Wollensak VERITO ウォーレンサック ベリート 8・3/4 inchで撮る遠野(岩手県)

 ウォーレンサック Wollensak はアメリカのロチェスターにあった映像機器メーカーで、ベリート VERITO は高級軟焦点レンズとして有名です。私も今から15年くらい前に、ベリート8・3/4 inch(約220mm) F4 の中古品を購入しました。ベリートにもいくつかのモデルがあるようですが、私が持っているレンズはいわゆるバレルレンズと呼ばれるもので、その名の通り、樽のような寸胴鍋のような形状をしています。詳しいことはわかりませんが、多分、今から100年くらい前のレンズだと思われます。

 記憶があいまいなのですが、当時、10,000円くらいで購入したと思います。買ってはみたものの、このレンズを持ち出すのは年に1回程度といったところです。
 久しぶりにベリートを使ってみようと思い立ち、このレンズ1本だけを持って岩手県の遠野に行ってきました。遠野というと遠野物語のイメージが強いせいか、ノスタルジックな風景を思い浮かべてしまいます。ソフトフォーカス向きではないかと思い、遠野の地を選んでみました。

 このレンズにはシャッター機構が組み込まれていないので、今回は大判(4×5判)カメラに取付け、カメラ後部に中判カメラのPENTAX 67を取付けての撮影となりました。

荒神神社

 遠野の市街地から車で5分ほどのところにある神社で、田んぼの中にポツンと立っている姿が何とも風情があります。周囲は田んぼに囲まれていて、このお社にはどうやって行くのだろうと思ってしまいます。車道から数10mの距離で見ることができ、しかも道路の反対側には狭いながら駐車スペースがあります。この駐車スペースはこの農地の持ち主の方のご厚意で設置いただいているのではないかと思います。

 到着したのが早朝だったせいか、辺りは濃い霧がかかっていました。霧の影響で全体が柔らかく見えるところを更にソフトフォーカスで写すのもどうかと思いましたが、せっかくなので何枚か撮影をしました。

 背後には民家やガードレールなどが見えるのですが、うまい具合に濃い霧が隠してくれました。
 コントラストは高くありませんが、暗部の周囲にはやはりきれいなフレアがかかっています。霧との相乗効果でボケ過ぎてしまうかとも思いましたが、なかなかいい感じになっていると思います。田植えがされて間もない稲の苗のディテールもでているので、平面的になり過ぎずにいる感じです。

 日中になって日差しがあるときに、同じ場所を写したのが下の写真です。

 1枚目の写真よりもだいぶ右側に回り込んで写しています。じつは、早朝は霧で分からなかったのですが、近くで大規模な工事をやっているらしく、背後に巨大なクレーンが何基も林立していました。これが見事に入り込んでしまうので撮影位置をずらしたというわけです。
 やはり日差しがあると色の出方も違いますし、雰囲気も随分異なります。

卯子酉神社

 遠野ICを降りて車で走っていて偶然見つけた神社で、「うねどりじんじゃ」と読むようです。隣に公営の駐車場があるものの、民家に囲まれたような場所にある小さな神社です。卯年、子年、酉年の守り神である文殊菩薩、千手観音、不動明王を祀っているとかで、縁結びの神社として有名らしいです。
 何といってもこの神社は縄に結びつけられたたくさんの真っ赤な布が目を引きます。あちこちの神社で普通にみられる絵馬のようなものだと思うのですが、色が真っ赤なのでとてもインパクトがあります。

 境内はとても狭く、しかも大きな杉の木に囲まれているので薄暗いのですが、神社の背後は畑になっていて開けています。この明るい畑に赤い布を重ねる位置から撮影してみました。布の周囲に生じるフレアがとてもきれいだと思います。
 また、広く取り入れようとすると雑多なものが写り込んでしまうので、中望遠くらいで狭い範囲を切り取る方が作画しやすいと思います。
 普通のレンズで撮るとおどろおどろした感じがしてしまいますが、ソフトフォーカスだとそういった感じが消されるので適した被写体といえるかも知れません。

山口の水車小屋

 遠野というと何といってもカッパ渕が有名ですが、この山口の水車小屋も知名度という点ではカッパ渕に引けを取らないと思います。
 もうずいぶん昔になりますが、以前訪れたときは小屋もかなり傷んでいて水車も動いていませんでしたが、今回行ってみるとずいぶんきれいな小屋に生まれ変わっており、水車も軽快に回っていました。案内板には2015年に修理を行ったと書かれていました。

 この水車小屋自体はとてもレトロな感じなのですが、周囲には民家などの新しい建物がたくさんあったり、水車小屋のすぐ上を電線が通っていたりしており、それらを入れないようにしようとすると結構苦労します。小屋の背後には田んぼがあり、これを入れてある程度広く撮りたいのですが、そうすると入れたくないものがたくさん入り込んできてしまいます。
 一方、67判に220mmという焦点距離は中望遠になってしまい、広い範囲は取り込めず、窮屈な感じになってしまいます。
 小屋の周りをぐるぐると歩き回りながら、結局、このアングルからの撮影になりました。

 窮屈さはあるものの、ベリートらしい芯の残った描写はこの風景にぴったりという感じです。明るい部分と暗い部分の境界に生じるフレアに立体感があり、個人的には気に入っている描写です。明暗差がないと平面的になりがちなので、そのあたりに気をつけた方がより雰囲気のある仕上がりになると思います。

薬師堂近くの小さな祠

 山口の水車小屋のすぐ近くに薬師堂があり、道路に面したところに鳥居が立っています。この鳥居もなかなか風情があるのですが、その鳥居をくぐり、薬師堂に向かう途中でとても小さな祠を見つけました。高さは80cmほどでしょうか。

 よく晴れており、太陽もだいぶ高い位置にある時間帯なので、周囲の草むらの輝度はかなり高い状態です。背後は林になっているのですが、ここには日差しが当たっていないのでかなり暗く落ち込んでおり、ぼんやりと木々が写っている程度です。
 日差しが強く、露出をかけすぎると祠の質感が損なわれてしまうと思ったのですが、全体を明るめにしたかったのでオーバー目の露出にしました。
 個人的には、背後の土手の上部のフレアの出方が綺麗だと思っています。

田尻の石碑群

 遠野にはたくさんの石碑群があります。昔から神様や仏さまに対する信仰心が強かったのかもしれませんが、道しるべとなる石碑もたくさんあります。今のように地図やナビなどの便利なものがなかった時代、街道の分岐点に来た時にその先を示してくれる道しるべは旅人にとっては心強い存在であったであろうと想像できます。

 下の写真は田尻の石碑群と呼ばれている場所で、たくさんの石碑が存在しています。

 設置されている案内板には、ここは山口の街道と大槌街道の分岐点であったと記されています。ほとんどの石碑は傾いたり倒れたりしていますが、それでもその昔、ここを旅人が歩いていた光景が思い浮かぶようです。
 マンネングサの仲間ではないかと思うのですが、黄色の花が石碑の周囲に咲いており、とても癒される光景です。
 もう少し広い範囲を写したかったのですが、このすぐ右側にはコンクリート製の電柱が立っていたり、背後には建物があったりしたので、それらが入らないぎりぎりの範囲で写しました。早朝、霧が出ているときだと広い範囲が写せるかもしれません。

赤い鳥居

 中沢川の川沿いの道路を走っているときに偶然見つけた鳥居です。民家の入口のところにある小さな神社ですが、やはり遠野ではこのような神社も随所で見ることができます。遠野物語には氏神様にまつわる話がたくさんありますが、この神社も代々祀られてきた氏神様かもしれません。

 この写真は川を挟んだ対岸から撮影しています。
 背後に竹林があり、その緑と鳥居の赤のコントラストがとても綺麗だと思い、撮った1枚です。手前には枯れたススキが残っていて、今年、新たに伸びてきた緑の葉っぱとのコラボもいい感じです。
 太陽がほぼ真上にある順光の状態なので日陰の部分ができにくいのですが、竹林に明暗差があったので単調にならずにすみました。
 右の方から誰か歩いてきてくれないかなぁ、と思いながら30分ほど粘ってみましたが、ちょうどお昼の時間帯ということもあり、誰も来てくれませんでした。

猿ヶ石川堤防の庚申塚

 早池峰神社のさらに奥、遠野市と花巻市の境界あたりに源を発し、遠野の街中を通って北上川に合流する猿ヶ石川という比較的大きな川があります。ヤマメやアユ、サクラマスなどが釣れるらしく、釣り人には人気の川のようですが、台風や集中豪雨などで度重なる被害が起きた川でもあるようです。
 遠野での撮影もそろそろ引き上げようかと思っていたころ、猿ヶ石川の堤防沿いの道路を走っているとき、堤防脇に石碑群を見つけました。水神塔や庚申塔など、5基の石碑が並んでいます。

 堤防の上は桜並木になっていて、花の時期には美しい景色がみられるのだろうと思います。
 今は花ら見られないので、石碑群のすぐ上にある桜の木の根元部分だけを入れて撮ってみました。太陽はだいぶ西に傾きつつあり、この画の左方向から日が差しているのですが、部分的に日が当たる状態を待って撮りました。石碑の先端あたりに陽が差し込んでくれないかと期待したのですが、なかなか思い通りにはいかないものです。

アジサイ

 ちょうどアジサイが咲き始めており、あちこちで見ることができました。圧倒的に青紫や赤紫のアジサイが多いのですが、白いアジサイを見つけたので撮ってみました。アジサイは遠野でなくても撮れるのですが、近接撮影の事例ということで。

 白い花色を際立たせようと思い、大きな樹の下にあり、直射日光が当たっていない状態のアジサイを探しました。白い花を包み込むようなフレアがとても綺麗だと思います。まるで、地球を包む大気圏のようです。

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 遠野は花巻から東北横断自動車道(釜石秋田線)を使うと40分ほどで行くことができます。この道路ができる前、遠野を訪れたときはとても遠い印象を持ったものですが、いまは驚くほど近くなった感じがします。市内の道路も整備され、それなりに変貌を遂げていますが、遠野の一帯は独特の雰囲気を持った景色が広がっているように思います。
 私は撮影に行くときに最低でも4~5本のレンズを携行するのですが、今回のように1本だけを持って出かけるということは極めてまれです。しかも単焦点レンズなので、フレーミングなどには苦労することもありますが、制約のある中で工夫しながら撮るというのも写真の面白さかも知れません。

 今回、すべてカラーリバーサルフィルム(PROVIA 100F)で撮影を行ないました。条件によっては色収差が出ているところもありましたが、気になるほどではありませんでした。今のレンズと比べると解像度は劣ると思いますが、十分に実用のレベルであると思います。
 新しいソフトフォーカスレンズはフォギーフィルターをかけて撮ったような描写になるものが目立ちますが、このレンズはしっかりと芯が残っていて、そこにフワッとしたフレアが出る美しい描写をするレンズだと思います。

(2024.6.29)

#ソフトフォーカス #バレルレンズ #遠野 #ベリート #VERITO #PROVIA #プロビア

大判カメラでバレルレンズとソロントンシャッターを使う

 前回、ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズについて書いた中で、ソロントンシャッターについて触れましたので、今回はそれについて書きたいと思います。

 バレルレンズに代表されるような、シャッターが組み込まれていないレンズを用いて大判カメラで撮影を行なう場合、何らかの方法でシャッター機能を実現しなければなりません。秒単位の露光であればレンズキャップを外したり着けたりという方法で対応できますが、何分の一秒という短い露光が必要になると、人間の感覚と動作では無理があります。
 そんな問題を解決すべく、1890年頃にソロントン・ピッカード社によって開発されたのがソロントンシャッターだそうです。
 いまではその存在を目にする機会も非常にまれになってしまいましたが、バレルレンズを使うときは活躍をしてくれます。

ソロントンシャッターの仕組みと操作方法

 ソロントンシャッターというのは固有名詞というか製品名で、一般的にはローラーブラインドシャッターという分類に入るようです。
 私は今から17~8年前、初めて中古のバレルレンズを手に入れました。その後、シャッターを何とかしなければならないということで、ハンザ社製のソロントンシャッターを購入しました。記憶が定かではないのですが、当時は製品カタログにも掲載されている現行品であったような気がします。ですが、使う頻度もそれほど高くないだろうということで、私は中古品を購入しました。当時は中古カメラ店のジャンク箱の中にゴロゴロと入っていたのを憶えています。

 ソロントンシャッターは、使用するレンズによっていろいろな大きさが用意されているようですが、私が購入したのはレンズをはめる開口部の直径が83mmのものです。中程度の大きさだったと思います。このサイズを選んだのは、開口部が83mmあれば、4×5判で使うレンズのほとんどに対応できるだろうとの理由です。
 外枠は木製で、それはもう手作り感満載の製品です。

 このシャッターの仕組み自体は比較的シンプルです(下の図を参照)。

 長さが約30cmで、中央部分が窓(開口)になっているシャッター膜がドラムに巻き付けられています。ドラム内にはバネがあり、シャッター膜を巻き取り軸に巻き取るとこのバネが引っ張られ、シャッターがチャージされた状態になります。
 この状態で、巻き取り軸のロックを解除すると、バネの力でシャッター膜が走り、再びドラム側に巻き取られるという仕組みです。

 このシャッターの使い方ですが、まず、シャッター膜の巻き上げレバーを回して、シャッター膜の巻き上げを行ないます(上図の青い矢印)。
 このレバーは180度(半回転)回すと後膜が巻き上げられ、開口部が出た状態でロックされます。さらに半回転回すと先膜が巻き上げられ、同様にロックされます。つまり、2ストロークの巻き上げ操作になりますが、これでチャージ完了です。

 この状態でシャッターレバー(上図の赤い矢印)を持ち上げると、ロックが解除され、シャッター膜がドラム側に巻き取られていきます。シャッターレバーのところにはケーブルレリーズを取付けるネジ穴があり、実際にはここにレリーズを取付けてリリース操作、すなわち、シャッターを切る操作を行ないます。

 シャッター速度は上図の黄色の黄色い矢印のついたダイヤルで行ないます。
 私の持っているシャッターの場合、設定できる速度は1/15、1/30、1/45、1/60、1/75、1/90秒の6通りです。
 このダイヤルがついている面の反対側に、シャッター速度を示す目盛り板がついています。

 シャッター速度設定ダイヤルを回すと、ドラムのバネにテンションがかかるようになっていて、バネの引っ張る力が強まり、シャッター速度が上がるという仕組みのようです。
 しかしながら、その精度はあまり高いとは思えません。
 実際にシャッターを切ってみると、ガラガラというような音を立ててシャッター膜が巻き取られていき、開口部が通り過ぎる際には向こう側の景色がしっかりと見えます。その動きは何とも長閑で、ほほえましささえ感じられます。

 では、実際にどれくらいの速度で動いているのか、今さらながらではありますが、シャッター速度を計測してみました。
 その結果は以下の通りです。いずれも3回の計測値と平均値です。

  1/15 : 1/14.7 1/16.3 1/15.4  平均 1/15.4
  1/30 : 1/21.4 1/21.8 1/23.1  平均 1/22.1
  1/60 : 1/28.7 1/27.2 1/28.3  平均 1/28.1
  1/90 : 1/37.8 1/37.1 1/36.4  平均 1/37.1

 この結果から分かるように、1/15秒ではほぼ基準値、1/30秒では基準値の約1.35倍、1/60秒では約2倍、1/90秒では約2.5倍の露出がかかっていることになります。
 一方、ばらつきはそれほど大きくありません。

 はなから高い精度が出ることは期待していませんでしたが、まぁ、こんなものかという感じです。
 今まで、撮影の際には1/15秒と1/60秒しか使わず、経験値から1/60秒では-1段の補正をしていましたので、概ね、適正露出での撮影ができていました。

 なお、シャッター速度を変更する場合は、ドラムに掛けたテンションをいったん解除し、1/15秒のポジションに戻してから、再度、所定の位置までダイヤルを回すという手順をとった方が良いようです。

 また、このシャッターにはバルブ機能がついていて、上の図の緑矢印のレバーを動かす(図では下方向)と、巻き上げレバーが戻るときに180度回転したところで爪に引っかかり、シャッター膜の開口部が出た状態で止まります。つまり、露光状態になります。
 この状態で再度シャッターを切る操作をすると、この爪が外れてシャッターが閉じられる仕組みです。バルブというよりは、今のレンズで言うところのT(タイム)ポジションのような動きをします。

バレルレンズへの取付け

 さて、撮影するためにはレンズにシャッターを取付けなければなりませんが、レンズの鏡胴の外径と、シャッターの開口部の内径がぴったりと合うわけではないので、私は取付け用のアダプタを自作して、それで取付けをしています。
 使わなくなったフィルターの枠だけを利用し、バレルレンズの鏡胴にピッタリと嵌まるリングと、ソロントンシャッターの開口部にピッタリと入るリングを作成し、これらをステップアップリングで結合しています。

 上の写真で、レンズの上部に嵌めてある黒いリングが自作のアダプタです。
 シャッターの開口部にはめ込むリングは一つで済みますが、レンズの鏡胴に嵌めるリングは、使うレンズに合わせて複数個必要になります。

 これを大判カメラに取付けるとこんな感じになります。

 レンズの前側に箱がついて、何とも不格好ではありますが、昔の写真館のような雰囲気があります。上の写真ではWISTA 45に取付けていますが、本当は昔の木製カメラの方がしっくりくると思います。
 カメラとシャッターをこのような位置関係で縦長の状態で取り付けると、シャッター膜が上から下に向って走るようになります。ドラムのバネにかかる負荷を出来るだけ軽くしようと思って縦位置で使用していますが、横位置で使っている方もおられ、本当はどれが正しい使い方なのか私もよくわかりません。

 また、大判フィルムで撮影するときは、フィルムホルダーの引き蓋を引く前にシャッターをチャージしておかないと、フィルムが露光してしまいますので注意が必要です。

NDフィルターの取付け

 バレルレンズでシャッターが使えるようになるとはいえ、上でも書いたようにシャッター速度の精度が良くないので、実際に私が使っているシャッター速度は1/15と1/60秒くらいです。1/60秒は露出補正が必要ですが、2倍なので補正し易く、実用に耐えるといったところです。
 シャッター速度を変えるよりも、シャッター速度は固定にしたままで、レンズの絞りで対応する方が現実的な気がします。その方が露出の失敗も少なくて済むのではないかと思います。

 しかしながら、あまり絞りたくないという場合もあります。特にソフトフォーカスレンズの場合は絞り込んでしまうとソフト効果がなくなってしまうので、どうしても絞りを開いておく必要があります。

 そこで、NDフィルターで露出補正ができるよう、ソロントンシャッターの前側開口部にフィルターを装着できるようにしてあります。

 これも使わなくなったフィルターの枠だけを利用しています。使用しているのは82mm径のフィルター枠ですが、ソロントンシャッターの前側開口部の方がフィルター枠より少し大きいので、フィルター枠のネジの部分にプラバンを巻き付けて、前側開口部にピッタリと嵌まるようにしています。
 ここにNDフィルターを装着すれば露出補正ができます。ただし、何種類かのNDフィルターが必要になりますが、最近、よく見かけるようになった可変NDフィルターがあれば1枚で済みます。

 私はガラスを外してフィルター枠だけを使いましたが、無色のフィルターなどをそのままつければシャッター膜の保護にもなると思います。ですが、重くなるのであまりお勧めではありません。

 また、フィルター取付け枠があるとNDフィルター以外のフィルターを装着することもできるので、それなりに便利です。

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 私が使っているソロントンシャッターがいつ頃に作られたものかわかりませんが、今のところ、シャッター膜もしっかりしているし、精度はともかく、使える状態です。
 ですが、私がこれを持ち出すのは1年に数回ほどしかありません。バレルレンズ自体を使うことがまれなのですが、もともと手間のかかる大判カメラでの撮影に輪をかけて手間がかかってしまうことも理由の一つです。
 また、とりあえず撮影ができる状態ではありますが、1枚何百円もするシートフィルムを入れているときに、シャッター膜が走るガラガラというような音を聞くと、本当に撮影できているのかと不安になることがあります。

 しかしながら、シンプルな構造とはいえ実によく考えられていて、最初にこのシャッターを作った人を尊敬します。

(2022.10.8)

#ソロントンシャッター #バレルレンズ #ウイスタ45 #WISTA45

ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズは汚れがひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2群3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

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 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika #レンズ描写