私が撮影対象としていちばん多いのは自然風景ですが、次いで多い対象物(被写体)が野草です。
野草は背丈が低く、しかも、草むらの中などにひっそりと咲いていることが多いので、どうしてもローポジションでの撮影になりますし、マクロ撮影とまではいかなくてもかなりの近接撮影になるとこが多いです。また、光の具合を調整したりすることも多く、そのための小物類もいくつか持ち歩いています。
私が野草撮影に使っているカメラは主にPENTAX67、およびPENTAX67Ⅱですが、今回はこれらのカメラでの撮影の際に用いている小物類をご紹介します。
クランプヘッド
野草撮影で最も苦労するのが、カメラをいかに低いポジションに構えられるかということです。
PENTAX67は言わずと知れた中判のフィルムカメラで、レンズも含めるとかなりの重量級となるため、三脚も大型のものを使っています。大型の三脚は、脚を目一杯広げて低くなるようにしても、カメラの位置は地上から40~50cmほどが精一杯という状況です。
そこで、三脚の脚の部分にカメラを設置できるようなクランプヘッドを使用しています。
私が使用しているこのクランプヘッドは改造品で、もともとはスリック製の「クランプヘッド38N」という製品と、マンフロット製の「スーパークランプ」という製品を組み合わせて作ったものです。これについては下記のページで紹介しています。
この自作クランプヘッドを三脚の脚の最下部に取り付けると、最低地上高が数cmという高さでの撮影が可能になります。背丈が数cmしかないような小さな野草でも、ほぼ同じ目線で撮影することができます。
このスリックのクランプヘッドの難点は、チルトとサイドチルトはできるのですがパンができないということです。つまり、カメラを上下に振ったり水平を調節したりはできるのですが、左右に振ることができません。
これを解決するにはここに自由雲台のようなものを取付けるしかないのですが、そうすると最低地上高が高くなってしまい、地面すれすれでの撮影ができなくなってしまいます。
アングルファインダー
クランプヘッドを用いることで低いポジションでの撮影が可能になりますが、そうすると、地面に腹ばいにでもならない限り、カメラのファインダーを覗くのがとても難儀になってしまいます。
そこでカメラのファインダーを上から覗くことができるアングルファインダーを使用しています。
ファインダーからの光を直角に曲げてくれるものですが、カメラのファインダーを中心に360°回転するようになっているので、上からも横からも覗くことができます。また、視度調整機能が備わっているので、自分の視力に合わせてくっきりとした像を見ることができます。
カメラを地面すれすれに構えた状態であっても、しゃがみ込めばファインダー内を見ることができるのでとても便利です。
私が使っているPENTAX67用のアングルファインダーは、カメラ背面のファインダー窓に嵌まっている視度調整レンズを外し、そこにアングルファインダーをねじ込むという方式なので、取り付け取外しが少々面倒です。野草を撮るときは付けっ放しにすることが多いのですが、そうするとアイレベルでの撮影の時に不便を感じます。取り付け取外しがもっと簡単だといいのですが。
接写リング
レンズの最短撮影距離を更に短くして近接撮影を行なうためのものです。
これについても下記のページで紹介しているので、詳細はこちらをご覧ください。
「PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)」
私が接写リングを使う理由は、近接撮影をするということもありますが、いちばんはボケを大きくしたいということです。なので、近くによってマクロ的な撮影をするというよりも、比較的焦点距離の長いレンズに接写リングを取り付けて、少し離れた位置から撮影するというスタイルが多いです。もちろん、3個の接写リングすべてを取付ければ、長焦点レンズでもその撮影距離はかなり短くなりますが、3個も同時に使うことはほとんどなく、なだらかできれいなボケが得られる範囲での使い方が多いです。
接写リングを使用すると、レンズ側のピント調整リングで合わせることのできる範囲が非常に狭くなってしまうので、接写リングをとっかえひっかえしたり、三脚ごと撮影位置を前後したりしなくて済むように、あらかじめ撮影位置や撮影倍率のアタリをつけておくことが望ましいです。
レフ板
前にも書いたように野草は背丈の低いものが多いので、うまい具合に光が回ってくれないことも多々あります。小さいがゆえに、光の状態が良くないと出来上がった写真はどことなく精彩を欠いてしまうことも少なくありません。
光を調整するといっても限界があるのですが、比較的よく使うのがレフ板です。
ポートレート撮影などでは畳半分くらいもあるような大きなレフ板を使うこともありますが、野草撮影ではそんな大きなものは必要なく、私が使っているのは25cmx40cmほどの大きさで、二つに折りたためば半分の大きさになります。
このレフ板も自作品で、ボール紙にアルミホイルを張り付けただけのものです。できるだけコンパクトになるよう、真ん中から半分に折りたためるようにしています。
アルミホイルは光沢のある表と光沢の少ない裏側とがあるので、反射率で使い分けられるようにレフ板の半分に表側、もう半分に裏側を出して貼っています。また、光が拡散(乱反射)するように、アルミホイルをしわくちゃに揉んだものを使用しています。
草むらなどで光が十分に回っていないときなど、柔らかな光をあてて全体的に明るくするという目的で使用します。
また、二つ折りにできるレフ板をくの字に折ることで地面に自立させることができます。レフ板を手で持っていなくても済むということと、本来のレフ板の使い方ではありませんが、被写体の脇に立てることで風よけにもなります。野外で撮影していると風で花が揺れてしまうということもよくありますが、この小さなレフ板でも被写体ブレを防ぐことに大いに役立ってくれます。
手鏡(ミラー)とストロボスポット光アダプタ
レフ板は全体的に柔らかな光を回すために使いますが、部分的に強めの光を当てたいということもあります。周囲は暗めにして、花のところなど部分的に明るくしたいというような場合です。
レフ板に比べると使う頻度は低いのですが、お目当ての野草を引きたたせるために、私は手鏡とストロボを使うことがります。
まず手鏡ですが、カードサイズの小さな手鏡の中央部分だけを出して、周囲は黒い紙でマスクしたものを使います。
カードサイズと言えども、そんな大きな反射光は必要なく、直径3~4cmほどの大きさの反射面があればほぼ用が足ります。
手鏡と同じ大きさの黒い紙の中央をくり抜き、これを鏡に重ねて使うだけです。くり抜く大きさのものを数種類用意しておけば便利かもしれません。
手鏡程度であれば荷物にもならなく便利ではありますが、光の調整ができません。太陽の光をもろに反射させるので、結構強い光が当たります。周囲が影になっているときだとコントラストがとても高くなってしまうので、使い方を誤ると失敗作をつくり出しかねません。
手鏡に比べると荷物としてはかさばりますが、光の調整ができるのがストロボです。
マクロ撮影などで影ができないリングストロボを使う方も多いと思いますが、全体を明るくするのではなく、あくまでもスポット光を手に入れたいということなので、私はごく普通のクリップオンストロボ(しかもかなり昔の製品)を使っています。
ただし、ストロボそのままでは照射される光がかなり広範囲に広がってしまうので、ごく狭い範囲だけに照射できるようなアダプタを自作して使っています。
アダプタというほど大層なものではないのですが、100均のお店で黒色のストローを買ってきて、これを半分の長さに切って束ねただけのものです。これをストロボの発光窓の前に被せて使います。
ストローの直径が約5mm、長さが約90mmで、ストロボから発せられた光はここを通ることでほぼ直進成分の光だけに絞られます。斜め成分の光はストローの中を通る際に減衰してしまうので、照射される光は絞られたスポット光になります。
正面から見るとこんな感じになります。
これでもストロボの発光窓と同じくらいの大きさの照射光になってしまうので、さらに小さくするためにアダプタの先端に黒い紙で作ったマスクを取付けます。これで、直径3~4cmほどのスポット光になります。
ストロボ側で光量を調整できるので、作画意図に合わせた光を得ることができます。
半透明ポリ袋
手鏡やストロボとは反対に、光を拡散させて弱める目的で使用します。
使っているのはスーパーなどのレジ近くに置いてあるタイミーパック、いわゆる半透明のポリ袋です。このポリ袋をボール紙で作った四角い枠に張り付けただけのものです。
非常に薄い素材でできていて、光の透過率はかなり高いと思われるのですが、きれいに拡散されるので影になることなく柔らかな光にすることができます。ちょうど雲を通り抜けてきた光と同じような状態になります。
直射日光が当たっていてコントラストが高すぎるときは、雲がかかってくれないかなぁと空を仰ぎ見ることがありますが、そういときに限って青空が広がっているものです。そんな時にこのポリ袋を被写体の上の方に置くだけで、雲がかかった時のような光の状態になります。
サイズは大きい方が使い勝手は良いと思うのですが、大きすぎるとカメラバッグに入らなくなってしまうので、スーパーのレジに置いてある程度の大きさが手ごろではないかと思います。
洗濯ばさみ
屋外で野草撮影していて以外に重宝するのが洗濯ばさみです。
洗濯ばさみをそのまま使うのではなく、私は洗濯ばさみどうしを紐でつないだものと、菜箸の先端に洗濯ばさみを括り付けたものの2種類をカメラバッグに入れて持ち歩いています。
これらをどう使うかというと、まず、洗濯ばさみどうしを紐でつないだ方ですが、これは撮影に際に邪魔になる枝や草などをちょっと脇に避けてもらうときなどに使います。枝を折ったり草を切ってしまうわけにはいかないので、これを洗濯ばさみでつまんで引っ張って、もう一方の洗濯ばさみをほかの木の枝なり三脚なりに挟みます。これで、撮影が終わるまでの暫時、邪魔になるものに避けてもらうことができます。
菜箸の先端に括り付けたほうも目的は似たようなものですが、こちらは地面に刺して使うことが多いです。紐でつないだ洗濯ばさみの一方を止める場所がないときに、この菜箸を地面に刺してここに止めるとか、あるいは菜箸の先端の洗濯ばさみで避けたいものを挟み、菜箸を地面に刺すなどといった使い方です。もちろん、手で持っていることもできますが、地面に刺しておいた方が楽です。
また、上で紹介した半透明のポリ袋の枠をこれで保持するといった使い方もします。
なお、洗濯ばさみは挟む力が強すぎない木製のものを使用しています。
自然のものはあるがままの状態で写すべきとも思いますが、時にはどうしてもフレームの中に入ってほしくないものがあるのも事実で、そういったときに使っています。
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フィールドでの野草撮影は結構手間がかかります。被写体が小さいというのもありますが、光の状態などによって全く雰囲気が変わってしまうので、気に入った光、気に入ったアングルなどを決めるのに時間がかかります。その間にも状況はどんどん変わっていってしまいます。自然の状態にできるだけ手は加えたくないと思うのですが、最低限の処理で撮影をするようにしています。
野草撮影といってもそうそう珍しい花に出会えるわけではありませんが、植物図鑑やネット上の記事でしか見たことのない野草に出会ったりするとやはり嬉しいものです。
一方で、昨年ここに咲いていたはずなのに、今年はなくなっていたなんていうこともあり、環境の変化で生きていけなくなったのか、盗掘によるものなのかはわかりませんが、寂しい思いをすることもあります。
どちらかというと華やかさはなく地味なものが多い野草ですが、野生で生きていく力強さも相まって何とも魅力のある存在です。
(2024.8.23)