第91話 大判カメラでの撮影時に気をつけたいこと あれこれ

 大判カメラの構造は非常にシンプルですが、それゆえに撮影するためにはいろいろとやるべきことが多く、結構な手間がかかります。一眼レフカメラのように、ファインダーを覗いて構図を決めてシャッターを切るだけというようなわけにはいきません。
 大判カメラといってもいろいろな種類やタイプが存在しますが、今回は金属製のフィールド(テクニカル)タイプカメラであるリンホフマスターテヒニカやウイスタ45を対象に、撮影に関する操作において気をつけたいことをまとめてみました。
 金属製フィールドタイプでも他の機種であったり、ビューカメラや木製(ウッド)カメラには当てはまらない内容もありますので、予めご承知おきください。

レンズスタンダードを引出す際は可動トラックを奥まで押し込む

 ベッドが折りたためるようになっているフィールドタイプカメラの多くは、可動トラックと本体内レールの間に20~30mmほどの隙間があります。

▲本体内レールと可動トラックのレールとの隙間

 ベッドを畳むときにぶつからないようにこの隙間が必要なわけですが、この隙間がある状態でレンズスタンダード(Uアーム)を引き出すと、可動トラックのレールの端にレンズスタンダードのベースがぶつかり、繰り返すうちにレールが徐々に削れてしまうということになります。
 また、この状態でレンズスタンダードを引き出すとまっすぐ移動せず左右にぶれてしまい、レールとの嵌合精度が狂ってしまうことにもなりかねません。

 これを防ぐため、カメラ本体からレンズスタンダードを引き出す場合、可動トラックを奥まで押し込んで本体内のレールとぴったりと着く状態にしておくのが望ましいです。
 可動トラックを奥まで押し込んだ状態が下の写真です。

▲本体内レールと可動トラックのレールをぴったりとつける

 可動トラックを奥まで押し込まずにレンズスタンダードを引き出すのを見かけることもあります。面倒くさいかも知れませんが、カメラをいつまでも最良の状態で使うためにも、ひと手間かけるのが良いと思います。

レンズ取付け時はレンズボード押さえと本体を手で挟まない

 レンズをレンズスタンダードに取り付ける際、レンズボード押さえを上に持ち上げる必要があります。この時、レンズボード押さえとカメラ本体の後部を手で挟んでレンズボード押さえを持ち上げようとすると、可動トラックに対して垂直に設置されているレンズスタンダードの関係が狂ってしまいます。
 レンズボード押さえのバネの力は結構強くて、実際にこの操作をやってみるとレンズスタンダードがカメラ後方に傾くのがわかると思います。

▲レンズスタンダードと本体を手で挟むと歪みのもとになる

 一度くらいでは問題ないでしょうが、このような方法でレンズを取付ける癖がつくと長年の間には何百回、何千回と行なわれることになるので、カメラにとっては好ましい状態ではありません。

 そうならないために、下の写真のようにレンズボード押さえを指でつまんで上に持ち上げるようにします。

▲レンズボード取付け時はレンズボード押さえだけを持ち上げる

 木製のカメラによくみられるようなスライド式のレンズボード押さえを採用しているカメラではこういった心配はありませんが、バネの力で押さえる方式は操作は簡単ですが注意が必要です。
 中古カメラの購入を検討する際、可動トラック上に引き出したレンズスタンダードにガタがあるようだと、ひょっとしたら長年にわたってレンズスタンダードとカメラ本体を手で挟まれてきたのかも知れません。

ケーブルレリーズを取付けたままブラブラさせない

 一般的にレンズをレンズボードに取付ける場合、レリーズ取付け部が上を向くような位置にすることが多いと思います。
 この位置はケーブルレリーズを取付けるには操作し易いのですが、取り付けた状態でケーブルレリーズをブラブラさせたままにしておくと、重みでレリーズ取付け部に負担がかかります。
 また、ケーブルレリーズもつけ根のところから180度曲がってしまい、ケーブルレリーズにとってもあまりよい状態とは言えません。

▲ケーブルレリーズをブラブラさせておくと、取付け部に負荷がかかる

 レリーズの種類にもよりますが、レリーズ取付け部とかみ合うネジ山がごくわずかという場合があり、強い力がかかると外れてしまったり、最悪の場合、破損してしまう可能性もあります。特に長いケーブルレリーズをつけた場合はかなりの重さになり、強い風で揺れたりすると何倍もの力がかかります。

 ケーブルレリーズはカメラ本体や三脚などに固定しておくことで、こういった問題を防ぐことができます。

フィルムホルダーを差し込む前に各部をロックする

 大判カメラは構図決めの際に動かす箇所がいくつもあります。アオリを使うとその数はさらに増えます。
 あちこち動かしながら構図を決めピントを合わせ、さて撮影という段になり、フィルムホルダーをカメラに差し込もうとフォーカシングスクリーンを持ち上げたとたん、カメラが動いてしまったなんていう可能性もあり得ます。そうなると、せっかく合わせた構図やピントもやり直しです。
 そんなことにならないように各部をしっかりロックしておく必要があります。
 また、大判カメラは重量もありますので、三脚(雲台)の各部もしっかり締めておく必要があります。

▲撮影前に各部をロックする

 ロックを忘れていちばん影響を受けるのはバック部をあおったときです。ロックせずにフォーカシングスクリーンをグイッと持ち上げようとすると、フォーカシングスクリーンが持ち上がらずにバック部が目いっぱい引き出されてしまいます。

 構図決め、ピント合わせが終わったら各部のロックネジを全て締めるように習慣づけておくのが望ましいです。

フィルムホルダーをトントンしてフィルムの移動を防ぐ

 大判カメラで使うシートフィルムホルダーのフィルムが入るスペースは、フィルムのサイズより若干大きめに作られています。このため、フィルムはフィルムホルダー内で前後左右にわずか(1~2mm)に動きます。
  フィルムがホルダー内で上側によっていると 、フィルムホルダーをカメラにセットした時、フィルムの重みで下側に移動してしまうことがあります。運悪く、シャッターが開いているときにこれが起こるとブレブレの写真になってしまいます。長時間露光の時は特に要注意です。

 フィルムホルダーをカメラにセットした時、下側になる位置にフィルムを寄せておくことでこれを防ぐことができます。
 下側になる方を手のひらにトントンとたたくことで、ホルダー内のフィルムが下側に移動します。

▲フィルムがホルダーの下側にくるようにトントンする

 フィルムが動いてしまうということはそう頻繁に起きるものではありませんが、動いたかどうかはわからないので、渾身の一枚が無駄にならないように念には念をといったところでしょうか。

シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しない

 大判カメラ用のレンズにはシャッターが組み込まれていますが、シャッターをチャージするとシャッター速度を司るガバナーもセットされます。その状態でシャッター速度を切り替えるとガバナーも動くため、あまり好ましくないと言われています。
 実際に試してみるとわかりますが、シャッターをチャージする前はシャッター速度ダイヤルは軽く回りますが、シャッターをチャージた後にシャッター速度ダイヤルを回すと少し重くなり、「ジッ」というような音が聞こえます。
 実際にどの程度の悪影響があるのかはわかりませんが、チャージ後のシャッター速度の変更は避けたほうが良いようです。

▲シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しないのが望ましい

 シャッターをチャージした後にシャッター速度を変えなければならない場合は、いったんシャッターを切り、シャッター速度を変更した後、再度チャージし直すのが良いということでしょう。

カメラをたたむときは各部をニュートラルに戻す

 撮影を終えてカメラをたたむときに気をつけたいのが、各部をニュートラル位置に戻すということです。
 ベッドをたたむためにはレンズスタンダードを本体内に収納しなければならないので、これを忘れることはまずありませんが、忘れがちなのがあおった状態を元に戻すことです。
 例えば、フロントライズやフロントシフトしたままレンズスタンダードを収納しようとすると、蛇腹がカメラの外枠に当たってしまったり、当たらないまでも蛇腹がずれた状態でたたまれてしまいます。
 また、可動トラックを奥に入れた状態でベッドをたたもうとしてもたためませんが、無理に力を加えると破損してまう可能性があります。

 各部がニュートラル位置にない状態でたたもうとすると動きが重くなったりするので、少しでも変な感触があるような場合は無理をしないで確認をしてみる必要があります。

 中古カメラ店で大判カメラを見せてもらうと、明らかに無理をして壊してしまったと思われるものが結構あります。金属製のカメラは剛性が高いので、普通に使っている分には簡単にガタが出ることもないのですが、長年にわたって無理を続けるとあちこちに支障が出てしまいます。

カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 撮影場所を移動する際、三脚に大判カメラをつけたまま担いでいる人を見かけることがあります。一眼レフカメラならいざ知らず、大判カメラを、しかもベッドを開いた状態で担いで歩くというのは無頓着すぎる気がします。
 金属製の大判カメラは剛性が高いとはいえ、ベッドを開くと左右2本のタスキで支えられている構造のものが多く、WISTA45はタスキもなく、大型のネジで締め付ける構造になっています。ここに想定外の大きな力がかかると簡単に破損してしまいます。

 ベッドをたためば動く箇所がなくなるので、三脚につけたまま担いでも大きな損傷を受けることもないと思いますが、何しろカメラ自体が大きいので、木の枝にぶつけたりという心配もあります。できれば三脚から外してバッグに入れて移動するのが望ましいですが、最低でもベッドはたたむようにすべきと思います。

▲カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 また、足場が悪いところを歩く場合、短い距離とはいえ三脚に重いカメラをつけたままだと体のバランスもとりにくく、転倒する危険もありますので注意が必要です。

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 大判カメラは撮影自体も何かと手間がかかりますが、その前後にも気をつけなければならないことが多く、面倒くさいと言えば確かにその通りです。しかし、そういう面倒くさいことも含めての大判カメラならではの撮影だと思います。
 また、カメラ自体も決して安くはありませんが、ちょっとしたことに気をつけて大事に使えば一生ものです。とはいえ、形あるもの、いつかは壊れますが、直してまた使えるというのも大判カメラの魅力かも知れません。

(2021.12.21)

#リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第87話 大判カメラのフォーカシングスクリーン すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ

 レンジファインダーカメラや最近のミラーレス一眼カメラを除けば、一眼レフカメラや二眼レフカメラ、大判カメラなどにはフォーカシングスクリーン(ピントグラス)が備わっています。レンズから入った光を結像させるとともに、ピント合わせをおこなうという非常に重要なパーツです。
 フォーカシングスクリーンは「すりガラスタイプ」と「フレネルレンズタイプ」の2種類に大別できます。それぞれ特徴がありますが、今回は大判カメラのフォーカシングスクリーンに焦点をあててみたいと思います。

すりガラスタイプ 最もベーシックなフォーカシングスクリーン

 大判カメラのフォーカシングスクリーンはこんな感じです。フィールドタイプのカメラの裏蓋を開けると、そこにフォーカシングスクリーンが見えます。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン(Linhof MasterTechnika 2000)

 すりガラスタイプは昔から使われているもので、ガラスの片面がすりガラス状になっているだけというシンプルなものです。ここにレンズからの光が当たると結像します。
 すりガラスのきめが細かいので非常に鮮明に結像されるのが特徴です。
 一方、フォーカシングスクリーンの周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるので、フォーカシングスクリーンの後ろ側から見るとかなり暗く落ち込んでしまいます。

 下の写真はすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したものです。わかり易くするため、カメラには#1のレンズボードだけを装着し、レンズは着けていません。
 1枚目は蛇腹を80mm引出した状態、2枚目は250mm引出した状態です。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 80mm引き出した状態では周辺部は真っ黒、250mm引出しても十分な明るさにならないことがわかると思います。
 このように、短焦点レンズ(蛇腹の引出し量が少ない)の場合、フォーカシングスクリーンの周辺部はかなり暗くなってしまいます。焦点距離が長く(蛇腹の引出し量が多く)なるにつれて周辺部の暗さは少しずつ解消されますが、中心部に比べるとやはり暗いです。

 わかり易くするため、図にしてみました。

 上の図でもわかるよに、中心部、およびその周辺はフォーカシングスクリーンに対して垂直、またはそれに近い角度で光が入ってきますが、周辺部に行くほど入射角が斜めになっていきます。これはレンズの焦点距離が短くなるほど顕著になります。
 このため、ルーペでピント合わせをしようとしても、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直にあてると光が入ってこないので、視界が真っ暗という状況になってしまいます。

 これを解消するには光の入射方向に対してルーペのレンズ面が垂直になるように傾ければ良いのですが、そうするとルーペのピントが合わなくなってしまいます。伸縮型のルーペを使うとか、斜めから入射してくる光が見えるようなレンズ径の大きなルーペを用いるなどの工夫が必要になります。

 このように、すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは使いにくいと思われるかもしれませんが、鮮明な像が得られるのと、ピントの山がとてもつかみ易いという利点があります。
 ピント合わせ用のルーペは6~7倍の倍率のものを使うことが多いのですが、シビアなピント合わせをするときは20倍くらいのものを使うこともあります。それくらいの倍率で見てもすりガラスのざらつきがさほど気になりません。

 因みにすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは自分で作ることもできます。既定のサイズにカットした透明のガラスの片面を、#2500くらいの耐水ペーパーで根気よく磨くだけです。#2500の耐水ペーパーの粒度は6㎛程度らしいので、非常にきめ細かなすりガラスになります。

フレネルレンズタイプ 明るくて見やすいフォーカシングスクリーン

 すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンに比べて、圧倒的に明るい像が得られるのがフレネルタイプのフォーカシングスクリーンです。
 肉眼では全くわかりませんが、レンズを薄くスライスし、周辺部だけを残して中をくり抜いたものを同心円状に並べたような構造をしています。

 上の図のように、薄くスライスしたレンズの周辺部だけを残すことで、三角プリズムのような形になります。ここに斜めから入射してきた光があたると屈折して、フォーカシングスクリーンに対して垂直に近い角度の光になります。これによって、フォーカシングスクリーンの周辺部で暗く落ち込んでしまうのを防ぐことができます。

 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したのが下の2枚の写真です。
 1枚目が蛇腹を80mm引出した状態、2枚目が250mm引出した状態で、すりガラスタイプと条件は同じです。

▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 蛇腹を80mm引出した状態では周辺部の落ち込みは見られますが、250mm引出した状態ではフォーカシングスクリーン全面がほぼ同じ明るさになっており、周辺部の落ち込みは感じられません。このため、短焦点レンズを使った場合でも周辺部の落ち込みが少ないので、ピント合わせはすりガラスタイプに比べると格段にし易くなります。

 しかし、ルーペを使うと同心円状のフレネルレンズが目立ってしまい、特に高倍率のルーペではフレネルレンズの縞模様に被写体が埋もれてしまうような感じになります。6~7倍くらいの倍率であればそれほど気になりませんが、20倍というような高倍率ルーペではピントが合わせ難くなります。
 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンの同心円は、およそ1mmに12~15本ありますので、ピッチは0.067mm~0.083mmといったところです。これはすりガラスのざらつきに比べると桁違いに大きい値です。

 フレネルレンズ自体はアクリルやポリカーボネイトなどのごく薄い素材でできているらしく、フォーカシングスクリーンとして用いる場合は、結像のためのすりガラスと保護用の透明のガラスでサンドイッチされた構造になっています。

鮮明な像を優先するか、明るさを優先するか

 すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ、それぞれの特徴はおわかりいただけたと思いますが、どちらのタイプを選ぶかは人それぞれだと思います。
 私は主にすりガラスタイプを使っていますが、いちばんの理由は鮮明な結像とピントの合わせやすさです。レンズを前後させたとき、ピントが立ってくるところと、それを超えてピントが崩れていくところがとてもわかり易く、ピントの山でピタッと止めることができます。

 また、大判カメラはアオリを使うことも多く、レンズの前後とアオリの量を微妙に調整しながらピント合わせを行ないます。フォーカシングノブをほんの1ミリほど動かしただけでピントが移動するのがわかるのは、やはりすりガラスタイプならではと思っています。

 周辺部の暗さについては口径の大きなルーペを使うことで凌いでいます。私は直径49mmのレンズを用いた自作のルーペを使っていますが、斜め45度くらいから覗いても視界が確保されるので、暗くてピント合わせができないというようなことはありません。
 難点は少々大きくて重いということです。

 WISTA 45 SPには標準のフレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンがついているのですが、時たまWISTAを持ち出すと、明るいフォーカシングスクリーンはありがたいと感じます。短焦点レンズを使う頻度が高ければ、フレネルレンズタイプは便利だと思います。

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 異なるタイプのフォーカシングスクリーンを取付けたバック部を二つ用意しておいて、被写体や使用するレンズによって使い分けるという方法もあるかも知れませんが、慣れの問題も大きいので、いろいろ試してみて自分に合ったものを選ぶということになると思います。
 なお、大判カメラのバック部に取付けられているフォーカシングスクリーンの交換は簡単にできますが、結像面がフィルム面とピッタリ同じ位置にないと、ピント合わせをしてもピントがずれた写真になってしまいますので、交換する場合は結像面位置の計測が必要になります。

(2021.11.23)

#WISTA45 #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #リンホフマスターテヒニカ

第86話 紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮る

 奥入瀬渓流は十和田湖の子ノ口から焼山まで、およそ14kmに渡って美しい流れが続いています。両岸には豊かな樹木やたくさんの滝があり、変化に富んだ景観は見飽きることがありません。流れとほぼ同じ高さに遊歩道が整備されているので、高いところから見下ろす渓谷とは違う景色を見ることができます。
 例年の紅葉は10月中旬から11月上旬と言われていますが、今年(2021年)は10月24日の週がいちばんの見ごろだった感じです。紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮ってきました。

三乱(さみだれ)の流れ

 個人的には奥入瀬渓流の中でいちばん好きな場所です。
 流れは比較的穏やかで、その中に点在している大小の岩と、その上の着生植物が作り出す景観は得も言われぬ美しさがあります。すぐ脇を車道が走っているので、車の中からもその美しい景観を見ることができます。

 下の写真は早朝に撮った一枚です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 流れのすぐ手前まで降りて行って撮影しています。渓流に太陽の光が差し込む前で、しかも前の夜に雨が降ったようで、しっとりとした色合いになってくれました。ほとんど無風状態でしたので、少々長めの露光をしても被写体ブレは気にならないだろうと思い、8秒の露光をしています。
 手前にある岩から奥のl紅葉までピントを合わせたかったので、フロントティルトのアオリをかけています。
 また、流れの奥行き感と広さを出すために、カメラの位置を水面から60cmほどの高さでの撮影です。

 木々はとても綺麗に色づいていますが、紅葉をあまりたくさん入れると画の締まりがなくなってしまうので、切り詰めています。その分、流れを広く入れて、点在する岩をアクセントにしました。
 早朝のしっとり感が損なわれないように露出は気持ちアンダー気味にしています。

 もう一枚、少し上流側で見つけた、岩の上に根を下ろしている黄葉です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 1s PROVIA100F

 背景を広く入れ過ぎると岩の上の黄葉が目立たなくなってしまうので、流れとの対比で黄葉が引き立つようにしました。もう少し下流側から流れを多く入れようとも思いましたが、そうすると背景も広く入ってしまいゴチャゴチャしてしまうので、流れに対して真横から撮っています。
 また、岩の上から伸びている2本の幹がとてもいいアクセントになっていたので、これがはっきり見えるアングルを選んでいます。
 こちらもほぼ無風状態だったのですが、ところどころ、わずかに葉っぱがブレています。

 まだ完全に黄葉しきっておらず緑が残っていますが、そのグラデーションがとても綺麗です。露出アンダーになるとこのグラデーションが濁ってしまうので、葉っぱの部分を何ヵ所か測光して露出を決めています。

石ヶ戸(いしけど)の瀬

 石ヶ戸休憩所がある辺りを石ヶ戸の瀬と呼ぶようです。石ヶ戸休憩所は広い駐車スペースもあり、観光バスも多く来るのでたくさんの観光客でにぎわっています。
 すぐ近くに、カツラの大木で支えられた巨大な一枚岩があり、それを石ヶ戸と呼ぶようですが、その岩の下はまるで小屋のような空間になっています。
 石ヶ戸の瀬の辺りは流れが大きなカーブを描いており、そのためか変化に富んだ景観を見ることができます。

 下の写真は石ヶ戸の瀬の中でも流れが激しい場所です。橋のようになった倒木が何とも言えぬ景色を作り出しています。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 4s PROVIA100F

 奥入瀬はどちらかというと紅葉よりも黄葉のイメージが強いのですが、この辺りは紅葉が点在しており、そのコントラストが綺麗です。
 奥行き感を出すために、手前の岩を多めに入れています。手前から奥までピントが合うようにフロントティルトのアオリをかけています。ほぼ無風状態だったので、岩の上の草もほとんどブレずにすみました。
 一方、上部中央にある黄緑色の葉っぱがアウトフォーカスになってしまい、ちょっと気になります。撮影位置をもう少し前にできればよかったのですが足場が悪く、このあたりが自然相手の難しいところです。

 上の写真より少し下流の、流れが極めて穏やかになっている場所で撮影したのが下の写真です。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 傾斜がほとんどなく、波も全くというほど立っていません。ここも、苔むした倒木がとても良いアクセントになっていると思います。
 前の写真のときと比べて陽が高くなっているので林全体が明るくなっていますが、若干暗めの方がこの場の雰囲気には合うと思い、露出は少し切り詰めています。

 波を立てて激しく流れる景色も素晴らしいですが、このように音もなく静かに流れる、まるで時が止まったような景色を見られるのも奥入瀬渓流の魅力だと思います。

 もう一枚、近くでとても綺麗に色づいた木を見つけたので撮ってみました。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000  FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 上の方の葉っぱが赤くなってきており、そのグラデーションがとても綺麗です。
 ここの流れもとても穏やかで、波音もほとんど聞こえません。長時間露光しても波の軌跡はほとんど写らないので、川面を流れる落ち葉が線を描く程度のシャッター速度で撮影しています。欲を言うと、もう少し流れる落ち葉がたくさん欲しかったところです。

 カメラをもう少し上に振ると、切り立った崖の上の方に赤く色づいた木々が点々とあったのですが、このオレンジ色の葉っぱを引き立たせるため、敢えて上の方の紅葉は入れませんでした。もう少し引いた場所から短めのレンズで広い範囲を撮ると、これとは違った美しい渓谷美の写真になるのではないかと思います。

阿修羅(あしゅら)の流れ

 奥入瀬渓流の中でいちばん人気の場所ではないかと思います。ガイドブックや雑誌などでも紹介される回数が最も多いのが、ここ、阿修羅の流れだそうです。
 近くにわずかながら駐車スペースもあり、ここを目当てに来る方も多いようです。写真撮影する人、絵を描く人など、人が耐えることがありません。
 それでも早朝は人の数がとても少なく、ゆっくりと撮影することができます。

 下の写真は流れのすぐ近くの遊歩道から、できるだけ低いポジションで撮ったものです。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F45 8s PROVIA100F

 岩の間を縫うように流れる姿はとても豪快です。焦点距離90mmの短焦点レンズを使っていますが、流れを強調するために林の上部はあまり入れないようにしています。
 早朝で岩に光が回り込む前の時間帯なので、岩の重みのようなものが感じられます。8秒の露光をしていますが、風がなく葉っぱもピタッと止まってくれたのは運が良かったです。
 蛇行した激しい流れと川中の岩、着生植物のバランスは本当に美しく、奥入瀬渓流の中でいちばん人気というのも頷けます。

 右上の林に光が差し込んでいるのがわかると思いますが、林を切り詰めた分、流れが奥の方に続いている感じを出そうと思い、この辺りが少し明るくなるのを待っての撮影です。

 上の写真の少し上流から縦位置で撮ったのが下の写真です。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 4s ND8 PROVIA100F

 一枚目の写真の場所と比べると流れは穏やかで激しさはありません。しかし、左奥から大きくカーブしながら流れ落ち、テーブル状になったところに波が描く模様は、激しさと穏やかさが同居している感じが表わされているように思います。

 林全体に光が回り込んで黄葉が鮮やかになってきたので、黄葉を多めに入れてみました。紅葉や黄葉は光が入り込むと鮮やかに発色しますが、光が強すぎると白っぽくなってしまいます。太陽に雲がかかって光が柔らかくなったところを狙って撮影しました。

 この写真のすぐ右側と正面の奥には道路が走っています。何気なくシャッターを切ったら車が写り込んでいた、なんてこともあるので撮影の際は注意が必要です。

白銀(しろがね)の流れ

 奥入瀬渓流の数ある滝の中でも人気の高い雲井の滝、その少し上流にあるのが白銀の流れです。轟々と音を立ててダイナミックに流れるところは高い位置から見下ろすしかありませんが、その下流はとても穏やかな流れになっています。ここは、阿修羅の流れと銚子大滝の中間あたりで、それが理由かどうかわかりませんが、訪れる人も比較的少ない感じがします。

 下の写真は白銀の流れのいちばん下流にあたるところです。

▲白銀の流れ Linhof MasterTechnika 2000  SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F22 4s ND8 PROVIA100F

 左端にちょっと見えている階段を上ると白銀の流れを見下ろせる場所に出ます。
 この写真の場所は川幅が急に広くなるので、水深も浅く、穏やかな流れです。この時期は落葉が進んで葉っぱの数も少ないので、開けた感じのする場所です。

 流れの中に横一列に整然と並んだ岩が何とも言えません。穏やかな流れでありながら適度な波があるので、長時間露光するとまるで雲が流れているような描写になります。
 対岸にある巨木がとても印象的で、このおかげで画全体が締まっている感じです。

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 美しさもその規模も他に類を見ない奥入瀬渓流です。今回は石ヶ戸から子ノ口の間を撮影しましたが、石ヶ戸から焼山までの間の紅葉も素晴らしいです。範囲が広いので短い期間ですべてを撮るには無理があります。限られた時間の中である程度狙いを絞り込んでおかないと、被写体に振り回されてしまいそうです。
 新緑の美しさも格別で、来年、新緑の頃に訪れることができたらいいなと思ってます。

(2021年11月16日)

#奥入瀬渓流 #紅葉 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #渓流渓谷

第72話 リンホフマスターテヒニカ2000 Linhof MasterTechnika 2000

 1995年にマスターテヒニカ45(MT45)の後継機種として発売されたモデルです。見た目はマスターテヒニカ45によく似ていますが、デザイン的にも機能的にいくつかの変更や改良が加えられています。今回はマスターテヒニカ45との違いを中心に、マスターテヒニカ2000をご紹介したいと思います。

マスターテヒニカ2000の外観

 マスターテヒニカ2000の外観はこんな感じです。

 マスターテヒニカ45と非常によく似ていて、パッと見では区別がつかないくらいです。バック部のロックネジが白くなって本体側面に配置されたとか、可動トラックのノブも白くなりテーパ型になったとか、ボディ上部の一部が上にめくれ上がるためのノブの形状が変わったとか、そういった細かいところで区別できるくらいでしょうか。

 マスターテヒニカ2000の主な仕様は以下の通りです(リンホフマスターテヒニカ2000 取扱説明書より引用)。
  画面サイズ    : 4×5インチ判
  レンズマウント  : リンホフ規格仕様
  フロントライズ  : 55mm
  フロントフォール : ベッドダウンとティルトアップによる
  フロントティルト : 前後各30度  
  フロントスイング : 左右各15度 
  フロントシフト  : 左右各40mm 
  バックティルト  : 前後各20度  
  バックスイング  : 左右各20度
  最大フランジバック: 430mm
  収納時外形寸法  : 180mm(W)×180mm(H)×110mm(D) ノブ等を除く
  重量       : 2,600g

 主な仕様はマスターテヒニカ45とほとんど同じです。

 また、マスターテヒニカ45は光学距離計が装備されているモデルとそうでないモデルがありましたが、マスターテヒニカ2000は装備されていないモデルのみです。このため、本体右側面から見ると、光学距離計を取り付ける部分のカバーのようなものが廃止されているのですっきりした感じに見えます。
 なお、電子測距システム(EMS) ユニットなるものを装着すると、90~300mmのレンズでフォーカスエイドや最大で60mの測距が可能となるようですが、実際に見たことも使ったこともありません。

ボディー内にフォーカシングトラックを装備

 マスターテヒニカ2000になっていちばん大きく変わったのは、何と言ってもボディ内にフォーカシングトラックを備えたことだと思います。
 マスターテヒニカ45の場合、焦点距離が75mmより短いレンズで遠景を撮影しようとすると、レンズ繰出し量が少ないので、レンズを取り付けるUアームが可動トラックに乗りません。このため、可動トラックによるピント合わせができませんでした。

 これに対してマスターテヒニカ2000は、それまで固定式だったボディー内トラックを可動式にすることで、ボディ内トラックだけでピント合わせができるようになりました(下の写真)。

 Uアームを引っ張り出すつまみの下に小さなツマミ(フォーカシングノブ)があり、これを左右に動かすことでボディ内トラックが10数ミリ前後に動きます。短焦点レンズの場合、ピント合わせの際のレンズ移動量は少ないので、この程度の移動でも十分にピント合わせができます。
 フォーカシングノブは狭いところにあるので決して操作性が良いとは言えませんが、ベッドダウンすると操作しやすくなります。マスターテヒニカ3000になるとフォーカシングノブが本体側面に配置されているので、とても使い易いと思います。

レンズマウント部がプチ整形

 たぶん、マスターテヒニカ2000からだと思うのですが、レンズマウント部に小さな改良(?)が加えられました。レンズマウント部の上部の左右両側に、レンズボードの受けがついています(下の写真の矢印の部分)。

 この受けはレンズマウント面よりほんの僅か高くなっており、ここでレンズボードを受けるようになっています。これにより、レンズボードを下部にある2点の受けと、左右のこの2点の合計4点で受けるようになったので、レンズボードの座りが向上しています。

 一方で、新設された上部の受けは、内側にほんの少し膨らんでいます。このため、このレンズボードの受けの内側の寸法は96.35mmしかなく、従来のリンホフボードは幅が97mmあるので嵌まりません。
 このレンズボード受けの位置に切り欠きのついたレンズボードが発売されているようで、それだと問題なく装着できるのですが、私も実際に使ったことはありません。
 そこで、従来のレンズボードを装着する場合、この受けが当たる部分を少しだけ削って対応しています。レンズボードの左右のコバの一部を少々削ったところで全く問題はありませんが、あまり気分の良いものではありません。

オリジナルの蛇腹の品質がイマイチ

 これはマスターテヒニカ2000になる前から気になっていたことですが、リンホフオリジナルの蛇腹の質があまり良くないという印象を持っています。
 詳しいことはわかりませんが、交換した蛇腹を開いてみると紙の上に薄いビニールのような材質のものを貼り合わせたような構造になっています。見た目は綺麗なのですが、ピンホールができやすい気がします。
 また、表面に張ってあるビニールのような素材が収縮(経年劣化)するのか、ひび割れを起こしてきます。こうなると見た目もよろしくないので、ピンホールがなくても新しい蛇腹に交換したほうが良いと思います。

 私が使っているカメラは何度も蛇腹を交換しており、日本の職人の手による革製の蛇腹を使っています。それでも、5~6年もすると折り目のあたりにピンホールができたりしますが、オリジナルの蛇腹に比べると倍以上長持ちします。

 カメラは素晴らしいのになぜ蛇腹だけショボいのか、消耗品だからということで敢えてショボくしているのか、良くわかりませんが理解に苦しむところです。

バック部をロックする締め付けが弱い

 マスターテヒニカのバック部は、4か所のロックネジを緩めることで後方に約40mm引き出すことができます。この状態でバック部のティルトやスイングを行なうわけですが、いっぱいに引き出した状態だとロックネジを締めてもバック部が重みで少し下に下がってしまいます。

 上の写真はバック部をいっぱいに引き出し、ロックネジを締めた状態ですが、バック部が重みでわずかに下がっているのがわかると思います。

 マスターテヒニカ45ではこのようなことがなかったため、私の持っているカメラだけの現象なのかと思い、大判カメラの修理等を専門に行なわれていらっしゃる方におききしたところ、マスターテヒニカ2000になってからはどれも同じようになると言われました。
 バック部を目いっぱい引き出して使うことはまずないので撮影上の支障はありませんが、他の箇所はロックすればビクともしないのに比べると、ちょっと頼りない感じがします。

間違いなく完成度の高いカメラ

 マスターテヒニカ45と2000を比べるといくつかの違いはあるものの、いずれも完成度の高いカメラであることは間違いありません。ボディ内可動トラックを除けば操作性もほとんど同じであり、どちらのカメラを持ち出しても同じ感覚、同じ安心感で使うことができます。
 ただし、65mm以下の短焦点レンズでの撮影が多い場合は、マスターテヒニカ2000の方が便利だと思います。

 私も2台のカメラを特に使い分けているわけではありません。その日の気分で、というのが正直なところです。

(2021年7月25日)

#Linhof_MasterTechnika #リンホフマスターテヒニカ

第71話 緑深い夏の桐生川源流林を大判カメラで撮る

 桐生川は群馬県桐生市の北東にある根本山を源に、桐生市街地を通って渡良瀬川に合流する、延長約57kmの川で、美しい景観の中をとてもきれいな水が流れています。釣り人にも人気のある渓流のようですが、今回は緑に包まれた夏の桐生川の景観を撮影してみました。

木々の緑と苔むした岩がつくる見事な景観

 桐生市街地を通る桐生田沼線(66号線)を北上していくと、やがて、桐生川と並行するようになります。さらに北上すると桐生川ダムが見えてきます。発電も行なっている貯水ダムとのことで、ダム湖にかかる梅田大橋から見るとかなりの貯水量があるように見えます。

 このダムの上流側一帯が「桐生川源流林」と呼ばれており、森林浴の森 日本100選に選ばれているようです。ほとんど護岸工事がされていない手つかずの状態で残っている美しい渓流です。
 川幅は10メートルくらいでしょうか、決して大きな川ではありませんが、両岸の木々や岩とともに織りなされる景観がどこまでも続いており、一日中いても飽きることがありません。

 下の写真は、比較的見通しのきくところから撮った桐生川の景観です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 昨日までの雨のせいか、水量も多めで水も若干濁っていますが、それでも透明度の高い水が流れています。空全体はどんよりと曇っていますが、コントラストが強くなりすぎず柔らかな描写になってくれました。
 釣り人のような装備をして行けば、川を遡上して撮影ができそうです。機材を水没させないように注意が必要ですが、次回は挑戦してみたいと思います。

たくさんの民話が残る梅田地区

 桐生川源流林一帯は梅田町に属するようですが、ここにはたくさんの民話が言い伝えられているようです。川沿いの道路を走っていると、所々にそんな言い伝えが書かれた看板を目にします。
 そんな伝説の一つ、村の家畜を襲ったり田畑を荒らす大蛇が済んでいたという「蛇瑠淵(じゃるぶち)」は、岩の間を縫うように流れる景観を見ることができ、そんな伝説に真実味を感じさせてくれます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 8s PROVIA100F

 上の写真は蛇瑠淵付近を撮ったものですが、どこか妖気漂う雰囲気を出そうと思い、左上の林がアンダー目になるよう、露出を切り詰めて撮影してみました。
 一昔前は水量もずっと多く、青く渦巻くように流れていたらしいですが、いまはかなり水量が減ってしまったようです。それでも十分に魅力的な流れだと思います。

 蛇瑠淵の少し下流に「千代の滝・千代が渕」があります。ここも、山賊から村を救った若い娘が足を滑らせて滝に落ちたという悲しい伝説があるようです。
 この滝は落差が5mほどで、滝を真上から見下ろすことができます。滝のところだけ極端に川幅が狭くなっているため、かなり激しい音を立てて流れ落ちています。
 岩の間をうねるように落ちているので、滝を正面から見ることはできません。

 下の写真は千代の滝に落ち込む手前(上流側)の流れを撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 24s PROVIA100F C4フィルター

 薄暗い滝壺に落ちていく雰囲気を出すため、C4色温度変換フィルターをつけての撮影です。青と緑の中間の色、「碧」という感じの色を出そうと思ってフィルターを使いました。非現実的な色ですが、この場の雰囲気には合っているのではないかと思います。

 もう一枚、下の写真は千代の滝の滝つぼに降りて撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F11 2m50s PROVIA100F C4フィルター

 こちらも同様にC4フィルターを使っています。
 周囲を木々に囲まれていてかなり暗い状態だったので、空が少し明るくなったところを狙っての撮影です。滝から射し込む光で正面の岩が光っているのがわかると思います。
 この滝壺の水深は30~40cmくらいなので、水に入っていけば滝の落ち口を見ることができます。夏場は子供たちの格好の水遊びの場になるようです。

ひたすら優美な流れも魅力的

 上で紹介した蛇瑠淵のような流れとは対照的に、滑(ナメ)のような優美な流れも随所で見ることができます。傾斜が緩やかなところは流れも穏やかで、両岸を木々に囲まれた薄暗い中を流れる様もいいものです。

 正面奥の木々の上部が開けており、鮮やかな緑と褐色の川面のコントラストがとても綺麗だったので撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F ハーフNDフィルター

 正面の木々がかなり明るかったのでハーフNDフィルターを使っています。
 晴天時に陽が射し込んでいると全く違った感じになると思いますが、このような幽玄な感じは曇天ならではだと思います。

 さらに少し下流で撮影したのが下の写真です。この辺りも流れは穏やかで、滑のような状態が続いています。

▲Linhof MasterTechnika 45 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F32 16s PROVIA100F

 手前の流れを大きく取り入れ、かつ、S字を描くように蛇行している流れがわかるポジションから撮影しました。
 また、この写真では色温度変換フィルターは使用していませんが、C4フィルターを装着して碧い色を出しても似合うのではないかと思います。

あちこちにユキノシタの群落が

 ちょうどユキノシタが満開の時期で、林床のあちこちで見ることができます。薄暗い林の中でひっそりと咲く姿は妖艶ささえ感じます。花の色が白いので、そこだけ明かりが灯っているようです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F11 1/2 PROVIA100F

 この花は明るい日差しの下よりも、このような薄暗いところの方が似合うと思います。谷川べりなどの湿った場所や半日陰地の岩場などに自生するようなので、それももっともだと思いますが。
 このような小さな花の群落を撮る場合、被写界深度を浅くしないと花が背景に埋もれてしまいますが、浅くしすぎるとピントの合う花がほんの一部になってしまうため、レンズの焦点距離と絞りの選択には悩みます。

 桐生川源流林に咲く花の種類は決して多くはないので、花を見かけるとなんだか癒される感じがします。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 被写体が豊富で様々な撮り方ができる桐生川源流林ですが、あまり欲張りすぎると被写体に振り回されてしまいそうです。それくらい魅力があるということですが、ある程度、的を絞って撮影に臨んだほうが良いかもしれません。
 楓の木がたくさんありましたので、秋の紅葉の時期は美しい光景が見られると思います。

 桐生川源流林は桐生川に沿って車道が通っていて、桐生川ダムから清風園という割烹旅館の辺りまでは道幅も比較的広いですが、その先に行くとすれ違いもできないくらいの狭い道路が続きます。たくさんの車が行き交うわけではありませんが、運転は注意が必要です。
 また、車を止める場所も非常に少ないので、他の車や地元の方などの迷惑にならないように心掛けることも忘れないようにしたいものです。

(2021年7月19日)

#桐生川源流林 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第67話 大判カメラにPENTAX67を取り付けるアダプタの作成

 通常、大判カメラは1枚ごとにカットされたシートフィルムを使いますが、ロールフィルムホルダーを使うことでブローニーフィルム(120、220)での撮影が可能になります。1本のフィルムで10枚とか20枚の撮影ができるので荷物がかさばらなくてありがたいのですが、構図を決め、ピントを合わせた後、カメラのフォーカシングスクリーンを外してロールフィルムホルダーを取り付けなければならず、結構面倒くさいです。
 そこで、中判カメラ(PENTAX67)を直接取り付けられるようなアダプタを作ってみました。

必要なパーツはたったこれだけ

 アダプタといっても非常に単純なもので、アクリル板にPENTAX67用のレンズのマウント金具を取り付けるだけのシンプルな構造です。
 まずは板厚3mmの黒いアクリル板です。

板厚3mmのアクリル板(黒)

 このアクリル板はアマゾンで400円ほどで購入できます。もちろんアクリル板でなくても構いませんが、そこそこの剛性があり、加工がし易いということからアクリル板がお勧めです。

 そして、もう一つ必要なパーツがPENTAX67用レンズのマウント部の金具です。これはさすがに作成するというわけにはいかないので、レンズから取り外して使います。

PENTAX67用レンズから取り外したマウント金具

 大手ネットオークションサイトで1円で落札したジャンクレンズから取り外しました。
 PENTAX67用レンズのマウント金具は6本のネジで止めてあります。古いレンズの場合、このネジが異常に硬いことがありますので、ネジ山を舐めないように注意して取り外します。

 その他、作成に必要な工具類は、アクリルカッター、ドリル、ヤスリ、アクリル用接着剤、ノギス、コンパスなどです。

アクリル板の加工

 今回作成するアダプタは、ホースマンなどのロールフィルムホルダのボードと同じ寸法なので、上下幅を121.5mmにします。左右幅はフィルムホルダよりも若干余裕を持たせ、180mmとします。
 ここに、PENTAX67用レンズのマウント金具をはめ込むための穴をあけます。寸法は下図の通りです。

 実際に穴をあけたアクリル板はこんな感じです。

マウント金具をはめ込む穴をあけたアクリル板

 この板をカメラ側に取付ける際、カメラ側で押さえ込める板厚は約5.6mmほどなので、この板の周囲に幅6~8mmにカットしたアクリル板を張り付けます。

周囲にアクリル板を張り付けた状態

 一方、カメラ側のフィルムホルダーを受けるところには幅3mm、深さ2mmほどの溝があり、ここにフィルムホルダの突起がはまり込むようになっています。これは、フィルムホルダのずれ防止と光が入り込むのを防ぐためかと思われます。ですので、今回作成するアダプタボードの内側にも、この溝にはまるような突起を張り付けます。これは、幅2.5mmにカットしたアクリル板を接着しています。

アダプタボードの裏側(カメラの溝にはまる突起を取り付け済み)

 これでアダプタボードはほぼ完成です。

PENTAX67用レンズマウント金具の取付け

 さて、次はPENTAX67用レンズのマウント金具をアダプタボードに取付けます。
 カメラ(PENTAX67)を取り付けた際に、カメラが水平にならなければならないので、マウント金具の位置決めは慎重に行なう必要があります。PENTAX67の場合、レンズの距離・絞り指標が真上に来た時、レンズのロックピンが左に90°の位置に来ますので、この位置がずれないように位置決めを行ないます。
 テープなどで仮止めし、マウント金具を固定するためのネジ穴をあけます。

 実際にマウント金具を取り付けるとこんな感じです。

アダプタボードにPENTAX67用レンズのマウント金具を取り付けた状態

 今回使用したアクリル板は表面が光沢面だったので、艶消しのラッカー塗装をしました。
 ボードの上下の縁に削った跡が見えると思いますが、これはカメラのボード押さえ金具がスムーズに入るようにするためのものです。

大判カメラへの取付け

 こうして作成したアダプタボードを大判カメラ(リンホフマスターテヒニカ)に取付けるとこのようになります。

リンホフマスターテヒニカ45にマウントボードを取り付けた状態

 そして、ここにPENTAX67を取り付けるとこんな感じです。

PENTAX67を取り付けた状態

 では、このアダプタボードを実際に使って撮影する際に使用可能なレンズについてですが、PENTAX67のフランジバックは85mm(正確には84.95mm)、今回作成したアダプタボードの厚さは5mm(アクリルボード+マウント金具の厚さ)、リンホフマスターテヒニカの蛇腹の最短繰出し量は約50mm(これは私のカメラの場合)で、これらを合算するとフランジバックは約140mmということになります。
 すなわち、無限遠を出すためには焦点距離が140mm以上のレンズが必要ということになります。これは中判の場合、中望遠に近い値であり、これより短焦点のレンズでは無限遠の撮影は不可能ということになります。

 一方、近接(マクロ)撮影においては自由度が広がります。

 また、PENTAX67というかなり重量級のカメラを取り付けることに加え、シャッターを切るときのミラーショックが大きいので、PENTAX67側でシャッターを切るとカメラブレを起こす可能性が高いと思われます。
 そのため、PENTAX67側はバルブにしてシャッターを開いておき、大判カメラに取付けたレンズでシャッターを切るのが望ましいと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 短焦点(広角)のレンズでの無限遠撮影には使えませんが、フォーカシングスクリーンで構図決めやピント合わせをした後に、ロールフィルムホルダに付け替えるという煩雑さからは解放されます。
 使い勝手がどの程度のものか、実際に撮影で使った時の状況については別途、掲載したいと思います。

(2021.6.26)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第63話 檜原村 初夏の風景を大判カメラで撮る

 4月の後半、檜原村(東京都)に行ってきました。檜原村は都心から車で2時間ほどですが、東京都とはいえ、さすがに標高も高いので、都心よりも季節の進み方はずいぶん遅いようです。まさに新緑真っ盛りといった感じで、大判カメラで初夏の風景を撮ってみました。
 今回持ち出したカメラは、リンホフマスターテヒニカ2000です。

新緑と山桜のコラボレーション

 あきる野市を抜け、檜原街道を西(檜原都民の森方面)に行くと徐々に山深くなってきます。それでも道の両側には民家が見られますが、南郷の駐在所を過ぎたあたりから民家はめっきり減り、東京とは思えない豊かな自然が続きます。山々はまだ淡い色をしており、ところどころに桜(山桜と思われます)も咲いています。

 下の写真は走っている途中で見つけた山桜です。それほど大きな木ではありませんが、隣のオオモミジと思われる新緑とのコラボレーションがきれいだったので撮ってみました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON CM 105mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 この日は曇り空でしたが、強い日差しが当たっているよりは全体的に柔らかな描写になるので、このような被写体を撮るにはむいています。
 道路脇から撮っており、ワーキングディスタンスが制限されてしまうので、若干、広角寄り(105mm)のレンズでの撮影です。大きな木ではないので、あえて左右を切り詰めてみました。
 オオモミジの新緑の色が濁らないように、露出は少し明るめにしています。
 ほとんど無風状態でしたので、1/4秒の低速シャッターでもブレることなく写ってくれました。

矢沢を彩る新録

 檜原街道は南秋川に沿って走っていますが、この南秋川にはいくつもの支流が流れ込んでいます。矢沢もそんな支流の一つで、神奈川県との県境にある生藤山の山麓がその源流です。小さな沢ですが景観が美しく、被写体に富んでいます。矢沢に沿って林道があるのですが、残念ながら途中で通行止めになっていました。

 南秋川に合流する手前の橋の上から撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 水量は決して多くありませんが、とてもきれいな水が流れています。河原の白い石と木々の緑のコントラストが美しい景観をつくりだしています。
 渓谷の深さを表現しようと思い、川を左下に寄せ、急峻な右岸を多めに入れてみました。沢に張り出す左右の枝が重なりすぎないアングルから撮っています。

 また、全体をパンフォーカスにしたかったのでカメラのフロント部を少しだけ下にあおっていますが、左上の奥の木々は被写界深度を外れてしまっている感じです。

 この矢沢はこのような景観が上流まで続いているので、林道の通行止めが解除されたら源流まで行ってみたいと思っています。

山萌える

 この時期の檜原村は木々が芽吹いて間もない頃で、山全体が淡い色彩に覆われています。少し山の上の方に目をやると、緑というよりは「白緑(びゃくろく)」とか「薄萌葱(うすもえぎ)」といった名前がぴったりの色をしています。
 しかし、このような色は長くは続かず、日増しに濃くなっていきます。

 白緑というにふさわしい色合いをした景色に出会いました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 木によって色合いが微妙に異なり、何とも言えない美しさが作り出されています。所どころに桜が咲いており、淡い色を一層引き立てているように感じます。

 このような景観が広がっているので、どこを切り取るか非常に迷いますが、木々が最もこんもりと見えるアングルと、全体が単調なパターンにならないように所どころにアクセントとなるものが配置されるような構図を選びました。
 露出を切り詰めてしまうと、この淡い感じが消えてしまうし、露出をかけすぎると飛んでしまうし、非常に悩むところです。

 この色合い、ポジ原版をライトボックスで見ると息をのむ美しさですが、画面ではお伝え出来ないのが残念です。

ひっそりと佇む龍神の滝

 檜原村にはたくさんの滝がありますが、個人的に気に入っているのが「龍神の滝」です。檜原街道からすぐのところにあり、斜面に設けられた遊歩道を下っていくと容易に訪れることができます。
 落差が18mほどの滝で、かつてはかなりの水量があったようですが、いまはずいぶんと減ってしまい、一筋の糸のような滝です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 周囲は大きな木々でおおわれているため、昼間でも薄暗い状態です。時おり木漏れ日が差し込み、岩や水面に模様を描き出していたので、滝つぼのところだけを撮ってみました。
 昼なお薄暗いところにたたずむ雰囲気が壊れないよう、ごつごつした岩が黒くつぶれないぎりぎりのところまで露出を切り詰め、水が白く飛びすぎないようにしました。

 滝の全景を撮るには対岸からか、もしくは滝つぼから広角で見上げる構図になるかと思いますが、綺麗な滝なのでいろいろな撮り方ができると思います。
 水量は多くありませんが近づくと飛沫が飛んできますので、風の強い日などは要注意かも知れません。

 なお、この滝では滝行が行なわれ、それに訪れる人も多いらしいのですが、一度もお目にかかったことはありません。

 村域の9割以上が山林という檜原村ですが、それゆえにたくさんの自然に恵まれており、森林、渓谷、滝など、四季を通じていろいろな景色に出会うことができます。

(2021.6.4)

#檜原村 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #新緑

第61話 大判カメラのアオリ(6) バックティルト&バックスイング

 前回までフロント部のアオリについて説明してきましたが、今回はバック部のアオリについて触れていきたいと思います。
 ビューカメラはバック部も大きなアオリが使えますが、フィールドカメラ(テクニカルカメラ)ではフロントほど多彩な動きはできませんし、風景撮影においては使う頻度もフロント部のアオリに比べると多くありません。

フィールドカメラのバック部のアオリ動作

 フィールドカメラの場合、バック部のアオリとしては「ティルト」と「スイング」の2種類だけというのが多いと思います。ライズやフォール、シフトなどのアオリはできないのがほとんどです。
 アオリのかけ方もカメラによって異なり、例えばリンホフマスターテヒニカやホースマン45FAなどは、4本の軸で支えられたバック部を後方に引き出し、自由に動かすことができるという方式です。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45のバック部を引き出した状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 バックティルト&バックスイング

 カメラの上部と左右側面にあるロックネジを緩めるとバック部を引き出すことができます。4軸が独立して動くのでバック部全体がだらしなくグニャグニャしてしまいますが、ティルトやスイングを同時に行なうことができます。

 これに対してウイスタ45はティルトとスイングが別々に動作します。

▲WISTA 45SP バックティルト&バックスイング

 ティルトは本体側面下部にある大きなロックネジを緩めて、本体自体を前後に傾けて行ないます。
 また、スイングは本体下部にあるリリースレバーを押し込み、本体を左右に回転することで実現します。これに加えて、本体側面のダイヤルを回すことで微動スイングも可能になります。

 それぞれ一長一短があり、どちらが使い易いかは好みもあるかも知れませんが、ティルトとスイングを同時にかけたいときなどはリンホフ方式の方が自由度が高くて便利に感じます。

バック部のアオリはイメージサークルの影響を受けない

 フロント部のアオリのところでも触れたように、どんなにカメラのアオリ機能が大きくても、レンズのイメージサークル内に納めないとケラレが発生してしまいます。これは、レンズ(フロント部)を動かすことでイメージサークル自体が移動してしまうからです。
 しかし、バック部を動かしてもイメージサークルは動きませんし、また、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことはあり得ませんので、ケラレが起こることもありません(ただし、ビューカメラのようにライズやシフトができる場合は別です)。

 フロント部、およびバック部のアオリとイメージサークルの関係を下の図に表してみました。

 バック部を後方に引き出すということは、イメージサークルが大きくなる方向に移動することであり、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことがないのがお判りいただけると思います。
 フロント部のアオリをかけすぎるとイメージサークルの小さなレンズではケラレが発生してしまいますが、バック部のアオリの場合はその心配がありません。

シャイン・プルーフの法則も適用される

 フロント部のアオリのところで、ピント面を自由にコントロールするシャイン・プルーフの法則について説明しましたが、バック部でも同じようにこの法則が当てはまります。

 下の図はバックティルトによって、近景から遠景までピントを合わせることを説明しています。

 フロント部は固定したまま、バック部を傾けることで撮像面が移動しますので、被写体面、レンズ面、撮像面が一か所で交わるようにすればパンフォーカスの写真を撮ることができます。

バック部のアオリは被写体の形が変形する

 バック部のアオリとフロント部のアオリの大きな違いは、バック部のアオリでは「被写体の形が変形する」ということです。フロント部のアオリでは真四角なものは真四角のままですが、バック部でアオリをかけると真四角なものが台形になってしまいます。

 上の図でわかるように、例えばバック部の上部だけを引き出すバックティルトをかけた場合、バック部の上部がイメージサークルの大きな方向に移動することになります。このため、撮像面に投影される像も広がります。
 一方、バック部の下部は移動しませんので、投影される像の大きさは変化しません。
 この結果、例えば正方形や長方形の被写体であれば、上辺が長い台形となってフォーカシングスクリーンに写ります(投影像は上下反転しているので、写真は底辺が長い台形になります)。

 被写体が変形するということは本来であれば好ましいことではありませんが、物撮りなどで形を強調したいときなどは、あえてバック部のアオリを使って撮影することもあります。

バック部のアオリの効果(実例)

 では、実際にバック部のアオリを使うとどのような効果が得られるか、わかり易いように本を使って撮影してみました。

 下の写真は漫画本(酒のほそ道...私の愛読書です)を、約45度の角度でアオリを使わずに俯瞰撮影したものです。

▲ノーマル撮影(アオリなし)

 ピントは本のタイトルの「酒」という文字のあたりに置いています。当然、本の下の方(手前側)はピントが合いませんので大きくボケています。
 撮影データは下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F8
  シャッター速度 1/4

 同じアングルで、バックティルトをかけて撮影したのが下の写真です。

▲バックティルト使用

 全面にピントを合わせるため、カメラのバック部の上部を引き出しています。すなわち、バック部を後方に傾けた状態です。
 本の表紙の全面にピントが合っているのがわかると思います。バック部のアオリでもシャイン・プルーフの法則によってパンフォーカスの写真を撮ることができます。
 なお、撮影データは上と同じです。

 一方で、アオリをかけた写真の方が、本の下部が大きく写っていると思います。これがバック部のアオリによる被写体の変形です。バック部の上部を引き出したため、被写体と撮像面の距離が長くなり、その結果、撮像面に投影される像が大きくなることによる変形です。

フロント部のアオリとバック部のアオリの比較

 フロント部のアオリでは被写体の変形は起こらないと書きましたが、実際に同じ被写体を使ってその違いを比べてみました。

 モデルは沖縄の人気者のシーサーです。
 下の写真、1枚目はフロントスイングを使って撮影、2枚目の写真はバックスイングを使って撮影しています。

▲フロントスイング使用
▲バックスイング使用

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F11
  シャッター速度 1/2

 二つのシーサーの大きさは同じですが、前後にずらして配置しているので後ろ(右側)のシーサーが小さく写っています。
 しかし、1枚目の写真に比べて、2枚目の写真の手前(左側)のシーサーが若干大きく写っているのがわかると思います。やはりバック部のアオリによる被写体の変形で、バックスイングでも同じような現象が起きます。

 このように、ピント面を移動させてパンフォーカスにしたり、逆にごく一部だけにピントを合わせたりということはフロント部、バック部のどちらのアオリでも同様にできますが、バック部のアオリでは被写体の変形というおまけがついてきますので、被写体や作画の意図によってどちらのアオリを使うか選択すればよいと思います。

バックティルトの作例

 実際に風景撮影でバックティルトを使って撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 1/4 Velvia100F

 満開の桜の木の下から遠景の山を撮影していますが、頭上にある桜にもピントを合わせたかったのでバックティルトを使っています。カメラのバック部の下部をいっぱいに引き出していますが、すぐ頭上にある桜にピントを持ってくるのはこれが限界でした。

 桜の花がかなり大きく写っているのはバックティルトによる影響です。

 ただし、このようなアオリを使った場合、ピント面は頭上の桜と遠景の山頂を結んだ面で、中景の低い位置にピントは合いません。上の写真では中景に何もないので気になりませんが、ここに木などがあるとこれが大きくボケてしまい、不自然に感じられる可能性があります。ピント面をどこに置くか、被写体の配置を考慮しながら決める必要があります。

 風景撮影でバック部のアオリを使う頻度は多くないと書きましたが、使い方によってはインパクトのある写真を撮ることができます。

(2021.5.19)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #ウイスタ45 #WISTA45

第58話 大判カメラのアオリ(5) フロントシフト

 フロント部のアオリの5回目はフロントシフトについてです。これは、レンズ主平面を左右に移動するアオリで、フロントライズを光軸まわりに90度回転させた動きになります。
 このアオリは物撮りでは良く使うのかもしれませんが、私のように主な被写体が風景という場合、使用する頻度は極めてまれです。

フロントシフトを使うケース

 前にも書いたように、風景撮影においてフロントシフトを使うことはほとんどありません。私の乏しい経験からすると、このアオリを使うのは以下のようなシチュエーションではないかと思います。

 (1) 物撮りなどの際に、横方向が縮んでしまうのを防ぐ目的で使用する
 (2) 鏡やショーウィンドウなどの撮影の際に、自分自身が写り込むのを防ぐ
 (3) フレーミングをした際、左右の端の方に余計なものが入ってしまうときにカメラ位置を動かさずにフレーミングから外す

 思いつく使い方はこのくらいですが、物撮りの専門の方はもっと違う使い方をしているかもしれません。
 実際にフロントシフトした状態が下の写真です。

フロントシフトをした状態 Linhof MasterTechnika 45

 リンホフマスターテヒニカ45の場合、シフトできる量は左右それぞれ40mmですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。写真でもわかるように、短焦点レンズの場合、蛇腹がタスキに当たってしまい、これ以上シフトすることができません。
 操作はロックネジを緩め、手で左右に移動させるという非常にシンプルなものです。

横方向が縮んでしまうのを防ぐ

 車の模型を使って、フロントシフトの効果を確認してみます。
 車を斜め前方から普通に撮影したのが下の写真です。

ノーマル撮影(アオリなし)

 これだけを見ていると特に違和感はないのですが、斜め前方から見ているために、車の全長が実際より短く、ずんぐりとした感じに写ってしまいます。これは、「フロントライズ」で触れた、ビルの上の方が小さく写ってしまうのと同じ現象です。

 これに対して、レンズを右にシフトして撮影したのが下の写真です。

フロントシフトのアオリ使用

 上の写真と比べると車の全長が少し伸びて、ずんぐりとしていたのが解消されているのがわかると思います。
 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F22
  シャッター速度 1s

 このように、物撮りでは形を補正することができますが、これを風景撮影の際に使うことはほとんどありません。並木や街並みは遠くに行くに従って小さくなっていくから遠近感が感じられるのであって、これがなくなってしまうと、平安時代の源氏物語絵巻に出てくるような遠近感のない描写になり、違和感を感じます。フロントライズは、縦にまっすぐなものはまっすぐに写したいということで使われることは多いですが、それと同じ理屈を横に適用する必要性は感じられないということでしょうか。

自分自身が写り込むのを防ぐ

 鏡やショーウィンドウなどを正面から撮ろうとすると、自分自身が写り込んでしまいます。斜めから撮れば自分自身の写り込みは防げますが、長方形の鏡やウィンドウが平行四辺形になってしまいます。
 正面から歪みのない形で、しかも自分自身が写らないようにといときにシフトアオリを使うことで実現することができます。とはいえ、私が撮影する被写体においては、ほとんど出番がありません。

左右の端の余計なものをフレーミングから外す

 三脚を構え、いざフレーミングしてみたが、左の端に余計なものが入っているのでもうちょっと右の方にフレーミングしたい、なんていうことはよくあると思います。カメラを右に振れば済むのですが、それだとカメラが回転運動することになり、フレーミングが微妙に変わってしまうことがあります。

 三脚ごと、少し右に移動させたいのですが、フィールドでは足場が悪くてカメラを移動させることができないとか、カメラマンがずらりと並んでいるようなところではカメラを動かすと隣の人の迷惑になるとか、移動できない、移動しにくいということがあります。そんなときにフロントシフトすることで救われることもあるかと思います。

 これはアオリというよりは、カメラを動かすのが面倒だからシフトで凌いでしまえという感じにも思えます。確かにアオリの効果を求めるものではありませんが、そんな使い方もできるということです。以前、別のページで、短焦点レンズを使うときにカメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐためにフロントライズを使うことがあると書きましたが、それと同じような使い方です。

フロントシフトの例...がありません

 実際に風景撮影でフロントシフトを使った作例を掲載できれば良いのですが、残念ながらそのような写真を持ち合わせておりません。シフトアオリを使って撮ることがあれば、あらためてご紹介したいと思います。

 フロント部での個々のアオリについては今回で終了で、次回はバック部のアオリについて触れたいと思います。

(2021.4.29)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第56話 春のあきる野 龍珠院の桜、広徳寺の桜を大判カメラで撮る

 今年(2021年)は桜の開花がとても早く、平年に比べて10日ほど早いようです。
 あきる野市の桜の開花は都心に比べるとだいぶ遅いのですが、開花情報を見てみるとやはり今年は早くて、3月末には満開になっていました。
 ということで、あきる野にある古刹、龍珠院と広徳寺に桜を撮りに行ってきました。

乙津花の里にたたずむ龍珠院

 多摩川の支流の一つである南秋川に沿って走る檜原街道を西に向かい、檜原村に入る手前に「乙津」という地域があります。この一帯は春になると桜やミツバツツジをはじめとした様々な花があちこちで咲き、「乙津花の里」と呼ばれています。

 そんな乙津地域の北側高台にあるお寺が龍珠院です。臨済宗建長寺派のお寺で、600年の歴史があるそうです。花のお寺としても有名で、桜が満開時の風景はそれは見事です。

 下の写真は道路側からお寺の全景を写したものです。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON SWD65mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 今年は新型コロナ感染拡大防止のため、駐車場が閉鎖されていましたが、桜はいつも通り見事に咲いていました。
 ソメイヨシノが満開で、そこにミツバツツジ、ミツマタ、菜の花等が色どりを添えてくれています。お寺の参道の左側にあるソメイヨシノの大木が入るよう、広角レンズで全景を撮りました。しかし、そのままだと空が広く入りすぎてしまうので、頭上にある桜の枝を入れました。
 また、全体をパンフォーカスにしたかったので、カメラのバック部のアオリを使って頭上の桜がボケないようにしています。ソメイヨシノの白い花が濁らないよう、露出は紫色のミツバツツジを基準に設定しています。
 
 本堂に向かって右の方に回り込んで撮ったのが下の写真です。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 2本のソメイヨシノがアーチをつくるように重なって見えるアングルから撮っています。下にミツバツツジを入れて、花に囲まれた本堂をイメージしました。
 桜の大きさを表現するため、できるだけ木に近づいて見上げるアングルにしています。

 この写真のさらに左の方には枝垂桜があるのですが、まだ三分咲きといったところでした。枝垂桜が満開になるとソメイヨシノとは違う、落ち着いた華やかさがあるのですが、その頃にはソメイヨシノが散ってしまうので、撮るタイミングは悩むところです。

 また、ミツバツツジも見ごろでとても綺麗でしたので撮ってみました。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON T400mm 1:8 F11 1/60 PROVIA100F

 お寺の参道の入り口のところに咲いていたミツバツツジです。少し離れたところから焦点距離の長いレンズで撮っています。背景がボケ過ぎずに何が写っているかわかる程度の絞り設定にしてみました。背景を思い切りぼかす表現もありますが、それだとミツバツツジだけの写真になってしまうので、「花のお寺」ということがわかるようにしています。しかし、もう少しぼかしても良かったかなと、出来上がったポジを見て思いました。

 参道の両側にはお地蔵さまが並んでおり、お地蔵様がお花見をしているようなアングルも撮りたかったのですが、そのためには道路に三脚を立てなければならず、通る車やほかの方の迷惑になるので断念しました。

 この時期、本当にたくさんの花が咲いているお寺で、一日中いても撮りあきない場所です。

堂々とした風格のある広徳寺

 龍珠院から檜原街道を五日市方面に戻り、広徳寺に向かいました。
 広徳寺は山の北斜面に建つお寺で、総門の前には「臨済宗建長寺派」と書かれた立派な門柱が立っています。龍珠院と同じ宗派のようです。

 ここは龍珠院よりも桜が進んでおり、ソメイヨシノは満開の時期を少し過ぎていましたが、茅葺き屋根とのコラボが何とも良い風情でした。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 このお寺は建物が立派なので、もう少し左の方の屋根も入れたかったのですが、画全体の締まりがなくなってしまう感じがしたため、狭い範囲の切り取りにしました。
 桜の花の中心が赤っぽくなってきており、明日には散り始めてしまいそうな感じでした。風の強い日であれば綺麗な花吹雪が見られたと思います。

 本堂の前には枝垂桜の巨木があるのですが、残念ながらまだほとんど咲いていませんでした。山の陰になっていてあまり日当たりが良くないからなのか、満開まではもうしばらくかかりそうです。

 「正眼閣」と書かれた額がかけられている重厚感あふれる山門の前にはオオシマザクラとも違うようですが、花の色が白い桜の木があります(下の写真)。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON CM105mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 青空にとてもよく映えていたので、桜を空に抜き、山門を入れて撮ってみました。山門は大きな杉の木の陰になっていたので、黒くつぶれてしまわないように若干露出をオーバー目にしましたが、かろうじて「正眼閣」という文字が読める感じです。
 山門の向こう側に立っている2本の木は銀杏で、秋の黄葉は素晴らしいそうです。

 また、総門から山門に向う参道脇にはたくさんのシャガがありましたが、開花はもう少し先のようです。

大悲願寺の桜はすでに散っていました

 広徳寺での撮影を終えて帰る途中、五日市線の武蔵増戸駅近くにある大悲願寺に立ち寄ってみましが、残念ながらここの桜はほとんど散っていました。
 
 あきる野は都心から車で1時間半ほどで行くことができますが、東京とは思えないくらい豊かな自然が残されています。桜の時期は短いですがこれから新緑の季節を迎え、山の色が日増しに濃くなっていきます。そんな新緑の季節にもぜひ訪れてみたいと思います。

 今回の写真はすべて大判カメラで撮りました。掲載するために画像の解像度を落としていますので、大判写真のすばらしさを伝えられなくて残念です。

(2021.4.10)

#あきる野 #龍珠院 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #PROVIA #花の撮影