大判カメラはカメラ後部についているフォーカシングスクリーン(ピントグラス)に投影された像を確認しながら構図決めやピント合わせを行ないます。その際、肉眼では細部のピントの具合がわかりにくいので、ルーペを使い像を拡大した状態でピント合わせを行ないます。
かつて、フィルム写真が全盛期だった頃は各社からいろいろなルーペが販売されており、私も数個持っていますが、なかなか使いやすくてしっくりとくるルーペというのがありません。私が持っているルーペはコンパクトなものがほとんどで、携帯には便利なのですが小さいがゆえにピント確認時はフォーカシングスクリーンに顔がつくくらいまで近づかなければならず、あまり使い勝手がよくありません。
また、長焦点レンズの場合はあまり気になりませんが、短焦点レンズを使っているときはフォーカシングスクリーン周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるため、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直に当てた状態だと暗くて像がよく見えません。そのため、ルーペを斜めにするのですが、そうすると小さなルーペではますます使い勝手がよくありません。
そこで、フォーカシングスクリーンからある程度距離を保った状態でピント合わせのできるルーペを自作してみました。材料はできる限り身近にあるものを流用してコストをかけずに作ってみました。
作成するルーペの仕様
今回作成するルーペは、フォーカシングスクリーンからある程度の距離を保つことが出来るということを第一条件とします。「ある程度の距離」というのはどれくらいかというと、私が主に使っている大判カメラのフォーカシングスクリーンフードを開いた状態でも、これに干渉されない程度の距離ということになります。具体的にはフォーカシングスクリーンから50~60mmのところにレンズ中心があり、そこから50~60mmの位置からルーペを覗くといった感じです。ですので、ルーペの全長は120mm前後ということになります。
次にルーペの倍率ですが、一般的に市販されているピント確認用のルーペの倍率は6倍前後のものが多く、私が持っているルーペの倍率も6倍と7倍です。4~5倍でも使用上、さほど支障は感じませんが、細部のピントをミリミリと確認する場合は6倍くらいあった方が安心です。
一方、倍率が高すぎると視野が狭くなってしまうのと、フォーカシングスクリーンのザラザラ感がクローズアップされてしまい、逆に使いにくくなってしまいます。個人差もあるでしょうが、私の場合、7倍という倍率はちょっと高すぎると感じています。
ですので、今回作成するルーペの倍率は6倍とします。
そしてルーペの大きさ(直径)ですが、大きい方が視野が広くなって使いやすいのは確かですが、大きくなると携行性が劣るので、そこの兼ね合いをどうするかです。私が持っている市販品ルーペのレンズ径は20mmとか25mmというもので、視野の広さという点で物足りなさを感じています。せめて倍くらいの視野が欲しいので、今回はレンズの直径を40mm程度とします。
最後に、これは仕様というよりは使い勝手と言うべきですが、ルーペというと円筒形のものがほとんどです。レンズが円形をしているのであたり前ですが、鏡胴が円筒形の場合、フォーカシングスクリーンの四隅を見ようとするとルーペが枠にあたってしまい、確認ができないという問題があります。レンズの径が大きくなればなるほどこの問題は顕著になります。
鏡胴全体は円筒形で構わないのですが、フォーカシングスクリーンに接するルーペの先端部は四角柱になるような形状とします。
ということで、これらの条件を満たすためのレンズを選定しなければなりません。条件をもう一度整理すると、
フォーカシングスクリーンからレンズまでの距離 : 約50mm
倍率 : 約6倍
レンズ径 : 約40mm
となります。
レンズの焦点距離(f)、レンズからフォーカシングスクリーンまでの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係を図示すると下のようになります。
ここで、a=50mm、倍率はm=6と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、
b = m・a
で求められます。
よって、
b = 6 x 50 = 300mm
となります。
次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、
1/a - 1/b = 1/f
の関係式に各値を代入すると、
1/f = 1/50 - 1/300
よって、f = 60mm となります。
すなわち、焦点距離60mmのレンズが必要ということです。
ルーペの作成に必要なパーツ類
焦点距離60mmを1枚のレンズで実現するにはかなり分厚いレンズが必要になりますが、実際にそんなレンズはなかなか手に入らないので複数枚のレンズを重ねて目標の焦点距離を稼ぐことになります。
毎度のごとくジャンク箱をあさってみたところ、φ40.5mm、No.8のクローズアップレンズが出てきました。φ55mmとかφ67mmとかは何枚かあったのですが、さすがに40.5mmなどという小さなものは使い道もなかったこともあり、私の在庫は1枚のみでした。もう1枚、同等以上の焦点距離のクローズアップレンズが必要になります。
ちなみに、2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。
1/f = 1/f₁ + 1/f₂ - d/(f₁ x f₂)
この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。
この式から、No.8のクローズアップレンズともう1枚を組み合わせて焦点距離60mmを作り出すには、焦点距離が約115mmのクローズアップレンズが必要ということになります。115mmなどという中途半端なクローズアップレンズはないでしょうから、焦点距離125mmのNo.8か、100mmのNo.10のいずれか1枚を組み合わせることになります。No.8+No.8の場合の焦点距離は約62.5mm、No.8+No.10の場合の焦点距離は約56mmになりますので、今回は後者の組み合わせ、すなわち、No.8+No.10を採用することにしました。
なお、複数枚のレンズを組み合わせた場合、レンズとレンズの間に隙間ができ、それによって焦点距離が若干変わりますが、それほど精度を求めているわけではないので今回は無視することにします。
No.10のクローズアップレンズは持ち合わせがないので、ネットで検索して600円ほどで購入しました。
クローズアップレンズがそろえばそれをはめ込む鏡胴となる円筒形のパーツが必要になりますが、アサヒグループ食品のサプリ、ディアナチュラの空容器が使えそうでしたので、これを2個使うことにしました。
そのほか、ルーペを首にかけるための紐などがあれば必要なパーツはOKです。
パーツの加工とルーペの組み立て
まず、クローズアップレンズをはめ込む鏡胴をつくらなければなりません。ディアナチュラの空容器を下図のようにカット、加工します。
外径が44mmの空容器を、蓋を取り除いた上端から約80mmの長さでカットします。
次に、ルーペ内に光が入り込むのを防ぐため、空容器の内側に黒いラッカースプレーを吹き付けます。空容器の外側に遮光テープを巻いても良いのですが、ルーペの長さを調整できるようにするため、空容器の外側は滑らかな方が好ましいので内側の塗装を採用しました。
この空容器を少し太めのφ48.8mmの空容器の内側にはめ込むわけですが、内径が47.2mmあって周囲に1.6mmの隙間が出来てしまいます。そこで、カットした残りの空容器から幅5mmほどのリングを切り出し、これをスペーサーとしてφ44mmの空容器の下端に巻き付け、接着します。これは、外側(φ48.8mm)の空容器の抜け落ち防止にもなります。
実際にはこんな感じになります。
さて、この細い方(φ44mm)の空容器内にクローズアップレンズをはめ込むわけですが、空容器の内径が43mm、クローズアップレンズの外形も43mmで、まるであつらえたようにピッタリです。少々きついですがゆっくり押し込んで、空容器の下端から少しはみ出ているくらいのところで止めておきます。これは、クローズアップレンズを外す際、指や工具を引っかけることが出来るようにするためです。
なお、クローズアップレンズには凸メニスカスレンズが使われているため、2枚を同じ向きで重ねるのではなく、1枚をひっくり返してレンズの凸面同士が向かい合うように重ね合わせた方が像のゆがみが少なくて済みます。
そこで、1枚のクローズアップレンズのレンズ押さえリングを外し、中のレンズを反転させて、再度レンズ押さえリングをはめ込みます。この状態で2枚のクローズアップレンズを重ねてねじ込めば向かい合わせの状態をつくることが出来ます。
続いて太い方(φ48.8mm)の空容器の加工ですが、こちらは容器の底から約85mmのところでカットし、底に直径44mmの穴をあけます。この穴は細い方(φ44mm)の空容器を差し込むためのものです。穴の径は大きすぎるとスカスカになってしまうので、若干小さめの穴にしておくのが望ましいです。
遮光用の塗装ですが、こちらは外側にメタリックのラッカースプレーを吹き付けました。黒いでも良いのですが、白と黒のツートンはあまり見てくれが良くないので、金属感のあるものを使ってみました。
今回作成するルーペの条件の最後の項で、「鏡胴の先端を四角柱にする」ということを書きました。それを実現するため、太い方(φ48.8mm)の空容器の先端を90度間隔で4箇所、山折りを施します。厚さ1mmほどのプラスチック容器ですから、指で少し力を加えれば簡単に山折りが出来ます。これで先端が四角柱に近い形になります。下の写真は塗装前の状態です。
こうして作成した2つの空容器、細い方(φ44mm)を太い方(φ48.8mm)の中に差し込めば組み立ては完了です。鏡胴の先端のところでピントが合うように、外側と内側の筒の位置を調整すればとりあえずルーペは完成です。
レンズの中心辺りから鏡胴の先端までの距離を測定してみたところ、約55mmでしたので、ほぼ計算した値の許容範囲といってよいと思います。
念のため、外側の容器が上側に抜けてしまうのを防ぐ目的で、組み上げた後に内側容器の上部にストッパーとなるよう、幅5mmほどのリングを巻き付けておきます。これは容器の下側に取り付けたスペーサーと同じように、切り取った残りの空容器から幅5mm分を切り出し、巻き付けて接着しただけのものです。鏡胴の内側容器と外側容器はスカスカ動くわけでもないのでなくても問題ないと思いますが、念のためということで。
また、カメラのフォーカシングスクリーンに傷をつけるのを防ぐため、鏡胴(太い方の空容器)の先端にシリコンクロスを貼り付けます。鏡胴はプラスチック製なのでフォーカシングスクリーンに傷がつくことはないと思いますが、こちらも念のためということです。
最後に、ルーペを首から下げるためのストラップ(紐)を取り付けます。
これは内側にはめ込んである空容器の上端についているオレンジ色の蓋を受けるリングに穴を開け、そこに適当な紐を通すだけです。
あまり太くなく、しかも引っ張っても伸びない紐があったので、これを約80cmの長さに切って取り付けてみました。ルーペ自体の素材のほとんどがプラスチックで軽いので、この程度の太さの紐でも全く問題ありません。
こうして出来上がったルーペが下の写真です。
ガラクタから作ったルーペの使い勝手
今回作成したルーペの大きさや重さは以下の通りです。
高さ : 132mm (調整可能)
直径 : 48.8mm
重さ : 54g (ストラップ含む)
一般に市販されているルーペに比べると長いし太いという印象はありますが、手に持った時のおさまりはいい感じです。適度な大きさと言ったらよいのでしょうか、大きすぎて邪魔になるとか、小さすぎて持ちにくいとか、そういったこともなく手のひらにちょうど入る大きさです。
倍率は正確にわかりませんが、わたしが持っている7倍のルーペと比較すると少し控えめな感じがするので、概ね、6倍といったところではないかと思います。ピント合わせには十分な倍率ではないかと思います。
今回、このルーペを作るうえで最も重要視した、フォーカシングスクリーンに斜めに入ってくる光を確認できるかということですが、全長が132mmあることで、ルーペを傾けてもフードなどと干渉することもなく、フォーカシングスクリーンの四隅までしっかりとチェックすることが出来ました。四隅を見たときに真っ暗になってしまうストレスから解放されるのは何よりです。
視野もまずまずの大きさで、もちろん大きい方が使い勝手は良いのですが、このサイズでこれだけの視野が確保できれば及第点だと思います。
また、軽いので首にかけたままにしていてもほとんど気になることはなく、カメラバッグから取り出したり、使用後にしまったりという手間が省けるのもありがたいです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
撮影機材の中でルーペはどちらかというと地味な存在という印象があるかもしれませんが、このルーペがないと撮影ができないといっても過言ではありません。フォーカシングスクリーンを肉眼で見ても、細部までピントが合っているかどうかを確認することは無理で、適当な状態で撮影をしても間違いなくピンボケになります。カメラとかレンズに比べるとはるかに安価な機材ではありますが、これがないと撮影になりません。
ゆえに、各メーカーから販売されているいろいろなルーペを購入して使ってきたものの、なかなか納得のいくルーペに出会うことはありませんでした。メーカーの製品は性能面では優れているのですが、使い勝手という点で「これ!」というものに出会ったことがなく、結局、自分の撮影スタイルに合ったルーペを自作するのがいちばんというところに帰着した感じです。
今回作ったルーペも実際に使用していくにつれて欠点や改善点が見えてくると思いますが、工夫次第では安価につくることが出来るものなので、バージョンアップしていければと思っています。
(2026.8.12)
