PENTAX67 ペンタックス67の露出計駆動用チェーンの修理

 私はPENTAX67を数台持っているのですが、先日、いちばん古い機種を持ち出したところ、露出計が動作していないことに気がつきました。どうやら、露出計を駆動するチェーンが切れた模様です。
 私は、露出を測る際は単体露出計を使うので、内臓露出計が機能しなくてもほとんど支障はないのですが、無骨なTTLファインダーがカメラの上部に居座っているにもかかわらず、役に立っていないというのは気持ちが良くないので、修理することにしました。

PENTAX67の露出計駆動の仕組み

 PENTAX67には最初のモデルの「6×7」、次のモデルの「67」、そして最終モデルの「67Ⅱ」があり、さらに「6×7」のモデルは初期、中期、後期と三つに分類されています。最終モデルのPENTAX67Ⅱはそれまでの機種とは全く別物と言えますが、6×7と67は少しずつの改良が加えられてはいますが、基本的な機能や構造はほとんど同じです。
 私が持っているPENTAX67の中でいちばん古い機種が6×7後期モデルで、今回の修理対象機種です。ペンタプリズムのカバーの前頭部にAOCOマークが入っている年代物です。

 6×7、および67用のファインダーは交換式で、通常のペンタプリズムだけのアイレベルファインダーの他にTTLファインダーと呼ばれるものがあり、露出計はこのTTLファインダーに内蔵されています。シャッター速度やレンズの絞りの情報をカメラから露出計に伝える手段はすべて機械式で、構造自体は極めてシンプルです。
 このうち、レンズの絞りと露出計は細いチェーンで連動するようになっていて、絞りリングを回すことでチェーンが引っ張られ、露出計を駆動する仕組みです。

 この仕組みを簡略化したのが下の図です。

 このチェーンはカメラの中に隠れているので、通常の使用でチェーンに触れることはないのですが、構造上、レンズをカメラに装着した状態でTTLファインダーを外したり嵌めたりすると、露出計の爪と、それを動かす小さなパーツのかみ合わせがうまくいかずに切れてしまうこともあるようです。また、とても細いチェーンなので、長年使用していると劣化によって切れることもあるようです。
 今回、私のカメラのこのチェーンがいつ切れたのか、何故切れたのかは不明ですが、絞りリングを勢いよく回したりした際に切れたのかも知れません。

フォーカシングスクリーン上のカバーの取り外し

 露出計駆動用のチェーンを交換するために、まずはTTLファインダーの台座となっているフォーカシングスクリーン上のカバーを外します。

 TTLファインダーを取り外した状態が下の写真です。

 写真の下の方に「PENTAX」の文字があり、その下に細長い溝がありますが、本来であればこの中に細いチェーンが見えているはずです。何も見えていないので、切れてどこかに落ちていると思われます。

 台座(カバー)を外すためには赤い矢印の4本のネジを外します。
 写真上側の2つのネジは通常の+ドライバーで外せますが、下の2つのネジは先端が割れたフォークのような形をしたジャックドライバーが必要です。カニメレンチでも代用できると思いますが、ネジはとても小さいので操作性はあまりよくありません。

 ネジを外した後、台座は上に持ち上げれば簡単に外せますが、ネジ穴のところにワッシャーがあります。このワッシャーは、フォーカシングスクリーンとTTLファインダーを平行に保つための微調整用のもので、場所によって使われている枚数が異なります。1~3枚のことが多いと思いますが、この枚数を変えてしまうとTTLファインダーが傾いてしまうことになります。ワッシャーをなくさないように注意し、場所と枚数を記録しておくのが望ましいです。

レンズマウント部の取り外し

 次に、レンズがはまるマウント部分を取り外します。
 下の写真でわかるように、マウント部の周囲4か所に貼り革(赤い矢印の箇所)があるので、これを剥がします。ピンセットなどで端の方からゆっくりと持ち上げるようにすると簡単にはがせます。

 貼り革を剥がした状態が下の写真です。

 貼り革の下に隠れていた4本のネジ(赤い矢印)を外し、マウントを上にゆっくりと持ち上げます。

 マウントを取り外すと、下の写真のような状態になります。

 まず注意が必要なのは、TTLファインダーの台座と同じように、ネジ穴のところにワッシャーがありますので、これをなくさないようにすることと、それぞれの場所で使われている枚数を間違えないようにすることです。これが変わってしまうと、フィルム面に対するレンズの光軸の垂直が保てなくなります。

 さて、レンズの絞りに連動して回転するリングを外すため、それを押さえている板(緑の太い矢印)が左右2枚あり、これを取り外すのですが、モルト(橙色の矢印)が貼られていて、とても邪魔です。
 このモルトは細いうえに円形をしているので、完全に剥ぎ取ってしまうと再利用がとても難しくなります。モルトが劣化していないようであれば、押さえ板の上にかかっている部分だけを端の方に避ける程度にして、完全に剥がしてしまわない方が無難です。

 押さえ板は左右それぞれ2か所のネジ(緑の細い矢印)を抜けば取り外すことができ、その下にある絞りに連動するリング(青い矢印)が取り出せます。

 取り出したリングが下の写真です。

 チェーンが途中で切れています。
 このチェーンは、リングに設けられている非常に細い針金で作られたフックに引っ掛けてあるだけです。

露出計駆動用チェーンのリペア

 いよいよ、切れたチェーンを作り直さなければならないのですが、使われているチェーンは太さ(幅)1mmほどというとても細いもので、なかなか代用品が見つかりません。根気よく探せばあるとは思うのですが、必要な長さは20cm程度なので、購入するとなるとかなり高くつきそうです。
 ここに金属のチェーンが使われている理由は、自由に曲がる柔軟性と、引っ張っても伸びないことが求められるからではないかと思います。

 そこで、チェーンの代用となる材質をいろいろ考えた結果、釣りに使う道糸を使用することにしました。道糸の素材もいろいろあるのですが、柔軟性があり、しかも丈夫で伸びないという条件を満たす「PEライン」を使います。この道糸はとても強くて、人間の力で引っ張ったくらいでは絶対に切れません。しかもほとんど伸びることがないので打ってつけです。海釣り用のリールから30cmほど切り取ってきました。

 この道糸を長さ(上の図参照)に合わせてカットし、各パーツに結びつけ、こんな感じに仕上げました。

 中央にある青い矢印のパーツがテンションを与えるためのバネで、太いバネと細いバネの二重構造になっています。
 右側の赤い矢印のパーツが、TTLファインダーの露出計の爪と嵌合して露出計を駆動するためのものです。
 道糸のもう一端は、レンズの絞りに連動して動くリングのフックに引っ掛けます。
 結び目があまり綺麗ではありませんが、大目に見てください。

 これをカメラに取付けたのが下の写真です。

 道糸の長さは出来るだけ寸法通りになるようにカットし、結びつけるのですが、なかなかミリ単位で正確にするのは難しいです。
 バネに結ばれている側(写真では上側)の糸の長さは若干前後してもバネが吸収してくれるので問題ありません。しかし、リングに結合する側(写真では下側)の糸は、長すぎるとリングに遊び(ガタ)ができてしまい、反対に短すぎるとリングが嵌まらなくなってしまいます。
 ちょうどよい長さにするのは難しいのですが、3~4mmの範囲であれば微調整することができます。

 マウントを外した左上にチェーンをかけるプーリーがありますが、これを左右に動かすことで微調整が可能になります(下の写真)。

 赤い矢印のネジを緩めるとプーリーの位置が左右に動きますので、これで道糸(チェーン)の緩みを取り除きます。

 念のため、レンズの絞りに連動して動くリングの押さえ板をはめて、リングがスムーズに動くことを確かめたら、TTLファインダーをはめて露出計が機能することを確認します。問題がないようであればマウント、TTLファインダーの台座を元通りに取付けます。その際、ワッシャーの位置と枚数を間違えないように注意します。
 レンズを装着して動作確認を行ない、正常であればマウントの周囲の貼り革を貼って完了です。

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 今回、チェーンの代わりに釣り用の道糸を使いましたが、道糸の方が組み込みが容易な印象を持ちました。チェーンの場合、捻じれを完全に取り除いておかないと、動かした際に露出計を駆動する爪との嵌合が外れてしまうという不具合が起きます。一方、道糸を使った場合は多少の捻じれがあっても全く影響はありません。

 交換後、まだ使用回数は少ないですが、今のところは問題なく機能しているようです。

(2022.8.27)

#PENTAX67 #ペンタックス67

夏の浅間大滝 美しい緑と天然の涼しさはまさに別世界

 今年(2022年)の夏は本当に暑くて、東京でも連日、猛暑日の記録更新というあまり有り難くない話題が飛び交っていました。熱中症にならないように適度に冷房をと言われていますが、冷房の効いた室内にばかり居るのもよろしくないと思い、涼を求めて群馬県にある浅間大滝に行ってきました。
 都心からは高速道路を使えば2時間半ほどで行くことができます。アクセスも比較的容易で、美しい自然と涼しさを満喫でき、夏の撮影にはもってこいのスポットです。

深い木立に囲まれた美しい滝

 群馬県を東西に流れる吾妻川の支流の一つ、鼻曲山を源流とする熊川にある滝で、北軽井沢周辺では最大の滝だそうです。落差はおよそ15m、水量も豊かで勢いよく流れ落ちる迫力のある滝です。
 浅間大滝に行くルートはいくつかありますが、今回は高崎から県道54号線(長野原倉渕線)を西に向かい、浅間山が正面に見える二度上峠を越えて行きました。峠を下り、しばらく走ると浅間大滝の入り口があります。駐車場に車を停めて、川沿いに10分ほど歩くと滝が見えてきます。

 2019年の台風による土砂崩れでしばらく立ち入りができなかったのですが、今は復旧して滝を見ることができるようになりました。以前は対岸に渡る太鼓橋が架かっていたのですが、その橋も流されてしまったようです。橋はなくなりましたが滝つぼから下流は水深も浅いので、長靴を履いていれば川に入って対岸に行くことも滝つぼに入ることもできます。
 川の両側はかなり急峻な崖になっており、大きな木々が覆いかぶさるようになっているので、昼間でも薄暗くヒンヤリとしています。

 滝の少し下流側から全景を撮影したのが下の写真です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 2s PROVIA100F

 覆いかぶさる木立を強調するよう、広角レンズを使ってみました。薄曇りの天気で、しかも木々に光が遮られて渓谷はずいぶん暗く感じます。一方、上半分の木立の部分はかなり明るいので、下半分との明暗差は結構大きい状態です。
 ハーフNDフィルターをかければ明暗差が緩和され、流れを明るめにすることができますが、深い森の中の薄暗い雰囲気を出すためにハーフNDフィルターは使っていません。
 また、木の枝が重なることで葉っぱの濃淡が描く模様が綺麗で、個人的には気に入っています。

 この写真のように、広角レンズで見上げるアングルで撮ると、滝は実際の見た目よりも小さく写ってしまいます。滝はずいぶん遠くにあるように見えるかもしれませんが、写真から受ける印象よりもかなり近い場所から撮影しています。滝の迫力を出来るだけ損なわないようにということで、画全体の中での滝の配分には結構悩みます。

天然のミストシャワーが涼しい

 落差15mというのは、滝の真下にでも行かない限り、見上げるほどの高さではありませんが、それでも滝つぼの近くまで行くとかなりの量の飛沫があります。陽が差し込んでいないうえに天然のミストシャワーを浴びるので肌寒いくらいです。東京のうだるような暑さと比べると別世界で、まさに生返るという言葉がぴったりです。
 マイナスイオンというものがあるのかどうか、目に見えないし、肌でも感じられないので私には良くわかりませんが、こんな環境に一週間もいたら、さぞかし体も元気になるだろうと思います。

 滝の迫力が感じられるカットをと思い、滝の正面にまわって撮ってみました。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F32 4s PROVIA100F

 あまり滝に近づくと、飛沫でカメラも体も濡れてしまうので、すこし離れたところから長めのレンズで撮っています。
 滝の上部の川幅はあまり広くないように見えますが、一段落ちた後、手を広げたように落ちる流れがとても綺麗です。直瀑と違い横幅があるので、落差の割には迫力が感じられます。

 滝のほぼ正面から撮っていますが、写真としてはわずかに右向きという感じです。ですので、カメラを少しだけ右に振って、右側を広く入れた方が窮屈な感じがなくなったように思います。もしくは、若干右側に寄って、左向きの写真として写した方が良かったかもしれません。
 撮影時と出来上がった写真を見た時で違った印象になるのは珍しいことではありませんが、この写真もその一例です。

 下の写真は滝の右側の方から、上部の流れ落ちるところを撮影した一枚です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F32 2s PROVIA100F

 放物線を描いて落ちる滝のボリューム感を出すため、滝の占める割合を多めにしてみました。
 風はほとんどなかったのですが、やはり滝の正面は風があるので、左側の木の枝がブレてしまっています。これによって、写真全体のシャープさが損なわれてしまった感じです。
 この枝が止まっていてくれたらと思うのですが、自然相手に長時間露光する場合は、いつ風が吹くかわからないのでなかなかうまくいきません。

黒い岩と流れの美しいコントラスト

 浅間大滝周辺の岩は溶岩流が固まったものだそうですが、黒っぽいものが多く、岩と水の流れだけを写すとコントラストがとても綺麗で、モノトーンの写真のようになります。

 滝つぼのところをクローズアップしたのが下の写真です。

▲浅間大滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F22 4s PROVIA100F

 ほぼ滝の中央の、いちばん水量の多いところを撮りました。
 滝の全景ももちろん魅力的ですが、部分的なカットも写真としては面白いと思います。場所によって繊細さであったり、あるいは力強さであったり、いろいろな表情があるので飽きることがありません。
 この写真では流れ落ちる水が線状に見えていますが、もっと長時間露光すれば雲のようにふんわりとした感じになり、全くイメージの異なる写真になると思います。

 この滝では滝行をする人がいるらしく、まさにこの場所に立って落ちる水に打たれるようですが、私は見たことがありません。この水に打たれたらかなり痛そうです。

 なお、浅間大滝のちょっと下流に行ったところに、滝というほどではありませんが小さな段差になっているところがあります。絵になるスポットだと思います。

三段の岩を流れ落ちる魚止めの滝

 浅間大滝の駐車場から浅間大滝とは反対方向に少し下ると魚止めの滝があります。浅間大滝の下流にある滝ですが、ナメのように岩を滑り落ちていくという感じの滝で、渓流瀑という部類に入ります。大きく三段になった岩を流れ落ちるため、魚も登ることができないということでつけられた名前のようです。
 落差は10mほどですが滝の全長が長いため、浅間大滝とは違った迫力があります。

 滝のところまで降りていくと全景が見えるのですが、その途中から撮影してみました。

▲魚止めの滝 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 165mm 1:2.8 F22 2s PROVIA100F

 前景に木や草を入れて、滝を少し隠すように構成しています。若干高い位置から俯瞰気味に撮ることで、下から全景を写すよりも滝の迫力を出そうとしたのが狙いですが、手前の草はちょっと多すぎた感じです。また、左上の木々が暗く落ち込んでくれたので、流れの白さが際立っています。
 ごつごつとした岩の上を流れる水の軌跡は得も言われぬ美しさがあります。実際に見たよりも、写真では水量がかなり多いように感じますが、長時間露光のなせる業といったところです。

 この滝は、水量が少ないときであれば注意しながら登っていくことができますが、降りるときは登るときの何十倍も恐怖を覚えるので要注意です。一度だけ滝滑りをしている人を見かけたことがありますが、私には無理です。

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 駐車場から徒歩10分の範囲に浅間大滝と魚止めの滝という2つの素晴らしいスポットがあるにもかかわらず、訪れる人がとても少ない感じです。私もこれまで何度も訪れていますが、駐車場が満車になったとか、人が多くて撮影ができないというようなことは一度もありません。地の利も悪くないと思うのですが、近くにある、観光バスが列をなす白糸の滝とはずいぶん違います。

 私がこの滝を訪れる一ヶ月ほど前、近くの路上で熊が目撃されたそうです。日本各地でクマの目撃情報が増えている気がして、以前は気にも留めなかったところでも、最近はクマが出るんじゃないかと妙に気になったりします。切り立った崖を降りて来ることはないとは思うのですが、滝の音にかき消されて他の音が聞こえない状態だと、やっぱり不安な気持ちになります。

(2022.8.24)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #浅間大滝 #渓流渓谷 #魚止めの滝

ニッコウキスゲ咲く、夏の霧ヶ峰高原 花の旅

 長野県の中部にある霧ヶ峰高原は、車山を最高峰に標高1,500mから1,900mに広がる比較的起伏の緩やかな高原で、八ヶ岳中信高原国定公園に指定されています。大きな樹林はほとんどないため、360度の展望がききます。
 下界ではうだるような暑さでもここは爽やかな風が通り抜け、まさに別世界といった感じです。
 梅雨明けの7月中旬ごろから一斉に咲き始め、高原全体を黄色に染めるニッコウキスゲは有名ですが、湿原も多く存在するため、他にもたくさんの高山植物があることでも知られています。
 今年は梅雨開けが異常に早かったせいか、霧ヶ峰高原の花もだいぶ進んでいる感じですが、今回は、夏の霧ヶ峰高原で撮影した花をいくつかご紹介します。

ニッコウキスゲ(日光黄菅)

 霧ヶ峰の中でもニッコウキスゲが広範囲に群生しているのは、強清水周辺とヴィーナスの丘と呼ばれる車山肩から蝶々深山の一帯にかけてです。特にヴィーナスの丘の辺りの群生密度はとても高く、まさに一面が黄色に染まります。
 しかし、花の数はその年によってずいぶん差があり、少ない年は一面に黄色というわけにはいかず、まばらな感じのときもあります。それでもかなりの数の花が咲いているのですが、多いときの映像が脳裏に焼きついているので、余計にそう感じるのかもしれません。

 高原の高く青い空とニッコウキスゲのコントラストはとても美しく、爽やかな印象を受けますが、朝日が昇って黄色の花がオレンジ色に染まる景色も幻想的で、ほんのわずかの時間だけ見ることのできる光景です。

 下の写真は朝日が昇った直後に撮影したものです。

▲霧ヶ峰高原:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 右上にあるのが車山で、その左側に薄く見えているのが蓼科山です。
 車山の山頂には気象レーダーのドームが設置されているのですが、この時はいい具合に霧がかかってドームを隠してくれました。
 霧ヶ峰高原はその名の通り、霧の発生がとても多く、特に明け方はものすごい早さで霧が流れていくので、霧のかかり方によっては雰囲気が大きく変わってしまいます。個人的には、太陽が稜線の上に出たくらいの時の光の具合がいちばん好きで、この時に霧がどうかかっているかはまさに神頼みといった感じです。
 ニッコウキスゲは一日花のため、一つの花は一日でしぼんでしまうようなのですが、次から次へと咲くので、およそ一週間ほどはこのような見事な状態が続きます。

 近年、ニホンジカの食害や踏み荒らしによる被害からニッコウキスゲを保護するため、電気柵が設けられています。その効果もあってニホンジカの数も減少しているようです。以前は夜中に霧ヶ峰に向って車を走らせていると鹿に遭遇することが良くありましたが、最近はあまり見かけなくなりました。

ウスユキソウ(薄雪草)

 亜高山帯に分布しているキク科の植物で、ヨーロッパのエーデルワイスと同じ仲間です。エーデルワイスのようなモコモコした毛がないので、薄く雪をかぶっているという例えはまさにピッタリという感じです。ウスユキソウという名前は、植物の中でも雅名の一つに数えられているようで、確かに優雅な名前ではあります。
 同じ仲間のミネウスユキソウやタカネウスユキソウはもっと標高の高いところに咲いていますが、霧ヶ峰高原で見ることができるのはこのウスユキソウだけです。

▲ウスユキソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 2X F5.6 1/30 PROVIA100F

 草原のようなところでも育成していますが、上の写真のような岩礫地でよく見かけます。生育環境がわかるように、両側の岩を多めに入れてみました。
 どちらかと言えば地味な花で、赤や黄色の花のように目を引くわけではありませんが、見つけた時はつい立ち止まって見てしまう、そんな魅力のある花です。

 あまり広い範囲を写し込むと雑然とした感じになってしまうので、少し離れたところから望遠レンズを使って撮影しています。ぼかし過ぎて背景が何だか分からなくなってしまわないよう、適度な距離と絞りを選んでいます。

シシウド(獅子独活)

 背丈が2mを超えるほど伸びるセリ科の植物です。霧ヶ峰高原では良く見かけますし、他の植物に比べて抜きんでて大きいのでとても目立ちます。
 花火のように広がった花にはたくさんのハチやハナアブがひっきりなしに来ており、花の上はとても賑わっています。

▲シシウド:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 PROVIA100F

 上の写真は、太陽がちょうど南中にかかるころに撮ったものです。
 シシウドの根元に屈みこみ、カメラを太陽のある方向に向けて撮影しました。太陽は直接入れていませんが、画のすぐ右側にあるのでかなりのプラス補正をしています。シシウドが白くなりすぎないように、かといってシルエットになってしまわないように、夏の高原の明るさを出すように露出値を決めましたが、完全にシルエットにしてしまっても良かったかもしれません。

 このように真夏の太陽の光をもろに受けるような場合、レンズやカメラがダメージを受けてしまうので短時間で撮り終えてしまわねばなりません。また、これは短焦点(45mm)レンズを使っていますが、それでもファインダーを長く覗いていると目に悪影響があると思われるので注意が必要です。

 シシウドは花が終わると結実し、やがて本体は枯れてしまいます。茶色くカサカサとした茎が折れているのを見ると、秋が来たなという感じがします。
 なお、春の新芽は食べられるらしいですが、私は食べたことはありません。確かに芽が出てきたところはウドとよく似ていて、間違えて採ってしまいそうです。

ハクサンフウロ(白山風露)

 霧ヶ峰高原ではニッコウキスゲと並んで人気のある花です。
 小さな花ですが、赤紫色の花はとてもよく目立ちます。背丈は30~50cmほど、他の植物の中に埋もれるようにして咲いています。花の直径は3cmほどで、花芯の辺りが白くなっているのが特徴的です。小さな花ですが結構たくさんの花をつけるので、宝石をちりばめたようです。

 このほかにグンナイフウロやタチフウロ、アサマフウロなどのフウロソウの仲間を何種類か見ることができます。

 群生している中から一輪だけを撮ったのが下の写真です。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/125 PROVIA100F

 背丈の低い花なので、どうしても俯瞰気味の撮影が多くなってしまうのですが、ひょんと飛び出した一輪を見つけたので下から見上げるようなアングルで撮りました。
 花の傷みもなく綺麗だったのと、茎が描くラインがとても美しかったので、それを強調するように背景は極力シンプルにしました。バックを大きくぼかすように接写リングを使っています。

 あまり明るくし過ぎると雰囲気が損なわれてしまうので、露出はアンダー気味にしています。
 また、花弁にわずかな朝露が残っていると思いますが、あっという間に消えてしまうので、のんびりと構えてはいられません。
 下半分が紫色にぼやーっとしていると思いますが、これはバックに咲いているハクサンフウロのボケです。

 因みに、こんな感じで咲いています。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/60 PROVIA100F

ホソバノキソチドリ(細葉の木曽千鳥)

 野性の蘭の一種で、深山の草原のようなところに自生する多年草です。
 背丈は20~30cmほどと小さく、草むらに咲いて、しかも花が黄緑色なのでよく探さないと見つかりません。花は小さいのですが非常に複雑な形状をしており、いかも蘭といった感じです。五線紙の上に書かれた音符のようにも見えます。
 同じ仲間にトンボソウというのがあり、非常によく似ているのですが、距がピンと跳ね上がっているので何とか見分けがつきます。霧ヶ峰高原ではトンボソウの方が圧倒的に個体数が少ないと思われます。

 草むらで見つけたホソバノキゾチドリ、花の数は多くありませんが撮ってみました。

▲ホソバノキゾチドリ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/60 PROVIA100F

 何しろ、これ以上ないというくらい花が地味なので、草むらの中からこの花を浮かび上がらせるのは結構大変です。
 光が入り込んでいない方がバックは柔らかくなるのですが、花自体も平坦な感じになってしまいます。バックが少々うるさくなってしまいましたが、光が当たってコントラストがついているところを狙ってみました。それだけだとアクセントに欠けるので、隣に玉ボケを入れてみました。
 右側からスーッと伸びている細い葉っぱを入れるのは迷ったのですが、そのままにしておきました。

 このほかにも野性の蘭の仲間のミズチドリやテガタチドリ、クモキリソウなども非常にまれではありますが、見かけることがあります。いずれも多年草なので、見つけると翌年も同じ場所に咲くはずなのですが、数年後に訪れてみたが見当たらないということもよくあります。盗掘されてしまうのかもしれません。

シュロソウ(棕櫚草)

 湿り気の多い場所を好むらしく、湿原では割とよく見かけます。
 時に群生することもあり、そこそこ見応えはありますが、花の色はお世辞にも美しいとはいえません。
 茎は1m近くまで伸びますが、花はとても小さくて5mmほどしかありません。この小さな花が茎の周りにびっしりとついている様は、試験管を洗うブラシのように思えてなりません。
 強い毒性を持った植物というのは多くありますが、このシュロソウも根茎に毒があるらしいです。

 この花、日中はどのように撮ってもさえない写真になってしまうので、朝日が差し込んでいる状態で撮影してみました。

▲シュロソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 2X F4 1/125 PROVIA100F

 前方から朝日が差し込んでいる状況で、お世辞にも美しいと言えない花も、だいぶ鮮やかになってくれました。朝日なので色温度が低く、かなり赤みが強くなっていますが、玉ボケも手伝って朝の感じは出ているかと思います。
 写真ではわかりにくいかも知れませんが、花弁はかなり肉厚です。この厚い花弁を透過する強い光、そして花が密集しているため、輪郭がわかりにくくなってしまいました。もう少し早い時間帯、日の出直後あたりだと朝露をまとっているので、もっと風情のある写真になったと思います。

 小さくてよくわかりませんが、虫が張り付いています。

マツムシソウ(松虫草)

 亜高山帯で広く見ることができます。薄紫色の花はとても涼しげな感じがして、群生したマツムシソウが風になびいている光景はとても風情があります。
 低山や平地でも見ることがありますが、標高の高いところの花に比べると花弁の数が少なく、どことなく貧相な印象を受けます。
 花が終わると花床が盛り上がって、まるでイガクリ坊主のような愛嬌のある姿になります。
 日本固有種ですが、多くの都道府県で減少傾向にあるらしく、レッドリスト入りした絶滅危惧種になっているようです。

 下の写真は夕暮れに近づいてきたころ、マツムシソウをシルエットで撮影したものです。

▲マツムシソウ:PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 105m 1:2.4 F22 1/125 W10 PROVIA100F

 そのままで撮ると空が白くなりすぎてしまうので、色温度変換フィルター(W10)を装着しています。
 あまりたくさん群生しているとゴチャゴチャしてしまうので、数本の茎がいい塩梅に伸びている株を選んで撮りました。より、夕暮れの感じが出せればと思い、傍らに草を入れてみました。
 太陽を入れていますが、前で紹介したシシウドの写真と違い、太陽高度が低くなっているのと、薄く雲がかかっているのとで、強烈な夏の太陽の印象はありません。
 また、この時は持ち合わせていなかったのですが、軽くレフ板をあてて、マツムシソウのシルエットを少し柔らかくするのもありだと思いました。

 この時期の霧ヶ峰高原は、一年でもっとも賑わう季節ですが、夕暮れが近づくと人の数のずいぶんと減り、撮影するにはありがたい時間帯です。

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 霧ヶ峰高原の夏は本当に短くて、8月の声をきくとそろそろ秋の気配が漂い始めます。そして、咲く花の種類も夏の花から秋の花へと一気に入れ替わります。秋の花は地味な色合いのものが多いのに加えて、8月になると訪れる人の数もぐっと減るので、うら寂しさを感じるほどです。
 8月の半ばごろに、今度は秋の花を撮りに訪れれみたいと思っています。

(2022.7.24)

#霧ヶ峰高原 #ペンタックス67 #PENTAX67 #プロビア #PROVIA #花の撮影

PENTAX67用 超広角レンズ smc PENTAX-6×7 45mm 1:4

 PENTAX67用の純正レンズとしては、35mmのフィッシュアイレンズを除くと最も短焦点のレンズです。レンズの種類としては「超広角」に分類されています。35mm判カメラ用の焦点距離22mmくらいのレンズと同じ画角ですので、かなり広角なのがわかると思います。
 画角が大きいので常用というには不向きかも知れませんが、広角の特性を活かした画作りするには興味深いレンズだと思います。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成  : 8群9枚
   絞り目盛り  : F4~F22
   画角     : 89度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 約0.37m
   測光方式   : 開放測光
   フィルター径 : 82mm
   全長     : 57.5mm
   重量     : 485g

▲scm PENTAX-6×7 mm 1:4

 PENTAX67用のレンズはタクマーシリーズが最初で、その後、SMCタクマーシリーズ、SMCペンタックス67シリーズと続いていきますが、この45mmはSMCペンタックス67シリーズになって初めてラインナップされたレンズです。
 私の持っているレンズは初期のモデルで、正式名称が「smc PENTAX-6×7」となっていますが、後期モデルは「smc PENTAX 67」になっています。レンズ構成などの仕様は同じですが、ピントリングや絞りリングのローレット形状が異なっています。
 重さも500gを下回っており、PENTAX67用レンズの中では最も小ぶりです。

 絞りリングはF5.6からF22の間では中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間は非常に狭く、中間位置のクリックがありません。
 ピントリングの回転角はおよそ120度で、回転角は大きすぎず小さすぎず、操作し易い角度といった感じです。無限遠から最短撮影距離指標まで回すと鏡筒が約11.5mm繰出されます。
 絞り羽根は8枚で、いっぱいに絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。

 焦点距離が45mmと短いので被写界深度も深く、最小絞りのF22まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、1m~∞までが被写界深度内となっています。ピント位置を2mあたりにしておけば、極端に近いところ以外はピント合わせしなくてもボケずに写るということですが、中判フィルムを使うので、いくら何でもそれは大雑把すぎるだろうと思います。

▲mc PENTAX-6×7 45mm の被写界深度目盛り

 画角が広いのでフィルターを2枚重ねると四隅がケラレます。フィルターの2枚重ねをすることはほとんどないと思いますが、保護フィルターを常用している場合、PLフィルターやNDフィルターを使う際には保護フィルターを外した方が無難です。

広い景色をより広く撮影する

 広角レンズなので広い範囲を写せるのは当たり前ですが、焦点距離75mmや55mmのレンズと比べると格段に広い範囲が写り込み、全く別物のレンズのような印象です。そのため、不用意にこのレンズで構えると写したくないものまで入り込んでしまい、雑然とした写真になってしまったり、後で大きくトリミングなんていうことにもなりかねません。
 しかし、広い風景をうまくフレーミングできれば、肉眼で見た風景に比べてはるかに広大な感じられる写真にすることができます。

 下の写真は群馬県の丘陵地帯に広がるキャベツ畑です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 左右の広がりが感じられるように、キャベツ畑を阻害するものをできるだけ排除する位置から撮影しています。ぷかぷかと浮いた雲が適度にあったので空を広めに取り入れています。遠くの山並みも広がりを強調していると思います。
 このような場所ではこのレンズの大きな画角が威力を発揮してくれます。

 この写真では無色の保護フィルターのみで、他のフィルターは使っていません。PLフィルターを適度にかけると雲の白さがより強調されたり、キャベツの葉っぱの反射が抑えられると思いますが、かけすぎるとべったりとした塗り絵のような写真になってしまいます。

 もう一枚、山形県にある棚田の春の風景を撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 田圃の畦の桜がちょうど見ごろを迎えていたので、広く取り入れた空に桜の枝を配してみました。
 右の奥の方に集落が小さく見えると思いますが、肉眼ではもっとずっと近くに見えます。広い範囲が写り込むことで遠近感が強調され、とても広く感じられます。
 また、被写界深度が深いので、手前の桜から奥の山並みまでパンフォーカスに見えます。実際には桜のところはわずかにピントが甘いのですが、この画像では画素数を落としているのでわからないかも知れません。

 いずれの写真も周辺光量の落ち込みがわずかに感じられますが、気になるほどではありません。

パースペクティブを活かして撮影する

 このレンズくらいに画角が大きくなるとパースペクティブが強く出るので、特に意識しなくても遠近感のある写真になりますが、被写体に近づくことでより強く表現することができます。
 このレンズの最短撮影距離は37cmなので、かなり被写体に近づくことができます。37cmと言わずとも1mほどに近づいただけで、その被写体はフレームの中でその存在をかなり主張してきます。

 まず、福島県の桧原湖で撮影した大山祇神社の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/15 PROVIA100F

 ここは、1888年に発生した磐梯山の噴火で川がせき止められ、それによってできた桧原湖に水没してしまった神社です。かろうじて鳥居と、この後ろにあるお社(写真には写っていません)が残っていますが、ここに至るまでの参道はすっかり水の中です。

 湖畔に降りて、この鳥居がはみ出さないギリギリのところまで近づいて撮影しています。鳥居までの距離は2mほどだったと思います。近い位置から見上げるようなポジションでカメラを構えていますので、鳥居の右側と左側ではかなり大きさが違っているのがわかると思います。

 鳥居をできるだけ強調しながら背景を広く取り入れることができるのも、89度という広い画角を持ったレンズならではです。
 鳥居が向こう側に少し傾いているように見えますが、これもパースペクティブの影響です。大判カメラであればアオリを使って補正することができますが、PENTAX67ではそういうわけにもいきません。レタッチソフトを使えばこんな補正は朝飯前でしょうが、これくらいの傾きであればむしろ自然かもしれません。

 次は枝垂桜の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 福島県にある一本桜の大木ですが、桜の木の下に入りこんで真上を見上げるようなアングルから、大きく張り出した枝をできるだけたくさん入るように撮影しています。
 花の密度が最も高い左下の部分を強調して、桜全体がパンフォーカスになるようにということで目いっぱい絞り込んでいますが、上の方の花や枝はピントが外れています。それでも木の大きさや枝の広がりは表現できたのではないかと思います。

ぼかし方には注意が必要

 これまで紹介した4枚の写真はいずれもパンフォーカスか、それに近い状態で撮影していますが、あまり絞り込まず、被写界深度を浅くすることで主被写体を強調した撮り方もできます。

 下の写真は雑木林に出たフキノトウを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F5.6 1/125 PROVIA100F

 フキノトウまでの距離は40cmほどで、このレンズの最短撮影距離に近い状態です。主被写体となるフキノトウを浮かび上がらせるため、絞りはF5.6での撮影です。フキノトウまでの距離が非常に近いということもあり、フキノトウ以外はすべてピントが合っていません。
 これはこれで狙った通りなのですが、ボケ方が決して綺麗とはいえません。二線ボケがくっきりと出てしまっています。背後の立ち木や地面の枯れ枝などの棒状のものが多いので特に目立つのかもしれませんが、二線ボケが出ると画がうるさいというか、汚く感じられます。

 このレンズに限らず、PENTAX67用のレンズは全体的に二線ボケの傾向にあります。なので、二線ボケが出やすい被写体の場合は注意が必要です。ピントが合っているところはとても綺麗で文句のつけようのない描写をしますが、ボケを活かす場合はレンズの特性を良く把握しておかないと、出来上がった写真を見てガックリということになりかねません。

 因みに、この写真のようなシチュエーションの場合、接写リングをかませるとボケはかなり綺麗になります。しかし、被写界深度が浅くなりますので背景がボケ過ぎて、フキノトウの出ている環境がわからなくなってしまう可能性もあります。作画意図をはっきりと持った上でどのように仕上げるかを考えるのも、写真撮影の面白さの一つだと思います。

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 大きな画角ゆえにクセの強いレンズとも言えますが、私の中ではボケ以外の写りに関してはかなり高評価のレンズです。エッジのきいたシャープさというか、ピントの合っているところの解像度などは見事ですし、周辺光量の落ち込みも気になるほどではなく、気持ちの良い写真に仕上げることのできるレンズといった感じです。
 焦点距離55mmのレンズは比較的なじみ易い広角かも知れませんが、それに飽き足らなくなったらこのレンズで違った世界を見てみるのも面白いのではないかと思います。

(2022.5.5)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写

初めてのARISTA EDU ULTRA 200 モノクロフィルムの使用感

 日頃、私が使用しているフィルムのおよそ8割はリバーサルで、残りの2割ほどがモノクロフィルムになります。いまやリバーサルフィルムは種類が激減し、選択肢がないに等しいですが、モノクロフィルムはこのデジタル全盛の時代においても海外製品を中心に種類も比較的多くそろっています。
 私はいろいろなフィルムをあれこれ使うことはあまりなく、気に入ったものを使い続けるタイプです。モノクロフィルムも常用しているのはイルフォードのDELTA100、富士フィルムのACROS Ⅱ、ローライのRPX25など、3種類ほどですが、今回、ARISTA EDU ULTRA 200を初めて使ってみました。

前々から、ちょっと気になっていたモノクロフィルム

 ARISTA EDUはチェコ製のモノクロフィルムで、もともとULTRA 400という製品が発売されており、今から数年前にULTRA 100とULTRA 200が追加されたようです。写真学校の学生など向けに価格を抑えるという戦略をとっていたらしく、「EDU」という名前はそこから来ているとのことです。私が購入した時も120サイズが930円くらいだったので、イルフォードのDELTA100や富士フィルムのACROSⅡに比べると、確かに安いという印象があります。

 私がいろいろなフィルムに浮気をしないのは、リバーサルフィルムは選択肢がないということも理由の一つですが、モノクルフィルムの場合はちょっと違って、フィルムによって特性が違い過ぎるのと、それに相まって現像の仕方で仕上がりがずいぶん変わってくるため、自分が気に入る仕上がりにたどり着くまでにかなりの時間と手間とお金がかかってしまいます。そのため、一度気に入ったフィルムと現像を見つけると、それを使い続けるということになります。

 そんな背景はありながら、ISO100やISO400に比べると種類が少ないISO200という感度が気になったからかも知れません。
 新宿のカメラ店にいそいそと出向き、120サイズのフィルムを2本だけ購入してきました。

現像はイルフォードのID-11を使用

 ARISTA EDU ULTRAシリーズの3種類のうち、ULTRA 100とULTRA 400はトラディショナルタイプですが、ULTRA 200はT粒子タイプらしいです。そのため、推奨現像液は「T-MAX」となっていますが、手元に持ち合わせがなかったので、今回はイルフォードのID-11を使用しました。
 希釈は1:1、現像時間は20℃で9分としました。

 現像しようと思い、リールにフィルムを巻きつけるときにはじめて気がついたのですが、フィルムがすごく薄い感じがしました。35mm判フィルムやシートフィルムと違ってブローニーフィルムの場合は裏紙がついているので、現像のときまで直接フィルムを触ることはありません。
 私が使い慣れているフィルムはパリパリした硬い感じがしますが、このフィルムはフニフニとした感じです。
 イルフォードDELTA100はフィルムベースの厚さが0.11mm(データシートより)らしいですが、このフィルムの厚さを測ってみたところ0.1mmを下回っています。マイクロメータがないので正確な厚さはわかりませんが、DELTA100に比べると薄いのは確かなようです。

 そして、現像後の現像液をみてビックリ、現像液がメロンソーダというか、バスクリンを入れ過ぎたお風呂のような見事なエメラルドグリーン色になっていました。
 現像液はワンショットで廃棄ということはほとんどなく何度か使い回しをしますが、この色を見ると次回も使えるのかしらと思ってしまうくらいです。

 もう一つ驚いたのがフィルムがクリンクリンにカールすることです。乾けばフラットになるかと思ったのですがそんなことはなく、2コマずつカットしてスリーブに入れるにも苦労するくらいです。フィルムを入れたスリーブ全体が湾曲するくらいですから、かなり強力にカールしているのがわかります。

 そんな驚きの連続ではありましたが、何とか無事に現像ができました。

コントラストは低めだが、なだらかな階調

 今回、撮影に使用したカメラはPENTAX67、レンズはSMC TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 です。

 まず一枚目は、新宿中央公園で撮影した「絆」像です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F5.6 1/125 ARISTA EDU 200

 順光に近い右側からの斜光状態での撮影です。バックのビルの壁面にも光が当たっているため、全体的にフラットになりがちな状況です。
 微粒子をうたっているだけあって、まずまずの解像度が得られているのではないかと思います。
 また、シャドー部もベタッとした感じはなく、ディテールも残っています。

 一方、コントラストは若干低い印象を受けます。被写体や光の状況によって異なりますが、個人的にはメリハリが不足しているように感じます。しかしこれは、現像液や現像時間によって変わってくるかも知れません。

 昼休みの時間帯ということもあり、芝生の上には多くの人がいたので急いで撮影したため、像に角が生えてしまったのはご愛嬌ということで。

 次の写真は公園脇の交差点を撮影したものです。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/250 ARISTA EDU 200

 一枚目の写真に比べると斜光の度合いが強いのと陰になっている部分が多いので、全体としてコントラストが高めに見えます。
 しかし、ビル(都庁)の壁面や路面、木々の枝などを見るとわかりますが、コントラストは決して高くはありません。

 この写真は画素数を落としているのでわからないと思いますが、ネガ原版をルーペで見ると木々の枝先も認識できるので合格点とは思いますが、特別に解像度が高い印象は受けません。

 もう一枚、公園内の雑木林を撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/125 ARISTA EDU 200

 画面左側から光が差し込んでいる状況です。
 中央左にある2本の木の幹や、直接光が当たっていない地面なども黒くつぶれることなく表現されていますが、やはり全体の印象はコントラストが低めといった感じです。

 まったく同じ場所ではありませんが、この雑木林をイルフォードのDELTA100で撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/30 ILFORD DELTA100

 ULTRA 200と比べると明らかにコントラストが高いのがわかると思います。全体的に黒の締まった、メリハリが感じられる描写です。
 黒がくっきりと出る分、ディテールは若干犠牲になっていますが、とはいえ、墨を塗ったようなベタッとした黒ではなく、階調も出ているので立体感も損なわれていません。

 因みに、こちらのフィルムもイルフォードID-11(希釈1:1)を使用し、20℃で11分の現像をしています。

 ARISTA EDU ULTRA 200、イルフォードのDELTA100と比べるとその違いが明確にわかりますが、なだらかな階調表現ができるフィルムではないかと思います。パキッとしたメリハリの利いた画にはなりませんが、ディテールを犠牲にすることなく、柔らかな表現ができるフィルムといったところでしょうか。
 ポートレートとか花とか、あるいは、のどかな風景の撮影などには向いているかも知れません。

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 このフィルムを使った撮影を終えてから10日ほど経ったある日、フィルムを購入した新宿のカメラ店に立ち寄ったところ、何と、このフィルムの価格が1,300円に値上がりしていました。もちろん、ULTRA 100もULTRA 400も同じ1,300円です。イルフォードのDELTA100をはるかに超えて、ローライのRPX400と同じ価格になってしまいました。驚きです。
 もはや、学生向けのフィルムとはいえなくなってしまった感じです。

(2022年4月4日)

#アリスタ #ARISTA_EDU #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム

秋間梅林(群馬県安中市)で満開の梅を撮影

 秋間梅林は群馬県安中市の秋間川上流の丘陵地帯に広がる梅林で、「ぐんま三大梅林」の一つと言われているようです。その広さは50ヘクタールにも及ぶらしく、変化に富んだ景観を見ることができます。都心から車だと、高速道路を使っておよそ2時間ほどの道のりです。
 秋間梅林は実を収穫することを目的に栽培されている梅林で、その多くが白梅です。例年、3月上旬から中旬にかけて見頃を迎え、折り重なるように咲く姿は圧巻です。
 今年、3年ぶりに秋間梅林を訪れてみました。

観梅公園一帯の梅林

 一般に秋間梅林というと、この観梅公園一帯を指すようです。小高い山の頂付近に観梅公園があり、そこを中心に南側斜面、東側斜面、北側斜面に梅林が広がっています。付近には駐車場も完備されており、車で行くこともできますが、私はいつも東側の県道122号線(八本松松井田線)沿いにある駐車場に車を止めて、歩いて山を登っていきます。山といってもなだらかな遊歩道が整備されているので、きつい思いをしなくても上っていくことができます。

 下の写真は上り口にある駐車場から撮影した一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F22 1/8 PROVIA100F

 この辺りは梅の畑というよりは梅の公園といった感じで整備されており、紅梅もたくさん見ることができます。山の北側斜面になるので頂上付近に比べると花の時期は少し遅いようです。
 写真の左方向から朝日が差し込んでおり、色温度が低いため、全体的にちょっと赤みを帯びています。
 まだ早朝なので人影はほとんどありませんが、日中になるとこの遊歩道もたくさんの観光客が行き交います。左上の方には東屋もあるので、梅見には最高の場所です。

 雑木林全体はまだ冬枯れの状態ですが、それと満開の梅を対比することで早春の感じを出そうと狙ってみました。
 写真ではわかりにくいかも知れませんが、満開の一歩手前といったところで、これくらいの時の方が花の色は綺麗に出ると思います。

 さて、次は登っていく途中で見つけた白梅の老木です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/30 PROVIA100F

 奥の方に広がっている収穫用に栽培されている木に比べるとかなり背丈も高く、枝も伸び放題という感じですが、何とも言えない風格というか、力強さを感じます。たくさんの花をつけており、まだまだ樹勢も衰えていないようです。
 畑の中の所どころにこのような老木があり、素晴らしい景観をつくりだしてくれています。

 梅の木の高さを出すように、右側の木の真下に近いところからの撮影です。
 花の白い色が飛ばないようにギリギリまで露出をかけていますが、下の三分の一はもう少しアンダーの方がこの写真の雰囲気は上がると思います。

 もう一枚、観梅公園のある頂上付近から東側斜面を望んだのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/15 PROVIA100F

 短焦点レンズで梅畑を広く入れると空が広く入り過ぎてしまうので、梅の枝を覆いかぶさるように入れています。梅の枝は曲がりくねっているものが多いので、形のよさそうな枝を選んでみました。
 この場所は秋間梅林という丘陵地帯を最も感じられる場所だと個人的に思っており、起伏にとんだ地形が見渡せるのでお気に入りの場所です。
 もう少しカメラアングルを下げたいところですが、そうすると家が何件も入り込んでしまうのでこれくらいが限界です。下の方にこっそりと屋根が写っているのがわかるかと思います。

 観梅公園一帯は白梅だけでなく紅梅の木もたくさんあり、華やかな風景を見ることができます。

 なお、観梅公園までの道路は狭いので、車で行かれる場合は運転に注意が必要です。

飽馬神社周辺の梅林

 秋間梅林の中心は観梅公園と呼ばれる小高い山の一帯ですが、そこから北東方向に少し行ったところに飽馬神社という小さなお社があります。この辺りは農家の方が栽培している梅畑が広がっており、山の南斜面に開けているのでとても眺望の良い場所です。天気が良ければ西の方角に妙義山を見ることができます。訪れる人もほとんどおらず、撮影にはもってこいの場所です。

 下の写真は満開の梅畑を下から見上げるアングルで撮った一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-TAKUMAR67 75mm F22 1/30 PROVIA100F

 収穫用に栽培されている梅の木は枝が綺麗にそろえられており、まっすぐ上に延びている枝が印象的です。枝の密度も花の密度も高いので、非常にボリューム感があります。
 梅畑の脇に庚申塔があり、とてもいいアクセントになっています。
 また、梅の木の下の方は見通しがきくので、木の間から背景を入れて奥行きを出してみました。

 この辺りはいろいろな種類の梅が栽培されているらしく、このように白い花の他にピンクの花をつける木も見られます。ピンク色の花は温かみが感じられますが、白いほうが花の数が多いのか、ボリュームがあります。

 同じく、飽馬神社の南側にある梅畑を撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F8 1/125 PROVIA100F

 ここから見る梅畑がいちばん密集しているように感じます。高いところから見下ろすポジションなので、一層そう感じるのかもしれません。

 全体的に柔らかな感じを出すように、半逆光気味になる位置から絞りを浅くしての撮影です。手前の木にはピントを合わせていますが、奥の方の木々はわずかにピントを外しています。霞がかかっているというか、フレアがかかっているというか、そんな感じを狙ってみました。
 白梅に交じって所どころにピンクの梅も見られますが、その色の変化があることで、画が単調になるのを防いでくれています。

 この写真の右方向に妙義山が見えます。妙義山をバックにした梅林も魅力的ですが、脚立などを使って高い位置から撮らないと構図が決めにくいのが難点です。
 また、この一帯は観光客用に整備されているわけではないので駐車場などはありません。車は道路脇の広いところに、邪魔にならないように止めておくしかありません。

群馬フラワーハイランド

 秋間梅林から北西に車で5分ほど行ったところに群馬フラワーハイランドがあります。
 ここは個人の方が長年にわたって整備されてきた花の楽園で、特に1月から3月にかけて咲く寒紅梅が有名ですが、四季折々の花を見ることができる場所です。秋間梅林のすぐ近くですので、ぜひ訪れてみたい場所です。

 まずは白梅を撮った一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 さほど大きくない木なので花の数も多くありませんが、ぽつぽつと咲いている姿が印象的でした。暗い背景に白い花だけでは寂しすぎる感じがしたので寒紅梅を入れてみましたが、ちょっと紅が強すぎたようです。
 白梅を浮かびあがらせるために長焦点レンズを使い、絞り開放で撮っています。
 また、明るくなりすぎないように露出はアンダー気味にしました。

 画全体が締まるようにと思い太めの黒い幹を入れてみましたが、右側の幹はない方が良かったように思います。
 青空に抜いた白梅は爽やかな感じがありますが、このようなシックな雰囲気もいいものです。

 フラワーハイランドは梅だけでなく様々な花が見られますが、ミツマタもこの時期に見ることのできる花の一つです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 45mm 1:4 F16 1/15 PROVIA100F

 高級和紙の原料になるミツマタですが、枝をものすごく広げるので、黄色の花が浮いているように見えます。まるで海を漂うクラゲの大群のようです。
 花自体は地味で、色も決して鮮やかとはいえませんが、無数に咲いているとその辺りだけぼーっと明るくなったような感じがします。

 花だけだと単調になってしまうので、太い白樺(だと思います)の幹を入れてみました。
 また、アンダー気味の方がこの花の雰囲気が出ると思い、露出は切り詰めています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 秋間梅林は観梅公園を中心に撮影スポットがたくさんあるので、被写体には困りません。道路沿いの畑にも随所で梅を見ることができるので、いわゆる梅園とは異なる、梅の木を入れた風景写真も撮り易いと思います。
 歩いて回るには広すぎて車がないと不便ですが、北陸新幹線の安中榛名駅の近くですので、新幹線で安中榛名まで行って、レンタカーを使うという方法もあると思います。

(2022年3月30日)

#白梅 #紅梅 #ペンタックス67 #PENTAX67 #秋間梅林 #花の撮影

PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)

 PENTAX67には2本のマクロレンズ(焦点距離が100mmと135mm)がありますが、それとは別に接写リングが用意されています。
 マクロレンズと比べて接写リングは撮影の自由度が落ちるのですが、オート接写リングの場合、PENTAX67用の内爪式レンズのすべてに装着可能で、近接撮影を行なうことができるので結構重宝します(焦点距離600mm以上の超望遠レンズはバヨネットが外爪式になっており、それ用には外爪接写リングが用意されています)。
 今回は内爪式のオート接写リングをご紹介します。

3つのリングで7通りの組み合わせが可能

 一般的に接写リングは3個がセットになっているものが多く、PENTAX67用もNo.1~No.3までの3個で構成されています。いちばん薄いNo.1が厚さ14mm、次がNo.2で厚さ28mm、最も厚いのがNo.3で厚さ56mmです。厚さの比が1:2:4になっており、組み合わせを変えた時の厚さの変化が14mmステップになります。
 これら3個のリングは自由に組み合わせることができ、その組み合わせは7通りあります。

▲PENTAX67用 オート接写リング

   <組合せ>  <厚さ>
    1     14mm
    2     28mm
    1+2    42mm
    3     56mm
    1+3    70mm
    2+3    84mm
    1+2+3   98mm

 カメラ用のレンズは無限遠の時のレンズ繰出し量が最も少なく、被写体との距離が近くなるにつれてレンズの繰出し量も多くなるわけですが、最短撮影距離まで繰出すとそれ以上はヘリコイドが動かないようになっています。
 カメラとレンズの間に接写リングを挿入することで、さらにレンズを繰出すことができるようになります。つまり、この接写リングの場合、最短撮影距離の状態からさらに14mmステップで最大で98mmまでレンズを繰出すことができるということです。

撮影距離の制約

 では、接写リングを挿入することでどれくらいまで近接撮影ができるのか、PENTAX67用の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入した場合を例に計算してみます。

 レンズから被写体までの距離a、レンズから撮像面(フィルム)までの距離b、およびレンズの焦点距離fの間には以下のような関係があります。

   1/a + 1/b = 1/f ...式(1)

 この式から、

   1/a = 1/f - 1/b ...式(2)

 となります。

詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 まずはレンズの距離指標を無限遠にした状態のときですが、接写リング3個重ねた時の厚さは98mmなので、
  bは 105mm+98mm で203mm
  fは焦点距離なので105mm

 これらの値を上の式(2)にあてはめてみます。

  1/a = 1 / 105 - 1 / 203
   よって、a = 217.5

 レンズから被写体までの距離aは217.5mmになります。
 これにレンズから撮像面までの距離 105mm+98mm を加えた420.5mmが撮影距離になります。

 次に、レンズのヘリコイドを目いっぱい繰出し、最短撮影距離である1mの指標に合わせた場合を計算してみます。

 無限遠の状態から最短撮影距離の指標までヘリコイドを回すと、このレンズの繰出し量は14mmです。
 すなわち、上の式のbの値は 105mm+14mm+98mm で、217mmとなります。
 同様に上の式(2)にあてはめると、

  1/a = 1 / 105 - 1 / 217
   よって、a = 203.4

 aは203.4mmとなり、これにレンズの繰出し量の217mmを加えた420.4mmが撮影距離になります。

 つまり、焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入すると、ピントが合わせられる範囲は420.4mm~420.5mmということで、わずか0.1mm足らずの範囲しかないということになります。これは許容範囲がないに等しく、これが接写リングの自由度の低さだと思います。

 参考までに、7通りの接写リングの組合せ時の撮影可能範囲を計算すると以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影可能範囲>
     1     631.8~1011.5mm
     2     514.5~631.8mm
     1+2    462.9~514.5mm
     3     437.5~462.9mm
     1+3    425.3~437.5mm
     2+3    420.5~425.4mm
     1+2+3   420.4~420.5mm

 この値を見ていただくとわかるように、焦点距離105mmのレンズの場合、使用する接写リングの7通りの組合せによって、420.4~1011.5mmの範囲であれば無段階にピント合わせができるようになっています。

 これをグラフに表すとこのようになります。

 このようなグラフを使用するレンズごとに用意しておくと、撮影の際にどのような接写リングの組合せにすれば良いかがすぐにわかるので便利です。

接写リングによる撮影倍率

 次に、接写リングを使用した場合の撮影倍率についても計算してみます。
 撮影倍率Mは以下の式で求めることができます。

   M = z’/f ...式(3)

 ここで、z’はレンズの後側焦点から撮像面までの距離、fはレンズの焦点距離です。

 詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(2) 撮影倍率

 焦点距離105mmのレンズに、接写リング3個をつけた場合の撮影倍率を上の式(3)にあてはめて計算してみます。
 まず、レンズを無限遠の指標に合わせた場合ですが、z’は接写リングの厚さに等しいので、No.1~No.3を装着した場合は98mm、fは焦点距離なので105mmです。

   M = 98 / 105 = 0.93倍

 となります。

 また、レンズを最短撮影距離の1mの指標に合わせた場合、レンズの繰出し量は14mmなので、z’は 14mm+98mm で112mmとなります。
 したがって、この時の撮影倍率は、

  M = 112 / 105 = 1.07倍

 となり、焦点距離105mmのレンズに3個の接写リングをつけると、およそ等倍の撮影ができるということです。

 同様に、7通りの組合せ時の撮影倍率の計算を行なうと以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影倍率>
    1     0.12~0.27倍
    2     0.27~0.40倍
    1+2    0.40~0.53倍
    3     0.53~0.67倍
    1+3    0.67~0.80倍
    2+3    0.80~0.93倍
    1+2+3   0.93~1.07倍

接写リング使用時は露出補正が必要

 レンズが前に繰り出されると撮像面の単位面積あたりに届く光の量が減少し、レンズの実効F値が暗くなるため、露出補正が必要になります。レンズのヘリコイド可動範囲内であれば露出補正量もわずかで誤差の範囲と言えますが、接写リングを挿入するとそういうわけにもいかず、露出補正しなければなりません。

 露出補正倍数は下の式で求めることができます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離) ^ 2 ...式(4)

 焦点距離105mmのレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の露出補正量を計算してみます。

 まず、レンズの距離指標を無限遠に合わせた場合、レンズ繰出し量は焦点距離に接写リングの厚さを加えた値なので、105mm+98mm で203mmとなり、

   露出補正倍数 = (203 / 105) ^ 2 = 3.74倍

 の露出補正が必要ということです。
 これは2段(EV)弱のプラス補正ということになります。

 また、レンズの距離指標を最短撮影距離の1mに合わせた場合、レンズ繰出し量はさらに14mm加算されるので217mmになります。
 同様に露出補正倍数を計算すると、

   露出補正倍数 = (217 / 105) ^ 2 = 4.27倍

 となり、これは2段(EV)強のプラス補正ということになります。

 7通りの接写リングの組合せ時の露出補正倍数は以下のようになります。

   <組合せ>  <露出補正倍数>
    1     1.28~1.60倍
    2     1.60~1.96倍
    1+2    1.96~2.35倍
    3     2.35~2.78倍
    1+3    2.78~3.24倍
    2+3    3.24~3.74倍
    1+2+3   3.74~4.27倍

自由度は低いがマクロ撮影のバリエーションは広い

 接写リングをつけると無限遠などの遠景撮影ができなくなったり、一つの組合せで撮影できる範囲が非常に限定されたりしますが、マクロレンズ単体で使用するのに比べると撮影倍率ははるかに高くできます。
 また、様々な焦点距離のレンズでの使用が可能なので、撮影のバリエーションも広がります。

 とにかく撮影倍率を高くしたいのであれば、できるだけ焦点距離の短いレンズを使うことで実現できます。PENTAX67用で、フィッシュアイレンズを除く最も焦点距離の短いレンズは45mmですが、このレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の撮影倍率は約2.27倍になります。
 また、焦点距離の長いレンズにつけると前後のボケが非常に大きくなり、背景を簡略化したり、美しいグラデーションの中に被写体を浮かび上がらせたりすることができます。

 下の写真は、焦点距離165mmのレンズにNo.3の接写リングをつけて撮影したものです。

▲smc-PENTAX67 165mm 1:2.8 接写リングNo.3使用

 撮影倍率は約0.5倍です。ピントが合っている部分はごくわずかで、画のほとんどがアウトフォーカスになっています。長めの焦点距離のレンズを使っているので、ボケも綺麗です。

 一方で、ピントを合わせられる範囲も被写界深度も著しく浅くなるので、ピント合わせは慎重に行なわなければなりません。接写リングを3つも重ねるとピントの山がつかみにくくなるので、ピント合わせにも苦労します。

 私は持っていませんが、接写リングの厚さを可変できるヘリコイド接写リングというものがあります。可変量はそれほど大きくありませんが、接写リングと組み合わせて使うと撮影可能範囲が広くなるので便利だと思います。

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 マクロレンズがあれば接写リングを持ち出すこともないかも知れませんが、マクロレンズだけでは撮れないような写真を撮ることができるので、私は常にカメラバッグの中に入れています。
 はめたり外したりが少々面倒くさいですが、それもまた手間をかけて撮影している実感があるということで、良しとしておきましょう。

(2022年3月20日)

#接写リング #マクロ撮影 #ペンタックス67 #PENTAX67

PENTAX67用ソフトフォーカスレンズ SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 1990年前後だと思うのですが、PENTAX67用のレンズがSMCタクマーからSMCペンタックスになったタイミングでラインナップされたソフトフォーカスレンズです。
 写真家のデヴィッド・ハミルトン氏や秋山正太郎氏の影響も大きいと思うのですが、当時はソフトフォーカスの人気も高く、いろいろなソフトフォーカスレンズが各社から発売されていました。今ではレタッチソフトで加工して、ソフトフォーカスレンズで撮影したような描写に仕上げてしまうことが簡単にできるので中古市場での人気もイマイチですが、ときどき使ってみたくなるレンズです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(PENTAX67 SOFT 120mm 使用説明書より引用)。

   レンズ構成枚数   : 3群4枚
   絞り目盛り     : F3.5~F22
   画角        : 40.5度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離    : 約0.75m
   測光方式      : 絞り込み測光
   フィルター取付ネジ : 77mm
   全長        : 63.5mm
   重量        : 520g

▲SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 35mm判カメラ用の焦点距離60mmのレンズと同じくらいの画角ですので、若干長めの標準レンズといったところです。
 
 普通のレンズは球面収差をおさえるために何枚ものレンズを組み合わせていますが、このレンズはあえて球面収差を残すことで芯のある像の周囲にボケを発生させるという原理のようです。
 このレンズは、1986年に製品化された35mm判用のSMC PENTAX SOFT 85mm F2.2というレンズが原型になっていると言われています。SOFT 85mmレンズは私も購入しましたが、ソフト効果が強力過ぎるのと周辺部の画質が良くないという理由でほとんど使わずに手放してしまいました。
 しかしこちらのレンズは、SOFT 85mmと比べるとはるかにきれいな描写をするレンズです。

 PENTAX67用のレンズは多くの一般的なレンズと同様、レンズの前側にピントリングがあり、マウント側に絞りリングがありますが、このSOFT 120mmレンズは絞りリングがレンズ前側でピントリングがマウント側にあり、普通のレンズと配置が逆です。
 このレンズは絞り値によってボケ量が変化しますが、ボケ具合を確認する際、絞りリングが回し易いように前側に配置されているのではないかと思われます。
 また、ピントリングのところに距離目盛りがないのも特徴的です。

 絞り羽根は8枚で、F4で綺麗な円形になります。
 また、絞りリングはF4からF22の間で中間位置にクリックがあります。

▲絞りF4で綺麗な円形になる

独特なピント合わせ

 上でも触れたように、このレンズは球面収差を利用しているため、絞りを絞るにつれて球面収差は小さくなり、F11以上になると目立たなくなります。
 しかし、開放(F3.5)からF5.6辺りではボケが大きくて、ピント合わせがし易いとは言えません。ピントの山がつかみにくいという印象です。

 レンズの使用説明書を見ると、以下のような二通りのピント合わせの方法が示されています。

 1) 絞りをF3.5~8に設定した時は、ファインダーでピント合わせをした後、ピントリングを左に回して補正する。
 2) 絞りを11以上にしてピント合わせをした後、好みのボケ量の位置まで絞りを開く

 一つ目のピント合わせについてですが、球面収差の影響で、肉眼でピントが合っていると見える位置と実際にピントが合っている位置にずれがあるようで、これを補正するためにピントリングを左に動かす(フォーカスシフト)ということのようです。
 下の写真がその補正用の目盛りです。

▲ピント補正(フォーカスシフト)用の指標

 向って右から赤、白、白と3本のラインがありますが、ピント合わせをした後、ピントリングを赤のラインから白のライン位置まで移動させるという操作を行ないます。ボケ(フレア)をあまり大きくしたくないときは真ん中の白いラインまで、ボケを大きくしたい時は左の白のラインまで移動させます。
 ピントリングを左に回すということはレンズが前に繰り出されることになりますので、後ピンになっているということのようです。

 試しに、絞りF3.5の時とF11まで絞った時の、ピントリングの位置を調べてみました。

▲絞りによってピントの合う位置がずれる

 上の写真で、ピントリングに付けてある緑の付箋(右側)がF3.5の時のピントが合った位置で、赤の付箋(左側)がF11の時にピントが合った位置です。ちょうど赤のラインと真ん中の白のラインの感覚と同じくらいのずれがあります。
 これでわかるように、絞りを開いた状態の時は後ピンでピントが合ったように見えるようです。

 二つ目のピント合わせの方法、F11以上に絞ってピント合わせをする場合ですが、この時は通常のレンズと同じようにピント合わせができるようで、補正の必要がないということです。
 ただし、F11以上に絞るとファインダーが暗くなりますので、被写体によってはかえってピントが合わせにくくなってしまいます。どちらの方法が良いか、慣れにもよると思いますが、その時の状況に応じてピント合わせの方法を使い分けることも必要かもしれません。

被写体によってフレアの出方に大きな違いがある

 ソフトフォーカスレンズのボケ方というのは、ピントが合っていないボケ(ピンぼけ)とは違って、芯(ピントが合っている)がはっきりしており、その周囲にフレアが出るというものです。また、明るいところほどフレアが強く出ます。
 このため、コントラストが強すぎる被写体の場合、ハイライト部分のフレアが非常に強く出てしまいます。強い点光源のようなものがあるとそこのフレアは非常に大きくなります。
 一方、コントラストが低い被写体の場合は均一にフレアが出るため、霧がかかったような感じになり、全体的に白っぽい画になってしまいます。フォギーフィルターというのがありますが、それをつけた時の状態に似ています。

 全体的にクセのない綺麗な描写をするレンズだと思いますが、絞り開放近辺の周辺画質は落ちる傾向にあるので、被写体によっては注意が必要かもしれません。
 テレコンバーターをつけて周辺部をカットしてしまうという方法もありますが、画角が狭くなってしまうのと、全体の画質が若干落ちてしまうため、私はほとんど使うことはありません。

SOFT 120mmで撮影した作例

 このレンズに限らず、ソフトフォーカスレンズは被写体やシチュエーションによって写りが大きく変わります。そんな中から、このレンズの特性が感じられる作例をいくつかご紹介したいと思います。

 まず一枚目は八重咲の桜をアップで撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/30 PROVIA100F

 薄曇りなので強い光は当たっておらず、そのため、バックは暗く落ち込んでいます。極端なハイライト部はない状態ですので、全体として柔らかな感じで描写されていますが、ピンクの花弁のところは綺麗なフレアが出ています。
 花弁の部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 花弁の輪郭はしっかりと残しながら、フレアが出ているのがわかると思います。
 ふわっとした柔らかさで、一味違った桜の美しさが表現できるのではないかと思います。

 これに対して、全体的に明暗差が少なくコントラストが低い被写体を撮るとこのような感じになります。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/60 PROVIA100F

 バックも比較的明るく、これといったハイライト部もシャドー部もない状態です。全体的に霧がかかったような描写になります。
 これはこれで雰囲気があるのですが、何かポイントとなるようなものがないと写真が平坦になってしまいます。普通のレンズで撮っても面白くないのでソフトフォーカスレンズを使ってみたが、やっぱりどうってことはなかったみたいな状態に陥りやすいケースです。
 フォギーフィルターを使った時と描写が似ていますが、芯がしっかりと出ているので奥行きが感じられます。

 被写体に強い光があたっている状態だと全く違う描写になります。
 下の写真は透過光に輝く葉っぱを撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 光が当たっている葉っぱと光があまりあたっていない背景とで明暗差がありますが、直接光が入り込んでいるハイライト部がないため、光が透過している葉っぱも柔らかな感じになっています。
 これを普通のレンズで撮ると、パキッとした感じになってしまいますが、このような描写できるのはソフトフォーカスレンズならではです。
 背景の木漏れ日による滲みも柔らかくて綺麗だと思います。

 下の写真は、桜の咲く時期に茅葺き屋根の民家を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/500 PROVIA100F

 薄曇りで柔らかな光が全体に回り込んでいる状態なのでフレアの出方にも大きな差がなく、画全体が滲んでいるような描写になっており、絵画のような雰囲気があります。
 コントラストはそれほど高くないので、露出をかけすぎると全体的に白っぽくなってしまいますが、露出を若干切り詰めることでこのような描写にすることができます。
 絞りを適度に絞ると明るい部分のフレアも抑えられるとともに、シャドー寄りの部分も柔らかな描写になります。

 上の写真とは正反対というか、ハイライト部分が点在している状態の被写体を撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 残り柿に太陽の光があたって白く輝いている状態です。その部分のフレアが大きく広がって、全体がふわっとした感じになっています。
 枝も白く輝いており、このフレアも全体を柔らかくしています。
 残り柿の雰囲気を出すためには、もう少し露出を切り詰めた方が良いかもしれません。その方が晩秋のイメージが出ると思います。

 これらの作例でもわかると思いますが、ソフトフォーカスレンズの場合、露出過多は避けた方が良いと思います。フレアが出過ぎて、写真の雰囲気を台無しにしてしまう可能性が高いです。

 さて、もう一枚、点光源に対する描写の例ということで、夜のレインボーブリッジを撮ってみました。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F3.5 2s PROVIA100F

 絞りは開放にしているので、ハイライト(点光源)部分のフレアは顕著に表れています。点光源が多く、かつコントラストが高いとここまでフレアが大きくなってしまい、元の形も崩れてしまうほどです。フレアをどれくらいの大きさにするかは好みというか作画意図というか、そういうものによると思います。

 橋の中央部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 芯はしっかりとしながら綺麗な滲み(フレア)が出ています。
 しかし、点光源の影響はかなり大きいので、このような夜景を撮影する場合はどの程度絞るか、悩ましいところではあります。絞ればこのようは綺麗な円形のボケではなく多角形になってしまいますので、写真の雰囲気も変わってきます。

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 ソフトフォーカスレンズは特殊レンズに分類されるといっても良く、その描写は被写体やシチュエーションによって大きく変化します。ファインダーで見たような仕上がりにはなかなかならないという、クセのあるレンズかもしれません。デジカメであればすぐに結果を確認できますが、フィルムカメラではそのようなわけにもいかず、たくさんの撮影をしながらレンズの特性を把握していくということが必要になります。面倒くさいと言えばそれまでですが、そんなレンズの特性を理解しながら撮影するのもフィルムカメラの楽しみの一つかもしれません。

(2021.12.15)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写 #ソフトフォーカス

花を撮る(5) 夏の終りから秋に咲く花

 今年(2021年)の東京の夏は短かったという印象です。9月になると急に暑さがやわらぎ、一気に秋が来たのではないかと思えるような日が続いていました。急激に秋になってしまうのではないかとも思いましたがそんなことはなく、30度を超える日も数回あったと記憶しています。
 野に咲く花も、夏の花から秋の花に変わっていくのが感じられる季節です。今回は夏の終りから秋にかけて咲く野草を紹介します。

秋桜(コスモス)

 秋といえば何といっても秋桜を外すわけにはいきません。もともとはメキシコ原産らしいですが、今ではすっかり日本の風景となっています。「風を見る花」というロマンチックな愛称を持っており、秋を感じさせてくれる代表的な花となっています。
 田圃の畦や農道の脇に咲く秋桜も風情がありますが、牧場などで大群生している姿は圧巻です。花の色が白やピンク、赤など多彩なのも華やかさを増していると思います。

 秋桜で有名な長野県の内山牧場で撮ったのが下の写真です。

▲秋桜 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 内山牧場は3haもの広大な丘陵地に100万本の秋桜が咲くお花畑です。
 青く澄み渡った空と咲き誇る秋桜のコラボレーションも見事ですが、上の写真は朝日が昇ってきたところを逆光で撮りました。正面にある林の上に朝日が顔を出して、秋桜畑に光が差し込んだ瞬間です。
 300mmの望遠レンズを使い、すぐ手前にある秋桜を大きくぼかし、かなり先の方にある秋桜にピントを合わせています。ピントが合っている範囲はごくわずかです。

 もろに逆光ですので、秋桜の本来の花の色は損なわれていますが、花一つひとつが発光しているような描写を狙ってみました。

 色温度の低い朝の光なので、全体的に赤っぽくなっています。色温度補正フィルターで赤みを落としても良いのですが、このままの方が朝の雰囲気が感じられると思います。

 太陽が正面にあるので、レンズに直接光が当たらないようにハレ切りを使っています。
 このような感じに写せるのはほんのわずかな時間です。太陽が高くなってくると光も白くなりますし、上からの光になるので、秋桜が光り輝くようにはなりません。

ガガイモ

 夏の終り頃から良く見かける野草です。つる性の植物で繁殖力がかなり強いらしく、雑草化してしまうのでどちらかというと嫌われ者のイメージがあります。
 薄紫色の星形をした、小さな可愛らしい花をつけます。細かい毛が密生しているため、砂糖菓子のような感じもします。

 下の写真は雨上がりに撮影したガガイモの花です。

▲ガガイモ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 M135mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 小さな花なので、俯瞰気味に撮ると葉っぱやつるの中に小さな花が埋もれてしまい、花の可愛らしさがまったく浮かび上がってきません。
 半逆光気味になるよう、下から見上げる感じで撮ると花の表情が出せると思います。
 そして、背景には余計なものを入れず、できるだけシンプルにした方が引き立ちます。

 この写真、太陽の位置は画面のほぼ右側の真上方向にあり、トップライトに近い感じで撮影しています。花に立体感を出すため、陰になる部分ができるような位置を選んでいます。
 そして、背景はできるだけ暗くなるように、日陰になっている林を入れました。陽が当たっている花と背景のコントラストが大きいので、真っ黒で平面的になり過ぎないよう、光が差し込む木々の隙間を右上に入れました。

 そのままでも十分に可愛らしい花ですが、水滴がつくことでみずみずしさも出ているのではないかと思います。
 なお、中望遠のレンズに接写リングをつけて撮影しています。

ヤマハギ

 秋の七草のひとつです。山地の草地などに自生しており、早いものでは7月の終り頃から咲き始めるものもあります。背丈は2メートルほどにもなり、紫色の花をびっしりとつけた姿は見応えがあります。
 観賞用として庭に植えられているのを見かけることも多いですが、鎌倉に行くと宝戒寺をはじめ、萩寺と呼ばれる萩の咲く名所がたくさんあります。

 牧草地に咲くヤマハギを撮ったのが下の写真です。

▲ヤマハギ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 こんもりと生い茂った姿も秋らしい風景ですが、萩の花を輝かせるため、早朝の太陽があまり高くなる前の時間帯に逆光気味で撮影しました。バックは草地ですが、ところどころに萩の紫色がボケて入っています。
 暗い背景を選んで、萩の花を浮かび上がらせても綺麗だと思うのですが、初秋の早朝のさわやかさを出すために、あえてハイキー気味で撮っています。
 萩だけではなんとなく締まりがないので、咲き始めたワレモコウの花を隣にいれてアクセントになるようにしてみました。
 また、あまりうるさくなりすぎない程度に、適度に玉ボケを入れています。

 バックをできるだけシンプルにするため、300mmの望遠レンズでの撮影です。
 萩の咲く風景として撮影する場合はもっと短い焦点距離のレンズを使いますが、萩をポートレート風に撮るには長い焦点距離の方が萩の表情を引き出すことができます。

イヌタデ

 畑や道端、野原などでごく普通に見ることのできる野草ですが、秋を彩る野草の一つだと思います。
 子供がままごとで、この花を赤飯に見立てたところから「アカマンマ」という名前で呼ばれたりしますが、何とも風情のある名前です。
 時に畑や田んぼを埋め尽くすほどの大群落をつくることもあります。

 日当たりの良い畑に咲いていたイヌタデを撮ってみました。

▲イヌタデ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 群落というほどではありませんが、かなり広範囲にわたって咲いていました。イヌタデだけでも配置をうまく考えれば画面のバランスはとれると思うのですが、クローバー(シロツメクサ)も所どころに見られたので、これも入れてみました。

 ほとんどが背丈の低いものばかりのため、小さな花が背景に埋もれないよう、地面にすれすれの位置からの撮影です。画面の下の方に下草を入れて、その間から顔を出している様子がわかるようにしています。
 太陽の光がちょっと強すぎる感じです。薄雲がかかって、もう少し柔らかな光になってくれると良かったのですが、ぎりぎり、初秋らしい光の感じにはなっているかと思います。

 200mmの中望遠レンズに接写リングをつけての撮影ですが、接写リングをもう一個くらいかませて、被写界深度をもう少し浅くしても良かったかと思っています。

ユウガギク

 日当たりの良い草地でよく見ることができます。漢字で書くと「柚香菊」で、かすかに柚のような香りがすると言われています。夏の終り頃から晩秋まで、比較的長い期間咲いています。
 花の大きさは3cmほどと小さいですが、たくさんの花をつけるので華やかな感じがします。

 田圃の畦に咲いているユウガギクを撮ってみました。

▲ユウガギク PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 ユウガギクの花弁の白と、周囲の草の緑のコントラストがきれいでした。花はたくさん咲いていましたが、一輪だけにピントを合わせ、他の花はアウトフォーカスにしました。
 白い花弁の質感が飛んでしまわないよう、花弁をスポット測光して露出を決めています。実際には全体的にもう少し明るい感じだったのですが、花の質感を残すためにはこれが限界といった感じです。

 いろいろな草の葉っぱが入り乱れており、雑然とした感じもしますが、そういところに咲いている状況を出したかったので、あまり整理しすぎないようにしました。

 ユウガギクによく似たノコンギクやカントウヨメナなども同じ時期に咲く仲間で、あちこちで見かけることができます。早朝、朝露に濡れた姿は趣があります。

エゾリンドウ

 秋の山を代表する多年草です。鮮やかな紫色の花色は遠目にもよく目立ちます。すっと伸びた茎はとてもスマートですが、大きめの頭がアンバランスな感じで、ちょっとユーモラスにも思えます。

 花屋さんで切り花として売っているのはこのエゾリンドウの栽培種らしいです。

 下の写真は山地の草原に咲くエゾリンドウです。

▲エゾリンドウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 標高が高いので草紅葉が始まっています。短い夏が過ぎ、秋も深まりつつある感じがする景色です。花の色が鮮やかなため、アップで撮ると華やかさが際立ちすぎてしまうので、草紅葉をいれて秋の寂しい感じが出るようにしました。
 花の密度が濃いところもあったのですが、あまりたくさん咲いているところよりもある程度の間隔をもって咲いている方が秋らしさが出ます。
 もう少し露出を切り詰めても良かったかもしれませんが、これ以上切り詰めると花の色が濁ってしまいます。エゾリンドウが咲いている風景として作画する場合はもっとアンダー気味が似合うと思います。

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 夏に咲く花と比べて秋に咲く花は色も地味目で、花の大きさも小型なものが多くなります。どことなくもの悲しさを感じることもありますが、それもまた秋に咲く花の魅力の一つだと思います。

(2021.10.12)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA #花の撮影

花を撮る(4) 夏の高原に咲く花

 梅雨が明けると日差しも強くなり、高原では花の数が一気に増えます。高原に咲く花はどちらかというと地味なものが多いですが、自然の中で力強く生きる美しさがあると思います。
 薔薇のような華やかさはありませんが、短い夏を懸命に生き、そして高原を彩ってくれる野草をご紹介したいと思います。

シシウド(獅子独活)

 夏の青空に花火のように咲くシシウドはかなり存在感があります。大きなものでは背丈が2m以上にもなりますが、セリの仲間だそうです。花には蜜が多いのか、たくさんのハチやハナアブがひっきりなしにやってきて、花の上はとても賑わっています。

 下の写真は大きなシシウドを青空に抜くアングルで撮影しました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 45mm 1:4 F8 1/60 PLフィルター PROVAI100F

 空を深い青にして花とのコントラストを高めるため、PLフィルターを使用しています。PLの効果を強くし過ぎるとペンキを塗ったようにベタッとした感じになってしまうので、半分くらいの強さにしています。
 また、夏の雰囲気を出すため、下の方に雲が湧いてくるのを待って撮りました。
 広角レンズを使っているのでパンフォーカスになりすぎないよう、できるだけ花に近づいて背景が少しボケるようにしました。
 ワンポイントで右下にニッコウキスゲを入れてみました。

 花の細部が飛ばないよう、露出は少しだけ切り詰めています。

シロバナニガナ(白花苦菜)

 黄色の花をつけるニガナの変種らしいですが、ニガナよりも少し大振りの花をつけます。といっても2cmほどしかありませんから、一円硬貨くらいの大きさです。母種となるニガナに比べると、見かける割合はぐっと少ないです。

 群落をつくってたくさんの花が咲いていることが多いのですが、一輪だけ開いている個体があったので撮ってみました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2,EX3 PROVIA100F

 花が小さいため、前後にゴチャゴチャしたものがあると花が埋もれてしまうので、望遠レンズに接写リングをつけて被写界深度をできるだけ浅くしています。
 背景が緑だけだと単調になってしまいますが、先端が赤くなった蕾がいくつかあって、これらが柔らかくボケてアクセントになってくれていると思います。

 針金のように細い茎はわずかの風でも揺れるので、風が止まった瞬間を狙ってシャッターを切ります。

ハクサンフウロ(白山風露)

 高原に咲く数ある花の中でも人気の高いのがこのハクサンフウロです。フウロソウの仲間には地名がついているものが多く、これも石川県の白山に多く見られることからつけられたようです。
 花の大きさは3cmほどで決して大きくありませんが、赤紫色の宝石をちりばめたように高原を彩ってくれます。

 朝露に濡れて輝いているところを撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/125 EX2,EX3 PROVIA100F

 写真の左側上方から朝日が差し込んでいて、逆光に近い状態です。バックにあまり光が当たらなく、暗く落ち込むアングルから撮りました。
 花弁はかなり輝度が高く、それに対して背景は暗いのですが、黒くなりすぎないように朝露がつくる玉ボケをできるだけたくさん入れるようにしました。
 朝日が当たると花弁についた朝露は瞬く間に消えてしまうので、時間との勝負です。

 この花は背丈が低いので、周囲の植物の葉に埋もれるように咲いています。上から撮ると周囲の葉っぱが邪魔になるので、花と同じくらいの高さまでカメラを下げたアングルで撮影すると、背景をシンプルにしやすくなります。

コオニユリ(小鬼百合)

 山地に行くと良く見かけるユリです。鮮やかなオレンジ色をした花をつけるので、とてもよく目立ちます。多年草なので、盗掘でもされない限りは毎年同じところで見ることができます。
 りん茎(いわゆる球根)は百合根といって食用にされるので、盗掘されることも多いようです。

 大きくなるとたくさんの花をつけますが、下の写真のコオニユリは一輪だけの花をつけていました。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 M-135mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 下向きに咲くのがユリの花の特徴ですが、うつむき加減に一輪だけ咲いている姿は何とも風情があります。スーッと伸びた茎の先端に花をつけた立ち姿がわかるように茎を長めに入れ、この花の咲いている環境もわかるように、ぼかした背景を多めに取り入れました。絞りすぎるとゴチャゴチャしてしまうので、絞りは開放です。

 この日は雨が降り出しそうな曇り空でしたが、ひっそりと咲くコオニユリには、このしっとりとした感じが似合っていると思います。
 雨に濡れたコオニユリも魅力的だと思い、雨が降らないかしばらく待っていましたが、残念ながらこの日は降りませんでした。

タチフウロ(立風露)

 ハクサンフウロと同じフウロソウの仲間ですが、背丈が50cmほどまで伸びます。薄紫色の花弁に赤紫の筋が目立ちます。ハクサンフウロのように群落をつくっているのは見たことがなく、数株がポツンぽつんと咲いているという感じです。
 背丈が大きいせいか、明るい日差しが似合う花だと思います。

 下の写真は、他の植物のかげに隠れるように一株だけ咲いていたタチフウロです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F5.6 1/125 EX3 PROVIA100F

 背景をぼかすため、望遠レンズに接写リングをつけての撮影です。被写界深度が浅いので、二輪の花にピントが合う角度から撮っています。
 強い光が当たらない方が花の柔らかさは出せるのですが、日当たりの良い草むらに咲いている雰囲気を出そうと思い、日差しがある状態で撮りました。

 写真だと、緑の中に薄紫色の花が咲いているので目立つように見えますが、実際には緑の中に溶け込んでしまっているといった感じで、注意して探さないと見過ごしてしまいます。

オトギリソウ(弟切草)

 山地などで比較的よく見ることができます。葉や茎は止血などの生薬になるらしく、この草を原料にした秘伝薬の秘密を弟が隣家の恋人に漏らしたため、兄が激怒して弟を切り殺したという悲しい言い伝えからつけられた名前だと言われています。
 花は1.5cmほどと小さく、一日花なので一つの花が咲いているのは一日だけですが、次々と花が開いてきます。

 草むらに咲いていることが多く、画作りには結構苦労します。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真も周りを背丈の高い植物に囲まれて一本だけが咲いていました。
 悲しい言い伝えがあるからというわけではありませんが、ちょっと陰のある感じにしようと思い、左右を他の植物の葉っぱで暗く落としながら、上方に青空を入れてトンネル効果を出してみました。
 そして、花に光が当たるところでシャッターを切りました。ミツバチだと思うのですが、ちょうど飛んできて花にとまってくれました。

 同じ光源下だと黄色はかなり輝度が高くなるので、飛んでしまわないように注意が必要ですが、露出がアンダーになると可憐な花の表情が台無しになってしまうので、露出設定には悩みます。この写真も花弁をスポット測光し、2/3段のプラス補正をしています。

コウリンカ(紅輪花)

 かつては良く見かけましたが、今ではレッドデータブック(レッドリスト)入りした絶滅危惧種になってしまいました。
 キク科の植物ですが、一般のキクに比べて頭花の数がとても少ないのでスカスカした感じがします。ですが、鮮やかなオレンジ色はとても印象的です。
 一般的には「紅輪花」と書くことが多いですが、「光輪花」と書くこともあるようです。

 背丈は50cmほどになり、草むらからは頭一つ飛び出しといった感じなので、撮影はし易い方だと思います。

 下の写真は、ちょうど見ごろを迎えたコウリンカです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 165mm 1:2.8 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 この花を撮るには背景との距離をできるだけ大きくとり、長めのレンズを使って前後を大きくぼかすのが良いと思います。花の色がとても鮮やかなので、背景が多少明るくても浮かび上がりますが、ゴチャゴチャしていると埋もれてしまいます。
 ときどき、群落をつくっていることもあるので、たくさんの花が咲いている光景も素晴らしいですが、数輪だけをクローズアップしてもお洒落な写真になると思います。

イブキトラノオ(伊吹虎の尾)

 日当たりの良い山地でよく見かける多年草です。試験管を洗うブラシのような恰好が特徴的です。ほぼ白色に近い極淡い紅色をした花で、非常に地味な存在です。1m近くまで伸びたたくさんの花穂が風にゆらゆらしている光景は少しばかり興味を引きますが、あまりシャッターを切ろうとは思いません。

 しかし、夕暮れになるとこの地味な花も少しばかり状況が変わってきます。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX M67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W8フィルター PROVIA100F

 上の写真は、二本のイブキトラノオを夕陽に重ねて撮影したものです。
 花の形状がシンプルがゆえに、シルエットになるとイブキトラノオの特徴が良く見えてきます。隣にニッコウキスゲとコバギボウシもシルエットになっています。

 この写真はW8色温度補正フィルターを使用して、夕暮れ時の雰囲気を出しています。
 中央下部にあるニッコウキスゲに軽くレフ板を当てて、花の色がわかるようにしても良かったかなと思っています。

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 夏の高原は魅力のある野草が素晴らしい環境の中で咲いており、被写体に困ることはありませんし、様々な撮り方をすることができるのも魅力の一つです。図鑑でしか見た事のない花に出会った時の喜びもひとしおですし、同じ花であっても会うたびに違う表情を見せてくれるので、何度でも行きたくなる場所です。
 8月も中旬になると、標高の高い場所では短い夏に終わりを告げ、秋の風が吹き始めます。ちょっと寂しが漂う秋の高原もいいものです。機会があれば秋の高原に咲く花も紹介したいと思います。

 (2021.7.28)

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