レンズの性能や特性を測定したり評価したり方法はたくさんあり、なじみの深いところではMTF曲線などが挙げられますが、いずれも高性能の測定機器が必要で、私のような素人が測定することはできません。これら、メーカーなどから公表されている数値は信頼性も客観性も高いであろうと思われるので、それを見ることである程度のレンズの特性を把握することはできます。
しかし、実際に我々が撮影する被写体は精巧につくられたテストチャートではないので、メーカーから公表された数値を実際の写りにあてはめて認識するのは意外と難しかったりします。
MTFをはじめとする様々な数値はとても重要なものですが、素人にとっては直感的、かつ視覚的に写りに関する特性が把握できた方がありがたいのではないかと思い、レンズのピントやボケ方を感覚的につかむことの出来るテストチャートを作ってみました。
レンズの性能を数値的、定量的に計測するものではなく、あくまでも主観的、感覚的につかむためのものです。また、解像度を計測するフリーソフトもありますが、それらを使って解像度を測ろうというものでもないので、予めご承知おきください。
【Table of Contents】
ボケ具合確認用テストチャートのイメージ
今回作成したテストチャートは、ピントを合わせた位置から前後に離れるにしたがってボケがどのように変化していくかを視覚的に把握しようというのがいちばんの目的です。一般的な家庭にあるテーブルの上に置いて使えるようなコンパクトなものが望ましいのですが、今回は大判用レンズを対象にしようとしており、できるだけイメージサークルの周辺部までカバーできるよう、若干大きめのものをつくることにしました。コンパクトなものを用いた場合、イメージサークルの周辺部のボケ具合を見るためにはレンズをシフト、またはライズ、フォールすれば可能ですが、出来るだけニュートラルな状態で広い範囲をカバーできればそれに越したことはありません。
また、解像度を測定することが目的ではないので、レンズの焦点距離と撮影距離の関係等についても制約を設けていません。
ということで、作成するテストチャートはこんなイメージのものです。
長さ1mほどの板の上にテストチャートを等間隔に配置するという単純なものです。
テストチャートのパターンは一辺を4cmほどの大きさとし、これを横に3つ並べたものを使用します。これを板の表面に対して45度の角度がつくように設置します。
これを2枚用意して、それぞれ板の中央位置を合わせて横に並べて使います。2枚の板の間隔はレンズとテストチャートの距離やイメージサークルの大きさ、あるいはイメージサークルのどのあたり(中央部とか周辺部とか)を検証するかによって決めます。
2枚並べた板の中央部にはピント合わせ用のマーカーを配置すれば完了です。
これら2枚の板を45度の角度をつけて設置するとテストチャート面は垂直になるので、レンズの光軸は水平を保った状態で撮影します。
撮影場所等の関係で板を床に置いて使うような場合は、カメラの光軸を下に45度向けることでテストチャート面と直角の関係を保つことができます。
テストチャートパターンの作成
ボケの具合を確認するためのテストパターンは何でも良いのですが、思いつくままに10パターンほど作成した中からか3つのパターンを使うことにしました。
いずれも黒地に白でパターンを描いています。
左から、大小の円を並べたパターン、中央から放射状に延びるパターン、そして直線で構成された格子状のパターンです。厳密な測定をするわけではないので大きさや数は個人の感覚によるものであって、このようなパターンにした明確な根拠はありません。実際に使ってみて、不都合があれば作り直すといった感じです。
それぞれのパターンの一辺は約4cmです。これを横に3つ並べて1枚のテストチャートとしました。パターンの間隔は1mmほどありますので、テストチャートの大きさは42mmx124mmほどになります。
パターンのコントラストやエッジが綺麗に出るようにということで、印刷には写真用のプリント用紙を使いました。紙厚もあり腰もしっかりしているので歪んだりしなったりしないのも好都合です。
ちなみに、印刷に使用したプリンタは一般的な民生用のインクジェットプリンタ(キャノン製)です。
テストチャート貼付台の作成
次に、このテストチャートを45度の角度をつけて貼付・設置するための台の作成です。
台といっても大げさなものではなく、断面が直角二等辺三角形の三角柱のようなものをつくるだけです。
その展開図がこちらです。
今回は卓上カレンダーの紙を使いましたが、ケント紙くらいのちょっと厚手のしっかりした紙であればなんでも大丈夫です。
0.1mmの精度までは必要ありませんが、直角二等辺三角形の直角と45度は出来るだけ正確に出るように寸法取りをするのが望ましいです。この角度があまりずれているとボケに影響が出てしまいます。
実際に組み上げた写真がこちらです。
この貼付台をテストチャート用の板の上に設置するわけですが、板の両端にマグネットシートを接着し、そこにこの貼付台をくっつける方法をとります。そのため、貼付台の裏側にごく薄い鉄板を貼りつけておきます。
これはアマゾンで見つけたもので、サイズが100x200mm、板厚が0.2mmの鉄板が2枚入って330円ほどでした。鉄板といってもとても薄いのでカッターナイフやハサミで簡単に切ることができます。しかも、片面に両面テープがついているので、小さく切ってそのまま張りつけることができます。今回はこの鉄板を10mmx30mmほどにカットしました。貼付台を設置するための板の幅は10cmなので、その位置に鉄板があたるように張り付けています。
鉄板の表面には白い紙のようなビニールのようなものが張ってるのでわかりにくいですが、ちゃんとした鉄板で磁石にくっつきます。
何故、こんな面倒くさいことをするかというと、テストチャートの位置を自由に設定したいというのが理由です。使用するレンズの焦点距離やイメージサークルの大きさによってテストチャートの位置を変えることができた方が便利だろうということです。
次にこの貼付台に先ほどのテストチャートを貼りつけます。
糊で貼りつけてしまっても良いのですが、糊の水分で紙が波打つのが嫌なので両面テープを使いました。
これを必要個数だけ作ります。
今回は1枚の板に7個のテストチャートを置けるようにする予定なので、2枚分として合計で14個作りました。
ピント合わせ用マーカーの作成
これはなくても問題ないかも知れませんが、出来るだけレンズの中央でピント合わせをするのが望ましいだろうということで作りました。ピントを合わせやすいようなものであればデザインは何でも構いませんが、今回は十字を若干アレンジしたものにしました。
このマーカーも45度の角度をつけて設置できるよう、テストチャートの貼付台と同じものをつくり、そこに貼り付けます。
テストチャート用目盛りシートの作成
こうして出来上がったテストチャートを板の上に並べていけば良いのですが、等間隔に設置できるように、あるいはボケ具合を確認したい所定の位置に設置できるよう、目盛りシートをつくりました。あまり細かな目盛りは必要ないだろうということで、今回は5mm間隔にすることにしました。
ここで注意が必要なのが、テストチャートを45度の角度をつけて設置するので、その状態で見かけ上の目盛りの間隔(前後の奥行き)が5mmになるようにします。そのため、実際の長さの√2倍(約1.41倍)にする必要があります。
この目盛りシートを必要枚数作ります。
目盛りの数値は中央を0として、奥(遠く)に行く方向にプラス(+)の目盛り、手前(近く)にくる方向にマイナス(-)の目盛りを振っています。今回は+-それぞれ約34cm分の目盛りシートを作成しました。
テストチャート設置板の組み上げ
随分以前に何かに使おうと思って購入した長さ95cm、幅10cm、厚さ1cmの杉板があったので、これを使ってテストチャート設置板を組み上げることにします。
まず、板の表面の両端に幅20mmのマグネットシートを貼りつけます。
このマグネットシートは100円ショップで購入したものです。サイズは100mmx300mm、磁力は特に強いわけではありませんが、何しろ1枚100円なので文句は言えません。これでも紙製のテストチャート貼付台を保持するには十分すぎるくらいです。片面に両面テープがついているので、これを20mm幅に切断して板の両端に貼っていきます。
マグネットシート2枚半で2枚の杉板の両端に貼り付けることができます。マグネットシートを節約したい場合は幅を10~15mm程度と細くすれば2枚で足ります。
マグネットシートを貼った杉板の中央に幅60mmのスペースができるので、ここに目盛りシートを貼っていきます。
杉板の中央に0の目盛りが来るように張っていきます。これも糊よりは両面テープの方が良いと思います。糊だとどうしても紙が伸びてしまい、せっかく正確に寸法取りしたのが無駄になってしまいます。
組み上がった設置板がこちらです。
これを2枚作って並べ、その中央にピント合わせ用のマーカーを設置するとこんな感じになります。
これを実際に使う場合ですが、45度の角度を保つように設置するか、もしくは床に平置きするか、いずれかの方法になります。
レンズの光軸を水平に保つのは水準器を使えばそれほど難しいことではないので、理想は設置板を45度の角度に保持することですが、何らかの保持具のようなものが必要になります。
また、レンズの光軸を下向き45度に保つことができれば、自由度が高いのは床に平置きだと思います。ピントマーカーからレンズ中心までの距離、および床面からレンズ中心までの高さが測定できれば、若干のずれはあると思いますが何とか45度を保つことができるのではと思います。
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今回作成したテストチャートの加工精度もさることながら、パターンやサイズが妥当なのかどうかは実際に試してみないとわかりません。
また、テストチャート設置板を45度の角度をもって保持するための仕組みも検討中ですが、大掛かりなものは考えておらず、テーブルの上に置いて簡単に実現できるものにしようと思っています。
なお、目盛り(スケール)をもっと細かくすれば、カメラのフォーカシングスクリーンとフィルム面の位置のずれの検証ができると思いますが、今のところ手持ちのカメラのピント位置がずれている様子もないので、そちらはあらためてトライしてみたいと思います。
連日の猛暑で撮影に出かける気力も減退気味で、夜なべ仕事にコツコツと工作をして作ってみましたが、近いうちに使い勝手も含め、実際に撮影したものをご紹介できればと思っています。
(2023.8.8)