXブランドのフィルムカメラを開発するプロジェクトをスタートさせたというニュースがありました。若い人たちの間でフィルムの人気が高まってきており、フィルムカメラの市場性はなくなっているわけではないという判断をされたのかも知れません。
 まだ正式に新製品の発売を約束するものではないとしながらも、一度終了したフィルムカメラを再度、しかも新規に開発するという取り組みに意表を突かれるとともに、胸がときめくような感じを受けました。「えっ!今のこの時代に本当にやるの?」という釈然としない気持ちと、「あっぱれ!ぜひとも実現してほしい」という期待が混ぜこぜになったような、何とも不思議な感覚でした。

 いくら若い年代に人気が高まったところで、デジタルカメラをひっくり返すほどのシェアになるとは思えず、そんな分野に本気で企業が投資をするのだろうかと考えてしまうのは私だけではないと思います。この新規事業に利益が見込めるのかどうか私にはわかりませんし、また、利益追求だけが企業の本分ではないとは思いますが、とはいえ、仮に利益の出ない事業だとしたら、それを継続することが大変なのは素人から見ても理解できます。
 一方で、フィルムカメラという素晴らしい文化や技術を後世に伝えていくという、カメラメーカーとしての使命を全うしようとしているのではないかと思ったりもします。

 いずれにしても、リコーイメージングという大きな企業が判断したことであり、外野がとやかく言うことではありませんが、個人的にはぜひ実現してほしいという願いがあります。いつ頃、どんなカメラが出てくるのかわかりませんが、しばらくはワクワクした気持ちを持つことができそうです。

 PENTAXと言えば、新宿にあったリコーイメージングスクエア東京(旧ペンタックスフォーラム)が昨年3月に閉じて、新たに7月から四谷に「PENTAXクラブハウス」という名前でオープンしました。ショールームやギャラリーだけでなく、交流の場のようなものをコンセプトにしているようです。
 私は昨年の秋に一度訪れただけですが、その時に印象に残っていたのが「フィルムカメラ体験会」というものでした。PENTAXのフィルムカメラを有償で貸し出して、フィルムカメラを実際に使ってもらおうという試みです。実際にどれくらいの申し込みがあったのかはわかりませんが、先月(2023年1月)から第2回目が開催されているようなので、好評だったのかもしれません。PENTAX 67Ⅱや645NⅡなど、なかなか手にする機会がないカメラも実際に使えるとあって、たとえ少しずつでもフィルムカメラの魅力が伝わっていくのであれば嬉しいことです。
 67Ⅱが5時間半で6,600円、これを高いと感じるか、安いと感じるかは微妙なところですが、四谷界隈でPENTAX 67Ⅱを持って撮り歩いている人の姿を見かけたら、ちょっと微笑ましくなりそうです。

 PENTAXが新たなフィルムカメラの開発プロジェクトをスタートさせたのは喜ばしいことですが、フィルムの供給は大丈夫なのかという心配は当然あります。リバーサルフィルムはまさに風前の灯といった状態ですが、モノクロフィルムはその種類が増えているようです。現在、手に入れることができるモノクロフィルムは国内、海外ブランドを含めて約120種類あるそうで、3年前よりも若干増えているとのこと。
 もちろん、120種類すべてがオリジナルというわけではなく、OEMのような形で供給されているものもたくさんあると思いますが、それでも種類が増えているというのは喜ばしいことです。

 比較的記憶に新しいところでは、日本の企業からMARIX(マリックス)というブランドで新たなフィルムが発売されたことです。中身はフォマのようですが、にしてもジャパンブランドのフィルムが増えたということは明るい話題です。
 また、2018年3月で出荷が終了していた富士フイルムのフジカラーSUPERIA X-TRA 400 の再販が開始されたのも最近のことです。海外製品を国内向けにしているようですが、ISO-400のカラーフィルムの選択肢が増え、PREMIUM 400よりも若干安く設定されており、フィルムの裾野が広がると良いと思います。

 富士フイルムの写ルンですやコダックのM35、i60など、お手軽にフィルム写真を楽しめるカメラの売れ行きも好調に推移しているようで、これらのおかげでカラーフィルムの出荷数が下げ止まっているという話しも聞きます。
 スナップ写真や旅行の写真など、大仰な一眼レフカメラを持ち歩くよりはスマートでおしゃれな感じがするのも確かです。デザインやカラーバリエーションも豊富で、つい買ってしまいたくなる、そんな魅力も感じます。
 スマホなどの綺麗なデジタル写真を見慣れた若い世代の人たちからすると、フィルム独特の柔らかさとか温もりのある写りが新鮮に感じられるのかもしれません。
 
 リバーサルフィルムにも明るい話題があると良いのですが、残念ながらこれといった喜ばしい話は聞こえてきません。原材料の調達が思うようにいかず安定供給ができていないようですが、一時的なものであってほしいと思います。

 昨年(2022年)、日本で唯一と言われている完全アナログな銀塩プリントをしてくれる会社、アクティブスタジオさんがクラウドファンディングを実施していました。内容は、ここにしかないミニラボ機QSS-23という機械の修理や、アナログプリントを続けていくための維持費などに充てるというものでした。
 当初の目標の1.5倍ほどの支援が集まったようで現在は終了していますが、これによってアナログプリント継続の危機を脱することができたようです。とはいえ 、またいつ故障するかもわからないし、代替部品の入手も困難になる一方のようで、気が抜けない状態は続くとのことです。

 アナログプリントに拘って継続されていらっしゃることにも頭が下がりますが、クラウドファンディングで支援してくれる人もいるということに明るい気持ちになりました。
 私は6~7年前に数回、プリントをお願いしたことがありますが、フィルムをスキャンしてデジタル化した後にプリントするという、現在は当たり前になっている写真と比べると、とても自然な発色をしていると感じました。昔のプリントはこんな感じだったのにと、ちょっとノスタルジックな気持ちになったのを憶えています。
 機械の修理がきかなくなったり、使用しているアナログ印画紙(富士フイルム製だそうです)がなくなっってしまえば同様のプリントは継続できなくなってしまいますが、一日でも長く継続できることを願っています。

 少し話しがそれますが、中国にChamonix(シャモニー)というブランドで大判カメラを作っているシャモニービューカメラという会社があります。
 20年ほど前に設立した会社らしいですが、実はずっと以前からここの大判カメラが気になっていました。木製カメラのようでありながらベースには金属が多用されていたり、何と言ってもカメラムーブメントがこれまでのカメラにはなかった発想で作られています。職人が一台々々丁寧に作っているという感じで、とても綺麗な仕上がりのカメラです。いつかは使ってみたいという思いがずっと続いています。
 生産台数がどれくらいあるのかわからないのですが、特に海外では人気があるようで常に売り切れ状態です。注文をしても順番の待ち行列の最後尾に置かれてしまい、いつ手に入るのかわからないといった状況のようです。
 また、4×5判だけでなく5×7判や8×10判、さらに大きな10×12判や11×14判、そしてとても珍しい14×17判などというカメラも作っているようです。
 大判カメラというニッチな市場ではありますが、現行品として製造販売が続いており、しかも順番待ちになるほど人気のある状況をみると、フィルムカメラもまだまだ捨てたものではないという気持ちになります。

 国内でもフィルム写真やフィルムカメラ、フィルム現像などのセミナーやワークショップ、撮影会やフィルムで撮影した写真展なども増えてきているように感じており、それぞれの活動は小さいかも知れませんが、フィルム写真やフィルムカメラに対する潜在的な市場は衰退の一途をたどっているわけでもなさそうです。
 フィルムの出荷がピークと言われた2000年頃の状態に戻るとはさすがに思いませんが、フィルム写真というものが残っていってほしいと切に願います。

(2023.2.3)

#PENTAX #ペンタックス #モノクロフィルム #Chamonix

反射光式単体露出計:PENTAXデジタルスポットメーター

 私が使っているカメラは一部を除いて露出計が内蔵されていません。ですので、撮影の際には腰巾着のように単体露出計も連れていきます。そこで、日ごろ愛用しているPENTAXデジタルスポットメーターについてご紹介したいと思います。

デジタルスポットメーターとは

 スナップ撮影の時など、単体露出計を使わず目測だけで露出を決めて撮ることもありますが、風景撮影、特に大判カメラでの撮影時には必ず使用します。大体は目測でもわかりますが、フィルム代も現像代も高い大判で失敗するとダメージが大きいので、必ず単体露出計で確認をします。

 数台ある単体露出計の中でも最も出番の多いのが下の写真の「ペンタックス デジタルスポットメーター」です。

PENTAX DIGITAL SPOTMETER

 発売は1980年代の中頃らしく、かれこれ35年くらいは経っていることになります。もちろん、いまは製造されていません。ときどきネットオークションに出品されているのを見かけますが、程度の良いものは4万円近くの値がつけられています。
 露出計は測光方式によって大きく分けると入射光式と反射光式がありますが、この露出計は反射光式です。測光する範囲(受光角)は1度で、非常に狭い範囲の測光が可能です。受光角1度がどれくらいの範囲かというと、10m先にいる人の手のひらだけを測ることができるくらいの狭さです。35mm判カメラの2400mmくらいのレンズの画角になります。
 測光範囲はISO100でEV1~20、最小目盛りが1/3段ですので通常の撮影では全く問題ありません。

デジタルスポットメーターのファインダー内表示

 この露出計は機能が極めてシンプルで、基本的には被写体の輝度を測る輝度計といったところです。その輝度(Bv)をもとにISO感度に対応したEVの値が表示されるので、あとはダイヤルを回して絞りやシャッタースピードを求めるという、非常に単純な操作のみです。これのどこがデジタルなのかと思われるかもしれませんが、測光した値がファインダー内に数字(デジタル)で表示されるからだと思います。古き良きアナログ時代の匂いがする露出計です。

ファインダー内表示 (EV8+1/3 を意味します)
  中央の黒っぽい丸が受光角1度の測光範囲です

露出設定のための目盛りリング

 「測光(被写体の輝度)だけは責任をもって行なうから、あとは自分で決めてね。」と言わんばかりの潔さというかシンプルさが私はとても気に入っています。
 下の写真ではわかりにくいかも知れませんが、測光した値(EV)をオレンジ色の三角マークに合わせ、白で書かれたシャッター速度と青で書かれた絞りの組み合わせを読み取ると、露出値がわかるという仕組みです。

上からISO目盛り、シャッタースピード目盛り、絞り目盛り、EV目盛り

スポット露出計を使う理由

 風景撮影の場合、被写体が遠く離れたところにあることがほとんどですので、そこまで出向いて行って測光するというわけにはいきません。そのため、反射光式の露出計という選択になるわけですが、反射光式の中でもスポット露出計を使っている理由はそれだけではありません。フィルムに写し込まれる広い範囲の中には当然ですが明るいところも暗いところもあります。全体がなんとなく適正露出で写っているというのも大事ですが、ここだけはきちんと表現したいという場所があり、そこをピンポイントで測って、自分のイメージ通りの露出を決めるということができるのが最大の理由です。
 また、リバーサルフィルムを使用する場合、露出設定がシビアなので、明暗差が大きいと黒くつぶれたり白飛びしたりしてしてしまうことがありますが、それを把握できるのもスポット露出計ならではです。

 重さは250gほどで負担になるほどの重さではありません。もう一回り小さいとかさばらなくてありがたいとも思いますが、持った時に手になじむ感じと操作性は抜群で、これくらいの大きさが必要なのかも知れません。

 最近のカメラは露出計が内蔵されており、しかもいくつもの測光方式を使えるとあって、単体露出計の需要がガタ落ちです。それでもスタジオ撮影には使われることが多いのか、入射光式の単体露出計は複数のメーカーから何種類かの製品が出ていますが、反射光式の単体露出計は本当に少ないです。さらに、受光角が1度というような露出計は1~2機種といった状態ではないでしょうか。

 デジタルカメラを露出計の代わりに使うという方法もあり、全体の仕上がり具合を見るには便利ですが、1度というような狭い範囲の測光は難しく、なかなか単体露出計の代用というわけにはいきません。

 なお、単体露出計を使った測光法や露出設定について書き出すと長くなるので、別途、「How to」のページに掲載したいと思います。

(2020.11.24)

#露出 #ペンタックス #PENTAX