第42話 フジノン 大判レンズ FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 フジノンの大判カメラ用レンズの最終モデルとなってしまったCM Wideシリーズのうちの1本です。CM WideシリーズはWシリーズの後継モデルで、105mmから450mmまで10本がラインナップされていました。

レンズの主な仕様

 フィルターワークを容易にするために105mm~250mmまではアタッチメントサイズが67mmに統一されていました。W105mmのフィルターサイズは46mmでしたので、それと比べると前枠が大きく広がっており、図体はずいぶん大きくなったように感じます。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ174mm(f22)
   最大包括角度    : 78度
   最大適用画面寸法  : 4×5
   レンズ構成枚数   : 5群6枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ42mm
   フランジバック   : 103.4mm
   バックフォーカス  : 92.8mm
   全長        : 51.6mm
   重量        : 220g

 このレンズを4×5判で使った場合、画角は35mm判カメラでいうと30mmくらいのレンズに相当します。イメージサークルはΦ174mm(f22)で、W105mmのΦ162mmと比べると大きくなったとはいえ、シリーズの中では最も控えめな値です。
 前モデルのW105mmのイメージサークルはほとんど余裕がなく、4×5判で撮影する場合、フロントでのアオリは実質的に使えないという感じでしたが、こちらのレンズは若干の余裕があり、4×5判で横位置撮影の場合、フロントライズで約13mm、フロントシフトで約11mmが可能です。

富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ

 アタッチメントサイズが統一されたのは良いのですが、レンズボード面からレンズ先端までの長さ(高さ)にくらべて前枠径が大きいので、これが邪魔になってシャッター速度のリングが非常に回しにくくなってしまっていますし、刻印されたシャッター速度もとても見難くなってます(下の写真はレンズの下側から撮影したものなのでシャッター速度の目盛りが良く見えますが、レンズ上側からは非常に見難いです)。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 しかしながら、若干の使いにくさはあるものの、収差は全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も極めて高いレンズだと思います。
 富士フイルムのホームページにはフジノンの歴史エピソードとして次のように掲載されています。
 「1994年、FUJINONは大判カメラ用レンズの最新型となるCM FUJINONシリーズのラインナップ10本を完成させる。
1951年に、リリースされ始めたFUJINON大判カメラ用レンズは、40年の技術革新を経て完成を見たとも言える。それは、Professionalの求める”最高画質”の一つの到達点でもある。
今まで本連載でもとりあげたように、設計技術の進化があり、そして非球面レンズ、EDガラスレンズなどの新たな硝材の開発、コート技術の革新などが、絶え間なく繰り返されてきた。FUJINON大判カメラ用レンズの最終型に冠されたNamingは”CM”。それはCommercialを意味する。ProfessionalがProfessionalとしての報酬を得る業務、つまり”Commercial 写真の現場”で使用されるためのレンズ。」

 富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ、ということが感じられます。

CM Wide 105mmで撮影した作例

 上にも書いたようにイメージサークルは大きくないのであまり大きなアオリは使えませんが、ストレートに風景を写すには全く問題はありません。4×5判で使用すると対角画角が72度の広角レンズになりますが、風景を撮るには広すぎず、使い易い画角だと思います。アオリを使わなくても絞り込めば被写界深度は深くなりますし、絞りを開けば程よいボケも得られます。

 下の写真は、このレンズで冬の滝を撮ったものです。

魚止めの滝 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 手前の落ち葉もくっきりと写したかったので、F32まで絞り込み、わずかにフロントティルトのアオリをかけています。逆光での撮影ですがコントラストも良く出ていますし、画面の周辺部でも見事に解像していると思います。詳細はわかりませんが、CMシリーズになってレンズコーティング技術もかなり向上しているらしく(11層のコーティングがされているという話しもありますが、定かではありません)、その効果も大きいのかもしれません。

 この構図をもう少し離れたところから長めのレンズで撮ると、滝の力強さは増すと思うのですが広がりが希薄になってしまい、逆にもっと近づいてより広角で撮ると散漫になってしまうということで、ここではこのレンズの画角が最適という感じでした。

 手前の落ち葉のあたりを拡大したのが下の写真です。

魚止めの滝(部分拡大) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 画面ではうまくお伝え出来ないのが残念ですが、濡れた落ち葉の質感なども見事にとらえられており、このレンズの描写力の高さがわかるのではないかと思います。

 このレンズに限ったことではありませんが、こういう素晴らしい描写をする大判レンズが生産終了になってしまったのはやはり寂しく思います。

(2021.2.2)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

第41話 大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 35mm判カメラや中判カメラ用のレンズには「マクロレンズ」というカテゴリーがあり、ほとんどのメーカーから複数本のレンズが出ています。大判カメラ用にも近接用レンズがありますが、種類は少ないです。大判カメラでは蛇腹を繰出すことで、すべてのレンズがマクロレンズとして使えるといっても過言ではありません。
 もちろん、35mm判カメラや中判カメラのレンズでもベローズや接写リングをかませることで近接撮影ができますが、遠距離にピントが合わなくなってしまいます。

レンズの最短撮影距離

 マクロレンズの定義は明確に決まっていないようですが、被写体に近づいて撮影でき、概ね、1/2倍以上の倍率で撮影できるレンズを一般的にはマクロレンズと呼んでいるようです。
 これに対して、マクロの名がついていない普通のレンズは被写体に極端に近づくことはできず、最短撮影距離はレンズの焦点距離の10倍くらいのものが多いのではないかと思います。焦点距離が50mmのレンズであれば50cm前後、100mmのレンズであれば1m前後といった感じです。当然、撮影倍率も自ずと限界があります。

 一方、大判カメラはレンズの種類に関係なく、蛇腹の許す範囲までレンズを繰出すことができます。

  

 何故、一般のレンズが焦点距離の10倍くらいを最短撮影距離にしているかというと、多分、画質の低下が顕著にならない距離であることと、それくらいの距離までは露出補正をしなくても影響がないことが理由かと思われます。
 カメラのレンズは無限遠にピントを合わせた時がレンズと撮像面の距離が最短になり、より近くの被写体にピントを合わせるためにはレンズを繰出す必要があります。その結果、レンズと撮像面の距離が長くなり、撮像面に入る光の量が減少してしまうため、露出を多めにしなければならなくなります(下図を参照)。

 上の図のように、レンズと撮像面の距離が長くなればなるほど撮像面に入る光の量が減少するのがわかります。例えば、レンズと撮像面の距離が2倍になるとレンズからの光が描く円の直径も2倍になるため、この円の面積は4倍になります。すなわち、撮像面に入る光の量が1/4に減少してしまうことになります。したがって、適正露出にするためには露出を4倍にする必要があります(絞りで2段開く、もしくはシャッター速度を2段分遅くする)。

撮影距離とレンズ繰出し量の計算

 近い被写体にピントを合わせる際、レンズをどれだけ繰出さなければならないかを計算で求めることができます。
 レンズから被写体までの距離をa、レンズから撮像面までの距離をb、レンズの焦点距離をfとしたとき、これらの間には下のような式が成り立ちます。

  1/a + 1/b = 1/f

 手元に「フジノンCM Wide 105mm 1:5.6」という大判カメラ用のレンズがありますので、このレンズで焦点距離の10倍にあたる1050mmに位置する被写体を撮影することを想定してみます。
 上の式に、被写体までの距離 a=1050mm、レンズの焦点距離 f=105mmを当てはめてレンズと撮像面の距離 bを計算すると、

  1/b = 1/f - 1/a
     = 1/105 - 1/1050
     = 9/1050
 
 よって、b = 116.7mm となります。
 すなわち、無限遠にピントを合わせた状態(105mm)から11.7mm、繰出すことになります。

 では、実際にレンズがどれくらい繰出されるかということで、フジノンCM Wide 105mmのレンズで実測してみました。
 無限遠にピントを合わせた時のシャッター位置から撮像面までの長さは104mmでした。ここから、焦点距離の10倍となる1050mm先の被写体にピントを合わせ、同じようにシャッター位置から撮像面までの長さを測ったところ、115mmでした。すなわち、レンズの繰出し量は11mmということです。
 上の計算式で求めた値と若干の差がありますが、実測値の測定精度はあまり高くないと思われますので、以後は理論値を使って話を進めます。

レンズを繰出すことによる露出補正値を求める

 しかしながら、たとえ11.7mmと言えどもレンズから撮像面までの距離が長くなれば、撮像面に入る光の量が減少するのは上の図からも明らかです。では、実際にどれくらいの影響があるのかを計算してみます。

 レンズを繰出すことによる露出補正量は下の式で求められます。レンズ繰出し量とは撮像面からレンズまでの距離をいいます。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 この式に、レンズ繰出し量の116.7mmとレンズ焦点距離の105mmをあてはめてみます。

  露出補正倍数 = (116.7/105) ^ 2
         = 1.235

 となり、レンズを無限遠の状態からさらに11.7mm繰出すことで、1.235倍の露出補正が必要ということになります。

 1.235倍という補正量を絞り値にあてはめると、√1.235 = 1.111 ですので、

  5.6 * 1.111 = 6.222 となります。

 よって、フジノンCM Wide 105mm 開放f値5.6のレンズが、116.7mmまで繰出されることで実効f値が6.2になるということを意味します。これは、絞りでおよそ1/4段に相当します。

 また、レンズの焦点距離、有効径、そして開放f値には以下の関係式が成り立ちます。

  開放f値 = 焦点距離/有効径

 この式にフジノンCM Wide 105mm の値をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  有効径 = 105mm/5.6
      = 18.75mm となります。

 この有効径で116.7mmまで繰出した場合の実効f値は、

  実効f値 = 116.7mm/18.75mm
       = 6.22

 となり、上で計算した値とほぼ同じになり、実態が正しいことがわかります。

 これらのことから、1/4段程度であれば露出補正を必要としない許容範囲内という判断がされ、一般的なレンズの最短撮影距離が焦点距離の10倍前後になっているのではないかと思われます。
 1/4段を大きいとみるか小さいとみるかは意見の分かれるところかもしれませんが、一般的な一眼レフカメラなどに備わっている露出補正は1/2ステップ、もしくは1/3ステップであり、これに比べて50~75%の値ですから、許容範囲と言っても差し支えないのではないかと思います。

 最近のカメラではレンズから入ってきた光を測定して露出を決めているので、レンズの実効f値が暗くなったところで何ら気にすることはありませんが、大判カメラなどのように自動露出計が内蔵されていない場合はそういうわけにいきません。上の検証結果から分かるように、レンズの焦点距離の10倍より遠い距離にある被写体を撮影する場合は特に補正なしで問題ありませんが、それより近い被写体を撮影する場合は、実際のレンズの繰出し量を測定して露出補正値を計算しなければならず、面倒であることは間違いありません。

 繰り返しになりますが近接撮影をする場合は、レンズ繰出し量と焦点距離を下の式に当てはめて、露出補正量を計算します。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 実際にレンズ繰出し量によってどの程度の露出補正が必要になるか、焦点距離105mmのレンズについて計算して表にしてみました。レンズ繰出し量は、レンズから撮像面までの距離になります。

 大判カメラ用のレンズはどれもがマクロレンズとして使用できますが、露出補正というひと手間を加えなければならないということです。
 前置きが長くなってしまいましたが、次回は撮影倍率と実際の撮影について触れたいと思います。

(2021年1月31日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #露出

第40話 大判カメラのアオリ(2) フロントフォール

 前回はフロントライズ(レンズを上に移動する)のアオリについて触れましたが、今回はレンズを下に移動する「フロントフォール」のアオリについてです。

ベッドダウンによるフロントフォール

 フロントフォールはフロントライズに比べて仕様頻度が少なく、それが理由かどうかわかりませんが、フィールドカメラには単一の操作ではフロントフォールができないカメラも見受けられます。
 代表的なフィールドカメラの一つであるトヨフィールドは、前枠(レンズ部)単独で下方に23mmの移動(フォール)ができますが、リンホフマスターテヒニカなどはニュートラルで前枠が最下部にありますので、フロントフォールするためにはベッドダウンをしたうえで、レンズ部を少し後ろに傾ける操作(フロントティルト)をしなければなりません。

 リンホフマスターテヒニカをフロントフォールした状態が下の写真です。

ベッドダウンによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンは本体との接合部分を支点に下に回転運動をしますので、下におろした角度と同じだけ、レンズを反対方向(後方)に傾けることで、レンズ面と撮像面(フィルム)の平行が保たれ、フロントフォールが実現します。
 ただし、リンホフマスターテヒニカ45のベッドダウンは15度と30度の二通りしかできませんので、現実的にはかなり自由度が制限されたアオリということになってしまいます。

ティルトによるフロントフォール

 そこで、もっと自由度の高いフォールをするために、ベッドダウンを使わずにレンズ部とバック部をそれぞれ傾ける(フロントティルト、バックティルト)ことでフロントフォールと同じ状態にすることができます。
 下の写真でもわかるように、カメラを下に傾けた角度と同じだけ、レンズ部とバック部を後方に傾けます。

フロント、およびバックティルトによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンする方法に比べて、カメラの可動範囲内であれば任意の角度で設定できるため、アオリの自由度は高くなります。

 さて、このアオリですが、フロントライズは見上げた時に上方が窄まってしまうのを修正するのに対し、見下ろした(俯瞰)ときに上方が広がってしまうのを修正するために用いるのが多いのではないかと思います。例えば、高いビルから隣のビルを撮影するとビルの下の方が窄まり、上の方が広がって写ってしまいますが、これを修正する場合などです。

フロントフォールの効果

 しかしながら、上でも書いたようにこのアオリを使う頻度は高くありません。実際にこのアオリを使って撮影した適当な事例が手元にないため、テーブルフォト的にスプレー缶を撮ってみました。
 下の写真が普通に上から俯瞰して撮影したもの、その下の写真が同じ位置からフロントフォールして撮影したものです。窓際の自然光で撮影したために2枚の写真の光の状態が違い、色合いが若干異なってますが気にしないでください。

▲アオリなしの俯瞰撮影

▲フロントフォールのアオリを使用した撮影

 フロントフォールすることで被写体とレンズ面、フィルム面がほぼ平行になりますので、スプレー缶の下から上までがほぼ同じ太さになってます。
 また、この写真ではよくわからないですが、俯瞰撮影した場合のピント面はスプレー缶を斜めに切る位置になりますが、フロントフォールした場合のピント面はスプレー缶の垂直面と平行になりますから、同じ絞りでもピントの合う範囲が広くなります。

 ブツ撮りなどで被写体の形が変わってしまうのを好まない場合には効果的かと思いますが、被写体が高層ビルの場合、上方が広がっていたほうがビルの高さが感じられるという見方もあるかもしれません。また、自然風景で俯瞰撮影する場合でも、上方が広がるのを修正しなければならない必要性を感じることはあまりありません。そういう意味でも私にとっては、このアオリを使うことは稀です。

 フロントライズでイメージサークルについて触れましたが、このアオリについても同様で、フォールできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。

(2021.1.24)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第36話 大判カメラのアオリ(1) フロントライズ

 大判カメラの特徴は大きな面積のフィルムで撮影できることですが、加えて様々なアオリを使うことができるというのも大きな特徴です。
 35mm判の一眼レフなどの一般的なカメラの多くはフィルム面とレンズ面が固定されていますが、大判カメラはこれらを自由に動かすことができる構造になっています。それによって、あえて光軸をずらすことで様々な撮影をすることが可能になるわけですが、これを総じてアオリと呼んでいます。

アオリに関するカメラ各部の名称

 大判カメラには大きく分けてスタジオなどで使われることが多いビューカメラと、フィールド撮影に適したテクニカルカメラ(フィールドカメラ)がありますが、ここではテクニカルカメラに焦点を絞って説明します。
 アオリの説明の前に、テクニカルカメラの各部の名称について触れておきます。下の写真はリンホフマスターテヒニカ45の写真と各部の名称です。アオリの説明に必要な部分のみを示しています。異なる名称を使われている方もいらっしゃるかと思いますが、そのあたりは大目に見てください。

大判カメラ(テクニカルカメラ)の各部の名称

 それでは、今回は「フロントライズ」のアオリについてです。

フロントライズとはこんなアオリ

 フロントライズとはレンズを上に移動させるアオリのことで、フィルムとレンズが平行の状態を保ったまま、フィルムとレンズの中心をずらします。
 実際にレンズをライズすると下の写真のような状態になります。

フロントライズした状態

 このアオリの目的ですが、例えばビルなどの高い建物を下から見上げる状態で撮影すると上が窄まって(すぼまって)写ってしまいますが、これを修正するときなどに使われることが多いのではないかと思います。
 何故、下から見上げた状態で写すと上が窄まってしまうのか、その理由について簡単に触れておきます。
 下の図でわかると思いますが、垂直に立ったものを斜めになった面に投影すると、高い位置のものほど間隔が狭まってしまいます。これが、上が窄まって写ってしまう原因です。

 これを防ぐにはレンズの光軸を水平に、すなわち、投影面(フィルム)を垂直に立ったビルなどと平行に保つ必要があります(下の図)。

 ただし、この状態だと上の方(高い位置)が投影面(フィルム)からはみ出してしまいます。
 そこで、平行を保ったまま、レンズだけを上に移動させると上の方も投影面に納まることになります(あくまでもライズ量に制約がないという前提に基づいてですが)。これがフロントライズのふるまいです。

 実際にライズできる量(レンズの移動量)はカメラによって異なりますが、テクニカルカメラの場合、一般的には50mm前後が多いようです。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ45の場合は55mmです。
 また、カメラの可動範囲内であっても、レンズのイメージサークルを越えてしまうとケラレが発生してしまいますので注意が必要です。

イメージサークルについて

 ここで、イメージサークルについて簡単に触れておきます。
 イメージサークルとは、レンズに入ってきた光によって結像する円形の範囲のことで、この範囲内であれば鮮明な像が得られますが、この外側は暗くなってしまい結像しません。また、この鮮明に結像する範囲を、レンズ中心から見た時の角度を「包括角度」といいますが、これらの関係を下の図にしてみました。

 包括角度が大きければ当然イメージサークルも大きくなりますが、イメージサークルはレンズと撮像面(フィルム)との距離やレンズの絞りによって変化しますので、レンズの絞りをF22、無限遠にピントを合わせた時の円の直径で表現されることが一般的です。

 下の図はカメラをフロントライズした際のイメージサークルの状態を表したものです。

 アオリのないニュートラルな状態ではイメージサークルの中心に撮像面(フィルム)がありますが、レンズを移動させるとともにイメージサークルと撮像面の相対位置も移動します。イメージサークル内であれば問題ありませんが、この範囲を超えるとケラレが発生してしまいます。
 カメラが大きな可動範囲を持っていたとしても、レンズのイメージサークルが小さいと可動範囲を活かしきれません。ライズできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。
 また、上の図からもわかるように、無限遠の時のイメージサークルが最も小さく、近接撮影になるほどレンズが繰出されるのでレンズとフィルムの距離が長くなり、イメージサークルは大きくなります。

 このように、フロントライズを制約する要因がいくつかありますので、それらを把握しておくことで様々な撮影のシチュエーションの際にも迷うことは避けられると思います。

フロントライズを使った作例

 実際にフロントライズを使用して撮影した例が下の写真です。1枚目がアオリなし、2枚目がフロントライズのアオリを使って撮ってます。

尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F
尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F フロントライズ

 2枚の撮影位置は若干違いますが、灯台までの距離はほぼ同じです。2枚目の写真は灯台が手前側に起き上がってきているような感じで、高さが強調できていると思います。
 ここで使用したレンズ(FUJINON W125mm)のイメージサークルは198mmで、ライズ可能量は約29mmですが、実際に使用したライズ量は23mmくらいです。 

蛇足ながら...

 前の方でも書いたように、このアオリは建築物などの撮影で使われることが多いと思いますが、風景撮影においても、例えば木をまっすぐに立たせたいとか、滝の上部を窄ませずに迫力を出したいとか、使用する場面は結構あります。
 ただし、広角や超広角レンズはイメージサークルが決して大きくないので、アオリの量も自ずと限界があります。
 また、フロントライズは使いすぎると不自然になることもあります。建築物の撮影での使用頻度が高いと触れましたが、高層ビルや五重塔などを比較的近い距離から撮影する場合とか、不動産の広告写真などで使用するというような目的があれば別ですが、一般の撮影でライズをかけすぎると頭でっかちに見えてしまい、かえって違和感を感じます。肉眼で見ても遠くにあるものは小さく見えるわけですから、あまり不自然にならない程度にかけるのが望ましいと思います。

 なお、私は超広角レンズを使う際に、カメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐ目的で若干のフロントライズをすることがありますが、これは本来のアオリの使い方ではありません。念のため、つけ加えておきます。

(2021.1.9)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第35話 大判カメラ用の袋型ピントグラスフード

 大判カメラでのピント合わせは、カメラ後部についているピントグラス(フォーカシングスクリーン)で行ないます。この時、ピントグラスを暗くしないと像が見にくいので、多くの場合、冠布(カンプ)を頭からすっぽりとかぶり、周囲からの光を遮断して行ないます。光を通さないように2枚の布を張り合わせた大き目な風呂敷のようなもので、単純がゆえに自由度が高くて便利ではありますが、特に夏場は暑くて大変です。
 カメラにもちょっとしたフードがついていますが、小さいので遮光効果は十分とは言えず、特に順光での撮影時には後方からもろに光が入り込んできますので、ほとんど役に立ちません。

 そこで、ピントグラス全体を覆うことのできる袋型のフードを作ってみました。

袋型ピントグラスフード(リンホフマスターテヒニカに取付け)

 光を通さない黒い布(今回はナップサックに使われるようなナイロン素材を使用)を、カメラがちょうど入るくらいの筒状(直径28cmくらい)にします。一方の端はゴムひもが通るように加工し、ここにゴムひもを通して少し絞っておきます。これをぎゅっと広げて、カメラに被せることになります。

袋型フード(カメラ取付側)

 もう一方の端は、55mm径のレンズ用の金属製フード(長さが20mmほど)を用意し、この外周に巻き付けます。こうすると全体がボールのような袋状になります。

袋型フードのルーペ取付け側(レンズフード使用)

 次に、このレンズフードにはめ込むルーペを作ります。私は55mm径のNo.3クローズアップレンズを使用しましたが、No.5とかを使えばルーペの倍率を高くすることができます。そして、クローズアップレンズの前側にステップアップリングをはめ込みます(私は55-67のステップアップリングを使用しました)。
 これを先ほどのレンズフードにはめ込めばルーペになるのですが、このままだと若干緩くてするっと抜けてしまいます。そのため、クローズアップレンズの外周にパーマセルテープを巻き、ちょうど入るくらいの太さにします。

フードにはめるルーペ(クローズアップレンズ+ステップアップリング)

 こうしてできたフードはこんな感じになります。

袋型フード

 これを大判カメラに取付ければ、ピントグラスに当たる光をほぼ遮断することができます。
 ルーペ(クローズアップレンズ)を外した状態だとピントグラス全体を見ることができるので構図の確認がし易く、また、ルーペをはめるとピントの確認がし易くなります。

 ただし、正確なピント合わせはこのフードを外して、倍率の高いルーペで行なう必要があると思います。

 なお、今回作成した袋型フードの長さは約20cmですが、私の場合、若干老眼が来ているために、これ以上短くするとぼやけてしまいます。ですので、このフードの長さは目の状態に合わせて、いちばん使い易い長さにするのが良いと思います。

 実際に使用した感想ですが、遮光に関しては合格点だと思います。冠布を使っても下側からの光が入りやすいのですが、このフードは全方位遮光してくれます。それと、広角レンズや超広角レンズを使った撮影の際、ピントグラス周辺ではとても像が見にくいのですが、この袋状フードだと斜めからピントグラスを覗き込むことができるので、像が見やすくなります。また、非常に軽いですし、折りたためば小さくなるので持ち運びにも便利です。
 一方、正確なピント合わせはこのフードを外して行なわなければなりません。その点、冠布は構図確認から正確なピント合わせまですべてこれをかぶった状態で出来ますので、やはり冠布に勝るものはないといったところでしょう。

 しかし、撮影状況によっては冠布を使っても漏れてくる光で像が見にくく、それが結構なストレスになったりもしますので、それを回避してくれるという点ではこのフードを使う価値があるように思います。着けたり外したりが面倒かも知れませんが、あると便利かもしれません。

 余談ですが、冠布は片面が黒、もう片面が赤とか銀色をしています。銀色の理由は日差しを反射して少しでも暑さを防ぐためらしいですが、赤い理由は、森の中でクマなどと間違えられて猟銃で撃たれないようにということのようです。私が使っている冠布は片面が銀色のタイプですが、銃で撃たれるのは怖いので赤いタイプに変えようかなと思ってます。

(2021.1.2)

#撮影小道具 #フレーミング #フード

第27話 シートフィルムをフィルムホルダーに装填する際のミス防止

 大判カメラで撮影する場合は、まずシートフィルムを専用のフィルムホルダーに装填しなければなりません。この装填の仕方についてはたくさんの方が投稿されていらっしゃいますので、そちらを見ていただいた方が良いと思います。ここでは装填時のミスを防ぐちょっとしたコツのようなものをご紹介します。

シートフィルム挿入時に発生しやすいミス

 シートフィルムを装填するのは真っ暗闇で行なわなければなりません。暗室がいちばん作業しやすいのですが、暗室がない場合はダークバッグやダークボックスの中で行なうことになります。私も家でフィルムの装填をおこなうときは暗室にこもりますが、撮影先でフィルムが不足した時は暗室がありませんので、ダークバッグを使います。ダークバッグは中が狭くて、決して作業性が良いとは言えませんが仕方ありません。

 シートフィルムの装填は慣れてしまえばどうってことないですが、慣れないうちはミスってしまうこともあります。多分、いちばん多いミスはフィルムホルダーの引き蓋用のスリットに入ってしまうことではないかと思います。フィルムの表裏を間違えるというミスも可能性としてはゼロではありませんが、右側から挿入する場合はフィルムについているノッチコードを右手前に来るように確認さえすれば、表裏が逆になることはまずありません。
 ということで、フィルムが正しくない位置に入ってしまうミスの防止について触れたいと思います。

フィルムホルダーの構造

 下の写真は4×5判フィルムホルダーの全景(写真左)と、ホルダーの引き蓋を引いた状態(写真右)です。

4×5判 フィルムホルダー

 ここにシートフィルムを1枚ずつ入れていくわけですが、挿入する箇所を拡大したのが下の写真です。

4×5判 フィルムホルダー

 引き蓋を引くとレールのようなものが2本あることがわかります。上側のレール(黄色の矢印)と下側のレール(赤色の矢印)です。上側のレールと下側のレールの間のスリット(溝)は引き蓋が通るところで、フィルムは下側のレールの下のスリットに入れなければなりません。
 ところが、引き蓋が通るスリットにフィルムが入ってしまうことがあります。そうなるとフィルムが浮いた状態になりますので、どんなにピントを合わせても実際に撮影するとピントがずれた写真になってしまいます。また、最悪の場合、撮影後に引き蓋を挿入するときに引き蓋でフィルムが押されて、フィルムが折れ曲がってしまうという事態になりかねません。

フィルムを正しい位置に入れるために

 フィルムが正しい位置に入った状態(写真左)と、引き蓋が通る溝に入ってしまった状態(写真右)が下の写真です。

4×5判 フィルムホルダー フィルムの挿入位置

 正しい位置に入ったかどうか確認するために、挿入後に指でこの2本のレールを触ってみるという方法があります。上側と下側のレール端が5mm程ずれていますので、2つのレールの端が確認できれば、フィルムが正しい位置に入っていることになります。
 また、もし引き蓋が通るスリットに入ってしまっている状態で引き蓋を閉めると、引き蓋の動きが重くなるので、注意しているとわかります。

 ですが、そもそも引き蓋が通るスリットに入らないようにするのが理想です。そのために、引き蓋を全部引き抜てしまうのではなく、下側のレールと同じくらいの位置まで開いた状態でフィルムを挿入することで、このミスを防ぐことができます(下の写真)。

4×5判 フィルムホルダー

 赤色の矢印が下側のレールの端で、これと同じくらいの位置で引き蓋を止めておきます。この状態だと、引き蓋が通るスリットに入れる方が至難の業です。
 真っ暗闇の中、手探りでこの状態にするのが難しい場合は、暗室やダークバックに入れる前にこの状態にしておきます。

 フィルムが正しい位置に入ると、フィルムの後端を指で軽く押すだけでスーッと入っていきます。もし、引っかかるような感触があったり動きが重いようであれば、正しくない場所に入っている可能性が高いので、再度入れ直しを行なった方が無難です。

 なお、フィルムホルダーを振り回したり強く振ったりすることなく、普通に扱っていれば引き蓋が勝手に抜けてしまうようなことは起こりませんが、もし心配な場合はマスキングテープとかパーマセルテープで止めておけば振り回しても安心です。

(2020.11.26)

#フィルムホルダー

第25話 八方ヶ原(栃木県)で紅葉と渓谷の撮影(後編)

 八方ヶ原での撮影の2日目です。風も少なく、穏やかな秋晴れが続いています。2日目はもう少し標高の高いところでの撮影です。

おしらじの滝

 まずは「おしらじの滝」からスタートです。矢板から塩原に抜ける八方道路(県道56号)をひたすら進むと、登り切ったあたりに駐車場があります。駐車場の脇から滝に下る登山道のような道がついていますので、ここを下っていきます。あちこちぬかるんでいて歩きやすいとは言えませんが、急なところには柵も設置されています。最近設置されたようで、遊歩道の整備を進めているのかもしれません。

 10分ほど下ると滝の正面に到着します。以前は滝つぼまで降りて行かれたようですが、現在は立ち入り禁止になっており、4~5人も立てばいっぱいになりそうな狭い観瀑台から見るしかありません。必然的に撮影のアングルもほぼ固定されてしまいます。
 水が枯れてしまって滝が消滅してしまうことも多いらしいのですが、この日はまずまずの水量が流れ落ちていました。

おしらじの滝  Linhof Mastertechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6
                     F22 6s PROVIA100F

 それにしても美しい滝です。豪快な音を立てて落ちる迫力のある滝も見事ですが、それとは対極にあるような優美な滝です。私が今までに見た中でも、3本の指に入るくらいの優美な滝ではないかと思います。吸い込まれるような深い色をした静かな滝つぼに滝が映り込んでおり、優美さを一層引き立てている感じです。陽が差し込むと滝つぼはターコイズブルーのような美しい色に輝くようですが、残念ながら早朝なので滝つぼには光が差し込んでおらず、奇跡の色を見ることはできませんでした。
 もう少し露光時間を長くして、水面に浮いている葉っぱの動く軌跡を写し込んだ方が良かったかもしれません。

 1時間ほど撮影をしていましたが、その間、訪れる人は一人もおらず、気兼ねなく撮影をすることができました。とても狭い場所なので、他に滝を見に来たり撮影しに来た方がいらっしゃると、三脚立ててゆっくり撮影というわけにはいきません。日中になると訪れる人も増えると思います。
 撮影を終えて駐車場に向かいますが、戻りは重い機材を担いで急な坂を上っていかなければならないので少々しんどいです。

鹿の股沢風景林で紅葉の撮影

 さて、次はスッカン沢に向かいます。この先、道路は下りになり、間もなく那須塩原市に入ります。紅葉真っ盛りといった感じで、ハッと目を引くような黄紅葉があちこちにあります。このあたり一帯は、「鹿の股沢風景林」と呼ばれており、美しい落葉樹の林が続いています。ちょっと寄り道して、この風景林の中で撮影していくことにしました。林の中に分け入っていくと、車道からでは見ることのできない発見があります。
 下の写真は林の中で偶然見つけた紅葉です。ハウチワカエデではないかと思われます。周囲はすでに落葉している木が多く、そのため、紅葉がひときわ輝いている感じです。

ハウチワカエデ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/8 Velvia50

 写真でもわかると思いますが、この林の中に入るとこのような感じでたくさんの木があって見通しがききません。撮影をしているうちに方角がわからなくなり、どちらを向いても同じような景色で迷ってしまうこともありますので、出口までの目印を決めておいたほうが無難です。
 この風景林、初めて入り込んでみましたが、とても魅力的な場所です。新緑の季節もさぞかし美しいのではないかと思います。

スッカン沢 遊歩道修復工事中

 スッカン沢も紅葉の最盛期でしたが、昨年(令和元年)の台風19号で被害を受けた遊歩道の改修工事中のため、沢に降りることができません(現在は解除されているようです)。スッカン沢には「雄飛の滝」や「仁三郎の滝」など、見ごたえのある滝がたくさんあるのですが残念です。
 せっかくなので沢を見下ろす雄飛橋から1枚撮影してみました。まだ沢に陽が回り込んできていないので、若干色かぶりしていますが、右端の紅一点のモミジがとても映えていると思います。

スッカン沢  Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6
                    F32 4s PROVIA100F

 スッカン沢を下りながら撮影する予定でしたが工事中のためそういうわけにもいかず、予定を変更してもう少し那須塩原方面に向かうことにしました。下調べをしっかりしておかないとだめですね。

カエデの紅葉が真っ盛り

 県道56号線は塩原方面に向けて上りになります。スッカン沢から北寄りの山は紅い色(紅葉)が多いように感じます。紅葉はどれも美しいですが、やはり何といってもカエデの紅葉は第一級だと思います。カエデの紅葉を見つけるとシャッターを切りたくなってしまいます。
 下の写真はヤマモミジかオオモミジのどちらかではないかと思うのですが、炎のような色が印象的で撮った一枚です。

ヤマモミジ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F8 1/60 Velvia50

 こういった光景は晴れた日でなければ撮れませんが、個人的には燃え立つような紅葉よりも、どちらかというとしっとりとした紅葉のほうが好きです。しかし、紅葉と青空の組み合わせは何とも言えない爽快感がありますし、何といっても秋の清々しい空気を感じます。

 今回掲載した写真のうち、2枚目と4枚目はVelvia50で撮影したものです。やはり、このフィルムの発色には派手さがあります。この派手さも、鮮やかな紅葉を写し取るには向いているのかもしれません。

 北関東以北の紅葉の時期はほぼ終わってしまいましたが、東京近郊の紅葉はこれからです。寒い地方の紅葉と比べると東京のそれは鮮やかさでとてもかないませんが、美しい紅葉に出会えることを期待したいです。
 

(2020.11.21)

#八方ヶ原 #渓流渓谷 #紅葉 #リバーサルフィルム

第24話 八方ヶ原(栃木県)で紅葉と渓谷の撮影(前編)

 10月も中旬を過ぎてから秋の進み方が例年に比べて早まった感じがします。今年は台風の上陸も少なかったため、紅葉が綺麗ではないかといわれていますので、紅葉が見ごろを迎えている栃木県の八方ヶ原に行ってきました。

宮川渓谷 傾聴の滝

 初日は八方ヶ原の入り口、県民の森のある宮川渓谷での撮影です。東北自動車道の矢板ICから30分ほどで県民の森駐車場に到着。広い駐車場が完備されていますが、早朝のせいか車は1台もありません。このすぐわきに宮川が流れており、ここを起点に川に沿って上流と下流にそれぞれ遊歩道が整備されています。まずはここで渓谷や滝を撮っていきます。

 上流に向かう遊歩道を歩くと間もなく「傾聴の滝」が見えてきますが、滝の上部に出てしまい全容が見えません。全体を見るためには川の反対側(右岸)に行かなければならないようです。少し引き返して橋を渡って右岸側に行き、上流に向かって歩くと滝つぼまで降りていくことができます。ここは宮川渓谷の中でも人気の撮影ポイントらしいです。

 ということで、下の写真が傾聴の滝です。

傾聴の滝  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 4s Horseman612 PROVIA100F

 落差は3mほどでそれほど大きな滝ではありませんが、滝に比べて滝つぼがとても広い印象です。そして、とても穏やかな滝つぼです。滝つぼ全体を入れると滝がずいぶん小さく感じられてしまうので、612ホルダーでパノラマ撮影しました。早朝ということもありますが周囲を大きな木が覆っているため、滝つぼはかなり薄暗いです。水面に滝の向こうにある木々の黄葉を映したかったのですが、かろうじて黄色く見えてるといった感じですね。新緑の頃は水面に緑が映り込み、とても美しいのではないかと思います。

色づき始めた宮川渓谷を大判カメラで

 さらに上流に向かうと、岩の間を蛇行する優美な流れが続いています。水量は多くありませんので激しさとか力強さというよりは、整った渓谷美という表現が適切かもしれません。
 中でもいちばん渓谷美を感じた場所から撮ったのが下の写真です。

宮川渓谷  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6
                   F32 4s PROVIA100F

 この辺りは標高があまり高くないので紅葉もようやく色づき始めたところですが、緑と黄色のグラデーションも綺麗なものです。手前の岩から奥の木々までパンフォーカスにしたかったので、レンズを少しティルトしています。また、苔むす岩のしっとり感を出すために若干アンダー気味の露出設定にしています。

 ゆっくり撮影しながら2時間ほどで上流側の遊歩道の終点になります。ここで折り返して下流に向かいます。
 上流側は流れが穏やかでしたが、傾聴の滝からさらに下流にいくと流れも若干急になり、創造の滝、反省の滝、五条の滝のほかに名もない小さな滝がたくさん見られます。それにしてもこの渓谷の滝にはユニークな名前がつけられているものです。

赤滝 水辺景観10選

 午前中で宮川渓谷での撮影を切り上げ、中川にある「赤滝」に向かいました。林道赤滝線に入りましたが、滝の入り口がわかりません。途中から工事のため通行止めでしたので歩いていたところ、人ひとりが通れるくらいのガードレールの切れ目があり、「水辺景観10選 赤滝」と書かれた小さな看板が立っていました。車では気づかずに通り過ぎてしまいそうです。
 ここから狭くて急な道を降りていくと赤滝の正面に出ることができます。

 滝から下流は大きな岩がごろごろしており、足場は極めてよろしくありません。三脚を立てるのも一苦労といった感じです。

 滝の下の方の岩が赤いことから「赤滝」と呼ばれているようです。修験者の滝行にも使われているとのことですが、確かにそんな雰囲気が漂っています。水量はさほど多くありませんが落差は10mほどあるので、滝に打たれたら結構痛そうです。
 滝の美しさと周囲の険しい環境を表現できればと思い、撮影した一枚です。手前の岩を強調するため、カメラのバック部であおっています。

赤滝  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 2s PROVIA100F

 撮影しているときは全く気がつかなかったのですが、画の下側中央左寄りにある手前から2つ目の大きな岩に何やら文字のような絵のようなものが彫られています。フィルムスキャンした画像をパソコンで確認しているときに見つけましたが、何と書いてあるのか読めません。別のところにあったものが崩れてきたのか、それともここにあった岩に彫ったのかわかりませんが、いずれにしても霊験神秘な感じがします。

岩に刻まれた文字? 絵?

 なお、この滝のさらに下流には赤滝鉱泉という秘湯一軒宿があるらしいです。江戸時代から続く湯治場とのことで、次回は訪れてみたいと思います。

小さな秋があちこちに

 赤滝の撮影を終え、中川沿いを歩いてみましたが、この辺りまで来ると紅葉もだいぶ進んでいます。色づいた木の実もあちこちで見られたり、足元にはリンドウが咲いていたり、滝や渓谷とは違った小さな秋を撮ることができました。被写体は豊富で、いつまで撮っていても飽きることがありません。
 下の写真はガマズミだと思われます。葉はすっかり落ちていますが、真っ赤に色づいた実が輝いていました。もう少し寒くなって霜が降りる頃になると白い粉をふいて甘くなると思うのですが、まだ早いようです。

ガマズミ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX-M 300mm 1:4 F4 1/30 EX-Tube PROVIA100F

 後編に続きます。

(2020.11.17)

#八方ヶ原 #渓流渓谷 #紅葉 #リバーサルフィルム

第23話 フジノン 大判レンズ FUJINON SWD 1:5.6/75

 フジノンの大判用レンズです。SWD(Super Wide Delux)シリーズは65mm、75mm、90mmの3種類が発売されており、これはそのうちの一つです(もちろん、すでに販売終了になっていますが)。

レンズの主な仕様

 4×5判で使用した場合、35mm判に換算すると21mmくらいのレンズの画角になりますので、超広角に分類されるレンズです。最大包括角度は105度、イメージサークルは196mm(f22)あり、キャビネ判まで対応していますが決してゆとりがあるというわけではありません。横位置撮影の際のライズ可能範囲は26mmほどで、大きなアオリを使おうとするとケラれてしまいますので注意が必要です。

FUJINON SWD 1:5.6/75

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ196mm(f22)
   最大包括角度    : 105度
   最大適用画面寸法  : キャビネ
   レンズ構成枚数   : 6群8枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ70mm
   フランジバック   : 85.1mm
   バックフォーカス  : 53.4mm
   全長        : 76.0mm
   重量        : 400g

ベッドの写り込みを防ぐ

 このレンズをリンホフマスターテヒニカ45で使用する場合は、横位置でも無限遠時はベッドがわずかに写り込んでしまいますので、ベッドダウンかライズが必要になります。しかし、撮影するポジションまでレンズを繰り出すとUアーム(レンズ支柱)がボディトラックと繰出しトラックの両方にかかってしまい、ベッドダウンができません。これを回避するためには凹みレンズボードを使って、Uアームがボディトラックから完全に外れ、繰出しトラック上にある状態にするか、もしくは、逆にUアームをボディトラック上に置いて、カメラのバック部を引っ張り出すかをしなければなりません。ただし、後者の場合はピント合わせに苦しみます。
 私の使っているレンズボードは通常のフラットなタイプですので、少しだけライズをしてお手軽に済ませてしまっています。(ちなみに、マスターテヒニカ2000の場合はボディトラックが移動するような機構が組み込まれており、Uアームをボディトラックだけに乗せて使えるのでずいぶん便利です)

大きな後玉外枠径

 F5.6の大口径ですので明るくて使い易いですが、レンズ単体で400gあり、結構重いです。また、後玉の外枠径が70mm(前玉の外枠径と同じです)もあるため、リンホフマスターテヒニカやウイスタ45では問題ありませんが、ホースマン45FAの場合はレンズ取付け部の穴径が小さくて入りません。どうしても取り付けたい場合はいったん後玉を外し、蛇腹の後方から手を突っ込んで後玉を取り付けるという面倒なことをしなければなりません。
 下の写真はSWD75mm(左)とW210mm(右)を真横から見た状態です。SWD75mmの後玉が大きいのがわかると思います。

FUJINON SWD75mm & FUJINON W210mm

 このレンズは建築やインテリアなどの撮影に使われることが多いのかもしれませんが、私はそういった写真を撮ることはほとんどなく、もっぱら風景撮影に使っています。手前から広がりのある風景をパンフォーカスで撮ることができるので、インパクトのある写真にすることができます。超広角といえども焦点距離は75mmあるわけですから、よほど間近なものでも撮らない限り、パースが強すぎることによる歪みは抑えられていると思います。超広角レンズの特徴であるパースをあえて出したい場合は極端に近寄るか、もしくは、より短焦点のレンズを使う必要があります。

作例 青森県下北半島 仏ケ浦

 同じフジノンの大判レンズの中でもこのSWDシリーズのレンズは、Wシリーズのレンズと比べるとコクのある色乗りと言ったらいいのか、若干こってりとした印象があります。決して嫌みのあるこってり感ではなく、ヌケの良いクリアな色乗りが特徴のレンズではないかと思います。

 下の写真は青森県の仏ケ浦で撮影したものです。

仏ケ浦(青森県)  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6  F45 1/8 PROVIA100F

 早朝に撮影したのでまだ太陽の光が若干赤みを帯びていますが、空と雲と岩のコントラストが綺麗に出ていると思います。中央右寄りの「如来の首」という名前がついている岩の高さは15mほどあります。この如来の首ももちろんですが、左端の岩も垂直に立たせたかったので、このレンズのギリギリまでライズしてカメラをできるだけ水平に近く保っていますが、もう少しイメージサークルが欲しいというのが正直なところです。画面ではよくわからないと思いますが、解像度でも色再現性においても、さすがFUJINONといった描写力だと思います。

 大判カメラに67判のフィルムホルダーを着けてこのレンズで撮影する場合は、35mm判換算で35~38mmのレンズに相当する画角になりますので、標準的な広角レンズといったところです。重いレンズではありますが、広い風景を切り取ったりパースペクティブを活かしたり、いろいろなシチュエーションで使えるレンズであり、重宝しています。

(2020.11.8)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

第19話 東京ゲートブリッジでピンホールカメラ試し撮り

 耐え難い暑さもやっとおさまったので、自粛中に作ったピンホールレンズの写りを確認するため、東京ゲートブリッジの定番撮影ポイントである若洲海浜公園に行ってきました。しばらく雨降りが続いていましたが久しぶりに青空が広がり、若洲海浜公園の駐車場は満車状態です。多くの方は釣りをしに来ているようです。ほぼ快晴で日差しは強いですが風がとても気持ち良いです。

WISTA 45SP でゲートブリッジ撮影

 2か月ほど前に作ったピンホールレンズでどの程度の写真が撮れるのか、4×5フィルムとブローニーフィルム(67判)で実際に撮影をしてきました。持ち出したカメラはWISTA 45SPとHorsemanのロールフィルムホルダーです。あとはピンホールレンズや単体露出計、メジャーなどの小物ばかりですので、レンズがないと本当に機材が軽いと実感しました。これで超広角から望遠まで無段階に対応できるのですから、ピンホールカメラ恐るべしです。

 まずは橋の南側からゲートブリッジ全体の形が綺麗に見えるポイントに行き、4×5フィルムで撮ったのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F330 7s (4×5判)

ピンホール径を逆算してみると

 撮影データですが、焦点距離は100mm(35mm判カメラに換算すると28mmくらいのレンズの画角に相当します)、F330でシャッター速度は7秒です。
 単体露出計で手前の草の部分と海面を計測し、ピンホール径が0.3mmということで計算した露出ですが、若干、露出オーバー気味です。ということはピンホール径が0.3mmよりもわずかに大きいようです。現像が仕上がったポジの状態からピンホール径を逆算すると、0.33mmくらいあることになります。ルーペを覗きながらマチ針で開けた穴ですので決して高い精度は望めず、まぁ、こんなものかなと思います。次回の撮影からはピンホール径が0.33mmということで露出を決めれば良いので、仕上がりはもう少し良くなることを期待したいです。

 周辺部の落ち込み(光量不足)がもう少しあるかと予想していたのですが、思ったほどではありませんでした。この写真のほかにもう一枚、焦点距離85mmで撮影したポジは四隅が若干暗くなっており、光量不足の影響が出始めているのがわかりました。計算上、最短撮影距離の68mmでは周辺部で2EVほど暗くなると思っていましたが、実際には1~1.5EVくらいでおさまりそうです。

画質は及第点

 画質は予想以上に解像しており、及第点といったところでしょう。さすがに草の一本いっぽんまでは識別できませんが、穂が伸びているところや左端にある時計の目盛りなどは十分わかります。少しボヤっとしていたほうが針穴写真らしいと思いますが、どこで折り合いをつけるかが悩ましいところです。機会があればもう少し径の大きなピンホールを作って試してみたいところです。
 この写真では太陽が左側にあるのですが、フレアが起きています。これを避けたい場合はフードやハレ切りを使えば防げますが、このように晴れた日の写真ではフレアがあることで降り注ぐ太陽の光を感じられるかも知れません。

ブローニーフィルムで撮影

 下の写真はブローニーフィルム(ロールフィルムホルダーを使用)で釣りをしているところを撮ってみました。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F276 4s (67判)

 焦点距離が80mm(35mm判カメラ換算で40mmくらいのレンズの画角に相当)、F267、シャッター速度は4秒です。1枚目の写真同様、露出は若干オーバー気味です。
 手前の岩を大きく入れてみました。このような構図の場合、パンフォーカスにしようとするとレンズを使った通常の撮影ではかなり大きなアオリが必要になりますが、当然のことながらピンホールカメラでは全く気にせずにパンフォーカスになるのがすごいところです。
 また、シャッター速度が4秒くらいだと人の動きも極端に大きくブレることなく、ぎりぎりそれとわかるくらいには写し止めることができます。

遠景を望遠で撮影

 さて、長い焦点距離(望遠)ではどのように写るかということで撮影したのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F900 50s (67判)

 撮影データは、焦点距離270mm(35mm判カメラ換算で135mmレンズの画角に相当)、F900、シャッター速度は50秒です。露出オーバー気味も手伝ってか、やはりボヤっとした感じが強まっている印象ですが、ここまで写ってくれれば良しということにしましょう。

 今回は試し撮りということで4×5フィルム2枚、ブローニー(220)フィルム1本(20カット)を撮影してきましたが、構図確認用のピンホールレンズの穴径が大きすぎて、フォーカシングスクリーンに映る像がぼやけすぎてしまうということが判明しました。穴径が大きければ明るい像が得られますがボケも大きくなってしまい、構図を決めるのに手間がかかってしまいます。ここは改善の余地のあるところです。
 また、ピンホールレンズが計算通りに作ることができているか確認するため、今回は露出がシビアなリバーサルフィルムで撮影しましたが、針穴写真はモノクロやネガフィルムのほうが雰囲気があると思いますので、若干の改善をした後、次回は本格的な撮影に臨みたいと思います。

(2020.10.5)

#東京ゲートブリッジ #ピンホール写真 #ウイスタ45 #WISTA45 #リバーサルフィルム