第201話 アドックスADOXのモノクロフィルム CHS 100Ⅱの使用感とリバーサル現像

 アドックスADOXという会社はフィルムや印画紙、現像液などを製造するドイツの企業で、世界で初めてX線用写真乾板を開発した企業として有名ですが、現在のアドックスは「アドックス・フォトヴェルケ」という事業会社が継承しており、創業時の会社とは異なるようです。
 アドックスのフィルムを使った経験はあまり多くないのですが、ずいぶん前にCHS100というモノクロフィルムを使ったことがありました。しかし、そのフィルムも2012年ごろに製造が終了になってしまい、その後、後継となるCHS100 Ⅱというフィルムが発売されたのですが、私は使ったことがありませんでした。
 今回、比較的良好な評価が多くみられるCHS100 Ⅱを使ってみました。

アドックスのオルソパンクロマチックフィルム

 外箱はなく、黒いフィルムのケースには「MADE IN GERMANY」と書かれています。ベルリンに工場があるようで、同社のホームページを見ると、「2006年、ADOX工場は1980年代の廃墟となった軍用ランドリーの敷地内に建設を開始しました。多くの研究、生産、製菓機械は、アグファ、フォルテ、コニカなどの倒産した写真工場から救出されました。」と書かれています。日本のコニカも支援をしていたようです。

 オルソパンクロマチックということなので、フィルムとしてパンクロマチックに分類されつつも、赤色光に対する感度低減の性質を持っているということなのでしょう。
 特性について少し調べてみたところ、データシートを見るとおよそ660nmから上の赤色光には反応しないようです。
 フィルムの素材は透明なPETベースが採用されているとのこと、また、2層のハレーション防止層が設けられているなど、CHS100からはいろいろと改良がくわえられている感じです。
 ISO感度は公称値の100に忠実とのことで、現像において80~125まで適応可能なようです。解像力は100本/mmで、CHS100に比べるとずいぶんよくなっているようですが、特別高いというわけではなく標準的な解像度ではないかと思います。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムです。1本1,600円ほどで購入しました。一般的なISO-100のフィルムに比べると少しお高めです。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像はコダックのD-76やイルフォードのD-11など一般に出回っている多くの現像液が使用可能ですが、今回はAdox Adonal現像液を使用しました。
 実際の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : Adox Adonal
  ・希釈 : 1 + 50 (原液1に対して水50)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 12.5分
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌
  ・停止 : 60秒
  ・定着 : 7分
  ・水洗 : 10分

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルで、必要な現像液の量は約500mlです。Adox Adonalの原液10mlと水500mlを合わせて510mlの現像液を調合しました。水は精製水を使うのが望ましいのですが、いつもながら水道水を5分ほど煮沸し、冷ましたものを使っています。
 液温が下がらないように深めのバットに水を張り、その中に電熱器を入れて20℃を保つようにして、そこに現像タンクを入れておきました。
 なお、停止液は酢酸、定着液はスーパーフジックスLと、いずれも富士フイルムの製品を使いました。

 データシートによるとフィルムのベース厚みは0.1mmとのことで、イルフォードのDELTA100と比べるとわずかに薄い印象がありますが、柔らかすぎず程よい硬さといった感じです。
 ただし、乾燥後のカールを防ぐ対策が施されているとのことですが、結構カールします。

アドックス CHS 100 Ⅱの作例

 今回の撮影に使用したカメラはMamiya 6 MF、使用したレンズは75mmです。撮影した中から4枚の写真をご紹介します。いずれも哲学堂公園(東京都中野区)とその周辺で撮影したものです。

 まず1枚目は、哲学堂公園にある四聖堂と呼ばれる建物を撮影したものです。

 周囲にある木々からの木漏れ日が蔀戸のごく一部だけに差し込んでいるところを撮りました。ハイライト部分が白飛びしすぎないよう、露出はおさえ気味にしています。
 コントラストが高い感じはなくて、全体的になだらかできれいな階調で表現されているように思います。シャドー部もつぶれすぎず柔らかな感じを受けます。
 解像度も問題のないレベルだと思いますが、粒状感が目立つように思います。

 写真の中央付近、木漏れ日の差している部分を拡大したのが下の写真です。

 やはり粒状性は粗くて、ざらざらした感じがしますが、木目がしっかりと表現されていたり、蝶番の金属の質感なども良く出ていると思います。コントラストが高すぎて平面的になってしまうようなこともなく、非常に立体感のある写りではないかと思います。

 2枚目は同じく哲学堂公園に設置されている像を撮影した写真です。

 背後は日差しが当たっている雑木林ですが、手前の像には直接光が当たっていない状況です。1枚目の写真とは反対に、像のディテールがわかるように露出は多めにかけています。
 像全体がなだらかな階調で表現されていると思います。特に像の下半分、徐々に黒く落ち込んでいくあたりも綺麗で、黒い中にもわずかな色の違いが感じられます。また、このような状況だと粒状感もあまり気になることはく、綺麗なトーンが出ていると思います。

 3枚目は哲学堂公園近くにあるお寺で撮影したものです。

 入口の山門近くにたくさんのお地蔵さまが並んでいました。お地蔵様の正面から陽が差している状態で、お地蔵様の背後には黒い影がくっきりと出ています。
 ハイライト部分が多めになるように露出はオーバー気味にして撮影していますが、石の質感などが損なわれることなく表現されていると思います。掲載した写真ではわかりにくいかもしれませんが、特に中央左側のお地蔵様の石のザラザラした感じがよくわかります。解像感も申し分ない感じです。
 お地蔵様の前掛けはかなり白飛びしていますが、ペタッとした感じにはならず、布のウェーブがわかるので立体感が感じられます。

 もう一枚、同じ場所で撮影したのがこちらの写真です。

 五重塔の軒下を撮影したもので、直射日光はあたっていないので全体的にコントラストは低めの状態です。斗栱の木の質感がとてもきれいに出ていると思います。うまく表現できないのですが、エッジが効きすぎておらず、シャープさがあるにもかかわらず全体的に柔らかな感じがします。
 若干、粒状性の粗さは感じますが、このようなシチュエーションでは効果的に働いているのではないかと思います。

リバーサル現像に関するデータ

 フィルムベースに透明なPET素材を採用しておりリバーサル現像にも向いているとのことでしたので、2本目はリバーサル現像してみました。
 現像時間を少し変更した程度で、基本的にはこれまで行なってきた現像とほぼ同じ条件で行ないました。
 使用した現像液類は以下の通りです。

 ・第1現像液: シルバークロームデベロッパー 100ml + 水 400ml (希釈 1+4)
 ・漂泊液: 過マンガン酸カリウム水溶液 20ml + 水 230ml と、硫酸水溶液(10%) 25ml + 水 225ml の混合
 ・洗浄液: ピロ亜硫酸ナトリウム 12.5g を水 500mlに溶解
 ・第2現像液:第1現像液を使用
 ・定着液: スーパーフジックス定着液 170ml + 水 330ml

 第1現像時間は標準的なネガ現像時間から換算して9分(20℃)としました。
 その他の工程と時間は以下の通りです。

  ・第1現像: 9分
  ・水洗: 5分
  ・漂泊: 5分
  ・水洗: 1分
  ・洗浄: 3分
  ・水洗: 1分
  ・再露光: 片面3分
  ・第2現像: 3分
  ・水洗: 1分
  ・定着: 7分
  ・予備水洗: 1分
  ・水洗促進: 1分
  ・水洗: 20分
  ・水滴防止: 30秒

リバーサル現像した作例

 フィルムベースが透明ということもあり、とてもすっきりとしたヌケの良い綺麗なポジが得られました。黒の締まりも良く、好感の持てるポジではないかと思っています。
 こちらは東京都庁の都民広場で撮影したもので、使用したカメラは同じくMamiya 6 MF で、レンズは75mmです。都民広場にはいくつものオブジェ(像)が設置されていて、試し撮りにはありがたい場所です。

 まず1枚目、「犬の唄」というタイトルの像です。

 午前中なので像のあたりには陽が差し込んでいません。全体的にコントラストは低めな状態です。
 ネガ現像と同様、ディテールもしっかりと出ており、なだらかな階調で表現されていると思います。使用した現像液が違うので単純比較はできませんが粒状感はあまり気になりません。もしかしたら被写体や背景のせいかも知れません。像が非常に立体的に感じるのはネガ現像と同じです。

 もう一枚、同じく都民広場にある「はばたき」という像を撮ったものです。

 こちらは直射日光が差している明るいビル群や空をバックに、シルエット気味に撮っています。像が真っ黒に塗りつぶされないギリギリのところまで露出をかけています。
 髪の毛や纏っているドレスの細部が綺麗に表現されており、ハイコントラストながらカリッとした硬さは感じられません。このような状況でも描写が乱れないのは及第点だと思います。

 なお、ポジ原版はほぼ透明ですが、わずかに薄い緑色がかかっている感じです。

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 多少の粒状感はあるものの、それがかえってフィルムらしさを感じさせるフィルではないかと思います。解像力も申し分なく、何と言ってもなだらかな階調表現と立体感が持ち前のフィルムという印象です。
 ローライのRPX25やアグファのCOPEX RAPID 50のようなエッジの効いたキリっとした描写ではありませんが、とても豊かな表現をしてくれるという感じです。シャドー部もべたっとつぶれることもなく、ハイライト部も極端に白飛びすることもなく、細部にわたって表現してくれるフィルムと言ったらよいでしょうか。
 ISO感度もほぼ正確に100という値が出ていると思われ、安心して使えると思います。
 また、リバーサル現像でも非常に良い結果が得られており、いろいろな使い方ができるフィルムでもあると思います。もちろん好みもあるでしょうが、スナップやポートレートに向いているかも知れません。

 なお、別の現像液を使用すると結果も変わってくると思いますので、近いうちに試してみたいと思います。

(2025.12.21)

#Mamiya #リバーサル現像 #ADOX #CHS100II #ロジナール #Rodinal

第196話 アグファ AGFA COPEX RAPID 50 モノクロフィルムのリバーサル現像

 第183話でアグファのCOPEX RAPID 50というモノクロフィルムについて書きました。もともとはマイクロフィルムとして使われてきたというだけあって非常にコントラストの高いフィルムであり、一般の撮影用にはあまり向いていないという感想を持ちました。そのため、その後は使うこともなかったのですが、メリハリの効いた描写がとても印象的で、このフィルムをリバーサル現像したらどんな感じに仕上がるのだろうという思いがむくむくと頭を持ち上げてきました。
 ということで、アグファのモノクロフィルム、COPEX RAPID 50をリバーサル現像してみました。

COPEX RAPID 50 を使っての撮影

 今回使用したフィルムはブローニー判の120サイズです。2025年7月1日現在、1本1,600円前後で購入することができます。以前購入した時は1,300円ほどでしたから、この半年ほどの間で2割以上、値上がりしているようです。

 使用したカメラはPENTAX 67Ⅱ、使用したレンズはPENTAX 67用の75mm、105mm、200mm、300mmで、撮影時のISO感度は表記通り、ISO50としました。
 67判のカメラで使用すると10枚の撮影が可能で、被写体をいろいろ選択するほどたくさんは撮れないのですが、できるだけ異なるシチュエーションを選んでみました。

リバーサル現像のプロセス

 現像プロセスはイルフォードが推奨する手順に準拠していますが、使用する薬剤や処理時間等は適宜変更を加えています。
 実際に使用した薬剤は以下の通りです。

 【第1現像液】
  コダックのD-76に準拠して自家調合した薬剤を使用しました。
  今回の現像で使用する現像タンクはパターソンのPTP115というタイプで、これに必要な現像液の量は500mlです。したがって、調合した薬剤とその量は以下の通りです。

  無水亜硫酸ソーダ : 50g
  硼砂 : 1g
  メトールサン : 1g
  ハイドロキノン : 2.5g

  これらを500mlの水に溶解して現像液を作りました。これを希釈せずに使用します。
  なお、このD-76に準拠した現像液の調合についてご興味のある方は、下記のページをご覧ください。

  第187話 モノクロフィルム現像用「D-76準拠」現像液の自家調合

 【漂泊液】

  漂泊液は以下の薬剤を使用しています。

  過マンガン酸カリウム水溶液 20ml + 水 230ml
  硫酸水溶液(10%) 25ml + 水 225ml

  これらを混合して500mlの漂泊液を作ります。

 【洗浄液】

  洗浄液の調合は以下の通りです。

  ピロ亜硫酸ナトリウム 12.5gを500mlの水に溶解します。

 【第2現像液】

  本来、第2現像液は第1現像液よりも希釈度を高めたもの、つまり濃度の薄いものを使用するように推奨されていますが、今回は第1現像液をそのまま使用し、現像時間で調整をすることとしました。

 【定着液】

  今回使用した定着液は以下の通りです。

  フジックス定着液 170ml + 水 330ml

 こうして調合したそれぞれの薬剤は1,000ml用のビーカーに入れ、それを水温20℃に保たれたバットの中にいれ、液温が20℃になるようにしています。なお、現像液は液温が変わると現像時間に影響が出るので、できるだけ正確に20℃を保つようにしたいのですが、それ以外の薬剤は多少の温度の上下があっても問題はないと思います。

 次に、実際の現像プロセスですが、以下のような手順で行ないました。

  ・第1現像: 5分20秒 最初の1分は連続倒立撹拌、以後、1分ごとに5秒の倒立撹拌
  ・水洗: 流水で5分
  ・漂泊: 5分 連続撹拌
  ・水洗: 流水で1分 漂泊液の紫色が消えればOK
  ・洗浄: 3分 連続攪拌
  ・水洗: 流水で1分
  ・再露光: 片面4分 (2分ずつ2回)
  ・第2現像: 3分 最初の1分は連続倒立撹拌、以後、1分ごとに5秒の倒立撹拌
  ・水洗: 流水で1分
  ・定着: 3分 最初の30秒は連続撹拌、以後、30秒ごとに5秒の撹拌
  ・予備水洗: 流水で1分
  ・水洗促進: 1分 連続撹拌
  ・水洗: 流水で20分
  ・水滴防止: 30秒

 第1現像、第2現像ともに倒立撹拌を行なっていますが、必ずしも倒立撹拌である必要はないと思います。ただし、倒立撹拌の方が現像液の濃度のムラはできにくいのではないかと思われます。
 漂泊と洗浄はあまり強い水流を起こし過ぎると銀粒子が剥離してしまう可能性があるので、倒立撹拌は避けた方が良いかもしれません。
 第2露光は一般的な家庭用の蛍光灯(40~60W)を使用した場合、ISO100フィルムで片面1~2分程度です。今回使用したフィルムはISO50なので片面4分としました。この時間が短すぎると残ったハロゲン化銀が完全に露光しきれず、モヤっとしたような仕上がりになってしまうことがありますので、多少長めに露光した方が無難です。
 また、最後の水洗時間が短すぎるとフィルムが黄変してしまうことがあるので、長めに確実に行なうことが望ましいと思います。

 水滴防止液にくぐらせた後は埃の少ない場所につるして自然乾燥させます。フィルムの水滴をスポンジなどでふき取る方もいらっしゃいますが、私はほったらかし乾燥です。

COPEX RAPID 50 リバーサル現像した作例

 このフィルムをリバーサル現像したのは初めてですが、仕上がったポジ原版を見ての第一印象は見事に引き締まった黒が出ているということです。ネガ原版を見ても黒が引き締まっているであろうことは容易に想像できるのですが、実際にポジを見てみるとそれを視覚で確認することができます。
 ポジ原版をライトボックスに乗せた状態はこんな感じです。

 フィルムのカールが強くてクルンとなってしまうのでスリーブに入れての撮影です。そのため、若干画質が悪いですが、締まりの良い感じがわかると思います。

 まず1枚目は、空き地に放置された農機具のようなものを撮ってみました。

 この日は薄曇りでそれほどコントラストが高い状態ではないのですが、やはり、このフィルムで撮ると高コントラストな仕上がりになります。画下側のシロツメクサの葉っぱや上側の杉のような樹の葉っぱなどは比較的中間調として表現されていますが、農機具のボディの白い部分などは真っ白になっています。一方、右上の建物の窓や農機具の下で陰になっているところなどは黒くつぶれていて、全体として目がちかちかするような高コントラストな画像です。
 掲載した写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、細かなところまでくっきりと描写されていて解像度の高さを感じます。

 右下のあたりを切り出したのが下の写真です。

 シロツメクサの葉脈や農機具のパーツに刻印された文字などもくっきりと認識できるので、十分な解像度が出ていると思います。また、粒状感もあまり感じられません。

 2枚目は、神社の参道にあった石灯篭です。

 1枚目の写真よりもさらにコントラスが低い状態です。実際にはこの写真で見るよりもはるかに暗い感じの場所でしたが、それでもコントラストが高く表現されています。石灯篭の明るい部分は飛び気味ですが、石の質感はしっかりと表現されていて、やはりこのフィルムの解像度の高さがうかがえます。

 次は桜の葉っぱを曇り空に抜いて撮影したものです。

 中間調がほとんどない状態ですが、それでも枝の先の方で重なりのない葉っぱは中間調が残っています。葉脈もしっかりと確認することができます。
 虫に食べられて葉っぱに空いた穴が面白いパターンを作り出していました。
 このようなシチュエーションでも、一般的なモノクロフィルムを用いればもっと中間調が豊かに出て柔らかな感じに仕上がると思われます。

 最後はテーブルフォトとして、室内でシーサーの置物を撮った写真です。

 余計なものが入り込まないように黒い背景紙を使っており、写真の左方向から照明を当てていますが、ちょっと照明が強すぎたようです。シーサーの体の部分の質感が損なわれており、露出ミスといったところです。
 その分、彫りが深く見えるかもしれませんが、間接照明にすべきだったと思います。

 前回、ネガ現像した際に用いた現像液はSilverSaltでしたが、今回はD-76準拠の現像液で、しかもリバーサル現像なので単純に比較することはできませんが、やはりSilverSalt現像液の方が綺麗な描写をしていると感じます。
 また、撮影時の露光条件は前回と同じですが、ハイライト部の飛び具合が今回の方が明らかに強い感じです。これは撮影時の条件の差ではなく、現像の違いではないかと思われます。
 白が強く出過ぎているということは、第1現像の時間が長すぎたことが考えられます。つまり、第1現像ではネガ画像が生成されますがこれが強く出過ぎてしまい、漂泊で洗い流されてしまったため、白飛びが強く出たと思われます。第1現像の時間を5分20秒と設定しましたが、4分50秒ぐらいが妥当だったかもしれません。

 ただし、リバーサル現像してもこのフィルムらしい高コントラストの像は十分に保たれており、大きな品質の低下も感じられませんでした。
 黒と白だけで構成されたパターン的な描写を狙うのであれば効果的なフィルムではあると思いますが、やはり景色という視点からすると扱いの難しいフィルムです。

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 今回使用したCOPEX RAPID 50に限らず、モノクロフィルムをリバーサル現像するとポジ原版が得られるので、ライトボックスなどでそのまま鑑賞することができます。ネガを見るのとは全く違った感覚です。
 しかし、リバーサル現像してしまうと通常の紙焼き(プリント)はできなくなってしまいます。スキャナなどで読み取ってデータ化する分には問題ありませんが、紙焼きするのであれば通常のネガ現像にしておくべきで、私も時々、テスト的にリバーサル現像する程度です。
 また、スライドプロジェクターのような機器で大きく投影するにはポジ原版が必要ですが、残念ながら私はそのような機器を持ち合わせていません。スクリーンに大きく投影されれば、昔のモノクロ映画を見ているような感じで感動するかもしれません。

 なお、機会があればSilverSaltを使ってリバーサル現像してみたいと思います。

(2025.7.5)

#AGFA #COPEX_RAPID #D76 #アグファ #モノクロフィルム #リバーサル現像

第194話 Wollensak ウォーレンサックの軟焦点レンズ VERITO ベリートの絞り羽清掃

 私はバレルレンズを数本持っていますが、いずれも100年以上前に製造されたレンズで、すべて中古品で購入したものです。その中の1本がウォーレンサックのベリート VERITO 8.3/4インチという軟焦点(ソフトフォーカス)レンズです。
 少し調べてみたところ、このレンズが製造されたのは1913年頃らしく、日本では後のコニカ株式会社となる小西商店が1914年(大正3年)から輸入販売を始めたらしいです。今から110年以上も前のことです。
 私がこのレンズを手に入れたのが15年ほど前です。このレンズが何処で誰によってどのような使い方をされてきたのかはわかりませんが、110年も経過しているので鏡胴の塗装も剥げかけていたり、汚れや傷があったりしていますが、特に絞り羽が非常に汚れていて、しかも動きもぎこちない感じです。経過年数を考慮すれば仕方がない気もしますが、分解して絞り羽を清掃することにしました。

レンズの分解

 ベリートにもいろいろなモデルがあるようですが、私の持っているレンズは下の写真のようなタイプです。

 全身金属製でずしっと重いレンズですが構造はとてもシンプルで、絞り機構を挟んで前玉と後玉がはめ込まれているだけです。いずれもねじ込み式なので、少し力を入れて回すと簡単に外すことができます。

 前玉を外したのが下の写真です。

 絞り羽は20枚です。最小絞りまで絞り込んだ状態ですが、羽に何やら白い粉のようなものがたくさんついているのがわかると思います。これが何なのかよくわかりませんが、絞りを動かすと時々剥がれ落ちてレンズに付着したりします。ですが、綿棒などでそっと擦ったくらいでは取れないくらいしっかりと張り付いています。
 油の滲みのようなものは全く見られませんが、もしかしたら100年の歳月の間に油分が劣化したものなのかも知れません。絞り羽が擦られることで削れているわけではないようです。

 次に後玉を外した状態の写真です。

 こちらも同様に、絞り羽に白い付着物が見られます。
 写真ではわかりにくいかもしれませんが、それぞれの羽の真ん中あたりから半分だけに白い粉のようなものが付着しています。この位置は絞りをF8に絞り込んだ状態に相当しています。その状態で何十年も放置されていた証のようにも思えます。

 これで絞り機構部分だけになったわけですが、ここからさらに分解をしていきます。

 まず、絞りリングについている小さなネジを外します。
 下の写真の赤丸の中にあるネジです。

 このネジは絞りリングの内側にある溝に勘合していて、絞りリングがF4からF45の範囲だけ動くようにするためのものです。

 そして、絞りリングを回すとこれを外すことができます(下の写真)。

 絞りリングが嵌っていたところに細い溝が切ってあるのがわかると思いますが、ここに先ほどのネジの先端が勘合して絞りリングの可動範囲を制限しているわけです。

 次に、絞り羽を上から押さえながら回転させるためのパーツを外すのですが、まず、絞りリングが嵌っていたところにある小さなイモネジを外します。

 上の写真のほぼ中央に小さなネジがあると思いますが、このネジを外します。非常に小さなネジなので、なくさないように注意が必要です。
 このイモネジを外すと、いちばん内側にあるリングを回すことができるようになります。

 このリングを外した状態が下の写真です。

 上の写真で、右側の絞り羽の上にある黒いリング状のものが絞り羽を開いたり閉じたりさせているパーツです。
 このパーツは絞り羽の上に乗っているだけなので、ピンセットなどでつまんで簡単に持ち上げることができます。

 下の写真がこのパーツを外した状態です。外したパーツを裏返して撮影してあります。

 左側のパーツに放射状に切ってある溝に絞り羽の先端のピンが嵌っていて、これを回転させることで絞り羽が開いたり閉じたりします。

 ちなみに、絞り羽を全開にした状態が下の写真です。

 絞り羽がかなり汚れているのがわかると思います。

 絞り羽を全部取り出してみました。、それぞれの羽の状態はこんな感じです。

絞り羽と各部の清掃

 このレンズの絞り羽は20枚あって、すべてが同じ形状をしていると思われるのですが、念のため、取り付けられていた順番が変わらないように並べておきます。
 今回、絞り羽はベンジンで清掃しました。無水アルコールでも大丈夫だとは思いますが、油分を取り除くにはベンジンの方が効果的かと思い、ベンジンを使用しました。
 羽の表面についている白い粉のようなものはきれいに除去できましたが、絞り羽が重なってできたと思われる痕は取り除くことができませんでした。あまり強力に擦って羽を傷めてしまっては元も子もないのでほどほどの状態で妥協です。

 その他、各パーツは無水アルコールと綿棒を使って落とせる汚れはできるだけ落としたという感じです。正直なところ、見違えるほどきれいになったという印象ではありませんが、良しとしましょう。

絞り羽の組み上げ

 各部の清掃が終わったところで、いよいよ組み上げです。これは分解したのと逆の順序で行なえば問題はないのですが、絞り羽をはめ込んでいくのは少々根気がいります。
 20枚のうち、最初の10枚ほどは順番に重ねていくだけなのでどうってことはありませんが、後半になると、最初にはめた羽の下に潜り込ませて嵌め込んでいかなければなりません。注意しないと、せっかくそれまでに嵌めた羽が外れてしまうなんていうことが生じるので、慎重に行ないます。

 20枚すべての羽を嵌め終えたら、羽の先端のピンと穴がうまく勘合せずに浮いているところがないか確認し、大丈夫なようであれば羽を稼動させるリング状のパーツをそっと乗せます。
 なお、このパーツは嵌める位置がずれると絞り値の指標通りに稼動しなくなってしまうので注意が必要です。下の写真でわかるように小さな切り欠きがあるので、これを絞りリングの可動範囲を決める溝の端に合わせて嵌めるようにします。

 次に絞りリングの取り付けですが、まず、絞りを全開の状態にします。その状態で絞りリングをいちばん奥までねじ込んでいきます。これ以上ねじ込めないなったところで、絞りリングのF4の指標と絞り値を指すマークが一致するところまで絞りリングを戻します。
 その状態を保持しつつ、絞りリングの可動範囲を制限するネジをはめ込みます。絞りリングを取り付けた後、これを回してみてスムーズに動くかどうかの確認を行います。硬すぎたり緩すぎたりせずにスムーズに動けば問題ないと思います。

 絞りリングを取り付けた後の状態がこちらの写真です。

 清掃前と比べると絞り羽はだいぶ綺麗になったと思います。どうしても落とせない汚れ等が若干残っていますがまずまずの状態ではないかと思います。
 ぎこちない動きをしていた絞りリングもスムーズに動くようになりました。個人的にはもう少し動きが重いほうが好みですが、使用上は支障のないレベルだと思います。

 あとは前玉、後玉を取り付ければ組み上げは完了です。

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 100年以上も前に作られたレンズということで清掃にも限界がありますが、ずっと気になっていた絞り羽が綺麗になったので、喉につかえていた魚の小骨がとれたような感じです。
 鏡胴の塗装なども塗り直しをすればきれいになるのでしょうが、オリジナルをあまり変えてしまうのもどうかと思い、手をつけずにいます。やはり、100年経ったらそれなりの風格のようなものがあった方が自然かなと思います。

 今回、このレンズを分解・清掃してみて思ったのですが、鏡胴にはスレや細かな傷はあるものの、レンズはかなり綺麗な状態を保っています(レンズは購入後に清掃をしてあります)。実際に撮影に使用された時間というのはあまり長くなく、大半は使われずに保管されたままだったのではないかと思います。
 一方で、前玉の鏡胴の外周は全周に渡って塗装が削られたような状態になっていて、これはソロントンシャッターを取り付けた際の傷ではないかと思われます。
 このレンズでどんな写真を撮っていたのかと想像すると、ちょっと楽しくなります。

(2025.5.26)

#VERITO #バレルレンズ #ベリート

第192話 ローライ Rollei のモノクロフィルム SUPER PAN 200(120) の使用感

 ローライブランドではたくさんのフィルムが販売されていますが、このSUPER PAN 200フィルムはずいぶん前に数回使っただけで、それ以降は使うことがありませんでした。どこが気に入らないというような理由があったわけではありませんが、使い慣れていたフィルムを使い続けていたというだけのことです。
 しかし、数年前によく使っていた富士フイルムのACROSもACROSⅡになり、驚くほど価格が高騰してしまったので、その代替となるフィルムを物色し始めました。
 そんなわけで、久しぶりにローライのSUPER PAN 200を使ってみました。

ローライのスーパーパンクロマチックフィルム

 このフィルムはもともとアグファが出していたフィルムのようで、それを新たにローライのブランドとして発売しているようです。箱には、「 Made in Belgium」と書かれていますので、製造はアグファ・ゲバルト社で行なっているようです。
 大きな分類ではパンクロマチックのモノクロフィルムに属するのでしょうが、750nm付近の光まで反応するとのことで、赤外線フィルターを用いることで赤外線写真の撮影も可能なようです。パンクロマチックに「スーパー」が冠されているのはそのような理由によるものなのでしょう。そのためか、フィルムはかなり遮光性の高そうな、そして、なんの愛想もないパッケージに入っています。
 ISO感度は200なので使いやすいフィルムではないかと思います。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムです。1本1,500円ほどで購入しました。一般的なISO-100のフィルムに比べると少しお高めといった感じです。

 ローライから出されているデータシートを見てみると、ISO 125~250まで適応可能で、解像力は180本/mmとなっています。データ上は富士フイルムのACROSⅡとほぼ同じ解像力のようです。
 そして、「高感度の白黒ネガフィルム。多彩でコントラストの高い被写体の撮影に最適です。特に低照度条件で威力を発揮します。頼りになる万能フィルムです。」と書かれています。自信満々のようです。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像は一般的に出回っている多くの現像液で問題なくできるようで、今回はSilverSalt現像液を使用しました。
 実際の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : SilverSalt
  ・希釈 : 1 + 25 (原液1に対して水25)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 12分
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌
  ・停止 : 60秒
  ・定着 : 7分
  ・水洗 : 10分

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルで、必要な現像液の量は約500mlです。SilverSaltの原液20mlと水500mlを合わせて520mlの現像液を調合しました。

 液温が下がらないようにバットに20℃の水を張り、その中に電熱器を入れて20℃を保つようにして、そこに現像タンクを入れておきました。

 なお、停止液と定着液は富士フイルムの製品を使いました。

ローライ SUPER PAN 200 の作例

 今回の撮影に使用したカメラはMamiya 6 MF、使用したレンズは55mmと75mmの2本です。撮影した中から5枚の写真をご紹介します。

 まず1枚目は、都庁の都民広場で撮影したものです。

 右側から日差しが差し込んでいるので画の中央部分と右端の部分がかなり明るくなっています。地面に貼られているタイルの様子がかろうじてわかりますが、この画の中ではいちばんのハイライト箇所でしょう。
 一方、極端なアンダーという箇所はなく、全体的には比較的中間調で構成されていると言えると思います。確かに解像力は高いという印象を受け、特に柱の石の質感は良く出ているのではないかと思います。
 また、白から黒へのグラデーションも滑らかで、高い解像度を持ちながらも硬すぎることのない描写といった感じです。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、粒状感もほとんど気になりません。
 
 2枚目は近所の公園で撮影した写真です。

Created with GIMP

 だいぶ日が傾いてきている時間帯で、木々の影も落ちていて、薄暗いというほどではありませんが光量の少ないシチュエーションです。
 この写真は明らかに露出不足です。作画意図を持ってアンダー気味にしたのではなく、もう少し明るく撮影したつもりだったのですが、結果的にはだいぶ暗い仕上がりになってしまいました。たぶん、意図した露出よりも1/2~2/3段ほどアンダーだと思います。1枚目の写真に比べるとディテールの描写が明らかに甘い感じですが、黒くつぶれてしまうほどではなく、写真全体の雰囲気はこの方が良かったかも知れません。

 そして3枚目ですが、公園内の雑木林を撮ってみました。

 この季節は木々に葉っぱがないので林の中まで光が差し込んでおり、結構明るい感じがします。日の当たっていない木の幹とのコントラストがかなり高い状態です。
 木の根元にある枯草が鮮明に写っているので解像度の高さは感じますが、画の上半分、折り重なる枝で白と黒のメッシュのようなパターンが構成されているあたりを見ると、何となく描写が甘い感じです。解像度が低いというわけではなさそうで、白く輝いている細い枝の部分のディテールがうまく表現されていないように見えます。
 また、左側の2本の大きな木の幹は黒くつぶれてしまっており、幹の質感はほとんどわからない状態です。コントラストが高い状態はあまり得意ではないのかもしれません。

 それでは、さらにコントラストの高い状態をということで4枚目の写真がこちらです。

Created with GIMP

 これは、公園内の池の中に自生している葦の仲間だと思います。もちろん、この時期なのですっかり枯れています。そこに光があたっているのですが、背後の林や池は日陰になっているのでコントラストの高い状態です。
 光があたっている枯れた葦の茎は白く輝き、かなり硬い感じの描写になっています。白飛びしすぎないようにと露出を抑え気味にしているのですが、それでもこの状態で、金属の棒でも写したのではないかと思えるほどです。
 一方、背後はかなり暗く落ち込んでおり、かろうじて木があることはわかりますが、それ以上の細部は判別不能といった感じです。

 最後、5枚目はコントラストの低い状態をということで、海岸から突き出ているごつごつした岩場を撮影したものです。

 この日は曇り空で、まんべんなく光が回っているという状況です。海も何となくさえない色をしていて、岩場も黒い岩と白い岩が層をなしているような場所ですが、コントラストは低めです。
 解像力も申し分のない状態で、全体としてなだらかな階調の変化が見られます。
 また、白飛びしている箇所や極端に黒くつぶれているところもなく、豊かな再現性という印象です。

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 解像力も高く粒状感も気になることもなく、描写性能としては高いフィルムだと思うのですが、シャドー部の描写はあまり得意ではないように感じます。ハイライト基準で露出を決めるとシャドー部は本当に黒くつぶれてしまいます。確かに黒はきれいに出ていますが、ディテールがほとんどわからなという状態です。
 また、ISO-200となっていますが、実効感度は125~160くらいではないかと思われ、特に低照度状態で撮影する場合はさらに実効感度は下がる(たぶん、100とか80)感じです。
 逆に露出をかけすぎるとハイライト部がとても硬調な感じになってしまい、写真全体の印象が変わってしまいます。
 極端にコントラストの高い状態を避け、1/2~2/3段ほど露出を多めにかけると、なだらかできれいな描写が得られるように思います。

 なお、今回はsilverSalt現像液を使いましたが、別の現像液だと様子も変わってくるかも知れません。

(2025.3.30)

#モノクロフィルム #ローライ #Rollei

第187話 モノクロフィルム現像用「D-76準拠」現像液の自家調合

 コダックから販売されていたD-76現像剤が生産終了になってから2年近くになります。私はこのアナウンスがあったときにD-76現像剤を少し買い入れておきましたが、それも1年ほど前に底をついてしまいました。今は中外写真薬品株式会社からD76現像剤が発売されていますが結構お高い価格設定になっているので、私はD-76現像剤に「準拠」した現像剤を自分で調合して使っています。
 今や、はるかに優れた現像液がたくさんありますが、比較的安価でお手軽でそこそこの品質が得られるということで、使いやすい現像液であるといえると思います。私も以前に比べるとD-76現像液を使う頻度はずいぶん減ってしまいましたが、ちょっと現像というようなときには重宝しています。
 今回はD-76に準拠した現像液の調合と、その現像結果についてまとめてみました。

「D-76準拠」現像液に必要な薬剤

 D-76現像剤がコダックから発売されたのは1927年だそうですから、間もなく一世紀が経とうとしています。100年近くにわたってもなお世界中で使われ続け、しかもあまり進化もしていないということに驚きです。
 D-76現像剤の構成は非常にシンプルで、必要な薬剤はわずか4種類だけです。いずれの薬剤も今のところ簡単に調達でき、しかも比較的安価なものばかりです。必要な薬剤とおおよその価格は以下の通りです。なお、価格は2024年12月20日時点、新宿の大手カメラ店でのもので、いずれも税込み価格です。

  ・無水亜硫酸ソーダ(500g)  793円
  ・硼砂(500g)   1,300円
  ・メトールサン(25g)  1,100円
  ・ハイドロキノン(50g)  1,200円

 上の写真で、無水亜硫酸ソーダと硼砂を入れている容器は本来のものではありません。購入時はビニール袋と紙箱に入った状態であり、湿気てしまうといけないので保管し易い空いたペット容器に移し替えています。

 無水亜硫酸ソーダは現像液の酸化を防ぐためのもので、現像保恒剤の役割を果たします。食品の褐色化防止剤やワインの酸化防止剤としても使われているようです。
 硼砂は水に溶かすと弱アルカリ性となり、現像液のアルカリ調整剤として転嫁されるものです。
 そして、メトールサンとハイドロキノンは現像主薬となる還元剤で、感光したフィルムの臭化銀を銀に変化させる役目を持っています。

現像液の調合

 さて、実際の現像液の調合ですが、1リットル(1,000ml)のD-76準拠現像液の原液を作るのに必要な薬剤の量は以下の通りです。

  ・無水亜硫酸ソーダ : 100g
  ・硼砂 : 2g
  ・メトールサン : 2g
  ・ハイドロキノン : 5g

 これらを以下の手順で調合していきます。

 まず、55℃前後の温水800mlをビーカーに用意します。これは精製水を使うのが望ましいのですが、購入すると結構な出費になるので、私は水道水を5分ほど煮沸し55℃近くまで下がったものを使っています。
 ここに、無水亜硫酸ソーダ100gのうちの10~20g程度を入れ、完全に溶けるまで撹拌します。これはメトールサンを投入した際の酸化を防ぐためです。

 次にメトールサン2gを投入し、撹拌します。

 メトールサンが完全に溶けたら残りの無水亜硫酸ソーダを投入して撹拌します。

 同様に、ハイドロキノンを投入して撹拌、硼砂を投入して撹拌という手順で行います。

 最後に水を約200ml追加して、全体が1,000mlになるようにします。

 これでD-76準拠の現像液の原液が完成です。

 ちなみに、1リットルの原液を作るのに必要な薬剤のコストを単純計算してみると以下のようになります。

  ・無水亜硫酸ソーダ 100g/500g x 793円 = 158.6円
  ・硼砂  2g/500g x 1,300円 = 5.2円
  ・メトールサン  2g/25g x 1,100円 = 88円
  ・ハイドロキノン 5g/50g x 1,200円 = 120円

 ということで、合計で371.8円となります。
 中外写真薬品から販売されているD76現像剤の価格が1,300~1,400円ほどですから、それに比べるとかなり割安といえると思います。

現像結果 D-76現像液との比較

 今回、使用したフィルムはイルフォードのDELTA100 PROで、現像はいずれも下記の条件で行ないました。

  希釈 : 1 + 1
  液温 : 20℃
  現像時間 : 11分

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というタイプで、必要な現像液の量は500mlです。ですので、原液250mlに水250mlで希釈した現像液を使用しました。

 まず、コダックのD-76現像液で現像した写真です。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmです。

 撮影した日は薄曇り、時々、雲の間から陽が差すという天候で、極端にコントラストが高いという状況ではないため、若干柔らかめな描写になっていますが、DELTA100らしい黒の出方をしていると思います。粒状感が出過ぎるような荒れた感じもなく、比較的きれいに仕上がっているのではないかと思います。
 また、現像ムラのようなものも見受けられず、特に問題のない状態のようです。

 次に、自家製のD-76準拠の現像液で現像した写真です。
 フィルム、現像条件は同じです。

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 こちらは撮影した日が異なり、晴天だったのでコントラストが高めの景色になっていますが、現像条件によってコントラストが高めに出ているわけではありません。同じ日に同じ場所、同じ条件で撮影すればわかり易いのでしょうが、残念ながらそのような同じ条件で撮影をしておりません。
 コダック製のD-76現像液で現像したものと違いがあるかといわれると、コダック製のほうがごくわずかにシャープに見える気もしますが、そのような気がするだけでほとんど違いがわかりません。
 ネガをルーペで見ても両者の差を判別することはできませんでした。

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 本家(コダック)のD-76がなくなってしまい、厳密な比較をすることはできませんが、レシピに基づいて自家調合した現像液でも概ね良好な仕上がりになっており、十分にD-76現像液の代替にはなるかと思います。
 この自家製現像液、私は120フィルム2~3本で廃棄してしまうので、どれくらいの処理能力があるのかは不明です。現像時間を増やしていけば5~6本くらいはいけるかもしれませんが、毎日使うわけではないので、使用したものは保管せずに廃棄してしています。

(2024.12.23)

#D76 #ILFORD #KODAK #イルフォード #コダック #モノクロフィルム

第183話 アグファ AGFA のモノクロフィルム COPEX RAPID の使用感

 アグファ AGFA といえば世界で最初に内式のリバーサルフィルムを製造・販売した会社で有名ですが、いまから30年ほど前、アグファからはSCALA200というモノクロのリバーサルフィルムが販売されていました。個性的なフィルムを出す会社という印象がありました。今はADOXから若干のモデルチェンジをした製品がSCALAブランドで販売されているようです。
 実は、前々からAGFA COPEX RAPID というフィルムが気になっていたのですがなかなか使う機会がなく、ようやくそのフィルムを使って撮影が実現できましたのでご紹介します。

アグファのドキュメント用フィルム

 AGFA COPEX RAPID というフィルムはドキュメント撮影用というカテゴリーに分類されるようで、フィルムケースのラベルには「MICROFILM」と書かれています。すなわち、風景やポートレートなどを撮る一般的なモノクロフィルムではなく、本来は書類や図面などを記録するためのフィルムということのようです。
 ISO感度は50で、マイクロフィルムとしてみれば感度は高いと思いますが、一般的なフィルムからすると低感度です。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムで、通販で1本1,300円ほどで販売されていました。1本ずつプラスチックケースに入っており、そのキャップの上部には「Rollei」のロゴが入っています。
 また、ラベルには「MANUFACTURED BY AGFA GEVAERT N.V.」とあるので、フィルムの供給はドイツのマコという会社が行なっていますが、実際に製造しているのはベルギーにあるアグファ・ゲバルト社のようです。

 マイクロフィルムというとその用途から高い鮮明度と解像力が求められており、このフィルムも鮮明度や解像力は優れているようで、販売元のデータを見ると解像力は600本/mmとなっています。富士フイルムのモノクロフィルムACROSⅡの解像力はハイコントラスト時で200本/mmとのことですから、いかにCOPEX RAPIDの解像力が高いかがわかります。
 実際にウェブサイトなどに掲載されている作例を見ても、とてもハイコントラストで高解像度の写真に仕上がっていて、やはり、一般的なモノクロフィルムとは別物といった感じです。

 ドキュメント用フィルムだからといって風景が撮れないわけではないので、今回は神社仏閣と野草を対象に撮影をしてみました。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像は専用の現像液として販売されている「シュプール Dokuspeed SL-N」が推奨となっていますが、私は持ち合わせていないので、今回はSilverSalt現像液を使うことにしました。
 SilverSaltは比較的使う頻度が高く、使いかけのボトルが手元にあるのですが、COPEX RAPIDを現像する際のデータがありません。あちこち調べてみたのですが的確な情報を得ることが出来ず、環境的にいちばん似通っているであろうと思われるデータをもとに現像条件を決めました。

 ということで、今回の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : SilverSalt
  ・希釈 : 1 + 30 (原液1に対して水30)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 9分30秒
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルなので、必要な現像液の量は約500mlです。SilverSaltの原液17mlと水510mlを合わせて527mlの現像液を調合しました。

 因みに、135フィルムの場合、撹拌は1回で大丈夫なようです。

 先日までの猛暑もひと段落して室内温度もそれほど高くないので、現像液の温度を20度に保つにはありがたい気温になっていました。いったん20度になれば、20分ほどであればそのまま放っておいても液温はほとんど変わることはありません。

 現像後の現像液はピンク色に染まっていました。
 また、フィルムベースはほぼ透明ですが、非常にカールが強い傾向にあります。乾かしてもクリップを外すとくるんと丸まってしまい、スリーブに入れてもスリーブ自体が丸まってしまうほど強力です。

 なお、停止液と定着液は富士フイルムの製品を使いました。

COPEX RAPID の作例

 現像が成功したのか、はたまたイマイチだったのか、正直なところ判断がつきませんが、まずまずの像が得られているようです。
 今回の撮影に使用したカメラはPENTAX67、使用したレンズは105mm、200mm、300mmの3本、そして一部に接写リングを使用しています。

 まず1枚目は、神社の参道の入口にある狛犬を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX-M 67 300mm F5.6 1/250

 狛犬とその隣にある石灯籠などには陽が当たっていますが、背後の神社の森は日陰になっていて、コントラストの高い状態です。肉眼では背後の森もしっかりとわかる明るさなのですが、写真ではほとんど黒くつぶれています。
 こうしてみてみると、確かにハイコントラストに仕上がっているのがわかります。ローライのRPX25というフィルムもハイコントラストの傾向がありますが、それよりももっとシャープな印象があります。

 2枚目は、お寺の山門脇の草むらに置かれていた小さなお地蔵様です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 200mm F5.6 1/500

 右側のお地蔵様にピントを合わせていますが、何と言ったらよいのか、お地蔵さまも着けている前掛けや帽子などの質感さえも変わってしまっているような感じを受けます。柔らかさのようなものはどこへやら失せてしまい、金属で作られたオブジェのようにも見えてきます。

 そして3枚目、神社の拝殿を撮影しました。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 67 105mm F16 1/8

 少しコントラストの低い被写体をということで、太陽に雲がかかっている状態で神社の拝殿を正面から写しました。画の下半分はだいぶ明るいのですが、上に行くに従って陰になっているので徐々に暗くなっています。
 前の2枚に比べると確かにコントラストは低いのですが、シャープさはしっかり残っているというか、とにかくエッジがしっかりと効いているといった感じの描写です。正面の格子戸や賽銭箱、壁板、回廊に張られた床板の木目など、まるで鋭い刃物の先で線を引いたような感じで写っています。

 次に、野草も何枚か写してみたのですが、はっきり言ってこちらの方が驚きました。

 まずは道端に咲いていた野菊、多分、柚香菊(ユウガギク)だと思います。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500

 順光状態での撮影なので背後の草むらももっと明るいのですが、花弁だけがひときわ白く、まるでたくさんの小さな花火が開いているようです。花の質感が失われており露出オーバー気味ですが、それを差し引いても驚くようなハイコントラストです。

 そしてこちらも野菊の仲間、野紺菊(ノコンギク)だと思われますが、数輪だけをアップにしてみました。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500 EX3

 前の写真に比べると光が弱いのと、こちらは露出オーバーにはなっていないのでコントラストは若干低めですが、作り物のような印象を受けます。やはり単に鮮明度が高いというだけでなく、エッジがピンと立っているという感じです。花特有の柔らかさなありませんが、これはこれで一つの表現方法かも知れません。

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 今回は120フィルム1本、10コマだけの撮影でしたが、COPEX RAPIDというフィルムの特性を垣間見るには十分すぎるくらいでした。特に花を撮った写真の描写にはびっくりといった感じです。
 確かに風景写真や花の写真には不向きなフィルムかも知れませんが、一般的なモノクロフィルムでは味わえない独特な描写はとても印象的です。
 ただし、初めて使ったフィルムなので現像の特性等もわかっておらず、希釈率や現像時間、温度などを変えて何度か試してみる必要はありそうです。

 推奨されている現像、シュプール Dokuspeed SL-Nを使えばもう少し違う描写になるかも知れませんし、普段よく使っているD-76とかID-11などを使って現像すれば全く違う感じに仕上がるかも知れません。何種類かの現像液で試してみたい気もしています。

(2024.10.5)

#AGFA #アグファ #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム #COPEX_RAPID

第182話 大判カメラ タチハラフィルスタンド45 Fiel Stand 45 の蛇腹交換

 現在、私が使っている大判カメラのうち、唯一の木製カメラであるタチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は蛇腹がだいぶくたびれてきていて腰が弱くなっており、蛇腹を伸ばすと自身の重みで下側に垂れ下がってしまいます。しかも、ピンホールの補修箇所が何ヵ所もあります。光線漏れしているわけではないので使えないことはありませんが、蛇腹の締まりがないのは見てくれも良くありません。
 そこで、思い切って蛇腹を交換することにしました。

古い蛇腹の取外し

 タチハラフィルスタンドの蛇腹は、カメラのフロント部(レンズスタンダード)の裏側と、バック部の内側に直接接着されています。金属製のフィールドカメラなどのように何らかの金具を用いているわけではなく直付けです。このため、蛇腹はベりべりと引っ剥がす感じになります。
 フロント部、バック部のどちらから剝がしても問題はありませんが、フィルスタンドのフロント部は可動範囲が大きいので、フロント部を先に剥がした方が作業がし易いです。

 しかし、口で言うほど簡単には剥がれてくれず、蛇腹の端の方から少しずつ捲りあげ、ゆっくりと剥がしていくことになります。
 それでも長年の使用でへたってきている蛇腹は簡単に破れてしまい、フロント部の裏側に接着剤とともに残ってしまいますが、後で綺麗にするとして、まずはフロント側を全部剥ぎ取ってしまいます。

 フロント側を外した状態がこちらです。

 次にバック側ですが、こちらは木枠の底に貼り付けてあるような状態なので作業はしにくいですが、フロント部が外れているので蛇腹を畳んだ状態で隅のところから持ち上げていくと何とか剥がれていきます。
 取り外した蛇腹は使い道もなく廃棄ですが、こんな感じです。

 写真でもわかるように、合成ゴム系の接着剤が使われています。

 蛇腹を外したフィルスタンドはなんだかとても頼りなげな感じになってしまいます。

 次に、蛇腹が貼りついていたところに接着剤や破れた蛇腹の残骸があるので、これを綺麗にしていきます。
 カメラの素材が木なので、ドライバーの先やヘラなどの固いもので擦ると木が削れてしまう可能性があります。面倒ですが、ピンセットなどを使って残った接着剤をコツコツと取り除いていきます。剝がれにくい場合はドライヤーなどで温めると接着剤が柔らくなって剥がしやすくなります。

 こうして綺麗になったのが下の写真です。

 内側の縁が黒くなっているのは接着剤ではなく、黒い塗料が塗られていた名残です。

 バック部の内側も綺麗になりました。

新しい蛇腹の調達

 さて、新しい蛇腹ですが、いろいろと悩んだ末、今回は特注で作成していただきました。
 既製品を探してみたところ、耐久性に優れた本革製の蛇腹は非常に高額なのと、注文を受けてから作る受注生産品なので納期が2か月近くかかってしまうとのことで断念しました。私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは本革製の蛇腹を使用しているのですが、フィルスタンドはリンホフに比べると使用頻度が低いので本革製でなくてもいいだろうという自分なりの妥協です。
 また、ビニールのような素材のものあり、価格は安いのですが耐久性が心配で、こちらも候補から外しました。

 結局のところ、いろいろな蛇腹を専門に作っている会社に特注でお願いすることにしました。素材はウレタン系とのことで、耐久性も本革製に比べて劣ることはないだろうとのことでした。価格も本革製に比べると半額ほどで、納期も2週間ほどとのことでした。
 発注に際して指定した寸法等は以下の通りです。

  ・フロント側 : 外寸 112mm x 112mm、内寸 86㎜ x 86mm
  ・バック部  : 外寸 152mm x 152mm、内寸 126mm x 126mm
  ・縮長  : 45mm以下
  ・伸長  : 320mm
  ・山数  : 17(両端を除く)

 また、蛇腹の前後両端は合成ゴム系の接着剤で貼り付ける旨も伝えておきました。

 こうして届いた新しい蛇腹がこちらです。

 適度な厚みが感じられますが、本革性に比べるとたぶん軽いのではないかと思います。また、両端は接着剤がなじみやすいように布のような素材が貼り付けてありました。
 腰がしっかりしていて、両端に指をかけて持ち上げても重みで垂れ下がるようなこともありません。

新しい蛇腹の取り付け

 いよいよ新しい蛇腹の取り付けですが、手順としては外した時と反対、すなわち、バック部への取り付けを先に行ない、次にフロント部を取付けるという順番です。

 まずはバック部への取り付けですが、接着剤がはみ出して蛇腹どうしがくっついてしまわないように、一つ目の山の内側に保護用の紙を差し込んでおきます。

 上の写真だとわかり難いかもしれませんが、画用紙程度の厚さの紙を幅4cmほどに切り、これを蛇腹の内側に差し込んで紙どうしを糊付けしておきます。これで、もし接着剤が内側に流れ出ても、蛇腹の山と山がくっつかずに済みます。

 次に、蛇腹の位置が中央に来るように、バック部の木枠の内側に蛇腹のコーナーの位置をマーキングしておきます。
 そして、このマーキングした木枠の内側と、蛇腹の接着面に接着剤を塗布します。両方に薄く均一に塗った後、少し時間をおいてさらにもう一回塗布し、その状態で蛇腹をバック部の木枠内マーキング位置に貼り付けます。
 この時、カメラを後方に倒して、蛇腹を上から木枠内に落とす要領でやると作業がし易いです。

 この状態で蛇腹を上からぎゅっと押し付けます。すぐにくっつきますが、念のため5分ほど押さえておき、その後、蛇腹の上に重し(私は単行本を使いました)を載せて半日ほど放置しておきます。

 バック部を貼り付けた状態が下の写真です。

 次にフロント部への貼り付けですが、蛇腹のバック部が固定されているので作業がしにくいところがあります。貼り付け位置をバック部のようにマーキングだけではおぼつかないので、フロント部の裏側にマスキングテープを貼って位置がずれないようにします。
 このマスキングテープの内側と、蛇腹のフロント側接着面に接着剤を塗布して接着します。バック部と同様、2回の塗布を行ないました。
 フロント部は重しを載せて固定というわけにはいかないので、接着後は下の写真のようにクリップで挟んでおきます。

 蛇腹の角の部分はクリップで挟めないので、浮いてしまわないようにヘラなどを押し当ててしっかり接着しておきます。
 この状態でおよそ半日経てば、蛇腹はしっかりと接着されます。

 こうして新しい蛇腹になったタチハラフィルスタンドがこちらです。

 蛇腹の腰もしっかりしており、なんだか新しいカメラになったようです。
 接着面も確認してみましたが、浮いているような様子もなく、少々引っ張っても全く問題ありませんでした。
 また、暗室内にカメラを持ち込み、内部にLEDライトを入れてみましたが、光線漏れは確認できませんでした。
 今回、蛇腹の伸長を320mmにしてもらいました。このカメラのレールは約300mmまでしか繰り出せないのですが、蛇腹に約20mmの余裕を持たせることで蛇腹が伸び切ってしまわないようにという理由からです。

 蛇腹交換後、実際の撮影は行なっていませんが、たぶん、問題になるようなことはないと思われます。

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 タチハラフィルスタンドの使用頻度はあまり高くないとはいえ、くたびれた蛇腹のままにしておくことがずっと気になっていたのですが、やっと気持ちもすっきりし、気兼ねなく撮影に使えるようになりました。
 これまでウレタン系素材の蛇腹というものを使ったことがなく、今回初めての試みですが、耐久性については最低でも4~5年は使ってみないとわからないと思います。4~5年でヘタるようなことはないと思いますが、使用感など、気がついたことがあればあらためてレポートしてみたいと思います。

(2024.9.25)

#タチハラフィルスタンド #FielStand

第175話 EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 の原稿台ガラス清掃

 私は撮影した写真(フィルム)をWebページに掲載したり自分でプリントする際に、EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 を使用しています。このスキャナの発売は2007年なので、すでに発売から17年も経過しており、私が購入してからも15年近くは経っていると思われます。すでに現行機種ではありませんが今のところ順調に稼働してくれています。
 しかし、長年使っていると原稿台のガラスの内側が徐々に曇ってきます。だいぶ以前(たぶん、6~7年前)に一度、清掃をしているのですが、最近、クモリが気になりだしていました。ガラスのクモリがスキャンにどの程度の悪影響を及ぼしているのかわかりませんが、それよりも白っぽくなったガラスが気になって精神衛生上もよろしくありません。
 ということで、原稿台ガラスの内側の清掃(クモリ除去)を行ないました。

原稿台(ガラス)の取外し

 このスキャナは本体の上に原稿カバーが乗っている構造ですが、原稿台のガラスを清掃するためには、本体の上面についている原稿台を取り外す必要があります。

 まず、スキャナにつながっているすべてのケーブル(電源ケーブル、USBケーブル、原稿カバーとの接続ケーブル)を外し、原稿カバーを90度開いた状態で上に引っ張り上げると、原稿カバーのヒンジごと取り外すことができます。ヒンジは本体の穴に差し込んであるだけで、何ら固定はされていません。

 次に、原稿台を固定している4本のネジを外します。ネジは原稿台の四隅にあります。

 上の写真で赤い矢印のところにあるのが原稿台を固定しているネジの場所ですが、キャップのようなものがはめ込まれていて、ネジはこの下に隠れています。

 このキャップは押し込まれているだけなので、先の細いドライバーのようなものを差し込んでこじれば取れますが、そうすると原稿台にもキャップにも、もれなく傷がついてしまいます。傷がついても機能や性能には影響ありませんが、見てくれが良くありません。
 そこで、グルーガンを使ってこのキャップを取り外します。

 まず、キャップの上にグルーガンでグルースティックを盛ります。

 キャップの直径は1cmほどなので、ここからはみ出さないようにグルースティックを盛り、固まるまで1~2分待ちます。
 そして、グルースティックが固まったらこれをペンチなどでつかんで、上に引っ張り上げます。すると、スポッとキャップがとれます。

 キャップがとれた中には原稿台を固定しているネジの頭が見えるので、このネジを外します。
 なお、キャップに盛ったグルースティックはペンチなどでこじれば跡も残ることなく、きれいに取ることができます。

 4本のネジをすべて外せば原稿台を取り外すことができますが、原稿台の裏側の本体前側には爪のようなものがあり、これが本体に引っかかっているので、本体後ろ側から持ち上げると簡単に外すことができます。
 取り外した原稿台はこんな感じです(裏側)。

原稿台ガラス内側の清掃(クモリ除去)

 上の写真ではよくわかりませんが、ガラスの内側がまんべんなく薄っすらと曇っています。
 わかりやすいように、ガラスの背後からLEDライトをあててみました。ガラス全面が曇っている様子がよくわかります。

 LEDライトの光がガラス面で乱反射して青白くなっています。光が照射されている中央部付近が黒く見えるのはクモリを拭き取った場所です。
 また、白い点々は付着しているホコリです。
 余談ですが、このようにガラスの内側が曇るのは、クモリの原因となる物質がスキャナ内部から放出されているのではないかと思っています。もちろん何の確証もありませんが、ガラスの外側の面はそれほど曇らないのでそんな気がしています。

 このガラスを綺麗に清掃するだけの簡単な作業ですが、面積が広いので結構時間がかかります。今回はレンズクリーナーを使ってクモリの除去を行ないました。
 クモリを取り除くのはすぐにできるのですが、拭き跡が残らないようにするのが大変で、LEDライトをあてて確認しながらせっせと拭いていきます。あまりゴシゴシと拭きすぎると静電気が生じるのか、空気中を漂っている微細なホコリがガラスに付着してしまい、これを拭き取ろうとするとさらにホコリが付着するという悪循環です。ブロアでシュッとやっても取れません。

 そこで、拭き跡がなくなったところで、刷毛でホコリを取り除きます。
 使用したのはHAKUBA製の刷毛です。

 これは髪の毛よりも細いと思われるポリエチレン製の毛がびっしりと束ねられていて、静電気の力でホコリを刷毛の中に吸い取ってくれるという優れものです。
 これを使って清掃を完了した原稿台がこちらです。

 ホコリを完全に取り除くことはできませんが、LEDライトをあてても以前のようにガラス面で乱反射することなく、光が透過しているのがわかります。やはりガラスはこうでなくっちゃという感じになりました。

 あとは、きれいになったガラスを指で触ったりしないように気をつけながら、外した時と逆の要領で原稿台を本体に取り付ければ清掃は完了です。
 なお、ネジにかぶせるキャップのようなものは嵌合する位置があるので、それに合わせて押し込めばパチッと嵌まります。

清掃前と清掃後のスキャン画像の比較

 さて、多少の微細なホコリはあるものの、すっかりきれいになった原稿台でスキャン画像の違い(効果)があるものなのか、気になるので清掃前と清掃後でスキャン画像を比較してみました。
 過去に撮影したポジ原版の中から色調が濃いめで、コントラストも比較的高いと思われるものを選び、同じ条件でスキャンしてみました。
 1枚目が清掃前、2枚目が清掃後です。掲載写真は解像度を落としてありますが、いずれも6,400dpiでスキャンしました。

▲清掃前のスキャン画像
▲清掃後のスキャン画像

 はっきり言って、清掃前と清掃後の違いはほとんどわからないのですが、並べてみてみると、清掃後の画像の方がわずかにコントラストが高いように感じます。黒とか青などの濃い色の締まりがある感じです。
 しかし、別々に見るとどちらが清掃前でどちらが清掃後なのか、全くわかりません。

 そこで、画像のヒストグラムを比較してみました。
 下の画像の左側が清掃前のヒストグラム、右側が清掃後のヒストグラムです。

▲左:清掃前 右:清掃後

 波形は非常に似通っていますが、波形の左から1/4の辺り、清掃前の波形は角のような形状がありますが、清掃後の波形にはこれがありません。
 実は、清掃後にスキャンしようとした際にフィルムホルダーを落としてしまい、フィルムの一部がフィルムホルダーから外れて、長さ2mmほどの折れ跡のようなものがついてしまいました。どうやらこれが原因ではないかと思われます。

 それとは別に、ヒストグラムの左側の立ち上がりの位置が微妙に違っています。清掃前に比べて清掃後のヒストグラムの方が、左側の立ち上がりの位置がわずかに左に寄っています。
 これはごくわずかですが、全体的に色調が濃くなっていることを示していて、2枚の画像を並べて目視した際に、清掃後の方がコントラストが高めに感じるということと一致しているように思えます。これが、原稿台ガラス面のクモリがなくなったことによる結果であるならば、ごくわずかではあってもこの清掃の効果があったと言えるかも知れません。
 しかしながら、スキャン自体の条件も寸分違わずにというような厳密なものではないので、本当に因果関係があるのかどうかは怪しさがつきまとっています。

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 原稿台のガラスに多少のクモリがあっても、それによってスキャン画像の画質が劇的に悪くなるというものではなさそうですが、ガラス面に余計なものが付着していないに越したことはないわけで、画質に与える影響もさることながら、気になっていたモヤモヤ感が払しょくされたことの効果の方が大きいかも知れません。
 ガラスが曇ったり汚れたりするのは仕方がないことですし、使用環境や使用頻度などによってその度合いも異なってくると思いますが、いずれ、何年か経つとまた曇ってくることは明らかです。それまでこのスキャナが順調に稼働してくれるかどうかわかりませんが、故障さえしなければ数年間はクモリを気にすることなく気持ちよく使うことができそうです。

(2024.5.28)

#EPSON #GT_X970 #エプソン #スキャナ

第170話 大判カメラのアオリ(8) ティルトアオリをかけた時のピント合わせ

 大判カメラのアオリの中でも使う頻度が高いと思われるのがティルト、特にフロント(レンズ)部のティルトダウンアオリです。撮影する被写体によってその度合いは異なりますが、風景撮影の際にはパンフォーカスにしたいということから、そこそこの頻度でティルトダウンを使うことがあります。
 また、パンフォーカスとは逆に、一部のみにピントを合わせて他はぼかしたいというような場合も、ティルトアオリを使うことがあります。
 当然、ティルトをかけることによってピント位置が移動するわけで、一度合わせたピントがティルトによってずれてしまいます。そこで、再度ピントを合わせるとティルトの度合いがずれてしまうということになり、これらの操作を何度も繰り返す羽目になるということが起こり得ます。これはかなりのイライラです。

 そこで、ティルトをかけるときに、できるだけスムーズにピント合わせができる方法をご紹介します。

センターティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトはレンズを上下に首振りさせるアオリのことですが、この動きには二通りの振る舞いがあります。
 一つは「センターティルト」と呼ばれるもので、金属製のフィールドカメラに採用されていることが多い方式です。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などがこのタイプに該当し、レンズが上下に首を振る際の回転軸(ティルト中心)、すなわち支点がレンズのシャッター付近にあります。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45をティルトダウンさせた状態のものです。

 Uアーム(レンズスタンダード)の中央あたりにレンズボードを取付けるパネルが回転する軸があり、ここを中心して回転しているのがわかると思います。
 このタイプの特徴は、レンズの光軸は傾きますがレンズの位置はほとんど動かないということです。つまり、被写体とレンズの距離もほとんど変化しないということです。言い換えると、ティルトダウンすることによってピント面は回転移動しますが、いったん合わせたピント位置が大きくずれることはありません。

 このようなアオリの特性を持ったカメラの場合、最初のピント位置をどこに置けば都合がよいかを表したのが下の図です。

 上の図でもわかるように、アオリによってピント位置がずれないので、ピントを合わせたい最も近い(手前)被写体にピントを置いた状態でティルトダウンさせると、ピント合わせを効率的に行なうことができます。
 アオリをかける前のピント面は、手前の花の位置にあるレンズ主平面と平行な面ですが、この状態でティルトダウンすると、ピント位置が保持されたままピント面だけが奥側に回転して、結果的に手前から奥まで、概ね、ピントの合った状態にすることができます。
 このティルトダウンを行なっているとき、カメラのフォーカシングスクリーンを見ていると、手前から奥にかけてスーッとピントが合っていくのがわかります。ほぼ全面にピントが合った状態でティルトダウンを止め、後は微調整を行ないます。

 この方法を用いると、ピント合わせとティルトダウンを何度も繰り返す必要がありません。ほぼ1回の操作でティルトダウンの量を決めることができるので、とてもスピーディにピント合わせを行なうことができます。

 なお、最初に奥の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、同様にピントの位置は移動しませんが、奥に向かってピントが合っていくので手前の方はボケボケの状態になります。

 ちなみに、例えば、藤棚などを棚の下から見上げるアングルでパンフォーカスで撮影したいというような状況を想定すると、この場合、レンズはティルトアップ、つまり上向きにアオリをかけることになりますが、最初にピントを合わせる位置はティルトダウンの時と同様で手前側になります。レンズの光軸が回転する方向はティルトダウンと反対になりますが、レンズ自体はほとんど移動しないのでピント面もほぼ移動しません。したがって、ティルトアップによってピント面を上側に回転させていくことで全面にピントを合わせることができます。

ベースティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトのもう一つのタイプは、「ベースティルト」と呼ばれるもので、ウッド(木製)カメラに採用されていることが多い方式です。私の持っているタチハラフィルスタンドもこの方式を採用しています。

 タチハラフィルスタンドのフロント部をティルトダウンするとこのようになります。

 上の写真で分かるように、ベースティルトの場合はティルトダウンする支点がカメラベースの上あたりになります。レンズよりもだいぶ下の位置に支点があり、ここを軸として前方に回転移動するので、レンズ全体が前方に移動するのが特徴です。そのため、ピント位置も手前に移動します。

 その振る舞いを図示するとこのようになります。

 上の図のように、ベースティルトのカメラをティルトダウンすると、ピント面が最初に合わせた位置から手前に移動するとともに、レンズの回転移動に伴ってピント面も奥に向かって回転していくことになります。これら二つの動きが別々に行なわれるわけではなく、ティルトダウンすることで同時に発生することになります。
 ピント位置が手前に移動するので、最初の段階でピントを合わせたいいちばん奥の被写体にピントを置くことで、ティルトダウンすると奥から手間にかけてピントが合ってきます。

 最初に手前の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、ピント位置はさらに手前に移動することになり、全くピントが合わなくなります。
 同じティルトダウンですが、センターティルトとベースティルトでは、最初にピントを置く位置が正反対になります。

スイング時のピント合わせ

 スイングアオリはレンズが左右に首を振る動作で、ティルトを光軸に対して90度回転させた状態に相当します。したがって、ピント合わせに関してはティルトと同じ考え方を適用することができます。
 ただし、ほとんどのカメラの場合、スイングに関してはセンタースイングが採用されているのではないかと思います。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などの金属製フィールドカメラはもちろんですが、タチハラフィルスタンドなどのウッドカメラもセンタースイングが採用されており、左右のどちらかを支点にしてスイングするようなカメラを私は見たことがありません。

 したがって、スイングアオリをかけたときのピント合わせはセンターティルトと同様に、ピントを合わせたい被写体の手前側に最初にピントを合わせておくと、ピント合わせをスピーディに行なうことができます。

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 ライズやフォール、あるいはシフトといったアオリはレンズが平行移動するだけなのでピント面が移動することもありません。しかし、ティルトやスイングはピント面が動いてしまい、ピント合わせに手間がかかります。経験知によってその人なりのピントの合わせ方というものがあると思いますが、アオリをかけることによるピント面の移動の基本を把握しておくことで、手間のかかる操作を多少なりとも軽減することができると思います。
 手前にピントを合わせたら奥側のピントが外れた、奥側に合わせたら今度は手前側がボケた、などということを繰り返さないためにも、ちょっとしたコツのようなものですが、使えるようにしておけば撮影時のイライラも解消されるかも知れません。

(2024.1.22)

#FielStand #Linhof_MasterTechnika #アオリ #タチハラフィルスタンド #リンホフマスターテヒニカ

第166話 大判レンズ シュナイダー Schneider ジンマー Symmar 210mm 分解・清掃とバルサム修理

 ひと月ほど前、リンホフ規格の大判レンズ用のレンズボードが必要になり、ジャンク箱をあさってみたのですが使い切ってしまったらしく、残念ながら見つかりませんでした。中古カメラ店やネットオークションサイトなどを探してみたところ、あることはあるのですが4,000円とか5,000円という価格設定で、そこまで高額のものを購入する気にはなれません。
 つらつらとネットオークションサイトを眺めていると、時たま、1円という価格でボード付きの大判レンズが出品されていることに気がつきました。動作不良や汚れや傷みのひどいレンズがジャンク品として出品されていることが多いようですが、さすがに1円で落札させてはくれないだろうと思いながらも、送料込みで2,000円くらいまでなら許容範囲ということで、時々チェックしていました。

前玉の清掃

 1週間ほどウォッチをしていたところ、「動作未確認、レンズにカビ、クモリ、汚れあり」と説明書きのあるシュナイダーのジンマー Symmar 210mm 1:5.6 という大判レンズが1円で出品されていて、幸運にもこのレンズをを1,000円ほどで落札することができました。送料込みでも1,800円ほどです。カビやクモリがあろうが動作しなかろうが、レンズが欲しいわけではないので全く問題ありません。リンホフ規格のレンズボードさえ手に入れば目的達成です。

 数日後、落札した商品が宅配便で届きました。そのレンズがこちらです。

 リンホフがシュナイダーに委託したレンズのようで、シャッター部には大きな文字で「LINHOF」と刻印されています。確かにレンズは汚い状態です。カビとクモリもしっかりとついています。シュナイダー純正の前後のレンズキャップもついていますが、必要なのはレンズボードなので、ボードからレンズを外し、レンズはジャンク箱行きです。

 それから2週間ほど経ったある日、ジャンク箱をあさっていたところ先日のジンマー210mmがふと目に留まりました。せっかく我が家に来たレンズだからきれいにしてみようかと思い立ち、分解・清掃することにしました。
 レンズをよく見てみると、カビとクモリに加えて、バルサムもいってしまっている感じです。

 掲載した写真ではわかり難いですが、前玉の中の方に直径3~4mmの気泡のようなものがいくつか見えます(赤い矢印の先)。前玉を外し、前群のレンズユニットを取り出してみると、レンズのコバのところがべとべとしています。バルサムが流れ出てしまっているようです。

 バルサムは後回しにして、とりあえず前玉のカビとクモリの除去から始めます。

 カビは前群ユニットに、クモリは前群ユニットと後群ユニットの両方についています。カビはそれほどひどくありませんがクモリがひどくて、この状態ではフォギーフィルターを着けて撮影したような描写になってしまうのではないかと思うほどです。
 しばらく無水エタノールに浸した後、丹念に拭いていくとカビもクモリもすっかりなくなり、きれいなレンズになりました。カビもレンズの中まで侵食していなかったらしく、カビ跡も全く分かりません。

前玉のバルサム修理

 次に、前玉の前群ユニットのバルサム修理ですが、まずは接着されている2枚のレンズを剝がさなければなりません。バルサムが流れ出ているので、指で押せば動くかと思いましたがびくともしません。
 ということで、煮沸して剥がすことにしました。

 小さな鍋に水を入れ、この中でレンズを煮沸するのですが、鍋の中でレンズが踊って傷がつかないように、レンズよりも二回りほど大きな皿にラップを巻いて、その上にレンズを載せて鍋に投入します。
 弱火でコトコトと5分ほど煮ると、レンズのコバに塗ってあった墨が剥がれてきたので、バルサムも柔らかくなっているだろうと思い、鍋からレンズを取り出して指で押してみます。ねっとり感が残ってはいるものの、わずかにレンズがずれました。
 再度、鍋に入れてコトコト煮ては取り出し指で押す、ということを4~5回繰り返して、ようやく貼りついていた2枚のレンズを剥がすことができました。

 剥がれた状態が下の写真です。

 気泡のようなものがびっしりとついているのはバルサムです。
 これを無水エタノールでふき取っていきます。

 そして、きれいになったレンズがこれです。

 レンズのコバのざらついたところに若干の墨が残っていて黒っぽくなていますが、カビもクモリもないクリアな状態になりました。

 さて、前玉の前群ユニットのレンズがきれいになったところで、これを再度、貼り合わせなければなりません。
 ここで最も気を遣うのが、2枚のレンズの中心がずれないように貼り合わせるということです。専用の機器や治具などがあるわけではないので、身の回りにあるものを使って簡易的な治具を作ります。

 用意するのは円筒形のボトルキャップを3個とステンレス板、そして接着剤です。ステンレス板の代わりにアルミ板やアクリル板など、表面が平らでしっかりした板状のものであれば問題ありません。
 ステンレス板の上に前群ユニットの下側の凹レンズを置き、これを3方からボトルキャップで挟み込みます。レンズとの間に隙間ができないようにしっかりと挟み、ボトルキャップを接着剤でステンレス板に接着します。多少、力を加えても動かないくらいに強く接着しておく必要があります。ボトルキャップは概ね、120度間隔で配置するのですが、それほど正確である必要はありません。3方から挟めば確実にレンズを押さえることができます。

 次に、このレンズの上にバルサムを1~2滴、垂らします。バルサムの量が多くても流れ出てしまうだけなので、ごく少量で問題ありません。
 そして、もう1枚のレンズをこの上に乗せて、下のレンズに押しつけます。バルサムが全面に広がって、中に空気が残らないようにしっかりと押さえます。

 ボトルキャップが治具の役割を果たすので、2枚のレンズの中心が一致するはずなのですが、レンズを重ねた状態で天井にある蛍光灯などの照明を写し込んだ際、それが縞状になっていたり滲んだような状態になっていたりすると、レンズの中心がうまく一致していない可能性が大です。その場合、上側のレンズをゆっくりと左右に回すと縞模様や滲みが消える場所がありますので、その位置で固定します。
 この状態で、マスキングテープなどを用いてレンズをステンレス板に固定します。レンズに糊が付着しないようにレンズの上にシルボン紙などを置き、その上からマスキングテープで抑えるのがお勧めです。
 あとは結果次第、試し撮りで確認ということになります。

 バルサムを固着させるために熱をかけるのですが、私はドライヤーで熱風を20分ほどかけました。あまり高温にしなくても固着するので、できるだけ熱が均等になるよう、満遍なく風を送ります。

 ちなみに、今回、レンズの接着に使用したのはキシロールバルサムです。カナダバルサムをキシレンで希釈したもので、私は顕微鏡用のプレパラートをつくるために使っているものです。カナダバルサムよりも粘度が低く、サラサラしているので使いやすいです。
 最近はバルサムを使わずに合成接着剤を使うことがほとんどのようですし、UVレジンを使うという方もいらっしゃるようですが、UVレジンは硬化するとやり直しがきかないのでリスクがあります。バルサムだと、万が一、失敗してもやり直しがきくので安心です。

 バルサムが完全に固まるまで1日ほど放置しておきました。
 バルサム貼りが完了した前玉前群ユニットがこちらです。

 このままでも使えないことはありませんが、コバに墨入れをします。
 私はレンズの鏡胴内などの反射防止に JET BLACK のアクリル絵の具を使っています。これは本当に「真黒」で、しかも、つやが全くないので理想的ですが、ごく薄く塗るのが難しく、今回のようなレンズのコバにはあまり向いていません。コバに塗った塗装に厚みが出てしまうとレンズが嵌まらなくなってしまう可能性があります。1㎜の数十分の一という塗装の厚みでもレンズが嵌まらなくなることがあるので、ほとんど塗り厚を気にしなくてよいということで、今回使用したのは墨汁です。二度塗りしても塗り厚が気になることはありません。

 コバに墨入れをしたのが下の写真です。

 これで前玉の分解・清掃は完了です。あとは元通りに組み上げるだけです。

後玉の清掃

 後玉は前玉に比べるとかなりきれいな状態を保っており、バルサム切れのような状態も確認できませんでした。クモリはかなりありましたがカビは見当たらず、バルサムの問題もなさそうだったので無水エタノールでの洗浄だけとしました。
 後玉の前群ユニットを外し、後群ユニットも含めて4面を清掃するだけで後玉の清掃は完了とします。

 後玉も元通りに組み上げ、シャッターに取り付ければレンズの清掃はすべて完了です。

清掃後のレンズで試し撮り

 レンズのカビやクモリもすっかりきれいになり、バルサムも修理したので見違えるようなレンズになりました。しかし、バルサムの修理をしているので、写りに問題がないかどうかの試し撮りが必要ですが、その前に、シャッターの動作確認を行います。
 このレンズに組み込まれているシャッターの絞りはF5.6~F45、シャッター速度はT・B・1~1/200秒です。いわゆる、大陸系列と呼ばれるシャッター速度になっています。私はこの大陸系列のシャッター速度に慣れていなくて、微妙な露出設定をするときには混乱してしまうことがあります。
 それはともかく、絞り羽根の開口度合いもシャッター速度も、感覚的には概ね良好といった感じです。正確に測定したわけではありませんが、シビアな精度を求めるものではないので良しとします。

 清掃後のレンズで実際に撮影したのが下の写真です。

 2枚とも、近くの公園で撮影したものですが、特に問題もなく写っていると思います。いちばん心配した、レンズを貼り合わせる際の中心軸のずれですが、これも目視する限りでは気になりません。解像度も問題のないレベルだと思います。
 また、露出も概ね良好で、顕著な露出オーバーやアンダーにはなっていません。すべての絞りやシャッター速度を試したわけではありませんが、シャッターも正常に動作しているものと思われます。

 もう一枚、黄葉した桜の葉っぱをアップで撮ってみました。

 葉っぱの縁にある鋸歯もくっきりと写っていて、特に問題になるようなところは見受けられません。

 もともと、使う予定のなかったレンズなので、清掃前の状態での撮影はしてありません。そのため、比較はできませんが、清掃前の状態ではこんなに綺麗に写ることがないだろうということは想像に難くありません。全体にフレアがかかったようなボヤっとした感じになるだろうと思われ、それはそれで趣があるといえなくもありませんが、やはりくっきりと写ると気持ちの良いものです。

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 今回の分解・清掃でレンズはすっかりきれいになりましたが、欲しくて購入したレンズではないので、この先、このレンズを使う機会はほとんどないだろうと思われます。ですが、鏡胴などにステンレスが多用されていて、持つとずっしりと重いレンズには風格が感じられるのも確かです。
 今回はレンズボードが必要だったので、このレンズについていたボードは他で使ってしまいましたが、いつか、あらたにレンズボードが手に入ったらこのレンズにつけてやろうと思います。

 なお、今回ご紹介したバルサム修理ですが、素人が我流でやっているので決してお勧めはしません。失敗するとレンズを1本駄目にしてしまいますので、もし、バルサム修理をされる場合はしかるべき専門のところに依頼するのがよろしいかと思います。

(2023.12.4)

#Schneider #シュナイダー #Symmar