フォーカシングスクリーンの視野率は、写真の出来を大きく左右する

 ミラーレス一眼レフのデジタルカメラは構造が異なっていますが、35mm判や中判のフィルム一眼レフカメラや二眼レフカメラ、あるいは大判カメラにはフォーカシングスクリーンがついていて、ここにレンズから入った光が結像するようになっています。大判カメラや多くの二眼レフカメラはフォーカシングスクリーンに映った像を直接見て、構図決めやピント合わせを行ないますが、一眼レフカメラの多くはアイレベルファインダーを通して見るような仕組みになっています。
 このように多少の違いはあれ、フォーカシングスクリーンに映った像を頼りに撮影することには変わりがありません。したがって、フォーカシングスクリーン上には、フィルムに記録されるのと同じように像が映されていないと具合が悪いわけですが、カメラによって映される範囲が異なっているのが実情です。

 カメラのカタログや取扱説明書を見ると、「ファインダー視野率 ○○%」という記載があります。これは撮像面(フィルム)に記録される範囲を基準にしたとき、フォーカシングスクリーン(ファインダー)で見ることの出来る範囲の割合を示したもので、100%であれば記録される範囲と見ている範囲が一致しているわけですが、100%より小さい場合は記録される範囲よりも狭い範囲しか見えていないことになります。反対に100%より大きければ、記録される範囲よりも広い範囲を見ているわけです。

 最近の一眼レフのデジカメはファインダー視野率100%というのが多いようですが、かつてのフィルム一眼レフカメラの場合、一部の機種を除いてファインダー視野率が90%台というのが多かったと記憶しています。
 何故、ファインダー視野率を低くしているのか本当の理由はわからないのですが、一説には、フィルムからL判などに機械焼き(いわゆるサービスプリントと呼ばれていたものです)する際に、周囲が若干カットされてしまうので、それを考慮してファインダーの視野率も下げているという話しを聞いたことがありますが、事実のほどはわかりません。

 理由はともかく、フォーカシングスクリーンの視野率が低いというのは撮影する側からするとあまり有り難くありません。
 因みに、私が愛用している中判カメラのPENTAX67は、アイレベルファインダーを装着した場合の視野率は約90%(カタログ値)です。
 PENTAX67のアパーチャーサイズ、すなわち、実際にフィルムに記録されるサイズは69.3mm x 55.5mmです。視野率が90%ということは、周囲が均等にカットされるとして、65.7mm x 52.7mmになってしまいます。つまり、横位置で構えた場合、フォーカシングスクリーンの左右それぞれが約1.8mm、上下それぞれが約1.7mmも見えていないということになります。

▲PENTAX67のフォーカシングスクリーン

 この値は誤差の範囲と思われるかもしれませんがそんなことはなく、例えば、中判(67判)の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズで50m先の被写体を撮影する場合、フォーカシングスクリーン上の左右それぞれ1.8mmは、50m先の被写体の位置では約85cmにも相当します。これは決して誤差の範囲などではなく、大人一人が簡単に隠れてしまう横幅です。
 フォーカシングスクリーン上では見えていなかったのに、実際に出来上がったポジ原版を見たらしっかりとおじさんが写り込んでいた、なんていうことがごく当たり前に起きてしまいます。

 もちろん、写り込んでしまったのはおじさんが悪いのでなく、撮影するこちら側に全責任があるわけです。近くに人がいるときはフレーム内に入らないか確認すべきですし、もし入りそうであれば通り過ぎるまで待つべきなのですが、つい撮り急いでしまったりするとこのようなことが起こり得ます。実際に私も何度か経験をしています。
 また、人がいなくても目に見えている範囲よりも実際に写る範囲の方が広いわけですから、構図を決める際にカメラを上下左右に振りながら確認しなければならないので、とても煩わしいです。右方向を確認するためにカメラを右に振ると左側が切れていってしまいますし、上下に関しても然りであり、フィルムに記録される全景を一度に見ることができないわけですから結構なストレスです。

 端の方に余計なものが写り込んだらトリミングすれば済む話ですが、リバーサルフィルムを使っているとそれを容認できなくなってしまいます。リバーサルフィルムの場合、現像が上がった時点で完成形となるので、そこに余計なものが写っているとそのコマは失敗作となってしまいます。
 最近はなくなってきましたが、以前は写真コンテストなどでもポジ原版(スライド)をそのまま応募する形式のものが結構ありました。余計なものが写っているからと言ってポジ原版をハサミやナイフで切ってしまうわけにはいかないので、すなわち、応募に値しない失敗作ということになってしまいます。
 そのような経験をしてきていることも理由かもしれませんが、ポジ原版上で完成させないと気が済まないという、とても面倒くさい状態になっているわけです。

 私が普段使っているカメラは、中判のPENTAX67と大判(4×5判)のカメラです。
 PENTAX67もアイレベルファインダーをつけた状態ですと視野率は約90%になってしまいますが、これを取り外してフォーカシングスクリーンを直接見るようにすると、視野率が100%にかなり近づきます。
 大判カメラの視野率もすべて同じというわけではなく、機種によって微妙に違っています。

▲Linhof MasterTechnika 2000 のフォーカシングスクリーン

 ということで、私が持っているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズと視野率を実測してみました。
 まず、アパーチャーサイズ(フィルムに記録されるサイズ)は以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.3mm x 55.5mm
  4×5判フィルムホルダー : 120.1mm x 96.1mm

 これに対して、今現在、所持しているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズを実測したのが以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.6mm x 54.0mm
  Linhof MasterTechnika 45 : 121.4mm x 98.4mm
  Linhof MasterTechnika 2000 : 120.3mm x 97.1mm
  WISTA 45 SP : 120.1mm x 99.7mm
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 120.0mm x 94.6mm

 この値から視野率を計算すると以下のようになります。

  PENTAX67 : 97.7%
  Linhof MasterTechnika 45 : 102.5%
  Linhof MasterTechnika 2000 : 101.2%
  WISTA 45 SP : 103.7%
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 98.4%

 縦と横とで比率は異なっていますが、フォーカシングスクリーン全体の視野率を見るとこんな感じになっています。

 リンホフとウイスタはわずかですが100%を上回っています。リンホフMT45とMT2000は同じだと思っていたのですが、実際にはごくわずかに違いがあるようです。
 一方、タチハラは短辺が少しカットされる状態になっています。

 個人的には視野率は100%を上回っているのがありがたく、できれば110%くらいあると理想的だと思っています。理由は、実際に写り込むよりも少しだけ広い範囲が見える方が構図決めがし易いからです。フィルムに納まる範囲のちょっと外側に何があるかがわかることで、もう少し右に振るか左に振るか、あるいは上、または下に振るかを判断することができます。これによって、フィルムの上下左右や四隅を曖昧な状態にせずに、意識を配ってきちんとまとめることができるのはとても大事なことだと思っています。
 また、フィルムの端の方や隅に余計なものが入り込むのを防ぐのはもちろんですが、中途半端な入り方になってしまうのを防ぐこともできます。
 例えば、隅の方に太い木の枝がほんの少しだけ入ってしまうなんてことは有りがちですが、これは出来上がった写真(ポジ)を見た時にとても気になります。撮影の際にはそこに気が回らなくて起きてしまう失敗ですが、これもフィルムに写り込む範囲よりも少し広く見えていれば防ぐことができます。
 隅の方に写った木の枝なんてどうってことないと思うかも知れませんが、そんなことはなくて、周辺部まで気配りの行き届いた写真とそうでない写真を見比べると、カメラの位置や向きがほんのちょっと違っているだけなのに、写真から受ける印象はずいぶんと違ってきます。

 リンホフもウイスタも視野率100%を上回っているとはいえ、ゆとりをもって周辺を見ることができるほどの大きさはありません。それでも周辺部がカットされているよりははるかに構図決めはし易いです。
 そういった点からすると、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着しての撮影というのは極めて理想的と言えます。精度の問題はありますが、レンジファインダーカメラのブライトフレームの外側も見えているのと同じ感覚です。
 視野率を高くしようとするとフォーカシングスクリーンのサイズを大きくしなければならず、そうでなくても図体の大きな大判カメラはますます大きくなってしまいます。また、シートフィルムホルダーの規格もあるので無暗に大きくもできなのでしょうが、視野率にゆとりのあるフォーカシングスクリーンによる恩恵は大きいと思います。

 カメラを持ち出すたびに、フォーカシングスクリーンの視野率を高める方法はないものかと思案を巡らせる日が続いています。

(2022.12.24)

#フォーカシングスクリーン #PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45

花を撮る(6) シルエットで撮る

 いうまでもなく花には様々な色彩があるので、フィルムカメラであれデジタルカメラであれ、カラーでの撮影に向いている被写体の一つと言えます。それぞれの花が持っている色合いを忠実に再現した写真はやはり美しいものです。
 一方、敢えて色彩をなくし、花の形だけで表現した写真も趣があって、華やかさとは違う別の表情や雰囲気が伝わってきます。
 今回はモノクロも含め、シルエットで撮った花の写真を何枚かご紹介します。

 何故か桜の咲く季節が近づくと心がウキウキして、私としては是非ともシャッターを切りたくなる被写体の代表格です。
 多くの桜は葉っぱが出る前に花が咲き、しかも、他に類を見ないほど花の密度が高いのでとても華やかに見えます。薄紅の花色はとても清楚な感じがします。

 そんな魅力的な桜ですが、桜の木全体をシルエットで撮影したのが下の写真です。

▲平堂壇桜 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W2 PROVIA100F

 この桜は、福島県にある「平堂壇の桜」という名前がついている一本桜です。小高い丘(古墳らしいです)の上に立つエドヒガンの巨木で、かなり遠くからでも見つけることができます。周囲に障害物がないので、360°どの方角からでも見ることができますが、私は桜の東の方角から見た時の木の形がいちばん好きです。

 夕方、太陽が西の空にかかり、東の方角から見ると桜の木全体がシルエットになります。実際にはこの写真よりももっと明るい感じですが、夕暮れの雰囲気を出すために露出を切り詰めています。また、雲の立体感を出すために、W2の色温度変換フィルターを使用しています。
 近所の方だと思われるのですが散歩にでもいらしたのか、ちょうど通りかかったのでそのタイミングを撮らせてもらいました。

 桜の木までは200mほど離れた場所から撮影しているため、真横から見ているのに近いアングルになり、巨木ではありますが全体の輪郭をとらえることができています。

コスモス(秋桜)

 日本に入ってきたのは明治時代らしいですが、今では道端や田圃の畦道、牧場などで普通に目にすることができます。近年は観光用に何十万株というコスモスを人工的に植えたコスモス畑も各地に増え、一斉に咲いている姿は見応えがあります。

 下の写真もコスモスのお花畑で 撮影したものです。

▲コスモス : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F11 1/15 PROVIA100F

 撮影した時間は間もなく日の出になろうかという早朝です。太陽の光が強まるにつれ、赤から紫に変わる空のグラデーションがとても美しい時間帯です。
 完全にシルエットにしてしまうと早朝の感じが薄れてしまうと思い、わずかに赤紫の花色がわかるくらいの露出をかけています。南国育ちのコスモスは、持ち前の鮮やかな色彩と明るい光がお似合いですが、このようにシルエット、もしくはそれに近い状態でも華やかさが損なわれることがありません。

 また、たくさんの花が密生しているところをシルエットにすると重なり合ったところが平面的になってしまうので、他よりも高く伸びた数本の茎を低い位置から見上げるようなアングルで撮影しています。そうすることで、針金のような細い葉っぱや蕾などの形もすっきりと見えるようになります。

 お花畑の向こうから太陽が顔を出してしまうと光が花弁に差し込み、シルエットにならなくなってしまいます。それはそれでステンドグラスのような美しさになるのですが、全く雰囲気の違う写真になります。

ヒメジョオン(姫女苑)

 どこでも見ることのできる、北アメリカ原産の帰化植物です。
 白、またはごく薄いピンクの小さな可愛らしい花を咲かせますが、とても強い繁殖力のせいか、どちらかというと嫌われ者の感があります。亜高山帯にまで生育域を広げているため、要注意外来生物に指定されているようです。

 あまりカメラを向けようという気持ちにならないヒメジョオンですが、こんな姿を見せてくれることもあります。

▲ヒメジョオン : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 沈む直前の太陽をバックに、ヒメジョオンをシルエットで撮影しました。
 花や蕾の形がユニークで、まるで踊っているように見えます。そんな中でいちばん踊りが洗練されている(?)と思えた1本を、太陽のど真ん中に配置してみました。

 300mmの望遠レンズを使い、出来るだけ太陽が大きくなるようにして、ヒメジョオンの花だけでなく茎の部分も入るようにしました。
 また、ヒメジョオンが1本だけだと画が散漫になってしまうので、ある程度の取り巻きがいるアングルを探して見つけたのがここでした。
 西日は沈むのが早いので、300mmのレンズを着けるとファインダーの中で太陽が動いていくのがわかります。ですので時間との勝負です。

 同じ場所から同じアングルで撮影しても、日中ではこのようなユニークさは感じられません。嫌われ者の野草に対する見方も少し変わるかも知れません。

ノアザミ(野薊)

 アザミは初夏から秋口にかけていろいろな種類が花を咲かせますが、最もポピュラーなのがノアザミです。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、ごくまれに白い花を咲かせるのもがあり、見つけると何だか幸せな気持ちになります。
 ノアザミは特に珍しい野草というわけではありませんが、その鮮やかな花色がとても目立つので、撮りたくなる被写体の一つです。緑の中に赤紫の花が点在している景色は何とも言えない美しさです。

 花の色もさることながら花の形も特徴的なので、シルエットだけでもすぐにアザミとわかります。
 下の写真は日の出前、東の空が明るくなり始めたころに撮影したノアザミの写真です。

▲ノアザミ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/4 EX1 PROVIA100F

 花の下、総苞のところに蜂らしきものがしがみついています。指先でツンツンしてみましたが、寒いせいかピクリともしません。どうやら昨夜は家に帰らず、ここにお泊りしたようです。
 赤く染まりかけた空に抜いたノアザミだけでも綺麗なシルエットなのですが、蜂というおまけがついて、ちょっとほほえましい写真になりました。
 まだ薄暗い時間帯とはいえ、この花が咲いている環境がわかるようにと思い、下の方に草叢を、中間あたりに中景となる山並みを入れ、上の方には明るくなりかけた空を入れてみました。

 また、全体のボケが大きくなるよう、200mmのレンズに接写リングをかませての撮影です。そのおかげで溶けるようなボケになり、ノアザミのシルエットがより引き立ってくれました。

 因みに、ここでお泊りした蜂ですが、太陽が昇って暖かくなってくるともぞもぞし始め、やがてどこかに飛んでいきました。

キバナコスモス(黄花秋桜)

 近年、キバナコスモスをよく見かけるようになりました。よく見慣れているコスモスとは同属ですが別の種類らしく、コスモスに比べて花期が長いようです。東京では12月になっても見かけることがありますが、さすがにその頃になると鮮やかなオレンジ色の花弁も濁った色になってしまいます。

 そして、花が少なくなった分、代わりに目立ってくるのがトゲトゲした種子です。
 種子ができ始めの頃、トゲトゲは上を向いているのですが、徐々に開いていき、やがて小さなウニのようになります。

▲キバナコスモス : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 上の写真はまだ完全に開ききる前の状態の種子です。そのまま撮ってもつまらないので、玉ボケの中にシルエットとなるようにして撮りました。
 シルエットと言ってもこれは実体ではなく、種子の影です。背後の玉ボケは公園に設置されているステンレス製の柵に反射した光で、この中にキバナコスモスの種子の影が入るように撮影したものです。玉ボケと影の大きさのバランスを考えて撮ったつもりですが、もう少し影を小さくした方が良かったようにも思えます。

 このような写真は、玉ボケができる場所と被写体との位置関係(距離)によって出来栄えがまったく変わってしまうので、ベストポジションを探すのに手間がかかって結構大変です。

コバギボウシ(小葉擬宝珠)

 夏に薄紫色の花を咲かせる野草です。
 一本の茎にたくさんの花をつけるので、群生して咲いている様は見事です。開くとユリの花のような形になり、華やかさが増します。薄紫の中に少し濃い紫色の筋が入ったような花はとても品があり、写真映えする花だと思います。

 下の写真は、まだ開ききっていないコバギボウシをモノクロフィルムで撮ったものです。

▲コバギボウシ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4x ACROS100Ⅱ

 雲がかかっている夕陽をバックにしており、主被写体のコバギボウシは完全なシルエットになっています。赤く染まった空に抜くようにカラーリバーサルで撮ることも考えましたが、花が下向きになっていいる形を見て、モノトーンの方が似合うのではないかと思い、モノクロフィルムを使いました。ちょっと寂しげな雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 雲がかかっていたおかげで全体が硬くならずに済んだ感じです。

 軽くレフ板をあてた状態でも撮影してみましたが、花自体は柔らかな印象になったものの、全体としてはこちらの方が趣がある感じでした。

 なお、春の山菜の女王と言われているウルイは、同じ仲間のオオバギボウシの若葉です。今はハウス栽培物がほとんどですが、天然物のウルイは山菜特有の苦みがわずかに感じられ、山菜という実感があります。

シシウド(獅子独活)

 少し標高の高いところに行くとよく見られる野草です。
 背丈が高く、花火のように開いた花が特徴的です。花の色は白に近いクリーム色で、良く晴れた青空とのコントラストは爽やかな夏を感じさせてくれます。

 この写真もモノクロフィルムで撮影したものです。

▲シシウド : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 ACROS100Ⅱ

 シシウドの根元にカメラを設置し、見上げるようにして太陽を画面上部に直接入れることでシシウド全体をシルエットにしていますが、一つひとつの花はゴマ粒のように小さいので、綺麗な造形がくっきりと出ています。
 所どころに薄い雲がかかっていますが、ちょっとコントラストが弱い感じです。モノクロ用のフィルターのY2あたりを使った方が良かったかもしれません。好みもあると思いますが、やはりモノクロはキリッと締まった黒が表現されている方が好ましく感じます。

 シシウドは、縦にも横にも広がってたくさんの花をつけているほうが見応えがあるのですが、なかなかそのような個体に遭遇することは多くはありません。大きくて枝っぷりの良いシシウドに巡り合えたら、是非とも撮っておきたい被写体です。

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 シルエットで撮ると鮮やかな花の色は失われますが、花の魅力が失われるわけではなく、普通に見ていた時にはわからないものが見えてくるから面白いものです。
 また、もともとの色を脳が憶えているからかもしれませんが、シルエットの中に色が見えてくるような気がするのも事実です。シルエット自体はまるで影絵のように平面的にもかかわらず、立体的に見えるのも不思議です。
 シルエットのつけ方や濃淡によってずいぶんと写真の雰囲気も変わってきます。このあたりも奥深いところだという感じがします。

 (2022.11.8)

#コスモス #ノアザミ #シシウド #シルエット #PENTAX67 #野草 #花の撮影

秋の気配が漂い始めた裏磐梯高原

 福島県のシンボル的な存在、会津富士とも呼ばれる磐梯山の北側、標高800mほどのところに広がる高原一帯が裏磐梯で、磐梯朝日国立公園に指定されています。磐梯山の噴火によって誕生したといわれる湖沼群や清流が、見事な景観を作り出しています。高原リゾート地としても高い人気を誇っています。
 まだ、紅葉までにはもう少し時間が必要ですが、夏の名残がありながらも秋の訪れを感じ始めた裏磐梯を中判カメラで撮影してきました。

五色沼湖沼群

 裏磐梯の中でもひときわ人気の高いのが五色沼です。大小、数十の湖沼の総称ですが、沼によってエメラルドグリーンやコバルトブルーなどの異なる色をしていることからつけられた名前のようです。
 全長およそ4kmの探勝路が整備されており、片道2時間ほどで沼巡りをすることができます。起伏はほとんどありませんが、岩がゴロゴロしていたり、雨の後は道がぬかるんでいたりするので足元には注意が必要です。

 五色沼探勝路の入り口は裏磐梯ビジターセンター側と裏磐梯高原駅側の2箇所があり、いずれも駐車場が完備しています。
 また、この間をバスが通っているので、車で行って散策後はバスに乗って戻ってくるということも可能です。

 裏磐梯ビジターセンター側の駐車場からすぐのところにあるのが五色沼で最も大きい毘沙門沼です。

▲毘沙門沼:PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/30 PROVIA100F

 水は透き通っていますが、光の具合によってはコバルトブルーやエメラルドグリーンなどに見えます。特に天気の良い日は鮮やかな色になり、木々の緑の映り込みやさざ波によって微妙に変化する色合いが何とも言えぬ美しさになります。
 毘沙門沼のボート乗り場の近くには大きなカエデの木があり、真っ赤に紅葉した時の水の青色とのコントラストは絶景です。

 下の写真は裏磐梯高原駅側の入り口に近いところにある、るり沼です。

▲るり沼:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F22 1/30 PROVIA100F

 岸辺にはヨシの群落があり、沼の青い水に映り込む景色は一見の価値があります。
 また、この沼を見ることのできる場所は一ヵ所だけと限られていますが、正面に磐梯山を望むポイントであり、背景に磐梯山を入れた景色を撮ることもできます。
 個人的には五色沼の中ではるり沼がいちばんのお気に入りです。

 日差しが強いと木々の緑などもコントラストが高くなりすぎてしまうのですが、良く晴れた日差しの強い日ほど沼は鮮やかで神秘的な発色をするので、写真撮影する立場としては悩ましいところです。

中瀬沼

 五色沼の近く、国道459号線の裏磐梯剣ヶ峰交差点から米沢猪苗代線に入り、少し北上したところに中瀬沼があります。道路沿いの駐車場から徒歩15分ほどで中瀬沼の展望台に行くことができます。

▲中瀬沼:PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/8 PROVIA100F

 展望台は沼を見下ろせる小高い場所で、正面に磐梯山が見えます。
 この時期、まだ木々の葉っぱが生い茂っているので、沼の大半は隠れてしまっていますが、春から初夏にかけて、また、晩秋の頃になると、葉っぱが少ないので良く見渡せるようになります。

 展望台から見て磐梯山は真南に位置していますので、良く晴れた日は昼頃になると太陽が正面にきてしまい、遠景が霞んだような状態になってしまいます。この写真も雲によって磐梯山への光が遮られており、遠景のコントラストが低くなっています。

 この一帯は中瀬沼探勝路、レンゲ沼探勝路が整備されていて、1時間もあれば一回りできます。近くにあるレング沼はジュンサイが自生していたり、冬には雪まつりが開催され、3,000本のキャンドルが沼に灯った景観は息をのむ美しさです。

曽原湖

 裏磐梯の中では最も小さな湖ですが、湖中には小島があったり、周囲が林で囲まれていたりと、ちょっと日本離れした感じを受ける風景です。湖岸に立っているペンションなどもとてもお洒落で、この風景によく似あっています。

▲曾原湖:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/8 PROVIA100F

 夏の終りを惜しむかのような雲が出ていますが、木々は黄色くなり始めていて空気もヒンヤリとしています。夏は湖上もボートで賑わっているのですが、乗る人もなく係留されたままのボートがどこか寂しげです。
 秋も間近という季節感を出すために、太陽が雲に隠れて、湖面が少し暗くなる瞬間を狙ってみました。ボートのところだけ木漏れ日があたっていて、良いアクセントになってくれました。

 裏磐梯には湖や沼がたくさんありますが、「〇〇湖」のように湖がつく中では曽原湖が最小です。これより小さいのは「〇〇沼」となっています。湖と沼の違いに明確な定義はないようですが、湖より小さなものを沼と呼んでいるようです。湖というと明るくて開けた感じがしますが、沼というと薄暗くひっそりと佇んでいるという印象があるのは私だけでしょうか?

幻の滝

 桧原湖から磐梯町まで、磐梯山の北側を通る磐梯山ゴールドラインがあります。10年ほど前までは有料道路でしたが、今は無料開放されています。磐梯山にあるスキー場のゲレンデの中を通っているため、冬季は閉鎖されてしまいます。
 その磐梯山ゴールドラインの中ほどに、幻の滝があります。

▲幻の滝:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 近年までほとんど知られていなかったため、幻の滝と命名されたようです。
 駐車場が整備されており、道路を横切って遊歩道を5分ほど歩けば滝の正面に出ることができます。遊歩道と言っても狭くて急坂なので、しっかりした靴でないと大変です。

 ごつごつとした岩肌を滑るように流れ落ちる涼しげな滝です。落差は15mほどで、特に高いというわけではありませんが、滝つぼの前まで行くと見上げるような体勢になります。風の強いときは飛沫がかかるので覚悟が必要です。

 上の写真は少し離れた場所から長めのレンズで滝の中央部を撮影したものです。右側にあるカエデの木とのコラボレーションがとても綺麗です。
 飛沫がかかって濡れた葉っぱが白くなっていますが、この反射はPLフィルターを使えば取り除くことができます。同様に岩肌のテカリも抑えられ、しっとりとした感じになると思います。

 駐車場からすぐのところにある滝ですが、この辺りも熊が出るらしく、「熊注意」の看板があります。こんな逃げ場のないところで熊に出会ったらパニックになりそうです。

小野川不動滝

 小野川湖からデコ平方面に通じる道路から分岐し、細い道をしばらく上ると小野川不動滝の駐車場に着きます。ここから約1km、30分ほど山道を登ると滝に到着します。探勝路はよく整備されていますが、途中に150段ほどの勾配のきつい階段があります。
 落差25mの大瀑布で、かなり手前からでも滝の轟音が聞こえてきます。滝の手前に渓谷に架かる橋があり、橋の上からも全景を見ることができます。

 下の写真は橋を渡った先を滝に向かう遊歩道から撮ったものです。

▲小野川不動滝:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F32 2s PROVIA100F

 今の時期、水量は少なめなので滝に近づくことができますが、雪解け時で水量の多いときはここまで近づくと飛沫でびしょ濡れになってしまい、撮影どころではありません。
 引いて滝全体を入れたフレーミングも良いですが、水量が少なめだったので滝の上半分だけを撮ってみました。周囲をあまり広く入れず、滝の迫力が損なわれないようにしました。

 この滝は飛沫が多いので、日差しが差し込むと虹がかかることがあります。この日は薄曇りだったので虹を見ることはできませんでしたが、コントラストが高くなりすぎず、ディテールまで表現できたと思います。

 因みに、ここも熊の目撃件数が多いようです。

桧原湖

 裏磐梯で最も大きな湖で、南北に18kmに渡って細長く広がっています。湖の周囲をほぼ湖岸に沿ってぐるりと道路が通っていて、車で一回りすることができます。桧原湖一周のサイクリング大会やバスフィッシングのプロトーナメントなど、イベントの開催も多く行なわれています。

 大きな湖なので場所によって景観もずいぶん異なり、撮影をしながらだと、一日では回り切れないほどたくさんの撮影ポイントがある魅力的な湖です。

 湖の東側にある桧原湖展望台から、夕陽を撮影したのが下の写真です。

▲桧原湖:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/15 PROVIA100F

 南北には長くても東西は1kmほどしかなく、対岸の山並みがすぐそこに見えます。
 ちょうど西の空に雲が広がり、その切れ間に太陽がかかったときに撮りました。湖にも反射して、鮮やかなオレンジ色が出現しました。上空の青さを見ていただくとわかるように、まだ夕暮れというほどには暗くないのですが、初秋の夕暮れの雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 また、広さを感じられるように短焦点レンズで撮影しています。

 桧原湖の周囲にはペンションやホテルなどの宿泊施設、オートキャンプ場などがあるので、早朝から夕暮れまでの撮影にはとても便利です。

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 9月中旬というと秋には少し早くて、ちょっと中途半端な感じのする時期ではありますが、夏の賑わいもなくなり、じっくりと撮影するには良い季節かも知れません。暑さもおさまり、朝晩は肌寒いくらいですから、体への負担も少なくてありがたいです。
 何度行ってもまた行きたくなる、そんな魅力にあふれた裏磐梯です。

 あと一ヶ月もすると鮮やかに染まった紅葉を見ることができます。

(2022.9.27)

#裏磐梯 #ペンタックス67 #PENTAX67 #小野川不動滝 #幻の滝

富士フイルムの中判カメラ FUJI GW690Ⅱ Professional

 かつて、富士フイルムからは多くのカメラが販売されていて、特に中判カメラに関しては様々なフォーマット向けのカメラがラインナップされていました。中でも69判のGW690、GSW690シリーズはベストセラー機という印象があります。最近はあまり見られなくなりましたが、観光地などで集合写真を撮る写真屋さんが使っていたイメージが強く残っています。
 もちろん集合写真専用というわけではありませんが、パノラマ写真を除けば中判で最大のフォーマットとフジノンレンズの組合せにより、高精細な写真が実現できるカメラです。

GW690Ⅱの主な仕様

 GW690シリーズは初代機からⅢ型まで3つのモデルが存在しますが、私の持っているカメラは2代目のⅡ型で、販売が開始されたのは1985年です。遡ること7年前の1978年に販売が開始された初代機GW690とは外観もよく似ていますが、3代目のGW690Ⅲになると曲線を多く取り入れたデザインになっており、だいぶイメージが変わりました。個人的には初代、もしくは2代目の無骨なデザインが好きです。
 なお、これらのシリーズの前身となるG690やGL690というモデルが存在していたのですが、私はいずれの機種も使ったことがありません。

 このカメラの主な仕様は以下の通りです。

  ・形式 : 69判レンジファインダーカメラ
  ・レンズ : EBC FUJINON 90mm 1:3.5 5群5枚 シャッター内臓
  ・シャッター速度 : T、1s~1/500s
  ・最小絞り : f32
  ・最短撮影距離 : 1m
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.75倍
  ・フィルター径 : 67mm
  ・使用フィルム : 120、220
  ・撮影可能枚数 : 8枚(120)、16枚(220)
  ・露出計 : なし
  ・電池 : 不要

 GW690シリーズは標準(90mm)レンズ、GSW690シリーズは広角(65mm)レンズを搭載したカメラで、いずれもレンズは固定式です。
 使用できるフィルムは120、220、およびハーフレングスの120の3種類が切り替えレバーで選択できるようになっていますが、現実的なのは120フィルムのみと言っても良いと思います。ハーフレングスの120フィルムは自作でもしない限り手に入らないでしょうし、220フィルムは中国で細々と製造しているという話しも聞きますが、あまり現実的とも思えません。幸いにも120フィルムはモノクロを中心に比較的種類もそろっているので、まだまだ十分にフィルム写真を楽しむことができるカメラだと思います。
 なお、フィルムを変更した時は裏蓋内側の圧板の位置変更も必要になります。

 また、このカメラは電池が不要で、すべてが機械式で稼動します。当然、電気式の露出計は装備されていませんし、電池のいらないセレン式の露出計もついていません。この辺りは潔いという感じがします。

 ブローニーフィルムを使い、さらに約9cmのアパーチャーを確保しなければならないので、カメラの筐体も必然的に大きくなりますが、プラスチックを多く用いてるせいか、実際に持ってみると見かけよりも軽く感じます。金属製の方が持った時の質感などが格段に良いのですが、この大きさのカメラを金属製にすると、持ち歩きにはしんどい重さになるように思います。

シンプルでわかり易い、かつ使い易い操作性

 最近のデジタルカメラのように、シャッターボタンさえ押せば撮影ができるというわけにはいきませんが、撮影にあたって操作が必要なのは、巻き上げレバー、絞り、シャッタースピード、およびピントリングのみです。このうち、巻き上げレバー以外はレンズに装備されているので、とてもわかり易いです。

 ピントリングの回転角度はおよそ90度なので、ピントリングを持ち変えることなく、無限遠から最短撮影距離まで回すことができます。重すぎず、軽すぎず、適度な重みをもって回転します。カメラ自体が大きいので、ピントリングがフワフワした感じだとピント合わせがしにくくなってしまいますが、ほんの1~2mmといったわずかな移動でも行き過ぎることはなく、ピタっと位置決めすることができます。
 また、ピントリングは若干、オーバーインフになっています。

 ファインダーは明るくてとても見易く、ブライトフレームはパララックス自動補正機能がついています。二重像合致式も見易くて、ピント合わせに苦労することはありません。基線長が影響しているのかどうかわかりませんが、二重像の動きが大きいので、ほんのわずかのずれも認識することができます。ただし、視野内に垂直線(縦線)がない場合は二重像がつかみにくくなります。

 フィルムの巻き上げはダブルストローク(2回巻き上げ)になっていますが、巻き上げストロークが多い分、巻き上げに要する力は少なくて済みます。PENTAX67と比べるととても軽く感じます。

 シャッターボタンは巻き上げレバーの上部と、カメラの前面の2箇所についており、使い易い方を使えば良いと思いますが、手持ち撮影の場合はカメラ前面のシャッターボタンを使った方がカメラのホールドは良いかもしれません。特に手があまり大きくない人(私もそうです)は、巻き上げレバー上部のシャッターボタンを押そうとすると、右の手のひらがカメラ底面から外れてしまいます。
 レンズシャッターなので振動は皆無と言っても良く、慣れればかなりの低速でも手持ち撮影が可能になります。

 大きなカメラではありますが、適度な大きさのグリップがついていたりして、持ち易さ(グリップ感)も考えられている感じです。縦位置に構えた時も、手のひらにしっかりと重心が乗る感じで、非常に安定した状態を保つことができます。

 また、69判というフォーマットは35mm判のアスペクト比とほぼ同じため、35mm判カメラを使い慣れた方にとってはほとんど違和感が感じられないのではないかと思います。

EBC FUJINON 90mm 1:3.5 の写り

 では、実際にGW690Ⅱで撮影した作例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目は、夕暮れの東京ゲートブリッジの写真です。若洲海浜公園から撮影しています。

▲東京ゲートブリッジ F11 1/250 PROVIA100F

 太陽がゲートブリッジと同じくらいの高さになり、橋がシルエットになるように狙いました。オレンジ色に焼けている西の空の輝きを損なわないよう、露出を決めました。
 また、恐竜のような形と橋の美しさが最も強く感じられる場所をと思い、防波堤に沿って行ったり来たりしながらこのポジションにしました。

 上の写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、橋の上を走る車や設置されている道路標識らしきもの、対岸に見える風力発電の風車やクレーンなどもはっきりと認識でき、解像度の高さが良くわかります。
 偶然に写し込まれたのですが、空を飛んでいる鳥も確認できます。部分拡大したのが下の写真です。

▲東京ゲートブリッジ(部分拡大)

 手持ち撮影ですが、1/250秒のシャッターを切っているのでブレはほとんど感じられません。

 この写真を撮る30分ほど前までは富士山が見えていたのですが、次第に雲が増え、残念ながら雲に隠れてしまいました。

 次の写真は青森県の種差海岸で撮影したものです。

▲種差海岸(青森県) F22 1/60 PROVIA100F

 海がとても深みとコクのある色になっていて、色の再現性においても優秀なレンズだと思います。岩の質感も良く出ているし、海面の波の一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度です。
 焦点距離が90mmとはいえ、F22まで絞り込んでいるので、手前の岩から遠景までピントが合っています。アスペクト比の大きなフォーマットなので、横の広がりを出しつつ、奥行きを感じる画作りのできるカメラという感じです。
 また、このように晴天の時は、絞りやシャッター速度の組合せの選択肢が多いので、手持ちで気軽にイメージの異なる写真を撮ることができるのもこのカメラの魅力です。

 さて、3枚目は山形県の銀山温泉で撮影したものです。

▲銀山温泉にて F5.6 1/30 PROVIA100F

 銀山温泉というと、レトロ感と風格が漂う温泉旅館が有名ですが、そんな温泉街の一角で偶然見つけた柴犬です。家の壁や玄関に通じる橋など、全体的に褐色の中で柴犬の赤茶色がとても綺麗なコントラストになっていました。
 板壁の木目や柴犬の毛並まではっきりとわかるくらいの解像度です。また、落ち着いた感じの色再現性も見事だと思います。
 さすがに、右側の手すりの手前側はピントが合わずにボケてしまっていますが、素直できれいなボケ方だと思います。
 絞りはF5.6ですが、周辺部でも画質の低下はほとんど感じられません。

 このカメラに搭載されているEBC FUJINON 90mm 1:3.5は文句のつけようのないくらいの解像度を持っていますが、私は色乗りの素晴らしさが特徴的だと感じています。同じFUJINONでも大判レンズとは違う、「こってりとした」という表現が当てはまるような色の乗り方です。とはいえ、ペンキを塗りたくったようなべったりとした感じはまったくなく、グラデーションなどもとても綺麗に再現されています。高い解像度と最適の組み合わせになっているといった感じです。
 EBC FUJINONは、11層のコーティングを施し、レンズ1面辺りの反射率は0.2%以下と言われていますが、そのコーティングのなせる業なのかも知れません。
 また、レンズ構成はガウスタイプらしいのですが、とても素直な写りをするレンズという印象です。

 69判というフォーマットを、そしてリバーサルフィルムの発色を十分に活かすことのできるレンズだと思います。

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 今回ご紹介した3枚の写真はいずれも手持ち撮影ですが、衝撃のほとんどないレンズシャッターとカメラ自体のホールドの良さで、中判カメラながら三脚なしで幅広いシチュエーションに対応できます。
 120フィルムで8枚しか撮れないというランニングコストの高さはありますが、補って余りある写真が撮れること間違いなしといえるカメラだと思います。
 しっかり構えた作品作りにはもちろんのこと、スナップ感覚で気軽に使えるカメラでもあります。

 ただし、このカメラを首から下げて歩いているとかなり目立つようです。

(2022.9.16)

#FUJINON #フジノン #GW690#東京ゲートブリッジ #銀山温泉 #レンズ描写

PENTAX67 ペンタックス67の露出計駆動用チェーンの修理

 私はPENTAX67を数台持っているのですが、先日、いちばん古い機種を持ち出したところ、露出計が動作していないことに気がつきました。どうやら、露出計を駆動するチェーンが切れた模様です。
 私は、露出を測る際は単体露出計を使うので、内臓露出計が機能しなくてもほとんど支障はないのですが、無骨なTTLファインダーがカメラの上部に居座っているにもかかわらず、役に立っていないというのは気持ちが良くないので、修理することにしました。

PENTAX67の露出計駆動の仕組み

 PENTAX67には最初のモデルの「6×7」、次のモデルの「67」、そして最終モデルの「67Ⅱ」があり、さらに「6×7」のモデルは初期、中期、後期と三つに分類されています。最終モデルのPENTAX67Ⅱはそれまでの機種とは全く別物と言えますが、6×7と67は少しずつの改良が加えられてはいますが、基本的な機能や構造はほとんど同じです。
 私が持っているPENTAX67の中でいちばん古い機種が6×7後期モデルで、今回の修理対象機種です。ペンタプリズムのカバーの前頭部にAOCOマークが入っている年代物です。

 6×7、および67用のファインダーは交換式で、通常のペンタプリズムだけのアイレベルファインダーの他にTTLファインダーと呼ばれるものがあり、露出計はこのTTLファインダーに内蔵されています。シャッター速度やレンズの絞りの情報をカメラから露出計に伝える手段はすべて機械式で、構造自体は極めてシンプルです。
 このうち、レンズの絞りと露出計は細いチェーンで連動するようになっていて、絞りリングを回すことでチェーンが引っ張られ、露出計を駆動する仕組みです。

 この仕組みを簡略化したのが下の図です。

 このチェーンはカメラの中に隠れているので、通常の使用でチェーンに触れることはないのですが、構造上、レンズをカメラに装着した状態でTTLファインダーを外したり嵌めたりすると、露出計の爪と、それを動かす小さなパーツのかみ合わせがうまくいかずに切れてしまうこともあるようです。また、とても細いチェーンなので、長年使用していると劣化によって切れることもあるようです。
 今回、私のカメラのこのチェーンがいつ切れたのか、何故切れたのかは不明ですが、絞りリングを勢いよく回したりした際に切れたのかも知れません。

フォーカシングスクリーン上のカバーの取り外し

 露出計駆動用のチェーンを交換するために、まずはTTLファインダーの台座となっているフォーカシングスクリーン上のカバーを外します。

 TTLファインダーを取り外した状態が下の写真です。

 写真の下の方に「PENTAX」の文字があり、その下に細長い溝がありますが、本来であればこの中に細いチェーンが見えているはずです。何も見えていないので、切れてどこかに落ちていると思われます。

 台座(カバー)を外すためには赤い矢印の4本のネジを外します。
 写真上側の2つのネジは通常の+ドライバーで外せますが、下の2つのネジは先端が割れたフォークのような形をしたジャックドライバーが必要です。カニメレンチでも代用できると思いますが、ネジはとても小さいので操作性はあまりよくありません。

 ネジを外した後、台座は上に持ち上げれば簡単に外せますが、ネジ穴のところにワッシャーがあります。このワッシャーは、フォーカシングスクリーンとTTLファインダーを平行に保つための微調整用のもので、場所によって使われている枚数が異なります。1~3枚のことが多いと思いますが、この枚数を変えてしまうとTTLファインダーが傾いてしまうことになります。ワッシャーをなくさないように注意し、場所と枚数を記録しておくのが望ましいです。

レンズマウント部の取り外し

 次に、レンズがはまるマウント部分を取り外します。
 下の写真でわかるように、マウント部の周囲4か所に貼り革(赤い矢印の箇所)があるので、これを剥がします。ピンセットなどで端の方からゆっくりと持ち上げるようにすると簡単にはがせます。

 貼り革を剥がした状態が下の写真です。

 貼り革の下に隠れていた4本のネジ(赤い矢印)を外し、マウントを上にゆっくりと持ち上げます。

 マウントを取り外すと、下の写真のような状態になります。

 まず注意が必要なのは、TTLファインダーの台座と同じように、ネジ穴のところにワッシャーがありますので、これをなくさないようにすることと、それぞれの場所で使われている枚数を間違えないようにすることです。これが変わってしまうと、フィルム面に対するレンズの光軸の垂直が保てなくなります。

 さて、レンズの絞りに連動して回転するリングを外すため、それを押さえている板(緑の太い矢印)が左右2枚あり、これを取り外すのですが、モルト(橙色の矢印)が貼られていて、とても邪魔です。
 このモルトは細いうえに円形をしているので、完全に剥ぎ取ってしまうと再利用がとても難しくなります。モルトが劣化していないようであれば、押さえ板の上にかかっている部分だけを端の方に避ける程度にして、完全に剥がしてしまわない方が無難です。

 押さえ板は左右それぞれ2か所のネジ(緑の細い矢印)を抜けば取り外すことができ、その下にある絞りに連動するリング(青い矢印)が取り出せます。

 取り出したリングが下の写真です。

 チェーンが途中で切れています。
 このチェーンは、リングに設けられている非常に細い針金で作られたフックに引っ掛けてあるだけです。

露出計駆動用チェーンのリペア

 いよいよ、切れたチェーンを作り直さなければならないのですが、使われているチェーンは太さ(幅)1mmほどというとても細いもので、なかなか代用品が見つかりません。根気よく探せばあるとは思うのですが、必要な長さは20cm程度なので、購入するとなるとかなり高くつきそうです。
 ここに金属のチェーンが使われている理由は、自由に曲がる柔軟性と、引っ張っても伸びないことが求められるからではないかと思います。

 そこで、チェーンの代用となる材質をいろいろ考えた結果、釣りに使う道糸を使用することにしました。道糸の素材もいろいろあるのですが、柔軟性があり、しかも丈夫で伸びないという条件を満たす「PEライン」を使います。この道糸はとても強くて、人間の力で引っ張ったくらいでは絶対に切れません。しかもほとんど伸びることがないので打ってつけです。海釣り用のリールから30cmほど切り取ってきました。

 この道糸を長さ(上の図参照)に合わせてカットし、各パーツに結びつけ、こんな感じに仕上げました。

 中央にある青い矢印のパーツがテンションを与えるためのバネで、太いバネと細いバネの二重構造になっています。
 右側の赤い矢印のパーツが、TTLファインダーの露出計の爪と嵌合して露出計を駆動するためのものです。
 道糸のもう一端は、レンズの絞りに連動して動くリングのフックに引っ掛けます。
 結び目があまり綺麗ではありませんが、大目に見てください。

 これをカメラに取付けたのが下の写真です。

 道糸の長さは出来るだけ寸法通りになるようにカットし、結びつけるのですが、なかなかミリ単位で正確にするのは難しいです。
 バネに結ばれている側(写真では上側)の糸の長さは若干前後してもバネが吸収してくれるので問題ありません。しかし、リングに結合する側(写真では下側)の糸は、長すぎるとリングに遊び(ガタ)ができてしまい、反対に短すぎるとリングが嵌まらなくなってしまいます。
 ちょうどよい長さにするのは難しいのですが、3~4mmの範囲であれば微調整することができます。

 マウントを外した左上にチェーンをかけるプーリーがありますが、これを左右に動かすことで微調整が可能になります(下の写真)。

 赤い矢印のネジを緩めるとプーリーの位置が左右に動きますので、これで道糸(チェーン)の緩みを取り除きます。

 念のため、レンズの絞りに連動して動くリングの押さえ板をはめて、リングがスムーズに動くことを確かめたら、TTLファインダーをはめて露出計が機能することを確認します。問題がないようであればマウント、TTLファインダーの台座を元通りに取付けます。その際、ワッシャーの位置と枚数を間違えないように注意します。
 レンズを装着して動作確認を行ない、正常であればマウントの周囲の貼り革を貼って完了です。

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 今回、チェーンの代わりに釣り用の道糸を使いましたが、道糸の方が組み込みが容易な印象を持ちました。チェーンの場合、捻じれを完全に取り除いておかないと、動かした際に露出計を駆動する爪との嵌合が外れてしまうという不具合が起きます。一方、道糸を使った場合は多少の捻じれがあっても全く影響はありません。

 交換後、まだ使用回数は少ないですが、今のところは問題なく機能しているようです。

(2022.8.27)

#PENTAX67 #ペンタックス67

夏の浅間大滝 美しい緑と天然の涼しさはまさに別世界

 今年(2022年)の夏は本当に暑くて、東京でも連日、猛暑日の記録更新というあまり有り難くない話題が飛び交っていました。熱中症にならないように適度に冷房をと言われていますが、冷房の効いた室内にばかり居るのもよろしくないと思い、涼を求めて群馬県にある浅間大滝に行ってきました。
 都心からは高速道路を使えば2時間半ほどで行くことができます。アクセスも比較的容易で、美しい自然と涼しさを満喫でき、夏の撮影にはもってこいのスポットです。

深い木立に囲まれた美しい滝

 群馬県を東西に流れる吾妻川の支流の一つ、鼻曲山を源流とする熊川にある滝で、北軽井沢周辺では最大の滝だそうです。落差はおよそ15m、水量も豊かで勢いよく流れ落ちる迫力のある滝です。
 浅間大滝に行くルートはいくつかありますが、今回は高崎から県道54号線(長野原倉渕線)を西に向かい、浅間山が正面に見える二度上峠を越えて行きました。峠を下り、しばらく走ると浅間大滝の入り口があります。駐車場に車を停めて、川沿いに10分ほど歩くと滝が見えてきます。

 2019年の台風による土砂崩れでしばらく立ち入りができなかったのですが、今は復旧して滝を見ることができるようになりました。以前は対岸に渡る太鼓橋が架かっていたのですが、その橋も流されてしまったようです。橋はなくなりましたが滝つぼから下流は水深も浅いので、長靴を履いていれば川に入って対岸に行くことも滝つぼに入ることもできます。
 川の両側はかなり急峻な崖になっており、大きな木々が覆いかぶさるようになっているので、昼間でも薄暗くヒンヤリとしています。

 滝の少し下流側から全景を撮影したのが下の写真です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 2s PROVIA100F

 覆いかぶさる木立を強調するよう、広角レンズを使ってみました。薄曇りの天気で、しかも木々に光が遮られて渓谷はずいぶん暗く感じます。一方、上半分の木立の部分はかなり明るいので、下半分との明暗差は結構大きい状態です。
 ハーフNDフィルターをかければ明暗差が緩和され、流れを明るめにすることができますが、深い森の中の薄暗い雰囲気を出すためにハーフNDフィルターは使っていません。
 また、木の枝が重なることで葉っぱの濃淡が描く模様が綺麗で、個人的には気に入っています。

 この写真のように、広角レンズで見上げるアングルで撮ると、滝は実際の見た目よりも小さく写ってしまいます。滝はずいぶん遠くにあるように見えるかもしれませんが、写真から受ける印象よりもかなり近い場所から撮影しています。滝の迫力を出来るだけ損なわないようにということで、画全体の中での滝の配分には結構悩みます。

天然のミストシャワーが涼しい

 落差15mというのは、滝の真下にでも行かない限り、見上げるほどの高さではありませんが、それでも滝つぼの近くまで行くとかなりの量の飛沫があります。陽が差し込んでいないうえに天然のミストシャワーを浴びるので肌寒いくらいです。東京のうだるような暑さと比べると別世界で、まさに生返るという言葉がぴったりです。
 マイナスイオンというものがあるのかどうか、目に見えないし、肌でも感じられないので私には良くわかりませんが、こんな環境に一週間もいたら、さぞかし体も元気になるだろうと思います。

 滝の迫力が感じられるカットをと思い、滝の正面にまわって撮ってみました。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F32 4s PROVIA100F

 あまり滝に近づくと、飛沫でカメラも体も濡れてしまうので、すこし離れたところから長めのレンズで撮っています。
 滝の上部の川幅はあまり広くないように見えますが、一段落ちた後、手を広げたように落ちる流れがとても綺麗です。直瀑と違い横幅があるので、落差の割には迫力が感じられます。

 滝のほぼ正面から撮っていますが、写真としてはわずかに右向きという感じです。ですので、カメラを少しだけ右に振って、右側を広く入れた方が窮屈な感じがなくなったように思います。もしくは、若干右側に寄って、左向きの写真として写した方が良かったかもしれません。
 撮影時と出来上がった写真を見た時で違った印象になるのは珍しいことではありませんが、この写真もその一例です。

 下の写真は滝の右側の方から、上部の流れ落ちるところを撮影した一枚です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F32 2s PROVIA100F

 放物線を描いて落ちる滝のボリューム感を出すため、滝の占める割合を多めにしてみました。
 風はほとんどなかったのですが、やはり滝の正面は風があるので、左側の木の枝がブレてしまっています。これによって、写真全体のシャープさが損なわれてしまった感じです。
 この枝が止まっていてくれたらと思うのですが、自然相手に長時間露光する場合は、いつ風が吹くかわからないのでなかなかうまくいきません。

黒い岩と流れの美しいコントラスト

 浅間大滝周辺の岩は溶岩流が固まったものだそうですが、黒っぽいものが多く、岩と水の流れだけを写すとコントラストがとても綺麗で、モノトーンの写真のようになります。

 滝つぼのところをクローズアップしたのが下の写真です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F22 4s PROVIA100F

 ほぼ滝の中央の、いちばん水量の多いところを撮りました。
 滝の全景ももちろん魅力的ですが、部分的なカットも写真としては面白いと思います。場所によって繊細さであったり、あるいは力強さであったり、いろいろな表情があるので飽きることがありません。
 この写真では流れ落ちる水が線状に見えていますが、もっと長時間露光すれば雲のようにふんわりとした感じになり、全くイメージの異なる写真になると思います。

 この滝では滝行をする人がいるらしく、まさにこの場所に立って落ちる水に打たれるようですが、私は見たことがありません。この水に打たれたらかなり痛そうです。

 なお、浅間大滝のちょっと下流に行ったところに、滝というほどではありませんが小さな段差になっているところがあります。絵になるスポットだと思います。

三段の岩を流れ落ちる魚止めの滝

 浅間大滝の駐車場から浅間大滝とは反対方向に少し下ると魚止めの滝があります。浅間大滝の下流にある滝ですが、ナメのように岩を滑り落ちていくという感じの滝で、渓流瀑という部類に入ります。大きく三段になった岩を流れ落ちるため、魚も登ることができないということでつけられた名前のようです。
 落差は10mほどですが滝の全長が長いため、浅間大滝とは違った迫力があります。

 滝のところまで降りていくと全景が見えるのですが、その途中から撮影してみました。

▲魚止めの滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 165mm 1:2.8 F22 2s PROVIA100F

 前景に木や草を入れて、滝を少し隠すように構成しています。若干高い位置から俯瞰気味に撮ることで、下から全景を写すよりも滝の迫力を出そうとしたのが狙いですが、手前の草はちょっと多すぎた感じです。また、左上の木々が暗く落ち込んでくれたので、流れの白さが際立っています。
 ごつごつとした岩の上を流れる水の軌跡は得も言われぬ美しさがあります。実際に見たよりも、写真では水量がかなり多いように感じますが、長時間露光のなせる業といったところです。

 この滝は、水量が少ないときであれば注意しながら登っていくことができますが、降りるときは登るときの何十倍も恐怖を覚えるので要注意です。一度だけ滝滑りをしている人を見かけたことがありますが、私には無理です。

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 駐車場から徒歩10分の範囲に浅間大滝と魚止めの滝という2つの素晴らしいスポットがあるにもかかわらず、訪れる人がとても少ない感じです。私もこれまで何度も訪れていますが、駐車場が満車になったとか、人が多くて撮影ができないというようなことは一度もありません。地の利も悪くないと思うのですが、近くにある、観光バスが列をなす白糸の滝とはずいぶん違います。

 私がこの滝を訪れる一ヶ月ほど前、近くの路上で熊が目撃されたそうです。日本各地でクマの目撃情報が増えている気がして、以前は気にも留めなかったところでも、最近はクマが出るんじゃないかと妙に気になったりします。切り立った崖を降りて来ることはないとは思うのですが、滝の音にかき消されて他の音が聞こえない状態だと、やっぱり不安な気持ちになります。

(2022.8.24)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #浅間大滝 #渓流渓谷 #魚止めの滝

イルフォード モノクロフィルム ILFORD FP4 PLUS の使用感

 私が使っているモノクロフィルムの中で最も使用頻度の高いのがイルフォードのDELTA100ですが、先日、ストックが切れてしまったので、新たに購入しようと思い新宿のカメラ店まで行きました。ところが、そのお店でもたまたま売り切れで、次の入荷時期もはっきりとわからないとのことでしたので、代わりにイルフォードのFP4 PLUSを購入してきました。
 実は、これまでFP4 PLUSを使ったことはなく、今回が初めての購入です。データシートを見ると、粒状性にも優れており、高画質な画像が得られるとあります。
 試し撮りに新宿に行こうと思ったのですがあまりに暑いので断念し、調布市にある緑が豊かな深大寺に行ってきました。

現像液はイルフォード ID-11を使用

 このフィルムのイルフォードの推奨現像液はILFOTEC DD-X、PERCEPTOL、またはID-11となっていますが、今回は手元にあったID-11を使用しました。データシートによるとEI125の場合、現像時間は原液(20℃)で8分30秒となっていますので、それに準じます。
 定着液はイルフォードのRAPID FIXERを使用しました。

 フィルムを触った印象はDELTA100と同じで、やや硬めでしっかり感があります。
 イルフォードのフィルムを現像するときにいつも思うのですが、撮影後のフィルムを止めたシールがとても剝ぎにくいです。端っこをつまんで持ち上げればくるんと剥けて欲しいのですが、途中から裂け目が入って、細い幅の状態でビリビリと破けていってしまいます。目くじら立てるほどのことではないのですが、結構イライラします。

 外気温が30度を軽く超えているので室温も高いし、水道水の温度も20度を超えているので、深めのバットに氷水を入れて、現像液が19度くらいになるようにしておきます。室温で現像タンクも温まっているので、現像液を入れるとちょうど20度くらいになります。
 寒い時期はヒーターを使うことで微妙な温度調整ができますが、暑い時期に水温を微妙に下げて一定に保つというのは結構大変です。

解像度も高く、滑らかな階調のフィルム

 深大寺を訪れた日は真夏の太陽が照りつける晴天で、日なたにいると汗が止まらないといった暑さでした。大きな建物や樹木があるので、日なたと日陰の明暗差がとても大きい状態です。コントラストを活かした画作りには向いているのかも知れませんが、今回は初めて使うフィルムなので、フィルムの特性がわかり易いような被写体を選んでみました。
 使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mm一本だけです。
 なお、レンズフィルターは無色の保護用フィルターのみで、Y2とかYA3などのフィルターは使用していません。

 まずはちんまりと座っていた狛犬を撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F5.6 1/125

 狛犬に陽があたっており、バックは日陰になっている状態です。
 所どころ、黒くなったり苔が生えたりしている石の質感がとてもよく出ていると思います。表面の細かな凹凸も損なわれることなく表現されていて、解像度も申し分ないと思います。
 日陰になっている背景のお賽銭箱や、その奥の階段状になっているところも、状態がはっきりとわかるくらいなめらかに表現できています。
 狛犬のお尻の下あたりはさすがに黒くつぶれ気味ですが、それでも墨を塗ったようなべったりとした状態になっておらず、台座の質感が残っています。

 狛犬の後ろ足の辺りを拡大したのが下の写真です。

 石のざらざらとした感じが良く出ていて、十分な解像度があると言っても良いと思います。

 次の写真は元三大師堂の高欄を、下から見上げるアングルで撮影したものです。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/60

 画の左上から日が差し込んでいる状態で、宝珠柱や擬宝珠の一部が明るくなっています。この部分を明るくし過ぎると質感を損ねてしまうので、露出は切り詰めています。左上の天井部分はかなりつぶれ気味ですが、この方が雰囲気はあると思います。
 宝珠柱の木の質感や、右側にある銅板を巻きつけた架木の質感など、とてもよく出ていると思います。
 中央の宝珠柱の明るいところから暗いところへのグラデーションも見事で、円柱になっているのが良くわかります。

 日差しがとても強く、コントラストの高い状態ですが、三元大師堂のほぼ全景を撮影したのが下の写真です。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/125

 お堂の屋根や地面などは白く飛び気味になっており、逆にお堂の中は黒くつぶれ気味といった状態です。日差しの強さが伝わってくる感じで、中間の階調に乏しい、白と黒だけで表現したモノクロならではの写真と言えますが、同じイルフォードのDELTA100と比べるとコントラストが低めといった印象を受けます。
 極端にコントラストを高めて、黒い部分は真っ黒にという表現方法もありますが、つぶれすぎないというのがこのフィルムの特徴のようです。

 コントラストがあまり高くない被写体を探していたところ、うまい具合に木の陰になってなっていた門があったので撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F4 1/30

 直接の日差しはないので極端に明るい部分はありません。全体的に中間的な階調で構成されていますが、とても滑らかに表現されています。キリッとエッジの立った感じはありませんが、柔らかでありながら細部まで高画質で再現されています。特に、綺麗に削られた扉の木の質感、表面の滑らかな感じがよく伝わってきます。一方で、表面がざらついた看板の力強さのようなものも感じられます。

リバーサル現像でも高い解像度と滑らかな階調

 今回、FP4 PLUS の120サイズフィルム2本を撮影してきたので、1本をリバーサル現像してみました。
 現像データは以下の通りです。

  ・第一現像: SilverChrome Developer 1:4(水) 12分(20℃)
  ・漂白: 過マンガン酸カリウム水溶液+硫酸水溶液 5分(20℃)
  ・洗浄: ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液 3分(20℃)
  ・再露光: 片面各1分
  ・第二現像: SilverChrome Developer 1:4(水) 3分(20℃)
  ・定着: Rapid Fixer 希釈 1:4(水) 5分(20℃)
  ・水洗: 10分

 第二現像液は1:9に希釈するのですが、面倒くさいので第一現像液をそのまま使用し、現像時間を半分の3分としました。なお、各工程の間に水洗を入れています。

 本堂の脇に、梅の花の形をした金属製の飾りのようなもの(名前も用途もわかりません)があったので撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F5.6 1/60

 梅の花びらのところに木漏れ日が落ちているところを狙いました。木漏れ日のところだけは明るめですが、その他は全体的に日陰になっているので黒くつぶれるところもなく、背景もはっきりわかる状態で写っています。梅の花にピントを合わせ、あまり絞り込まずに背景をぼかしています。
 やはり、梅の花びらのところのグラデーションが綺麗に出ていますし、ベタッとした感じではないので、立体感もあります。

 もう一枚、お寺の境内を出て、参道沿いにあるお蕎麦屋さんの店先のタヌキを撮ったのが下の写真です。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/500

 参道にも大きな木が茂っているので日陰になっているのですが、ちょうどタヌキのところに陽が差し込んでいました。バックが明るくなりすぎないよう、露出はタヌキの顔の辺りを基準にしています。当然、背景は露出アンダーになりますが、それでも看板の文字が読めるくらいには再現されています。

 通常のネガ現像であろうがリバーサル現像であろうが、同じフィルムを使って現像に失敗しない限りは同じような感じに仕上がるはずです。ただし、今回は使用した現像液が異なるので、その差はあるかと思いましたが、解像度や滑らかな階調、黒の出方などはネガ現像したものと比べても差はわかりません。リバーサル現像した方はスキャナで読み取る際、カラーモードで行ないますので、拡大するとごくわずかに色が乗っているのがわかりますが、スキャナの処理アルゴリズムに依存するところが大きいと思われます。
 リバーサル現像して得られるポジ原版は、ライトボックスに乗せれば出来具合が一目でわかるので便利ですが、現像の手間がかかるのが難点です。

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 初めて使用したフィルムですが、全体の印象としては、細部まで再現する高い解像度を持ちながら、非常に滑らかで柔らかな階調表現のできるフィルムといった感じです。DELTA100と比べるとコントラストは低く感じますが、低すぎてボヤっとしてしまうようなことはなく、繊細な表現力を持っているフィルムと言えば良いかも知れません。
 正確なところはわかりませんが、DELTA100よりもラチチュードが若干広いような感じもします。
 リバーサル現像してもいい感じに仕上がりますし、DELTA100と比較した場合、好みもありますが、被写体や撮影意図によって使い分けのできるフィルムだと思います。

(2022.8.2)

#イルフォード #ILFORD #マミヤ #Mamiya #深大寺

ニッコウキスゲ咲く、夏の霧ヶ峰高原 花の旅

 長野県の中部にある霧ヶ峰高原は、車山を最高峰に標高1,500mから1,900mに広がる比較的起伏の緩やかな高原で、八ヶ岳中信高原国定公園に指定されています。大きな樹林はほとんどないため、360度の展望がききます。
 下界ではうだるような暑さでもここは爽やかな風が通り抜け、まさに別世界といった感じです。
 梅雨明けの7月中旬ごろから一斉に咲き始め、高原全体を黄色に染めるニッコウキスゲは有名ですが、湿原も多く存在するため、他にもたくさんの高山植物があることでも知られています。
 今年は梅雨開けが異常に早かったせいか、霧ヶ峰高原の花もだいぶ進んでいる感じですが、今回は、夏の霧ヶ峰高原で撮影した花をいくつかご紹介します。

ニッコウキスゲ(日光黄菅)

 霧ヶ峰の中でもニッコウキスゲが広範囲に群生しているのは、強清水周辺とヴィーナスの丘と呼ばれる車山肩から蝶々深山の一帯にかけてです。特にヴィーナスの丘の辺りの群生密度はとても高く、まさに一面が黄色に染まります。
 しかし、花の数はその年によってずいぶん差があり、少ない年は一面に黄色というわけにはいかず、まばらな感じのときもあります。それでもかなりの数の花が咲いているのですが、多いときの映像が脳裏に焼きついているので、余計にそう感じるのかもしれません。

 高原の高く青い空とニッコウキスゲのコントラストはとても美しく、爽やかな印象を受けますが、朝日が昇って黄色の花がオレンジ色に染まる景色も幻想的で、ほんのわずかの時間だけ見ることのできる光景です。

 下の写真は朝日が昇った直後に撮影したものです。

▲霧ヶ峰高原:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 右上にあるのが車山で、その左側に薄く見えているのが蓼科山です。
 車山の山頂には気象レーダーのドームが設置されているのですが、この時はいい具合に霧がかかってドームを隠してくれました。
 霧ヶ峰高原はその名の通り、霧の発生がとても多く、特に明け方はものすごい早さで霧が流れていくので、霧のかかり方によっては雰囲気が大きく変わってしまいます。個人的には、太陽が稜線の上に出たくらいの時の光の具合がいちばん好きで、この時に霧がどうかかっているかはまさに神頼みといった感じです。
 ニッコウキスゲは一日花のため、一つの花は一日でしぼんでしまうようなのですが、次から次へと咲くので、およそ一週間ほどはこのような見事な状態が続きます。

 近年、ニホンジカの食害や踏み荒らしによる被害からニッコウキスゲを保護するため、電気柵が設けられています。その効果もあってニホンジカの数も減少しているようです。以前は夜中に霧ヶ峰に向って車を走らせていると鹿に遭遇することが良くありましたが、最近はあまり見かけなくなりました。

ウスユキソウ(薄雪草)

 亜高山帯に分布しているキク科の植物で、ヨーロッパのエーデルワイスと同じ仲間です。エーデルワイスのようなモコモコした毛がないので、薄く雪をかぶっているという例えはまさにピッタリという感じです。ウスユキソウという名前は、植物の中でも雅名の一つに数えられているようで、確かに優雅な名前ではあります。
 同じ仲間のミネウスユキソウやタカネウスユキソウはもっと標高の高いところに咲いていますが、霧ヶ峰高原で見ることができるのはこのウスユキソウだけです。

▲ウスユキソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 2X F5.6 1/30 PROVIA100F

 草原のようなところでも育成していますが、上の写真のような岩礫地でよく見かけます。生育環境がわかるように、両側の岩を多めに入れてみました。
 どちらかと言えば地味な花で、赤や黄色の花のように目を引くわけではありませんが、見つけた時はつい立ち止まって見てしまう、そんな魅力のある花です。

 あまり広い範囲を写し込むと雑然とした感じになってしまうので、少し離れたところから望遠レンズを使って撮影しています。ぼかし過ぎて背景が何だか分からなくなってしまわないよう、適度な距離と絞りを選んでいます。

シシウド(獅子独活)

 背丈が2mを超えるほど伸びるセリ科の植物です。霧ヶ峰高原では良く見かけますし、他の植物に比べて抜きんでて大きいのでとても目立ちます。
 花火のように広がった花にはたくさんのハチやハナアブがひっきりなしに来ており、花の上はとても賑わっています。

▲シシウド:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 PROVIA100F

 上の写真は、太陽がちょうど南中にかかるころに撮ったものです。
 シシウドの根元に屈みこみ、カメラを太陽のある方向に向けて撮影しました。太陽は直接入れていませんが、画のすぐ右側にあるのでかなりのプラス補正をしています。シシウドが白くなりすぎないように、かといってシルエットになってしまわないように、夏の高原の明るさを出すように露出値を決めましたが、完全にシルエットにしてしまっても良かったかもしれません。

 このように真夏の太陽の光をもろに受けるような場合、レンズやカメラがダメージを受けてしまうので短時間で撮り終えてしまわねばなりません。また、これは短焦点(45mm)レンズを使っていますが、それでもファインダーを長く覗いていると目に悪影響があると思われるので注意が必要です。

 シシウドは花が終わると結実し、やがて本体は枯れてしまいます。茶色くカサカサとした茎が折れているのを見ると、秋が来たなという感じがします。
 なお、春の新芽は食べられるらしいですが、私は食べたことはありません。確かに芽が出てきたところはウドとよく似ていて、間違えて採ってしまいそうです。

ハクサンフウロ(白山風露)

 霧ヶ峰高原ではニッコウキスゲと並んで人気のある花です。
 小さな花ですが、赤紫色の花はとてもよく目立ちます。背丈は30~50cmほど、他の植物の中に埋もれるようにして咲いています。花の直径は3cmほどで、花芯の辺りが白くなっているのが特徴的です。小さな花ですが結構たくさんの花をつけるので、宝石をちりばめたようです。

 このほかにグンナイフウロやタチフウロ、アサマフウロなどのフウロソウの仲間を何種類か見ることができます。

 群生している中から一輪だけを撮ったのが下の写真です。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/125 PROVIA100F

 背丈の低い花なので、どうしても俯瞰気味の撮影が多くなってしまうのですが、ひょんと飛び出した一輪を見つけたので下から見上げるようなアングルで撮りました。
 花の傷みもなく綺麗だったのと、茎が描くラインがとても美しかったので、それを強調するように背景は極力シンプルにしました。バックを大きくぼかすように接写リングを使っています。

 あまり明るくし過ぎると雰囲気が損なわれてしまうので、露出はアンダー気味にしています。
 また、花弁にわずかな朝露が残っていると思いますが、あっという間に消えてしまうので、のんびりと構えてはいられません。
 下半分が紫色にぼやーっとしていると思いますが、これはバックに咲いているハクサンフウロのボケです。

 因みに、こんな感じで咲いています。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/60 PROVIA100F

ホソバノキソチドリ(細葉の木曽千鳥)

 野性の蘭の一種で、深山の草原のようなところに自生する多年草です。
 背丈は20~30cmほどと小さく、草むらに咲いて、しかも花が黄緑色なのでよく探さないと見つかりません。花は小さいのですが非常に複雑な形状をしており、いかも蘭といった感じです。五線紙の上に書かれた音符のようにも見えます。
 同じ仲間にトンボソウというのがあり、非常によく似ているのですが、距がピンと跳ね上がっているので何とか見分けがつきます。霧ヶ峰高原ではトンボソウの方が圧倒的に個体数が少ないと思われます。

 草むらで見つけたホソバノキゾチドリ、花の数は多くありませんが撮ってみました。

▲ホソバノキゾチドリ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/60 PROVIA100F

 何しろ、これ以上ないというくらい花が地味なので、草むらの中からこの花を浮かび上がらせるのは結構大変です。
 光が入り込んでいない方がバックは柔らかくなるのですが、花自体も平坦な感じになってしまいます。バックが少々うるさくなってしまいましたが、光が当たってコントラストがついているところを狙ってみました。それだけだとアクセントに欠けるので、隣に玉ボケを入れてみました。
 右側からスーッと伸びている細い葉っぱを入れるのは迷ったのですが、そのままにしておきました。

 このほかにも野性の蘭の仲間のミズチドリやテガタチドリ、クモキリソウなども非常にまれではありますが、見かけることがあります。いずれも多年草なので、見つけると翌年も同じ場所に咲くはずなのですが、数年後に訪れてみたが見当たらないということもよくあります。盗掘されてしまうのかもしれません。

シュロソウ(棕櫚草)

 湿り気の多い場所を好むらしく、湿原では割とよく見かけます。
 時に群生することもあり、そこそこ見応えはありますが、花の色はお世辞にも美しいとはいえません。
 茎は1m近くまで伸びますが、花はとても小さくて5mmほどしかありません。この小さな花が茎の周りにびっしりとついている様は、試験管を洗うブラシのように思えてなりません。
 強い毒性を持った植物というのは多くありますが、このシュロソウも根茎に毒があるらしいです。

 この花、日中はどのように撮ってもさえない写真になってしまうので、朝日が差し込んでいる状態で撮影してみました。

▲シュロソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 2X F4 1/125 PROVIA100F

 前方から朝日が差し込んでいる状況で、お世辞にも美しいと言えない花も、だいぶ鮮やかになってくれました。朝日なので色温度が低く、かなり赤みが強くなっていますが、玉ボケも手伝って朝の感じは出ているかと思います。
 写真ではわかりにくいかも知れませんが、花弁はかなり肉厚です。この厚い花弁を透過する強い光、そして花が密集しているため、輪郭がわかりにくくなってしまいました。もう少し早い時間帯、日の出直後あたりだと朝露をまとっているので、もっと風情のある写真になったと思います。

 小さくてよくわかりませんが、虫が張り付いています。

マツムシソウ(松虫草)

 亜高山帯で広く見ることができます。薄紫色の花はとても涼しげな感じがして、群生したマツムシソウが風になびいている光景はとても風情があります。
 低山や平地でも見ることがありますが、標高の高いところの花に比べると花弁の数が少なく、どことなく貧相な印象を受けます。
 花が終わると花床が盛り上がって、まるでイガクリ坊主のような愛嬌のある姿になります。
 日本固有種ですが、多くの都道府県で減少傾向にあるらしく、レッドリスト入りした絶滅危惧種になっているようです。

 下の写真は夕暮れに近づいてきたころ、マツムシソウをシルエットで撮影したものです。

▲マツムシソウ:PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 105m 1:2.4 F22 1/125 W10 PROVIA100F

 そのままで撮ると空が白くなりすぎてしまうので、色温度変換フィルター(W10)を装着しています。
 あまりたくさん群生しているとゴチャゴチャしてしまうので、数本の茎がいい塩梅に伸びている株を選んで撮りました。より、夕暮れの感じが出せればと思い、傍らに草を入れてみました。
 太陽を入れていますが、前で紹介したシシウドの写真と違い、太陽高度が低くなっているのと、薄く雲がかかっているのとで、強烈な夏の太陽の印象はありません。
 また、この時は持ち合わせていなかったのですが、軽くレフ板をあてて、マツムシソウのシルエットを少し柔らかくするのもありだと思いました。

 この時期の霧ヶ峰高原は、一年でもっとも賑わう季節ですが、夕暮れが近づくと人の数のずいぶんと減り、撮影するにはありがたい時間帯です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 霧ヶ峰高原の夏は本当に短くて、8月の声をきくとそろそろ秋の気配が漂い始めます。そして、咲く花の種類も夏の花から秋の花へと一気に入れ替わります。秋の花は地味な色合いのものが多いのに加えて、8月になると訪れる人の数もぐっと減るので、うら寂しさを感じるほどです。
 8月の半ばごろに、今度は秋の花を撮りに訪れれみたいと思っています。

(2022.7.24)

#霧ヶ峰高原 #ペンタックス67 #PENTAX67 #プロビア #PROVIA #花の撮影

PENTAX67用 超広角レンズ smc PENTAX-6×7 45mm 1:4

 PENTAX67用の純正レンズとしては、35mmのフィッシュアイレンズを除くと最も短焦点のレンズです。レンズの種類としては「超広角」に分類されています。35mm判カメラ用の焦点距離22mmくらいのレンズと同じ画角ですので、かなり広角なのがわかると思います。
 画角が大きいので常用というには不向きかも知れませんが、広角の特性を活かした画作りするには興味深いレンズだと思います。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成  : 8群9枚
   絞り目盛り  : F4~F22
   画角     : 89度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 約0.37m
   測光方式   : 開放測光
   フィルター径 : 82mm
   全長     : 57.5mm
   重量     : 485g

▲scm PENTAX-6×7 mm 1:4

 PENTAX67用のレンズはタクマーシリーズが最初で、その後、SMCタクマーシリーズ、SMCペンタックス67シリーズと続いていきますが、この45mmはSMCペンタックス67シリーズになって初めてラインナップされたレンズです。
 私の持っているレンズは初期のモデルで、正式名称が「smc PENTAX-6×7」となっていますが、後期モデルは「smc PENTAX 67」になっています。レンズ構成などの仕様は同じですが、ピントリングや絞りリングのローレット形状が異なっています。
 重さも500gを下回っており、PENTAX67用レンズの中では最も小ぶりです。

 絞りリングはF5.6からF22の間では中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間は非常に狭く、中間位置のクリックがありません。
 ピントリングの回転角はおよそ120度で、回転角は大きすぎず小さすぎず、操作し易い角度といった感じです。無限遠から最短撮影距離指標まで回すと鏡筒が約11.5mm繰出されます。
 絞り羽根は8枚で、いっぱいに絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。

 焦点距離が45mmと短いので被写界深度も深く、最小絞りのF22まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、1m~∞までが被写界深度内となっています。ピント位置を2mあたりにしておけば、極端に近いところ以外はピント合わせしなくてもボケずに写るということですが、中判フィルムを使うので、いくら何でもそれは大雑把すぎるだろうと思います。

▲mc PENTAX-6×7 45mm の被写界深度目盛り

 画角が広いのでフィルターを2枚重ねると四隅がケラレます。フィルターの2枚重ねをすることはほとんどないと思いますが、保護フィルターを常用している場合、PLフィルターやNDフィルターを使う際には保護フィルターを外した方が無難です。

広い景色をより広く撮影する

 広角レンズなので広い範囲を写せるのは当たり前ですが、焦点距離75mmや55mmのレンズと比べると格段に広い範囲が写り込み、全く別物のレンズのような印象です。そのため、不用意にこのレンズで構えると写したくないものまで入り込んでしまい、雑然とした写真になってしまったり、後で大きくトリミングなんていうことにもなりかねません。
 しかし、広い風景をうまくフレーミングできれば、肉眼で見た風景に比べてはるかに広大な感じられる写真にすることができます。

 下の写真は群馬県の丘陵地帯に広がるキャベツ畑です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 左右の広がりが感じられるように、キャベツ畑を阻害するものをできるだけ排除する位置から撮影しています。ぷかぷかと浮いた雲が適度にあったので空を広めに取り入れています。遠くの山並みも広がりを強調していると思います。
 このような場所ではこのレンズの大きな画角が威力を発揮してくれます。

 この写真では無色の保護フィルターのみで、他のフィルターは使っていません。PLフィルターを適度にかけると雲の白さがより強調されたり、キャベツの葉っぱの反射が抑えられると思いますが、かけすぎるとべったりとした塗り絵のような写真になってしまいます。

 もう一枚、山形県にある棚田の春の風景を撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 田圃の畦の桜がちょうど見ごろを迎えていたので、広く取り入れた空に桜の枝を配してみました。
 右の奥の方に集落が小さく見えると思いますが、肉眼ではもっとずっと近くに見えます。広い範囲が写り込むことで遠近感が強調され、とても広く感じられます。
 また、被写界深度が深いので、手前の桜から奥の山並みまでパンフォーカスに見えます。実際には桜のところはわずかにピントが甘いのですが、この画像では画素数を落としているのでわからないかも知れません。

 いずれの写真も周辺光量の落ち込みがわずかに感じられますが、気になるほどではありません。

パースペクティブを活かして撮影する

 このレンズくらいに画角が大きくなるとパースペクティブが強く出るので、特に意識しなくても遠近感のある写真になりますが、被写体に近づくことでより強く表現することができます。
 このレンズの最短撮影距離は37cmなので、かなり被写体に近づくことができます。37cmと言わずとも1mほどに近づいただけで、その被写体はフレームの中でその存在をかなり主張してきます。

 まず、福島県の桧原湖で撮影した大山祇神社の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/15 PROVIA100F

 ここは、1888年に発生した磐梯山の噴火で川がせき止められ、それによってできた桧原湖に水没してしまった神社です。かろうじて鳥居と、この後ろにあるお社(写真には写っていません)が残っていますが、ここに至るまでの参道はすっかり水の中です。

 湖畔に降りて、この鳥居がはみ出さないギリギリのところまで近づいて撮影しています。鳥居までの距離は2mほどだったと思います。近い位置から見上げるようなポジションでカメラを構えていますので、鳥居の右側と左側ではかなり大きさが違っているのがわかると思います。

 鳥居をできるだけ強調しながら背景を広く取り入れることができるのも、89度という広い画角を持ったレンズならではです。
 鳥居が向こう側に少し傾いているように見えますが、これもパースペクティブの影響です。大判カメラであればアオリを使って補正することができますが、PENTAX67ではそういうわけにもいきません。レタッチソフトを使えばこんな補正は朝飯前でしょうが、これくらいの傾きであればむしろ自然かもしれません。

 次は枝垂桜の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 福島県にある一本桜の大木ですが、桜の木の下に入りこんで真上を見上げるようなアングルから、大きく張り出した枝をできるだけたくさん入るように撮影しています。
 花の密度が最も高い左下の部分を強調して、桜全体がパンフォーカスになるようにということで目いっぱい絞り込んでいますが、上の方の花や枝はピントが外れています。それでも木の大きさや枝の広がりは表現できたのではないかと思います。

ぼかし方には注意が必要

 これまで紹介した4枚の写真はいずれもパンフォーカスか、それに近い状態で撮影していますが、あまり絞り込まず、被写界深度を浅くすることで主被写体を強調した撮り方もできます。

 下の写真は雑木林に出たフキノトウを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F5.6 1/125 PROVIA100F

 フキノトウまでの距離は40cmほどで、このレンズの最短撮影距離に近い状態です。主被写体となるフキノトウを浮かび上がらせるため、絞りはF5.6での撮影です。フキノトウまでの距離が非常に近いということもあり、フキノトウ以外はすべてピントが合っていません。
 これはこれで狙った通りなのですが、ボケ方が決して綺麗とはいえません。二線ボケがくっきりと出てしまっています。背後の立ち木や地面の枯れ枝などの棒状のものが多いので特に目立つのかもしれませんが、二線ボケが出ると画がうるさいというか、汚く感じられます。

 このレンズに限らず、PENTAX67用のレンズは全体的に二線ボケの傾向にあります。なので、二線ボケが出やすい被写体の場合は注意が必要です。ピントが合っているところはとても綺麗で文句のつけようのない描写をしますが、ボケを活かす場合はレンズの特性を良く把握しておかないと、出来上がった写真を見てガックリということになりかねません。

 因みに、この写真のようなシチュエーションの場合、接写リングをかませるとボケはかなり綺麗になります。しかし、被写界深度が浅くなりますので背景がボケ過ぎて、フキノトウの出ている環境がわからなくなってしまう可能性もあります。作画意図をはっきりと持った上でどのように仕上げるかを考えるのも、写真撮影の面白さの一つだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 大きな画角ゆえにクセの強いレンズとも言えますが、私の中ではボケ以外の写りに関してはかなり高評価のレンズです。エッジのきいたシャープさというか、ピントの合っているところの解像度などは見事ですし、周辺光量の落ち込みも気になるほどではなく、気持ちの良い写真に仕上げることのできるレンズといった感じです。
 焦点距離55mmのレンズは比較的なじみ易い広角かも知れませんが、それに飽き足らなくなったらこのレンズで違った世界を見てみるのも面白いのではないかと思います。

(2022.5.5)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写

PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)

 PENTAX67には2本のマクロレンズ(焦点距離が100mmと135mm)がありますが、それとは別に接写リングが用意されています。
 マクロレンズと比べて接写リングは撮影の自由度が落ちるのですが、オート接写リングの場合、PENTAX67用の内爪式レンズのすべてに装着可能で、近接撮影を行なうことができるので結構重宝します(焦点距離600mm以上の超望遠レンズはバヨネットが外爪式になっており、それ用には外爪接写リングが用意されています)。
 今回は内爪式のオート接写リングをご紹介します。

3つのリングで7通りの組み合わせが可能

 一般的に接写リングは3個がセットになっているものが多く、PENTAX67用もNo.1~No.3までの3個で構成されています。いちばん薄いNo.1が厚さ14mm、次がNo.2で厚さ28mm、最も厚いのがNo.3で厚さ56mmです。厚さの比が1:2:4になっており、組み合わせを変えた時の厚さの変化が14mmステップになります。
 これら3個のリングは自由に組み合わせることができ、その組み合わせは7通りあります。

▲PENTAX67用 オート接写リング

   <組合せ>  <厚さ>
    1     14mm
    2     28mm
    1+2    42mm
    3     56mm
    1+3    70mm
    2+3    84mm
    1+2+3   98mm

 カメラ用のレンズは無限遠の時のレンズ繰出し量が最も少なく、被写体との距離が近くなるにつれてレンズの繰出し量も多くなるわけですが、最短撮影距離まで繰出すとそれ以上はヘリコイドが動かないようになっています。
 カメラとレンズの間に接写リングを挿入することで、さらにレンズを繰出すことができるようになります。つまり、この接写リングの場合、最短撮影距離の状態からさらに14mmステップで最大で98mmまでレンズを繰出すことができるということです。

撮影距離の制約

 では、接写リングを挿入することでどれくらいまで近接撮影ができるのか、PENTAX67用の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入した場合を例に計算してみます。

 レンズから被写体までの距離a、レンズから撮像面(フィルム)までの距離b、およびレンズの焦点距離fの間には以下のような関係があります。

   1/a + 1/b = 1/f ...式(1)

 この式から、

   1/a = 1/f - 1/b ...式(2)

 となります。

詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 まずはレンズの距離指標を無限遠にした状態のときですが、接写リング3個重ねた時の厚さは98mmなので、
  bは 105mm+98mm で203mm
  fは焦点距離なので105mm

 これらの値を上の式(2)にあてはめてみます。

  1/a = 1 / 105 - 1 / 203
   よって、a = 217.5

 レンズから被写体までの距離aは217.5mmになります。
 これにレンズから撮像面までの距離 105mm+98mm を加えた420.5mmが撮影距離になります。

 次に、レンズのヘリコイドを目いっぱい繰出し、最短撮影距離である1mの指標に合わせた場合を計算してみます。

 無限遠の状態から最短撮影距離の指標までヘリコイドを回すと、このレンズの繰出し量は14mmです。
 すなわち、上の式のbの値は 105mm+14mm+98mm で、217mmとなります。
 同様に上の式(2)にあてはめると、

  1/a = 1 / 105 - 1 / 217
   よって、a = 203.4

 aは203.4mmとなり、これにレンズの繰出し量の217mmを加えた420.4mmが撮影距離になります。

 つまり、焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入すると、ピントが合わせられる範囲は420.4mm~420.5mmということで、わずか0.1mm足らずの範囲しかないということになります。これは許容範囲がないに等しく、これが接写リングの自由度の低さだと思います。

 参考までに、7通りの接写リングの組合せ時の撮影可能範囲を計算すると以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影可能範囲>
     1     631.8~1011.5mm
     2     514.5~631.8mm
     1+2    462.9~514.5mm
     3     437.5~462.9mm
     1+3    425.3~437.5mm
     2+3    420.5~425.4mm
     1+2+3   420.4~420.5mm

 この値を見ていただくとわかるように、焦点距離105mmのレンズの場合、使用する接写リングの7通りの組合せによって、420.4~1011.5mmの範囲であれば無段階にピント合わせができるようになっています。

 これをグラフに表すとこのようになります。

 このようなグラフを使用するレンズごとに用意しておくと、撮影の際にどのような接写リングの組合せにすれば良いかがすぐにわかるので便利です。

接写リングによる撮影倍率

 次に、接写リングを使用した場合の撮影倍率についても計算してみます。
 撮影倍率Mは以下の式で求めることができます。

   M = z’/f ...式(3)

 ここで、z’はレンズの後側焦点から撮像面までの距離、fはレンズの焦点距離です。

 詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(2) 撮影倍率

 焦点距離105mmのレンズに、接写リング3個をつけた場合の撮影倍率を上の式(3)にあてはめて計算してみます。
 まず、レンズを無限遠の指標に合わせた場合ですが、z’は接写リングの厚さに等しいので、No.1~No.3を装着した場合は98mm、fは焦点距離なので105mmです。

   M = 98 / 105 = 0.93倍

 となります。

 また、レンズを最短撮影距離の1mの指標に合わせた場合、レンズの繰出し量は14mmなので、z’は 14mm+98mm で112mmとなります。
 したがって、この時の撮影倍率は、

  M = 112 / 105 = 1.07倍

 となり、焦点距離105mmのレンズに3個の接写リングをつけると、およそ等倍の撮影ができるということです。

 同様に、7通りの組合せ時の撮影倍率の計算を行なうと以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影倍率>
    1     0.12~0.27倍
    2     0.27~0.40倍
    1+2    0.40~0.53倍
    3     0.53~0.67倍
    1+3    0.67~0.80倍
    2+3    0.80~0.93倍
    1+2+3   0.93~1.07倍

接写リング使用時は露出補正が必要

 レンズが前に繰り出されると撮像面の単位面積あたりに届く光の量が減少し、レンズの実効F値が暗くなるため、露出補正が必要になります。レンズのヘリコイド可動範囲内であれば露出補正量もわずかで誤差の範囲と言えますが、接写リングを挿入するとそういうわけにもいかず、露出補正しなければなりません。

 露出補正倍数は下の式で求めることができます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離) ^ 2 ...式(4)

 焦点距離105mmのレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の露出補正量を計算してみます。

 まず、レンズの距離指標を無限遠に合わせた場合、レンズ繰出し量は焦点距離に接写リングの厚さを加えた値なので、105mm+98mm で203mmとなり、

   露出補正倍数 = (203 / 105) ^ 2 = 3.74倍

 の露出補正が必要ということです。
 これは2段(EV)弱のプラス補正ということになります。

 また、レンズの距離指標を最短撮影距離の1mに合わせた場合、レンズ繰出し量はさらに14mm加算されるので217mmになります。
 同様に露出補正倍数を計算すると、

   露出補正倍数 = (217 / 105) ^ 2 = 4.27倍

 となり、これは2段(EV)強のプラス補正ということになります。

 7通りの接写リングの組合せ時の露出補正倍数は以下のようになります。

   <組合せ>  <露出補正倍数>
    1     1.28~1.60倍
    2     1.60~1.96倍
    1+2    1.96~2.35倍
    3     2.35~2.78倍
    1+3    2.78~3.24倍
    2+3    3.24~3.74倍
    1+2+3   3.74~4.27倍

自由度は低いがマクロ撮影のバリエーションは広い

 接写リングをつけると無限遠などの遠景撮影ができなくなったり、一つの組合せで撮影できる範囲が非常に限定されたりしますが、マクロレンズ単体で使用するのに比べると撮影倍率ははるかに高くできます。
 また、様々な焦点距離のレンズでの使用が可能なので、撮影のバリエーションも広がります。

 とにかく撮影倍率を高くしたいのであれば、できるだけ焦点距離の短いレンズを使うことで実現できます。PENTAX67用で、フィッシュアイレンズを除く最も焦点距離の短いレンズは45mmですが、このレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の撮影倍率は約2.27倍になります。
 また、焦点距離の長いレンズにつけると前後のボケが非常に大きくなり、背景を簡略化したり、美しいグラデーションの中に被写体を浮かび上がらせたりすることができます。

 下の写真は、焦点距離165mmのレンズにNo.3の接写リングをつけて撮影したものです。

▲smc-PENTAX67 165mm 1:2.8 接写リングNo.3使用

 撮影倍率は約0.5倍です。ピントが合っている部分はごくわずかで、画のほとんどがアウトフォーカスになっています。長めの焦点距離のレンズを使っているので、ボケも綺麗です。

 一方で、ピントを合わせられる範囲も被写界深度も著しく浅くなるので、ピント合わせは慎重に行なわなければなりません。接写リングを3つも重ねるとピントの山がつかみにくくなるので、ピント合わせにも苦労します。

 私は持っていませんが、接写リングの厚さを可変できるヘリコイド接写リングというものがあります。可変量はそれほど大きくありませんが、接写リングと組み合わせて使うと撮影可能範囲が広くなるので便利だと思います。

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 マクロレンズがあれば接写リングを持ち出すこともないかも知れませんが、マクロレンズだけでは撮れないような写真を撮ることができるので、私は常にカメラバッグの中に入れています。
 はめたり外したりが少々面倒くさいですが、それもまた手間をかけて撮影している実感があるということで、良しとしておきましょう。

(2022年3月20日)

#接写リング #マクロ撮影 #ペンタックス67 #PENTAX67