シュナイダー Schneiderの大判レンズ Gクラロン G-Claron 240mm 1:9

 クラロン Claron は等倍などの近接撮影用に作られたレンズにつけられた名称で、GクラロンのほかにCクラロン、Dクラロン、リプロクラロンなどがあります。私は大判用のGクラロンしか使ったことがありませんが、頭についている「G」はGraphicを意味しているようです。ちなみに、「C」はCopy、「D」はDocument、「リプロ」はReproductionを意味しているようで、いずれも近接撮影や複写用のレンズということで命名されているようです。
 私の持っているGクラロンは、シリアル番号からすると1975年前後に製造されたレンズのようです。製造からちょうど半世紀が経過したことになります。

 Gクラロンのシリーズはどれくらいの数が製造されたのか全く分かりませんが、中古市場を見てもそれほどたくさん出回っている感じもしません。近接撮影用ということで使う人も限られていたのかも知れませんが、写真館やスタジオなどで使われていたという話しも聞きます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の主な仕様

 Gクラロンは大きく分けて前期型と後期型があるようで、私の持っているレンズは後期型です。レンズ構成もずいぶん違うようで、前期型はダゴールタイプ、後期型はオルソメタータイプとのことです。いずれも前群と後群が対称に配置された設計のレンズです。
 レンズはシングルコーティングと思われ、あっさりした色をしています。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ298mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 90
   絞り羽根 : 10枚
   シャッター  : COMPUR No.1
   シャッター速度 : T、1~1/500
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ50.8mm
   全長  : 53mm

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ68mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の標準と中望遠の中間あたりに相当する焦点距離です。
 4×5判の対角画角が約36度、横位置に構えたときの水平画角が約29度、垂直画角が約22.5度ですから、準標準というにはちょっと長い感じです。私の場合、風景撮影で使う頻度はどちらかというと低めの画角です。画角だけを見るとポートレート向きかも知れません。

 シャッターはCOMPURの1番が使われています。絞りは90まであり、1/3段ごとにクリックが設けられています。また、絞り羽根は10枚で、円形とはいきませんが5枚羽根や7枚羽根に比べると滑らかな形状を保っています。
 私はCOMPUR製のシャッターを採用したレンズは数本しか持っておらず、コパル製のシャッターほど使い慣れてもいませんが、このシャッターも操作方法がちょっと変わっています。シャッター速度にB(バルブ)ポジションがなくT(タイム)ポジションのみで、BとTを兼用しているタイプです。そして、Tポジションの時はシャッターチャージをせずにシャッターレバーを押すとシャッターが開き、もう一度押すとシャッターが閉じる仕組みです。
 Tポジションでシャッターチャージをしても特に問題はありませんが、シャッターレバーを押してもチャージがリリースされることはありません。リリースするためにはシャッター速度ダイヤルをTポジション以外のところにセットし、そこでシャッターレバーを押すという操作が必要になります。

 また、絞り羽根を動かすレバーがシャッターチャージ用レバーと重なるような位置にあり、とても操作がしにくいのと、構図決めやピント合わせの際にシャッターを開くためのレバーもとても小さく、やはり操作しにくいのが難点です。

 イメージサークルは298mm(F22)ですので、4×5判で使う分には十分すぎる大きさがあります。
 開放絞りがF9と暗めですが、その分、レンズ全体が小ぶりなので携行には有難いです。フジノンのWシリーズに250mmのレンズがあり、焦点距離がほぼ同じですがフジノンのW250mmの開放絞りはF5.6で、明るいのは有難いのですがレンズがとても重くて携行には難儀します。F5.6とF9だと1+1/3段の違いがありますから、明るさをとるか携行性をとるかといったところで悩んでしまいます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.4m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF9(開放)で撮影したものです。1枚目がピントを合わせた位置、2枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート、そして3枚目が前方30cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 2枚目の後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ状態)を撮影したものを見ると、とても素直できれいなボケ方をしていると思います。ほんのわずかに芯のようなものが見て取れますが輪郭などは全く感じられず、なだらかにフワッとぼけているように思います。また、ボケ方に偏りもなく、どの方向にも均等なボケ方をしているのがわかります。
 次にテストチャートの3枚目の写真は前ボケの状態です。全体的に綺麗で素直なボケ方は同じですが、後ボケに比べるとボケ方が控えめな感じを受けます。こちらもわずかに芯が残っているように見えます。また、ボケ方は小さいですがボケに厚みが感じられ、全体がふっくらとしている印象を受けます。

 風景撮影などでよく使うF22まで絞り込んで撮影したテストチャートの写真も掲載しておきます。
 1枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ)、2枚目が前方30cmの位置にあるテストチャート(前ボケ)です。 

 前ボケ、後ボケともに綺麗で素直なボケ方をしています。

 参考までに、解像度確認用のテストチャートの中央部分を撮影したのが下の写真です。

 テストチャート自体の印刷精度があまり良くないのですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでレンズの解像度としては問題のないレベルだと思います。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の作例

 上でも書いたように、標準と準望遠の中間くらいの焦点距離ということで使う頻度はあまり高くありません。景色を広く取り込むには少々画角が狭すぎるのですが、ある程度限定された範囲を撮るには都合の良いときもあります。また、撮影ポジションやワーキングディスタンスに自由度がある場合は応用範囲が広がるレンズでもあります。

 まず1枚目は秋田県の田沢湖で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F9 1/15 Velvia100F

 湖畔にある木の枝が湖の方に張り出していて、その影が湖面に映っているのですが、波によって揺らいでいるところを撮りました。良く晴れた日だったので湖面が見事なまでにコバルトブルーになっていて、それによって木の枝の影も黒くならず、ブルーグリーンとでもいう色合いになっていました。
 波の具合によって湖面に映る影は常にその形を変えており、シャッターを切るタイミングがなかなか決められません。低速シャッターにすると波がぶれてしまうので、絞り開放にしてなるべく早いシャッター速度でと思いましたが、1/15秒が精一杯でしした。

 手前の石と奥の木の枝、そして湖面にピントを合わせたかったのでフロント部でアオリをかけていますが、画の下側と右上の葉っぱにはピントが合っていません。ボケ方としては素直な綺麗なボケだと思います。また、解像度も良好だと思います。
 撮影しているときには気がつかなかったのですが、手前の石の上にトンボがとまっていました。掲載写真の解像度を落としてあるのでわかり難いと思いますが、トンボの翅の模様までわかります。

 2枚目も同じく田沢湖で撮影した「たつこ像」です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F45 1/250 Velvia100F

 対岸の山の上に朝日が昇った瞬間で、たつこ像がシルエットになるよう、太陽にカメラを向けての撮影です。
 レンズの絞り羽根が10枚なので、太陽の周りに10本の光条が発生しています。
 シングルコーティングレンズなのでこのようなシチュエーションは苦手かた思いましたが、予想に反してくっきりとした画像が得られています。たつこ像の周囲に滲みのようなものもほとんど感じられず、輪郭がはっきりと出ています。また、山の稜線にある木々もはっきりと認識ができ、50年も前のレンズとは思えない解像度という感じです。

 この像の大きさは台座も含めると4mほどの高さがあり、それほど大きな像ではありません。撮影場所からたつこ像までの距離は20mほどだったと思うのですが、240mmという焦点距離のせいか、実際よりも大きく感じられます。このように周囲に遮るものがなく見通しのきく場所であれば、実際のレンズの焦点距離よりも短いレンズで撮影したような画をつくることが出来ます。

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 このレンズで撮影した写真はあまり多くないのですが、非常にシャープに写るという印象があります。同じシュナイダーのジンマーなどはもう少し柔らかな感じに写るように思うのですが、このレンズは複写用や近接撮影用に作られたということで、写り方に差があるのかも知れません。
 個人的にはシャープすぎるよりは若干柔らかさを感じる写りの方が好きなのですが、シャープに写った写真は気持ちの良いのも事実です。この辺りは好みによるものかも知れませんし、これらは被写体やその時のシチュエーションによって大きく異なりますが、今の時期、鮮やかな紅葉をアップで撮るといったような場合、このレンズの力が出るのではないかと思います。

 余談ですが、このレンズを購入(もちろん中古で)したのは7~8年前だったと思います。シャッターや絞りなどの動作自体は何ら問題はありませんでしたが、前玉にも後玉にもクモリがあり、分解して清掃をしてあります。今はとてもきれいなレンズです。
 なお、ダゴールタイプのレンズのシャープさは別物という話しをよく聞きます。前期型のGクラロンを見つけたらぜひゲットしたいと思っています。

(2024.11.12)

#Linhof_MasterTechnika #Schneider #シュナイダー #テストチャート #リンホフマスターテヒニカ #レンズ描写

ニコン Nikonの大判レンズ ニッコール NIKKOR-M 300mm 1:9

 日頃、私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、現在、私の手元にあるニコン Nikon のレンズはNIKKOR-M 300mm だけです。かつてはもう1本持っていたのですが手放してしまい、いまは1本だけになってしまいました。
 少し調べてみたところ、初代の300mm F9 レンズは1965年ごろに発売されたようですが、レンズ名の後に「M」がついたNIKKOR-M 300mm の発売は1977年とのことです。私の持っているレンズがいつ頃製造されたものか詳しくわかりませんが、ニコンの製品カタログなどを見てみると1980年代半ばごろではないかと思われます。

 このレンズ、ずいぶんと人気があるようで、中古市場や大手ネットオークションサイトでは安くても9万円ほど、高いものだと16万円とか18万円というものもあり、かなりの高額が設定されているようですが、実際にこのような金額で取引されているのかどうかは不明です。メーカーの希望小売価格が74,000円(税別)ですから、プレミアがついているという状態かも知れません。

ニッコール NIKKOR-M 300mm 1:9 の主な仕様

 いわゆるテッサータイプのレンズです。焦点距離300mmとは思えない小ぶりなレンズです。
 オルソメター型のNIKKOR-W シリーズにも焦点距離300mmのレンズがありますが、こちらは全長が94.5mm、重さが1,250gもあるヘビー級のレンズです。それに比べるとM300mmがいかに小さいかがわかります。
 また、当時のカタログには、「色収差は高度に補正されており、優れたパフォーマンスを発揮する」と書かれています。
 前玉をのぞき込むとマルチコーティングらしい色をしていますが、フジノンのレンズと比べるとわずかにあっさりした色合いのようにも思えます。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。ニコンのサイトに掲載されてる情報から抜粋したものです。

   イメージサークル : Φ325mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 3群4枚
   最小絞り : 128
   包括角度 : 55度(f9) 57度(f22)
   シャッター  : COPAL No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400秒
   フランジバック : 約290mm
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ42mm
   全長  : 43mm
   重量  : 290g

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ85mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の中望遠にあたる焦点距離です。
 4×5判の対角画角が約30度、横位置に構えたときの水平画角が約24度ですから、風景撮影などでは広く取り込むというよりは比較的狭い範囲を切り取るといった撮り方に向いています。ディスタンスを大きくとればそれなりに広い範囲を写し込むことができますが、とはいえ、やはり強調したい部分を切り取るという使い方の方がしっくりきます。

 絞りは128までありますが、そんなに絞って使ったことはありませんし、そこまで絞り込むと回折現象の影響が出過ぎてしまうのではないかと思います。絞り羽根は7枚で、最小絞りまで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
 シャッターはコパルの1番で、後期モデルの黒いタイプのものが採用されています。
 同じコパルのシャッターでも、私が主に使っているシュナイダーやフジノンに採用されているものはシャッター速度指標が固定されていて、そこを差す矢印が回転するのですが、ニコンに採用されているものは矢印が固定されていて、シャッター速度指標が回転するようになっています。どちらもレンズを正面から見たときに、リングを反時計回りに回転させるとシャッター速度が速くなるのは同じなのですが、シュナイダーやフジノンに慣れているので、ニコンのレンズを使うときは戸惑ってしまいます。

 イメージサークルは325mm(F22)もあり、8×10をカバーする大きさですので、4×5判で使う分にはどんなにあおってもケラレることはありません。
 フランジバックは約300mmなので、私が使ってるリンホフマスターテヒニカ45や2000では問題ありませんが、ウイスタ45SPだと無限遠の撮影はギリギリできますが、少し近いところの撮影ではレンズの繰り出しが限界でピントを合わせることができません。ウイスタで使う場合は延長レールや延長蛇腹が必要になります。
 しかし、何といってもレンズがコンパクトなのが最大のメリットで、ワイドタイプやテレタイプのレンズを持っていくと思えば、小ぶりなレンズであればもう1~2本持てるわけですから、フィールドに出るときにはとてもありがたい存在です。しかもレンズが軽いので、蛇腹を伸ばしても風などの影響を受けにくく、ブレの心配も軽減されます。

ニッコール NIKKOR-M 300mm のボケ具合

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約3m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF9(開放)で撮影したものです。1枚目がピントを合わせた位置、2枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート、そして3枚目が前方30cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 2枚目写真、後方30cmの位置にあるテストチャートを撮影したもの、つまり、後ボケ状態のものですが、全体的に癖のない素直なボケ方ではないかと思います。ボケの中にわずかに芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの周辺に行くにしたがってなだらかなグラデーションになっているので、後ボケが騒がしくなることはなく、柔らかな背景を作ってくれる感じのボケ方です。
 一方、テストチャートの3枚目の写真は前ボケの状態です。全体的に素直なボケ方は同じですが、後ボケに比べて芯の残り方が薄い感じがします。そのせいかどうかわかりませんが、後ボケよりも厚みがないというか、平面的な感じを受けます。
 また、後ボケも前ボケも二線ボケや年輪ボケのようなものは感じられません。

 参考までに、F22まで絞り込んで撮影したテストチャートの写真も掲載しておきます。
 1枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ)、2枚目が前方30cmの位置にあるテストチャート(前ボケ)を写したものです。

 F22というと、絞り開放(F9)から約2・2/3段絞り込んだ状態ですが、焦点距離が300mmなのでボケ量は結構大きく残っています。
 ちなみに、焦点距離300mmのレンズで3m先の被写体を撮る際、このテストチャートの前後30cmの範囲を被写界深度内におさめるためには、およそF120まで絞る必要があります。
 参考までに被写界深度の計算式は以下の通りです。

  前側被写界深度 = a²・ε・F /( f² + a・ε・F)
  後側被写界深度 = a²・ε・F /( f² - a・ε・F)

 ここで、
  a : 被写体までの距離
  f : レンズの焦点距離
  F : 絞り値
  ε : 許容錯乱円

 を表します。

 許容錯乱円を0.025mmとしてF値を逆算すると、およそ120となります。
 アオリを使わずに前後合わせて約60cmの範囲にピントを合わせようとすると、このレンズの最小絞りまで絞り込む必要があることになります。
 画角としては35㎜判の焦点距離85㎜のレンズ相当ですが、やはり焦点距離は長いので被写界深度はずいぶんと浅くなります。その分、ボケを生かした写真にすることができると言えます。
 ただし、この値は被写体まで3mというかなり近い距離での撮影の場合ですので、実際にこのレンズを使うようなシチュエーションではここまで絞り込まなければならないということは多くないと思います。

 蛇足ですが、テッサータイプのレンズは絞り込むと焦点の位置が移動するという話しを耳にすることがあります。このような現象はテッサーに限らず起こりうる可能性はあるのかもしれませんが、私はこのレンズを長年使っていても、そのようなことが気になったことは一度もありません。
 焦点の移動がどのような原因によるものか詳しくはわかりませんが、例えば、レンズの周辺部で発生する球面収差が絞ることにより補正がかかって、焦点が移動したように見えるのかも知れません。だとすると、このレンズのように大きなイメージサークルを持っている場合、ほとんど影響がないのでは、と思われます。

ニッコール NIKKOR-M 300mm の作例

 私は4×5判でいうところの広角系から標準系のレンズ、焦点距離でいうと75mm~210mmあたりのレンズを使うことが多く、300mmという焦点距離のレンズを使う頻度は高くありません。ですので、このレンズの特徴がわかりやすいような写真がなかなか見当たらないのですが、とりあえず3枚を選んでみました。

 まず1枚目は、今年5月に青森県の奥入瀬で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 NIKKOR-M 300mm 1:9 F22 4s Velvia50

 ここは、石ヶ戸休憩所から上流に30分ほど歩いたところにある「馬門岩」のすぐ近くです。
 道路のすぐ脇に垂直に切り立った岩があり、そこにたくさんの植物が根を下ろしていて、幽玄さを感じる景色がつくり出されています。曇り空のため一帯は薄暗いのですが、そのしっとりとした感じがこの景色にはぴったりです。時折、木漏れ日が差し込んだりすると岩肌が白く輝き、違った表情を見せてくれます。この写真も、中央右寄りあたりに日が差し込んだところを写しました。
 露光時間は4秒なので風で揺れてしまっている葉っぱも多くありますが、解像度としては申し分のない写りをしていると思います。掲載している写真は解像度を落としてあるのでわかり難いと思いますが、被写体ブレを起こしていない岩に張りついた小さな葉っぱなどはとてもシャープに写っていて、たった4枚のレンズでここまで写るのは本当にすごいと、あらためて思います。

 100メートル以上にわたってこのような岩壁が続いており、もう少し焦点距離の短いレンズを使うと広範囲を取り込めるのですが、そうすると周囲の木々などが入りすぎてしまい、岩の迫力が薄れてしまいます。いろいろな撮り方ができますが、ある程度離れた位置から歪みのない作画をしようとすると、画角が30度前後のレンズは向いていると思います。

 2枚目も同じく奥入瀬で撮影しました。

▲Linhof MasterTechnika 45 NIKKOR-M 300mm 1:9 F9 1s Velvia50

 川中の石の上に根を下ろした植物をアップで写しました。
 もっと広い範囲を景色として写す時は露光時間も長めにすることが多いのですが、ここでは背後の流れを雲のようにしたくなかったので、絞り開放(F9)で露光時間は1秒です。露光時間を4秒くらいにすると流れが白くなり、全体に柔らかな感じに仕上がりますが、流れている様子を表現するにはこれくらいが良い感じです。
 また、フロントティルトのアオリをかけるとパンフォーカスにすることもできるのですが、前後をある程度ぼかしたかったのでアオリは使っていません。そのため、右端の草にはピントが合っていません。大きくボケているわけではありませんが、とても素直なボケ方をしていると思います。

 被写体までの距離は10数メートルだったと思うのですが、できるだけ余計なものは入れたくなかったのでこのレンズを使いました。左右と下側をもう一回りくらい切り詰めた方が植物の力強さが表現できたかも知れません。当日持って行ったレンズの中で、焦点距離がいちばん長いのがこのレンズだったのですが、360mmくらいのレンズで撮りたかったという気持ちがちょっとありました。

 もっと近接撮影をしたサンプルをということで探したのですが見つからなかったので、3枚目は家の中でテーブルフォト的に撮影したものを掲載します。

▲Linhof MasterTechnika 45 NIKKOR-M 300mm 1:9 F9 2s PROVIA100F

 モデルは私が愛用している二眼レフカメラの PRIMOFLEX と minolta AUTOCORD です。
 向かって右側のミノルタAUTOCORDの「A」のところにピントを合わせ、ボケ具合を見たかったので絞りは開放にしています。黒いバックシートの上にカメラを置き、向かって左側からスポットライトを当てて撮影しました。
 被写界深度はとても浅く、ピントが合っているのは銘板の「AU」のあたりと、ビューレンズ左側の張り革のごく一部だけです。あとはすべてボケていますが、ボケ方は結構きれいだと思います。
 この写真では前ボケがほとんどなく、何とか前ボケの様子がわかるのがレンズに取り付けてあるフィルターの辺りですが、癖のないボケ方だと思います。
 後ボケは、PRIMOFLEX の側面にあるノブやストラップがわかりやすいと思うのですが、厚みが感じられるフワッとした感じのボケになっています。

 使用したスポットライトは何年か前に自作したものですが、少々、光が強すぎたようです。もう少し光量を落として露出をかけた方が良かったと思うのですが、とりあえず、ボケ具合はある程度写せたのではないかと思います。
 テーブルフォトを撮ることはほとんどありませんが、ボケ具合を見るためには効果的かも知れません。

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 冒頭でも書いたように、私はニコンのレンズを使った経験が非常に少ないので、ニコンのレンズの特性などについてはほとんど知りません。ですので、ニコン云々とかテッサーだからということではなく、純粋にニッコールM 300mm というレンズが気に入っているということでこのレンズを手放さずにいます。シャープな写り、素直なボケ、小さいながらもいい仕事をしてくれるレンズだと思います。
 ニッコールMシリーズには200mmというレンズもあり、私は使ったことはありませんがちょっとそそられるレンズです。

 テッサータイプのレンズは世の中にたくさんあって、どちらかというと廉価版というイメージもあるのですが、シンプルな構成であるがゆえにほかのレンズとはちょっと違う魅力を感じます。といっても、私はテッサータイプのレンズを何本も持っているわけではありませんが、あらためて手元にあるテッサータイプのレンズを使ってみると、世の中にテッサー好きの人が多いのも頷ける気がします。

(2024.7.14)

#ニコン #ニッコール #NIKON #NIKKOR #奥入瀬渓流 #テストチャート #レンズ描写

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 シュナイダー Schneider の大判レンズ

 シュナイダー製の大判レンズにはいくつかのテレタイプがラインナップされていますが、このテレアートン Tele-Arton もその一つです。
 私はテレアートンについてあまり詳しくないのですが、シュナイダーの古いカタログを見ると、スタジオ撮影を意識して作られたレンズのように書かれています。つまり、風景などの被写体よりも、ポートレート撮影などに向いているということだと思います。
 テレタイプのレンズはその焦点距離に対してフランジバックが短かいという特徴がありますが、反面、レンズが大きく重くなってしまい、スタジオ撮影ならともかく、フィールドに持ち出すことを考えると携行性には劣ると言わざるを得ません。
 しかしながら、魅力のあるレンズであることも確かです。

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 の主な仕様

 他のレンズと同じように、テレアートンも改良が重ねられてきているのでたくさんのバージョンがありますが、私の持っているレンズは比較的新しいモデルだと思われます。新しいといっても、シリアル番号からすると1973年ごろにつくられたようですので、半世紀も前のレンズということになります。
 この数年後に発売されたテレアートンには「MC(マルチコーティング)」の称号がつけられていますが、私のレンズにはついていないのでシングルコーティングレンズです。前玉をのぞき込むと、シングルコーティングらしいあっさりとした色合いをしています。

 テレアートンに関する情報が少ないなかで、わかる範囲でこのレンズの仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ178mm(f16)
   レンズ構成枚数 : 5群5枚
   最小絞り : 32
   シャッター  : COPAL No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フランジバック : 約158mm (実測値)
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm (実測値)
   後枠外径寸法 : Φ51mm (実測値)
   全長  : 86.7mm (実測値)
   重量  : 512g (実測値)

 なお、フランジバック、寸法、および重量は私のレンズでの実測値です。カタログ値とは異なっているかもしれませんので、ご承知おきください。

 古いタイプのレンズにはレンズ構成が4枚とか6枚というものもあったようですが、後期モデルは5枚構成になっているようです
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ80mm前後のレンズに相当します。中望遠にあたる焦点距離で、まさにポートレート用として多用されているレンズに該当します。
 絞りの目盛りは32までしかありませんが、絞りレバーはさらに絞り込む方向に動かすことができ、F64くらいまで絞られる感じです。
 シャッターはコパルの1番が採用されていますが、後期モデルとは異なり、シャッター速度設定リングがギザギザのついた金属製のタイプです。触った感触や、回転させるとカチッとした動きなど、個人的にはこの方が好きです。
 前玉はシャッターの径と同じくらいあるのですが、長く前方に飛び出しているので絞りやシャッター速度目盛りがとても見易く、また、操作もしやすいです。

 イメージサークルは178mm(F16)と、焦点距離の割にはかなり小さめです。テレタイプではない通常の焦点距離105mmくらいのレンズよりわずかに大きいくらいですから、大きなアオリは使えません。4×5判を横位置で使用する場合、F22まで絞った状態でライズできる量は15㎜程度と思われます。
 フランジバックは約158mm(実測値)なので焦点距離に対してとても短く、一般的なフィールドカメラに装着した場合、よほどの近接撮影でない限り、可動レールがカメラベースからはみ出さすことなく使える長さです。長焦点レンズは繰り出し量が大きく、風などの影響を受けやすいのですが、フランジバックが短いとそのリスクも軽減されます。

 絞り羽根は7枚で、最小絞り(F32)まで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
 また、重量は512g(実測値)もあり、ズシッと重いレンズです。

テレアートン 270mm のボケ具合と解像度

 このレンズがどのような感じにボケるのか、以前に作成したテストチャートを用いてボケ具合を確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.7m離れた位置から撮影をしました。絞りは開放(F5.5)です。
 撮影した画像から、ピントを合わせた位置のテストチャート、後方に25cmの位置にあるテストチャート、および、前方に25cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 1枚目がピントを合わせた位置のもので、概ね、問題のないレベルだと思います。
 2枚目が後方25cmの位置にあるテストチャートで、後ボケ状態のものです。ボケ方自体は比較的柔らかな感じですが、ボケの中心付近に芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの中に元の図形が残っているというのが正しい表現かも知れません。細い線状のものだと、それが残る傾向が強い感じで、被写体の形状によっては気になるボケ方になる可能性があります。
 そして、3枚目が前方25cmの位置にあるテストチャートです。いわゆる前ボケですが、後ボケに比べるとすっきりとした感じのするボケ方です。ボケがいずれかの方向に偏ることもなく、概ね、均等なボケ方をしていると思います。多くの場合、前ボケは大きくなる傾向にあるので多少クセがあっても気にならないことが多いですが、柔らかくふわっとしたボケである方が望ましいのは言うまでもありません。

 前ボケの大きさ(ボケ径)の理論値を下の近似式で計算してみます。

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 この式に、

  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 270mm
  a : 主被写体までの距離 =2,700mm
  b : 点光源までの距離 = 2,450mm
  F : 絞り値 = 5.5

 をあてはめると、ピント位置から前方25㎝の位置にある点光源が約5mmの大きさになります。上の写真でも感触はわかると思いますが、そこそこ大きなボケが期待できると思います。

 また、参考までにISO-12233規格の解像度チャート(A4サイズ)も撮影してみました。

 掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでほぼ問題ないレベルだと思います。
 また、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測したところ、結果は2,163本という値が得られました。テストチャートを印刷したプリンタの性能が追いついていないので、A3サイズに印刷したテストチャートを用いればもう少し良好な結果が得られるかも知れません。

テレアートン 270mm の作例

 焦点距離270mmというレンズは4×5判で使用した場合、対角画角はおよそ32度なので、広い範囲を写し込むには被写体との距離をかなり大きくとる必要があります。ですので、広い範囲を写すというよりは、その中からある範囲を切り取るという写し方に向いています。

 まず1枚目は、きれいに色づいたカエデの紅葉を撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F11 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、オレンジ色から赤色へのグラデーションがとても綺麗です。
 薄曇りなので直接の日差しはありませんが、太陽の位置は後方になるので順光に近い状態です。上部の葉っぱの一部が反射で白く輝いているのがわかると思います。日差しが強いときは順光で撮影すると葉っぱの色が綺麗に出ませんが、柔らかな光だと順光状態でもきれいな色が出ます。

 背後には、かなり落葉してしまってますが茶色く色づいた枝を配しました。主要被写体のカエデから背後の木までの距離は2~3mほどでしょうか。カエデの葉っぱはなるべくぼかしたくなかったのでF11まで絞り込んでいます。背後の木がはっきりとし過ぎており、ちょっと絞り込み過ぎた感じです。カエデの葉の色が鮮やかなので背景に埋もれすぎることはありませんが、もう少しボケた方がよりカエデの葉が引き立ったと思います。
 ボケはクセがなく、素直な感じだと思います。

 画角は大きくないので、バックに余計なものが入り込まないのも270mmという焦点距離ならではという感じです。背景の選び方によってはかなり簡素化できるのも、このクラスのレンズの特徴の一つです。被写体の形が変わってしまうこともなく、また、被写界深度が浅すぎることもないので、不自然さもなく写すことができます。
 葉っぱの先端も綺麗に表現されているので解像力も問題ないと思います。

 2枚目は紅葉をバックに、まだ青々とした葉を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 紅葉はもちろん綺麗ですが、紅葉前の緑とのコントラストも美しいものです。季節の移り変わりを感じることのできる光景の一つかも知れません。
 写真を見ていただいてわかる通り、これを撮影した日は快晴で強い日差しが差し込んでいる状態です。逆光位置で紅葉を見るととても鮮やかに見えるものですが、コントラストが高くなりすぎてしまうのも事実です。

 そこで、カエデの木の近くにあった、まだ黄葉していない木の下に入り込んで撮影しました。上から下がっている一枝の葉っぱ全体にピントが合う位置を探し、その位置から紅葉を背景にしています。太陽はほぼ上部正面方向にあり、この葉っぱは透過光で見ている状態です。葉脈も綺麗に見えています。
 この枝までの距離は3mほど。もう少し近づいて背景の紅葉を大きくぼかしたかったのですが、ある程度の範囲を入れるのと、背景のボケ具合との妥協点がこの位置という結果になりました。
 背景も結構明るいので、その明るさに負けないように、そして、緑が濁らないようにということで露出は若干オーバー目にしています。そのため、葉っぱの色が本来の色より黄色っぽくなっています。

 シングルコーティングのレンズですが、この程度の逆光条件で、レンズに直接光があたっていなければフレアなども感じられず、ほとんど問題のないレベルで写ります。光の反射している箇所にはごくわずかの滲みも見られますが、ほとんど気にならないレベルです。

 さて、3枚目は紅葉したカエデの葉っぱをアップで撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/8 PROVIA100F

 近所の公園に比較的大きなカエデの木が何本もあり、そこで撮影したものです。
 木の下から見上げるようなポジションで撮っています。午前中の早い時間帯だったので太陽高度が低く、バックは日陰になっている状態なのでほぼ真っ黒に落ち込んでいます。数枚の葉っぱに木漏れ日があたったタイミングを見計らってシャッターを切っています。光があたっている葉っぱだけにすると画全体が散漫な感じになってしまうので、少し多めに入れています。

 主被写体である葉っぱまでの距離は2mほどだったと思います。マクロ撮影ほど近接はしていませんが、それでも、そこそこの大きさで撮影することができます。絞り開放で撮っているので、ピントが合っているのは葉っぱ1枚だけです。左上に行くに従いピントから外れていきますが、なだらかなボケ具合は好感が持てます。
 太陽は逆光の位置にあるのですが、このカエデの葉っぱにとってはトップライトに近い感じであり、そのため、立体感が損なわれてしまった感じの描写です。
 また、このような写真の場合、F5.5というのは若干物足りなく感じてしまいます。もう1段、絞りを開くことができれば、もっと柔らかくてだいぶ印象の違う描写になるだろうと思われます。

 前ボケの具合がわかる写真をと思って探したのですがなかなか適当なものがなく、ようやく春に写した桜の写真を見つけたので、最後にご紹介します。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 菜の花越しにしだれ桜を撮影したもので、個人的にはあまり気に入っていない写真なのですが、比較的、前ボケの出方がわかりやすいかと思います。
 しだれ桜までの距離は5~6mほどで、一番手前の菜の花までは1mもなかったと思います。桜のピンクに対して菜の花の黄色が強すぎるので桜の印象が薄れてしまった感じですが、菜の花のふわっと広がるようなボケ方は嫌味な感じがしません。レンズによっては前ボケがこってりと出過ぎるものもありますが、このレンズのボケは割と控えめといった印象です。色とか量に気をつければ効果的な前ボケを得ることのできるレンズだと思います。

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 私はテレタイプのレンズを数本持っていますが、実はその出番は決して多くありません。例えば、今回のテレアートン270mmに関しても、これを持ち出さずに250mmや300mmのテレタイプ以外のレンズを持ち出すことの方が圧倒的に多いです。レンズが大きくて重いというのと、イメージサークルが小さいというのが理由ですが、写りに不満があるわけではありません。むしろ、花の写真を撮ったりするときなどは、扱いやすいレンズだと思っています。

 また、50年も前のレンズですから、新しいレンズと比べると性能的にも劣るのでしょうが、厳しい条件での撮影でもない限り、十分な写りをするレンズだと思います。ボケ方も変なクセがなく好感が持て、ポートレート用ということを意識して作られたレンズというのもうなずけます。
 広い風景をダイナミックに撮るというのには向いていないかも知れませんが、重さを差し引けば風景撮影にも持っていきたい1本ではあります。

(2023.12.21)

#Schneider #シュナイダー #テストチャート #ボケ #レンズ描写

ローデンシュトック シロナーN Sironar-N 210mm 1:5.6 大判レンズのボケ具合

 私は大判カメラ用の焦点距離210mmのレンズを4本持っていますが、特段、210mmのレンズが好きで使用頻度が高いというわけではありません。最初は1本だけだったのですが、友人から使わなくなった210mmレンズを譲り受けたものもありますし、何と言っても中古市場に出回っているタマ数が多いため、つい買ってしまったなんていうものもあります。
 2年ほど前に衝動買いのようにゲットしたローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 もそんなレンズの一つです。それまでは210mmというと、もっぱらシュナイダーのAPO-SYMMARを使っていたのですが、Sironar-N を手にしてからその写りが気に入ってしまい、今では210mmというとSirona-Nの使用頻度が最も高くなっています。
 とにかく感覚的な説明しかできないのですが、シャープでありながら柔らかさの感じる描写というようなところが気に入っています。
 私はレンズの数値的性能に関しては無頓着で、描写が気に入るか否かで選択している傾向が大ですが、もう少し客観的に特性がつかめるかも知れないということで、数か月前に作ったテストチャートでボケ具合を確認してみました。
 あくまでも見た目のラフな確認であって定量的な計測ではないので、予めご承知おきください。

テストチャートを使っての撮影

 まずは、以前に作ったボケ具合確認用のテストチャートを用いて撮影を行ないました。ボケ具合確認用のテストチャートの詳細については、下記のページをご覧ください。

  「大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 このテストチャートを45度の角度をつけて設置し、これを2.1m離れた位置から撮影をしました。

 上の図のように、レンズの光軸を水平に保ち、光軸の先にピント合わせ用の十字のマーカーが来るようにして、ピントをこれに合わせます。
 撮影距離に特に理由はありませんが、離れすぎるとボケが小さくなりすぎて比較しにくいだろうし、かといって近すぎても良くないだろうということで、レンズの焦点距離の10倍ほどということで決めました。
 念のため、絞りは開放(F5.6)からF16まで、1段ずつ絞りを変えて撮影してみました。
 撮影した環境は自然光が入る室内ですが、撮影は光が強すぎない曇りの日に行ない、テストチャートに直接光が当たらないようにしています。また、陰にならないようにテストチャートは窓側に向けての撮影です。

Sironar-N 210mmのボケ具合

 実際にテストチャートを撮影した結果が下の写真です。

 中央にある十字型のマークのところにピントを合わせ、絞り開放(F5.6)で撮影したものです。
 前後に3個ずつのテストチャートを設置していますが、チャートの間隔は水平距離にして6cmごとに置いているので、中心から水平距離にして前後に18cmの範囲を写していることになります。チャートの位置が若干斜めになっているものもありますが、その辺りは大目に見てください。
 この画像でもボケ方の特徴のようなものがなんとなくわかりますが、もっとわかり易いように一番手前のチャートといちばん奥のチャートの部分を拡大したのが下の画像です。

 1枚目が一番手前(前ボケ)、2枚目がいちばん奥(後ボケ)の画像です。

 前ボケ(1枚目)は全体がふわっとした感じにボケています。ボケ方に厚みがあるというか、前に膨らんだような印象で、細かな部分はボケの中に溶け込んでしまっているといった感じです。レンズからこの最前列のテストチャートまでの距離は約1.9mですから、それほど大きなボケにはなりませんが、もっと距離を詰めればボケの大きさは格段に大きくなります。
 ちなみに、この距離における点光源が前ボケとなる大きさの理論値(近似式)は、

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 で計算できます。

 この式に、
  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 210mm
  a : 主被写体までの距離 =2,100mm
  b : 点光源までの距離 = 1,900mm
  F : 絞り値 = 5.6

 をあてはめて計算すると、最前列のテストチャートに点光源があったとして、そのボケ径B
は約3.95mmになります。更に、最前列のテストチャートが半分の0.95mの位置にあったとすると、そこの点光源のボケ径は約7.89mmになります。

 また、ボケの広がり方は均等であり、どちらかに片寄ったような広がり方ではないので、クセのない素直なボケ方だと思います。

 一方、後ボケ(2枚目)は柔らかくボケている中にも鮮明さが残っている感じです。ボケの広がり方はとても自然な感じがしますが、前ボケのように厚みのある感じはしません。また、前ボケに比べて元の形がわかり易いボケ方です。かといって、輪郭やエッジが強調されてしまっているようなことはなく、すっきりとした気持ちのよいボケ方だと思います。

 実際に花や風景などの被写体を撮影した場合、前ボケはフワッとベールをかけたように、そして後ボケは元の形を残しながらも緩やかに溶けていくといった感じになるように思います。
 対象とする被写体や個人の好みにもよると思いますが、後ボケが素直にとろけていく方が写真としては綺麗に見えるのではないかと思います。

 参考までに、上記と同じテストチャートを絞りF16で撮影したものを掲載しておきます。1枚目が最前列(前ボケ)のテストチャート画像、2枚目がいちばん奥(後ボケ)のテストチャート画像です。

 F16まで絞り込むと前ボケも後ボケも非常に似通っていて、区別がつきにくい状態です。

Sironar-N 210mmの解像力具合

 ボケ具合の確認用のテストチャートを撮影したついでなので、解像力をチャックするためのテストチャートの撮影も行ってみました。
 使用したのはISO-12233規格の解像度チャートですが、データをダウンロードして自宅で印刷したものなので品質や精度は十分ではありません。特に厳密な測定をするわけでもなく、解像力についての感触が得られればということで試してみました。

 実際に撮影したものが下の画像です。

 A4サイズに印刷したテストチャートがほぼファインダーいっぱいに入る位置でモノクロフィルムで撮影をしています。掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、2,000LW/PHのラインまで解像しているので問題ないのではないかと思うレベルです。
 実際にどれくらいの解像度が出ているのか、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測してみました。本来、このソフトはデジタルカメラの解像度を測定するものですが、撮影したフィルムをスキャナで読み取り、その画像ファイルをHYRes IVで解析するという、いたって簡単な方法で計測してみました。

 このソフトで計測した結果は2,247本でした。本来、このチャートでは2,450本くらいまで計測可能なようですが、使用したプリンターの性能がそこまで追いついていないようで、レンズの限界というよりはプリンターの限界といった感じです。撮影したネガを4,800dpiでスキャンした画像では、最も細いラインも認識できているので、レンズの限界はもう少し高いと思われます。
 また、今回は67判のフィルムを使って撮影しましたが、例えば4×5判で同じ範囲を撮影すれば解像度はより高まりますが、私の持っているプリンターではこれが限界です。テストチャートを倍の大きさのA3用紙に印刷すればプリンターの限界をカバーすることができ、より高い解像度の計測も可能になりますが、そこまでするほどでもなく、大体の感触は得られたと思います。

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 レンズの性能は高いに越したことはありませんが、私はそれほどレンズの解像度や性能に拘る方ではありません。むしろ、ボケなど目視でわかる写り具合が自分にとって気に入るかどうかということに重きを置いています。私は風景写真を撮ることが多く、解像度の高いレンズで撮影した写真は見ていて気持ちが良いですが、やはり写真の味わいに与える影響はボケ具合などの方が大きいと思います。
 ローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 は衝動買いしたレンズですが、解像度もさることながらボケ具合も好みです。ボケ方を定量的に示すのは難しく、どうしても主観的、定性的になってしまいますが、すっきりした中にも柔らかで素直なボケ方が気に入っています。

 私が持っている大判レンズの中で、かなり古いレンズや特殊なレンズを除けば写りの違いを特定するのはかなり難しく、比べて初めて分かる程度ですが、やはりこのように客観的に見てみるのもそれなりに意味があるように思います。

(2023年10月2日)

#Rodenstock #ローデンシュトック #Sironar #シロナーN #テストチャート #ボケ #レンズ描写

大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 レンズの性能や特性を測定したり評価したり方法はたくさんあり、なじみの深いところではMTF曲線などが挙げられますが、いずれも高性能の測定機器が必要で、私のような素人が測定することはできません。これら、メーカーなどから公表されている数値は信頼性も客観性も高いであろうと思われるので、それを見ることである程度のレンズの特性を把握することはできます。
 しかし、実際に我々が撮影する被写体は精巧につくられたテストチャートではないので、メーカーから公表された数値を実際の写りにあてはめて認識するのは意外と難しかったりします。

 MTFをはじめとする様々な数値はとても重要なものですが、素人にとっては直感的、かつ視覚的に写りに関する特性が把握できた方がありがたいのではないかと思い、レンズのピントやボケ方を感覚的につかむことの出来るテストチャートを作ってみました。
 レンズの性能を数値的、定量的に計測するものではなく、あくまでも主観的、感覚的につかむためのものです。また、解像度を計測するフリーソフトもありますが、それらを使って解像度を測ろうというものでもないので、予めご承知おきください。

ボケ具合確認用テストチャートのイメージ

 今回作成したテストチャートは、ピントを合わせた位置から前後に離れるにしたがってボケがどのように変化していくかを視覚的に把握しようというのがいちばんの目的です。一般的な家庭にあるテーブルの上に置いて使えるようなコンパクトなものが望ましいのですが、今回は大判用レンズを対象にしようとしており、できるだけイメージサークルの周辺部までカバーできるよう、若干大きめのものをつくることにしました。コンパクトなものを用いた場合、イメージサークルの周辺部のボケ具合を見るためにはレンズをシフト、またはライズ、フォールすれば可能ですが、出来るだけニュートラルな状態で広い範囲をカバーできればそれに越したことはありません。
 また、解像度を測定することが目的ではないので、レンズの焦点距離と撮影距離の関係等についても制約を設けていません。

 ということで、作成するテストチャートはこんなイメージのものです。

 長さ1mほどの板の上にテストチャートを等間隔に配置するという単純なものです。
 テストチャートのパターンは一辺を4cmほどの大きさとし、これを横に3つ並べたものを使用します。これを板の表面に対して45度の角度がつくように設置します。
 これを2枚用意して、それぞれ板の中央位置を合わせて横に並べて使います。2枚の板の間隔はレンズとテストチャートの距離やイメージサークルの大きさ、あるいはイメージサークルのどのあたり(中央部とか周辺部とか)を検証するかによって決めます。
 2枚並べた板の中央部にはピント合わせ用のマーカーを配置すれば完了です。

 これら2枚の板を45度の角度をつけて設置するとテストチャート面は垂直になるので、レンズの光軸は水平を保った状態で撮影します。
 撮影場所等の関係で板を床に置いて使うような場合は、カメラの光軸を下に45度向けることでテストチャート面と直角の関係を保つことができます。

テストチャートパターンの作成

 ボケの具合を確認するためのテストパターンは何でも良いのですが、思いつくままに10パターンほど作成した中からか3つのパターンを使うことにしました。

 いずれも黒地に白でパターンを描いています。
 左から、大小の円を並べたパターン、中央から放射状に延びるパターン、そして直線で構成された格子状のパターンです。厳密な測定をするわけではないので大きさや数は個人の感覚によるものであって、このようなパターンにした明確な根拠はありません。実際に使ってみて、不都合があれば作り直すといった感じです。

 それぞれのパターンの一辺は約4cmです。これを横に3つ並べて1枚のテストチャートとしました。パターンの間隔は1mmほどありますので、テストチャートの大きさは42mmx124mmほどになります。
 パターンのコントラストやエッジが綺麗に出るようにということで、印刷には写真用のプリント用紙を使いました。紙厚もあり腰もしっかりしているので歪んだりしなったりしないのも好都合です。
 ちなみに、印刷に使用したプリンタは一般的な民生用のインクジェットプリンタ(キャノン製)です。

テストチャート貼付台の作成

 次に、このテストチャートを45度の角度をつけて貼付・設置するための台の作成です。
 台といっても大げさなものではなく、断面が直角二等辺三角形の三角柱のようなものをつくるだけです。

 その展開図がこちらです。

 今回は卓上カレンダーの紙を使いましたが、ケント紙くらいのちょっと厚手のしっかりした紙であればなんでも大丈夫です。
 0.1mmの精度までは必要ありませんが、直角二等辺三角形の直角と45度は出来るだけ正確に出るように寸法取りをするのが望ましいです。この角度があまりずれているとボケに影響が出てしまいます。

 実際に組み上げた写真がこちらです。

 この貼付台をテストチャート用の板の上に設置するわけですが、板の両端にマグネットシートを接着し、そこにこの貼付台をくっつける方法をとります。そのため、貼付台の裏側にごく薄い鉄板を貼りつけておきます。

 これはアマゾンで見つけたもので、サイズが100x200mm、板厚が0.2mmの鉄板が2枚入って330円ほどでした。鉄板といってもとても薄いのでカッターナイフやハサミで簡単に切ることができます。しかも、片面に両面テープがついているので、小さく切ってそのまま張りつけることができます。今回はこの鉄板を10mmx30mmほどにカットしました。貼付台を設置するための板の幅は10cmなので、その位置に鉄板があたるように張り付けています。
 鉄板の表面には白い紙のようなビニールのようなものが張ってるのでわかりにくいですが、ちゃんとした鉄板で磁石にくっつきます。

 何故、こんな面倒くさいことをするかというと、テストチャートの位置を自由に設定したいというのが理由です。使用するレンズの焦点距離やイメージサークルの大きさによってテストチャートの位置を変えることができた方が便利だろうということです。

 次にこの貼付台に先ほどのテストチャートを貼りつけます。
 糊で貼りつけてしまっても良いのですが、糊の水分で紙が波打つのが嫌なので両面テープを使いました。

 これを必要個数だけ作ります。
 今回は1枚の板に7個のテストチャートを置けるようにする予定なので、2枚分として合計で14個作りました。

ピント合わせ用マーカーの作成

 これはなくても問題ないかも知れませんが、出来るだけレンズの中央でピント合わせをするのが望ましいだろうということで作りました。ピントを合わせやすいようなものであればデザインは何でも構いませんが、今回は十字を若干アレンジしたものにしました。

 このマーカーも45度の角度をつけて設置できるよう、テストチャートの貼付台と同じものをつくり、そこに貼り付けます。

テストチャート用目盛りシートの作成

 こうして出来上がったテストチャートを板の上に並べていけば良いのですが、等間隔に設置できるように、あるいはボケ具合を確認したい所定の位置に設置できるよう、目盛りシートをつくりました。あまり細かな目盛りは必要ないだろうということで、今回は5mm間隔にすることにしました。
 ここで注意が必要なのが、テストチャートを45度の角度をつけて設置するので、その状態で見かけ上の目盛りの間隔(前後の奥行き)が5mmになるようにします。そのため、実際の長さの√2倍(約1.41倍)にする必要があります。

 この目盛りシートを必要枚数作ります。
 目盛りの数値は中央を0として、奥(遠く)に行く方向にプラス(+)の目盛り、手前(近く)にくる方向にマイナス(-)の目盛りを振っています。今回は+-それぞれ約34cm分の目盛りシートを作成しました。

テストチャート設置板の組み上げ

 随分以前に何かに使おうと思って購入した長さ95cm、幅10cm、厚さ1cmの杉板があったので、これを使ってテストチャート設置板を組み上げることにします。

 まず、板の表面の両端に幅20mmのマグネットシートを貼りつけます。
 このマグネットシートは100円ショップで購入したものです。サイズは100mmx300mm、磁力は特に強いわけではありませんが、何しろ1枚100円なので文句は言えません。これでも紙製のテストチャート貼付台を保持するには十分すぎるくらいです。片面に両面テープがついているので、これを20mm幅に切断して板の両端に貼っていきます。
 マグネットシート2枚半で2枚の杉板の両端に貼り付けることができます。マグネットシートを節約したい場合は幅を10~15mm程度と細くすれば2枚で足ります。

 マグネットシートを貼った杉板の中央に幅60mmのスペースができるので、ここに目盛りシートを貼っていきます。
 杉板の中央に0の目盛りが来るように張っていきます。これも糊よりは両面テープの方が良いと思います。糊だとどうしても紙が伸びてしまい、せっかく正確に寸法取りしたのが無駄になってしまいます。

 組み上がった設置板がこちらです。

 これを2枚作って並べ、その中央にピント合わせ用のマーカーを設置するとこんな感じになります。

 これを実際に使う場合ですが、45度の角度を保つように設置するか、もしくは床に平置きするか、いずれかの方法になります。
 レンズの光軸を水平に保つのは水準器を使えばそれほど難しいことではないので、理想は設置板を45度の角度に保持することですが、何らかの保持具のようなものが必要になります。
 また、レンズの光軸を下向き45度に保つことができれば、自由度が高いのは床に平置きだと思います。ピントマーカーからレンズ中心までの距離、および床面からレンズ中心までの高さが測定できれば、若干のずれはあると思いますが何とか45度を保つことができるのではと思います。

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 今回作成したテストチャートの加工精度もさることながら、パターンやサイズが妥当なのかどうかは実際に試してみないとわかりません。
 また、テストチャート設置板を45度の角度をもって保持するための仕組みも検討中ですが、大掛かりなものは考えておらず、テーブルの上に置いて簡単に実現できるものにしようと思っています。
 なお、目盛り(スケール)をもっと細かくすれば、カメラのフォーカシングスクリーンとフィルム面の位置のずれの検証ができると思いますが、今のところ手持ちのカメラのピント位置がずれている様子もないので、そちらはあらためてトライしてみたいと思います。

 連日の猛暑で撮影に出かける気力も減退気味で、夜なべ仕事にコツコツと工作をして作ってみましたが、近いうちに使い勝手も含め、実際に撮影したものをご紹介できればと思っています。

(2023.8.8)

#テストチャート