写真用レンズの被写界深度とボケについて 

 カメラで写真を撮ったことのある方は被写界深度とかボケいうものを経験値として理解されている方も多いと思います。いまさら被写界深度について書くのもどうかと思いましたが、大判カメラで撮影していると結構気にすることが多くありますので、今回はそのあたりについて触れてみたいと思います。
 因みに写真のボケを英語では、「out of focus」と「blur」、そして「bokeh」の3通りがあるようで、out of focus はピントが合っていない状態、いわゆるピンボケで、blur は明瞭に写っていない状態、そしてbokeh はボケ味を意味するようです。今回対象としているのはout of focus 、すなわちピントの合っていないボケについてです。
 なお、3番目のbokeh は日本語のボケがそのまま英語になったらしく、もともと海外ではボケ味を鑑賞するという文化がなかったようです。ボケを味わうというのは日本独特の文化だったのかも知れません。

許容錯乱円と焦点深度

 実際のカメラ用レンズは複数枚のレンズで構成されていますが、最終的にレンズの後端から出る光路をつくり出す1枚のレンズとして考えることができます。また、レンズには収差が発生するので、厳密にはレンズから出た光が1点に収束することはありませんが、ここでは1点に収束する理想のレンズがあるとして話を進めます。

 無限遠からレンズに入ってくる平行光はレンズを通過した後、レンズの後側焦点に収束、つまり結像します。

 上の図で、無限遠からの平行光は後側焦点F’で1点に収束しますが、その前後は1点にならず、ある幅を持っており、焦点から離れるにしたがって大きくなっているのがわかります。ですので、ピントが合っているのは厳密には焦点の位置だけで、その前後はボケている状態であり、このボケている円のことを錯乱円といいます。
 ところが、この錯乱円が極めて小さい範囲においては、人間の眼にはピントが合っているように見える、つまりボケているようには見えないという状態で、ピントが合っているように見えるギリギリの位置の錯乱円のことを「許容錯乱円」とよびます。

 この許容錯乱円の大きさは長らく0.03mmという値が用いられてきました。実際にはあるところまではピントが合っているように見え、そこから先は急にボケているように見えるなどということはなく、徐々にボケ量が大きくなっていくわけですが、どこかで線引きをしなければならないのでこの値が決められたようです。
 ではなぜ、許容錯乱円径が0.03mmとされたのか詳しいことはわかりませんが、一説には視力1.0の人が一定の距離から一定の大きさに引き延ばされた写真を見たとき、その中の識別できる最小の点の大きさ、つまり分解能が約0.03mmであるというところからきているようです。

 また、許容錯乱円は撮像面(フィルム面)上での大きさなので、そこから同じ大きさに引き延ばしてプリントをした場合、撮像面が小さいほど拡大率は大きくなりますし、撮像面が大きいほど拡大率は小さくて済みます。この値が決められたころ、35mm版のネガなりポジからの引き延ばしを想定しており、その場合は許容錯乱円0.03mmが妥当であったかも知れません。しかし、それよりも小さなハーフサイズ版とかAPS-C版では許容錯乱円をもっと小さくする必要があるし、逆に中判とか大判の場合はもっと大きくしても差し支えないということになります。
 ただし、この値がフラフラしているとややこしくなるので、便宜上、ここでは許容錯乱円を0.03mmとして進めることにします。

 上の図で後側焦点の両側にできる錯乱円ですが、この円の直径が0.03mmのところが許容錯乱円になります。そして、後側焦点の位置から前側にある許容錯乱円までの距離を「前側焦点深度」、後側にある許容錯乱円までの距離を「後側焦点深度」といい、これらを合わせた距離を「焦点深度」とよんでいます。言い換えると、焦点深度とは錯乱円径が許容錯乱円径以下になる範囲ということになります。
 この焦点深度は許容錯乱円が一定とすると、レンズのF値によって決まる値で、レンズの焦点距離が長かろうが短かろうがF値が同じであれば焦点深度も同じになります。
 例として、焦点距離50mm F2と、焦点距離100mm F2のレンズの焦点深度を表したのが下の図です。

 レンズのF値は焦点距離と有効径で決まり、式で表すと以下のようになります。

   F = f / D

 ここで、FはレンズのF値、fはレンズの焦点距離、Dはレンズの有効径を表します。
 上の式から、焦点距離50mmで有効径25mmのレンズのF値はF2、焦点距離100mmで有効径が50mmのレンズのF値もF2となります。そして、これらのレンズに入射する無限遠からの平行光はレンズを通過した後は同じ光路を通って後側焦点に収束することになります。したがって、許容錯乱円も焦点深度も同じということになります。
 これは、被写体を同じ大きさになるように写した場合、レンズの焦点距離が違ってもF値が同じであれば同じようにボケるということを意味します。

 これらのことから焦点深度は許容錯乱円径とレンズのF値によって決まることがわかります。
 焦点深度を求める式は以下のようになります。

   焦点深度 = ±εF = 2εF

 ここで、εは許容錯乱円径[mm]、FはレンズのF値を表します。
 また、±の符号がついているのは焦点深度の向きが前側と後側で反対になるからであり、絶対値としては2倍になることを示しています。

 実際に2種類の焦点距離のレンズを用いて、被写体が同じ大きさになるように撮影したものが下の写真です。
 使用したのは焦点距離55mm(左)と105mm(右)のレンズで、いずれもF4で撮影しています。2本のレンズの焦点距離が2倍になっている方が望ましいのですが、そのようにぴったりのレンズがなかったのでできるだけ近い焦点距離のものを採用しました。

 レンズの焦点距離が約2倍の違いがあるので、被写体までの距離も約2倍の差がありますが、ボケ方はほぼ同じことがわかると思います。
 ただし、撮影距離が違うのでパースペクティブに差が出ています。短焦点レンズ(55mm)の方は手前のものが大きく、奥のものが小さく写っているのに対して、長焦点レンズ(100mm)の方は大きさの差が少なくなっています。主被写体を同じ大きさになるように写しても、短焦点レンズの方が画角が大きいので背景が広く、そして小さく写るというレンズの特性です。

焦点深度と被写界深度

 上で説明したように焦点深度は撮像面での振る舞いであり、普段あまり使うことはない用語かも知れません。一方、被写界深度という用語は使う頻度が結構高く、感覚的にもわかりやすいと思いますが、この焦点深度と被写界深度の関係について少し触れておきたいと思います。

 下の図はレンズの基本的な光路を描いたものです。

 まず、レンズの前方の任意の位置にある被写体S (緑色の矢印)を、比較的焦点距離の長いレンズを想定して撮像面に結像した状態を表したのが図3の①です。右側にある下向きの緑色の矢印S’の位置が撮像面になります。
 いま、この下向きの緑色矢印の位置を基準に前側焦点深度と後側焦点深度の位置に緑色点線で矢印を書き入れます(図3の② S1’、および S2′)。ここはピントが合っているとみなされるギリギリの位置ということになります(実際に焦点深度はもっと浅いのですが、わかり易くするために大きめにとっています)。
 次に、前側、後側焦点深度の位置にある緑色点線の矢印から、そこに結像するための被写体の位置を描き入れます。図3の②の左側に示した緑色点線の矢印S1、およびS2 がその位置になります。
 つまり、撮像面の焦点深度両端が、被写体ではどの位置になるかを示しており、これが被写界深度になります。

 この図で分かるように、焦点深度は前側も後側も同じ距離ですが、被写界深度は後側が大きく(深く)、前側が小さい(浅い)ことがわかると思います。被写界深度は手前に浅く、奥に深いと言われている所以です。

 次に、これよりも焦点距離の短いレンズを想定して同じように作図をしてみます。
 下の図の赤色の線が短い焦点距離のレンズの場合で、図3で用いたレンズの半分の焦点距離としています。なお、いずれも同じF値という想定で描いています。

 レンズから被写体までの距離が同じ場合、焦点距離が短いほど撮像面に写る被写体の像は小さくなるのは言うまでもありません。
 そして、この結像の位置から前後に、許容錯乱円の大きさとなる場所に赤色点線の矢印(S1’、およびS2′)を描き入れます。許容錯乱円の大きさは図3②の青色矢印と青色点線矢印の高さの差になるので、これと等しい差分になる位置が焦点深度の両端になります。
 次に赤色点線の矢印からそれぞれの被写体の位置に線を引き、そこに結像するための被写体の位置を赤色点線の矢印(S1、およびS2)で描き入れます。この図の左側にある赤色点線の矢印間(S1~S2)がこのレンズの場合の被写界深度になります。

 この図からも明らかなように、同じ距離の被写体を写した場合、焦点距離の短いレンズの方が被写界深度が深くなるのがわかると思います。
 また、被写体までの距離が大きくなれば焦点深度が深くなり、逆に被写体までの距離が短くなれば焦点深度が浅くなるので、被写界深度にも同様の影響が出ます。

 一眼レフ用のレンズなどはピントリングのところに被写界深度目盛りがついているものがほとんどですが、同じF値でも広角レンズの方が広範囲まで被写界深度内に入っていることと一致します。
 参考までにPENTAX67用の焦点距離55mm(左)と200mm(右)のレンズの被写界深度目盛りの写真を掲載します。

 上の写真でもわかるように、被写体までの距離を3mに合わせた場合、焦点距離55mmのレンズでは絞りF22で約1.5mから無限遠までが被写界深度内に入っています。一方、焦点距離200mmのレンズでは絞りF22で約2.8mから約3.2mまでしか入っていません。
 レンズの焦点距離によって被写界深度は大きく異なりますが、あくまでも被写体までの距離が同じという前提があることに注意してください。

被写界深度とボケ

 ここまでの内容から、被写界深度を決める要素は次の4つになります。

  1) レンズの焦点距離:f
  2) レンズのF値:F
  3) 被写体までの距離(撮影距離):a
  4) 許容錯乱円径:ε

 これらの要素から被写界深度を求める近似式は以下のようになります。

  前側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² + a・ε・F )

  後側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² - a・ε・F )

 上の2つの式から、分子の値を大きく、分母の値を小さくすれば被写界深度が大きくなることがわかります。アバウトな表現をすると、許容錯乱円径を一定とした場合、被写体までの距離aを大きく、F値を小さく、レンズの焦点距離を短くすれば被写界深度が深くなるということになり、撮影の際に感覚的に理解している内容と一致すると思います。

 数式だけではわかり難いので、撮影距離と被写界深度の関係をグラフにしてみました。
 わかりやすいように焦点距離50mmと100mmのレンズを対象に、絞りをF4、F8、F16にしたときのグラフで、縦軸に被写界深度、横軸に撮影距離をとっています。縦軸の被写界深度は上側が後側被写界深度、下側が前側被写界深度です。なお、横軸、縦軸とも対数目盛を用いています。

 これら2つのレンズで被写体を同じ大きさに写そうとした場合、言うまでもなく、被写体までの距離(撮影距離)は焦点距離50mmのレンズに対して100mmのレンズでは2倍になります。この時、F値が同じであればそれぞれの焦点深度も同じになりますが、被写界深度は被写体距離がさほど大きくないときは比較的近い値をとります。

 被写界深度はピントが合っているように見える範囲であり、厳密にはピントを合わせた位置から前後に変位すればするほどボケ量が大きくなっていくというのは前で述べたとおりですが、では、ボケ量がどれくらい変化するのかを近似式で求めてみます。

 任意の位置に被写体を置き、レンズから被写体までの距離をaとします。
 そして、この被写体の位置から前後に、ある相対量だけ変位した位置の点光源が撮像面上でどれくらいのボケ径になるかを計算してみます。
 レンズから被写体後方にある点光源までの距離をc、また、レンズから被写体前方にある点光源までの距離をc’とします。
 これを図で表すとこのようになります。

 ここで、被写体の位置にピントを合わせた状態で、後方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる後ボケ)b₁、前方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる前ボケ)b₂ を求める近似式は以下の通りです。

  b₁ = ( f/F ) ・ ( f (c-a)/c(a-f))

  b₂ = ( f/F ) ・ ( f (a-c’)/c'(a-f))

 上の式をもとに、焦点距離50mmと100mmのレンズについて計算した結果をグラフにしてみるとこんな感じになります。なお、被写体までの距離は5mとして計算しています。

 このグラフでのボケ径とは撮像面における錯乱円の大きさを意味します。つまり、このボケ径が許容錯乱円(0.03mm)以下であれば被写界深度の範囲内にあることを示しています。
 グラフの目盛りの範囲が大きすぎるので、被写体距離周辺部だけを拡大したのがこちらのグラフです。

 焦点距離100mmのレンズで絞りF4、被写体距離5mで撮影した時の被写界深度を近似式で計算すると、

   前側被写界深度 : 283.0mm
   後側被写界深度 : 319.1mm

 となります。
 このグラフでボケ径が約0.03mmのところを見ると、被写界深度の位置が被写体の後方が5.3m付近、前方が4.7m付近となっており、被写界深度との関係が一致しているのがわかると思います。

 ここまで述べてきたように、ボケの大きさや被写界深度を決定づける要素として、レンズの焦点距離、F値、被写体距離、背景や前景との距離などがありますが、それぞれが密接に関係し合っていて、単純にどれか一つの要素だけで被写界深度やボケ径が決まるわけではありません。例えば、焦点距離が長い方がボケる、というのは間違いではありませんが、それより短い焦点距離のレンズでも絞りを開いた方がボケは大きくなることもあるわけですから、それぞれの要素に前提条件をつけておかないと全く違った結果になってしまうなどということが起こり得ます。
 複雑な計算式を覚えておく必要はありませんが、要素の相互関係とそれによる振る舞いを理解しておくというのは大事なことだと思います。

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 撮影したい被写体を前にした時、どの範囲を撮るか(フレーミング)、パンフォーカスにするか、あるいはどこをぼかしたいか等々、自分の作画意図に合わせて出来上がるであろう写真を頭の中で想像しながらレンズの選択や撮影位置、露出などを決めています。
 被写界深度やボケ具合はカメラのファインダーを覗けばある程度確認はできますが、それが作画意図に合わなかった場合はレンズを変えたり場所を変えたりと、とても非効率です。
 露出も重要なことですが、被写界深度やボケというものも同じくらい写真の出来に影響を与える重要な構図の要素の一つだと思います。

(2024.9.10)

#ボケ #絞り #被写界深度 #焦点深度

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 シュナイダー Schneider の大判レンズ

 シュナイダー製の大判レンズにはいくつかのテレタイプがラインナップされていますが、このテレアートン Tele-Arton もその一つです。
 私はテレアートンについてあまり詳しくないのですが、シュナイダーの古いカタログを見ると、スタジオ撮影を意識して作られたレンズのように書かれています。つまり、風景などの被写体よりも、ポートレート撮影などに向いているということだと思います。
 テレタイプのレンズはその焦点距離に対してフランジバックが短かいという特徴がありますが、反面、レンズが大きく重くなってしまい、スタジオ撮影ならともかく、フィールドに持ち出すことを考えると携行性には劣ると言わざるを得ません。
 しかしながら、魅力のあるレンズであることも確かです。

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 の主な仕様

 他のレンズと同じように、テレアートンも改良が重ねられてきているのでたくさんのバージョンがありますが、私の持っているレンズは比較的新しいモデルだと思われます。新しいといっても、シリアル番号からすると1973年ごろにつくられたようですので、半世紀も前のレンズということになります。
 この数年後に発売されたテレアートンには「MC(マルチコーティング)」の称号がつけられていますが、私のレンズにはついていないのでシングルコーティングレンズです。前玉をのぞき込むと、シングルコーティングらしいあっさりとした色合いをしています。

 テレアートンに関する情報が少ないなかで、わかる範囲でこのレンズの仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ178mm(f16)
   レンズ構成枚数 : 5群5枚
   最小絞り : 32
   シャッター  : COPAL No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フランジバック : 約158mm (実測値)
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm (実測値)
   後枠外径寸法 : Φ51mm (実測値)
   全長  : 86.7mm (実測値)
   重量  : 512g (実測値)

 なお、フランジバック、寸法、および重量は私のレンズでの実測値です。カタログ値とは異なっているかもしれませんので、ご承知おきください。

 古いタイプのレンズにはレンズ構成が4枚とか6枚というものもあったようですが、後期モデルは5枚構成になっているようです
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ80mm前後のレンズに相当します。中望遠にあたる焦点距離で、まさにポートレート用として多用されているレンズに該当します。
 絞りの目盛りは32までしかありませんが、絞りレバーはさらに絞り込む方向に動かすことができ、F64くらいまで絞られる感じです。
 シャッターはコパルの1番が採用されていますが、後期モデルとは異なり、シャッター速度設定リングがギザギザのついた金属製のタイプです。触った感触や、回転させるとカチッとした動きなど、個人的にはこの方が好きです。
 前玉はシャッターの径と同じくらいあるのですが、長く前方に飛び出しているので絞りやシャッター速度目盛りがとても見易く、また、操作もしやすいです。

 イメージサークルは178mm(F16)と、焦点距離の割にはかなり小さめです。テレタイプではない通常の焦点距離105mmくらいのレンズよりわずかに大きいくらいですから、大きなアオリは使えません。4×5判を横位置で使用する場合、F22まで絞った状態でライズできる量は15㎜程度と思われます。
 フランジバックは約158mm(実測値)なので焦点距離に対してとても短く、一般的なフィールドカメラに装着した場合、よほどの近接撮影でない限り、可動レールがカメラベースからはみ出さすことなく使える長さです。長焦点レンズは繰り出し量が大きく、風などの影響を受けやすいのですが、フランジバックが短いとそのリスクも軽減されます。

 絞り羽根は7枚で、最小絞り(F32)まで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
 また、重量は512g(実測値)もあり、ズシッと重いレンズです。

テレアートン 270mm のボケ具合と解像度

 このレンズがどのような感じにボケるのか、以前に作成したテストチャートを用いてボケ具合を確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.7m離れた位置から撮影をしました。絞りは開放(F5.5)です。
 撮影した画像から、ピントを合わせた位置のテストチャート、後方に25cmの位置にあるテストチャート、および、前方に25cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 1枚目がピントを合わせた位置のもので、概ね、問題のないレベルだと思います。
 2枚目が後方25cmの位置にあるテストチャートで、後ボケ状態のものです。ボケ方自体は比較的柔らかな感じですが、ボケの中心付近に芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの中に元の図形が残っているというのが正しい表現かも知れません。細い線状のものだと、それが残る傾向が強い感じで、被写体の形状によっては気になるボケ方になる可能性があります。
 そして、3枚目が前方25cmの位置にあるテストチャートです。いわゆる前ボケですが、後ボケに比べるとすっきりとした感じのするボケ方です。ボケがいずれかの方向に偏ることもなく、概ね、均等なボケ方をしていると思います。多くの場合、前ボケは大きくなる傾向にあるので多少クセがあっても気にならないことが多いですが、柔らかくふわっとしたボケである方が望ましいのは言うまでもありません。

 前ボケの大きさ(ボケ径)の理論値を下の近似式で計算してみます。

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 この式に、

  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 270mm
  a : 主被写体までの距離 =2,700mm
  b : 点光源までの距離 = 2,450mm
  F : 絞り値 = 5.5

 をあてはめると、ピント位置から前方25㎝の位置にある点光源が約5mmの大きさになります。上の写真でも感触はわかると思いますが、そこそこ大きなボケが期待できると思います。

 また、参考までにISO-12233規格の解像度チャート(A4サイズ)も撮影してみました。

 掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでほぼ問題ないレベルだと思います。
 また、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測したところ、結果は2,163本という値が得られました。テストチャートを印刷したプリンタの性能が追いついていないので、A3サイズに印刷したテストチャートを用いればもう少し良好な結果が得られるかも知れません。

テレアートン 270mm の作例

 焦点距離270mmというレンズは4×5判で使用した場合、対角画角はおよそ32度なので、広い範囲を写し込むには被写体との距離をかなり大きくとる必要があります。ですので、広い範囲を写すというよりは、その中からある範囲を切り取るという写し方に向いています。

 まず1枚目は、きれいに色づいたカエデの紅葉を撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F11 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、オレンジ色から赤色へのグラデーションがとても綺麗です。
 薄曇りなので直接の日差しはありませんが、太陽の位置は後方になるので順光に近い状態です。上部の葉っぱの一部が反射で白く輝いているのがわかると思います。日差しが強いときは順光で撮影すると葉っぱの色が綺麗に出ませんが、柔らかな光だと順光状態でもきれいな色が出ます。

 背後には、かなり落葉してしまってますが茶色く色づいた枝を配しました。主要被写体のカエデから背後の木までの距離は2~3mほどでしょうか。カエデの葉っぱはなるべくぼかしたくなかったのでF11まで絞り込んでいます。背後の木がはっきりとし過ぎており、ちょっと絞り込み過ぎた感じです。カエデの葉の色が鮮やかなので背景に埋もれすぎることはありませんが、もう少しボケた方がよりカエデの葉が引き立ったと思います。
 ボケはクセがなく、素直な感じだと思います。

 画角は大きくないので、バックに余計なものが入り込まないのも270mmという焦点距離ならではという感じです。背景の選び方によってはかなり簡素化できるのも、このクラスのレンズの特徴の一つです。被写体の形が変わってしまうこともなく、また、被写界深度が浅すぎることもないので、不自然さもなく写すことができます。
 葉っぱの先端も綺麗に表現されているので解像力も問題ないと思います。

 2枚目は紅葉をバックに、まだ青々とした葉を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 紅葉はもちろん綺麗ですが、紅葉前の緑とのコントラストも美しいものです。季節の移り変わりを感じることのできる光景の一つかも知れません。
 写真を見ていただいてわかる通り、これを撮影した日は快晴で強い日差しが差し込んでいる状態です。逆光位置で紅葉を見るととても鮮やかに見えるものですが、コントラストが高くなりすぎてしまうのも事実です。

 そこで、カエデの木の近くにあった、まだ黄葉していない木の下に入り込んで撮影しました。上から下がっている一枝の葉っぱ全体にピントが合う位置を探し、その位置から紅葉を背景にしています。太陽はほぼ上部正面方向にあり、この葉っぱは透過光で見ている状態です。葉脈も綺麗に見えています。
 この枝までの距離は3mほど。もう少し近づいて背景の紅葉を大きくぼかしたかったのですが、ある程度の範囲を入れるのと、背景のボケ具合との妥協点がこの位置という結果になりました。
 背景も結構明るいので、その明るさに負けないように、そして、緑が濁らないようにということで露出は若干オーバー目にしています。そのため、葉っぱの色が本来の色より黄色っぽくなっています。

 シングルコーティングのレンズですが、この程度の逆光条件で、レンズに直接光があたっていなければフレアなども感じられず、ほとんど問題のないレベルで写ります。光の反射している箇所にはごくわずかの滲みも見られますが、ほとんど気にならないレベルです。

 さて、3枚目は紅葉したカエデの葉っぱをアップで撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/8 PROVIA100F

 近所の公園に比較的大きなカエデの木が何本もあり、そこで撮影したものです。
 木の下から見上げるようなポジションで撮っています。午前中の早い時間帯だったので太陽高度が低く、バックは日陰になっている状態なのでほぼ真っ黒に落ち込んでいます。数枚の葉っぱに木漏れ日があたったタイミングを見計らってシャッターを切っています。光があたっている葉っぱだけにすると画全体が散漫な感じになってしまうので、少し多めに入れています。

 主被写体である葉っぱまでの距離は2mほどだったと思います。マクロ撮影ほど近接はしていませんが、それでも、そこそこの大きさで撮影することができます。絞り開放で撮っているので、ピントが合っているのは葉っぱ1枚だけです。左上に行くに従いピントから外れていきますが、なだらかなボケ具合は好感が持てます。
 太陽は逆光の位置にあるのですが、このカエデの葉っぱにとってはトップライトに近い感じであり、そのため、立体感が損なわれてしまった感じの描写です。
 また、このような写真の場合、F5.5というのは若干物足りなく感じてしまいます。もう1段、絞りを開くことができれば、もっと柔らかくてだいぶ印象の違う描写になるだろうと思われます。

 前ボケの具合がわかる写真をと思って探したのですがなかなか適当なものがなく、ようやく春に写した桜の写真を見つけたので、最後にご紹介します。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 菜の花越しにしだれ桜を撮影したもので、個人的にはあまり気に入っていない写真なのですが、比較的、前ボケの出方がわかりやすいかと思います。
 しだれ桜までの距離は5~6mほどで、一番手前の菜の花までは1mもなかったと思います。桜のピンクに対して菜の花の黄色が強すぎるので桜の印象が薄れてしまった感じですが、菜の花のふわっと広がるようなボケ方は嫌味な感じがしません。レンズによっては前ボケがこってりと出過ぎるものもありますが、このレンズのボケは割と控えめといった印象です。色とか量に気をつければ効果的な前ボケを得ることのできるレンズだと思います。

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 私はテレタイプのレンズを数本持っていますが、実はその出番は決して多くありません。例えば、今回のテレアートン270mmに関しても、これを持ち出さずに250mmや300mmのテレタイプ以外のレンズを持ち出すことの方が圧倒的に多いです。レンズが大きくて重いというのと、イメージサークルが小さいというのが理由ですが、写りに不満があるわけではありません。むしろ、花の写真を撮ったりするときなどは、扱いやすいレンズだと思っています。

 また、50年も前のレンズですから、新しいレンズと比べると性能的にも劣るのでしょうが、厳しい条件での撮影でもない限り、十分な写りをするレンズだと思います。ボケ方も変なクセがなく好感が持て、ポートレート用ということを意識して作られたレンズというのもうなずけます。
 広い風景をダイナミックに撮るというのには向いていないかも知れませんが、重さを差し引けば風景撮影にも持っていきたい1本ではあります。

(2023.12.21)

#Schneider #シュナイダー #テストチャート #ボケ #レンズ描写

ローデンシュトック シロナーN Sironar-N 210mm 1:5.6 大判レンズのボケ具合

 私は大判カメラ用の焦点距離210mmのレンズを4本持っていますが、特段、210mmのレンズが好きで使用頻度が高いというわけではありません。最初は1本だけだったのですが、友人から使わなくなった210mmレンズを譲り受けたものもありますし、何と言っても中古市場に出回っているタマ数が多いため、つい買ってしまったなんていうものもあります。
 2年ほど前に衝動買いのようにゲットしたローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 もそんなレンズの一つです。それまでは210mmというと、もっぱらシュナイダーのAPO-SYMMARを使っていたのですが、Sironar-N を手にしてからその写りが気に入ってしまい、今では210mmというとSirona-Nの使用頻度が最も高くなっています。
 とにかく感覚的な説明しかできないのですが、シャープでありながら柔らかさの感じる描写というようなところが気に入っています。
 私はレンズの数値的性能に関しては無頓着で、描写が気に入るか否かで選択している傾向が大ですが、もう少し客観的に特性がつかめるかも知れないということで、数か月前に作ったテストチャートでボケ具合を確認してみました。
 あくまでも見た目のラフな確認であって定量的な計測ではないので、予めご承知おきください。

テストチャートを使っての撮影

 まずは、以前に作ったボケ具合確認用のテストチャートを用いて撮影を行ないました。ボケ具合確認用のテストチャートの詳細については、下記のページをご覧ください。

  「大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 このテストチャートを45度の角度をつけて設置し、これを2.1m離れた位置から撮影をしました。

 上の図のように、レンズの光軸を水平に保ち、光軸の先にピント合わせ用の十字のマーカーが来るようにして、ピントをこれに合わせます。
 撮影距離に特に理由はありませんが、離れすぎるとボケが小さくなりすぎて比較しにくいだろうし、かといって近すぎても良くないだろうということで、レンズの焦点距離の10倍ほどということで決めました。
 念のため、絞りは開放(F5.6)からF16まで、1段ずつ絞りを変えて撮影してみました。
 撮影した環境は自然光が入る室内ですが、撮影は光が強すぎない曇りの日に行ない、テストチャートに直接光が当たらないようにしています。また、陰にならないようにテストチャートは窓側に向けての撮影です。

Sironar-N 210mmのボケ具合

 実際にテストチャートを撮影した結果が下の写真です。

 中央にある十字型のマークのところにピントを合わせ、絞り開放(F5.6)で撮影したものです。
 前後に3個ずつのテストチャートを設置していますが、チャートの間隔は水平距離にして6cmごとに置いているので、中心から水平距離にして前後に18cmの範囲を写していることになります。チャートの位置が若干斜めになっているものもありますが、その辺りは大目に見てください。
 この画像でもボケ方の特徴のようなものがなんとなくわかりますが、もっとわかり易いように一番手前のチャートといちばん奥のチャートの部分を拡大したのが下の画像です。

 1枚目が一番手前(前ボケ)、2枚目がいちばん奥(後ボケ)の画像です。

 前ボケ(1枚目)は全体がふわっとした感じにボケています。ボケ方に厚みがあるというか、前に膨らんだような印象で、細かな部分はボケの中に溶け込んでしまっているといった感じです。レンズからこの最前列のテストチャートまでの距離は約1.9mですから、それほど大きなボケにはなりませんが、もっと距離を詰めればボケの大きさは格段に大きくなります。
 ちなみに、この距離における点光源が前ボケとなる大きさの理論値(近似式)は、

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 で計算できます。

 この式に、
  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 210mm
  a : 主被写体までの距離 =2,100mm
  b : 点光源までの距離 = 1,900mm
  F : 絞り値 = 5.6

 をあてはめて計算すると、最前列のテストチャートに点光源があったとして、そのボケ径B
は約3.95mmになります。更に、最前列のテストチャートが半分の0.95mの位置にあったとすると、そこの点光源のボケ径は約7.89mmになります。

 また、ボケの広がり方は均等であり、どちらかに片寄ったような広がり方ではないので、クセのない素直なボケ方だと思います。

 一方、後ボケ(2枚目)は柔らかくボケている中にも鮮明さが残っている感じです。ボケの広がり方はとても自然な感じがしますが、前ボケのように厚みのある感じはしません。また、前ボケに比べて元の形がわかり易いボケ方です。かといって、輪郭やエッジが強調されてしまっているようなことはなく、すっきりとした気持ちのよいボケ方だと思います。

 実際に花や風景などの被写体を撮影した場合、前ボケはフワッとベールをかけたように、そして後ボケは元の形を残しながらも緩やかに溶けていくといった感じになるように思います。
 対象とする被写体や個人の好みにもよると思いますが、後ボケが素直にとろけていく方が写真としては綺麗に見えるのではないかと思います。

 参考までに、上記と同じテストチャートを絞りF16で撮影したものを掲載しておきます。1枚目が最前列(前ボケ)のテストチャート画像、2枚目がいちばん奥(後ボケ)のテストチャート画像です。

 F16まで絞り込むと前ボケも後ボケも非常に似通っていて、区別がつきにくい状態です。

Sironar-N 210mmの解像力具合

 ボケ具合の確認用のテストチャートを撮影したついでなので、解像力をチャックするためのテストチャートの撮影も行ってみました。
 使用したのはISO-12233規格の解像度チャートですが、データをダウンロードして自宅で印刷したものなので品質や精度は十分ではありません。特に厳密な測定をするわけでもなく、解像力についての感触が得られればということで試してみました。

 実際に撮影したものが下の画像です。

 A4サイズに印刷したテストチャートがほぼファインダーいっぱいに入る位置でモノクロフィルムで撮影をしています。掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、2,000LW/PHのラインまで解像しているので問題ないのではないかと思うレベルです。
 実際にどれくらいの解像度が出ているのか、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測してみました。本来、このソフトはデジタルカメラの解像度を測定するものですが、撮影したフィルムをスキャナで読み取り、その画像ファイルをHYRes IVで解析するという、いたって簡単な方法で計測してみました。

 このソフトで計測した結果は2,247本でした。本来、このチャートでは2,450本くらいまで計測可能なようですが、使用したプリンターの性能がそこまで追いついていないようで、レンズの限界というよりはプリンターの限界といった感じです。撮影したネガを4,800dpiでスキャンした画像では、最も細いラインも認識できているので、レンズの限界はもう少し高いと思われます。
 また、今回は67判のフィルムを使って撮影しましたが、例えば4×5判で同じ範囲を撮影すれば解像度はより高まりますが、私の持っているプリンターではこれが限界です。テストチャートを倍の大きさのA3用紙に印刷すればプリンターの限界をカバーすることができ、より高い解像度の計測も可能になりますが、そこまでするほどでもなく、大体の感触は得られたと思います。

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 レンズの性能は高いに越したことはありませんが、私はそれほどレンズの解像度や性能に拘る方ではありません。むしろ、ボケなど目視でわかる写り具合が自分にとって気に入るかどうかということに重きを置いています。私は風景写真を撮ることが多く、解像度の高いレンズで撮影した写真は見ていて気持ちが良いですが、やはり写真の味わいに与える影響はボケ具合などの方が大きいと思います。
 ローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 は衝動買いしたレンズですが、解像度もさることながらボケ具合も好みです。ボケ方を定量的に示すのは難しく、どうしても主観的、定性的になってしまいますが、すっきりした中にも柔らかで素直なボケ方が気に入っています。

 私が持っている大判レンズの中で、かなり古いレンズや特殊なレンズを除けば写りの違いを特定するのはかなり難しく、比べて初めて分かる程度ですが、やはりこのように客観的に見てみるのもそれなりに意味があるように思います。

(2023年10月2日)

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