大判カメラでバレルレンズとソロントンシャッターを使う

 前回、ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズについて書いた中で、ソロントンシャッターについて触れましたので、今回はそれについて書きたいと思います。

 バレルレンズに代表されるような、シャッターが組み込まれていないレンズを用いて大判カメラで撮影を行なう場合、何らかの方法でシャッター機能を実現しなければなりません。秒単位の露光であればレンズキャップを外したり着けたりという方法で対応できますが、何分の一秒という短い露光が必要になると、人間の感覚と動作では無理があります。
 そんな問題を解決すべく、1890年頃にソロントン・ピッカード社によって開発されたのがソロントンシャッターだそうです。
 いまではその存在を目にする機会も非常にまれになってしまいましたが、バレルレンズを使うときは活躍をしてくれます。

ソロントンシャッターの仕組みと操作方法

 ソロントンシャッターというのは固有名詞というか製品名で、一般的にはローラーブラインドシャッターという分類に入るようです。
 私は今から17~8年前、初めて中古のバレルレンズを手に入れました。その後、シャッターを何とかしなければならないということで、ハンザ社製のソロントンシャッターを購入しました。記憶が定かではないのですが、当時は製品カタログにも掲載されている現行品であったような気がします。ですが、使う頻度もそれほど高くないだろうということで、私は中古品を購入しました。当時は中古カメラ店のジャンク箱の中にゴロゴロと入っていたのを憶えています。

 ソロントンシャッターは、使用するレンズによっていろいろな大きさが用意されているようですが、私が購入したのはレンズをはめる開口部の直径が83mmのものです。中程度の大きさだったと思います。このサイズを選んだのは、開口部が83mmあれば、4×5判で使うレンズのほとんどに対応できるだろうとの理由です。
 外枠は木製で、それはもう手作り感満載の製品です。

 このシャッターの仕組み自体は比較的シンプルです(下の図を参照)。

 長さが約30cmで、中央部分が窓(開口)になっているシャッター膜がドラムに巻き付けられています。ドラム内にはバネがあり、シャッター膜を巻き取り軸に巻き取るとこのバネが引っ張られ、シャッターがチャージされた状態になります。
 この状態で、巻き取り軸のロックを解除すると、バネの力でシャッター膜が走り、再びドラム側に巻き取られるという仕組みです。

 このシャッターの使い方ですが、まず、シャッター膜の巻き上げレバーを回して、シャッター膜の巻き上げを行ないます(上図の青い矢印)。
 このレバーは180度(半回転)回すと後膜が巻き上げられ、開口部が出た状態でロックされます。さらに半回転回すと先膜が巻き上げられ、同様にロックされます。つまり、2ストロークの巻き上げ操作になりますが、これでチャージ完了です。

 この状態でシャッターレバー(上図の赤い矢印)を持ち上げると、ロックが解除され、シャッター膜がドラム側に巻き取られていきます。シャッターレバーのところにはケーブルレリーズを取付けるネジ穴があり、実際にはここにレリーズを取付けてリリース操作、すなわち、シャッターを切る操作を行ないます。

 シャッター速度は上図の黄色の黄色い矢印のついたダイヤルで行ないます。
 私の持っているシャッターの場合、設定できる速度は1/15、1/30、1/45、1/60、1/75、1/90秒の6通りです。
 このダイヤルがついている面の反対側に、シャッター速度を示す目盛り板がついています。

 シャッター速度設定ダイヤルを回すと、ドラムのバネにテンションがかかるようになっていて、バネの引っ張る力が強まり、シャッター速度が上がるという仕組みのようです。
 しかしながら、その精度はあまり高いとは思えません。
 実際にシャッターを切ってみると、ガラガラというような音を立ててシャッター膜が巻き取られていき、開口部が通り過ぎる際には向こう側の景色がしっかりと見えます。その動きは何とも長閑で、ほほえましささえ感じられます。

 では、実際にどれくらいの速度で動いているのか、今さらながらではありますが、シャッター速度を計測してみました。
 その結果は以下の通りです。いずれも3回の計測値と平均値です。

  1/15 : 1/14.7 1/16.3 1/15.4  平均 1/15.4
  1/30 : 1/21.4 1/21.8 1/23.1  平均 1/22.1
  1/60 : 1/28.7 1/27.2 1/28.3  平均 1/28.1
  1/90 : 1/37.8 1/37.1 1/36.4  平均 1/37.1

 この結果から分かるように、1/15秒ではほぼ基準値、1/30秒では基準値の約1.35倍、1/60秒では約2倍、1/90秒では約2.5倍の露出がかかっていることになります。
 一方、ばらつきはそれほど大きくありません。

 はなから高い精度が出ることは期待していませんでしたが、まぁ、こんなものかという感じです。
 今まで、撮影の際には1/15秒と1/60秒しか使わず、経験値から1/60秒では-1段の補正をしていましたので、概ね、適正露出での撮影ができていました。

 なお、シャッター速度を変更する場合は、ドラムに掛けたテンションをいったん解除し、1/15秒のポジションに戻してから、再度、所定の位置までダイヤルを回すという手順をとった方が良いようです。

 また、このシャッターにはバルブ機能がついていて、上の図の緑矢印のレバーを動かす(図では下方向)と、巻き上げレバーが戻るときに180度回転したところで爪に引っかかり、シャッター膜の開口部が出た状態で止まります。つまり、露光状態になります。
 この状態で再度シャッターを切る操作をすると、この爪が外れてシャッターが閉じられる仕組みです。バルブというよりは、今のレンズで言うところのT(タイム)ポジションのような動きをします。

バレルレンズへの取付け

 さて、撮影するためにはレンズにシャッターを取付けなければなりませんが、レンズの鏡胴の外径と、シャッターの開口部の内径がぴったりと合うわけではないので、私は取付け用のアダプタを自作して、それで取付けをしています。
 使わなくなったフィルターの枠だけを利用し、バレルレンズの鏡胴にピッタリと嵌まるリングと、ソロントンシャッターの開口部にピッタリと入るリングを作成し、これらをステップアップリングで結合しています。

 上の写真で、レンズの上部に嵌めてある黒いリングが自作のアダプタです。
 シャッターの開口部にはめ込むリングは一つで済みますが、レンズの鏡胴に嵌めるリングは、使うレンズに合わせて複数個必要になります。

 これを大判カメラに取付けるとこんな感じになります。

 レンズの前側に箱がついて、何とも不格好ではありますが、昔の写真館のような雰囲気があります。上の写真ではWISTA 45に取付けていますが、本当は昔の木製カメラの方がしっくりくると思います。
 カメラとシャッターをこのような位置関係で縦長の状態で取り付けると、シャッター膜が上から下に向って走るようになります。ドラムのバネにかかる負荷を出来るだけ軽くしようと思って縦位置で使用していますが、横位置で使っている方もおられ、本当はどれが正しい使い方なのか私もよくわかりません。

 また、大判フィルムで撮影するときは、フィルムホルダーの引き蓋を引く前にシャッターをチャージしておかないと、フィルムが露光してしまいますので注意が必要です。

NDフィルターの取付け

 バレルレンズでシャッターが使えるようになるとはいえ、上でも書いたようにシャッター速度の精度が良くないので、実際に私が使っているシャッター速度は1/15と1/60秒くらいです。1/60秒は露出補正が必要ですが、2倍なので補正し易く、実用に耐えるといったところです。
 シャッター速度を変えるよりも、シャッター速度は固定にしたままで、レンズの絞りで対応する方が現実的な気がします。その方が露出の失敗も少なくて済むのではないかと思います。

 しかしながら、あまり絞りたくないという場合もあります。特にソフトフォーカスレンズの場合は絞り込んでしまうとソフト効果がなくなってしまうので、どうしても絞りを開いておく必要があります。

 そこで、NDフィルターで露出補正ができるよう、ソロントンシャッターの前側開口部にフィルターを装着できるようにしてあります。

 これも使わなくなったフィルターの枠だけを利用しています。使用しているのは82mm径のフィルター枠ですが、ソロントンシャッターの前側開口部の方がフィルター枠より少し大きいので、フィルター枠のネジの部分にプラバンを巻き付けて、前側開口部にピッタリと嵌まるようにしています。
 ここにNDフィルターを装着すれば露出補正ができます。ただし、何種類かのNDフィルターが必要になりますが、最近、よく見かけるようになった可変NDフィルターがあれば1枚で済みます。

 私はガラスを外してフィルター枠だけを使いましたが、無色のフィルターなどをそのままつければシャッター膜の保護にもなると思います。ですが、重くなるのであまりお勧めではありません。

 また、フィルター取付け枠があるとNDフィルター以外のフィルターを装着することもできるので、それなりに便利です。

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 私が使っているソロントンシャッターがいつ頃に作られたものかわかりませんが、今のところ、シャッター膜もしっかりしているし、精度はともかく、使える状態です。
 ですが、私がこれを持ち出すのは1年に数回ほどしかありません。バレルレンズ自体を使うことがまれなのですが、もともと手間のかかる大判カメラでの撮影に輪をかけて手間がかかってしまうことも理由の一つです。
 また、とりあえず撮影ができる状態ではありますが、1枚何百円もするシートフィルムを入れているときに、シャッター膜が走るガラガラというような音を聞くと、本当に撮影できているのかと不安になることがあります。

 しかしながら、シンプルな構造とはいえ実によく考えられていて、最初にこのシャッターを作った人を尊敬します。

(2022.10.8)

#ソロントンシャッター #バレルレンズ #ウイスタ45 #WISTA45