前回はフロントライズ(レンズを上に移動する)のアオリについて触れましたが、今回はレンズを下に移動する「フロントフォール」のアオリについてです。
【Table of Contents】
ベッドダウンによるフロントフォール
フロントフォールはフロントライズに比べて仕様頻度が少なく、それが理由かどうかわかりませんが、フィールドカメラには単一の操作ではフロントフォールができないカメラも見受けられます。
代表的なフィールドカメラの一つであるトヨフィールドは、前枠(レンズ部)単独で下方に23mmの移動(フォール)ができますが、リンホフマスターテヒニカなどはニュートラルで前枠が最下部にありますので、フロントフォールするためにはベッドダウンをしたうえで、レンズ部を少し後ろに傾ける操作(フロントティルト)をしなければなりません。
リンホフマスターテヒニカをフロントフォールした状態が下の写真です。
ベッドダウンは本体との接合部分を支点に下に回転運動をしますので、下におろした角度と同じだけ、レンズを反対方向(後方)に傾けることで、レンズ面と撮像面(フィルム)の平行が保たれ、フロントフォールが実現します。
ただし、リンホフマスターテヒニカ45のベッドダウンは15度と30度の二通りしかできませんので、現実的にはかなり自由度が制限されたアオリということになってしまいます。
ティルトによるフロントフォール
そこで、もっと自由度の高いフォールをするために、ベッドダウンを使わずにレンズ部とバック部をそれぞれ傾ける(フロントティルト、バックティルト)ことでフロントフォールと同じ状態にすることができます。
下の写真でもわかるように、カメラを下に傾けた角度と同じだけ、レンズ部とバック部を後方に傾けます。
ベッドダウンする方法に比べて、カメラの可動範囲内であれば任意の角度で設定できるため、アオリの自由度は高くなります。
さて、このアオリですが、フロントライズは見上げた時に上方が窄まってしまうのを修正するのに対し、見下ろした(俯瞰)ときに上方が広がってしまうのを修正するために用いるのが多いのではないかと思います。例えば、高いビルから隣のビルを撮影するとビルの下の方が窄まり、上の方が広がって写ってしまいますが、これを修正する場合などです。
フロントフォールの効果
しかしながら、上でも書いたようにこのアオリを使う頻度は高くありません。実際にこのアオリを使って撮影した適当な事例が手元にないため、テーブルフォト的にスプレー缶を撮ってみました。
下の写真が普通に上から俯瞰して撮影したもの、その下の写真が同じ位置からフロントフォールして撮影したものです。窓際の自然光で撮影したために2枚の写真の光の状態が違い、色合いが若干異なってますが気にしないでください。
フロントフォールすることで被写体とレンズ面、フィルム面がほぼ平行になりますので、スプレー缶の下から上までがほぼ同じ太さになってます。
また、この写真ではよくわからないですが、俯瞰撮影した場合のピント面はスプレー缶を斜めに切る位置になりますが、フロントフォールした場合のピント面はスプレー缶の垂直面と平行になりますから、同じ絞りでもピントの合う範囲が広くなります。
ブツ撮りなどで被写体の形が変わってしまうのを好まない場合には効果的かと思いますが、被写体が高層ビルの場合、上方が広がっていたほうがビルの高さが感じられるという見方もあるかもしれません。また、自然風景で俯瞰撮影する場合でも、上方が広がるのを修正しなければならない必要性を感じることはあまりありません。そういう意味でも私にとっては、このアオリを使うことは稀です。
フロントライズでイメージサークルについて触れましたが、このアオリについても同様で、フォールできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。
(2021.1.24)