第198話 PENTAX67 ペンタックス67用マクロレンズ「smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4」

 ペンタックス67用には2本のマクロレンズが販売されていました。最初のモデルは1971年に発売された「SMC Macro Takumar 6×7 135mm 1:4」で、その後、マイナーチェンジが行われて「smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4」となっています。もう1本は2002年に発売された「smc PENTAX67 MACRO 100mm 1:4」です
 私が持っているのは135mmマクロの後期モデル、smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4です。詳しいことはわからないのですが、1980年代後半ごろに製造されたものではないかと思います。

 100mmマクロに比べて135mmマクロはあまり人気がないのか、中古市場を見ても非常にたくさんの数が出回っています。しかも、PENTAX67用レンズの中でもかなり安い金額で出回っていて、中には捨て値同然のような価格設定されたものもあります。
 私もこのレンズを使う頻度は低いのですが、ご紹介したいと思います。

smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 の主な仕様

 このレンズ、マイナーチェンジされているとはいえ、外観やデザインに手を加えられただけで、基本的な構成は1971年に発売された時から変わっていないようです。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。PENTAX67交換レンズの使用説明書からの抜粋です。

   レンズ構成枚数 : 3群5枚
   対角画角 : 36.7°(67判使用時)
   最小絞り : 22
   絞り羽根 : 8枚
   測光方式 : 開放測光
   フィルター取付ネジ : 67mm
   最短撮影距離 : 0.75m
   全長 : 95mm
   最大径 : 91.5mm
   重さ : 620g

 このレンズを67判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ70mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の標準と中望遠の中間あたりに相当する焦点距離です。67判の対角画角が36.7度、横位置に構えたときの水平画角が29.1度、垂直画角が23.4度ですから、中望遠よりも少し広めの画角です。

 レンズ構成が特徴的で、3群5枚のヘリアー光学系を採用しているようです。ペンタックス67用のレンズの中でこのような構成を採用しているレンズはこれだけではないかと思います。
 3群のレンズは凸凹凸のトリプレット構成になっており、前群と後群が2枚の貼り合わせレンズになっています。正確には中央(2群)のレンズを少し前に移動させたダイナ光学系と呼ばれるようですが、ヘリアー光学系でも間違いではないようです。
 下の図はPENTAX67の使用説明書をもとに作画したものですが、レンズの正確なサイズや位置を再現しているわけではありませんのでご承知おきください。

 ヘリアーは言うまでもなく、フォクトレンダーが120年以上も前に製品化したレンズですが、シンプルな構成でありながら高い性能を持ったレンズと言われていて、改良はされているものの現在でも現役で活躍しているレンズです。

 マクロレンズとはいうものの、最短撮影距離が0.75m、撮影倍率が1/3.2倍という仕様ですから、今のマクロレンズの感覚からするとかなり見劣りする感があります。今のマクロレンズは等倍撮影ができて当たり前のような感じですから、ハーフマクロにも及ばないこのレンズは仕様的に物足りなかったのかも知れません。買ってはみたものの、思うように寄れないということで手放す人も多く、それが中古市場でもだぶついている原因のようにも思えます。

 ちなみに、100mmマクロは単体で1/1.9倍、ライフサイズコンバータを着けると1.12倍までの撮影ができるので、ユーザーがこちらのレンズに流れていくのはごく当たり前かも知れません。ただし、希望小売価格は190,000円という高額なレンズでした。
 私も100mmマクロは欲しいと思っていましたが、縁がなかったのか、いまだに手に入れることができておりません。

 絞りはF4~F32までの指標があり、F5.6~F22の間は1/2段ごとのクリックがありますが、F4とF5.6の間、およびF22とF32の間は中間クリックがありません。
 ピントリング(ヘリコイド)の回転角は約270度で、無限遠から最短撮影距離まで回すには、途中でリングを持ち替えないと厳しいです。最短撮影距離にした際のレンズの繰り出し量は約42mmで、通常のレンズに比べると多く繰り出せるようになっているようです。

 レンズを42mm繰り出すと、レンズと撮像面の距離は177mmになりますので、ここから露出補正値を計算すると、

  露出補正値 = (177 / 135)^2 = 1.72倍

 となります。

 これは絞り値にすると約1.3倍に相当しますので、最短撮影距離における絞りF4の実効F値は約F5.2ということになります。3/4段ほど暗くなりますので、リバーサルフィルムを使用する場合は影響が出る値です。昔ながらのマニュアルカメラで使用する場合は露出補正が必要になることがあると思います。

 素材にプラスチックが多く使われていることもあり、レンズの重さはあまり気になりませんが、手持ちでの近接撮影は難しいと思われます。

smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 のボケ具合

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、約2m離れた位置からの撮影です。
 下の3枚の写真は、1枚目がテストチャートにピントを合わせた状態、2枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ状態)、そして3枚目が前方30cmの位置にあるテストチャート(前ボケ状態)を切り出したものです。いずれも絞りは開放(F4)です。

 次に、絞りをF8にして後方30cmの位置にあるテストチャートを撮影したもの、そして、同じく絞りF8で前方30cmの位置にあるテストチャートを撮影したものが下の2枚の写真です。

 さらに、絞りをF16にして後方30cmの位置にあるテストチャートを撮影したもの、そして、同じく絞りF16で前方30cmの位置にあるテストチャートを撮影したものが下の2枚の写真です。

 こうして見てみるととても素直なボケ方をしているという印象を持ちます。どちらかに偏ったようなボケではなく、全方位に均一にぼけている感じです。ボケ方もなだらかできれいなボケではないかと思います。
 また、後ボケと前ボケの形(ボケ方)が非常に似通っている感じもします。後ボケと前ボケはそのボケ方が異なるレンズが多いのですが、このレンズはどちらも同じようなボケ方をしていると思います。

 参考までに、ピント位置から比較的近い位置にあるテストチャートを撮影したものも掲載しておきます。
 絞りをF4(開放)にして後方10cmの位置にあるテストチャートを撮影したもの、そして、同じく絞りF4で前方10cmの位置にあるテストチャートを撮影したものが下の2枚の写真です。

 やはり、なだらかで素直なボケになっていると思いますが、後方のテストチャート(後ボケ)の方がボケ方が大きいように思います。

 ちなみに、最短撮影距離(0.75m)で絞り開放で撮影した時の被写界深度を計算してみると以下のようになります。
 被写界深度の計算式は、

  前側被写界深度 = a²・ε・F /( f² + a・ε・F)
  後側被写界深度 = a²・ε・F /( f² - a・ε・F)

 となります。

 ここで、
  a : 被写体までの距離
  f : レンズの焦点距離
  F : 絞り値
  ε : 許容錯乱円

 を表します。

 許容錯乱円をどれくらいとみるかによって結果は異なりますが、ここでは長らく使われてきた0.033mmを適用して計算してみます。
 これで計算すると、前側被写界深度は約2.37mm、後側被写界深度は約2.39mmとなり、前後を合わせると約4.78mmという結果になります。135mmという焦点距離なのでこんなものかなとは思いますが、やはり最短撮影距離ではピント幅が浅く、ピント合わせは慎重に行なう必要があります。

smc PENTAX 67 MACRO 135mm 1:4 の作例

 マクロレンズだからというわけでもありませんが、私がこのレンズで撮影したものはやはり近景のもの、特に野草を撮影したものが圧倒的に多くあります。3枚の写真を掲載しますが、いずれも使用したフィルムは富士フイルムのPROVIA 100Fです。

 まず1枚目は、夏によく見ることができる野草、オカトラノオです。

 茎の先端にたくさんの白い小さな花を総状に咲かせる野草で、花穂の先が垂れ下がることからこの名前がつけられたようです。下の方から先端に向けて徐々に咲いていくのですが、この個体はまだ咲き始めで数輪しか開いていません。開いた花の直径は1cm足らずですが、たくさん開くと結構見応えがあります。
 トップライト気味の状態なので、白い花弁の質感が損なわれないように露出を若干抑え気味にしています。絞りは開放です。

 ピントは開いている花の蕊に合わせていますが、被写界深度が浅いので他の部分はボケています。ボケ方はなだらかできれいだと思います。
 画の下側に葉っぱを1枚入れてありますが、この葉っぱが先端に向かってふわっと溶けていくようなボケ方をしていて個人的には気に入っています。
 一方、右上に斜めに白い線が見えますが、これは細い野草の葉っぱで、二線ボケの傾向が感じられます。PENTAX67のレンズは二線ボケが出やすい印象があり、そんな中でもこのレンズは二線ボケが出にくいほうなのですが、やはり被写体によっては出てしまいます。

 2枚目は初夏に咲く花、ツユクサを撮影したものです。

 鮮やかな青紫色の花が特徴的で、朝に開いて昼頃にはしぼんでしまう短命の花です。花弁は2枚しかないように見えますが、下側に白い小さな花弁があって、全部で3枚あります。上側の2枚が大きくて丸っとしていて、私にはミッキーマウスのように見えてしまいます。

 陽がだいぶ高くなっていますが、少し前まで降っていた雨が残っている状態で撮影しました。
 この花は群生していることが多く、周囲にもたくさんの花が咲いていましたが、あまりたくさん入れると画がごちゃごちゃしてしまうので、背後に一輪だけいれて、後は葉っぱに着いた雨露の玉ボケを配してみました。ですが、バックがちょっとうるさい感じになってしまいました。
 1枚目の写真と比べると全体にコントラストが高めですが、ボケ方としてはきれいではないかと思います。

 このレンズで撮影した遠景の写真がほとんどなくて、中景ほどの距離で撮影したものを例として掲載します。

 長野県の富士見高原にある花の里という場所で撮影した、白樺林に咲く大輪の百合です。
 夏になると500万輪ともいわれる百合のほかにマリーゴールドなども咲き誇る、癒される場所です。特に白樺林に百合が咲いている姿は情緒的で、たくさんの人が訪れています。都会はうだるような暑さですが、ここは標高が1,250m以上あるらしく、日差しは強くても風がとても爽やかです。

 この写真は林の中ほどに咲いている一株の百合を撮ったものですが、手前にたくさん咲いている百合を前ボケに入れています。中央の百合の花までの距離は10mほどだったと思います。ボケをできるだけ大きくするために絞りは開放です。これだけ離れると大輪の百合も被写界深度内に収まってくれます。
 全体的にふわっとしたボケ味ではありますが、背後を見ると二線ボケが感じられます。それほど強烈な二線ボケではありませんが、やはり、画が汚くなってしまい気になります。
 遠景はあまり得意ではないレンズというレビューも見られますが、ひどい写りをするわけでもなく、十分実用に耐えるレベルだと思っています。

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 このレンズ、マクロレンズというにはちょっと力不足という感は否めませんが、半世紀以上も前に発売されたことを考えると素晴らしいレンズと言えるのではないかと思います。画角的には標準レンズでもなく中望遠レンズでもない、ちょっと中途半端な焦点距離ということもあって、使用する頻度はあまり高いとは言えません。ですが、ボケ味は結構気に入っていて、二線ボケの傾向はあるものの、それを注意すれば素直できれいなボケが得られるレンズではないかと思っています。
 また、解像度についても十分に及第点だと思っていて、小さな野草なども細部までしっかりと描写してくれます。

 私の持っている後期モデルの希望小売価格は90,000円(税抜き)でしたが、それが今や中古市場で数千円で手に入れることができます。マクロレンズというカテゴリーで販売しているのでちょっと損をしているように感じます。マクロではなく、通常の準中望遠レンズとしておいた方が受けが良かったのではないかと思ったりもします。

(2025.9.16)

#PENTAX #PENTAX67 #テストチャート #ペンタックス #ペンタックス67

第176話 リコーイメージングの新しいフィルムカメラ、「PENTAX 17」の発売について思うこと

               リコーイメージングHPより転載

#PENTAX #カメラ業界 #ペンタックス

第138話 フィルム写真やフィルムカメラの将来は悲観することばかりではない...のかも知れない

 フィルムや現像薬品の製造販売終了や値上げをはじめ、現像料金の値上げなど、フィルム写真に関する暗いニュースが後を絶ちません。その類いのニュースを見たり聞いたりするたびに暗い気持ちになり、いったい、フィルム写真はいつまで続けることができるのだろうか、もしかしたら数年後にはフィルムで写真を撮ることができなくなってしまうのではないか、といった不安がよぎります。
 私のような一消費者がどんなに心配しようがあがこうが大勢には全く影響がありませんが、じわじわと真綿で首を絞められるような感じを禁じえません。

 しかし、そんな気の重くなるようなニュースの陰にも、気持ちが明るくなるような話題が時々飛び込んでくることがあり、もしかしたらフィルムの将来にも希望が持てるのかも、と思わせてくれます。

 昨年(2022年)の暮れ、リコーイメージングが新たにPENTAXブランドのフィルムカメラを開発するプロジェクトをスタートさせたというニュースがありました。若い人たちの間でフィルムの人気が高まってきており、フィルムカメラの市場性はなくなっているわけではないという判断をされたのかも知れません。
 まだ正式に新製品の発売を約束するものではないとしながらも、一度終了したフィルムカメラを再度、しかも新規に開発するという取り組みに意表を突かれるとともに、胸がときめくような感じを受けました。「えっ!今のこの時代に本当にやるの?」という釈然としない気持ちと、「あっぱれ!ぜひとも実現してほしい」という期待が混ぜこぜになったような、何とも不思議な感覚でした。

 いくら若い年代に人気が高まったところで、デジタルカメラをひっくり返すほどのシェアになるとは思えず、そんな分野に本気で企業が投資をするのだろうかと考えてしまうのは私だけではないと思います。この新規事業に利益が見込めるのかどうか私にはわかりませんし、また、利益追求だけが企業の本分ではないとは思いますが、とはいえ、仮に利益の出ない事業だとしたら、それを継続することが大変なのは素人から見ても理解できます。
 一方で、フィルムカメラという素晴らしい文化や技術を後世に伝えていくという、カメラメーカーとしての使命を全うしようとしているのではないかと思ったりもします。

 いずれにしても、リコーイメージングという大きな企業が判断したことであり、外野がとやかく言うことではありませんが、個人的にはぜひ実現してほしいという願いがあります。いつ頃、どんなカメラが出てくるのかわかりませんが、しばらくはワクワクした気持ちを持つことができそうです。

 PENTAXと言えば、新宿にあったリコーイメージングスクエア東京(旧ペンタックスフォーラム)が昨年3月に閉じて、新たに7月から四谷に「PENTAXクラブハウス」という名前でオープンしました。ショールームやギャラリーだけでなく、交流の場のようなものをコンセプトにしているようです。
 私は昨年の秋に一度訪れただけですが、その時に印象に残っていたのが「フィルムカメラ体験会」というものでした。PENTAXのフィルムカメラを有償で貸し出して、フィルムカメラを実際に使ってもらおうという試みです。実際にどれくらいの申し込みがあったのかはわかりませんが、先月(2023年1月)から第2回目が開催されているようなので、好評だったのかもしれません。PENTAX 67Ⅱや645NⅡなど、なかなか手にする機会がないカメラも実際に使えるとあって、たとえ少しずつでもフィルムカメラの魅力が伝わっていくのであれば嬉しいことです。
 67Ⅱが5時間半で6,600円、これを高いと感じるか、安いと感じるかは微妙なところですが、四谷界隈でPENTAX 67Ⅱを持って撮り歩いている人の姿を見かけたら、ちょっと微笑ましくなりそうです。

 PENTAXが新たなフィルムカメラの開発プロジェクトをスタートさせたのは喜ばしいことですが、フィルムの供給は大丈夫なのかという心配は当然あります。リバーサルフィルムはまさに風前の灯といった状態ですが、モノクロフィルムはその種類が増えているようです。現在、手に入れることができるモノクロフィルムは国内、海外ブランドを含めて約120種類あるそうで、3年前よりも若干増えているとのこと。
 もちろん、120種類すべてがオリジナルというわけではなく、OEMのような形で供給されているものもたくさんあると思いますが、それでも種類が増えているというのは喜ばしいことです。

 比較的記憶に新しいところでは、日本の企業からMARIX(マリックス)というブランドで新たなフィルムが発売されたことです。中身はフォマのようですが、にしてもジャパンブランドのフィルムが増えたということは明るい話題です。
 また、2018年3月で出荷が終了していた富士フイルムのフジカラーSUPERIA X-TRA 400 の再販が開始されたのも最近のことです。海外製品を国内向けにしているようですが、ISO-400のカラーフィルムの選択肢が増え、PREMIUM 400よりも若干安く設定されており、フィルムの裾野が広がると良いと思います。

 富士フイルムの写ルンですやコダックのM35、i60など、お手軽にフィルム写真を楽しめるカメラの売れ行きも好調に推移しているようで、これらのおかげでカラーフィルムの出荷数が下げ止まっているという話しも聞きます。
 スナップ写真や旅行の写真など、大仰な一眼レフカメラを持ち歩くよりはスマートでおしゃれな感じがするのも確かです。デザインやカラーバリエーションも豊富で、つい買ってしまいたくなる、そんな魅力も感じます。
 スマホなどの綺麗なデジタル写真を見慣れた若い世代の人たちからすると、フィルム独特の柔らかさとか温もりのある写りが新鮮に感じられるのかもしれません。
 
 リバーサルフィルムにも明るい話題があると良いのですが、残念ながらこれといった喜ばしい話は聞こえてきません。原材料の調達が思うようにいかず安定供給ができていないようですが、一時的なものであってほしいと思います。

 昨年(2022年)、日本で唯一と言われている完全アナログな銀塩プリントをしてくれる会社、アクティブスタジオさんがクラウドファンディングを実施していました。内容は、ここにしかないミニラボ機QSS-23という機械の修理や、アナログプリントを続けていくための維持費などに充てるというものでした。
 当初の目標の1.5倍ほどの支援が集まったようで現在は終了していますが、これによってアナログプリント継続の危機を脱することができたようです。とはいえ 、またいつ故障するかもわからないし、代替部品の入手も困難になる一方のようで、気が抜けない状態は続くとのことです。

 アナログプリントに拘って継続されていらっしゃることにも頭が下がりますが、クラウドファンディングで支援してくれる人もいるということに明るい気持ちになりました。
 私は6~7年前に数回、プリントをお願いしたことがありますが、フィルムをスキャンしてデジタル化した後にプリントするという、現在は当たり前になっている写真と比べると、とても自然な発色をしていると感じました。昔のプリントはこんな感じだったのにと、ちょっとノスタルジックな気持ちになったのを憶えています。
 機械の修理がきかなくなったり、使用しているアナログ印画紙(富士フイルム製だそうです)がなくなっってしまえば同様のプリントは継続できなくなってしまいますが、一日でも長く継続できることを願っています。

 少し話しがそれますが、中国にChamonix(シャモニー)というブランドで大判カメラを作っているシャモニービューカメラという会社があります。
 20年ほど前に設立した会社らしいですが、実はずっと以前からここの大判カメラが気になっていました。木製カメラのようでありながらベースには金属が多用されていたり、何と言ってもカメラムーブメントがこれまでのカメラにはなかった発想で作られています。職人が一台々々丁寧に作っているという感じで、とても綺麗な仕上がりのカメラです。いつかは使ってみたいという思いがずっと続いています。
 生産台数がどれくらいあるのかわからないのですが、特に海外では人気があるようで常に売り切れ状態です。注文をしても順番の待ち行列の最後尾に置かれてしまい、いつ手に入るのかわからないといった状況のようです。
 また、4×5判だけでなく5×7判や8×10判、さらに大きな10×12判や11×14判、そしてとても珍しい14×17判などというカメラも作っているようです。
 大判カメラというニッチな市場ではありますが、現行品として製造販売が続いており、しかも順番待ちになるほど人気のある状況をみると、フィルムカメラもまだまだ捨てたものではないという気持ちになります。

 国内でもフィルム写真やフィルムカメラ、フィルム現像などのセミナーやワークショップ、撮影会やフィルムで撮影した写真展なども増えてきているように感じており、それぞれの活動は小さいかも知れませんが、フィルム写真やフィルムカメラに対する潜在的な市場は衰退の一途をたどっているわけでもなさそうです。
 フィルムの出荷がピークと言われた2000年頃の状態に戻るとはさすがに思いませんが、フィルム写真というものが残っていってほしいと切に願います。

(2023.2.3)

#PENTAX #ペンタックス #モノクロフィルム #Chamonix

第26話 反射光式単体露出計:PENTAXデジタルスポットメーター

 私が使っているカメラは一部を除いて露出計が内蔵されていません。ですので、撮影の際には腰巾着のように単体露出計も連れていきます。そこで、日ごろ愛用しているPENTAXデジタルスポットメーターについてご紹介したいと思います。

デジタルスポットメーターとは

 スナップ撮影の時など、単体露出計を使わず目測だけで露出を決めて撮ることもありますが、風景撮影、特に大判カメラでの撮影時には必ず使用します。大体は目測でもわかりますが、フィルム代も現像代も高い大判で失敗するとダメージが大きいので、必ず単体露出計で確認をします。

 数台ある単体露出計の中でも最も出番の多いのが下の写真の「ペンタックス デジタルスポットメーター」です。

PENTAX DIGITAL SPOTMETER

 発売は1980年代の中頃らしく、かれこれ35年くらいは経っていることになります。もちろん、いまは製造されていません。ときどきネットオークションに出品されているのを見かけますが、程度の良いものは4万円近くの値がつけられています。
 露出計は測光方式によって大きく分けると入射光式と反射光式がありますが、この露出計は反射光式です。測光する範囲(受光角)は1度で、非常に狭い範囲の測光が可能です。受光角1度がどれくらいの範囲かというと、10m先にいる人の手のひらだけを測ることができるくらいの狭さです。35mm判カメラの2400mmくらいのレンズの画角になります。
 測光範囲はISO100でEV1~20、最小目盛りが1/3段ですので通常の撮影では全く問題ありません。

デジタルスポットメーターのファインダー内表示

 この露出計は機能が極めてシンプルで、基本的には被写体の輝度を測る輝度計といったところです。その輝度(Bv)をもとにISO感度に対応したEVの値が表示されるので、あとはダイヤルを回して絞りやシャッタースピードを求めるという、非常に単純な操作のみです。これのどこがデジタルなのかと思われるかもしれませんが、測光した値がファインダー内に数字(デジタル)で表示されるからだと思います。古き良きアナログ時代の匂いがする露出計です。

ファインダー内表示 (EV8+1/3 を意味します)
  中央の黒っぽい丸が受光角1度の測光範囲です

露出設定のための目盛りリング

 「測光(被写体の輝度)だけは責任をもって行なうから、あとは自分で決めてね。」と言わんばかりの潔さというかシンプルさが私はとても気に入っています。
 下の写真ではわかりにくいかも知れませんが、測光した値(EV)をオレンジ色の三角マークに合わせ、白で書かれたシャッター速度と青で書かれた絞りの組み合わせを読み取ると、露出値がわかるという仕組みです。

上からISO目盛り、シャッタースピード目盛り、絞り目盛り、EV目盛り

スポット露出計を使う理由

 風景撮影の場合、被写体が遠く離れたところにあることがほとんどですので、そこまで出向いて行って測光するというわけにはいきません。そのため、反射光式の露出計という選択になるわけですが、反射光式の中でもスポット露出計を使っている理由はそれだけではありません。フィルムに写し込まれる広い範囲の中には当然ですが明るいところも暗いところもあります。全体がなんとなく適正露出で写っているというのも大事ですが、ここだけはきちんと表現したいという場所があり、そこをピンポイントで測って、自分のイメージ通りの露出を決めるということができるのが最大の理由です。
 また、リバーサルフィルムを使用する場合、露出設定がシビアなので、明暗差が大きいと黒くつぶれたり白飛びしたりしてしてしまうことがありますが、それを把握できるのもスポット露出計ならではです。

 重さは250gほどで負担になるほどの重さではありません。もう一回り小さいとかさばらなくてありがたいとも思いますが、持った時に手になじむ感じと操作性は抜群で、これくらいの大きさが必要なのかも知れません。

 最近のカメラは露出計が内蔵されており、しかもいくつもの測光方式を使えるとあって、単体露出計の需要がガタ落ちです。それでもスタジオ撮影には使われることが多いのか、入射光式の単体露出計は複数のメーカーから何種類かの製品が出ていますが、反射光式の単体露出計は本当に少ないです。さらに、受光角が1度というような露出計は1~2機種といった状態ではないでしょうか。

 デジタルカメラを露出計の代わりに使うという方法もあり、全体の仕上がり具合を見るには便利ですが、1度というような狭い範囲の測光は難しく、なかなか単体露出計の代用というわけにはいきません。

 なお、単体露出計を使った測光法や露出設定について書き出すと長くなるので、別途、「How to」のページに掲載したいと思います。

(2020.11.24)

#露出 #ペンタックス #PENTAX