檜原村 初夏の風景を大判カメラで撮る

 4月の後半、檜原村(東京都)に行ってきました。檜原村は都心から車で2時間ほどですが、東京都とはいえ、さすがに標高も高いので、都心よりも季節の進み方はずいぶん遅いようです。まさに新緑真っ盛りといった感じで、大判カメラで初夏の風景を撮ってみました。
 今回持ち出したカメラは、リンホフマスターテヒニカ2000です。

新緑と山桜のコラボレーション

 あきる野市を抜け、檜原街道を西(檜原都民の森方面)に行くと徐々に山深くなってきます。それでも道の両側には民家が見られますが、南郷の駐在所を過ぎたあたりから民家はめっきり減り、東京とは思えない豊かな自然が続きます。山々はまだ淡い色をしており、ところどころに桜(山桜と思われます)も咲いています。

 下の写真は走っている途中で見つけた山桜です。それほど大きな木ではありませんが、隣のオオモミジと思われる新緑とのコラボレーションがきれいだったので撮ってみました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON CM 105mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 この日は曇り空でしたが、強い日差しが当たっているよりは全体的に柔らかな描写になるので、このような被写体を撮るにはむいています。
 道路脇から撮っており、ワーキングディスタンスが制限されてしまうので、若干、広角寄り(105mm)のレンズでの撮影です。大きな木ではないので、あえて左右を切り詰めてみました。
 オオモミジの新緑の色が濁らないように、露出は少し明るめにしています。
 ほとんど無風状態でしたので、1/4秒の低速シャッターでもブレることなく写ってくれました。

矢沢を彩る新録

 檜原街道は南秋川に沿って走っていますが、この南秋川にはいくつもの支流が流れ込んでいます。矢沢もそんな支流の一つで、神奈川県との県境にある生藤山の山麓がその源流です。小さな沢ですが景観が美しく、被写体に富んでいます。矢沢に沿って林道があるのですが、残念ながら途中で通行止めになっていました。

 南秋川に合流する手前の橋の上から撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 水量は決して多くありませんが、とてもきれいな水が流れています。河原の白い石と木々の緑のコントラストが美しい景観をつくりだしています。
 渓谷の深さを表現しようと思い、川を左下に寄せ、急峻な右岸を多めに入れてみました。沢に張り出す左右の枝が重なりすぎないアングルから撮っています。

 また、全体をパンフォーカスにしたかったのでカメラのフロント部を少しだけ下にあおっていますが、左上の奥の木々は被写界深度を外れてしまっている感じです。

 この矢沢はこのような景観が上流まで続いているので、林道の通行止めが解除されたら源流まで行ってみたいと思っています。

山萌える

 この時期の檜原村は木々が芽吹いて間もない頃で、山全体が淡い色彩に覆われています。少し山の上の方に目をやると、緑というよりは「白緑(びゃくろく)」とか「薄萌葱(うすもえぎ)」といった名前がぴったりの色をしています。
 しかし、このような色は長くは続かず、日増しに濃くなっていきます。

 白緑というにふさわしい色合いをした景色に出会いました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 木によって色合いが微妙に異なり、何とも言えない美しさが作り出されています。所どころに桜が咲いており、淡い色を一層引き立てているように感じます。

 このような景観が広がっているので、どこを切り取るか非常に迷いますが、木々が最もこんもりと見えるアングルと、全体が単調なパターンにならないように所どころにアクセントとなるものが配置されるような構図を選びました。
 露出を切り詰めてしまうと、この淡い感じが消えてしまうし、露出をかけすぎると飛んでしまうし、非常に悩むところです。

 この色合い、ポジ原版をライトボックスで見ると息をのむ美しさですが、画面ではお伝え出来ないのが残念です。

ひっそりと佇む龍神の滝

 檜原村にはたくさんの滝がありますが、個人的に気に入っているのが「龍神の滝」です。檜原街道からすぐのところにあり、斜面に設けられた遊歩道を下っていくと容易に訪れることができます。
 落差が18mほどの滝で、かつてはかなりの水量があったようですが、いまはずいぶんと減ってしまい、一筋の糸のような滝です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 周囲は大きな木々でおおわれているため、昼間でも薄暗い状態です。時おり木漏れ日が差し込み、岩や水面に模様を描き出していたので、滝つぼのところだけを撮ってみました。
 昼なお薄暗いところにたたずむ雰囲気が壊れないよう、ごつごつした岩が黒くつぶれないぎりぎりのところまで露出を切り詰め、水が白く飛びすぎないようにしました。

 滝の全景を撮るには対岸からか、もしくは滝つぼから広角で見上げる構図になるかと思いますが、綺麗な滝なのでいろいろな撮り方ができると思います。
 水量は多くありませんが近づくと飛沫が飛んできますので、風の強い日などは要注意かも知れません。

 なお、この滝では滝行が行なわれ、それに訪れる人も多いらしいのですが、一度もお目にかかったことはありません。

 村域の9割以上が山林という檜原村ですが、それゆえにたくさんの自然に恵まれており、森林、渓谷、滝など、四季を通じていろいろな景色に出会うことができます。

(2021.6.4)

#檜原村 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #新緑

Mamiya 6 MF マミヤ6 MF レンズ編

 ニューマミヤ6シリーズ用として50mm、75mm、150mmの3本のレンズがラインナップされています。いずれもコンパクトで、優れた描写力を持ったレンズだと思います。マミヤの歴代のレンズのほとんどには「セコール」の名が冠されていましたが、このレンズにはその名がなく、「G」とだけ記されています。
 今回はこれら3本のレンズをご紹介します。

マミヤ G 75mm 1:3.5

 オルソメター型4群6枚構成のレンズです。66判では標準レンズに分類され、最短撮影距離は1m、フィルター径は58mm、画角は55°で、35mm判の40mmくらいのレンズの画角に相当します。3本のレンズの中では最も小ぶりで、まるで35mm判カメラ用のレンズのようです。

▲Mamiya G 75mm 1:3.5

 絞りリングは1段ごとのクリックで、1/2段のクリックはありません。中間絞り(例えばF8とF11の中間など)を使いたい時にはちょっと不便さを感じます。
 ヘリコイドは軽すぎず重すぎず、滑らかに動くので微妙なピントも合わせやすいです。

 オルソメターはツァイスの歴代レンズ中でも特に傑作と言われており、イメージサークルが大きいことや画面周辺まで破綻が少ないという特徴があるようです。そのためか、大判レンズによく使われているレンズ構成です。
 一方で、明るくできないという欠点があるようですが、このレンズは開放でF3.5の明るさを持っています。

 開放では自然でクセのない柔らかい描写をしますが、絞り込むにしたがってコントラストの高い、非常にシャープな描写になります。歪曲収差もほとんど感じられません。

 下の写真は高山市(岐阜県)のさんまち通りで撮ったスナップです。

▲さんまち通り  Mamiya 6 MF Mamiya G 75mm 1:3.5 F3.5 1/30 PROVIA100F

 雨が降り出しそうな薄暗い日でしたので絞り開放で撮っていますが、細部まで見事に解像しているのがわかります。カリカリしすぎないシャープな写りが気に入っています。

 一方、晴天の日に桜を撮ったのが下の写真です。

▲亀ケ城跡の桜  Mamiya 6 MF Mamiya G 75mm 1:3.5 F22 1/30 PROVIA100F

 青空と桜のコントラストがきれいに出ていると思います。最小絞り(F22)まで絞り込んでいますので、ほぼパンフォーカス状態で、桜の木の枝先も磐梯山も、とてもシャープに写っています。

 一般的に標準と言われるレンズよりも若干、短焦点(広角寄り)ですが、真四角なフォーマットなので個人的には非常に使い易い画角だと思います。

マミヤ G 50mm 1:4

 ビオゴン型5群8枚構成のレンズです。最短撮影距離は1m、フィルター径は58mm、画角は75°で、35mm判の28mmくらいのレンズの画角に相当する広角レンズです。75mmレンズに比べると全長が1cmほど長く、後玉が大きく飛び出しているのが特徴です。
 50mmという短焦点レンズなので、最短撮影距離はもう少し短いとありがたいと思うことがあります。

▲Mamiya G 50mm 1:4

 コントラストが高く、非常になめらかな描写で、かつシャープな写りのするレンズです。75mmに比べると若干、硬調に写るように感じます。
 また、このレンズをつけたとき、ブライトフレームの周辺部ではファインダー像が樽型に歪みますが、気にするほどではありません。

 山形県で偶然見つけた「古代の丘」で土偶(もちろんレプリカ)を撮ってみました。

▲古代の丘  Mamiya 6 MF Mamiya G 50mm 1:4 F16 1/30 PROVIA100F

 非常にシャープな写りをしており、土偶の質感も良く出ていると思います。このレンズの最短撮影距離である1mほどまで土偶に近づいていますが、後ろの土偶にもピントが合っています。

 もう一枚、青森県の五能線を走る特急を撮ったのが下の写真です。

▲五能線  Mamiya 6 MF Mamiya G 50mm 1:4 F8 1/250 PROVIA100F

 こちらは、列車がブレないように1/250でシャッターを切るため、絞りF8で撮っていますが、近景からしっかり解像しています。掲載している写真は解像度を落としているのでわかりにくいですが、手前の葉っぱの葉脈までしっかりと写っています。
 ちょっと硬めに感じられる描写ですが、広角には似合っていると思います。

マミヤ G 150mm 1:4.5

 35mm判に換算すると80mmくらいのレンズの画角に相当する中望遠レンズです。超低分散レンズを採用した5群6枚構成で、撮影距離は1.8m、フィルター径は67mm、画角は32°です。

▲Mamiya G 150mm 1:4.5

 このレンズを付けるとブライトフレームは非常に小さく、決して使い易いレンズとは言えません。ですが、ファインダーではわからない中望遠レンズらしいボケがあり、使用頻度は高くありませんが、良い写りをしてくれるレンズです。

 下の写真は田圃の傍らにある観音像を撮ったものです。

▲観音様  Mamiya 6 MF Mamiya G 150mm 1:4.5 F4.5 1/60 PROVIA100F

 150mmという焦点距離ならではのボケが出ていると思います。被写界深度も浅く、長焦点の特徴を活かした画をつくることができます。被写界深度は浅いですがピントの合ったところは非常にシャープで、ボケの中にピンポイントで被写体を浮かび上がらせることができるレンズです。
 ボケも嫌味がなく綺麗で、見ていて気持ちの良い描写をしてくれると思います。

 そしてもう一枚、柳の芽吹きを撮ってみました。

▲芽吹き  Mamiya 6 MF Mamiya G 150mm 1:4.5 F4.5 1/125 PROVIA100F

 浅い被写界深度を活かして、芽吹きの新緑の部分を撮ってみました。柳の枝の質感も良く出ていると思います。離れた場所から被写体のごく一部だけにフォーカスできるのは望遠レンズならではです。
 ただし、150mmなので決して大きくボケるわけではありません。被写体と背景、または前景との距離が近いとボケきれずにうるさい感じになってしまうので、被写体の前後に大きく空間のある状態が望ましいです。

 このレンズ、市場ではあまり人気がないらしく、中古品は割と安い価格で取引きがされているようですが、間違いなく市場評価以上の性能があると思います。
 他の2本に比べて仕様頻度は低いですが、その特性を活かすと魅力ある写真が撮れると思います。

使う場所を選ばないカメラ&レンズ

 レンズが3本しかラインナップされていないというのはずいぶん少ないという感じもしますが、実際に使用するうえで特に不便さを感じたことはありません。広角、標準、望遠に1本ずつという潔さのようなものさえ感じますし、少ないがゆえにそれぞれのレンズの特徴を活かした作画ができるのではないかと思います。
 また、いずれも中判フィルムを十分に活かす性能を持ったレンズであると思います。

 ニューマミヤ6シリーズは、本体もレンズも携行性にも優れ、スナップに良し、風景撮影に良し、他に類を見ないオールラウンドなカメラだと思います。
 今後、このようなカメラやレンズが出てくることは期待できそうもなく、大切に使っていきたいと思います。

(2021年5月30日)

#マミヤ #Mamiya #レンズ描写 #プロビア #PROVIA

大判カメラのアオリ(6) バックティルト&バックスイング

 前回までフロント部のアオリについて説明してきましたが、今回はバック部のアオリについて触れていきたいと思います。
 ビューカメラはバック部も大きなアオリが使えますが、フィールドカメラ(テクニカルカメラ)ではフロントほど多彩な動きはできませんし、風景撮影においては使う頻度もフロント部のアオリに比べると多くありません。

フィールドカメラのバック部のアオリ動作

 フィールドカメラの場合、バック部のアオリとしては「ティルト」と「スイング」の2種類だけというのが多いと思います。ライズやフォール、シフトなどのアオリはできないのがほとんどです。
 アオリのかけ方もカメラによって異なり、例えばリンホフマスターテヒニカやホースマン45FAなどは、4本の軸で支えられたバック部を後方に引き出し、自由に動かすことができるという方式です。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45のバック部を引き出した状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 バックティルト&バックスイング

 カメラの上部と左右側面にあるロックネジを緩めるとバック部を引き出すことができます。4軸が独立して動くのでバック部全体がだらしなくグニャグニャしてしまいますが、ティルトやスイングを同時に行なうことができます。

 これに対してウイスタ45はティルトとスイングが別々に動作します。

▲WISTA 45SP バックティルト&バックスイング

 ティルトは本体側面下部にある大きなロックネジを緩めて、本体自体を前後に傾けて行ないます。
 また、スイングは本体下部にあるリリースレバーを押し込み、本体を左右に回転することで実現します。これに加えて、本体側面のダイヤルを回すことで微動スイングも可能になります。

 それぞれ一長一短があり、どちらが使い易いかは好みもあるかも知れませんが、ティルトとスイングを同時にかけたいときなどはリンホフ方式の方が自由度が高くて便利に感じます。

バック部のアオリはイメージサークルの影響を受けない

 フロント部のアオリのところでも触れたように、どんなにカメラのアオリ機能が大きくても、レンズのイメージサークル内に納めないとケラレが発生してしまいます。これは、レンズ(フロント部)を動かすことでイメージサークル自体が移動してしまうからです。
 しかし、バック部を動かしてもイメージサークルは動きませんし、また、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことはあり得ませんので、ケラレが起こることもありません(ただし、ビューカメラのようにライズやシフトができる場合は別です)。

 フロント部、およびバック部のアオリとイメージサークルの関係を下の図に表してみました。

 バック部を後方に引き出すということは、イメージサークルが大きくなる方向に移動することであり、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことがないのがお判りいただけると思います。
 フロント部のアオリをかけすぎるとイメージサークルの小さなレンズではケラレが発生してしまいますが、バック部のアオリの場合はその心配がありません。

シャイン・プルーフの法則も適用される

 フロント部のアオリのところで、ピント面を自由にコントロールするシャイン・プルーフの法則について説明しましたが、バック部でも同じようにこの法則が当てはまります。

 下の図はバックティルトによって、近景から遠景までピントを合わせることを説明しています。

 フロント部は固定したまま、バック部を傾けることで撮像面が移動しますので、被写体面、レンズ面、撮像面が一か所で交わるようにすればパンフォーカスの写真を撮ることができます。

バック部のアオリは被写体の形が変形する

 バック部のアオリとフロント部のアオリの大きな違いは、バック部のアオリでは「被写体の形が変形する」ということです。フロント部のアオリでは真四角なものは真四角のままですが、バック部でアオリをかけると真四角なものが台形になってしまいます。

 上の図でわかるように、例えばバック部の上部だけを引き出すバックティルトをかけた場合、バック部の上部がイメージサークルの大きな方向に移動することになります。このため、撮像面に投影される像も広がります。
 一方、バック部の下部は移動しませんので、投影される像の大きさは変化しません。
 この結果、例えば正方形や長方形の被写体であれば、上辺が長い台形となってフォーカシングスクリーンに写ります(投影像は上下反転しているので、写真は底辺が長い台形になります)。

 被写体が変形するということは本来であれば好ましいことではありませんが、物撮りなどで形を強調したいときなどは、あえてバック部のアオリを使って撮影することもあります。

バック部のアオリの効果(実例)

 では、実際にバック部のアオリを使うとどのような効果が得られるか、わかり易いように本を使って撮影してみました。

 下の写真は漫画本(酒のほそ道...私の愛読書です)を、約45度の角度でアオリを使わずに俯瞰撮影したものです。

▲ノーマル撮影(アオリなし)

 ピントは本のタイトルの「酒」という文字のあたりに置いています。当然、本の下の方(手前側)はピントが合いませんので大きくボケています。
 撮影データは下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F8
  シャッター速度 1/4

 同じアングルで、バックティルトをかけて撮影したのが下の写真です。

▲バックティルト使用

 全面にピントを合わせるため、カメラのバック部の上部を引き出しています。すなわち、バック部を後方に傾けた状態です。
 本の表紙の全面にピントが合っているのがわかると思います。バック部のアオリでもシャイン・プルーフの法則によってパンフォーカスの写真を撮ることができます。
 なお、撮影データは上と同じです。

 一方で、アオリをかけた写真の方が、本の下部が大きく写っていると思います。これがバック部のアオリによる被写体の変形です。バック部の上部を引き出したため、被写体と撮像面の距離が長くなり、その結果、撮像面に投影される像が大きくなることによる変形です。

フロント部のアオリとバック部のアオリの比較

 フロント部のアオリでは被写体の変形は起こらないと書きましたが、実際に同じ被写体を使ってその違いを比べてみました。

 モデルは沖縄の人気者のシーサーです。
 下の写真、1枚目はフロントスイングを使って撮影、2枚目の写真はバックスイングを使って撮影しています。

▲フロントスイング使用
▲バックスイング使用

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F11
  シャッター速度 1/2

 二つのシーサーの大きさは同じですが、前後にずらして配置しているので後ろ(右側)のシーサーが小さく写っています。
 しかし、1枚目の写真に比べて、2枚目の写真の手前(左側)のシーサーが若干大きく写っているのがわかると思います。やはりバック部のアオリによる被写体の変形で、バックスイングでも同じような現象が起きます。

 このように、ピント面を移動させてパンフォーカスにしたり、逆にごく一部だけにピントを合わせたりということはフロント部、バック部のどちらのアオリでも同様にできますが、バック部のアオリでは被写体の変形というおまけがついてきますので、被写体や作画の意図によってどちらのアオリを使うか選択すればよいと思います。

バックティルトの作例

 実際に風景撮影でバックティルトを使って撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 1/4 Velvia100F

 満開の桜の木の下から遠景の山を撮影していますが、頭上にある桜にもピントを合わせたかったのでバックティルトを使っています。カメラのバック部の下部をいっぱいに引き出していますが、すぐ頭上にある桜にピントを持ってくるのはこれが限界でした。

 桜の花がかなり大きく写っているのはバックティルトによる影響です。

 ただし、このようなアオリを使った場合、ピント面は頭上の桜と遠景の山頂を結んだ面で、中景の低い位置にピントは合いません。上の写真では中景に何もないので気になりませんが、ここに木などがあるとこれが大きくボケてしまい、不自然に感じられる可能性があります。ピント面をどこに置くか、被写体の配置を考慮しながら決める必要があります。

 風景撮影でバック部のアオリを使う頻度は多くないと書きましたが、使い方によってはインパクトのある写真を撮ることができます。

(2021.5.19)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #ウイスタ45 #WISTA45

Mamiya 6 MF マミヤ6 MF ボディー編

 長い歴史を持つ二眼レフカメラのほとんどはスクエアフォーマットですが、比較的近年に製造販売されたカメラで「ましかく写真」が撮れるカメラはそれほど多くはありません。そういった意味でもマミヤ6 MF はレアなカメラであると思います。完成度の高さや携行性の良さなどが話題になるカメラですが、私もましかく写真が撮りたくなると持ち出すカメラの一つです。

このカメラの主な諸元


 ニューマミヤ6シリーズの後期型として、1993年に発売された66判のレンズ交換式レンジファインダーカメラです。主な諸元は以下の通りです(Mamiya 6 MF 取扱説明書より抜粋)。

   型式     : 6×6判レンジファインダー、レンズ交換式、沈胴式カメラ
   使用フィルム : 120フィルム(12枚撮り)、220フィルム(24枚撮り)
   画面サイズ  : 6×6判(実画面サイズ56×56mm)
   フィルム送り : レバー1回巻き上げ185度(予備角30度)
   シャッター速度: B、4秒~1/500秒 電子式レンズシャッター
   露出制御   : 絞り優先AE、受光素子SPD(ファインダー内)、露出補正±2EV(1/3EVステップ)
   距離計    : レンズ偏角方式、実像式二重像合致、基線長60mm(有効基線長34.8mm)
   ファインダー : 距離計連動ファインダー、ブライトフレーム自動切り替え(50、75、150mm)
   電池     : LR44またはSR44を2個
   大きさ    : 155(H)×109(W)×69(D)mm (沈胴時は54(D)mm)
   質量     : 900g

Mamiya 6 MF + G 50mm 1:4

 MFというのは「マルチフォーマット」のことで、フィルム面にアパーチャーマスクを取り付けることによって645判の撮影ができたり、35mmフィルムアダプターを取り付けることでパノラマ撮影ができたりします。ただし、645判での撮影は66判をマスクするだけでフィルム送りが変わるわけではないので、フィルムが非常にもったいない気がします。

いかにもマミヤらしい沈胴機構

 このカメラのいちばんの特徴は何と言っても沈胴式の機構です。外からは見えませんが、内部に蛇腹が組み込まれており(裏ブタをあけると蛇腹が見えます)、収納時はレンズマウント部が15mmほど沈み込みます。さらにレンズ自体も15mmほど沈み込みますので、レンズを装着した場合は30mmほど薄くなることになります。この30mm薄くなることで、バッグに入れるときにはとても助かります。

Mamiya 6 MF + G 50mm 1:4 沈胴時

  

裏蓋を開くと見える蛇腹

 少々気になるのは蛇腹が劣化してきたときのことです。交換するとなると結構面倒で、コストもかかりそうに感じます。大判カメラのように蛇腹に穴が開いたからといって光線漏れが起きることもないようにも見えますが、あえて蛇腹を採用している以上、穴が開けば光線漏れを起こしてしまうのでしょう。しかし、大判カメラほど頻繁に動かすこともないので、劣化についてはそれほど心配しなくても良いのかもしれません。

明るいファインダー

 ファインダーの倍率は0.56倍で、若干低めの感じもしますが、明るくて見やすファインダーです。レンズを交換するとブライトフレームも自動で切り替わりますし、パララックスの自動補正機能も備わっています。
 ピント合わせ用の二重像も見やすいですが、縦のラインがない被写体の場合はピント合わせにちょっと苦労するかもしれません。
 
 ファインダーの視度補正レンズは交換可能で、マミヤ645やマミヤ7と共通のようです。

 ファインダー内の表示はシャッター速度と露出オーバー、およびアンダーのインジケータ、そしてアラーム用のファンクションランプだけという非常にシンプルなものです。シャッターボタンから指を離せば数秒後にはこれらも消灯するので、フレーミング時の邪魔になるようなこともありません。

少々、クセのある内蔵露出計

 このカメラには露出計が内蔵されていますが、使いこなすには慣れが必要です。露出計が内蔵されている場所というのがファインダー内のため、外部の光、特に空からの光に影響を受けやすくなっています。すなわち、ファインダーに強い光が入り込むとそれに反応して、露出がアンダー側に振れてしまう傾向にあります。撮影の条件によっては1EV以上、アンダーの値を示すこともあります。

 また、その構造上、レンズを交換しても測光範囲が変わるわけではないので、短焦点の50mmレンズを装着した場合は中心部をスポット的に測光しますが、長焦点の150mmレンズの場合は全面を平均的に測光することになります。内臓露出計に頼って撮影する場合は、このようなクセを把握しておくことが必要になります。

 ちなみに、私は上空からの光の影響を防ぐため、ファインダーの上に自作のシェードを取り付けています。

アクセサリーシューに取付けたファインダーシェード

しっかりとしたフェイルセーフ機構

 このカメラはレンズシャッターを採用しているため、レンズを外すとフィルムが光にさらされてしまいます。それを防ぐため、レンズ交換時は遮光幕を出す必要があり、遮光幕を出した状態でないとレンズが外れないようになっています。
 そして、レンズ交換後は遮光幕を収納しないとシャッターが切れないようになっています。私も遮光幕の収納を忘れてシャッターが切れず、「あれ?」となったことが何度かあります。

 また、前の方で沈胴機構が組み込まれていると書きましたが、沈胴した状態だとやはりシャッターが切れません。
 こうしたフェイルセーフの仕組みがしっかりと組み込まれている辺りにもマミヤらしさが出ていると思います。

カメラ底面にある遮光幕レバー

 フェイルセーフではありませんが、裏蓋まわりにモルトプレーンを使用していないというのも個人的には気に入っています。加工精度がしっかりと保たれれば、モルトプレーンを使わなくても十分に遮光性が確保できるということなのでしょう。

操作性に優れた使い易いカメラ

 中判カメラですが、75mm(標準)レンズを装着しても重さは1.2kg弱で、それほど重いと感じることはありません。PENTAX67は標準レンズを着けると軽く2kgを越えてしまうので、それと比べるととても軽く感じます。
 カメラを持った時のホールド感も良く、私にように手が小さくても、全く違和感なく手になじむ感じです。フィルム巻き上げレバーもシャッターボタンも、持ち変えることなく親指と人差し指で操作できます。

 ちょっと使いにくいと感じるのが露出補正ダイヤルです。これは、親指でリリースボタンを押しながら人差し指でレバーを動かすのですが、若干操作しにくいのと、補正ダイヤルのクリックが浅いのか、カチッ、カチッと動いてくれません。これはもしかしたらカメラの個体差によるものかもしれません。

 また、レンズシャッターですので切れるときの衝撃は皆無と言っても良く、「チャッ」という小気味良い音がして切れます。
 あまり大きな問題ではありませんが、裏蓋をあけておかないと空シャッターが切れないというのもこのカメラの特徴かもしれません。

 このカメラ用のレンズは50mm、75mm、150mmの3本がラインナップされています。私はスナップ撮影に使用することが多いのですが、風景撮影でも素晴らしい写りをしてくれます。レンズについては次回でご紹介したいと思います。

(2021.5.11)

#マミヤ #Mamiya

花を撮る(3) 初夏に咲く野草

 木々の新緑の淡い色合いは日増しに変わり、平地ではすっかり色濃くなりました。桜の季節が終わると、フィールドの景色は一変する感じです。
 野に咲く花の数も随分と増えてきて、あれも撮りたいこれも撮りたいと気持ちばかりが急いてしまいます。今回はちょうど今頃に咲く野の花をいくつかご紹介します。

アカツメクサ

 ムラサキツメクサとも呼ばれますが、シロツメクサと同じヨーロッパ原産の多年草です。もともとは牧草として輸入されたらしいですが、今ではすっかり日本にも定着してしまい、いたるところで見ることができます。シロツメクサよりもずっと背丈が大きくなり、花も大きくて鮮やかな色をしているので見応えがあります。

 下の写真は小さな沼の淵に咲いていたアカツメクサを撮ったものです。

アカツメクサ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 /60 C-up3使用 PROVIA100

 バックの緑は芽が出始めて間もない菖蒲ではないかと思われますが、沼を覆いつくすほどになっており、これがアカツメクサの花色を引き立ててくれています。曇りの日なので柔らかな感じになりましたが、晴れているとコントラストが強くなりすぎてこういう柔らかさは出せません。
 左下にもう一輪、アクセントとしてぼかして入れてみました。

 この写真はクローズアップレンズを使っています。もっぱら接写リングを使うことが多く、クローズアップレンズを使うことはほとんどないのですが、バックをできるだけ柔らかくしたかったので、画質は多少低下しますがあえて使ってみました。クローズアップレンズは強い光が当たると滲みが出ることがあるので注意が必要です。

キツネアザミ

 田畑や道端などで割とよく見かけます。ノアザミよりも少し早く、東京近郊では4月下旬ごろから咲き始めるところもあります。アザミによく似ていることからキツネアザミと命名されたようです。花はアザミに比べて小ぶりで、葉っぱにはトゲもなく、全体的にほっそりとした印象です。

 群落をつくることが多く、下の写真も道路脇の空き地にたくさん咲いているところを撮りました。

キツネアザミ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4X使用 PROVIA100

 夜に降った雨が水滴となって残っていたので、逆光になる位置から玉ボケができるように狙ってみました。背景を大きくぼかしたかったので、200mmのレンズに1.4倍のテレコンバータをつけています。
 巾着袋みたいな形をした可愛らしい花なのでアップで撮っても良いのですが、たくさん咲いている中から一株だけにピントを合わせています。
 バックが黒ではなく紺色になってくれたので、この花の色とのコントラストがきれいになったと思います。

ハルジオン

 大正時代に観賞用として輸入されて鉢植えで育てられていたのが、戦後、野に放たれてしまい各地に広がっていったといわれています。今ではかなり標高の高いところでも普通に見かけますので、その繁殖力はすさまじいものがあります。
 あまり見向きもされることのない野草かもしれませんが、よく見ると淡いピンク色をした綺麗な花です。

ハルジオン PENTAX67Ⅱ smc PENTAX M-135mm 1:4 F4 1/250 EX2使用 PROVIA100

 この花は視界に入っても全く気に留めないくらいよく見かけますが、花が小さいうえに背景がごちゃごちゃしているところに咲いていることが多く、イメージ通りの被写体を探すとなると苦労します。
 上の写真は用水路のヘリに数輪咲いていたうちの一つで、用水路にわずかに陽が差し込み始めたときに撮ったものです。このため、背景は黒く落ち込み、少しだけ差し込んだ光に輝く水面の波が玉ボケになっています。
 小さな花なので、背景をできるだけシンプルにしないと花が浮き立ってきません。

 6月くらいになるとこれによく似たヒメジョオンが咲き始めますが、個人的には淡いピンク色をしたハルジオンの方が好きです。

イカリソウ

 花の形が船のアンカー(錨)に似ていることからこの名前がつけられたようです。強壮強精の生薬として古くから用いられてきたらしく、あの有名なユンケルにも入っているようです。
 花の色は赤紫、ピンク、薄黄色、白などがありますが、いちばんよく見かけるのが下の写真のような赤紫色の花です。

イカリソウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 EX1+2使用 PROVIA100

 群落をつくって咲くことが多く、花の数も多いので切り取りには苦労します。
 曇りの日の方が花のディテールがきれいに出るのですが、この写真を撮った日は晴天で強い日差しがもろに当たっていたので、逆光に黄色く輝く葉っぱをバックに花を配置しました。
 複雑な形をした花なので、背景が雑然としていると花の形がわかりにくくなってしまいます。できるだけバックをすっきりとさせながら、茎と葉っぱが少しだけ入るアングルを探して撮りました。

 この花は茎から伸びた長い花穂にぶら下がった状態で咲いているので、少しの風でもゆらゆらと揺れてしまいます。無風状態の日であればいちばん良いのですが、なかなかそうのような日に出くわすこともないので、風がやむ瞬間を狙って撮ることになります。

チゴユリ

 日本全国の落葉樹林の林床で見ることができます。大きくはユリの仲間ですが、イヌサフラン科という聞きなれない科に分類されているようです。漢字で書くと「稚児百合」で、可愛らしい花姿にピッタリの名前だと思います。

チゴユリ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 EX2+3使用 PROVIA100

 背丈は20cmほどと小さく、しかもうつむき加減に咲いているので、撮影もカメラを地面すれすれまで下げないとこの花の表情はとらえられません。また、林の中に咲いていることが多いため、ISO100のフィルムでは高速シャッターを切ることができず、三脚は必須です。
 この写真は200mのレンズに接写リングを2個つけての撮影ですので、ピントの合う範囲は非常に浅いです。

 この花が咲く時期の林床は落ち葉が一面に広がっているので、どうしても背景が茶色っぽくなってしまいがちです。しかし、それだとこの可愛らしい花の雰囲気が損なわれてしまうので、緑色の葉っぱがバックに来るようなポジションが好ましいと思います。 
 白い花弁が濁らないように、かつ、質感が飛んでしまわないように露出を決めなければいけないので、葉っぱ、花弁、雄しべをスポット測光して決めています。

カタクリ

 この時期に咲く山野草の中では3本の指に入るくらい人気のある花ではないかと思います。関東でもカタクリの群生地は何か所かありますが、一面に紫色の花が咲いている光景は見事です。

 下の写真は群生してるというほどではありませんが、それでもたくさんのカタクリが咲いているところに偶然に出くわした時に撮ったものです。

カタクリ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 300mm 1:4 F4 1/30 2x使用 PROVIA100

 カタクリは日が当たるとこのように花弁が反り返ります。ですので、このような姿を撮るには明るい日差しがあることが条件になります。
 魅力のある花なのでアップでポートレート的に撮るのも素敵ですが、少し引いたところから周囲の環境を入れながら複数の花を撮ることでも、この花の魅力を出すことができると思います。

 上の写真は草の間にカタクリの花を置いて、背景を広く入れるように低い位置から撮影しました。300mmの望遠レンズでだいぶ離れた位置からの撮影です。
 日が当たらないと花弁が閉じてしまいますが、日差しが強すぎると花が硬い感じになってしまうので、太陽に薄雲がかかる時を狙って撮っています。

 カタクリの自生地は保護されていて立ち入り禁止なっていることが多いので、撮影には望遠レンズを持参したほうが良いと思います。

 ごくまれに、紫色に交じって白花のカタクリを見かけることがあります。数万株に一つだと言われることがありますが、出会う確率はもう少し高いと思われます。白花のカタクリに出会ったときはちょっと幸せな気持ちになります。

キクザキイチリンソウ

 日当たりの良い林床に群落をつくって咲いていることが多いです。キクザキイチゲとも呼ばれますが、花弁が菊のようで一輪だけの花をつけるのでこの名前があるようです。花の色は白、薄紫、濃い紫など多様性に富んでいますが、圧倒的に多いのは白花ではないでしょうか。

 下の写真は薄紫色の個体です。

キクザキイチリンソウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/30 2x使用 PROVIA100

 太陽の光を十分に受けるようにほとんどが上を向いて咲いているのですが、この花はこちらを向いて咲いていました。葉っぱを広げ、まるでバレリーナのような感じです。
 薄紫色の清楚な感じが出るように、まだ日が差し込んでいない林を背景にしました。
 接写リングを使って撮ろうとも思いましたが、近づくと他の花を踏んでしまいそうでしたので、望遠レンズに2倍のテレコンバータをつけて、すこし離れた場所からの撮影です。

 カタクリと一緒に咲いていることも多く、明るい日差しの似合う花ですが、ちょっとシックな感じが似合うのも薄紫色ならではと思います。

 キクザキイチリンソウによく似た花に「アズマイチゲ」がありますが、白花だけのようです。

(2021.5.6)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA #花の撮影

大判カメラのアオリ(5) フロントシフト

 フロント部のアオリの5回目はフロントシフトについてです。これは、レンズ主平面を左右に移動するアオリで、フロントライズを光軸まわりに90度回転させた動きになります。
 このアオリは物撮りでは良く使うのかもしれませんが、私のように主な被写体が風景という場合、使用する頻度は極めてまれです。

フロントシフトを使うケース

 前にも書いたように、風景撮影においてフロントシフトを使うことはほとんどありません。私の乏しい経験からすると、このアオリを使うのは以下のようなシチュエーションではないかと思います。

 (1) 物撮りなどの際に、横方向が縮んでしまうのを防ぐ目的で使用する
 (2) 鏡やショーウィンドウなどの撮影の際に、自分自身が写り込むのを防ぐ
 (3) フレーミングをした際、左右の端の方に余計なものが入ってしまうときにカメラ位置を動かさずにフレーミングから外す

 思いつく使い方はこのくらいですが、物撮りの専門の方はもっと違う使い方をしているかもしれません。
 実際にフロントシフトした状態が下の写真です。

フロントシフトをした状態 Linhof MasterTechnika 45

 リンホフマスターテヒニカ45の場合、シフトできる量は左右それぞれ40mmですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。写真でもわかるように、短焦点レンズの場合、蛇腹がタスキに当たってしまい、これ以上シフトすることができません。
 操作はロックネジを緩め、手で左右に移動させるという非常にシンプルなものです。

横方向が縮んでしまうのを防ぐ

 車の模型を使って、フロントシフトの効果を確認してみます。
 車を斜め前方から普通に撮影したのが下の写真です。

ノーマル撮影(アオリなし)

 これだけを見ていると特に違和感はないのですが、斜め前方から見ているために、車の全長が実際より短く、ずんぐりとした感じに写ってしまいます。これは、「フロントライズ」で触れた、ビルの上の方が小さく写ってしまうのと同じ現象です。

 これに対して、レンズを右にシフトして撮影したのが下の写真です。

フロントシフトのアオリ使用

 上の写真と比べると車の全長が少し伸びて、ずんぐりとしていたのが解消されているのがわかると思います。
 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F22
  シャッター速度 1s

 このように、物撮りでは形を補正することができますが、これを風景撮影の際に使うことはほとんどありません。並木や街並みは遠くに行くに従って小さくなっていくから遠近感が感じられるのであって、これがなくなってしまうと、平安時代の源氏物語絵巻に出てくるような遠近感のない描写になり、違和感を感じます。フロントライズは、縦にまっすぐなものはまっすぐに写したいということで使われることは多いですが、それと同じ理屈を横に適用する必要性は感じられないということでしょうか。

自分自身が写り込むのを防ぐ

 鏡やショーウィンドウなどを正面から撮ろうとすると、自分自身が写り込んでしまいます。斜めから撮れば自分自身の写り込みは防げますが、長方形の鏡やウィンドウが平行四辺形になってしまいます。
 正面から歪みのない形で、しかも自分自身が写らないようにといときにシフトアオリを使うことで実現することができます。とはいえ、私が撮影する被写体においては、ほとんど出番がありません。

左右の端の余計なものをフレーミングから外す

 三脚を構え、いざフレーミングしてみたが、左の端に余計なものが入っているのでもうちょっと右の方にフレーミングしたい、なんていうことはよくあると思います。カメラを右に振れば済むのですが、それだとカメラが回転運動することになり、フレーミングが微妙に変わってしまうことがあります。

 三脚ごと、少し右に移動させたいのですが、フィールドでは足場が悪くてカメラを移動させることができないとか、カメラマンがずらりと並んでいるようなところではカメラを動かすと隣の人の迷惑になるとか、移動できない、移動しにくいということがあります。そんなときにフロントシフトすることで救われることもあるかと思います。

 これはアオリというよりは、カメラを動かすのが面倒だからシフトで凌いでしまえという感じにも思えます。確かにアオリの効果を求めるものではありませんが、そんな使い方もできるということです。以前、別のページで、短焦点レンズを使うときにカメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐためにフロントライズを使うことがあると書きましたが、それと同じような使い方です。

フロントシフトの例...がありません

 実際に風景撮影でフロントシフトを使った作例を掲載できれば良いのですが、残念ながらそのような写真を持ち合わせておりません。シフトアオリを使って撮ることがあれば、あらためてご紹介したいと思います。

 フロント部での個々のアオリについては今回で終了で、次回はバック部のアオリについて触れたいと思います。

(2021.4.29)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

今度は「日本カメラ」が休刊!!

 先日、またもや衝撃的なニュースが流れました。月刊誌である「日本カメラ」が休刊するとのことです。昨年のアサヒカメラの休刊から一年を待たずしての日本カメラの休刊です。私はアサヒカメラよりも日本カメラを好んで購入していたので、このニュースには衝撃を受けました。

 これで、月刊のカメラ雑誌の御三家と言われた、カメラ毎日、アサヒカメラ、日本カメラのすべてがなくなってしまいました。月刊のカメラ雑誌は他にも刊行されていますが、やはり御三家と言われるだけあって他の雑誌とは一線を画しているという感じでした。

 雑誌は広告収入が重要だと言われていますが、いつごろからでしょうか、日本カメラに掲載される広告の数が徐々に減り始めました。
 全盛期の頃の日本カメラは紙質も良く、400ページ近くあったように記憶しており、かなり厚い雑誌でした。グラビアや記事の合間にメーカーの広告がカラーで掲載され、巻末の方には中古カメラ店などの広告がかなりのページを占めていました。全ページの3割くらいは広告ページではなかったかと思います。個人的には中古カメラ店の広告を見ている時間がいちばん長かったように思います。

 最近の日本カメラは紙質も薄くなり、広告も激減してしまい、経営的に大変なんだろうということは雑誌を見ていても想像がつきました。昨年のアサヒカメラの休刊の際にも、もしかしたらいずれ日本カメラも...ということが脳裏をかすめましたが、まさかこんなに早くにその日が来るとは思っていませんでした。

 前身となる「アマチュア写真叢書」が隔週刊の雑誌として創刊されたのが昭和23年とのことですので、実に足掛け73年にわたって続いてきたわけです。子供の頃、日本カメラという雑誌は特別な存在のように感じており、いつかは自分で購入し、読者になるということに憧れていたことを思い出します。

 また、同社からは日本カメラだけでなく、撮影のテクニックをまとめたシリーズや撮影機器、撮影地のガイドブックであったり、エッセイ集、写真集などなど、本当に多岐にわたる書籍が刊行されていて、私もずいぶんとお世話になったものです。いずれも「日本カメラ社」という名に恥じることのない、責任を持った書籍であったと思います。 

 書棚に2014年発行の日本カメラが残っていたのであらためて見てみましたが、この頃にはすでに広告の量がかなり減っているという感じです。しかし、記事は非常に多岐に渡っており、毎月、これだけの記事を書くのは大変なご苦労があっただろうということは想像に難くないと思います。掲載されている広告を見ると、ニコンからはDfが、ペンタックスからはK-3が発売された時期で、デジタルカメラにも勢いがあったという感じがします。


 アサヒカメラと違って日本カメラの場合は会社自体が解散してしまうようなので、再開の可能性に期待することは望めないかもしれませんが、このような格のある雑誌がまた一つ、なくなってしまうことは残念でなりません。

(2021年4月19日)

#カメラ業界 #日本カメラ

春のあきる野 龍珠院の桜、広徳寺の桜を大判カメラで撮る

 今年(2021年)は桜の開花がとても早く、平年に比べて10日ほど早いようです。
 あきる野市の桜の開花は都心に比べるとだいぶ遅いのですが、開花情報を見てみるとやはり今年は早くて、3月末には満開になっていました。
 ということで、あきる野にある古刹、龍珠院と広徳寺に桜を撮りに行ってきました。

乙津花の里にたたずむ龍珠院

 多摩川の支流の一つである南秋川に沿って走る檜原街道を西に向かい、檜原村に入る手前に「乙津」という地域があります。この一帯は春になると桜やミツバツツジをはじめとした様々な花があちこちで咲き、「乙津花の里」と呼ばれています。

 そんな乙津地域の北側高台にあるお寺が龍珠院です。臨済宗建長寺派のお寺で、600年の歴史があるそうです。花のお寺としても有名で、桜が満開時の風景はそれは見事です。

 下の写真は道路側からお寺の全景を写したものです。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON SWD65mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 今年は新型コロナ感染拡大防止のため、駐車場が閉鎖されていましたが、桜はいつも通り見事に咲いていました。
 ソメイヨシノが満開で、そこにミツバツツジ、ミツマタ、菜の花等が色どりを添えてくれています。お寺の参道の左側にあるソメイヨシノの大木が入るよう、広角レンズで全景を撮りました。しかし、そのままだと空が広く入りすぎてしまうので、頭上にある桜の枝を入れました。
 また、全体をパンフォーカスにしたかったので、カメラのバック部のアオリを使って頭上の桜がボケないようにしています。ソメイヨシノの白い花が濁らないよう、露出は紫色のミツバツツジを基準に設定しています。
 
 本堂に向かって右の方に回り込んで撮ったのが下の写真です。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 2本のソメイヨシノがアーチをつくるように重なって見えるアングルから撮っています。下にミツバツツジを入れて、花に囲まれた本堂をイメージしました。
 桜の大きさを表現するため、できるだけ木に近づいて見上げるアングルにしています。

 この写真のさらに左の方には枝垂桜があるのですが、まだ三分咲きといったところでした。枝垂桜が満開になるとソメイヨシノとは違う、落ち着いた華やかさがあるのですが、その頃にはソメイヨシノが散ってしまうので、撮るタイミングは悩むところです。

 また、ミツバツツジも見ごろでとても綺麗でしたので撮ってみました。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON T400mm 1:8 F11 1/60 PROVIA100F

 お寺の参道の入り口のところに咲いていたミツバツツジです。少し離れたところから焦点距離の長いレンズで撮っています。背景がボケ過ぎずに何が写っているかわかる程度の絞り設定にしてみました。背景を思い切りぼかす表現もありますが、それだとミツバツツジだけの写真になってしまうので、「花のお寺」ということがわかるようにしています。しかし、もう少しぼかしても良かったかなと、出来上がったポジを見て思いました。

 参道の両側にはお地蔵さまが並んでおり、お地蔵様がお花見をしているようなアングルも撮りたかったのですが、そのためには道路に三脚を立てなければならず、通る車やほかの方の迷惑になるので断念しました。

 この時期、本当にたくさんの花が咲いているお寺で、一日中いても撮りあきない場所です。

堂々とした風格のある広徳寺

 龍珠院から檜原街道を五日市方面に戻り、広徳寺に向かいました。
 広徳寺は山の北斜面に建つお寺で、総門の前には「臨済宗建長寺派」と書かれた立派な門柱が立っています。龍珠院と同じ宗派のようです。

 ここは龍珠院よりも桜が進んでおり、ソメイヨシノは満開の時期を少し過ぎていましたが、茅葺き屋根とのコラボが何とも良い風情でした。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 このお寺は建物が立派なので、もう少し左の方の屋根も入れたかったのですが、画全体の締まりがなくなってしまう感じがしたため、狭い範囲の切り取りにしました。
 桜の花の中心が赤っぽくなってきており、明日には散り始めてしまいそうな感じでした。風の強い日であれば綺麗な花吹雪が見られたと思います。

 本堂の前には枝垂桜の巨木があるのですが、残念ながらまだほとんど咲いていませんでした。山の陰になっていてあまり日当たりが良くないからなのか、満開まではもうしばらくかかりそうです。

 「正眼閣」と書かれた額がかけられている重厚感あふれる山門の前にはオオシマザクラとも違うようですが、花の色が白い桜の木があります(下の写真)。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON CM105mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 青空にとてもよく映えていたので、桜を空に抜き、山門を入れて撮ってみました。山門は大きな杉の木の陰になっていたので、黒くつぶれてしまわないように若干露出をオーバー目にしましたが、かろうじて「正眼閣」という文字が読める感じです。
 山門の向こう側に立っている2本の木は銀杏で、秋の黄葉は素晴らしいそうです。

 また、総門から山門に向う参道脇にはたくさんのシャガがありましたが、開花はもう少し先のようです。

大悲願寺の桜はすでに散っていました

 広徳寺での撮影を終えて帰る途中、五日市線の武蔵増戸駅近くにある大悲願寺に立ち寄ってみましが、残念ながらここの桜はほとんど散っていました。
 
 あきる野は都心から車で1時間半ほどで行くことができますが、東京とは思えないくらい豊かな自然が残されています。桜の時期は短いですがこれから新緑の季節を迎え、山の色が日増しに濃くなっていきます。そんな新緑の季節にもぜひ訪れてみたいと思います。

 今回の写真はすべて大判カメラで撮りました。掲載するために画像の解像度を落としていますので、大判写真のすばらしさを伝えられなくて残念です。

(2021.4.10)

#あきる野 #龍珠院 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #PROVIA #花の撮影

花を撮る(2) 春に咲く野草

 3月の声をきくとフィールドの野草も急激に増えてくる感じです。花の少ない冬が終わり、心もうきうきしてきます。
 春の野草は背丈が低いものが圧倒的に多く、撮影にも苦労します。ローアングルでの撮影が多くなりますが、今回はそんな春の野草の撮影にフォーカスしてみたいと思います。

ヒメオドリコソウ

 オオイヌノフグリとともに、今ではすっかり日本の春の風景となってしまったヒメオドリコソウ。シソ科の帰化植物ですがその繁殖力は旺盛で、日本中のいたるところで見ることができます。日本原産のオドリコソウはすっかり少なくなってしまいましたが、ヒメオドリコソウは増える一方です。

 葉っぱの色がくすんだ紫色をしてるため、群生しているところはお世辞にも美しいとは言えません。しかし、よく見ると赤紫の可愛らしい小さな花をつけています。
 この野草は、群生しているところよりも、1本だけ、あるいは数本だけのところを狙った方が可愛らしさを表現できると思います。

 下の写真は、1本だけですがオオイヌノフグリとコラボしているところを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 EX2+3 PROVIA100F

 オオイヌノフグリとともに、春先に最も早く咲く野草の一つです。明るい日差しが感じられる方がこの野草には似合っていると思います。
 カメラを地面すれすれまで下げて撮っています。この写真のヒメオドリコソウの背丈は6~7cmほどですが、20cmくらいまで伸びますので、あまり大きくないほうがバランスは良くなると思います。
 赤紫色の花に露出を合わせていますので、オオイヌノフグリは露出オーバーになっています。

ムラサキハナナ

 この野草も良く見かけます。オオアラセイトウ、ショカッサイ、ハナダイコンなどとも呼ばれており、厳密にはそれぞれ違いがあるらしいのですが、私にはよくわかりません。花の色が紫色と赤紫色があるようですが、それも個体差なのかどうかもわかりません。
 この花が群生しているところを見かけることがありますが、それは見事です。

 群生しているほどではありませんが、そこそこ咲いている中から1本だけを撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 1.4X PROVIA100F

 午前中の比較的早い時間帯、まだ太陽があまり高くならないうちに逆光の状態で写しています。薄い花びらを光が透過して輝きを放っているような雰囲気を狙ってみました。
 この野草は比較的、背丈も大きくなるため、地面にはいつくばって撮る必要もないのでありがたいです。

 露出アンダーだと赤紫色が濁ってしまうので、1段くらいオーバー目にした方が明るい雰囲気が出せると思います。

タチツボスミレ

 スミレの中では早めに咲き始めます。日当たりのよい道端や草原、森林、やぶなどに普通に見られる多年草です。背丈は20cmくらいまで伸びますが、春先に見られるのは半分ほどの背丈です。背丈には不釣り合いなくらい大きな花をつけるので、わずかな風でも大きな花が揺れてしまい、風の強いときの撮影は苦労します。

 下の写真は、里山の道端に咲いていたものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 全面に光が当たっていると平面的になってしまうので、薄雲がかかって、花のところに直接光が当たらない瞬間を狙って撮りました。そのため、光が当たっている背景はかなり露出オーバーになっています。
 タチツボスミレと背景との距離が近いので、背景のごちゃごちゃしたものがボケきれていません。200mmのレンズで撮っていますが、もう少し長めのレンズの方が背景を美しくできたと思います。

 いちばん右の花とその隣の花では、わずかに右の花が手前にあります。両方の花にピントを合わせるため、レンズから二輪の花までの距離が等しくなるよう、カメラアングルを決めています。

タンポポ

 どこででも普通に見られる野草ですが、その多くはセイヨウタンポポです。日本の在来種であるニホンタンポポは本当に少なくなってしまいました。それでも、タンポポの咲いている風景というのは心和むものがあります。

 下の写真もセイヨウタンポポです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F4 1/30 EX3 PROVIA100F

 5月くらいになるとタンポポの背丈もかなり伸びますが、3月の頃に咲くタンポポは、葉っぱもロゼッタ状になっており、花も地面に張り付いてるくらいに背丈が低いものが多いです。一緒に咲いている小さな白い花はタネツケバナですが、それに埋もれてしまうくらいの背丈です。
 カメラを地面につくくらいまで下げ、タンポポとほぼ同じ目線から撮っています。タンポポだけクローズアップして撮ると花の表情が良く出ますが、周りの環境を含めて写すことにより、タンポポの魅力を引き出すことができると思います。

 タンポポに限らず、黄色の花は見た目以上に明るいので、かなり多めに露出をかけないと花の色が黒っぽく濁ってしまいます。太陽に向かって咲いている姿は、明るめの方が似合っていると思います。

クサノオウ

 ケシ科の越年草で有毒植物です。皮膚病などにも効果があるらしく、昔から薬として使われてきたようです。
 初夏の野草というイメージが強かったのですが、近年は暖かいせいか、関東では3月中旬くらいから見かけるようになりました。遠くからも目につく黄色い花を咲かせる野草です。

 近所の公園の脇に咲いていたクサノオウを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 薄紙のような花弁が印象的です。日が当たっていない建物の陰をバックに、黄色の花を浮き立たせました。
 このようなシチュエーションでは画全体でとらえてもうまく露出設定ができないので、スポット露出計を用いてピンポイントで測光するのが望ましいです。
 この写真には写っていませんが、下の方の葉っぱが適正な明るさになるように露出を決めています。花の部分はそれよりも1.3段ほど、露出が多めになっています。先ほどのタンポポと同じで、黄色い花はかなり露出を多めにかけないと暗い印象になってしまいます。

 また、この花は産毛のようなものがびっしりと生えたつぼみも印象的で、良いアクセントになってくれます。

イチリンソウ

 野山に生える代表的な春の野草で、里山や林床などでよく見られます。可愛らしい白い花はとても清楚な感じがします。花が咲き終わり、初夏には地上部分がすっかり枯れてしまいますが、地下茎はしっかりと残っていて、長い期間をその状態で過ごすようです。
 群落をつくって咲くことが多く、写欲をそそられる花です。

 下の写真は偶然見つけたイチリンソウの群落です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 たくさんの花が咲いているときは、どの花を撮るか迷います。いろいろなアングルから見て、画としてバランスの良い部分を見つけ出せればいいのですが、これがなかなか思うようにいきません。テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができればいいのですが。

 それぞれ好き勝手な方を向いて咲いていますが、こちらを向いている一輪を見つけたので、花の形が良くわかるアングルから撮影しました。カメラを目いっぱい低く構え、空が少し入るくらいにレンズを上向きにしています。これによって明るい春の日差しを表現しようとしました。
 こじんまりと咲いているオオイヌノフグリも色どりを添えてくれています。

 花が白いので、緑の葉っぱが適正になるように露出を決めると、色が濁らずに清楚な感じが保てると思います。

イワウチワ

 少し山に入った半日陰の岩場で見かける多年草です。どちらかというと北斜面の岩場で見られることが多く、他の植物が生えていないようなところにしっかりを根を下ろしています。薄ピンク色の花はとても可愛らしいです。
 イワウチワによく似た花にトクワカソウがありますが、葉っぱの形で区別できるようです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1/30 EX2 PROVIA100F

 岩場に枯葉が降り積もったような場所に生えているので、周辺の色合いはとても地味です。そのため、薄ピンク色の花は一層目立ちます。陽が差し込むと宝石をちりばめたような光景になります。
 上の写真も逆光気味で撮っており、花びらが浮き上がってくるようなところを狙いました。
 花がとても可愛らしいのでアップで撮りたくなりますが、周囲の環境がある程度わかるように撮った方が、この花の魅力が伝わるように思います。
 自動露出で撮ると、周囲が暗いので花の質感が飛んでしまう可能性があります。花をスポット測光して露出を決めた方が、花の質感を損なうことがないと思います。

 この花の撮影で苦労するのは、三脚が立てにくいところに咲いていることです。平らな足場の良いところに咲いているのを見たことがありません。しかし、毎年撮りに行きたくなるくらい魅力のある花のひとつです。

(2021.4.3)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA #花の撮影

フジノン 大判レンズ FUJINON T 400mm 1:8

 フジノンの大判カメラ用長焦点レンズです。富士フィルムからは、Tシリーズと呼ばれるテレフォトタイプのレンズが3種類(300mm、400mm、600mm)が販売されていましたが、そのうちのひとつです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ220mm(f22)
   最大包括角度    : 31度
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 5群5枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.1
   シャッター速度   : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ54mm
   フランジバック   : 252.4mm
   バックフォーカス  : 220.5mm
   全長        : 127.5mm
   重量        : 600g

FUJINON T 400mm 1:8

 このレンズを4×5判で使った場合の画角は、35mm判カメラに換算すると115~120mmくらいのレンズに相当します。
 フジノンTシリーズの特徴は、レンズ構成がテレフォトタイプになっているため、焦点距離に対してフランジバックが短いという点です。これにより、蛇腹を大きく繰出せないカメラでも使用することができます。概ね、300mmくらいの繰出しができきるカメラであれば、通常の撮影には支障がないと思われます。

 一方、その構造上、イメージサークルは小さくなってしまいます。同じフジノンのWシリーズであるW360mmというレンズのイメージサークルは485mmもあり、大四ッ切を楽々カバーする大きさがありますので、その違いは歴然としています。とはいえ、風景撮影には十分なイメージサークルです。
 また、レンズの重量も600gと、かなり重いです。特に前玉側が大きくて重いのに対して後玉側は小さいので、レンズを持った時にアンバランス感があります。カメラに取付けた際も、フロントティルトをしっかりロックしておかないとガクッと首を下に振ってしまいそうです。

 一般的に焦点距離が300mmを超えると、コンパクトタイプを除いてはシャッターもNo.3が使用されることが多いのですが、このレンズはNo.1なのでレンズボードからはみ出すようなこともなく、カメラによっては装着不可、というような問題も起きないと思います。

風景撮影にはぜひ欲しい焦点距離

 300mm~400mmの焦点距離のレンズは、風景撮影においてぜひとも携行したいレンズの1本です。広い風景の中の一部を切り取る、狭い画角による圧縮効果を出す、大きなボケを出すなど、長焦点レンズならではの作画ができるので、少々重いですがカメラバッグには入れておきたいレンズです。
 画角は35mm判カメラの120mmくらいのレンズなので、超望遠というほどではないと感じるかも知れませんが、あくまでも焦点距離は400mmなので、画角は同じといっても35mm判カメラ用120mm前後のレンズとは全く別物といった感じです。浅い被写界深度ですが、フォーカシングスクリーン上でピントがスーッと立ってくるのは長焦点ならではです。

 遠景であればある程度絞り込むことでパンフォーカスにできますし、近景や中景では浅い被写界深度を活かして主要の被写体を浮かび上がらせることができ、いろいろな応用の利くレンズであると思います。
 ただし、あまり近い被写体の撮影(マクロ撮影など)は蛇腹の限界があるので向いていません。

 このレンズを着けて4×5判で撮影する場合、約1km離れたところから東京タワーを望むと、ちょうどフィルムの短辺方向いっぱいに東京タワーが収まるという感じです。

 また、開放でF8と若干暗めですが、フォーカシングスクリーンの周辺部でも光の入射角度は比較的垂直に近いため、見にくくなるということもありません。これは、フィールドでピント合わせをする際にとても助かります。

FUJINON T 400mmで撮影した作例

 下の写真は、このレンズで桜と新緑を撮ったものです。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T 400mm 1:8 F45 1/4 Velvia100F

 いちばん手前にある新緑、その後ろにある満開の桜、さらにその後ろにある芽吹いて間もない淡い色の新緑、そして背後にある山の斜面の重なりを、狭い画角による圧縮効果で表現しました。手前の新緑と背後の山までの距離はかなり離れているので、F45まで絞り込んでいます。
 また、新緑の明るさを出すため、若干、露出を多めにしています。
 なお、アオリは使用していません。

 私が持っているレンズの中ではこれが最も長い焦点距離ですが、450mmや600mmというレンズも使ってみたいと思っています。しかし、カメラの蛇腹が追い付いていけないので、残念ながらこれまで実現していません。凸ボードを使用すれば何とか使えるようになりそうですが、嵩上げの大きなものが必要になりそうです。機会があれば自作してみようと考えています。

(2021.3.26)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写