奥入瀬渓流の初夏 色めく新緑と千変万化の流れ

 5月の中旬から末にかけて青森・岩手方面に撮影に行ってきました。今年は全国的に桜の開花が早かったですが、やはり、季節の進み方も例年に比べて早い感じがします。それでも八甲田山の上の方にはまだ雪が残っていて、十和田湖の周囲など標高の少し高いところに行くと木々の葉っぱはまだ淡い黄緑色をしていました。
 奥入瀬渓流一帯の標高は300~400mほどらしいので芽吹きの時期はとうに過ぎていますが、鮮やかな新緑が見ごろを迎えていて、清々しいという表現がピッタリの季節感です。6月に入ると緑は日増しに濃くなっていくので、5月の下旬ごろがいちばん鮮やかな緑を見ることができる時期かも知れません。

 今回は、子ノ口から焼山までおよそ14kmに渡って続いている奥入瀬渓流のうち、主に中流域と上流域で撮影をしてきました。

自然の造形美が連なる瀬

 奥入瀬渓流は上流域、中流域、下流域とでずいぶんと景観が異なっていますが、最も流れに変化が見られるのは中流域だと思います。概ね、奥入瀬バイパスとの分岐あたりから、雲井の流れあたりまでの6kmほどの範囲を中流域と呼んでいるようです。
 奥入瀬渓流に流れる水は十和田湖から流れ出ていますが、子ノ口にある水門で流れ出る水量を調節しています。朝7時ごろに水門が開かれるらしく、それよりも早い時間帯に行くと水量が少ししかありません。そして、7時を過ぎると渓流に流れる水量が急激に増えていきます。それまで川底が出ていたようなところもたちまち水底になり、奥入瀬らしい景色に変わります。

 奥入瀬渓流のほぼ中間に石ヶ戸と呼ばれる場所があります。駐車場や休憩所があって、いちばん人出で賑わう場所ですが、そこから500mほど下った場所にあるのが三乱(さみだれ)の流れです。三つに分かれた流れが再び合流することからこの名前がつけられたようです。
 流れも綺麗ですが、今の時期はツツジが咲いていて、個人的にはいちばん奥入瀬を感じる場所の一つだと思っています。車道から見下ろせる位置にあり、路肩に車を停めて見入っている人もたくさんいます。

 下の写真は道路脇からツツジと流れを入れて撮影した1枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F32+1/3 5s Velvia100F

 この辺りは奥入瀬渓流のなかでも最もたくさんのツツジを見ることができる場所です。対岸にあるツツジの中でいちばん花付きの良い樹が入る場所を選んで撮りました。種類はヤマツツジだと思うのですが、ここのヤマツツジの花色はピンクに近い色をしています。
 川の水深は30cmほどではないかと思うのですが、岩の上をすべるように流れていて、いたるところにある岩の凹凸によって変化のある流れが生まれています。

 この写真は焦点距離210mmのレンズで撮っています。フィルムは4×5判ですので画角は35mm判カメラの60mmくらいの焦点距離のレンズに相当します。標準と中望遠の中間くらい焦点距離なのであまり広い範囲は写りませんが、ツツジと流れを強調しようという意図でこのレンズを使っています。
 被写界深度は深くないので、手前の岩から奥のツツジまで前面にピントを合わせるため、カメラのフロント部のアオリをかけています。

 流れの柔らかさを出しつつも表情(変化)が消えてしまわないようにということで、露光時間は5秒にしています。5秒というとわずかな風で葉っぱがブレてしまうには十分すぎる時間ですが、ほぼ無風状態だったのでほとんどブレがわからないくらいに写ってくれました。
 また、早朝の感じが損なわれないように、露出は若干切り詰め気味にしています。

 三乱の流れから少し上流に行くと石ヶ戸の瀬と呼ばれる場所があります。三乱の流れに比べて傾斜があり、川幅も狭いので流れに激しさがあります。川中に大きな岩がゴロゴロしていてその間を縫うように流れているので、立つ場所が少し違うだけで見える景色はずいぶんと異なります。奥入瀬渓流でいちばん撮影ポイントが多い一帯かも知れません。

 この一帯はツツジよりもタニウツギが多く見られます。タニウツギはツツジに比べるとずいぶん小さな花で地味な感じですが、花数が多いので新緑に色どりを添えてくれています。

 石ヶ戸の瀬の上流に近い場所で撮影した一枚が下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F22+1/2 2s Velvia100F

 左上にある大きな岩の後方から流れて来ているのが良くわかるポジションから撮りました。画の中央奥から左に、そして右に流れていくように変化をつけてみました。流れの面積が大きくなりすぎないように、適度に岩や草を配置しました。
 森の上の方は木々の密度が低く、かなり明るい状態になっていて、そこが画に入ってくると全体的に軽い感じになってしまうのでその部分はフレームアウトしています。
 また、川中の岩の上にタニウツギが咲いていて、大きな木ではありませんがしっかりと点景になってくれました。

 流れが作り出す波が真っ白に飛びきってしまわないギリギリのところ、そして、背後の森が明るくなりすぎないところで露出を決めています。
 この写真も1枚目と同じようにフロント部でアオリをかけています。

優美さと豪快さが融合した滝

 奥入瀬渓流で滝が多く見られるのは上流域です。上流域になると本流の流れは中流域に比べて単調な感じになりますが、川の両側が切り立った崖になっていて、そこに幾筋もの滝を見ることができます。、落差の大きな滝は見応えが十分にあります。いくつかの滝を除いては近くまで行くことができないので、この季節は木々の葉っぱの合間から見るような状態です。

 そんな滝の中で滝つぼの前まで行くことのできるのがこの雲井の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6 F45 4s Velvia100F

 落差は25mほどあるらしいですが、三段になって流れ落ちていて、水量も多いので迫力があります。風向きにもよりますが、滝つぼの前まで行かなくても近づいただけで飛沫の洗礼を受けます。
 近づきすぎると滝の上部が見えなくなってしまうので、全景を撮るのであれば飛沫のかからない辺りまで引いて撮影することになります。
 また、この滝は上の2段は右岸側に、下の段はわずかに左岸を向いて落ちているので、直瀑に比べるといろいろなバリエーションで撮ることができます。

 この写真は滝つぼまで20~30mの位置から撮っていますが、焦点距離180mmのレンズを使っているのでカメラを上に向けています。そのため、そのままでは滝の上部が小さくなり迫力がなくなってしまうのでフロント部のライズアオリをかけています。

 雲井の滝は車道からすぐのところにあるのでアクセスも良くて訪れる人も多いですが、ここから上流に行くと人の数はぐっと減ります。滝の見えるところでは車や観光バスが停まっていたりしますが、上流にある銚子大滝までの間、遊歩道を歩いている人はまばらになります。

 その銚子大滝は本流にかかる唯一の滝で、落差約7m、幅はおよそ20mもある豪快な滝です。6月ごろはいちばん水量の多い時期で、滝からかなり離れても飛沫を浴びます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 6s Velvia100F

 この写真を撮ったのは雨が降り出しそうに曇った日の早朝で、辺りはかなり薄暗い状況です。滝の周囲を暗く落とし、秘境っぽい感じを出そうと思って撮りました(実際にはすぐ近くに駐車場があり、全く秘境らしくないのですが)。
 画手前(下側)の倒木の上に生えている植物はシルエット気味に写し込みたかったのですが、8秒という露光時間のため、ブレが目立ってしまいました。また、あちこちで木の葉もブレています。

 早朝は訪れる人もほとんどなく、ゆっくり撮影することができます。日中、大型観光バスが着くとどっと人が降りてきて、つかの間、滝の周辺はとても賑わいますが、バスが行ってしまうと滝の音だけが聞こえる空間に戻ります。

岩上に根を下ろした植物たち

 奥入瀬渓流は流れと岩や植物によってつくられる造形美が魅力ですが、そんな景色をつくり出しているのに欠かせないのが岩上の植物です。
 奥入瀬渓流は火山活動によって形成された火砕流台地だったらしいのですが、数万年前に十和田湖の子ノ口が決壊し、大洪水が発生して侵食されたという生い立ちがあるようです。そのため、渓流の中には大小たくさんの岩が転がっていて、その上に植物が根を下ろした光景はとても風情があります。中には大木にまで育っているものもありますが、シダなどの野草類が自生している姿にはつい立ち止まり見入ってしまいます。

 下の写真は流れがとても穏やかなところで見つけたものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F16 1s Velvia100F

 生えているのは主にフキだと思いますが、下の方にはカエデのような形をした葉っぱも見られます。周囲は深い緑に囲まれているため、それが水面に映り込んで全体が黄緑色に染まっています。
 上流から流れてきたと思われるのですが、川底にひっかかって先の方だけが水面に出ている木の枝があり、これがとても良いアクセントになってくれました。背景の木々の映り込みだけでは単調になってしまいがちですが、この枝のおかげで川面に波がつくられ、動きが感じられます。
 露光時間が長すぎて水面が白くなってしまわないように、また、適度に流れが感じられるようにということで1秒の露光をしています。

 フキの葉っぱが反射で白くなっているところがあります。これを取り除こうと思いPLフィルターを弱くかけてみましたが、全体がベッタリとした感じになってしまうのと、水面の反射も弱くなってしまうので、結局、使うのをやめました。

 もう一枚、前の写真とは反対に流れの激しいところで撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F11+1/3 1/4 Velvia100F

 ウマノミツバではないかと思うのですが違うかも知れません。奥入瀬の岩上植物ではいちばん多いのではないかと思えるほどよく見かけます。三つ葉のような形をした葉っぱがとても涼しげです。
 白波を立てている流れに対して、微動だにしない野草の凛とした感じを出したくて撮った一枚ですが、背景はぼかし過ぎず、この場の環境が良くわかる程度にぼかしました。大雨などで水量が増えれば流されてしまいそうなところに根を下ろした偶然。しかし、そんな杞憂はまったく関係ない、今を力の限り生きている姿に感動します。

悠久の時を経た手つかずの森

 奥入瀬の渓流沿いを歩いていると、両側に広がる森の植生が場所によって異なっているのがわかります。下流域は比較的明るい感じのする森ですが、上流域に行くにしたがって原始の森といった雰囲気が漂ってきます。林床はシダで覆われ、岩や倒木にはびっしりと苔が生えていて、恐竜が出てきそうな様相です。
 木が倒れたりしても、それが道路などにかかってさえいなければ一切手を加えられることはなく、自然の営みに任された森といった感じです。

 銚子大滝から少し下った森の中に、ゾウが歩いている姿にそっくりな大きな岩があります。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F11+1/2 1s Velvia100F

 岩の上に木が倒れていて、それがまるでゾウの鼻のように見えます。ゾウの正面(写真では左方向)の方に行くとゾウには見えないのですが、この写真の位置から見ると、鼻を持ち上げたゾウがゆっくりと向こうに歩いて行っているように見えます。この倒木がいつからこのような状態になったのかは知りませんが、自然というのは時に面白いものを見せてくれます。
 奥深い森の感じを出すために、手前にできるだけたくさんのシダを入れてみました。そして、露出はアンダー気味にしています。

 春の山菜としても有名なゼンマイや、少し森に入れば普通に見ることができるオシダなど、シダの仲間の風貌は独特で、それが生えているだけで太古の森といった感じがします。シダの仲間は種子を持たず胞子で増えるというのを小学校の理科の授業で教えてもらったときに、ちょっと不気味な印象を持った記憶がありますが、それを今でも引きずっていてそんな風に感じるのかも知れません。ですが、今はとても魅力のある被写体だと感じています。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F5.6 1/125 Velvia100F

 上の写真は苔むした樹の幹とシダの取り合わせが面白いと感じて撮った1枚です。
 背後は川ですが大半を幹で隠し、ちょっとだけ見えるようにしました。絞りは開放にして背景はできるだけぼかしています。
 雲が切れて森の中に光が差し込んでおり、画全体が緑被りしているように見えます。深い森の新緑の季節ならではの光の演出といった感じがします。

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 コロナがだいぶ落ち着いてきたからなのか、今年の奥入瀬の人出は少し増えたように感じました。とはいえ、人気のポイント以外のところは人の数も少なく、静かなたたずまいです。
 今回、主に中流域と上流域を撮影しましたが、片道およそ9kmあります。散策するだけなら1日でも十分ですが、撮影しながらだととても1日では回りきることができません。天気は毎日変わるので、昨日撮影した場所に今日行くと全く別の景色に見えたりして、なかなか前に進めません。同じ場所であっても毎回違った発見があるということなので、それはそれで良しとしておきますが、一方でまだ撮影できていない場所もたくさんあります。

 なお、余談ですが、今回の撮影行でクマを2度見かけました(奥入瀬ではありません)。いずれもかなり離れていたので恐怖感はありませんでしたが、今年は各地でクマの出没が多いようです。

(2023年6月8日)

#奥入瀬渓流 #新緑 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

山笑う 初夏の輝く新緑を撮る

 俳句の春の季語に「山笑う」というのがあります。山の草木が一斉に若芽を吹いて、山全体が明るい景色になる様子を表現した言葉と言われています。それまでは幹や枝ばかりで寂しげだった山が一変する様子を見事に表現していると思います。
 確かに初夏の山の色合いは鮮やかでやわらかで、何ともいえない美しさがあります。日を追うごとにその色合いは濃さを増していき、若葉の色を愛でることのできる期間は長くはありません。秋の紅葉のような華やかさはありませんが、新緑を見ていると生命のエネルギーを感じます。
 そんな初夏の新緑を撮ってみました。

 ちなみに、夏の山を形容する季語は「山滴る」と言うそうです。あらためて、日本語の豊かな表現に感じ入ってしまいます。

芽吹きを撮る

 木の種類によって若干の違いはあるものの、まるで申し合わせたように一斉に芽吹いて、森全体が淡い黄緑色に染まっていきます。硬かった芽が膨らんで芽吹きが始まると、わずか数日ですべての葉っぱが開ききってしまいます。
 下の写真はカエデが芽吹いて間もないころに撮影したものですが、まだ開ききっておらず、畳んだ傘のような恰好をしています。少し前までは茶色っぽい硬い芽だったにもかかわらず、そこからこんなに大きな葉っぱが出てくるのですから、まったくもって自然の力は偉大で不思議です。見ようによってはさなぎから羽化したばかりの蝶のようにも見えます。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/60 Velvia100F

 背後にはブナやクヌギなどの木があり、いずれも芽吹きが進んでいて、褐色の木の幹や枝ととても美しいコントラストをつくり出しています。どれも同じような淡い黄緑色ではありますが、種類によって微妙に色合いが異なっていて、そのグラデーションもとても綺麗です。

 このような写真を撮る場合、被写界深度を深めにして出来るだけ多くの若葉にピントを合わせるか、逆に被写界深度を浅くして、ごく一部の若葉だけにピントを合わせるか、悩むところです。前者の場合は状況がわかる写真になりますが、若葉が背景に埋もれ易くなってしまいます。また、後者の場合、若葉は浮かび上がってきますがその場の状況はわかりにくくなってしまいます。
 新緑の風景として撮るのであれば、ある程度の広範囲を写す必要がありますので、森全体が芽吹きの時期を迎えているということがわかりつつも、出来るだけ多くのカエデの若葉にピントを合わせたいということで撮りましたが、もう少し背景をぼかしたかったというところです。

 もっと広い範囲で森の芽吹きの様子を撮ろうと思い、撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAC67 55mm 1:4 F16 1/15 Velvia100F

 この写真は露出をかなりオーバー気味(+2段ほど)にしています。実際の森の中はこの写真ほど明るくはないのですが、若葉を明るく写したかったので思い切って露出をかけてみました。木々の幹の色も白っぽくなり重厚さが失われておりますが、この時期の爽やかな感じを狙ってみました。しかし、やはり全体に飛び気味です。

新緑の大樹を撮る

 大樹というのはそれだけで存在感に溢れていて、四季を通じて魅力のある被写体の一つです。
 このような大きな木の全体を撮ろうとすると、被写体からかなり離れなければなりません。しかしそうすると、ぽつんと生えている一本桜のようなものでもない限り、周囲の木々も写り込んでしまい、焦点の定まらない写真になってしまいます。
 ですが、周囲を大きな木に囲まれていてもまさに紅一点の例えのように、その一本だけが異彩を放っていると遠くからでもとてもよく目立ちます。

 これはケヤキの大木ではないかと思うのですが、周囲を杉などの針葉樹に囲まれている中でとても目立った存在でした。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/30 PROVAI100F

 逆光に近い状態であり、ほぼ真上方向から太陽の光が差し込んでいて、開いたばかりの若葉が黄色く輝いています。周囲が黒っぽく落ち込んだ色調なので一層目立っています。
 隣にある若干赤っぽく見える木は山桜ではないかと思うのですが、定かではありません。

 この木がある場所は山の北側の急斜面です。それを数百メートル離れた場所から望遠レンズで撮りました。若干短めのレンズを使って、もう少し広い範囲を写した方が窮屈さがなくてよかったかもしれませんが、大樹の存在感を出すにはこれくらいの大きさの方が望ましいようにも思います。
 周囲の杉は植樹されたものだと思いますが、このケヤキや桜だけは伐採されずに昔からここにあったのでしょう。神が宿っているのではないかと思える大樹です。

川面への映り込みを撮る

 渓流や滝などに限らず、水の流れを見るとなぜか無性に撮りたくなります。何故そう思うのか、うまく説明できないのですが、水は命をはぐくむためになくてはならないものだということがそう思わせるのかも知れません。
 もちろん、植物にとっても水は欠かせない存在であり、水と植物の組合せというのは不思議な魅力があります。雨上がりの生き生きとした植物の姿はその代表格かも知れません。
 また、湖面などに写り込んだ景色も素敵で、単に樹だけを見ているよりも趣を感じるから不思議なものです。

 下の写真は清流の上に張り出している木の枝ですが、そこにに光が差し込み、川面に写り込んでいる状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:6.3 F22 1/60 Velvia100F

 この川は水がとても綺麗で、川底の石の一つひとつがわかるくらいです。水深も浅いうえに流れが穏やかなので、まるで湖面のように新緑を映し込んでいます。若葉を透過してきた黄緑色の光が川面に降り注いでいるため、水が黄緑色に染まっているように見えます。それどころか、この渓流全体の空気までも黄緑色に染まっているような錯覚を覚えます。
 黄緑色の光の感じを損なわないように露出はオーバー目にしていますので、若葉はかなり飛び気味です。少々、葉っぱの質感が失われてしまっていますが、葉っぱを適正露出にすると全体が暗くなってしまい、全く雰囲気の異なる写真になると思います。

 夏になり、葉っぱも濃い緑になるとこのような輝きは見られなくなてしまいます。それはそれで違った美しさがありますが、葉っぱ自体が発光しているような輝きを見ることができるのも新緑ならではです。

多重露光で撮る

 一口に多重露光と言ってもその表現方法は様々で、全く違う画像を重ね合わせるアート的なものもありますが、私が時々撮るのは、同じ場所で複数回の露光をするという最も簡単な方法です。もちろん、同じ場所で複数回の露光をするだけでは露光時間を長くしたのと変わらないので、1回目と2回目の露光でピント位置を変えて行ないます。ピントを外して露光するとぼやけるので、これを重ね合わせるとソフトフォースレンズで撮ったような雰囲気の写真になります。

 新緑の中にツツジ(たぶんミツバツツジではないかと思います)が一株だけ咲いていたので、これを多重露光で撮ってみました。

▲KLinhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm 1:5.6 F32 1/60、F8 1/250

 1回目は被写界深度をかせぐために出来るだけ絞り込んで撮影し、2回目は少しピントを外し、絞りも開いて撮影しています。
 2回とも適正露出で撮影すると結果的には2倍の露出をかけたことになり、若干露出オーバーになりますが、この新緑の鮮やかさを出すためにその方が望ましいだろうということで補正はしていません。
 また、2回目は前ピン(近接側)に外しているので、周辺部の方が画のずれが大きくなり、大きくボケているような印象になりますし、暗いところよりも明るいところのボケの方が大きく感じられます。

 このような多重露光の方法の場合、ぼかし具合と露出のかけ方によってずいぶんと印象が変わってきますが、全体的に柔らかな感じになるのと、メルヘンチックな描写になる傾向があります。被写体によっても印象が変わりますので、いろいろ試行錯誤してみるのも面白いかも知れません。

マクロで撮る

 マクロ写真はまったく違った世界を見せてくれるので、その魅力に取りつかれてしまうことも多いのではないかと思います。だいぶ前になりますが私もマクロ撮影にはまってしまい、一時期はマクロ撮影ばかりやっていたことがあります。私の場合、その被写体のほとんどは花でしたが、単に小さな世界を写し取るというだけでなく、たくさんの表現手法を使うことができるのも魅力の一つかも知れません。

▲PENTAC67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真は初夏に小さな白い花をつけるドウダンツツジです。公園の生け垣などにもよく使われているので身近な被写体といえると思います。
 朝方まで降っていた雨のため、葉っぱや花のあちこちに水滴が残っており、とてもいいアクセントになっています。また、水滴のおかげで玉ボケもできて、画に変化を与えてくれています。

 マクロ撮影の場合、被写界深度が非常に浅く、ピントの合う位置は一点のみといっても良いくらいですが、写り込む要素が多すぎると画全体がうるさくなってしまうので、主要被写体以外は出来るだけ大きくぼかしておいた方がすっきりとした写真になります。
 ドウダンツツジはたくさんの花をつけるので、画がゴチャゴチャしないように一輪だけひょんと飛び出した花を狙って撮りました。もちろん、前後に葉っぱもたくさんあるのですが、これらは大きくぼかして初夏の印象的な色合いになるようにしました。真っ白で清楚な感じのする花も綺麗ですが、新緑の鮮やかな色あいが爽やかさを感じさせてくれます。

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 新緑だからといって特別な撮影方法があるわけではなく、自分なりの表現手法で撮ればよいわけですが、いざ撮ろうとすると意外と難しいと感じるのも事実です。その美しさに自分の気持ちばかりが先走っているのかも知れません。
 自分の腕はともかく、新緑の美しさが格別なのは言うまでもありません。一年のうちのわずかの期間だけしか見ることのできない新緑の芽吹きは代えがたいものがあります。秋の紅葉も綺麗ですが、刹那の美しさという点では新緑は群を抜いているように思います。

 標高の低いところでは新緑の季節はすっかり終わってしまいましたが、高山に行けばまだ見ることができます。行くまでが大変ですが、高山の新緑はまた格別です。

(2023.5.15)

#PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #新緑 #ペンタックス67 #リンホフマスターテヒニカ

檜原村 初夏の風景を大判カメラで撮る

 4月の後半、檜原村(東京都)に行ってきました。檜原村は都心から車で2時間ほどですが、東京都とはいえ、さすがに標高も高いので、都心よりも季節の進み方はずいぶん遅いようです。まさに新緑真っ盛りといった感じで、大判カメラで初夏の風景を撮ってみました。
 今回持ち出したカメラは、リンホフマスターテヒニカ2000です。

新緑と山桜のコラボレーション

 あきる野市を抜け、檜原街道を西(檜原都民の森方面)に行くと徐々に山深くなってきます。それでも道の両側には民家が見られますが、南郷の駐在所を過ぎたあたりから民家はめっきり減り、東京とは思えない豊かな自然が続きます。山々はまだ淡い色をしており、ところどころに桜(山桜と思われます)も咲いています。

 下の写真は走っている途中で見つけた山桜です。それほど大きな木ではありませんが、隣のオオモミジと思われる新緑とのコラボレーションがきれいだったので撮ってみました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON CM 105mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 この日は曇り空でしたが、強い日差しが当たっているよりは全体的に柔らかな描写になるので、このような被写体を撮るにはむいています。
 道路脇から撮っており、ワーキングディスタンスが制限されてしまうので、若干、広角寄り(105mm)のレンズでの撮影です。大きな木ではないので、あえて左右を切り詰めてみました。
 オオモミジの新緑の色が濁らないように、露出は少し明るめにしています。
 ほとんど無風状態でしたので、1/4秒の低速シャッターでもブレることなく写ってくれました。

矢沢を彩る新録

 檜原街道は南秋川に沿って走っていますが、この南秋川にはいくつもの支流が流れ込んでいます。矢沢もそんな支流の一つで、神奈川県との県境にある生藤山の山麓がその源流です。小さな沢ですが景観が美しく、被写体に富んでいます。矢沢に沿って林道があるのですが、残念ながら途中で通行止めになっていました。

 南秋川に合流する手前の橋の上から撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 水量は決して多くありませんが、とてもきれいな水が流れています。河原の白い石と木々の緑のコントラストが美しい景観をつくりだしています。
 渓谷の深さを表現しようと思い、川を左下に寄せ、急峻な右岸を多めに入れてみました。沢に張り出す左右の枝が重なりすぎないアングルから撮っています。

 また、全体をパンフォーカスにしたかったのでカメラのフロント部を少しだけ下にあおっていますが、左上の奥の木々は被写界深度を外れてしまっている感じです。

 この矢沢はこのような景観が上流まで続いているので、林道の通行止めが解除されたら源流まで行ってみたいと思っています。

山萌える

 この時期の檜原村は木々が芽吹いて間もない頃で、山全体が淡い色彩に覆われています。少し山の上の方に目をやると、緑というよりは「白緑(びゃくろく)」とか「薄萌葱(うすもえぎ)」といった名前がぴったりの色をしています。
 しかし、このような色は長くは続かず、日増しに濃くなっていきます。

 白緑というにふさわしい色合いをした景色に出会いました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 木によって色合いが微妙に異なり、何とも言えない美しさが作り出されています。所どころに桜が咲いており、淡い色を一層引き立てているように感じます。

 このような景観が広がっているので、どこを切り取るか非常に迷いますが、木々が最もこんもりと見えるアングルと、全体が単調なパターンにならないように所どころにアクセントとなるものが配置されるような構図を選びました。
 露出を切り詰めてしまうと、この淡い感じが消えてしまうし、露出をかけすぎると飛んでしまうし、非常に悩むところです。

 この色合い、ポジ原版をライトボックスで見ると息をのむ美しさですが、画面ではお伝え出来ないのが残念です。

ひっそりと佇む龍神の滝

 檜原村にはたくさんの滝がありますが、個人的に気に入っているのが「龍神の滝」です。檜原街道からすぐのところにあり、斜面に設けられた遊歩道を下っていくと容易に訪れることができます。
 落差が18mほどの滝で、かつてはかなりの水量があったようですが、いまはずいぶんと減ってしまい、一筋の糸のような滝です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 周囲は大きな木々でおおわれているため、昼間でも薄暗い状態です。時おり木漏れ日が差し込み、岩や水面に模様を描き出していたので、滝つぼのところだけを撮ってみました。
 昼なお薄暗いところにたたずむ雰囲気が壊れないよう、ごつごつした岩が黒くつぶれないぎりぎりのところまで露出を切り詰め、水が白く飛びすぎないようにしました。

 滝の全景を撮るには対岸からか、もしくは滝つぼから広角で見上げる構図になるかと思いますが、綺麗な滝なのでいろいろな撮り方ができると思います。
 水量は多くありませんが近づくと飛沫が飛んできますので、風の強い日などは要注意かも知れません。

 なお、この滝では滝行が行なわれ、それに訪れる人も多いらしいのですが、一度もお目にかかったことはありません。

 村域の9割以上が山林という檜原村ですが、それゆえにたくさんの自然に恵まれており、森林、渓谷、滝など、四季を通じていろいろな景色に出会うことができます。

(2021.6.4)

#檜原村 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #新緑