今回はフロントスイングのアオリについてです。フロントティルトはレンズ主平面を前後に傾けましたが、スイングはレンズ主平面を左右に傾けるアオリになります。フロントティルトを光軸まわりにカメラを90度回転させた状態と考えるとわかり易いかもしれません。
私の場合、フロントスイングはフロントティルトに比べると使用頻度は低めですが、風景撮影では重要なアオリの一つです。
【Table of Contents】
フロントスイングはこんな時に使うことが多い
フロントティルトはカメラの正面に広がっている面にピントを合わせたい時によく使いますが、フロントスイングはカメラの側面に広がっている面にピントを合わせたいときに使います。
例えば、すぐ手前から先の方まで続いている並木を撮る場合や、通りに沿って続く家並みを撮る場合、あるいは築地塀のようなものを撮るときなど、全体をパンフォーカスにしたいときなどに使うことが多いです。
実際にレンズをフロントスイングすると、下の写真のような状態になります。
テクニカルカメラの場合、スイングできる角度は30度前後が多いのではないかと思います。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ2000も左右それぞれ30度ですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。テクニカルカメラなので正確な角度目盛りがついているわけではありません。おおよその感覚で角度をつけることになります。また、スイングさせるためのダイアルのようなものがあるわけではないので、微妙に角度をつけたいという場合も、手で行なわなければなりません。
シャインプルーフの法則もフロントティルトと同様
フロントティルトのページでシャインプルーフの法則について触れましたが、こちらのアオリもフロントティルトに対して90度、回転しているだけで、基本的に振る舞いは同じです。
なお、シャインプルーフの法則の詳細については下記のページをご覧ください。
簡単に図を掲載しておきます。
フロントティルトの場合は、撮像面、レンズ主平面、被写体面の交点がカメラの上か下になりましたが、フロントスイングではこの交点がカメラの右、もしくは左になります(上の図ではレンズを右にスイングしているので、交点もカメラの右側にきています)。
フロントスイングの効果
実際にフロントスイングの効果を見ていただくために、車の模型を撮影してみました。
カメラに対して車を斜めに配置し、フロントフェンダーのあたりにピントを置いています。下の写真の1枚目がアオリなし、2枚目がフロントスイングを使用して撮影しています。
撮影データはいずれも下記の通りです。
レンズ 125mm 1:5.6
絞り F8
シャッター速度 1/15
2枚目の写真では車のフロントからリアまでピントが合っているのがわかると思います。
アオリの効果がわかり易いように、あまり絞り込まずに撮影していますので、車の向こう側(右サイド)にはピントが合っておらずボケています。これは絞り込むことで被写界深度を深くし、ピントを合わせることができます。
フロントスイングの例
また、実際に風景撮影でフロントスイングを使った作例が下の写真です。
東京都檜原村の払沢の滝です。
手前右にある木と奥にある滝の両方にピントを合わせるため、レンズを右にスイングしています。この写真では、木の幹と滝を結ぶ面をピント面と想定しています。
このため、この面から外れるところにある被写体にはピントが合いませんが、絞り込むことである程度カバーしています。例えば、手前右側の幹の奥にあたる辺りはピント面からずいぶん外れていますので、絞り込んでいますが被写界深度範囲からは外れています。
フロントスイングの注意点
フロントスイングは手前から奥に向かって斜めに配置されているとき、この面にピントを合わせることができるのは上で説明したとおりですが、このピント面から外れている被写体が大きくボケてしまうと妙に違和感を感じることがあります。
例えば、まっすぐに伸びた道路わきに植えられた街路樹並木を撮る場合、手前から奥までの木にピントを合わせることはできますが、道路にいる人や物がピント面から外れてしまいます。特にそれが近い位置にある場合、絞り込んでもピントが合わないことがあります。
このような状態を解消するために、下のようないくつかの方法が考えられますので、その場の状況や撮影意図に合わせて使い分けることが必要です。
(1)ピント面を並木と道路上の人や物の中間になる位置に移動し、双方を被写界深度内に入れる
(2)ピントが合わない被写体をフレーミングから外す
(3)撮影位置を変えてピント面に納まるようにする
上の(1)を簡単な図にしておきます。
これらはフロントティルトでも同じことが起きるわけですが、ティルトの場合、ピント面から外れるのが上方(例えば、目線より上の空間)、もしくは下方(例えば、地面より下)になり、ここには被写体がないことが多いので、そのような場合はあまり気になりません。
(2021.3.10)